特許第5768943号(P5768943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768943炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5768943
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20150806BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20150806BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20150806BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20150806BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C08J5/04CEZ
   C08L81/02
   C08L79/00 Z
   C08K7/06
   B29B7/90
【請求項の数】13
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2014-552242(P2014-552242)
(86)(22)【出願日】2014年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2014078290
【審査請求日】2015年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-224169(P2013-224169)
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 直吉
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 啓介
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−173804(JP,A)
【文献】 特開平5−86291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B29B 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I‐1)〜(III‐1)の工程を含む、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(I‐1)ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部とカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)0.1〜10質量部を混合し、得られた混合物を加熱して溶融混練することで溶融混練物を得る工程
(II‐1)工程(I‐1)で得られる溶融混練物を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することで、溶融混練物内のカルボジイミド基の反応を促進してポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を得る工程
(III‐1)工程(II‐1)で得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程
【請求項2】
工程(I‐1)において、混合物を加熱開始してからポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)が溶融し終えるまでに要した時間をt1(秒)、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)が溶融し終えてから溶融混練物を取り出すまでに要した時間をt2(秒)とすると、t1<t2である、請求項1に記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
下記(I‐2)〜(III‐2)の工程を含む、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(I‐2)カルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)を、該成分(B)の軟化点以上の温度で加熱することで、カルボジイミド基同士の反応を促進してポリカルボジイミド反応物(B‐2)を得る工程
(II‐2)ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部と前記ポリカルボジイミド反応物(B‐2)0.1〜10質量部を混合し、得られた混合物を加熱して溶融混練することでポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を得る工程
(III‐2)工程(II‐2)で得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程
【請求項4】
工程(I‐2)において、成分(B)の軟化点以上の温度が、50〜250℃の温度である、請求項3に記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
工程(I‐2)において、成分(B)の軟化点以上の温度で加熱する時間が、1〜48時間の間である、請求項3または4に記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
下記(I‐3)〜(III‐3)の工程を含む、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(I‐3)ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部とカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)0.1〜10質量部を混合した混合物を得る工程
(II‐3)工程(I‐3)で得られる混合物を、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点以上の温度で加熱して溶融混練することで、カルボジイミド基の反応を促進してポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を得る工程
(III‐3)工程(II‐3)における溶融混練時以下の温度で前記ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程
【請求項7】
工程(II‐3)において、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点以上の温度が330〜400℃であり、工程(III‐3)において、工程(II‐3)における溶融混練時以下の温度が、280〜330℃である、請求項6に記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項8】
さらに、工程(I‐1)、(II‐2)または(II‐3)において、溶融混練の少なくとも一部を−0.05MPa以下の減圧条件下で行う、請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項9】
工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)が、溶融させた前記成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)を炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる工程である、請求項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項10】
工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)で得られる複合体を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することで、複合体内のカルボジイミド基の反応を促進する工程(IV)を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項11】
工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)において得られる複合体または工程(IV)を経た複合体を、射出成形またはプレス成形する工程(V)を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項12】
工程(V)において射出成形またはプレス成形する際の成形加工温度を、工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)において複合体を得る際の温度よりも低温で行う、請求項11に記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項13】
成分(D)が、カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を1分子中に3個以上有する化合物(E)で表面処理されている、請求項1〜12のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを生産性良く製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料は、熱可塑性樹脂の特性を生かして成形加工が容易であったり、リサイクル性に優れるといった特徴がある。このような繊維強化複合材料としては、強化繊維をシート状に配列させた熱可塑性プリプレグや、強化繊維をランダム分散させたペレットなど多種多様な成形材料の形態が公知である。繊維強化複合材料は、軽量性と力学特性のバランスに優れることから、航空機や自動車、船舶などの構造用部材、電子機器筐体や、スポーツ用途、建材などの工業材料として幅広く用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂の中でもポリアリーレンスルフィドは、特に耐熱性や耐薬品性に優れており、これを強化繊維と複合化させた繊維強化ポリアリーレンスルフィドは金属材料の代替用途への展開が期待できる。しかしながら、金属材料の代替として、繊維強化ポリアリーレンスルフィドを展開していく上では、その力学特性、特に引張強度の更なる向上が課題であった。これは、一般的なポリアリーレンスルフィドの引張伸度が、強化繊維の引張伸度(例えば炭素繊維であれば2%程度)よりも低く、強化繊維の補強効果を十分に生かしきれていない為であった。
【0004】
繊維強化ポリアリーレンスルフィドの引張強度を向上させる手段の1つとしては、用いるポリアリーレンスルフィドの高伸度化が挙げられる。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドの引張伸度は、その分子量、ひいては溶融粘度と相関関係にあり、ポリアリーレンスルフィドの引張伸度を向上させると、溶融粘度も増加してしまい、強化繊維との複合化が困難になる。さらに、このような場合、プロセス温度もより高温が必要となるため、繊維強化ポリアリーレンスルフィドを容易に、生産性よく製造することには不向きであった。この為、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの引張強度の向上と生産性の両立は重要な技術課題とされてきた。
【0005】
繊維強化ポリアリーレンスルフィドの引張強度を向上させるもう1つの手段としては、添加剤による改質が挙げられる。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドは、一般的なもので融点が285℃程度と熱可塑性樹脂の中でも高い領域にあり、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工中に添加剤が溶出(ブリードアウトあるいは、ブリードとも言う)し、成形金型を汚染する問題がある。外観品位に優れる成形品を得るためには、金型の汚染を定期的に除去する必要があるため、この場合、成形サイクル性を大きく損なう問題となる。
【0006】
これらの理由により、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上とその製造時の生産性および成形加工時の成形サイクル性の両立は重要な技術課題とされてきた。
【0007】
特許文献1には、炭素繊維と熱可塑性樹脂およびカルボジイミド試薬からなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂が開示されている。しかしながら、特許文献1では、ポリアリーレンスルフィドの使用が明細書中に記載されているものの、高温での成形加工時にブリードアウトを制御する手段に関する開示は無く、カルボジイミド試薬としては、カルボジイミド基を1分子中に1つだけ有する化合物が用いられており、それは炭素繊維強化熱可塑性樹脂から溶出し易い添加剤であるため、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時におけるブリードアウトを抑制できるものではなかった。
【0008】
特許文献2には、ポリフェニレンスルフィドとポリカルボジイミドを含む樹脂組成物が開示されている。特許文献2では、ポリフェニレンスルフィドとポリカルボジイミドを溶融混練して変性ポリフェニレンスルフィドとする技術が開示され、炭素繊維などの強化繊維を用いることが開示されているものの、成形加工時にポリカルボジイミドのブリードアウトを制御する手段に関する開示は無く、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時におけるブリードアウトを抑制できず、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時の成形サイクル性としては不十分なものであった。
【0009】
特許文献3には、ポリアリーレンスルフィドと脂肪族ポリカルボジイミド系樹脂および充填材を含む樹脂組成物が開示されているが、成形加工時に金型汚染の原因となるブリードアウトを制御する手段としては、脂肪族ポリカルボジイミド系樹脂の添加量が開示されているのみであり、金型汚染の程度についても開示は無く、やはり繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時におけるブリードアウトを十分に抑制できず、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時の成形サイクル性としては不十分なものであった。
【0010】
特許文献4には、カルボジイミド化合物で表面処理された補強材およびそれを用いた複合材が開示されているが、マトリクス樹脂としてポリアリーレンスルフィドを用いる例示が無く、さらに成形加工時に金型汚染の原因となるブリードアウトを制御する手段の開示も無いために、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時におけるブリードアウトを十分に抑制できず、繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形加工時の成形サイクル性としては不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5‐156081号公報
【特許文献2】特開平5‐86291号公報
【特許文献3】特開平10‐273593号公報
【特許文献4】特開平8‐59303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の問題点の改善を試み、成形加工時におけるブリードアウトを抑制でき、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを生産性良く製造するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の製造工程を経ることで、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを生産性良く製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明は、前記課題を解決するため、次の(1)〜(3)のいずれかの構成を有する。
(1)下記(I‐1)〜(III‐1)の工程を含む、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(I‐1)ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部とカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)0.1〜10質量部を混合し、得られた混合物を加熱して溶融混練することで溶融混練物を得る工程
(II‐1)工程(I‐1)で得られる溶融混練物を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することで、溶融混練物内のカルボジイミド基の反応を促進してポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を得る工程
(III‐1)工程(II‐1)で得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程
(2)下記(I‐2)〜(III‐2)の工程を含む、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(I‐2)カルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)を、該成分(B)の軟化点以上の温度で加熱することで、カルボジイミド基同士の反応を促進してポリカルボジイミド反応物(B‐2)を得る工程
(II‐2)ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部と前記ポリカルボジイミド反応物(B‐2)0.1〜10質量部を混合し、得られた混合物を加熱して溶融混練することでポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を得る工程
(III‐2)工程(II‐2)で得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程
(3)下記(I‐3)〜(III‐3)の工程を含む、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(I‐3)ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部とカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)0.1〜10質量部を混合した混合物を得る工程
(II‐3)工程(I‐3)で得られる混合物を、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点以上の温度で加熱して溶融混練することで、カルボジイミド基の反応を促進してポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を得る工程
(III‐3)工程(II‐3)における溶融混練時以下の温度で前記ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程
【発明の効果】
【0015】
