【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度文部科学省科学技術振興機構調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成マイクロシステム融合研究開発拠点」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記作用電極と前記スイッチ群との間に電源の負極に接続したダイオードが接続され、該作用電極からのリーク電流がfAオーダーに抑制されている、請求項1に記載の複数の作用電極を備えたICチップ。
前記スイッチ群及び前記オペアンプを構成するトランジスタ類の配置領域には、遮光メタルが設けられている、請求項1又は2に記載の複数の作用電極を備えたICチップ。
前記複数の作用電極に交流信号が印加されることで誘電泳動によって、複数の作用電極が機能性分子により修飾されている、請求項1乃至3の何れかに記載の複数の作用電極を備えたICチップ。
【背景技術】
【0002】
電気化学測定は電極表面において物質の電子のやり取りを制御することによってセンシングを行う手法であり、溶液中における溶存物質の分析などを行うことができる。代表的な測定方法としては、電圧変化に対する電流応答を測定するボルタンメトリー、一定電圧に保持して電流の時間変化を測定するクロノアンペロメトリーなどがある。このような電気化学測定は、バイオセンサの検出器として広く利用されている。また、生体組織、細胞の代謝物質、シグナル伝達物質などを検出する手法として利用されている。
【0003】
多数の測定点において電気化学測定を行うために走査型電気化学顕微鏡(Scanning electrochemical microscopy,SECM)がある(例えば非特許文献1)。これは、微小プローブ電極を走査し、酸化還元種が電極表面で反応する時に流れる電流値を測定してイメージング測定を行うものであり、局所領域における酸化還元種の挙動を定量的に解析することができる。しかしながら、単一の微小電極を操作するため、一つのイメージを取得するには少なくとも数十分かける必要がある。
【0004】
そこで、多数の測定点を測定するために、複数の電極をアレイ状に並べ、各電極からシグナルを収集することが考えられている。データの収集方法としては次のように分類される。
第1の収集方法は、測定点分の台数の測定装置を用いて測定点と測定装置とを1:1に対応させるか、又は、測定点の数以上の測定チャネルを有する測定装置を用いて測定点とチャネルとを1:1に対応させる(非特許文献2)。
第2の収集方法では、マルチプレッサなどのスイッチングにより、各点の測定データを外部の測定装置に対して順次データを読み出す。ワンチャネルの測定装置を複数の測定点に対応させる(非特許文献3)。
第3の収集方法では、アクティブピクセル方式と呼ばれ、LSIの微細加工技術を用いて増幅器を各測定点に配置し、増幅器からのシグナルをマルチプレクサなどにより順次外部レコーダーへ読み出す(非特許文献4、5)。
【0005】
第1の収集方法は、全ての測定点を同時に測定することができるためイメージを高速で得られ、また、スイッチを用いないためスイッチ切替の際ノイズが生じる虞がないという利点を有する。しかしながら、第1の収集方法は、測定点の数だけ測定装置が大掛かりとなり、各測定点にリード線を配設する必要があるためリード線の混み合いにより例えば20×20個の電極を一辺数mmの範囲に集積化が困難であることに加え、電極から外部の測定系にある増幅器までの距離が長いため信号に雑音が混入し易くS/N比が低下するという欠点を有する。
【0006】
第2の収集方法は、測定点の数を多くしても測定装置が大掛かりとならず、信号線と制御線とを縦横に交差して設けてマトリックス状の配線とし集積化することが可能であるという利点をする。しかしながら、スイッチングにより各点の測定を行って一つのイメージを得るために要する時間が第1の収集方法と比べて長くなること、スイッチングによりノイズが生じやすくなること、電極から外部の測定系にある増幅器までの距離が長いため信号に雑音が混入し易くS/N比が低下するという欠点を有する。
【0007】
第3の収集方法では、測定点の数を多くしても測定装置が大掛かりとならず、信号線と制御線とを縦横に交差して設けてマトリックス状に配線することにより集積化することが可能であるという利点のみならず、LSIの微細加工技術を用いて増幅器を各測定点に配置して増幅器からのシグナルを外部に出力するため、S/N比の低下を抑制することができる。
【0008】
一方、電気化学計測において、計測対象物質を特異的に検出したり、高いS/N比で高感度の分析を行ったりする目的で、作用電極表面を分子修飾することがよく行われる。このように分子修飾したものとして、例えば、酵素固定化電極、DNA検出チップ電極、イオン選択性電極などが挙げられる。従来、修飾を行う手法としては、分子を修飾したナイロン膜などで電極表面を覆う方法、電極に吸着する性質のある蛋白質(例えばウシ血清アルブミン)を介して固定化したい分子を架橋剤(例えばグルタルアルデヒド)を用いて結合させる方法、金−チオール結合などの自己組織化を利用する方法などが挙げられる。
【0009】
分子修飾においては、アレイ状に並んだ分子修飾電極を用いて、複数種類の計測対象を同時に測定するという技術は、DNA検出、アレルゲンの検出、農薬検出など広い分野で求められている。しかしながら、従来の修飾方法では、アレイ状に並んだ作用電極のうちのある任意の電極を任意の分子で修飾し、別の任意の電極には異なる分子修飾するという操作は困難である。これまでに、任意の点に任意の分子修飾を施す方法として、次のような修飾方法が考えられている。
第1の修飾方法:任意の電極のみ一旦アルカンチオールを還元離脱させて異なる蛋白質やDNAなどを修飾する方法。
第2の修飾方法:任意の作用電極に電解重合により、酵素−メディエーター膜、イオン選択性膜などの機能性分子膜を形成させる方法。
第3の修飾方法:任意の電極で水素イオンH
+を電気化学的に発生させ、局所的にpHを下げることにより、合成反応をブロックしたり逆に合成反応を促進させて、選択的に電極修飾を行う方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る複数の電極を備えたICチップ(以下、単に「ICチップ」と呼ぶ。)に関し、電気化学センサへの適用を前提に説明をする。
【0020】
〔ICチップとICチップの電気化学センサへの適用〕
