(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伝熱手段があらかじめ冷却され、前記被加熱物の表面温度が所定の温度以上になった際に、前記変形可能電極を薄くし伝熱手段にて表面温度の上昇を抑制することを特徴とする請求項1に記載の高周波誘電加熱方法。
前記伝熱手段があらかじめ加熱され、所定のタイミングで前記変形可能電極を薄くし伝熱手段にて被加熱物の表面をさらに加熱することを特徴とする請求項1に記載の高周波誘電加熱方法。
【背景技術】
【0002】
従来、対向する電極の間に被加熱物を配置して加熱する高周波誘電加熱による冷凍食品の解凍は、高周波誘電加熱の電極構造上、加熱される冷凍食品表面の凹凸によってエアギャップが生じ一部分に電界が集中して解凍ムラが生じることがあり、食品表面への部分的な電界集中を抑制して均一かつ急速に解凍することが技術的に求められている。
その解決策として、解凍中の解凍状態検知手段の検知出力を基に、部分加熱可能なスポット電極を上下左右に移動させながら全体加熱を行うもの(特許文献1等参照)や、被加熱物の被挟持面の形状より小さい板面形状の電極を局所的に用いることにより部分加熱を行った後、段階的に電極面積を大きくして全体加熱を行うもの(特許文献2等参照)が公知である。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたものは、部分解凍を行うスポット電極を冷凍食品の解凍度合を検出しながら上下左右に移動させることによって、局所的に集中加熱されることを防止できるが、部分的に解凍を行っていくので、解凍に長時間を要し、急速解凍が困難であり、部分的に長時間加熱するとドリップが生じ易いという問題がある。
特許文献2に記載されたものでも、同様に部分加熱から全体加熱に段階的に広げていくので、急速加熱が特徴である高周波誘電加熱の特性が発揮されず、急速解凍ができないという問題がある。
【0004】
このような問題を軽減するために、出願人は、電極を導電性ピンから成る複数のピン電極の集合体とし、ピン電極をそれぞれ独立に変位可能として加熱される冷凍食品表面に接触させ凹凸に倣わせることによって、エアギャップを排除し、局所的な集中加熱を抑制して均一に、かつ、短時間に解凍可能としたものを提案した(特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3に記載されたものは、全体として加熱が均一化されるため、出力を上げることにより短時間で解凍を行うことが可能であるが、内部と表面の温度上昇特性の差に起因した解凍後の温度差の発生を排除することは困難であった。
この温度上昇特性の差は、表面に接触する導電性ピンが良伝熱性であり外部から熱が伝わることによる温度上昇に起因し、解凍された部分は凍結部分よりも高周波誘電加熱の効率が良いため、さらに内部が解凍されるまで温度差が拡大することとなる。
このような温度差は、例えば食品の解凍において、解凍後に速やかに加熱調理するような場合であれば、あまり問題とはならないものであるが、解凍後も氷温近辺で一定期間冷蔵するような場合、温度が冷蔵温度より大きく上昇することとなり、品質の保持の点で問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、エアギャップを排除し、均一に、かつ、短時間に被加熱物を加熱可能とするとともに、被加熱物の内部と表面の温度上昇の差を抑制する高周波誘電加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、対向にする電極の間に被加熱物を配置して加熱する高周波誘電加熱方法であって、両電極を被加熱物に接触させるとともに、少なくとも一方の電極を変形可能電極とし、該変形可能電極に被加熱物の反対側から伝熱手段を接触させ、前記変形可能電極の厚みを変化させることによって、伝熱手段と被加熱物との熱移動量を調整することにより、前記課題を解決するものである。
【0009】
本請求項2に係る発明は、請求項1に係る高周波誘電加熱方法の構成に加え、前記伝熱手段があらかじめ冷却され、前記被加熱物の表面温度が所定の温度以上になった際に、前記変形可能電極を薄くし伝熱手段にて表面温度の上昇を抑制することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項3に係る発明は、請求項1に係る高周波誘電加熱方法の構成に加え、前記伝熱手段があらかじめ加熱され、所定のタイミングで前記変形可能電極を薄くし伝熱手段にて被加熱物の表面をさらに加熱することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る高周波誘電加熱方法の構成に加え、前記変形可能電極が、内部に流体を収容可能な袋状に形成され、該変形可能電極内の流体を出し入れすることにより厚みを変化させることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本請求項1に係る発明の高周波誘電加熱方法によれば、伝熱手段が接触した変形可能電極の厚みを変化させ、伝熱手段と被加熱物との熱移動量を調整することで、被加熱物の表面の異なる部分での温度差を伝熱手段による熱の移動によって均一化しながら、内部と表面の温度上昇特性の差を任意に調整可能であり、最適な加熱を行うことができる。