本発明により、成形加工時におけるブリードアウトを抑制でき、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを生産性良く製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る第1の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法は、(I‐1)〜(III‐1)の工程を含む。まず、第1の製造方法で採用する(I‐1)〜(III‐1)の工程についてより詳細に説明する。
【0017】
<工程(I‐1)>
工程(I‐1)は、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)を混合し、得られた混合物を加熱して溶融混練することで溶融混練物を得る工程である。
【0018】
工程(I‐1)において、混合物を得る方法は、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)をできる限り均一に混合させる観点から、粒状のポリアリーレンスルフィド(A)と粒状のポリカルボジイミド(B)をドライブレンドする方法が例示できる。ドライブレンドを行うための装置としては、ヘンシェルミキサーやロッキングミキサーなどが例示できる。また、混合物を得る際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。非酸化性雰囲気とは混合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面から窒素雰囲気が好ましい。かかる混合方法を用いることで、次の溶融混練を行う前に、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)の反応活性の低下を抑えられる為好ましい。
【0019】
ドライブレンドを行う際のポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)の数平均粒子径は、0.001〜10mmが好ましく、0.01〜5mmがより好ましく、0.1〜3mmがさらに好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)のそれぞれの数平均粒子径は値が近いほど好ましい。かかる数平均粒子径の範囲とすることで、混練物内での分離が低減できる為好ましい。
【0020】
工程(I‐1)の混合物において、ポリカルボジイミド(B)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して0.1〜10質量部含有している必要があり、0.1〜5質量部含有していることが好ましい。ポリカルボジイミド(B)の含有率が、0.1質量部未満では、ポリカルボジイミド(B)の量が十分でなく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果が現れない。また、ポリカルボジイミド(B)の含有率が、10質量部を越えると、反対にポリカルボジイミド(B)が多すぎる為に、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する。
【0021】
工程(I‐1)において、溶融混練を行う目的は、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)を、これらの融点以上の温度で加熱することで溶融させ、溶融条件下で混練することにより、ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基を反応させることである。ポリカルボジイミド(B)はカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有する必要がある。カルボジイミド基を1分子中に1個だけ有するモノカルボジイミド(B’)では、ポリアリーレンスルフィド(A)と未反応のモノカルボジイミド(B’)が過剰量となり、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が低下する。
【0022】
工程(I‐1)において溶融混練を行うための装置としては、ラボプラストミルミキサーや押出機が例示できる。ラボプラストミルミキサーは、所定量の原料をミキサー内に投入し、一定時間溶融混練を行う装置であり、溶融混練時間を制御しやすい。押出機は連続的に投入した原料を溶融混練しつつ搬送し吐出する装置であり、溶融混練物の生産性に優れる。
【0023】
工程(I‐1)において溶融混練に用いる押出機としては、単軸押出機や二軸押出機が例示でき、中でも溶融混練性に優れる二軸押出機を好ましく用いることができる。二軸押出機としては、スクリュー長さとスクリュー直径の比(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が20〜100であるものが例示できる。さらに、二軸押出機のスクリューは、フルフライトやニーディングディスクなどの長さや形状的特長が異なるスクリューセグメントが組み合わされて構成されるが、溶融混練性と反応性の向上の点から、1個以上のニーディングディスクを含むことが好ましい。
【0024】
さらに、工程(I‐1)における溶融混練は、その少なくとも一部を減圧条件下で行うことが好ましい。減圧条件下とする領域は、ラボプラストミルミキサーを用いる場合は溶融混練物全体を覆うように設置することが好ましく、押出機を用いる場合は、溶融混練物が吐出される位置から(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が0〜10手前の位置に設置することが好ましい。かかる減圧条件下とする領域における、減圧度の目安としては、ゲージ圧で−0.05MPa以下が好ましく、−0.08MPa以下がより好ましい。ここでのゲージ圧とは、真空ゲージを用いて大気圧を0MPaとして測定した減圧度である。かかる減圧条件下で溶融混練を行うことで、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)の熱分解物など、揮発しやすい成分を減少させることができ、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が向上できるため好ましい。
【0025】
工程(I‐1)において溶融混練を行う温度としては、285〜400℃が好ましく、285〜350℃がより好ましい。溶融混練を行う温度がかかる範囲よりも高いと、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)が熱分解してしまい、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。溶融混練を行う温度がかかる範囲よりも低いと、ポリアリーレンスルフィド(A)が溶融せずに、溶融混練物が得られない場合がある。
【0026】
工程(I‐1)において溶融混練を行う時間は、0.5〜30分が好ましく、0.5〜15分がより好ましく、0.5〜10分がさらに好ましく、0.5〜5分がとりわけ好ましい。溶融混練を行う時間がかかる範囲よりも長い場合、ポリアリーレンスルフィド(A)が架橋し、増粘してしまい、工程(III‐1)における炭素繊維(D)との複合化が困難になる場合がある。溶融混練を行う時間がかかる範囲よりも短い場合、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)が溶融せずに、溶融混練物が得られない場合がある。
【0027】
工程(I‐1)において、混合物を加熱開始してからポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)が溶融し終えるまでに要した時間をt1(秒)、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)が溶融し終えてから溶融混練物を取り出すまでに要した時間をt2(秒)とすると、t1<t2であることが好ましい。かかる条件とすることで、ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基の反応をより向上させることが可能となる。ここでのt1は、工程(I‐1)における溶融混練にラボプラストミルミキサーを用いる場合、混合物をミキサーに投入してから適宜溶融混練物の一部を取り出し、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)の溶融が確認できるまでに要した時間が例示できる。また、t2は、混合物をミキサーに投入してから取り出すまでに要した時間からt1を除くことにより求めることができる。
【0028】
<工程(II‐1)>
工程(II‐1)は、工程(I‐1)で得られる溶融混練物を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することで、溶融混練物内のカルボジイミド基の反応を促進してポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を得る工程である。
【0029】
ここでの溶融混練物内のカルボジイミド基の反応とは、下記反応(1)および(2)を指す。
反応(1):ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基の反応
反応(2):ポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基同士が反応して2量体または3量体を形成し、ポリカルボジイミド(B)が架橋構造を形成する反応
【0030】
このため、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)としては、ポリカルボジイミド(B)とポリアリーレンスルフィド(A)との反応物からなる海相にポリカルボジイミド(B)からなる島相が分散した海島構造であって、さらに島相を形成するポリカルボジイミド(B)の一部または全部が、反応(2)により架橋した構造を有したものが例示できる。かかる構造をとることで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドからポリカルボジイミド(B)がブリードアウトしづらくなる効果が期待できる。
【0031】
工程(II‐1)において、工程(I‐1)で得られる溶融混練物を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱する目的は、ポリアリーレンスルフィド(A)自体の架橋反応を抑えつつ、反応(1)および反応(2)の反応率を高めることで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドからポリカルボジイミド(B)がブリードアウトすることを低減させることである。特に、ポリカルボジイミド(B)はカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するため、反応(2)により、ブリードアウトしづらくなる効果が期待できる。
【0032】
工程(II‐1)において、工程(I‐1)で得られる溶融混練物を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱する方法としては、工程(I‐1)で得られた溶融混練物を溶融状態のまま、プレス成形機に移しシート状に加熱プレスする方法や、工程(I‐1)で得られた溶融混練物をペレット状にした後、オーブンに移して加熱する方法が例示できる。
【0033】
工程(II‐1)におけるポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度としては、90〜280℃が例示でき、さらに、前記した反応(1)および反応(2)の反応率を向上させる観点から200〜260℃が好ましい。なお、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度および融点は示差走査熱量計(DSC)を用いて求めることができる。
【0034】
工程(II‐1)においてポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下で加熱する時間としては、5〜720分が好ましく、20〜360分がより好ましく、30〜180分がさらに好ましい。かかる範囲よりも長時間の加熱を行った場合、ポリアリーレンスルフィド(A)が架橋し、増粘してしまい、工程(III‐1)における炭素繊維(D)との複合化が困難になる場合がある。かかる範囲よりも短時間の加熱とした場合、反応(1)および反応(2)の反応率が不十分となり、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が低下する場合がある。
【0035】
工程(II‐1)においてポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下で加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。非酸化性雰囲気とは混合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面から窒素雰囲気が好ましい。かかる雰囲気とすることで、ポリアリーレンスルフィド(A)自体の架橋が抑えられる。
【0036】
<工程(III‐1)>
工程(III‐1)は、工程(II‐1)で得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を溶融させ、炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程である。
【0037】
工程(III‐1)において、複合化させる炭素繊維(D)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部である必要があり、10〜200質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることがさらに好ましい。炭素繊維(D)の含有率が、10質量部未満では、炭素繊維(D)の量が十分でなく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果が現れない。炭素繊維(D)の含有率が、300質量部を越えると、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を炭素繊維(D)と複合化させることが困難となり、結果的に得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する。
【0038】
工程(III‐1)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を炭素繊維(D)と複合化させる方法としては、溶融させたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を、後述するような炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる方法や、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)と炭素繊維(D)とを押出機を用いて溶融混練する方法などが例示できる。
【0039】
工程(III‐1)において、溶融させたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる方法としては、さらに、あらかじめシート状に加工したポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)と炭素繊維(D)からなる基材とを積層し、これを、プレス成形機を用いて加熱プレスする方法が例示できる。
【0040】
工程(III‐1)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を溶融させる温度としては、285〜400℃が好ましく、285〜350℃がより好ましい。溶融させる温度がかかる範囲よりも高いと、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)が熱分解してしまい、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。溶融させる温度がかかる範囲よりも低いと、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)が溶融せずに、複合体が得られない場合がある。
【0041】
工程(III‐1)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)を溶融させてから複合体を得るまでに要する時間としては、1〜120分が好ましく、1〜30分がより好ましく、1〜10分がさらに好ましい。かかる範囲内とすることで、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが生産性良く得られる。
【0042】
本発明の一実施形態に係る第2の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法は、(I‐2)〜(III‐2)の工程を含む。第2の製造方法で採用する(I‐2)〜(III‐2)の工程についてより詳細に説明する。
【0043】
<工程(I‐2)>
工程(I‐2)は、カルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)を、該成分(B)の軟化点以上の温度で加熱することで、カルボジイミド基同士の反応を促進してポリカルボジイミド反応物(B‐2)を得る工程である。
【0044】
ここでのカルボジイミド基同士の反応とは、ポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基同士が反応して2量体または3量体を形成し、ポリカルボジイミド(B)としては重合し、高分子量化する反応のことを指す。ポリカルボジイミド反応物(B‐2)は、高分子量化によって耐熱性が向上し、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドからブリードアウトし易い成分が低減できる効果がある。
【0045】
工程(I‐2)において、ポリカルボジイミド(B)を加熱する方法としては、生産性の観点から、ポリカルボジイミド(B)を一度に大量に加熱できる方法が好ましく、容器に入れたポリカルボジイミド(B)をオーブン内で加熱する方法が例示できる。ポリカルボジイミド(B)を一度に大量に加熱することでポリカルボジイミド反応物(B‐2)が生産性良く得られる。さらにポリカルボジイミド反応物(B‐2)を用いることで、工程(I‐2)よりも後の工程での加熱時間が短縮でき、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性に優れる効果がある。
【0046】
工程(I‐2)において、オーブンとは、熱した空気、または炉内の壁面や加熱源から発する輻射熱によって内容物を加熱する機構を有した装置を指し、熱風オーブンや真空オーブン、電気炉などが例示できる。オーブンの中でも、炉内の温度の制御がし易く、過昇温を抑えられる観点から、熱風オーブンや真空オーブンを用いることが好ましい。
【0047】
また、ポリカルボジイミド(B)を加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。非酸化性雰囲気とはポリカルボジイミド(B)やポリカルボジイミド反応物(B‐2)が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面から窒素雰囲気が好ましい。減圧条件下とする場合、減圧度の目安としては、ゲージ圧で−0.05MPa以下が好ましく、−0.08MPa以下がより好ましい。ここでのゲージ圧とは、真空ゲージを用いて大気圧を0MPaとして測定した減圧度である。かかる条件下で加熱することにより、ポリカルボジイミド(B)やポリカルボジイミド反応物(B‐2)の酸化や熱分解を抑えることができ、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が向上できるため好ましい。