図1は本発明の実施形態に係るICチップ10を備えた電気化学センサの概略図である。
図2は、
図1に示すICチップ及びその周辺回路を示すブロック構成図である。本発明の実施形態に係る電気化学センサ1は、複数の作用電極11を備えたICチップ10と、ICチップ10を搭載した配線基板5と、配線基板5に立設され測定対象物を収容する収容部2と、電気化学計測で必要となる参照電極3、対極4の何れか一方又は双方と、を備えている。
【0021】
ICチップ10は、作用電極11と、スイッチ群(「測定モード切替用スイッチ群」とも呼ぶ。)12と、スイッチ群12に接続されるオペアンプ13と、オペアンプ13の入力の一端子と出力端子との間に接続されるコンデンサ17と、を作用電極11毎、つまりセル毎に備えている。ここで、オペアンプ13はセル10Aごとに設けられており、作用電極11からの検出信号がオペアンプ13に入力されて電流電圧変換され、ローインピーダンス信号となる。よって、ノイズの影響を受けずに検出することができる。スイッチ群12は、オペアンプ13のオフセット電圧を測定するオフセット電圧測定モードと、作用電極11の電位を測定する電極電位測定モードと、作用電極11を所定の電位に設定した際に流れる電流を測定する電流電圧変換測定モードと、作用電極11を上記所定の電位よりもオフセットした電位に設定した際に作用電極11に流れる電流を測定するオフセット電流電圧変換測定モードと、に切り替える。
【0022】
さらに、
図2に示すように、ICチップ10では、作用電極11毎のオペアンプ13が行単位又は列単位で共通のアンプ(増幅器)14に接続されており、バッファーアンプ14がICチップ10に搭載されている。このように、行方向に並んだセル10Aを一つの組とし複数のセル10Aがバッファーアンプ14に接続されているため、バッファーアンプ14が、各オペアンプ13から出力される信号をローインピーダンス変換して、後続のチップ外にある入出力部30のAD変換器に出力する。
【0023】
参照電極(Reference electrode)3と対極(Counter electrode)4とは、作用電極11毎に区分けされたセル10A単位ではなく、各セル10Aにおける作用電極11に共通して、例えば
図1に示すように設けられており、各作用電極11とで三電極系をそれぞれ形成している。参照電極3、対極4は図示しない支持体に取り付けられて保持されている。また、参照電極3を用いないで作用電極11と対極4とで二電極系を形成してもよい。
【0024】
本発明では、セル10A毎に設けられているスイッチ群12を制御することにより、セル10A毎に、オフセット電圧測定モード、電極電位測定モード(エレクトロメータ)、電流電圧変換モード、オフセット電流電圧測定モードが選択可能である。よって、本発明の実施形態に係るICチップ10を電気化学センサ1に応用すれば、作用電極11毎に同じ測定モードにて電気化学測定を行うことも、異なる測定モードにて電気化学測定を行うことも可能となる。
【0025】
本発明の実施形態に係るICチップ10は、詳細は後述するように特に第1及び第2の特徴を備えているため、ICチップ10を電気化学センサ1において用いることにより、pAオーダーの微弱電流を測定することができる。
第1の特徴:ESD(Electro-Static Discharge)保護素子の代わりにゲート保護用素子を設けたこと。これにより、リーク電流を小さくすることができ、ゲート保護用素子の寸法がESD保護素子のそれより小さいことから、コンデンサ17の配置面積を大きくすることができる。
第2の特徴:スイッチ群12及びオペアンプ13を構成するトランジスタ類を配置した領域上に遮光メタルを設けたこと。これにより、遮光メタルが光照射によるキャリアの発生を防ぐことができる。
【0026】
これらの特徴を説明する前提として、ICチップ10の構成について説明する。
図2に示すように、ICチップ10は、マトリックス状に行(COLUMN)と列(ROW)に複数のセル10Aが並んで構成されている。ICチップ10には、各セル10Aから出力される信号を一時的に蓄えて外部に出力したり各セル10Aに対して電圧の印加、電流を流す入出力部30と、各セル10Aに対し制御信号を出力する制御部40と、が接続されている。制御部40からの信号で行(COLUMN)と列(ROW)を指定し、モードをそれぞれ書込むことが出来る。また、列(ROW)を逐次指定し、スイッチ12Fを閉じることによって、各行のオペアンプ13の出力信号を同時に出力することができる。なお、ICチップ10は、複数のセル10Aのほか入出力部30、制御部40の何れか一方又は双方を含んで構成されてもよい。
【0027】
図3は、
図2に示すセル10Aの構成を示す図である。
図3に示すように、セル10Aの構成は次の通りである。
コンデンサ17がオペアンプ13の出力端子と反転入力端子との間に接続されている。
オペアンプ13の反転入力端子には第1の抵抗19Aの一端が接続され、第1の抵抗19Aの他端に第1のスイッチ12Aの一端が接続されている。つまり、第1の抵抗19Aと第1のスイッチ12Aとが直列に、オペアンプ13の反転入力端子とパッド18との間に接続されている。
オペアンプ13の非反転入力端子に第2の抵抗19Bの一端が接続され、第2の抵抗19Bの他端に第2のスイッチ12B、第3のスイッチ12C、第4のスイッチ12Dの一端がそれぞれ接続されている。
第1の抵抗19Aと第2の抵抗19Bは、0〜100kΩの値を有するが、ショート(0Ω)されていてもよい。第1のスイッチ12Aの他端と第2のスイッチ12Bの他端がパッド18に並列に接続されている。第3のスイッチ12Cの他端は、
図2に示す入出力部30内のD/A変換器に接続されて電圧V2が印加される状態となっている。第4のスイッチ12Dの他端は接地されている。第5のスイッチ12Eがコンデンサ17に並列に接続されている。
【0028】
オペアンプ13の出力端子は、スイッチ12Fを介して、バッファーアンプ14の非反転入力端子に接続され、バッファーアンプ14の反転入力端子がバッファーアンプ14の出力端子と接続されて帰還回路が形成されている。スイッチ12Fは、入出力部30を経由した制御部40からのデジタル入力信号(DI)に応じて開閉する。バッファーアンプ14の出力端子は、常に、
図2に示す入出力部30内のA/D変換器に接続されている。第1乃至第5のスイッチ12A〜12Eからなるスイッチ群により、測定モードを選択することができる。また、スイッチ12Fにより、列(ROW)位置を選択できる。