【0011】
本請求項2に記載の構成によれば、加熱したい温度に対して、初期段階では変形可能電極の厚みを厚くして内部と表面の温度上昇特性の差を減少させることができ、最終段階において変形可能電極の厚みを薄くし、冷却された伝熱手段を被加熱物の表面に接近させることで、被加熱物の表面の異なる部分での温度差を伝熱手段による熱の移動によって均一化でき、伝熱手段にて表面の温度上昇の抑制と内部の加熱を同時に行うことで内部と表面の温度差を抑制することが可能となる。
【0012】
本請求項3に記載の構成によれば、変形可能電極の厚みを薄くし伝熱手段を被加熱物の表面に接近させた際に、被加熱物の表面を加熱された伝熱手段によって熱を加えることにより、高周波誘電加熱のみでは得られない表面の殺菌、煮え、焼き目や焦げ目を付与することが可能となる。
本請求項4に記載の構成によれば、変形可能電極の厚みを内部の流体を排出することで極めて薄くすることが可能となり、伝熱手段と被加熱物の表面との熱伝導がより良好となる。
また、内部に断熱性の高い流体を充填することで容易に高い断熱性を得ることができ、熱移動量の調整幅が大きく、かつ、調整が容易となる。
さらに、変形可能電極の変形も容易となり、被加熱物の表面への変形可能電極の密着度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、対向にする電極の間に被加熱物を配置して加熱する高周波誘電加熱方法であって、両電極を被加熱物に接触させるとともに、少なくとも一方の電極を変形可能電極とし、該変形可能電極に被加熱物の反対側から伝熱手段を接触させ、前記変形可能電極の厚みを変化させることによって、伝熱手段と被加熱物との熱移動量を調整するものであれば、具体的な実施形態はいかなるものであっても良い。
【0015】
図1、
図2に基づいて、本発明の実施形態に係る高周波誘電加熱方法を説明する。
本発明の実施形態に係る高周波誘電加熱方法を実施するための高周波誘電加熱装置100は、
図1に示すように、導電性の板状部材からなる下部電極110と変形可能電極120が対向配置されて、両電極間に被加熱物Mが配置され、変形可能電極120の被加熱物Mに当接する面の反対側には、伝熱手段130が配置されている。
変形可能電極120は、内部に流体122を収容可能な袋部材123と、該袋部材123の外表面に形成された導電性膜124とを有しており、流体122を収容した袋部材123が断熱性材121として作用する。
なお、袋部材123が導電性を有する薄い材料で形成されて導電性膜124を兼ねていても良い。
袋部材123には流出入口125が設けられ、該流出入口125から流体(エアー)122を出し入れすることで変形可能電極120の厚みを変化させるように構成されている。
流体122は断熱性の高いものであれば良く、空気であっても充分な断熱性を得ることができる。
【0016】
伝熱手段130は、複数の良伝熱性のピン部材131が被加熱物M方向に出没可能にピン保持体132に配列保持されて構成されている。
また、伝熱手段130の上部には、ピン保持体132の上部でピン部材131を覆うジャケット141と、ジャケット内を加熱あるいは冷却する加熱・冷却部142とを有する温度調整手段140が配置され、該温度調整手段140によってピン部材131を加熱あるいは冷却可能に構成されている。
変形可能電極120は、複数の良伝熱性のピン部材131に押圧されることにより、被加熱物Mの表面の凹凸に倣うように変形し、導電性膜124と被加熱物Mの表面とのエアギャップを排除することが可能に構成されている。
【0017】
なお、
図1では簡略化のため複数の良伝熱性のピン部材131を1列のみ図示しているが、実際は平面状に多列に配置され、その間隔も図示のものよりさらに密であっても良い。
また、ピン部材131の形状も図示のような単純な柱上であってもよく、段付きや太さが異なるものであっても良い。
さらに、複数の良伝熱性のピン部材131による下方への押圧力は、その自重のみに依存しても良く、バネ等の弾性部材や流体圧等により積極的に押圧力を加える機構を採用しても良い。
【0018】
複数の良伝熱性のピン部材131およびピン保持体132は、金属等の導電性材料で形成され、変形可能電極120の袋部材123の外表面に形成された導電性膜124は、被加熱物Mに当接する面とその反対面に連続して形成されている。
そして、ピン保持体132と下部電極110とが高周波電源150に接続されることで、ピン保持体132、ピン部材131を介して変形可能電極120に通電され、被加熱物Mが高周波誘電加熱される。
【0019】
本発明の実施形態に係る高周波誘電加熱方法は、まず、上記のように構成された高周波誘電加熱装置100の変形可能電極120の袋部材123の内部に流体122を収容した状態(
図1の状態)で被加熱物Mの加熱を開始する。
このことで、導電性膜124を被加熱物Mの表面に接触させてエアギャップを排除し、高周波誘電加熱の効率を上げ、出力を大きくしても被加熱物Mの表面凹凸に起因する局所的な集中加熱を抑制することができ、均一に急速加熱することができる。
また、変形可能電極120の内部に断熱性材121である流体122が存在し、導電性膜124が非常に薄い膜で形成されているため、被加熱物Mの表面から複数の良伝熱性のピン部材131への熱伝導は非常に少なく、内部と表面の温度差の少ない加熱が可能となる。