【0048】
工程(I‐2)においてポリカルボジイミド(B)の軟化点以上の温度としては、50〜250℃が例示できる。さらに工程(I‐2)においてポリカルボジイミド(B)を加熱する際の温度は、70〜250℃がより好ましく、100〜150℃がさらに好ましい。加熱を行う温度をかかる範囲内とすることにより、得られるポリカルボジイミド反応物(B‐2)には、カルボジイミド基同士が反応した構造と未反応のカルボジイミド基が共存し、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が向上できる。なお、ポリカルボジイミド(B)の軟化点は熱機械分析装置(TMA)を用いて求めることができる。
【0049】
工程(I‐2)においてポリカルボジイミド(B)を加熱する時間は、1〜48時間が好ましく、2〜30時間がより好ましく、3〜24時間がさらに好ましい。加熱を行う時間がかかる範囲よりも長い場合、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)内の未反応のカルボジイミド基が少なく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が向上できない場合がある。加熱を行う時間がかかる範囲よりも短い場合、カルボジイミド基同士が反応した構造が少なく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が向上できない場合がある。
【0050】
工程(I‐2)において、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)を得るためには、カルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)を用いる必要がある。カルボジイミド基を1分子中に1個だけ有するモノカルボジイミド(B’)では、カルボジイミド基同士を反応させても重合が進行できず、高分子量化できないために耐熱性の向上効果が小さい。さらに、モノカルボジイミド(B’)のカルボジイミド基同士が反応して得られる反応物にはカルボジイミド基が残存しない。この為、モノカルボジイミド(B’)のカルボジイミド基同士が反応して得られる反応物を用いても、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果と成形サイクル性は両立し得ない。
【0051】
<工程(II‐2)>
工程(II‐2)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部と工程(I‐2)で得られたポリカルボジイミド反応物(B‐2)0.1〜10質量部を混合し、得られた混合物を加熱して溶融混練することでポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を得る工程である。
【0052】
工程(II‐2)において、混合物を得る方法は、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド反応物(B‐2)をできる限り均一に混合させる観点から、粒状のポリアリーレンスルフィド(A)と粒状のポリカルボジイミド反応物(B‐2)をドライブレンドする方法が例示できる。ドライブレンドを行うための装置としては、ヘンシェルミキサーやロッキングミキサーなどが例示できる。また、混合物を得る際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。非酸化性雰囲気とは混合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面から窒素雰囲気が好ましい。かかる混合方法を用いることで、次の溶融混練を行う前に、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド反応物(B‐2)の反応活性の低下を抑えられる為好ましい。
【0053】
ドライブレンドを行う際のポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド反応物(B‐2)の数平均粒子径は、0.001〜10mmが好ましく、0.01〜5mmがより好ましく、0.1〜3mmがさらに好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド反応物(B‐2)のそれぞれの数平均粒子径は値が近いほど好ましい。かかる数平均粒子径の範囲とすることで、混練物内での分離が低減できる為好ましい。
【0054】
工程(II‐2)の混合物において、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して0.1〜10質量部含有している必要があり、0.1〜5質量部含有していることが好ましい。ポリカルボジイミド反応物(B‐2)の含有率が、0.1質量部未満では、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)の量が十分でなく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果が現れない。また、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)の含有率が、10質量部を越えると、反対にポリカルボジイミド反応物(B‐2)が多すぎる為に、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する。
【0055】
工程(II‐2)において、溶融混練を行う目的は、ポリアリーレンスルフィド(A)を、融点以上の温度で加熱することで溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)の溶融条件下でポリカルボジイミド反応物(B‐2)と混練することにより、ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド反応物(B‐2)が有するカルボジイミド基を反応させてポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を得ることである。かかる状態とすることで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上と成形サイクル性が両立できる。
【0056】
工程(II‐2)において溶融混練を行うための装置としては、ラボプラストミルミキサーや押出機が例示できる。ラボプラストミルミキサーは、所定量の原料をミキサー内に投入し、一定時間溶融混練を行う装置であり、溶融混練時間を制御しやすい。押出機は連続的に投入した原料を溶融混練しつつ搬送し吐出する装置であり、溶融混練物の生産性に優れる。
【0057】
工程(II‐2)において溶融混練に用いる押出機としては、単軸押出機や二軸押出機が例示でき、中でも溶融混練性に優れる二軸押出機を好ましく用いることができる。二軸押出機としては、スクリュー長さとスクリュー直径の比(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が20〜100であるものが例示できる。さらに、二軸押出機のスクリューは、フルフライトやニーディングディスクなどの長さや形状的特長が異なるスクリューセグメントが組み合わされて構成されるが、溶融混練性と反応性の向上の点から、1個以上のニーディングディスクを含むことが好ましい。
【0058】
さらに、工程(II‐2)における溶融混練は、その少なくとも一部を減圧条件下で行うことが好ましい。減圧条件下とする領域は、ラボプラストミルミキサーを用いる場合は溶融混練物全体を覆うように設置することが好ましく、押出機を用いる場合は、溶融混練物が吐出される位置から(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が0〜10手前の位置に設置することが好ましい。かかる減圧条件下とする領域における、減圧度の目安としては、ゲージ圧で−0.05MPa以下が好ましく、−0.08MPa以下がより好ましい。ここでのゲージ圧とは、真空ゲージを用いて大気圧を0MPaとして測定した減圧度である。かかる減圧条件下で溶融混練を行うことで、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド反応物(B‐2)の熱分解物など、揮発しやすい成分を減少させることができ、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が向上できるため好ましい。
【0059】
工程(II‐2)において溶融混練を行う温度としては、285〜400℃が好ましく、285〜350℃がより好ましい。溶融混練を行う温度がかかる範囲よりも高いと、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド反応物(B‐2)が熱分解してしまい、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。溶融混練を行う温度がかかる範囲よりも低いと、ポリアリーレンスルフィド(A)が溶融せずに、溶融混練物が得られない場合がある。
【0060】
工程(II‐2)において溶融混練を行う時間は、0.5〜30分が好ましく、0.5〜15分がより好ましく、0.5〜10分がさらに好ましく、0.5〜5分がとりわけ好ましい。溶融混練を行う時間がかかる範囲よりも長い場合、ポリアリーレンスルフィド(A)が架橋し、増粘してしまい、工程(III‐3)における炭素繊維(D)との複合化が困難になる場合がある。溶融混練を行う時間がかかる範囲よりも短い場合、ポリアリーレンスルフィド(A)が溶融せずに、溶融混練物が得られない場合がある。
【0061】
また、工程(II‐2)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)は、溶融混練後に、溶融状態のままプレス成形機に移しシート状に加熱プレスする方法や、二軸押出機の先端に取り付けたTダイやスリットダイから溶融混練物をシート状に吐出する方法によってシート状に加工することが好ましい。
【0062】
<工程(III‐2)>
工程(III‐2)は、工程(II‐2)で得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程である。
【0063】
工程(III‐2)において、複合化させる炭素繊維(D)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部である必要があり、10〜200質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることがさらに好ましい。炭素繊維(D)の含有率が、10質量部未満では、炭素繊維(D)の量が十分でなく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果が現れない。炭素繊維(D)の含有率が、300質量部を越えると、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を炭素繊維(D)と複合化させることが困難となり、結果的に得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する。
【0064】
工程(III‐2)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を炭素繊維(D)と複合化させる方法としては、溶融させたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を、後述するような炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる方法や、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)と炭素繊維(D)とを押出機を用いて溶融混練する方法などが例示できる。
【0065】
工程(III‐2)において、溶融させたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる方法としては、さらに、あらかじめシート状に加工したポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)と炭素繊維(D)からなる基材とを積層し、これを、プレス成形機を用いて加熱プレスする方法が例示できる。
【0066】
工程(III‐2)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を溶融させる温度としては、285〜400℃が好ましく、285〜350℃がより好ましい。溶融させる温度がかかる範囲よりも高いと、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド反応物(B‐2)が熱分解してしまい、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。溶融させる温度がかかる範囲よりも低いと、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)が溶融せずに、複合体が得られない場合がある。
【0067】
工程(III‐2)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)を溶融させてから複合体を得るまでに要する時間としては、1〜120分が好ましく、1〜30分がより好ましく、1〜10分がさらに好ましい。かかる範囲内とすることで、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが生産性良く得られる。
【0068】
本発明の一実施形態に係る第3の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法は、(I‐3)〜(III‐3)の工程を含む。第3の製造方法で採用する(I‐3)〜(III‐3)の工程についてより詳細に説明する。
【0069】
<工程(I‐3)>
工程(I‐3)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部とカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)0.1〜10質量部を混合した混合物を得る工程である。
【0070】
工程(I‐3)において、混合物を得る方法としては、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)をできる限り均一に混合させる観点から、粒状のポリアリーレンスルフィド(A)と粒状のポリカルボジイミド(B)をドライブレンドする方法が例示できる。ドライブレンドを行うための装置としては、ヘンシェルミキサーやロッキングミキサーなどが例示できる。また、混合物を得る際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。非酸化性雰囲気とは混合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面から窒素雰囲気が好ましい。かかる混合方法を用いることで、次の溶融混練を行う前に、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリカルボジイミド(B)の反応活性の低下を抑えられる為好ましい。
【0071】
ドライブレンドを行う際のポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)の数平均粒子径は、0.001〜10mmが好ましく、0.01〜5mmがより好ましく、0.1〜3mmがさらに好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)のそれぞれの数平均粒子径は値が近いほど好ましい。かかる数平均粒子径の範囲とすることで、混練物内での分離が低減できる為好ましい。
【0072】
工程(I‐3)の混合物において、ポリカルボジイミド(B)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して0.1〜10質量部含有している必要があり、0.1〜5質量部含有していることが好ましい。ポリカルボジイミド(B)の含有率が、0.1質量部未満では、ポリカルボジイミド(B)の量が十分でなく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィド力学特性の向上効果が現れない。また、ポリカルボジイミド(B)の含有率が、10質量部を越えると、反対にポリカルボジイミド(B)が多すぎる為に、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する。
【0073】
<工程(II‐3)>
工程(II‐3)は、工程(I‐3)で得られる混合物を、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点以上の温度で加熱して溶融混練することで、カルボジイミド基の反応を促進してポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を得る工程である。
【0074】
工程(II‐3)において、工程(I‐3)で得られる混合物を、ポリアリーレンスルフィド(A)の融点以上の温度で加熱して溶融混練することで促進できるカルボジイミド基の反応とは、ポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基の反応とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基同士が反応して2量体または3量体を形成し、ポリカルボジイミド(B)が架橋構造を形成する反応のことを指す。
【0075】
このため、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)としては、ポリカルボジイミド(B)とポリアリーレンスルフィド(A)との反応物からなる海相にポリカルボジイミド(B)からなる島相が分散した海島構造であって、さらに島相を形成するポリカルボジイミド(B)の一部または全部が、ポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基同士の反応により架橋した構造を有したものが例示できる。かかる構造をとることで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドからポリカルボジイミド(B)がブリードアウトしづらくなる効果が期待できる。特に、ポリカルボジイミド(B)はカルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するため、カルボジイミド基同士が反応して2量体または3量体を形成する反応により、ブリードアウトしづらくなる効果が期待できる。カルボジイミド基を1分子中に1個だけ有するモノカルボジイミド(B’)では、ポリアリーレンスルフィド(A)と未反応のモノカルボジイミド(B’)が過剰量となり、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が低下する。
【0076】
工程(II‐3)において溶融混練を行うための装置としては、ラボプラストミルミキサーや押出機が例示できる。ラボプラストミルミキサーは、所定量の原料をミキサー内に投入し、一定時間溶融混練を行う装置であり、溶融混練時間を制御しやすい。押出機は連続的に投入した原料を溶融混練しつつ搬送し吐出する装置であり、溶融混練物の生産性に優れる。
【0077】
工程(II‐3)において溶融混練に用いる押出機としては、単軸押出機や二軸押出機が例示でき、中でも溶融混練性に優れる二軸押出機を好ましく用いることができる。二軸押出機としては、スクリュー長さとスクリュー直径の比(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が20〜100であるものが例示できる。さらに、二軸押出機のスクリューは、フルフライトやニーディングディスクなどの長さや形状的特長が異なるスクリューセグメントが組み合わされて構成されるが、溶融混練性と反応性の向上の点から、1個以上のニーディングディスクを含むことが好ましい。