【0029】
図4は、各測定モードと第1乃至第5のスイッチ12A〜12Eの開閉との関係を示すテーブルである。
オフセット電圧測定モードでは、第4のスイッチ12Dと第5のスイッチ12EとをONにし、それ以外のスイッチをOFFとする。これによりオペアンプ13のオフセツト電圧を測定することができる。また、このモードを選択することにより、このモードと他のモードの測定結果から、過大電流が流れる電極、異常電位が発生する電極、オフセット電位が大きいオペアンプなど、異常電極その他の異常セルを人為的に特定して使用対象から除外することができる。
【0030】
電極電位測定モード(エレクトロメータ)では第2のスイッチ12Bと第5のスイッチ12EとをONにし、それ以外のスイッチをOFFとする。このモードを選択することにより作用電極11の電位を測定し、電極電位が既知である参照電極の電位と演算することにより、作用電極11の電極電位を測定することができる。
【0031】
電流電圧変換モードでは第1のスイッチ12Aと第4のスイッチ12DとをONにし、第2のスイッチ12B、第3のスイッチ12CをOFFにし、第5のスイッチ12Eはタイムチャートに従ってON/OFFとする。さらに、参照電極3の電位がシグナルグランドに対して任意の値、即ち−V1となるように制御する。このモードではオペアンプ13の働きにより、作用電極11の電位はシグナルグランドに等しくなるため、作用電極11には参照電極3に対してV1の電位が印加されていることになる。この状態で作用電極11上で電気化学反応などがおこり電流が生じると、電荷がスイッチ12Aを通過して、スイッチ12EがOFFのときにコンデンサ17に蓄積される。この電荷蓄積速度を後述の方法で測定することにより、作用電極11に参照電極に対してV1の電位を印加した状態における作用電極11に流れる電流を測定することができる。
【0032】
オフセット電流電圧測定モードでは、第1のスイッチ12Aと第3のスイッチ12CとをONにし、第2のスイッチ12B、第3のスイッチ12CをOFFにし、第5のスイッチ12Eはタイムチャートに従ってON/OFFとする。さらに、参照電極3の電位はシグナルグランドに対して−V1となるように制御し、スイッチ12Cの他端にあるD/Aコンバーターからは電位−V1+V2を印加する。これにより、作用電極11の参照電極3に対する電位がV2となる。この状態で作用電極11上で電気化学反応などがおこり電流が生じると、電荷がスイッチ12Aを通過して、スイッチ12EがOFFのときにコンデンサ17に蓄積する。この電荷蓄積速度を後述の方法で測定することにより、作用電極11の電位を参照電極3に対してV2とした状態において、作用電極11に流れる電流を測定することができる。ここでオフセットとは作用電極の電位を、電流電圧変換モードにおける方法からさらに任意の値−V1+V2変化させることを意味する。また、V2の電圧は直流電圧でも、交流電圧でも、パルス波のような電圧を設定してもよい。V1の電位はグランドにしてもよい。
【0033】
電流電圧測定モード及びオフセット電流電圧測定モードにおいては、第5のスイッチ12EをON/OFFする。詳細については後述するが、コンデンサ17を充放電することにより作用電極11に流れる電流の大きさを測定する。電流の計算式を以下に示す。
i=C*ΔV/Δt
ここで、iは電流値
Cはコンデンサ17の容量
ΔVはコンデンサ17の出力電位の変化分
Δtは時間変化分
ΔV/Δtはコンデンサ17の出力電圧の時間に対する傾き
そのため、コンデンサ17の充電量を超えると、オペアンプ13が飽和するので、飽和する前に第5のスイッチ12EをONにしてコンデンサ17に蓄えられた電荷を、第5のスイッチ12Eを介して、急速放電する。再度、第5のスイッチ12EをOFFにして、作用電極11に流れる電流を再度測定する。作用電極11に流れる電流が大きければ大きいほど、ΔV/Δtは大きく、短時間で飽和に達するため、第5のスイッチ12EをOFFにしてから放電のためにONにするまでの時間を短くする必要がある。
【0034】
本発明の実施形態においては、
図3に示すように、スイッチ群12を切り替えることで各モードを切り替えることができる。そのため、スイッチ群12と比べて、占有面積のかなり広いオペアンプを複数個、一つのセルにおいてモード毎に設ける必要がない。これにより、隣接するセル10Aにそれぞれ配置される作用電極11の間隔を小さくでき、しかも、作用電極11とオペアンプ13との間、オペアンプ13とバッファーアンプ14との間の距離を何れも短くすることにより、ノイズの影響を受けにくくし、より微弱な電流シグナルを測定することができる。
【0035】
本発明の実施形態に係るICチップ10では、オペアンプ13をモード毎に設けないため、作用電極11同士の間隔を小さくすることにより、作用電極11を高密度に配置することができる。よって、このようなICチップ10を電気化学センサ1に用いることにより以下の点で有利になる。第1に、電気化学センサ1をイメージングデバイスとして利用することで、より空間解像度の高いイメージングを行える。第2に、一度により多くの計測を行うことができ、DNAアレイなどのように多くの測定項目を一括して測定したり、一細胞解析のように多くのサンプルを一括して測定したりすることができる。第3に、より空間的に近接したもの同士の相互作用を計測することができる。
【0036】
また、ICチップ10においてコンデンサ17の配置面積を大きくすることができる。電流電圧測定モード及びオフセット電流電圧測定モードにおいてコンデンサ17の充放電により作用電極11に流れる電流を測定する場合、容量を大きくすることができるため、より大電流を測定することができる。測定ダイナミックレンジについての詳細は後述するが、測定できる電流の最大値は、第5のスイッチ12EのOFF時間とコンデンサ容量に依存する。第5のスイッチ12EのOFF時間はスイッチ切換え速度により、短くすることには限界がある。スイッチOFF時間が共通であれば、コンデンサ容量に比例して測定可能な電流の最大値も増加する。このように、コンデンサ17の配置面積を大きくすることにより、ダイナミックレンジを広くした測定が容易かつ安定して行える。
【0037】
図5は、
図2に示す制御部40及び各セル10Aとの接続関係を示す図である。制御部40は、