【0020】
ついで、
図2に示すように、高周波誘電加熱装置100の変形可能電極120の袋部材123の内部から流体122を排出することで、導電性膜の内面同士が接触することで変形可能電極120をほぼ導電性膜124だけの厚みとする。
この状態では、被加熱物Mの表面とピン部材131の間には良伝熱性でもある導電性膜124のみが存在するため、被加熱物Mの表面からピン部材131への熱伝導は、従来のピン電極のみからなるものと同様に非常に良好となり、ピン部材131もピン保持体132も良伝熱性でもあるため、被加熱物Mの表面の異なる場所での温度差がピン部材131およびピン保持体132を介して緩和される。
【0021】
例えば、被加熱物Mが冷凍された食品であり、解凍後氷温付近で冷蔵する場合、高周波誘電加熱装置100を
図1の状態として高周波誘電加熱すると、内部と表面の温度差の少ない状態で温度が上昇する。
この時、内部と表面の温度差は従来よりも格段に小さい状態であるが、変形可能電極120が接触している表面は内部よりわずかに温度が高く、また、変形可能電極120が接触している表面の異なる場所でもわずかに温度差が生じるため、加熱の最終段階で、変形可能電極120が接触している表面の一部で局所的に解凍完了する部分が生じる。
【0022】
解凍された部分は、凍結している部分よりも高周波誘電加熱の効率が良いため、
図1の状態で高周波誘電加熱を継続すると、この温度差がさらに増大して局所的に常温近くまで上昇し、食品である被加熱物Mの品質や風味に悪影響を及ぼす虞がある。
しかしながら、加熱の最終段階で、変形可能電極120の袋部材123の内部から流体122を排出して
図2に示す状態とすることで、被加熱物Mの表面の異なる場所での温度差がピン部材131およびピン保持体132を介した熱伝導により緩和されて局所的な温度上昇が抑制され、食品である被加熱物Mの品質や風味を劣化させることなく、その後の冷蔵を行うことが可能となる。
【0023】
また、温度調整手段140によってピン部材131の温度を調整し、変形可能電極120の袋部材123の内部から流体122を排出して
図2に示す状態とすることで、高周波誘電加熱装置100の設置された環境の雰囲気温度全体を変化させることなく、最終的な表面温度の調整を行うことが可能となる。
さらに、
図1に示す状態で内部と表面の温度差の少ない加熱を行い、加熱の最終段階で、温度調整手段140によってピン部材131の温度を調整し、被加熱物Mの表面の温度を積極的に内部と異なる温度にコントロールすることも可能である。
【0024】
例えば、上記のように被加熱物Mが冷凍された食品であり、解凍後氷温付近で冷蔵する場合、ピン部材131を温度調整手段140によって冷却することで、加熱の最終段階での局所的な温度上昇がさらに抑制される。
また、被加熱物Mが食品であり、高周波誘電加熱装置100を加熱調理に用いる場合、加熱の最終段階で、ピン部材131を温度調整手段140によって高温に加熱して
図2に示す状態とすることで、高周波誘電加熱のみでは得られない表面の焼き目や焦げ目を付与することが可能となる。
【0025】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限るものでなく、その技術的思想の範囲内で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、下部電極110、110を導電性の板状部材からなる高周波誘電加熱装置100を使用したが、被加熱物Mの下部側の表面にも凹凸が多く発生するような場合、対向配置する両電極ともに変形可能電極120を持つものを使用しても良い。
【0026】
図3に、本発明の高周波誘電加熱方法および従来のピン電極による高周波誘電加熱方法において、解凍のための加熱を以下の条件で行った際の温度履歴を示す。
被加熱物:冷凍豚ヒレ肉ブロック
高周波出力:90VA
周波数:10MHz
ピン温度:10℃
解凍完了中心温度:−2℃
【0027】
図3に示すように、本発明の高周波誘電加熱方法および従来のピン電極による高周波誘電加熱方法のいずれの場合でも、中心温度の上昇曲線はほぼ同じであり、中心温度−2℃の解凍完了までに要する時間はどちらも39分であったが、表面温度の変化曲線が大きく異なるものとなった。なお、表面温度は複数箇所の測定値の平均値である。
【0028】
従来のピン電極による高周波誘電加熱方法の場合は、ピン電極から伝達される熱によって被加熱物の表面に接触した時点から急激に表面温度が上昇し、20分を超えた時点で0℃を超え、その後、解凍部分の加熱効率が高いことから、中心温度の上昇よりも速い速度で温度が上昇し、解凍完了時に表面温度は6℃まで上昇した。
これに対し、本発明の高周波誘電加熱方法の場合は、変形可能電極による断熱効果により、20分を超えた時点で表面温度と中心温度との差がほぼなくなり、解凍完了時に表面温度が0℃を超えることはない。
【0029】
さらに、本実験例では、表面温度が−2℃に達する30分を超えた時点で変形可能電極を薄く(
図2に示す状態)することで、表面全体の平均温度と中心温度の差が拡大することなく、表面に局所的に生じる温度上昇を防止して解凍が完了する。
このことで、被加熱物を解凍後に氷温付近で冷蔵する場合にも、表面温度を冷蔵温度以上に上昇させることなく、短時間に解凍することが可能となる。