【0078】
さらに、工程(II‐3)における溶融混練は、その少なくとも一部を減圧条件下で行うことが好ましい。減圧条件下とする領域は、ラボプラストミルミキサーを用いる場合は溶融混練物全体を覆うように設置することが好ましく、押出機を用いる場合は、溶融混練物が吐出される位置から(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が0〜10手前の位置に設置することが好ましい。かかる減圧条件下とする領域における、減圧度の目安としては、ゲージ圧で−0.05MPa以下が好ましく、−0.08MPa以下がより好ましい。ここでのゲージ圧とは、真空ゲージを用いて大気圧を0MPaとして測定した減圧度である。かかる減圧条件下で溶融混練を行うことで、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)の熱分解物など、揮発しやすい成分を減少させることができ、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が向上できるため好ましい。
【0079】
工程(II‐3)において、成分(A)の融点以上の温度、すなわち溶融混練によってポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を得る際の温度としては、330〜400℃が好ましく、330〜360℃がより好ましい。330℃以上で溶融混練することで、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリカルボジイミド(B)の反応を短時間で行え、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)の生産性に優れる。溶融混練を行う温度がかかる範囲よりも高いと、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)が熱分解してしまい、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。
【0080】
工程(II‐3)において溶融混練を行う時間は、0.5〜30分が好ましく、0.5〜15分がより好ましく、0.5〜10分がさらに好ましく、0.5〜5分がとりわけ好ましい。溶融混練を行う時間がかかる範囲よりも長い場合、ポリアリーレンスルフィド(A)が架橋し、増粘してしまい、工程(III‐3)における炭素繊維(D)との複合化が困難になる場合がある。溶融混練を行う時間がかかる範囲よりも短い場合、ポリアリーレンスルフィド(A)やポリカルボジイミド(B)が溶融せずに、溶融混練物が得られない場合がある。
【0081】
また、工程(II‐3)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)は、溶融混練後に、溶融状態のままプレス成形機に移しシート状に加熱プレスする方法や、二軸押出機の先端に取り付けたTダイやスリットダイから溶融混練物をシート状に吐出する方法によってシート状に加工することが好ましい。
【0082】
<工程(III‐3)>
工程(III‐3)は、工程(II‐3)における溶融混練時以下の温度で前記ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を溶融させ、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部の炭素繊維(D)と複合化させて複合体を得る工程である。
【0083】
工程(III‐3)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を溶融させる温度を、工程(II‐3)における溶融混練時以下の温度とすることで、炭素繊維(D)との複合化に際して、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)の熱分解などに由来する揮発分の発生を抑えることができる。さらに複合化時に発生する揮発分が低減できることにより、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)と強化繊維(D)との密着を高めることができる。これらの理由により、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上と成形サイクル性が両立できる。
【0084】
さらに工程(III‐3)において、工程(II‐3)における溶融混練時以下の温度、すなわち前記ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を溶融させる際の温度としては280〜330℃が例示でき、280〜300℃がより好ましい。溶融させる温度がかかる範囲よりも高いと、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)では、熱分解によって得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。溶融させる温度がかかる範囲よりも低いと、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)が溶融せずに、複合体が得られない場合がある。
【0085】
工程(III‐3)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を溶融させてから複合体を得るまでに要する時間としては、1〜120分が好ましく、1〜30分がより好ましく、1〜10分がさらに好ましい。かかる範囲内とすることで、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが生産性良く得られる。
【0086】
工程(III‐3)において、複合化させる炭素繊維(D)は、ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して10〜300質量部である必要があり、10〜200質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることがより好ましく、20〜50質量部であることがさらに好ましい。炭素繊維(D)の含有率が、10質量部未満では、炭素繊維(D)の量が十分でなく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果が現れない。炭素繊維(D)の含有率が、300質量部を越えると、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を炭素繊維(D)と複合化させることが困難となり、結果的に得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する。
【0087】
工程(III‐3)において、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を炭素繊維(D)と複合化させる方法としては、溶融させたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を、後述するような炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる方法や、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)と炭素繊維(D)とを押出機を用いて溶融混練する方法などが例示できる。
【0088】
工程(III‐3)において、溶融させたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)を炭素繊維(D)からなる基材に含浸させる方法としては、さらに、あらかじめシート状に加工したポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)と炭素繊維(D)からなる基材とを積層し、これを、プレス成形機を用いて加熱プレスする方法が例示できる。
【0089】
<炭素繊維(D)からなる基材>
前記した炭素繊維(D)からなる基材としては、連続した炭素繊維(D)を一方向に配列させてシート状とした一方向配列基材や、織物(クロス)、不織布、編み物、組み紐、ヤーン、トウ、などが挙げられる。中でも、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)、(C‐2)、または(C‐3)が比較的含浸し易い不織布状の炭素繊維(D)からなる基材が好ましく用いられる。不織布状の炭素繊維(D)としては、炭素繊維の単糸がランダムに分散している場合が好ましく、かかる炭素繊維(D)の単糸の繊維長は、数平均繊維長で0.01〜20mmが好ましく、0.01〜10mmがより好ましい。かかる範囲内とすることで、力学特性と成形加工時の流動性に優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られる。また、炭素繊維(D)の繊維長が長くなるほど、得られるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィドの力学特性が向上する。
【0090】
<工程(IV)>
本発明のいずれの製造方法にも、さらに次に示す工程(IV)を含むことが好ましい。工程(IV)は、工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)で得られる複合体を、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することで、複合体内のカルボジイミド基の反応を促進する工程である。
【0091】
工程(IV)を経ることにより、工程(II‐1)、(I‐2)、(II‐2)または(II‐3)で行ったポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基の反応やポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基同士が反応して2量体または3量体を形成し、ポリカルボジイミド(B)が架橋構造を形成する反応の反応率をさらに高めることができ、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドからポリアリーレンスルフィド(B)がブリードアウトすることを低減させることができる。
【0092】
工程(IV)におけるポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度としては、90〜280℃が例示でき、さらに、前記したポリアリーレンスルフィド(A)が有する官能基とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基の反応とポリカルボジイミド(B)が有するカルボジイミド基同士が反応して2量体または3量体を形成し、ポリカルボジイミド(B)が架橋構造を形成する反応の反応率を向上させる観点から200〜260℃が好ましい。なお、ポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度および融点は示差走査熱量計(DSC)を用いて求めることができる。
【0093】
工程(IV)においてポリアリーレンスルフィド(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下で加熱する時間としては、5〜720分が好ましく、20〜360分がより好ましく、30〜180分がさらに好ましい。かかる範囲よりも長時間の加熱を行った場合、ポリアリーレンスルフィド(A)が架橋し、増粘してしまい、さらなる加熱成形加工が困難となる場合がある。
【0094】
<工程(V)>
本発明のいずれの製造方法にも、さらに次に示す工程(V)を含むことが好ましい。工程(V)は、工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)において得られる複合体または工程(IV)を経た複合体を、射出成形またはプレス成形する工程である。
【0095】
工程(V)において、射出成形としては、インラインスクリュー型射出成形機を用いる方法が例示でき、複合体を射出成形機のシリンダー内に計量させることで溶融状態とし、次いでこの溶融状態の複合体を成形金型内に射出し、冷却、固化することで所定の形状の射出成形品として取り出す方法が例示できる。
【0096】
工程(V)において、プレス成形としては、複合体を成形金型内で加熱、圧縮することで所定の形状に変形させ、次いで、冷却、固化することでプレス成形品として取り出す方法が例示できる。
【0097】
さらに、工程(V)において射出成形またはプレス成形する際の成形加工温度を、工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)において複合体を得る際の温度よりも低温で行うことが好ましい。かかる温度条件とすることで、工程(V)における成形加工の際に、複合体の熱分解などに由来する揮発分の発生を抑えることができ、成形加工時に発生する揮発分が低減できることにより、得られる成形品において、成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)と強化繊維(D)との密着を高めることができ、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上と成形サイクル性が両立できるために好ましい。
【0098】
工程(V)における成形加工温度とは、射出成形機のシリンダー温度またはプレス成形機の成形金型温度のことを指し、280〜330℃が例示でき、280〜300℃がより好ましい。工程(V)での成形加工温度がかかる範囲よりも高いと、複合体の熱分解によって、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性や成形サイクル性が低下する場合がある。成形加工温度がかかる範囲よりも低いと、複合体が加工できない場合がある。
【0099】
工程(V)において、複合体の成形加工に要する時間としては、0.15〜120分が好ましく、0.15〜30分がより好ましく、0.15〜10分がさらに好ましい。かかる範囲内とすることで、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが生産性良く得られる。
【0100】
本発明の炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの製造方法は、工程(I‐1)〜(III‐1)、(I‐2)〜(III‐2)、または(I‐3)〜(III‐3)、および、必要に応じて、これら工程に加えて工程(IV)および/または(V)を経ることにより、得られた複合体の成形加工性を維持したまま、ポリアリーレンスルフィド(B)がブリードアウトすることを低減させることができる。
【0101】
次に、本発明で用いる成分である、ポリアリーレンスルフィド(A)、ポリカルボジイミド(B)、および炭素繊維(D)について説明する。
【0102】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリアリーレンスルフィド(A)(以下、ポリアリーレンスルフィドをPASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては次の式(a)〜式(k)などで表される単位などがあるが、なかでも式(a)で表される単位が特に好ましい。
【0103】
【化1】
【0104】
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0105】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、次の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0106】
【化2】
【0107】
また、PAS(A)は上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0108】
PAS(A)の代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド(前記式(a)、式(b)、式(f)〜式(k))、ポリフェニレンスルフィドスルホン(前記式(d))、ポリフェニレンスルフィドケトン(前記式(c))、ポリフェニレンスルフィドエーテル(前記式(e))、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPAS(A)としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0109】
【化3】
【0110】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0111】
PAS(A)は、その質量平均分子量が、好ましくは10,000〜80,000であり、より好ましくは10,000〜60,000であり、さらに好ましくは10,000〜40,000である。質量平均分子量の小さいPAS(A)ほど溶融粘度が低く、炭素繊維(D)との複合化が容易となり、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性に優れる為、好ましい。
【0112】
なお、PAS(A)の質量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などの一般的に公知なGPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィー)を使用して測定することができる。溶離液には1−クロロナフタレンを使用し、カラム温度を210℃とし、ポリスチレン換算の質量平均分子量を算出することで求めることができる。
【0113】
PAS(A)は、主鎖および/または側鎖の末端に官能基を有することが好ましい。ここで言う主鎖とは、高分子構造中で最も長い鎖状構造部分を指し、主鎖から分岐して構成される部分は側鎖という。高分子構造とは、単一の構造単位が繰り返し連結している部分、または複数の構造単位が規則的ないしはランダムに連結している部分を指し、末端とは連結が停止する最後の構造単位を指す。PAS(A)が有する官能基は、高分子構造の主鎖および/または側鎖の末端のいずれかに1箇所以上あることが好ましく、かかる官能基を有するPASがPAS(A)に占める割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。かかる条件を満たすことで、力学特性に優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られる。
【0114】
PAS(A)が有する官能基としては、重合の際に用いられたモノマーの官能基が残留したもの、重合時の触媒や助剤や溶媒が末端に取り込まれて形成した官能基、高分子構造が熱分解や加水分解などによって切断されて形成した官能基、およびこれらの官能基を酸化、還元、および変性剤で変性したものを用いることが出来る。前記変性剤としては、エピクロルヒドリン、多官能エポキシ樹脂、酸無水物などが例示できる。中でも、高分子構造へのダメージが少なく、分子量を制御しやすいことから、重合の際に用いられたモノマーの官能基が残留したものと、重合時の触媒や助剤や溶媒が末端に取り込まれて形成した官能基が好ましく用いられる。
【0115】
PAS(A)が有する官能基としては、チオール基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、アミノ基、水酸基、イソシアネート基、オキサゾリン基、スルホン酸基などが具体的に例示できる。この中でも、カルボジイミド基との反応性の面でチオール基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、アミノ基、水酸基が好ましく、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基が特に好ましい。
