【実施例1】
【0015】
本発明の一実施形態に係る高周波誘電加熱装置100は、
図1に示すように、導電性の板状部材からなる下部電極110と変形可能電極120が対向配置されて、両電極間に被加熱物Mが配置されるように構成されている。
変形可能電極120は、内部の変形可能な断熱性材121と、該断熱性材121の外表面に形成された導電性膜124とを有しており、その変形により被加熱物Mの表面の凹凸に倣わせることによって、導電性膜124と被加熱物Mの表面とのエアギャップを排除することが可能に構成されている。
変形可能電極120と下部電極110とが高周波電源150に接続されて、被加熱物Mが高周波誘電加熱される。
【0016】
導電性膜124を被加熱物Mの表面に接触させてエアギャップを排除することで、高周波誘電加熱の効率を上げ、出力を大きくしても被加熱物Mの表面凹凸に起因する局所的な集中加熱を抑制することができ、均一に急速加熱することができる。
また、被加熱物Mは高周波誘電加熱による全体の温度上昇以外に、良伝熱性の電極の接触によって熱伝導による表面の温度変化が発生するが、変形可能電極120の内部に断熱性材121が存在し、導電性膜124が非常に薄い膜で形成されているため熱伝導が非常に少なくなり、内部と表面の温度差の少ない加熱が可能となる。
特に、冷凍食品を解凍する場合、内部と表面での解凍速度の差が少なくなるため、表面を必要以上に高温にすることなく、急速に解凍することが可能となる。
【実施例2】
【0017】
本発明の他の実施形態に係る高周波誘電加熱装置200は、
図2に示すように、導電性の板状部材からなる下部電極210と変形可能電極220が対向配置されて、両電極間に被加熱物Mが配置され、変形可能電極220の被加熱物Mに当接する面の反対側には、伝熱手段230が配置されている。
変形可能電極220は、内部に流体(エアー)222を収容可能な袋部材223と、該袋部材223の外表面に形成された導電性膜224とを有しており、流体222を収容した袋部材223が断熱性材221として作用する。
なお、袋部材223が導電性を有する薄い材料で形成されて導電性膜224を兼ねていても良い。
袋部材223には流出入口225が設けられ、該流出入口225から流体222を出し入れすることで変形可能電極220の厚みを変化させるように構成されている。
流体222は断熱性の高いものであれば良く、空気であっても充分な断熱性を得ることができる。
【0018】
伝熱手段230は、複数の良伝熱性のピン部材231が被加熱物M方向に出没可能にピン保持体232に配列保持されて構成されている。
また、伝熱手段230の上部には、ピン保持体232の上部でピン部材231を覆うジャケット241と、ジャケット内を加熱あるいは冷却する加熱・冷却部242とを有する温度調整手段240が配置され、該温度調整手段240によってピン部材231を加熱あるいは冷却可能に構成されている。
変形可能電極220は、複数の良伝熱性のピン部材231に押圧されることにより、被加熱物Mの表面の凹凸に倣うように変形し、導電性膜224と被加熱物Mの表面とのエアギャップを排除することが可能に構成されている。
【0019】
なお、
図2では簡略化のため複数の良伝熱性のピン部材231を1列のみ図示しているが、実際は平面状に多列に配置され、その間隔も図示のものよりさらに密であっても良い。
また、ピン部材231の形状も図示のような単純な柱上であってもよく、段付きや太さが異なるものであっても良い。
さらに、複数の良伝熱性のピン部材231による下方への押圧力は、その自重のみに依存しても良く、バネ等の弾性部材や流体圧等により積極的に押圧力を加える機構を採用しても良い。
【0020】
複数の良伝熱性のピン部材231およびピン保持体232は、金属等の導電性材料で形成され、変形可能電極220の袋部材223の外表面に形成された導電性膜224は、被加熱物Mに当接する面とその反対面に連続して形成されている。
そして、ピン保持体232と下部電極210とが高周波電源250に接続されることで、ピン保持体232、ピン部材231を介して変形可能電極220に通電され、被加熱物Mが高周波誘電加熱される。
【0021】
このように構成された高周波誘電加熱装置200は、
図2のように、変形可能電極220の袋部材223の内部に流体222を収容した状態で使用することで、
図1に示した実施態様と同様に、導電性膜224を被加熱物Mの表面に接触させてエアギャップを排除し、高周波誘電加熱の効率を上げ、出力を大きくしても被加熱物Mの表面凹凸に起因する局所的な集中加熱を抑制することができ、均一に急速加熱することができる。
また、変形可能電極220の内部に断熱性材221である流体222が存在し、導電性膜224が非常に薄い膜で形成されているため、被加熱物Mの表面から複数の良伝熱性のピン部材231への熱伝導は非常に少なく、内部と表面の温度差の少ない加熱が可能となる。
【0022】
さらに、このように構成された高周波誘電加熱装置200は、変形可能電極220の袋部材223の内部から流体222を排出することで、
図3に示すように、導電成膜の内面同士を接触させることで変形可能電極220をほぼ導電性膜224だけの厚みとして使用することが可能となる。