図5に示すように、ROWデコーダ41とCOLUMNデコーダ42とRESET信号線43とMD0信号線44とMD1信号線45とWRITE信号線46とにより構成され、マトリックス状に配置されたセル10Aを選択すると共に、第1乃至第5のスイッチ12A〜12Eからなるスイッチ群12とオペアンプ13の出力端子とバッファーアンプ14の反転入力端子との間に設けられる第6のスイッチ12F(
図2、
図3参照)とを制御する。ここで、MD信号とはモード選択信号であり、ゼロ番目のモード選択信号をMD0信号、一番目のモード選択信号をMD1信号と表記している。
【0038】
図6は、
図5に示す一つのセルの回路図である。各セル10Aの制御系統は例えば
図6に示す制御回路50を含んでおり、測定モードの切替えを行う。
図6に示す制御回路50は一つの例であって、これと等価的な回路であってもよい。
各セル10Aには、
図6に示すように、第1乃至第3のAND素子51A,51B,51CとOR素子52と第1及び第2のラッチ53A,53Bとを含んでいる。
第1のAND素子51Aには、COLUMN選択信号と第6スイッチの開閉信号線48とWRITE信号とが入力され、第1のラッチ53A及び第2のラッチ53Bのクロックパルスとして出力される。
第1のラッチ53Aには、MD0信号線44からの信号が入力される。第2のラッチ53Bには、MD1信号線45からの信号が入力される。第2のAND素子51Bには、第1のラッチ53Aからの信号と第2のラッチ53Bからの信号とが入力され、第2のスイッチ12Bの開閉信号を出力する。第3のAND素子51Cには、第1のラッチ53Aからの信号と第2のラッチ53Bからの信号とが入力され、第3のスイッチ12Cの開閉信号を出力する。OR素子52は、第2のラッチ53Bからの信号とSW5信号線47からの信号が入力され、第5のスイッチ12Eの開閉信号を出力する。
【0039】
図6に示す制御回路50により、スイッチ群12が切り替えられ、選択した測定モードを書込み、また、選択したオペアンプ13の電圧を出力できる。
【0040】
ここで、前述した本発明の実施形態に係るICチップ10の第1の特徴点について詳細に説明する。作用電極11に接続されるパッド18とオペアンプ13との間の配線には、
図3に点線で示すように電源(+Vcc)との間に第1のダイオード15Aが接続され、
図3に実線で示すように電源(−Vcc)との間に第2のダイオード15Bが接続されている。第1のダイオード15A及び第2のダイオード15BによりESD(Electro-Static Discharge)保護素子が形成されている。第1のダイオード15Aは配線側をカソードとし、第2のダイオード15Bは接続点側をアノードとしている。このESD保護素子により、LSIの作製工程において、静電気放電によるLSI破損が防止される。LSI内部のMOSゲートは薄い酸化膜等の絶縁膜により覆われているので、インピーダンスが高く、電荷の導通経路が存在しない。そのため、ESD保護素子により、静電気などによる酸化膜の絶縁破壊、接合破壊、配線の溶断などの破壊現象が起きないようにする。
【0041】
これに対して、別の形態にあっては、作用電極11に接続されるパッド18とオペアンプ13との間の配線には、
図3に実線で示すように、電源(−Vcc)との間にダイオード15が接続されている。つまり、ダイオード15が、作用電極11に接続されるパッド18とオペアンプ13との間に、カソードを電源(−Vcc)に、アノードをオペアンプ13側に接続されて配置されている。このダイオード15はゲート保護用ダイオードと呼ぶことができ、これにより、作用電極11から流れる電流がオペアンプ13に入力される際、ダイオード15に流れ込むリーク電流を小さくすることができる。このダイオード15は、電荷をICチップ10Aが形成されている基板側に流すことで、過剰な電荷を蓄積させない。
【0042】
外部端子となるパッド18に接続される配線に、第1及び第2のダイオード15A,15BでESD保護素子を設けると、4pA程度の大きさのリーク電流が各ダイオード15A,15Bに流れる。これに対し、ダイオード15のみを設けるとリーク電流が5fA程度となりリーク電流を1/1000程度に減少させることができる。また、後述するようにESD保護素子は比較的サイズが大きいが、ESD保護素子の代わりにゲート保護用ダイオードを用いることによりそのサイズを小さくすることができる。これにより、セル10A毎の作用電極11の間隔を狭め、作用電極11からオペアンプ13、さらにはバッファーアンプ14までの距離を小さくすることができる。その結果、前述したように、ノイズの影響を受け難く、高密度で電極を配置することにより空間解像度を向上することができる。
【0043】
図7は
図2のセル単位でのレイアウトの幾つかの例を示す。
図7(a)はESD保護素子を有する回路でのレイアウト、(b)は(a)において遮光メタルに関する配置のレイアウト、(c)はゲート保護用のダイオードを有する回路でのレイアウト、(d)は(c)において遮光メタルに関する配置のレイアウトである。
図7(a)及び(c)の何れにおいても、向かって下側に、トランジスタ類、コンデンサ61aその他の要素からなるオペアンプ61及びそれに接続される各スイッチ62が配置され、向かって上側に、パッド63と
図2の符号17に相当するコンデンサ64とが配置されている。
図7(a)に示すようにESD保護素子65がパッド63とコンデンサ64との間に設けられ、
図7(c)に示すようにゲート保護用ダイオード素子66がパッド63とコンデンサ64との間に設けられる。
図7(a)と(c)とを比べて、ESD保護素子65を設けたレイアウトでは、ESD保護素子65がパッド63よりもやや大きい領域を占有している一方、ESD保護素子65の代わりにゲート保護用ダイオード素子66を設けたレイアウトでは、ゲート保護用ダイオード素子66がパッド63よりも1/8前後の領域しか占有していない。
【0044】
このように、ESD保護素子65の代わりにゲート保護用ダイオード素子66を設けることにより、上述したようにリーク電流を小さくすることができ、さらに、コンデンサ64などの容量の配置面積を大きくすることができる。
【0045】
ここで、前述した本発明の実施形態に係るICチップ10の第2の特徴点について詳細に説明する。ICチップ10では、
図2及び
図3に示すスイッチ類12及びオペアンプ13を構成するトランジスタ類上には、遮光メタルが設けられている。以下、具体的に説明する。
【0046】
図7(b)にハッチングを付して示しているように、オペアンプ61中のコンデンサ61aのほか、パッド63、コンデンサ64、ESD保護素子65及びオペアンプ61中のコンデンサ61aを除いた領域には遮光メタル103が設けられている。