【0116】
PAS(A)は、クロロホルムによるオリゴマー抽出量が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。ここでのクロロホルムによるオリゴマー抽出量とは、有機低重合成分(オリゴマー)量の指標となるものであり、測定するPAS(A)10gをクロロホルム200mLを用いて、ソックスレー抽出5時間処理時の残差量から算出できる。PAS(A)中のオリゴマー成分が減少することで、PAS(A)のポリマー成分の官能基とポリカルボジイミド(B)のカルボジイミド基がより選択的に反応可能となるため成形サイクル性に優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られる。
【0117】
PAS(A)は、ポリハロゲン芳香族化合物とスルフィド化剤とを極性有機溶媒中で反応させて得られる重合反応物からPAS(A)を回収、後処理することにより高収率で製造することができる。
【0118】
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどが挙げられる。これらの中で、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0119】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した質量平均分子量のPAS(A)を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0120】
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0121】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0122】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0123】
PAS(A)の製造において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0124】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物としては、具体例に、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0125】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0126】
以下に、PAS(A)の製造方法の一例について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0127】
先ず前工程について説明する。スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
【0128】
また、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。アルカリ金属硫化物を調製する望ましい条件は、不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、より好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、150℃以上、より好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0129】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは、重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。水分量のより好ましい範囲は、スルフィド化剤1モル当たり0.75〜2.5モルであり、1.0〜1.25モルの範囲がより好ましい。かかる範囲に水分を調整するために、重合前あるいは重合途中で水分を添加することも可能である。
【0130】
重合反応工程では、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃以下の温度範囲内で反応させることによりPAS(A)を製造する。
【0131】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜220℃、好ましくは100〜220℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で酢酸ナトリウムなどの重合助剤を加えてもよい。ここで、重合助剤とは得られるPAS(A)の粘度を調整する作用を有する物質を意味する。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0132】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0133】
最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0134】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜245℃で一定時間反応させた後、250〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る場合に有効である。この際、200℃〜245℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲内で選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲内で選択される。
【0135】
重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法としては、例えばフラッシュ法、すなわち重合反応物を高温高圧(通常245℃以上、0.8MPa以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒回収と同時に重合体を粉粒状にして回収する方法や、クエンチ法、すなわち重合反応物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS成分を析出させ、かつ70℃以上、好ましくは100℃以上の状態で濾別することでPAS成分を含む固体を顆粒状にして回収する方法などが挙げられる。
【0136】
PAS(A)の回収方法は、クエンチ法、フラッシュ法いずれかに限定されるものではないが、クロロホルム抽出成分に代表されるようなオリゴマー成分が少なく、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性に優れるために、クエンチ法で得られるPAS(A)であることが好ましい。クエンチ法で得られるPASのクロロホルムによるオリゴマー抽出量としては、2質量%以下が例示でき、より好ましくは1質量%以下が例示できる。
【0137】
PAS(A)は、上記重合、回収工程を経て生成した後、熱水処理や有機溶媒による洗浄を施して用いられる(後処理工程)。前記回収工程を経て得られたPAS(A)は重合副生物であるアルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ金属有機物などのイオン性不純物を含んでいるため、洗浄を行うことが通例である。洗浄液としては例えば水や有機溶媒を用いて洗浄する方法が挙げられ、簡便かつ安価にPAS(A)を得る点で、水を用いた洗浄が好ましい方法として例示できる。使用する水の種類としてはイオン交換水、蒸留水が好ましく用いられる。
【0138】
PAS(A)を洗浄する際の洗浄温度は50℃以上200℃以下が好ましく、150℃以上200℃以下がより好ましく、180℃以上200℃以下がさらに好ましい。100℃以上の液体での処理の操作は、通常、所定量の液体に所定量のPAS(A)を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、攪拌することにより行われる。洗浄は複数回行ってもよく、各洗浄での洗浄温度が異なっていても良いが、イオン性不純物の少ないPAS(A)を得るには、150℃以上の温度で少なくとも1回、好ましくは2回以上洗浄を行うのが良く、各洗浄の間にはポリマーと洗浄液を分離する濾過工程を経ることがより好ましい方法である。
【0139】
PAS(A)を得るに際し、洗浄を行う場合には洗浄添加剤を用いてもよく、かかる洗浄添加剤として酸、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が例示できる。酸を用いる場合、洗浄に用いる水に有機酸または無機酸などを添加して酸性にした水溶液中に、洗浄されるPASを浸漬させ、加熱洗浄後の水溶液のpHが2〜8となるようにすることが好ましい。有機酸、無機酸としては、酢酸、プロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸などが例示でき、これらに限定されるものではないが、酢酸、塩酸が好ましい。本発明において、洗浄添加剤として酸を用いたPAS(A)は、酸末端品と称する。洗浄添加剤としてアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いる場合、洗浄に用いる水にアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を添加した水溶液に、洗浄されるべきPASを浸漬させる方法が例示でき、かかるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の量はPAS(A)に対し、0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜0.7質量%が更に好ましい。アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、上記有機酸または無機酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0140】
洗浄添加剤は洗浄工程のいずれの段階で使用してもよいが、少量の添加剤で効率的に洗浄を行うには、前記回収工程にて回収した固形物を水にて洗浄を数回行い、その後洗浄添加剤を添加した水溶液に洗浄されるべきPASを含浸させ、150℃以上で処理する方法が好ましい。洗浄でのPASと洗浄液の割合は、洗浄液が多いほうが好ましいが、通常、洗浄液1リットルに対し、PAS(A)10〜500gの浴比が好ましく選択され、50〜200gが更に好ましい。
【0141】
かくして得られたPAS(A)は常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、120〜280℃の範囲が好ましく、140〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間がより好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
【0142】
<ポリカルボジイミド(B)>
ポリカルボジイミド(B)としては、脂肪族ポリカルボジイミドおよび芳香族ポリカルボジイミドが例示できる。ポリカルボジイミド(B)は、脂肪族ポリカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドいずれかに限定されるものではないが、カルボジイミド基の反応性が高く、得られる繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性に優れるために、脂肪族ポリカルボジイミドであることが好ましい。
【0143】
脂肪族ポリカルボジイミドとは、一般式 −N=C=N−R−(式中、Rはシクロヘキシレンなどの脂環式化合物の2価の有機基、またはメチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレンなどの脂肪族化合物の2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。
【0144】
脂肪族ポリカルボジイミドの合成法は特に限定されるものではないが、例えば有機ポリイソシアナートを、イソシアナート基のカルボジイミド化反応を促進する触媒(以下「カルボジイミド化触媒」ともいう)の存在下で反応させることにより、脂肪族ポリカルボジイミドを合成することができる。
【0145】
この脂肪族ポリカルボジイミドの合成に用いられる有機ポリイソシアナートとしては、有機ジイソシアナートが好ましい。このような有機ジイソシアナートとしては、例えば、シクロブチレン−1,3−ジイソシアナート、シクロペンチレン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキシレン−2,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキシレン−2,6−ジイソシアナート、1−イソシアネート−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナートメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン−1,3−ビス(メチルイソシアナート)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチルイソシアナート)、ジシクロヘキシルメタン−2,4′−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアナート、エチレンジイソシアナート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアナート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアナート、ドデカメチレン−1,12−ジイソシアナート、リジンジイソシアナートメチルエステルなどや、これらの有機ジイソシアナートの化学量論的過剰量と2官能性活性水素含有化合物との反応により得られる両末端イソシアナートプレポリマーなどを挙げることができる。これらの有機ジイソシアナートは、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0146】
また、場合により有機ジイソシアナートとともに使用される他の有機ポリイソシアナートとしては、例えば、シクロヘキサン−1,3,5−トリイソシアナート、シクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアナート)、3,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアナート)、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアナート)、ジシクロヘキシルメタン−2,4,2′−トリイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−2,4,4′−トリイソシアナートなどの3官能以上の有機ポリイソシアナートや、これらの3官能以上の有機ポリイソシアナートの化学量論的過剰量と2官能以上の多官能性活性水素含有化合物との反応により得られる末端イソシアナートプレポリマーなどを挙げることができる。
【0147】
前記他の有機ポリイソシアナートは、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもでき、その使用量は、有機ジイソシアナート100質量部あたり、好ましくは0〜40質量部であり、より好ましくは0〜20質量部である。
【0148】
さらに、脂肪族ポリカルボジイミドの合成に際しては、必要に応じて有機モノイソシアナートを添加することにより、得られる脂肪族ポリカルボジイミドの分子量を適切に制御することができる。
【0149】
このような有機モノイソシアナートとしては、例えばメチルイソシアナート、エチルイソシアナート、n−プロピルイソシアナート、n−ブチルイソシアナート、ラウリルイソシアナート、ステアリルイソシアナートなどのアルキルモノイソシアナート類、シクロヘキシルイソシアナート、4−メチルシクロヘキシルイソシアナート、2,5−ジメチルシクロヘキシルイソシアナートなどのシクロアルキルモノイソシアナート類を挙げることができる。
【0150】
これらの有機モノイソシアナートは、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもでき、その使用量は、脂肪族ポリカルボジイミドの所望の分子量などにより変わるが、有機ポリイソシアナート成分100質量部あたり、好ましくは0〜40質量部であり、より好ましくは0〜20質量部である。
【0151】
また、カルボジイミド化触媒としては、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−フェニル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−フェニル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−フェニル−3−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−メチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィド、1−メチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−スルフィドや、これらの3−ホスホレン異性体などのホスホレン化合物、ペンタカルボニル鉄、ノナカルボニル二鉄、テトラカルボニルニッケル、ヘキサカルボニルタングステン、ヘキサカルボニルクロムなどの金属カルボニル錯体、ベリリウム、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、鉄などの金属のアセチルアセトン錯体、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、トリ−t−ブチルホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0152】
前記カルボジイミド化触媒は、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。この触媒の使用量は、有機ポリイソシアナート成分100質量部あたり、好ましくは、0.001〜30質量部であり、より好ましくは0.01〜10質量部である。
【0153】
脂肪族ポリカルボジイミドの合成反応の温度は、有機ポリイソシアナートや有機モノイソシアナート、カルボジイミド化触媒の種類に応じて適宜選定されるが、通常、20〜200℃である。脂肪族ポリカルボジイミドの合成反応に際して、有機ポリイソシアナートおよび有機モノイソシアナート成分は、反応前に全量添加しても、あるいはその一部または全部を反応中に、連続的あるいは段階的に添加してもよい。
【0154】
また、イソシアナート基と反応し得る化合物を、脂肪族ポリカルボジイミドの合成反応の初期から後期に至る適宜の反応段階で添加して、脂肪族ポリカルボジイミドの末端イソシアナート基を封止し、得られる脂肪族ポリカルボジイミドの分子量を調節することもでき、また脂肪族ポリカルボジイミドの合成反応の後期に添加して、得られる脂肪族ポリカルボジイミドの分子量を所定値に規制することもできる。このようなイソシアナート基と反応し得る化合物としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ベンジルアミンなどのアミン類を挙げることができる。
【0155】