この状態では、被加熱物Mの表面とピン部材231の間には良伝熱性でもある導電性膜224のみが存在するため、被加熱物Mの表面からピン部材231への熱伝導は、従来のピン電極のみからなるものと同様に非常に良好となり、ピン部材231もピン保持体232も良伝熱性でもあるため、被加熱物Mの表面の異なる場所での温度差がピン部材231およびピン保持体232を介して緩和される。
【0023】
例えば、被加熱物Mが冷凍された食品であり、解凍後氷温付近で冷蔵する場合、高周波誘電加熱装置200を
図2の状態として高周波誘電加熱すると、内部と表面の温度差の少ない状態で温度が上昇する。
この時、内部と表面の温度差は従来よりも格段に小さい状態であるが、変形可能電極220が接触している表面は内部よりわずかに温度が高く、また、変形可能電極220が接触している表面の異なる場所でもわずかに温度差が生じるため、加熱の最終段階で、変形可能電極220が接触している表面の一部で局所的に解凍完了する部分が生じる。
【0024】
解凍された部分は、凍結している部分よりも高周波誘電加熱の効率が良いため、
図2の状態で高周波誘電加熱を継続すると、この温度差がさらに増大して局所的に常温近くまで上昇し、食品である被加熱物Mの品質や風味に悪影響を及ぼす虞がある。
しかしながら、加熱の最終段階で、変形可能電極220の袋部材223の内部から流体222を排出して
図3に示す状態とすることで、被加熱物Mの表面の異なる場所での温度差がピン部材231およびピン保持体232を介した熱伝導により緩和されて局所的な温度上昇が抑制され、食品である被加熱物Mの品質や風味を劣化させることなく、その後の冷蔵を行うことが可能となる。
【0025】
また、温度調整手段240によってピン部材231の温度を調整し、変形可能電極220の袋部材223の内部から流体222を排出して
図3に示す状態とすることで、高周波誘電加熱装置200の設置された環境の雰囲気温度全体を変化させることなく、最終的な表面温度の調整を行うことが可能となる。
さらに、
図2に示す状態で内部と表面の温度差の少ない加熱を行い、加熱の最終段階で、温度調整手段240によってピン部材231の温度を調整し、被加熱物Mの表面の温度を積極的に内部と異なる温度にコントロールすることも可能である。
【0026】
例えば、上記のように被加熱物Mが冷凍された食品であり、解凍後氷温付近で冷蔵する場合、ピン部材231を温度調整手段240によって冷却することで、加熱の最終段階での局所的な温度上昇がさらに抑制される。
また、被加熱物Mが食品であり、高周波誘電加熱装置200を加熱調理に用いる場合、加熱の最終段階で、ピン部材231を温度調整手段240によって高温に加熱して
図3に示す状態とすることで、高周波誘電加熱のみでは得られない表面の焼き目や焦げ目を付与することが可能となる。
【0027】
以上、本発明の高周波誘電加熱装置の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限るものでなく、その技術的思想の範囲内で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記各実施形態では、下部電極110、210を導電性の板状部材からなるものとしたが、被加熱物Mの下部側の表面にも凹凸が多く発生するような場合、対向配置する両電極ともに変形可能電極120、220としても良い。
【0028】
図4に、本発明の第2実施形態の高周波誘電加熱装置200および従来のピン電極による高周波誘電加熱装置において、解凍のための加熱を以下の条件で行った際の温度履歴を示す。
被加熱物:冷凍豚ヒレ肉ブロック
高周波出力:90VA
周波数:10MHz
ピン温度:10℃
解凍完了中心温度:−2℃
【0029】
図4に示すように、本発明の第2実施形態の高周波誘電加熱装置および従来のピン電極による高周波誘電加熱装置のいずれの場合でも、中心温度の上昇曲線はほぼ同じであり、中心温度−2℃の解凍完了までに要する時間はどちらも39分であったが、表面温度の変化曲線が大きく異なるものとなった。なお、表面温度は複数箇所の測定値の平均値である。
【0030】
従来のピン電極による高周波誘電加熱装置の場合は、ピン電極から伝達される熱によって被加熱物の表面に接触した時点から急激に表面温度が上昇し、20分を超えた時点で0℃を超え、その後、解凍部分の加熱効率が高いことから、中心温度の上昇よりも速い速度で温度が上昇し、解凍完了時に表面温度は6℃まで上昇した。
これに対し、本発明の第2実施形態の高周波誘電加熱装置の場合は、変形可能電極による断熱効果により、20分を超えた時点で表面温度と中心温度との差がほぼなくなり、解凍完了時に表面温度が0℃を超えることはない。
【0031】
さらに、本実験例では、表面温度が−2℃に達する30分を超えた時点で変形可能電極を薄く(
図3に示す状態)することで、表面全体の平均温度と中心温度の差が拡大することなく、表面に局所的に生じる温度上昇を防止して解凍が完了する。
このことで、被加熱物を解凍後に氷温付近で冷蔵する場合にも、表面温度を冷蔵温度以上に上昇させることなく、短時間に解凍することが可能となる。