図7(d)にハッチングを付して示しているように、オペアンプ61中のコンデンサ61aのほか、パッド63、コンデンサ64、ゲート保護用ダイオード素子66及びオペアンプ61中のコンデンサ61aを除いた領域には遮光メタル103が設けられている。このように、スイッチ62とオペアンプ61中のトランジスタ類とが配置される領域には、遮光メタル103が設けられる。これにより、光により生じるキャリアによってノイズが検出信号等に含まれないようにする。
【0047】
図8は、ICチップ10におけるトランジスタ類とコンデンサとの関係を模式的に示す断面図である。図示するように、基板101に複数のトランジスタ102が積層され、あるトランジスタ102Aのとなりにコンデンサ17が配置される。その際、トランジスタ102を覆うように遮光メタル103が設けられる。これにより、トランジスタ102に光が入射することでキャリアが生じバックグランド電流が流れることが防止される。一方、コンデンサ17を構成する一対の金属層17A,17Bの上には遮光メタル103を設けない。遮光メタルを設けると、コンデンサ17に電荷が蓄積されて静電誘導により容量が変化し、浮遊容量として、コンデンサ17の特性が変化するからである。また、コンデンサ17以外のところに設けた遮光メタル103については接地することにより、より安定な特性を得ることができる。
【0048】
図9は、各セルにおける作用電極とパッドとの間の関係を示す断面図及びその作製工程を示す。
【0049】
図9に示すように集積化された基板111にはAl層とCu層とからなるパッド112が設けられ、その上に、シリコン酸化膜からなる第1の絶縁膜113と、窒化シリコン膜からなる第2の絶縁膜114が形成されている(
図9(a))。
【0050】
次に、第1及び第2の絶縁膜113,114のうちパッド112が形成されている領域上をフォトリソグラフィを用いて部分的にエッチングを行い、コンタクトホール115を開ける(
図9(b))。
【0051】
次に、コンタクトホール115の底面及び側面を覆い第2の絶縁膜114上にTiなどからなる密着層116を形成し、その密着層116上に電極材料、例えばAuその他の貴金属、導電性炭素、導電性高分子で電極層117を設ける(
図9(c))。電極材料は、導電性及び化学的安定性を有しているだけでなく、水の電気分解により水素及び酸素の何れもが発生しないように印加する電位の幅が広いものが好ましい。
【0052】
そして、その電極層117及び第2の絶縁膜114上にSU−8のレジストなどの絶縁膜118を形成し、その絶縁膜118であって、作用電極部分として使用する部分119を貫通させる(
図9(d))。
【0053】
このようにして、絶縁膜118のうちパッド112の真上ではなくその近傍に貫通穴を設け、その貫通穴を設けた部分の電極層117を作用電極11として用いる。よって、パッド112の表面が凹凸があっても作用電極11が平坦となる。
【0054】
ここで、
図9(c)においてパッド112を電極層117及び絶縁層118により被膜する理由は、パッド112がアルミニウムで形成されているため作用電極として用いることができないからである。そのため、パッド112上に密着層116及び電極層117を形成する。これにより、パッド112のアルミニウム自体が電気化学測定により反応することが阻止される。
【0055】
電極層117を更にレジストなどで被膜する理由は、LSI表面の第1及び第2の絶縁層113,114にはピンホールが存在するからである。チップそれ自体を水溶液に接触させて電気化学測定を行うので、レジストなどで被膜をしないと、ピンホールから水溶液が侵入し、LSI内部の配線まで水溶液が達して回路がショートするおそれがある。レジストで被膜することにより、水溶液が層間絶縁層に達するのが防止される。レジストを開口して露出した電極層117のみを作用電極11として用いる。レジストの開口面積は任意に設定できる。そのため、同一の電気化学反応が生じている場合でも、電流の大きさは電極面積に比例するため、大電流が流れる電気化学測定を行う場合には開口面積が小さいチップを用い、小電流が流れる電気化学測定を行う場合には開口面積が大きいチップを用いる。
【0056】
パッド112をレジストなどの絶縁層118で被膜してもパッド112の真上には開口を設けない理由について説明する。パッド112は凹凸を有しており、パッド112の上には第1及び第2の絶縁層113,114における凹凸部分の隅や横壁部分を電極材料で完全に被膜することができない可能性がある。完全に電極材料で被膜できないと、測定対象物である水溶液中の成分がパッド表面であるAlと反応したり、パッドが電気化学反応を直に起こす。
【0057】
次に、本発明の実施形態に係るICチップ10を用いた電気化学センサ1では、作用電極11から流れる電流の大きさの測定範囲を広くすることができることを説明する。
図10は測定電流のダイナミックレンジを広く出来ることを説明する図で、(a)は第5のスイッチ12EのON、OFFの信号であり、(b)はオペアンプ13の出力波形、(c)はオペアンプ13の好ましくない出力波形、(d)は第5のスイッチ12EのON、OFFの信号であり、(e)はオペアンプ13の出力波形である。横軸は時間であり、縦軸は各信号の強度である。
【0058】
第5のスイッチ12EをOFFにすると、オペアンプ13は電流電圧変換回路として機能し、
図10(a)及び(b)に示すように、第5のスイッチ12EをOFFにするとオペアンプ13からの出力が増加し、第5のスイッチ12EをONにするとオペアンプ13からの出力がゼロになる。このとき、オペアンプ13の出力の傾きから電流値が求まる。すなわち、コンデンサ17に電荷が蓄積されるに従い、コンデンサ17に充電され、オペアンプ13の出力が増加する。電流が急激に大きくなると、
図10(c)に示すように、オペアンプ13の出力が増加し、傾きが大きくなり、第5のスイッチ12EのOFFからONになるタイミングに至る前に出力が飽和する。そこで、
図10(d)に示すように、第5のスイッチ12EのON/OFFのタイミング周期を短くして、例えば10倍毎に短くすることにより、作用電極11に流れる電流が増加してもオペアンプ13の出力を
図10(e)に示すように飽和させないようにすることができる。
【0059】
