【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電解液流通型電池は、電池セルと、電解液を貯蔵する電解液タンクと、電解液を電解液タンクから電池セルに送る往路配管と、電解液を電池セルから電解液タンクに戻す復路配管とを有する循環経路と、循環経路に電解液を循環させる循環ポンプと、を備える。そして、電池セルより低い位置に設置され、電池セル内の電解液を回収するための回収空間部と、電池セルと回収空間部とを連通する回収通路と、回収通路を開閉する第1開閉手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、循環ポンプを停止させたとき、第1開閉手段を介して回収通路を開けることで、回収通路を通して電池セル内の電解液を回収空間部に回収することができる。よって、循環ポンプが停止したときに、電池セル内の電解液を抜くことができ、従来の電池に比較して電池セル内に残存する電解液量を低減することができる。一方、循環ポンプを起動し、循環経路に電解液を循環させて電池を運転しているときは、第1開閉手段を介して回収通路を閉じて、電解液が回収空間部に流入しないようにする。したがって、電池セル内に電解液が残存することによる自己放電を抑制することができ、自己放電による放電容量の低下、並びに、自己放電による電解液の発熱によって生じる電池セル10の構成部材の劣化を低減することができる。特に、電池セルと電解液タンクとが略水平に並設されている場合、又は電解液タンクが電池セルよりも高い位置に設置されている場合にその効果を発揮する。なお、回収空間部は、正極用と負極用にそれぞれ設けることが好ましいが、正極用又は負極用のいずれか一方にのみ設ければ、同様の効果が期待できる。
【0016】
ここで、回収空間部は電池セルより低い位置に設置されているので、回収通路を開ければ、そのまま自然に電池セル内の電解液を回収空間部に導くことができる。また、回収空間部は、電池セル内の電解液を回収するためのもの(容器)であり、その大きさ(容積)も電解液タンクに比較して極めて小さくすることが可能である。よって、回収空間部を電池セルの下方に設置することは容易である。回収空間部は、例えば扁平容器状に形成したり、管を蛇行させて形成してもよい。
【0017】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、回収空間部の容積が電池セル内に流通する電解液の液量と同等以上であることが挙げられる。
【0018】
この構成によれば、電池セル内に流通する電解液の液量と同等以上の容積を回収空間部に確保することで、循環ポンプが停止したときに、電池セル内に残存する電解液を完全に抜くことができる。その結果、自己放電をより確実に抑制することができる。ここで、上記した仕様の場合、電池セル1基あたりの電池セルの容積は、正極セル、負極セル共に100〜200リットル程度であり、電池セルの容積と電池セル内に流通する電解液量とは略等しい。よって、回収空間部の容積は、正負極の各セルの容積に合わせて、例えば100〜200リットル程度とすることが挙げられる。回収空間部の容積は、電池セル内に流通する電解液量と同等以上であればよく、電池セル内に流通する電解液量より大きくしてもよい。その場合、回収空間部が過剰に大きくならないように、電池セル内に流通する電解液量の例えば4倍以下にするとよい。
【0019】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、第1開閉手段がバルブであることが挙げられる。
【0020】
この構成によれば、バルブを用いることで、第1開閉手段を容易に実現できる。第1開閉手段に使用するバルブは、回収通路の開閉が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、手動バルブ又は自動バルブのいずれでもよい。
【0021】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、第1開閉手段が自動バルブであり、第1開閉手段を制御する第1開閉手段制御部を有し、第1開閉手段制御部は、循環ポンプが停止するときに、第1開閉手段を介して回収通路を開けることが挙げられる。
【0022】
この構成によれば、第1開閉手段制御部を有することで、循環ポンプ停止時に、回収通路が自動的に開いて、電池セル内の電解液を抜く作業を自動で行うことができる。また、電池セル内の液抜き作業を自動で行うので、手動で行う場合に比較して簡便であり、ヒューマンエラーも防ぐことができる。自動バルブには、例えば電動式やエア式のものを用いることができる。
【0023】
さらに、上記した第1開閉手段制御部を有する形態において、第1開閉手段制御部は、循環ポンプが起動するときに、第1開閉手段を介して回収通路を閉じることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、循環ポンプ起動時に、回収通路が自動的に閉じて、電池の運転中は、循環させる電解液が回収空間部に流入しない。