芳香族ポリカルボジイミドとは、一般式 −N=C=N−R−(式中、Rはベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセンなどの環状不飽和化合物の2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。
【0156】
芳香族ポリカルボジイミドとしては、ラインケミー社製“スタバクゾール(登録商標)”Pやラインケミー社製“スタバクゾール(登録商標)”P400などが挙げられる。
【0157】
ポリカルボジイミド(B)は、その質量平均分子量が、好ましくは500〜40,000であり、より好ましくは1,000〜5,000である。ポリカルボジイミド(B)の質量平均分子量が500より小さいと、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が低下する場合がある。ポリカルボジイミド(B)の質量平均分子量が40,000より大きいとPAS(A)との溶融混練性が低下し、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの成形サイクル性が低下する場合がある。なお、ポリカルボジイミド(B)の質量平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)などの分析方法によって求めることができる。
【0158】
<炭素繊維(D)>
炭素繊維(D)としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などが使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
【0159】
炭素繊維(D)は、その引張強度が、好ましくは2,000MPa以上であり、より好ましくは3,000MPa以上であり、さらに好ましくは4,000MPa以上である。また、炭素繊維(D)は、その引張弾性率が、好ましくは200GPa以上700GPa以下である。さらに、炭素繊維(D)は、その引張伸度が、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1.0%以上であり、さらに好ましくは1.8%以上であり、とりわけ好ましくは2.0%以上である。高伸度な炭素繊維(D)を使用することで、本発明により得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの引張強度や伸度といった力学特性の向上を高レベルで達成できるためとりわけ好ましい。このような引張強度、引張弾性率、引張伸度のバランスの観点から炭素繊維(D)としてはPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0160】
炭素繊維(D)は、X線光電子分光法(XPS)により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比(O/C)が、0.05〜0.50であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.40であり、さらに好ましくは0.10〜0.30である。表面酸素濃度比(O/C)が高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、他の成分との接着性を高めることができる一方で、表面酸素濃度比(O/C)が高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念されるため、表面酸素濃度比(O/C)が好ましい範囲内で、力学特性にとりわけ優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを得ることが出来る。
【0161】
炭素繊維(D)の表面酸素濃度比(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められる。まず、溶剤でサイジング剤などを除去した炭素繊維(D)をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面酸素濃度比(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0162】
表面酸素濃度比(O/C)を制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を取ることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0163】
また、炭素繊維(D)の平均繊維径は、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。かかる範囲内とすることで、工程(III‐1)、(III‐2)、または(III‐3)において、前記成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)の炭素繊維(D)との複合化が容易となる為好ましい。
【0164】
炭素繊維(D)は、カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を1分子中に3個以上有する化合物(以下、化合物(E)と略記)で表面処理されていることが好ましい。前記官能基は1分子中に2種類以上が混在しても良く、1種類の官能基を1分子中に3個以上有する化合物を2種類以上併用しても良い。前記官能基が1分子中に3個未満の化合物のみを用いた場合、炭素繊維(D)の表面官能基や前記成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)との反応点が不足し、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が低下する場合がある。前記官能基以外の官能基、例えばアルコキシシランは炭素繊維表面との反応性が乏しいため、アルコキシシランとエポキシ基を1分子中に1個ずつ有するシランカップリング剤を用いた場合、本発明が目的とする、力学特性に優れる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは得られない場合がある。
【0165】
化合物(E)の具体例としては、多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコールなどが挙げられ、とりわけ炭素繊維(D)の表面官能基や前記成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)との反応性が高い多官能エポキシ樹脂が好ましい。
【0166】
多官能エポキシ樹脂としては、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂とは、1分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂を意味する。
【0167】
3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これら脂肪族エポキシ樹脂の中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、炭素繊維(D)への塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが本発明では好ましく用いられる。
【0168】
アクリル酸系ポリマーとは、アクリル酸、メタクリル酸およびマレイン酸の重合体であって、1分子中にカルボキシル基を3個以上含有するポリマーの総称である。具体的には、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。さらに、アクリル酸系ポリマーは、前記官能基の数が1分子中に3個以上となる限り、カルボキシル基をアルカリで部分的に中和した(即ち、カルボン酸塩とした)ものであっても良い。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。アクリル酸系ポリマーとしては、カルボキシル基を1分子中により多く含むポリアクリル酸が好ましく用いられる。
【0169】
多価アルコールの具体例としては、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、水酸基を1分子中により多く含むポリビニルアルコールが好ましく用いられる。
【0170】
化合物(E)は、その質量平均分子量を1分子中の前記官能基の数(カルボキシル基、水酸基およびエポキシ基の総数)で除した値が40〜150であることが好ましい。かかる範囲とすることで、化合物(E)は、炭素繊維(D)の表面官能基や前記成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)のカルボジイミド基との反応点の密度をより均一とすることができ、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性をより高めることができる。
【0171】
化合物(E)は、前記成分(C‐1)、(C‐2)または(C‐3)と炭素繊維(D)との界面に存在することが好ましい。この為、化合物(E)は、炭素繊維(D)の単糸の表面に塗布して用いられる。化合物(E)を炭素繊維(D)に予め付与することで、少量の付着量であっても炭素繊維(D)の表面を効果的に改質することができる。
【0172】
化合物(E)の含有率は、炭素繊維(D)100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、0.1〜2質量部であることがより好ましい。化合物(E)の含有率が0.01質量部未満では、化合物(E)が炭素繊維(D)の表面を十分に被膜できない場合があり、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性の向上効果が現れにくくなる。また、化合物(E)の含有率が5質量部を越えると、化合物(E)が炭素繊維(D)の表面上に形成する被膜の厚みが増加しすぎるため、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性を低下させる場合がある。化合物(E)が炭素繊維(D)の表面上に形成する被膜の厚みの好ましい範囲としては、10〜150nmが例示できる。
【0173】
本発明において、化合物(E)を炭素繊維(D)に付与する手段としては、例えばローラーを介して炭素繊維(D)からなる基材を化合物(E)に浸漬させる方法、化合物(E)を霧状にして炭素繊維(D)からなる基材に吹き付ける方法などが挙げられる。この際、炭素繊維(D)の単糸に対する化合物(E)の付着量がより均一となるように、化合物(E)を溶媒で希釈したり、付与する際の温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。化合物(E)を希釈する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトンなどが挙げられるが、取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。かかる溶媒は、化合物(E)を炭素繊維(D)からなる基材に付与した後は加熱により蒸発させて除去される。また、水に不溶、もしくは難溶の化合物を化合物(E)として用いる場合には、乳化剤または界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。乳化剤または界面活性剤としては、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤などを用いることができる。これらの中でも相互作用の小さいノニオン系乳化剤を用いることが化合物(E)の効果を阻害しにくく好ましい。
【0174】
<その他の添加剤>
本発明では、本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドに含有しても良い。添加剤の例としては、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、あるいは制泡剤が挙げられる。
【0175】
<炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを用いた製品>
本発明で得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは、電子機器筐体として好適であり、コンピューター、テレビ、カメラ、オーディオプレイヤーなどに好適に使用される。
【0176】
本発明で得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは、電気電子部品用途に好適であり、コネクター、LEDランプ、ソケット、光ピックアップ、端子板、プリント基板、スピーカー、小型モーター、磁気ヘッド、パワーモジュール、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーターなどに好適に使用される。
【0177】
本発明で得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは、自動車用部品や車両関連部品などに好適であり、安全ベルト部品、インストルメントパネル、コンソールボックス、ピラー、ルーフレール、フェンダー、バンパー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、ガーニッシュ、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、ウィンドウォッシャーノズル、ワイパー、バッテリー周辺部品、ワイヤーハーネスコネクター、ランプハウジング、ランプリフレクター、ランプソケットなどに好適に使用される。
【0178】
本発明で得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは、建材として好適であり、土木建築物の壁、屋根、天井材関連部品、窓材関連部品、断熱材関連部品、床材関連部品、免震制振部材関連部品、ライフライン関連部品などに好適に使用される。
【0179】
本発明で得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは、スポーツ用品として好適であり、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフボールなどのゴルフ関連用品、テニスラケットやバトミントンラケットなどのスポーツラケット関連用品、アメリカンフットボールや野球、ソフトボールなどのマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当てなどのスポーツ用身体保護用品、釣り竿、リール、ルアーなどの釣り具関連用品、スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツ関連用品などに好適に使用される。
【実施例】
【0180】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0181】
まず、本発明に使用した評価方法を下記する。
【0182】
(1)ブリード試験
得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、試験片(200mm×200mm、厚み1mm)の形状に加工した。この試験片を300℃に予熱した2枚のステンレス板(300mm×300mm、厚み10mm、鏡面加工)の間に挟み、プレス成形機に投入し、プレス成形を行った。プレス成形温度は300℃、プレス成形圧は0.5MPa、プレス成形時間は3分とした。次に試験片を2枚のステンレス板で挟んだ状態のままプレス成形機から取り出し、室温まで冷却後試験片とステンレス板を分離した。以上の操作を1ショットとし、ステンレス板のみ再利用して、複数ショット成形を行い、成形加工サイクル時のブリード性を評価した。評価は10ショット目と30ショット目で行い、ステンレス板の表面の曇りの有無を判断基準とし、以下の3段階で評価し、excellentまたはgoodを合格とした。
excellent:30ショット目でもステンレス板の表面に曇りは無かった。
good:10ショット目時点ではステンレス板の表面に曇りが無く、30ショット目時点でステンレス板の表面に曇りが見られた。
bad:10ショット目時点でステンレス板の表面に曇りが見られた。
【0183】
(2)炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの引張試験
ASTM D638に準拠し、Type‐I試験片を用い、試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機(インストロン社製)を用いた。引張伸度とは、ひずみゲージを用いて測定した破断点ひずみのことを指す。
【0184】
(3)ポリカルボジイミド反応物(B‐2)の耐熱温度
試験機として熱重量分析装置(パーキンエルマー社製TGA7)を用いた。なお、試料は2mm以下の粒状物を用いた。試料10mgを用いて、空気雰囲気下で30℃から400℃まで昇温速度20℃/分で加熱し、試料の質量変化を測定した。この操作において、試料の質量が30℃時点から5質量%減少した際の温度を耐熱温度とした。
【0185】
(4)金型汚染性評価
工程(V)において、射出成形した際の成形金型の表面を観察することにより、成形加工サイクル時の金型汚染性を評価した。工程(III‐1)、(III‐2)または(III‐3)で得られた複合体または工程(IV)を経た複合体を、射出成形機のシリンダー内で溶融状態とし、次いでこの溶融状態の複合体を成形金型内に射出し、冷却、固化することで所定の形状の射出成形品として取り出すまでの操作を1ショットとし、成形金型を再利用して、複数ショット成形を行い、成形加工サイクル時の金型汚染性を評価した。評価は10ショット目と30ショット目で行い、成形金型の表面の曇りの有無を判断基準とし、以下の3段階で評価し、excellentまたはgoodを合格とした。
excellent:30ショット目でも成形金型の表面に曇りは無かった。
good:10ショット目時点では成形金型の表面に曇りが無く、30ショット目時点で成形金型の表面に曇りが見られた。
bad:10ショット目時点で成形金型の表面に曇りが見られた。
【0186】
実施例および比較例に用いたPAS(A)は、以下の通りである。
(PPS‐1)融点285℃、ガラス転移温度90℃、質量平均分子量30,000、酸末端品、クロロホルム抽出量0.5質量%のポリフェニレンスルフィド
【0187】
参考例、実施例および比較例に用いたポリカルボジイミド(B)は、以下の通りである。
(CDI‐1)脂肪族ポリカルボジイミド「“カルボジライト(登録商標)”HMV‐8CA(日清紡ケミカル社製)」(カルボジイミド基当量278、質量平均分子量3,000、軟化点70℃)
【0188】
比較例に用いたモノカルボジイミド(B’)は、以下の通りである。
(CDI‐2)N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(和光純薬工業社製)(カルボジイミド基当量206、質量平均分子量206)
【0189】
参考例、実施例および比較例に用いた炭素繊維(D)は、以下の通りである。
(CF‐1)ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体を用いて、紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行うことによって、総単糸数12,000本の連続した炭素繊維ストランドを得た。この炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:4,900MPa
引張弾性率:240GPa
引張伸度:2%
比重:1.8
単糸直径:7μm
表面酸素濃度比[O/C]:0.12
【0190】
参考例、実施例および比較例に用いた化合物(E)は、以下の通りである。