このように、第5のスイッチ12Eの開放時間を、例えば100ms,10ms,1ms及び100μsと選択することにより、1レンジのみでは測定可能な電流範囲が1pA〜100pAであるのに対して、4レンジを追加することにより測定可能な電流範囲を、1pA〜100pA,10pA〜1000pA,100pA〜10000pA及び1000pA〜100000pAと広範囲にすることができる。
【0060】
さらに、ダイナミックレンジを大きくすることができる理由について具体的に説明する。
図11は、マトリックス状にm×nのセルが並んで、同じ行に並んだセル同士が各スイッチS
i,jにより外部に電流を取り出すことができることを模式的に示している。各セル中の回路は
図3に示すとおりである。
【0061】
まず、低電流を精度良く測定する手法について説明する。説明を簡略化するためにICチップから行数nと同じ数の信号が同時に出力され、その数の信号を取り出すことができるものとする。ある列にあるスイッチ12Fから次の列にあるスイッチ12Fまでの切換時間を2Δtとする。ΔtはICチップから出力される信号のサンプリング周波数の逆数である。
ステップ1:各セルに含まれているスイッチ12Eの全てをONからOFFにして時間をリセットする。
ステップ2−1:時間2Δt経過すると、スイッチS1,1〜Sm,1(第1列目の各スイッチ)のみONにして、第1列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(1回目)を測定する。
ステップ2−2:さらに時間2Δt経過すると、スイッチS1,2〜Sm,2(第2列目の各スイッチ)のみONにして、第2列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(1回目)を測定する。
以下同様に、第3列目、第4列目、第n列目の各スイッチのみを順にONにして各セルのコンデンサ17の電圧V(1回目)を測定する。
ステップ3−1:2回目の計測の一つ前のスイッチ切換え時から時間2Δt経過したとき、スイッチS1,1〜Sm,1(第1列目の各スイッチ)のみONにして、第1列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(2回目)を測定する。
ステップ3−2:さらに時間2Δt経過すると、スイッチS1,2〜Sm,2(第2列目の各スイッチ)のみONにして、第2列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(2回目)を測定する。
以下同様に、第3列目、第4列目、第n列目の各スイッチのみを順にONにして各セルのコンデンサ17の電圧V(2回目)を測定する。
このような電圧測定を所定回数(例えば20回)繰り返す。
スイッチ12EをOFFからONにして時刻をリセットする。
そして、各セルのコンデンサ17の電圧V(1回目)の値と各セルのコンデンサ17の電圧V(20回目)の値から、各セルのコンデンサ17の容量をCとし、1回目の計測から20回目の計測までの時間をTとして、以下の(式1)から各セルに流れた電流を求める。
{C・V(20回目)−C・V(1回目)}/T (式1)
または、1回目から任意の回数目までのデータ、例えば1回目から20回目のデータを用いてフィッティングによって電流を算出してもよい。
【0062】
次に、高電流を精度良く測定する手法について具体的に説明する。説明を簡略化するためにICチップから行数nと同じ数の信号が同時に出力され、その数の信号を取り出すことができるものとする。ある列にあるスイッチ12Fから次の列にあるスイッチ12Fまでの切換時間を2Δtとする。ΔtはICチップから出力される信号のサンプリング周波数の逆数である。
ステップ1:各セルに含まれているスイッチ12Eの全てをOFFからONにして時間をリセットする。
ステップ2−1:時間2Δt経過すると、スイッチS1,1〜Sm,1(第1列目の各スイッチ)のみOFFにして、第1列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(1回目)を測定する。
ステップ2−2:さらに時間2Δt経過すると、第1列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(2回目)を測定する。
ステップ2−3:さらに時間2Δt経過すると、第1列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(3回目)を測定する。
ステップ2−4:さらに時間2Δt経過すると、第1列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(4回目)を測定する。
ステップ3:各セルに含まれるスイッチ12Eの全てをOFFからONにし、時間をリセットする。
ステップ4−1:時間2Δt経過すると、スイッチS1,2〜Sm,2(第2列目の各スイッチ)のみOFFにして第2列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(1回目)を測定する。
ステップ4−2:さらに時間2Δt経過すると、第2列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(2回目)を測定する。
ステップ4−3:さらに時間2Δt経過すると、第2列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(3回目)を測定する。
ステップ4−4:さらに時間2Δt経過すると、第2列目の各セルのコンデンサ17の電圧V(4回目)を測定する。
ステップ5:所定の時間だけ各セルに含まれるスイッチ12Eの全てをOFFからONにし、時刻をリセットする。
その後、第3列目の各セルのコンデンサ17の電圧についても、ステップ2−1〜ステップ2−4の要領でV(1回目)、V(2回目)、V(3回目)、V(4回目)として測定しスイッチ12EをOFFからONにする。
そして、各セルのコンデンサ17の電圧V(2回目)の値と各セルのコンデンサ17の電圧V(3回目)の値から、各セルのコンデンサ17の容量をCとし、2回目の計測から3回目の計測までの間の時間をTとして、以下の(式2)から各セルに流れた電流を求める。
{C・V(3回)−C・V(2回)}/T (式2)
【0063】
以上により、コンデンサ17の両端に接続するスイッチ12Eの開閉を制御することで、作用電極11から電流により電荷が蓄積されて飽和することで測定できなくなることが防止される。よって、ダイナミックレンジが大きく汎用性の高い測定を行うことができ、様々な用途に適用することができる。