【0025】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、往路配管を開閉する第2開閉手段を備えることが挙げられる。
【0026】
この構成によれば、循環ポンプを停止させたとき、第2開閉手段を介して往路配管を閉じることで、電解液タンクの電解液が往路配管を通って回収空間部に流入しないようにすることができる。一方、循環ポンプを起動し、電池を運転しているときは、第2開閉手段を介して往路配管を開けて、循環経路に電解液を循環させる。
【0027】
上記した第2開閉手段を備える形態において、第2開閉手段がバルブであることが挙げられる。
【0028】
この構成によれば、バルブを用いることで、第2開閉手段を容易に実現できる。第2開閉手段に使用するバルブは、往路配管の開閉が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、手動バルブ又は自動バルブのいずれでもよい。
【0029】
上記した第2開閉手段を備える形態において、第2開閉手段が自動バルブであり、第2開閉手段を制御する第2開閉手段制御部を有し、第2開閉手段制御部は、循環ポンプが停止するときに、第2開閉手段を介して往路配管を閉じることが挙げられる。
【0030】
この構成によれば、第2開閉手段制御部を有することで、循環ポンプ停止時に、往路配管が自動的に閉じて、往路配管を閉じる作業を自動で行うことができる。また、往路配管の閉鎖作業を自動で行うので、手動で行う場合に比較して簡便であり、ヒューマンエラーも防ぐことができる。自動バルブには、例えば電動式やエア式のものを用いることができる。
【0031】
さらに、上記した第2開閉手段制御部を有する形態において、第2開閉手段制御部は、循環ポンプが起動するときに、第2開閉手段を介して往路配管を開けることが好ましい。
【0032】
この構成によれば、循環ポンプ起動時に、往路配管が自動的に開いて、電池の運転を開始することができる。
【0033】
より好ましくは、第1開閉手段及び第2開閉手段がそれぞれ自動バルブであり、第1開閉手段を制御する第1開閉手段制御部と、第2開閉手段を制御する第2開閉手段制御部とを有する制御手段を備える形態が挙げられる。制御手段は、循環ポンプが停止するときに、第2開閉手段制御部により第2開閉手段を介して往路配管を閉じると共に、第1開閉手段制御部により第1開閉手段を介して回収通路を開ける。また、循環ポンプが起動するときに、第1開閉手段制御部により第1開閉手段を介して回収通路を閉じると共に、第2開閉手段制御部により第2開閉手段を介して往路配管を開ける。
【0034】
この構成は、上記した第1開閉手段制御部及び第2開閉手段制御部を有する形態である。よって、この構成によれば、循環ポンプ停止時に、回収通路が自動的に開くと共に往路配管が自動的に閉じて、電解液タンクの電解液が往路配管を通って回収空間部に流入しないようにしながら、回収通路を通して電池セル内の電解液を回収空間部に自動的に回収することができる。また、循環ポンプ起動時に、回収通路が自動的に閉じると共に往路配管が自動的に開いて、循環させる電解液が回収空間部に流入しないようにしながら、電池の運転を開始することができる。即ち、循環ポンプの状態に応じた回収通路及び往路配管の開閉作業を完全に自動化することができ、電池セル内の液抜き作業や電池の運転開始作業を正確に自動で行うことができる。そのため、これら作業を確実かつ正確に実行することができるので、特に、循環ポンプの停止・起動が繰り返されるような用途に適用した場合に効果が大きい。
【0035】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、往路配管に、電解液タンク内の電解液の液面より高い位置に配設される高位置部が設けられ、電解液タンク内の気相部分と高位置部とを連通し、電解液タンク内の気相を高位置部に移動させるための第1気相配管を備えることが挙げられる。
【0036】
この構成によれば、往路配管に高位置部が設けられることで、循環ポンプを停止させたとき、電解液タンクの電解液が高位置部を越えて電池セル側に流れないようにすることができる。よって、電解液タンクの電解液が往路配管を通って回収空間部に流入しないようにすることができる。この場合、上述したような第2開閉手段(例、バルブ)を省略することが可能である。また、第1気相配管を備えることで、電解液タンク内の気相が高位置部に移動し、往路配管(高位置部)が負圧になることを防ぎ、電解液タンクの電解液がサイフォンの原理で電池セル側に流れるのを防止できる。この第1気相配管には、往路配管の電解液が第1気相配管に逆流しないようにチェッキ弁を設けることが好ましい。その他、チェッキ弁の代わりにバルブを用いて、循環ポンプ停止時に、このバルブを介して第1気相配管を開けるようにしてもよい。なお、往路配管の高位置部は少なくとも一つあればよい。
