特許第5769027号(P5769027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5769027繊維基材の製造方法及び樹脂製回転体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769027
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】繊維基材の製造方法及び樹脂製回転体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/18 20060101AFI20150806BHJP
   B29C 39/18 20060101ALI20150806BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20150806BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20150806BHJP
   B29L 15/00 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   B29C43/18
   B29C39/18
   B29B11/16
   B29K105:12
   B29L15:00
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-4612(P2012-4612)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-141826(P2013-141826A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001203
【氏名又は名称】新神戸電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139479
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 一泰
(72)【発明者】
【氏名】小澤 昌也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 匡生
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−000979(JP,A)
【文献】 特開2011−152729(JP,A)
【文献】 特開2009−154338(JP,A)
【文献】 特開2009−113486(JP,A)
【文献】 特開2009−250364(JP,A)
【文献】 特開2009−154339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 39/00−39/44
B29B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒に短繊維を分散させたスラリを調製し、前記スラリを筒状金型に投入して筒状金型から分散媒を排出することにより筒状金型内に短繊維を集積する方法であって、以下の工程により製造される繊維基材の製造方法。
(a)筒状金型の中央に配置され、上方が尖った円錐又は角錐形状のスラリ拡散ピンに向かって、筒状金型へ上方からスラリを投入する工程。
(b)前記(a)工程の後に、前記分散媒と同一の分散媒又は水をスラリ拡散ピンに向かって上方から注いで、スラリ拡散ピンに付着する短繊維を落下させる工程。
(c)筒状金型から分散媒を排出し、筒状金型内に短繊維を集積した繊維集合体となす工程。
【請求項2】
請求項1において、(c)分散媒の排出中又は排出後に、さらに、(d)繊維集合体を圧縮する工程を行う、繊維基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、(c)の分散液の分離が、減圧雰囲気下にて行われる繊維基材の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、(d)繊維集合体を圧縮する工程が、熱をかけながら行われる繊維基材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、繊維集合体が、筒状金型内で歯車の形状を付与される繊維基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの方法により製造した繊維基材に、(e)樹脂を含浸し硬化させる工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、(e)樹脂を含浸し硬化させる工程の後に、(f)樹脂を含浸し硬化させた繊維基材の外周部に歯切り加工工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄造手段による繊維基材の製造方法及び前記製法による繊維基材を用いる樹脂製回転体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維基材に樹脂を保持させて構成した樹脂製回転体は、耐久性能に優れ、車輌用部品、産業用部品等に用いられる樹脂製歯車等の素材として、好適に用いられている。
樹脂製歯車を作製するための繊維基材としては、糸が筒状に織られた又は編まれた筒状体を、端部より裏返しながら巻き込みドーナツ状に形成した繊維基材が、特許文献1に記載されている。特許文献1には、この繊維基材に樹脂を含浸して保持させ、歯部を形成した樹脂製歯車も記載されている。
更に、特許文献1には、繊維基材と金属製ブッシュに設けた抜け止めとの結合強度を向上させるために、成形金型内で2つの繊維基材を、金属製ブッシュを間に介して2段に重ねることが、記載されている。
【0003】
前述したドーナツ状の繊維基材と異なるものとしては、熱硬化性樹脂と短繊維とにより作製した抄造シートをプレス抜きし、この抄造シート素形体を複数枚積層して、成形金型内で加熱加圧成形する樹脂製歯車の製造法が、特許文献2に記載されている。
特許文献1、2に記載される樹脂製歯車は、2つの繊維基材の重ね合わせ界面や、抄造シート素形体の積層界面に、繊維の絡み合いが殆どなく、使用用途によっては、積層面で剥離が発生し易いという問題がある。
また、繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度が不足する問題もある。これらのことから、使用用途によっては、樹脂製歯車の耐久性が不足する心配がある。
【0004】
これらの問題解決のために、短繊維を用いて抄造法による金型で短繊維の集合体を作ることも提案されている。