(E‐1)グリセロールトリグリシジルエーテル(和光純薬工業社製)
質量平均分子量:260
1分子当たりのエポキシ基数:3
質量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、水酸基の総数で除した値:87
(E‐2)ポリアクリル酸(SIGMA‐ALDRICH社製)
質量平均分子量:2,000
1分子当たりのカルボキシル基数:27
質量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、水酸基の総数で除した値:74
(E‐3)ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製)
質量平均分子量:22,000
1分子当たりの水酸基数:500
質量平均分子量を1分子当たりのカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、水酸基の総数で除した値:44
【0191】
(参考例1)
CF‐1をカートリッジカッターで長さ6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液にチョップド炭素繊維を添加し、攪拌することで炭素繊維濃度0.05質量%の炭素繊維分散液を得た。この炭素繊維分散液を底部に直径500mmのメッシュ構造を有する円筒形状容器に移し、吸引ろ過を行い、次に残渣を200℃の乾燥炉で30分加熱乾燥させることにより、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐1)を得た。得られたCFM‐1の目付けは50g/mであった。
【0192】
(参考例2)
成分(E)としてE‐1を用い、成分(E)を2質量%含む水系の分散母液に、参考例1で作製したCFM‐1を浸漬させ、次いで230℃で乾燥することで、成分(E)で表面処理をした炭素繊維(D)からなる基材(CFM‐2)を得た。乾燥後の成分(E)の付着量は、炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部であった。
【0193】
(参考例3)
成分(E)としてE‐2を用い、成分(E)を2質量%含む水系の分散母液に、参考例1で作製したCFM‐1を浸漬させ、次いで230℃で乾燥することで、成分(E)で表面処理をした炭素繊維(D)からなる基材(CFM‐3)を得た。乾燥後の成分(E)の付着量は、炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部であった。
【0194】
(参考例4)
成分(E)としてE‐3を用い、成分(E)を2質量%含む水系の分散母液に、参考例1で作製したCFM‐1を浸漬させ、次いで230℃で乾燥することで、成分(E)で表面処理をした炭素繊維(D)からなる基材(CFM‐4)を得た。乾燥後の成分(E)の付着量は、炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部であった。
【0195】
(実施例1)
表1に示す成分、条件を用いて、以下の手順による本発明の一実施形態に係る第1の製造方法で炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造し、評価を行った。
工程(I‐1):PAS(A)とポリカルボジイミド(B)をドライブレンドさせた混合物を得て、これをラボプラストミル装置(東洋精機製作所 4C150型、R‐60型ミキサー)に投入し、溶融混練することで溶融混練物を得た。
工程(II‐1):得られた溶融混練物を溶融状態のままプレス成形機に移し、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)からなるフィルムを得た。
工程(III‐1):得られたフィルムを不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)と交互に積層し、プレス成形機に投入することで炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造した。
【0196】
得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドから試験片を切り出し、各試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0197】
(比較例1)
工程(I‐1)における、溶融混練時間を3,600秒に代え、工程(II‐1)におけるプレス温度を50℃に代え、さらにプレス時間を300秒に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製しようとしたところ、工程(III‐1)におけるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)と炭素繊維(D)との複合化が困難であり、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを得ることができなかった。評価結果を表1に記載した。
【0198】
(実施例2)
工程(II‐1)におけるプレス時間を1,800秒に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0199】
(実施例3)
工程(II‐1)におけるプレス時間を900秒に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0200】
(実施例4)
工程(II‐1)におけるプレス温度を200℃に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0201】
(実施例5)
工程(II‐1)におけるプレス温度を150℃に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0202】
(比較例2)
工程(II‐1)におけるプレス温度を50℃に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0203】
(実施例6)
工程(I‐1)における、溶融混練時間を45秒に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0204】
(実施例7)
ポリカルボジイミド(B)の量を、PAS(A)100質量部に対して1質量部となるように代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0205】
(比較例3)
ポリカルボジイミド(B)を含まない以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0206】
(比較例4)
ポリカルボジイミド(B)の量を、PAS(A)100質量部に対して20質量部となるように代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0207】
(比較例5)
ポリカルボジイミド(B)の代わりに、モノカルボジイミド(B’)であるCDI‐2を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0208】
(実施例8)
成分(E)の付着量を炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部としたまま、炭素繊維(D)の量が、PAS(A)100質量部に対して25質量部となるように不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)の含有量を代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0209】
(実施例9)
成分(E)の付着量を炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部としたまま、炭素繊維(D)の量が、PAS(A)100質量部に対して100質量部となるように不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)の含有量を代えた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0210】
(実施例10)
成分(E)をE‐2とするために、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐3)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0211】
(実施例11)
成分(E)をE‐3とするために、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐4)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0212】
(実施例12)
成分(E)を含まないように、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐1)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0213】
(実施例13)
工程(I‐1)において、ラボプラストミル装置のミキサー部分を、真空ゲージと真空ポンプを備えた真空容器で覆い、溶融混練中の真空容器内の減圧度が−0.1MPaとなるように調節した以外は、実施例3と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0214】
(実施例14)
工程(III‐1)で得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、工程(IV)として再度プレス成形機に投入し、プレス温度250℃、プレス圧力0.5MPa、プレス時間3600秒の条件で加熱を行った以外は、実施例3と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表1に記載した。
【0215】
【表1】
【0216】
表1の実施例および比較例より以下のことが明らかである。
【0217】
実施例1は、工程(I‐1)〜(III‐1)の全ての要件を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0218】
比較例1は、工程(I‐1)において溶融混練時間を長時間としている為、工程(II‐1)における加熱を低温かつ短時間としても、工程(III‐1)におけるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐1)と炭素繊維(D)との複合化が困難であった。
【0219】
実施例1〜3の比較により、工程(II‐1)におけるPAS(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱する時間が長いほど、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0220】
実施例1、4、5と比較例2の比較から、工程(II‐1)においてPAS(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することにより、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0221】
実施例1と実施例6の比較から、工程(I‐1)においてt1<t2とした方が得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0222】
実施例1、7と比較例3,4の比較から、ポリカルボジイミド(B)の量をPAS(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部とすることで、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0223】
実施例1と比較例5の比較から、カルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)を用いることで、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0224】
実施例1、8,9から、炭素繊維(D)の量を変えても力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0225】
実施例1、10,11と実施例12の比較から、成分(E)を用いることにより、より力学特性に優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0226】
実施例13と実施例3の比較から、工程(I‐1)の溶融混練を減圧条件下で行うことにより、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0227】
実施例14と実施例3の比較から、工程(IV)として、工程(III‐1)で得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、PAS(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することにより、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0228】
(参考例5)
工程(I‐2)として、表2に記載の加熱温度と加熱時間で、熱風オーブン内でポリカルボジイミド(B)を加熱することにより、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐3を得た。得られたCDI‐3の耐熱温度を熱重量分析装置により測定し、評価結果を表2に記載した。
【0229】
(参考例6)
加熱温度を200℃とし、加熱時間を2時間に代えた以外は、参考例5と同様の方法で、ポリカルボジイミド(B)を加熱することにより、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐4を得た。得られたCDI‐4の耐熱温度を熱重量分析装置により測定し、評価結果を表2に記載した。
【0230】
(参考例7)
加熱温度を300℃とし、加熱時間を0.5時間に代えた以外は、参考例5と同様の方法で、ポリカルボジイミド(B)を加熱することにより、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐5を得た。得られたCDI‐5の耐熱温度を熱重量分析装置により測定し、評価結果を表2に記載した。
【0231】
(参考例8)
熱風オーブンに代えて真空オーブンと真空ポンプを用い、前記真空オーブン内の減圧度が−0.1MPaのとなるように調節した以外は、参考例5と同様の方法で、ポリカルボジイミド(B)を加熱することにより、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐6を得た。得られたCDI‐6の耐熱温度を熱重量分析装置により測定し、評価結果を表2に記載した。
【0232】
(参考例9)
加熱温度を100℃とし、加熱時間を1時間に代えた以外は、参考例5と同様の方法で、ポリカルボジイミド(B)を加熱することにより、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐7を得た。得られたCDI‐7の耐熱温度を熱重量分析装置により測定し、評価結果を表2に記載した。
【0233】
(参考例10)
表2に記載の通り、ポリカルボジイミド(B)であるCDI‐1に代えて、モノカルボジイミド(B’)であるCDI‐2を用いた以外は、参考例5と同様の方法で、加熱操作を試みたところ、CDI‐2が揮発してしまい、モノカルボジイミドからなる反応物は得られなかった。
【0234】
(参考例11)
ポリカルボジイミド(B)であるCDI‐1の耐熱温度を熱重量分析装置により測定し、評価結果を表2に記載した。
【0235】
【表2】
【0236】
(実施例15)
表3に示す成分、条件を用いて、以下の手順による本発明の一実施形態に係る第2の製造方法で炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造し、評価を行った。
工程(II‐2):PAS(A)とポリカルボジイミド反応物(B‐2)を二軸押出機(JSW社 TEX‐30α、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)=31.5)にメインフィードして溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度300℃で行い、各成分をメインフィードしてから吐出するまでに要した時間(溶融混練時間)は150秒であった。溶融混練物は二軸押出機先端に取り付けたTダイから吐出し、冷却ロールで冷却することで、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐2)からなるフィルムを得た。
工程(III‐2):得られたフィルムを所定のサイズにカットし、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)と交互に積層し、プレス成形機に投入することで炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造した。
【0237】
得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドから試験片を切り出し、各試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0238】
(実施例16)
ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐4を用いた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0239】
(実施例17)
ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐5を用いた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0240】
(実施例18)
ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐6を用いた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0241】
(実施例19)
ポリカルボジイミド反応物(B‐2)としてCDI‐7を用いた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0242】
(実施例20)
工程(III‐2)で得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、工程(IV)として再度プレス成形機に投入し、プレス温度250℃、プレス圧力0.5MPa、プレス時間3600秒の条件で加熱を行った以外は、実施例19と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0243】
(比較例6)
ポリカルボジイミド反応物(B‐2)を含まない以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0244】
(比較例7)
ポリカルボジイミド反応物(B‐2)の代わりに、モノカルボジイミド(B’)であるCDI‐2を用いた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0245】
(実施例21)
成分(E)の付着量を炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部としたまま、炭素繊維(D)の量が、PAS(A)100質量部に対して25質量部となるように不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)の含有量を代えた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0246】