【0037】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、回収空間部と電解液タンクとを連通し、回収空間部内の電解液を電解液タンクに復帰させるための復帰配管と、復帰配管を介して、回収空間部内の電解液を電解液タンクに送液する送液ポンプと、を備えることが挙げられる。
【0038】
この構成によれば、回収空間部内の電解液を復帰配管を介し送液ポンプを用いて電解液タンクに送液することで、回収空間部に回収された電解液を再使用することができる。なお、回収空間部内の電解液を電解液タンクに戻す作業(電解液タンクへの液戻し作業)は、作業員が手作業で行うこともできるが、循環ポンプの停止・起動が繰り返されるような用途の場合、この構成を適用することで作業を効率的に実行することができる。また、この電解液タンクへの液戻し作業は、例えば、電池セル内の液抜き作業時や、電池の運転中に行うことが挙げられる。
【0039】
上記した送液ポンプを備える形態において、送液ポンプが電動ポンプ又はエアポンプであることが挙げられる。
【0040】
送液ポンプには、電動ポンプやエアポンプを用いることができる。これらポンプは汎用性が高く、実現も容易である。エアポンプを使用する場合、例えば、回収空間部にエアポンプからエア(気体)を供給し、その圧力で回収空間部内の電解液を押出し、復帰配管を介して回収空間部内の電解液を電解液タンクに圧送することが挙げられる。
【0041】
上記した送液ポンプを備える形態において、二次電池或いは無停電電源装置を有し、二次電池或いは無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)から送液ポンプに電力を供給することが挙げられる。
【0042】
送液ポンプ(例、電動ポンプやエアポンプ)の電源に商用電源を用いた場合、停電時に、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業を行うことができない。そこで、この構成によれば、送液ポンプの電源に二次電池或いは無停電電源装置を用いることで、停電時であっても、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業を実行することができる。
【0043】
上記した送液ポンプを備える形態において、電池セルから送液ポンプに電力を供給することが挙げられる。
【0044】
本発明の電解液流通型電池では、自己放電を抑制することを目的として、循環ポンプの停止時に、電池セル内の液抜き作業が行われる。ここで、電池セル内の電解液が完全に抜け切るまでにはある程度の時間がかかり、この間は電池セルに電圧が発生する。つまり、この間は電池セルから送液ポンプへの電力供給が可能となる。そこで、この構成によれば、送液ポンプの電源に電池セルを用いることで、電池セル内の液抜き作業中に発生する電池セルの電圧を有効利用して、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業を実行することができる。また、送液ポンプの電源として二次電池或いは無停電電源装置を別途有する必要がない。一方で、電池セルから電力を供給し送液ポンプを運転することで、電池セルの電圧がなくなった(電池の発電能力がなくなった)場合は、電池セル内に電解液が一部残存するようなことがあっても、そもそも自己放電が生じ得ないので、電池セル内の液抜き作業を中止してもよい。
【0045】
上記した送液ポンプを備える形態において、電解液タンク内の気相部分と回収空間部とを連通し、電解液タンク内の気相を回収空間部に移動させるための第2気相配管を備えることが好ましい。
【0046】
回収通路を閉じた状態で送液ポンプを起動し、回収空間部内の電解液を電解液タンクに送液すると、回収空間部が負圧になり、回収空間部が破損する虞がある。この構成によれば、第2気相配管を備えることで、電解液タンク内の気相が回収空間部に移動し、回収空間部が負圧になることを防ぎ、回収空間部の破損を防止できる。つまり、回収通路を開閉の状態に関係なく、例えば電池の運転中などであっても、送液ポンプによる電解液タンクへの液戻し作業が行い易い。
【0047】
上記した送液ポンプを備える形態において、回収空間部内の電解液の液量を検知する液量検知手段と、送液ポンプを制御する送液ポンプ制御部と、を有し、液量検知手段が、回収空間部内の電解液の液量が所定の上限以上になったことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプを起動し、送液ポンプが送液を開始することが挙げられる。
【0048】