【0064】
本発明の実施形態に係るICチップ10を用いた電気化学センサ1により行われる各種の測定を行うに先立ち、作用電極11が異常でないか確認する。
図12は本発明の実施形態に係る電気化学センサ1を用いた電気化学測定方法を行う際の異常電極や異常セルを検査する手法を示す図である。スイッチ群12をオフセット電圧測定モードに設定し、オペアンプ13のオフセット電圧を測定する。オペアンプ13のオフセット電圧が規定値以上であった場合には、そのオペアンプ13に接続された作用電極11は、人為的に、使用対象から除外する。これにより、測定系に意図しない異常な反応を誘起することを防ぐことができる。例えば、1.5VvsAg/AgCl以上の電圧が加わって酸素が発生したり、−1.5VvsAg/AgCl以下の電圧が加わって水素が発生したりするという、測定系に悪影響を及ぼす可能性が低くなる。
【0065】
このように作用電極11が異常でないことを確認した後に、例えば次のような各種の測定を行うことができる。なお、以下に挙げる測定に限られるものではない。
第1の測定としては、或る作用電極には還元電位を印加しその周りの作用電極には酸化電位を印加することにより、還元された物質の拡散挙動を解析することが可能となり、例えば隣同士の作用電極が干渉し合うか否かを評価することができる。
第2の測定としては、或る作用電極は還元電位を印加したままで別の作用電極はある時刻に酸化電位に切り替えるといった測定を行うことにより、バックグランドとしての還元電流を測定しつつシグナルとして酸化電流をモニタリングすることができる。
第3の測定としては、作用電極を2種類の電位、即ち、所定の電位とこの所定の電位よりもオフセットした電位とを印加して測定することにより、同時に2種類の酸化還元電位の異なる化学種の測定を行うことができる。
第4の測定として、異常が発生していない作用電極の全てに対して、同じタイミングで例えば10〜200mV/sで作用電極に印加する電位を変化させ、その際流れる電流を測定する。これにより、電気化学センサ1を所謂サイクリックボルタンメトリとして利用することもできる。
【0066】
図13は、或る電気化学反応の測定方法を説明するための説明図である。ある特定のセル10Aについては作用電極11を酸化反応を生じさせる電位に設定し、その特定のセル10Aの周りにあるセル10中の作用電極11については還元反応を生じさせる電位に設定する。例えば
図13(a)に示すように2行2列目の作用電極11についてはV2に設定し、その他の作用電極11については電位V1に設定する。
【0067】
その際、
図13(b)に示すように、3行4列目の作用電極11については電位を印加しない状態とすることもできる。つまり、この3行4列目の作用電極11については反応に関与させないようにすることもできる。
【0068】
セル10A毎の作用電極11に所定時間だけ電位を印加したのち、
図13(c)に示すように、セル10毎の作用電極11の電位を測定する。測定した電位を相互に比較することにより、参照修飾に対する各作用電極の電位を測定する。
【0069】
これにより、例えばオスミウム錯体を含有する酸化還元ポリマー(Osポリマー)中の電子移動を評価することができる。Osポリマーはグルコース等を検出するためのバイオセンサやバイオ燃料電池の電子伝達メディエーターとして、電極上に固定化して用いられる。すなわち、電子がポリマー鎖中を電子ホッピングによって移動することにより、測定対象物質や基質と電極間の電子授受が効率的に行われる。Osポリマー中の電子移動を理解することは、これらのセンサや電池の機能向上に重要である。本実施形態に係るICチップ10を用いることにより、ポリマー中の電子移動を従来より簡便に解析することができる。また、操作が複雑ではないため、従来問題であった操作性も向上する。
【0070】
この電子移動の評価についてさらに具体的に説明する。一旦、全ての作用電極をオスミウムが十分に還元される電位V1(例えば0.0V vs Ag/AgCl)にする。各作用電極表面付近のOsがほぼOs
2+になって電流が安定したところで、ある電極だけをオスミウムが十分に酸化される電位V2(例えば0.6V vs Ag/AgCl)にステップする。つまり、或る作用電極だけ電位V2に変える。ステップさせた電極の周囲の電極の電流値の変化を調べることによって、電子がどのようにポリマー中を移動するのか解析することができる。または、ある時点で
図13(c)のように電極電位測定モードとすることにより、各電極近傍のOs
2+/Os
3+の比が電位を切った状態でどのように推移するのか、モニタリングすることもできる。ここで、電極電位はネルンスト式により電極表面での酸化体と還元体の比を示すことになる。
【0071】
ネルンスト式から、E(電極電位)=E
0(式量電位)+0.059V×log
10(c
o (酸化体の電極表面濃度)/c
r(還元体の電極表面濃度)))と表すことができ、もし、電極が式量電位を示していれば、酸化体と還元体は1:1、電極電位が式量電位より59mV高ければ10:1、118mV高ければ100:1というように求められる。
【0072】
このような測定以外に、例えば、
図13(d)に示すように、3行5列に並んだ作用電極のうち、2行2列の作用電極のみ電位V2に印加し、2行4列の作用電極11のみ電位V1に印加する。これにより、電位を印加した作用電極の周りの電極は電位を設定せずOFFモードにして、近接する作用電極の干渉を防ぐことができる。
【0073】
図13を参照して説明した測定方法においても、作用電極のうち予めオフセット電圧が異常となるものを使用対象から除外することが有効である。即ち、
図13(a)で示すように、ある作用電極のみを酸化電位とし、他の作用電極を還元電位とするような場合に、還元電位としている作用電極のうちどれか一つでも異常となって酸化電位となることがなく、意図していた測定を行うことができる。
【0074】
〔化学修飾など〕
本発明の実施形態に係るICチップ10は、微弱信号を検出することができるという点で電気化学センサへの適用を前提に説明したが、本発明の実施形態に係るICチップ10は電気化学測定のみならず、各種の電気化学反応を操作するための手段、誘電泳動現象を用いたマニピュレータへと適用することができる。
【0075】
例えば、本発明の実施形態であるICチップ10において、作用電極を機能性分子で修飾することによりバイオチップとして用いることができる。作用電極に分子を修飾する際には、例えば誘電泳動現象を用いて特定の分子を特定の作用電極に修飾することができる。誘電泳動現象を用いる場合には、