(実施例22)
成分(E)の付着量を炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部としたまま、炭素繊維(D)の量が、PAS(A)100質量部に対して100質量部となるように不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)の含有量を代えた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0247】
(実施例23)
成分(E)を含まないように、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐1)を用いた以外は、実施例15と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表3に記載した。
【0248】
【表3】
【0249】
表2の参考例および、表3の実施例および比較例より以下のことが明らかである。
【0250】
参考例5〜8と参考例11の比較により、ポリカルボジイミド(B)は工程(I‐2)の要件を満たすことにより、耐熱性が向上することがわかる。
【0251】
参考例5〜8と参考例10の比較により、ポリカルボジイミド(B)に代えて、モノカルボジイミド(B’)を用いた場合、耐熱性が不十分であることがわかる。
【0252】
実施例15は、工程(I‐2)〜(III‐2)の全ての要件を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0253】
実施例15〜18の比較により、工程(II‐2)におけるポリカルボジイミド(B)を、該成分の軟化点以上の温度で加熱する際の温度が、かかる条件内で低いほど、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの力学特性が向上できることがわかる。
【0254】
実施例19と実施例20の比較から、工程(IV)として、工程(III‐2)で得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、PAS(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することにより、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0255】
実施例15と比較例6、7の比較から、ポリカルボジイミド反応物(B‐2)を用いることにより、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0256】
実施例15、21、22から、炭素繊維(D)の量を変えても力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0257】
実施例15と実施例23の比較から、成分(E)を用いることにより、より力学特性に優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0258】
(実施例24)
表4に示す成分、条件を用いて、以下の手順による本発明の一実施形態に係る第3の製造方法で炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造し、評価を行った。
工程(I‐3):PAS(A)とポリカルボジイミド(B)をドライブレンドさせた混合物を得た。
工程(II‐3):得られた混合物を、二軸押出機(JSW社 TEX‐30α、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)=31.5)にメインフィードして溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度350℃で行い、各成分をメインフィードしてから吐出するまでに要した時間(溶融混練時間)は300秒であった。溶融混練物は二軸押出機先端に取り付けたTダイから吐出し、冷却ロールで冷却することで、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)からなるフィルムを得た。
工程(III‐3):得られたフィルムを所定のサイズにカットし、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)と交互に積層し、プレス成形機に投入することで炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造した。
【0259】
得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドから試験片を切り出し、各試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0260】
(実施例25)
工程(II‐3)における二軸押出機のシリンダー温度を330℃に代えた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0261】
(実施例26)
工程(III‐3)で得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、工程(IV)として再度プレス成形機に投入し、プレス温度250℃、プレス圧力0.5MPa、プレス時間3600秒の条件で加熱を行った以外は、実施例25と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0262】
(比較例8)
工程(II‐3)における二軸押出機のシリンダー温度を300℃に代えて、さらに工程(III‐3)におけるプレス温度を350℃に代えた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0263】
(比較例9)
工程(III‐3)におけるプレス温度を420℃に代えた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製しようとしたところ、工程(III‐3)におけるポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)と炭素繊維(D)との複合化が困難であり、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを得ることができなかった。評価結果を表4に記載した。
【0264】
(比較例10)
ポリカルボジイミド(B)を含まない以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0265】
(比較例11)
ポリカルボジイミド(B)の量を、PAS(A)100質量部に対して20質量部となるように代えた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0266】
(比較例12)
ポリカルボジイミド(B)の代わりに、モノカルボジイミド(B’)であるCDI‐2を用いた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0267】
(実施例27)
成分(E)の付着量を炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部としたまま、炭素繊維(D)の量が、PAS(A)100質量部に対して25質量部となるように不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)の含有量を代えた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0268】
(実施例28)
成分(E)の付着量を炭素繊維(D)100質量部に対して1質量部としたまま、炭素繊維(D)の量が、PAS(A)100質量部に対して100質量部となるように不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐2)の含有量を代えた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0269】
(実施例29)
成分(E)を含まないように、不織布形状の炭素繊維基材(CFM‐1)を用いた以外は、実施例24と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4に記載した。
【0270】
【表4】
【0271】
表4の実施例および比較例より以下のことが明らかである。
【0272】
実施例24、25は、工程(I‐3)〜(III‐3)の全ての要件を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0273】
実施例25と実施例26の比較から、工程(IV)として、工程(III‐3)で得られた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを、PAS(A)のガラス転移温度以上かつ融点以下の温度で加熱することにより、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0274】
実施例24、25と比較例8の比較により、比較例8は、工程(III‐3)の要件を満たさない為、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが成形サイクル性に劣ることがわかる。
【0275】
比較例9は、工程(III‐3)を400℃以上の高温で行ったため、ポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィド(C‐3)と炭素繊維(D)との複合化が困難であった。
【0276】
実施例24と比較例10,11の比較から、ポリカルボジイミド(B)の量をPAS(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部とすることで、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0277】
実施例24と比較例12の比較から、カルボジイミド基を1分子中に少なくとも2個以上有するポリカルボジイミド(B)を用いることで、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0278】
実施例24、27,28から、炭素繊維(D)の量を変えても力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0279】
実施例24と実施例29の比較から、成分(E)を用いることにより、より力学特性に優れた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドが得られることがわかる。
【0280】
(実施例30)
表5に示す成分、条件を用いて、以下の手順による本発明の一実施形態に係る第1の製造方法で炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造し、評価を行った。
【0281】
工程(V)として、実施例1の工程(III‐1)で得られた複合体を切断し、平均粒径5mmのペレットとし、射出成形機(JSW社 J150EII‐P)を使用し、前記ペレットを射出成形に用いることで試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度300℃、金型温度150℃で行い、射出成形の際の最大圧力を射出成形圧とした。評価結果を表5に記載した。
【0282】
(実施例31)
実施例3の工程(III‐1)で得られた複合体を用いた以外は、実施例30と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表5に記載した。
【0283】
(実施例32)
工程(V)における射出成形のシリンダー温度を290℃に代えた以外は、実施例31と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表5に記載した。
【0284】
(実施例33)
工程(V)における射出成形のシリンダー温度を350℃に代えた以外は、実施例31と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表5に記載した。
【0285】
(実施例34)
実施例14の工程(IV)で得られた複合体を用いた以外は、実施例30と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表5に記載した。
【0286】
【表5】
【0287】
実施例30は、工程(I‐1)〜(III‐1)および工程(V)を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0288】
実施例34は、工程(I‐1)〜(III‐1)、工程(IV)および工程(V)を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0289】
実施例31、32、33の比較から、工程(V)において、射出成形する際の成形加工温度を、工程(III‐1)において複合体を得る際の温度よりも低温で行うことで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0290】
(実施例35)
表6に示す成分、条件を用いて、以下の手順による本発明の一実施形態に係る第2の製造方法で炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造し、評価を行った。
【0291】
工程(V)として、実施例15の工程(III‐2)で得られた複合体を切断し、平均粒径5mmのペレットとした。射出成形機(JSW社 J150EII‐P)を使用し、前記ペレットを射出成形に用いることで試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度300℃、金型温度150℃で行い、射出成形の際の最大圧力を射出成形圧とした。評価結果を表6に記載した。
【0292】
(実施例36)
実施例19の工程(III‐2)で得られた複合体を用いた以外は、実施例35と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表6に記載した。
【0293】
(実施例37)
工程(V)における射出成形のシリンダー温度を290℃に代えた以外は、実施例36と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表6に記載した。
【0294】
(実施例38)
工程(V)における射出成形のシリンダー温度を350℃に代えた以外は、実施例36と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表6に記載した。
【0295】
(実施例39)
実施例20の工程(IV)で得られた複合体を用いた以外は、実施例35と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表6に記載した。
【0296】
【表6】
【0297】
実施例35は、工程(I‐2)〜(III‐2)および工程(V)を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0298】
実施例39は、工程(I‐2)〜(III‐2)、工程(IV)および工程(V)を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0299】
実施例36、37、38の比較から、工程(V)において、射出成形する際の成形加工温度を、工程(III‐2)において複合体を得る際の温度よりも低温で行うことで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【0300】
(実施例40)
表7に示す成分、条件を用いて、以下の手順による本発明の一実施形態に係る第3の製造方法で炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを製造し、評価を行った。
【0301】
工程(V)として、実施例24の工程(III‐3)で得られた複合体を切断し、平均粒径5mmのペレットとした。射出成形機(JSW社 J150EII‐P)を使用し、前記ペレットを射出成形に用いることで試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度300℃、金型温度150℃で行い、射出成形の際の最大圧力を射出成形圧とした。評価結果を表7に記載した。
【0302】
(実施例41)
実施例25の工程(III‐3)で得られた複合体を用いた以外は、実施例40と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表7に記載した。
【0303】
(実施例42)
工程(V)における射出成形のシリンダー温度を290℃に代えた以外は、実施例41と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表7に記載した。
【0304】
(実施例43)
工程(V)における射出成形のシリンダー温度を350℃に代えた以外は、実施例41と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表7に記載した。
【0305】
(実施例44)
実施例26の工程(IV)で得られた複合体を用いた以外は、実施例40と同様の方法で、試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表7に記載した。
【0306】
【表7】
【0307】
実施例40は、工程(I‐3)〜(III‐3)および工程(V)を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0308】
実施例44は、工程(I‐3)〜(III‐3)および工程(IV)と工程(V)を満たす為、力学特性および成形サイクル性を兼ね備え、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性にも優れる。
【0309】
実施例41、42、43の比較から、工程(V)において、射出成形する際の成形加工温度を、工程(III‐3)において複合体を得る際の温度よりも低温で行うことで、得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドのブリード成分が減少し、成形サイクル性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0310】
本発明によれば、炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドの生産性と力学特性および成形サイクル性の両立が可能である。このため、本発明で得られる炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドは、電子機器筐体、電気電子部品用途、自動車用部品や車両関連部品、建材、スポーツ用品などに好適に使用することができる。
【要約】
ポリアリーレンスルフィドとポリカルボジイミドを原料として用いてポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィドを得た後に、得られたポリカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィドを溶融させ、炭素繊維と特定割合で複合化させて複合体とすることにより、力学特性および成形サイクル性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアリーレンスルフィドを生産性良く製造することができる。