この構成によれば、回収空間部内の電解液量が所定の上限以上になったときに、送液ポンプが自動的に送液を開始するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で行うことができ、電池セル内の液抜き作業を繰り返し行うことができる。また、電解液タンクへの液戻し作業を自動で行うので、手動(手作業)で行う場合に比較して簡便であり、ヒューマンエラーも防ぐことができる。
【0049】
液量検知手段は、回収空間部内の電解液量を検知可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えばセンサやスイッチを使用することができる。センサとしては、例えば、光学式、静電容量式、超音波式、フロート式などの各種液面レベルセンサや液量センサが挙げられる。スイッチとしては、例えば、フロートスイッチなどのレベルスイッチが挙げられる。
【0050】
上記した送液ポンプ制御部を有する形態において、液量検知手段が、回収空間部内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプを停止し、送液ポンプが送液を停止することが好ましい。
【0051】
この構成によれば、回収空間部内の電解液量が所定の下限以下になったとき、送液ポンプが自動的に送液を停止するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で終了することができる。
【0052】
上記した送液ポンプ制御部を有する形態において、送液ポンプ制御部がタイマーを有し、タイマーにより送液ポンプの起動から所定の時間が経過したことを検知したとき、送液ポンプ制御部が送液ポンプを停止し、送液ポンプが送液を停止することが好ましい。
【0053】
この構成によれば、送液ポンプの起動から所定の時間が経過したとき、送液ポンプが自動的に送液を停止するので、電解液タンクへの液戻し作業を自動で終了することができる。この場合、液量検知手段により回収空間部内の電解液の液量が所定の下限以下になったことを検知する必要がない。
【0054】
上記した第2開閉手段を備える形態において、停電時に、第2開閉手段が作動して往路配管を開け、電解液タンクから電池セルに電解液を供給することで、電池セルから循環ポンプに電力を供給することが挙げられる。
【0055】
本発明において、循環ポンプが停止した状態では、電池セル内の電解液が回収空間部に回収され、電池セル内が空になっている。この構成によれば、停電時などの非常事態に、往路配管が開き、電解液タンク内と電池セル内との液圧(ヘッド圧)差で電解液が電解液タンクから電池セルに往路配管を通って自動的に供給される。そして、電池セル内に電解液が供給されることで、電池セルの電圧が上昇し、電池セルから循環ポンプへの電力供給が可能となる。この電力を循環ポンプに供給することで、循環ポンプを起動して、電池の運転を開始することができる。電池の運転開始後、電池セルから循環ポンプに電力を供給し続けることで、停電時などの非常事態であっても、電池の運転を続けることが可能である。
【0056】
本発明の電解液流通型電池の一形態としては、レドックスフロー電池であることが挙げられる。
【0057】
レドックスフロー電池としては、特に限定されるものではなく、例えば、正負極の電解液が以下の(1)〜(5)のいずれかであることが挙げられる。
(1)正極電解液は、マンガンイオンを含有し、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
(2)正極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
(3)正負極の電解液はそれぞれ、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する。
(4)正負極の電解液はそれぞれ、バナジウムイオンを含有する。
(5)正極電解液は、鉄イオンを含有し、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
【0058】
正負極の電解液を上記(1)〜(5)のいずれかとすることで、本発明の電解液流通型電池システムに好適なレドックスフロー電池を構成することができる。特に、上記(1)、(2)の電解液として、正極活物質にマンガンイオン、負極活物質に上記列挙したチタンイオンやバナジウムイオンなどを用いることで、高い起電力が得られる。上記(3)の電解液として、正極活物質にマンガンイオン、負極活物質にチタンイオンを用いることで、高い起電力が得られる。さらに、上記(2)、(3)の電解液として、正極活物質をマンガンイオンとし、別途チタンイオンを含有することで、高い起電力が得られる上に、電池抵抗の増加につながる析出物の発生を効果的に抑制することができる。上記(5)の電解液としては、正極電解液が鉄イオンを含有し、負極電解液がクロムイオンを含有する構成が好適である。