図1のように、配線基板5に作用電極付ICチップ10を搭載し、ICチップ10を収容部2の底部に露出するように配置する。参照電極3、対極4は設けない。
【0076】
図14はICチップを用いて電気化学反応を生じさせたり誘電泳動を用いて化学修飾を行ったりすることを説明するための説明図である。上述したように、本発明の実施形態に係るICチップ10では、作用電極11がマトリックス状に並べて配置されている。以下の説明では
図14に示すように3行4列に作用電極が並んでいる場合を示すが、例えば20行20列で計400個の作用電極の場合でも適用できる。
【0077】
電気化学測定を行う前、電気化学反応や誘電泳動を用いて一つの作用電極11又は複数の作用電極11を指定して蛋白質等の物質で電気化学的に修飾する。つまり、
図14(a)に示すように、2行3列目の作用電極のみを特定の電位V1に設定し、その他の作用電極には何ら電位を印加していない。この状態で、
図14(b)に示すように、2行3列目の作用電極を物質Aで修飾する。この修飾とは、2行3列目に存在する作用電極、例えばAuを物質Aで化学修飾することをいう。その後、蛋白質等の種類を変えて例えば物質Bで3行3列目の作用電極を修飾する。この手順により、特定の作用電極を特定の物質で修飾する。
【0078】
このような物質による修飾は、種々知られている。例えば、蛋白質やDNAをアルカンチオールなどを介して作用電極の表面に修飾し、任意の電極のみ一旦アルカンチオールを還元離脱させて異なる蛋白質やDANなどを修飾する。任意の作用電極に電解重合により、酵素−メディエーター膜、イオン選択性膜などの機能性分子膜を形成させる。任意の電極で水素イオンH
+を電気化学的に発生させ、局所的にpHを下げることにより、合成反応をブロックしたり逆に合成反応を促進させて、選択的に電極修飾を行う。
【0079】
本発明の実施形態では、複数の作用電極をそれらの間隔を狭くして配置することができ、しかも、ほぼ同時にそれらの作用電極の電圧を制御することができる。本発明の実施形態に係るICチップを用いることにより、任意の作用電極に他の電極と異なる物質で修飾することが容易に行える。化学修飾される物質は二種類に限らず多種類の修飾も容易に行える。任意の作用電極の選択はプログラムによりスイッチ群の選択することで容易に行え、しかも任意の個数の作用電極に同時に同じ処理を施すことができる。これらのことは、アルカンチオールを介して蛋白質やDNAを作用電極に修飾させる場合のみならず、任意の作用電極に電解重合によって機能性高分子膜を形成する場合にもあてはまる。
【0080】
任意の電極で水素イオンを電気化学的に発生させて選択的に修飾を行う場合においても、本発明の実施形態を適用すれば、従来のようにデジタルプロジェクターなどを用いて光を当てる必要がなく、作用電極の電位を制御することにより、簡単に行うことができる。
【0081】
次に、誘電泳動を用いて指定した一つの作用電極又は複数の作用電極に対して、蛋白質、DNAで修飾した微粒子、細胞を配置することについて説明する。誘電泳動とは、粒子を懸濁液とした溶媒に不均一電場を印加すると、微粒子を挟む電場に強度差が生じ、溶媒と粒子の分極率の違いにより生じる誘起双極子との間に力が生じて粒子が移動する現象である。電位を設定することにより不均一電場を生じさせる。その際、直流では分極により効率的に誘電泳動を誘起することができないため、交流を用いる。
図14のように作用電極がマトリックス状に配置されている場合を想定すると、2列2行目の作用電極に加える電位を変動電位とする。その際、変動電位の周波数はオペアンプが追随可能な範囲に設定する。すると、変動電位を印加した作用電極近傍の電場が強く、この作用電極から遠ざかるに従い電場が弱い、不均一電場となる。従って、正の誘電泳動が誘起される条件では変動電位を印加した電極近傍に粒子が集まり、負の誘電泳動が誘起される条件では変動電位を印加した電極から粒子が遠ざかるように、動く。なお、誘電泳動が正であるか負であるかは、溶媒及び溶質の誘電率、導電率、交流の周波数によって定まる。
【0082】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るICチップ10は、作用電極11がアレイ状に配列しており、作用電極毎に異なる電位を印加する操作が容易である。そのため、従来困難であった、多種類の分子を一つのICチップ上の多数の電極上に配置することができる。
【0083】
微粒子を規則的に集積化する技術は、コロイド結晶の光学素子としての応用、ナノパーティクルリソグラフィーへの応用、細胞を配列させ移植用の組織材料を人工的に構築する組織工学への応用、センサ素子としての応用など、幅広い分野で必要とされている。この技術としては、微粒子の自己組織化現象を用いる方法と、光、磁場、電場などの外部場を利用して微粒子を操作する方法とに区別される。誘電泳動は、電場を利用した電気的微粒子操作法の一つであり、不均一電場中において、溶媒と微粒子の分極率の違いにより生じる双極子モーメントにより微粒子に力が作用し、微粒子を動かす。特に、大量の微粒子を一括してパターニングする方法として、本発明の実施形態に係るICチップ、即ち、マクロ電極基板を用いて、誘電泳動現象により細胞をパターニングすることができる。このように、本発明のICチップは、一又は複数の作用電極上に微粒子を配置してバイオセンサその他のセンサ素子として用いられる。特に、微粒子を配置することで、微粒子は体積当たりの比表面積が大きく、局所領域へのセンサとして機能する分子を高密度に固定化することができる。微粒子として生きた細胞で作用電極を修飾してバイオセンサとして利用することができる。
【0084】
本発明は上述したように本発明の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることは言うまでもない。なお、本発明において、ICチップとは、集積回路チップの意味であり、LSIチップを排除するものではない。また、作用電極は単に電極と呼ぶことを妨げない。本発明の実施形態では、複数の作用電極を備えたICチップは、多数の電極に対して個々に電圧を印加したり電流を流すことにより各電極に電気的エネルギーを与えて化学反応を起こさせるため、多点電気化学操作用ICチップと呼ぶこともできるし、また、各電極付近で生じている電気化学反応を測定するため、多点電気化学測定用ICチップと呼ぶこともできる。