特許文献3には、短繊維と熱硬化性樹脂の混合スラリを、透水性金型内で加圧又は減圧脱水して、短繊維と熱硬化性樹脂の集合体を得る製造法が開示されている。
しかし、水に分散できる熱硬化性樹脂は、流動性が低く、熱硬化性樹脂と繊維界面での濡れが不充分なために実用に耐える耐久性が得られない。
【0005】
また、特許文献4には、流体流出口を有する成形金型で短繊維の充填、更に樹脂注入も同一の金型で行って加熱加圧をし、繊維強化樹脂複合体を作製する方法が開示されている。
しかし、この方法では、樹脂製回転体の中央部に金属製ブッシュを配置することが難しく、また、注入した樹脂が金網等からなる成形金型全体に洩れて、硬化後に成形物を取り出すことが容易にはできない上に、成形金型は目詰まりするために、回数を重ねての使用(連続生産)ができなくなる難点がある。
【0006】
特許文献5には、短繊維の集合体として、抄造法により得られる円筒状に継ぎ目なく成形された繊維基材を、成形金型内で加熱加圧成形する、樹脂製歯車の製造法が開示されている。
しかし、この特許文献5においても、繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度を向上させる方法については、一切開示されていない。
【0007】
前述した特許文献3〜5の問題点を解決するものとして、抄造法により、金属製ブッシュの外周部の周囲に短繊維を集積させてブッシュの外周部を囲む繊維集合体を作製後、繊維集合体を回転軸の軸線方向である上下方向から、プレスを駆動して圧縮し、繊維基材の作製を、同一の金型及び装置で作製する方法が、特許文献6に示されている。
このような方法であれば、抄造時に熱硬化性樹脂を用いることなく、抄造後に熱硬化性樹脂を含浸させるので、樹脂と繊維界面での濡れについての問題がなく、樹脂製回転体の中央部に、容易に金属製ブッシュを配置できて樹脂漏れの心配がなく、繊維基材と金属製ブッシュとの結合強度も向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−295913号公報
【特許文献2】特開平11−227061号公報
【特許文献3】特開2001−1413号公報
【特許文献4】特開2005−96173号公報
【特許文献5】特開2007−138146号公報
【特許文献6】特開2011−152729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献6に記載されるものは、「上支持台」と呼ばれる部材に対し、スラリを当てながら注液を行うが、この「上支持台」に短繊維が残存する可能性があり、残存した場合には、製品1個当たりの短繊維量がばらつくという問題がある。更には、繊維集合体を圧縮する際、金型部材の隙間に短繊維を噛み込んでしまう基材ガミを引き起こし、金型を破損させ、連続生産を行えなくしてしまうという問題もある。
【0010】
本発明は、製品個々の短繊維量のばらつきが少なく、金型損傷無く、連続生産を行うことが可能な繊維基材の製造方法を提供することを目的とする。
また、繊維基材に樹脂を含浸硬化させた、樹脂製回転体の製造方法及びこの製造方法により製造される樹脂製回転体を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)分散媒に短繊維を分散させたスラリを調製し、前記スラリを筒状金型に投入して筒状金型から分散媒を排出することにより筒状金型内に短繊維を集積する方法であって、以下の工程により製造される繊維基材の製造方法。
(a)筒状金型の中央に配置され、上方が尖った円錐又は角錐形状のスラリ拡散ピンに向かって、筒状金型へ上方からスラリを投入する工程。
(b)前記(a)工程の後に、前記分散媒と同一の分散媒又は水をスラリ拡散ピンに向かって上方から注いで、スラリ拡散ピンに付着する短繊維を落下させる工程。
(c)筒状金型から分散媒を排出し、筒状金型内に短繊維を集積した繊維集合体となす工程。
(2)項(1)において、(c)分散媒の排出中又は排出後に、さらに、(d)繊維集合体を圧縮する工程を行う、繊維基材の製造方法。
(3)項(1)又は(2)において、(c)分散媒の排出が、減圧雰囲気下にて行われる繊維基材の製造方法。
(4)項(2)又は(3)において、(d)繊維集合体を圧縮する工程が、熱をかけながら行われる繊維基材の製造方法。
(5)項(1)〜(4)の何れかにおいて、繊維集合体が、筒状金型内で歯車の形状を付与される繊維基材の製造方法。
(6)項(1)〜(5)の何れかの方法により製造した繊維基材に、(e)樹脂を含浸し硬化させる工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
(7)項(6)において、(e)樹脂を含浸し硬化させる工程の後に、(f)樹脂を含浸し硬化させた繊維基材の外周部に歯切り加工の工程を行う、樹脂製回転体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分散媒又は水をスラリ拡散ピンに向かって注ぎ、スラリ拡散ピンに付着して残存する短繊維を筒状金型内へ落下させることで、製造される繊維基材の目付量(質量)を均一にすると共に、短繊維を金型部材の隙間に噛み込んでしまう基材ガミを防止して、連続生産を行うことが可能となる。また、金型寿命を延ばすこともできる。
(c)分散媒を筒状金型から排出する工程と(d)繊維集合体を圧縮する工程を同時に行う場合は、1工程分工程を削減できるので、より短時間に繊維基材を製造することができる。
(c)分散媒の排出が、減圧雰囲気下にて行われる場合は、より短時間に分散媒の排出を行うことができる。
(d)繊維集合体を圧縮する工程が、熱をかけながら行われる場合は、減圧雰囲気下にて行われる場合と同様に、短時間で繊維集合体に含まれる分散媒の分離を行うことができ、減圧雰囲気下にて更に加熱を行うと、より一層短時間で分散媒の分離をできる。
【0013】
繊維集合体が、筒状金型内で歯車の形状を付与される場合は、最終的に歯車を作製する場合に、後の切削工程を簡略化することができ、材料歩留りを向上することができる。
【0014】
本発明の樹脂製回転体は、繊維基材の目付量が均一であることから、強度も均一となり、耐久性能に優れ、車輌用部品、産業用部品等の高温・高負荷の使用条件に耐え得る樹脂製回転体として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明で製造される樹脂製歯車の縦断面図である。
図2図1に示す樹脂製歯車の金属製ブッシュを示すものであり、(A)は平面図を示し、(B)は縦断面図を示す。
図3】本発明の1実施例である抄造圧縮機の動作を示す概略工程図である。
図4】(A)はブッシュと一体化した繊維基材の縦断面図を示し、(B)は抄造圧縮機の縦断面図を示す。
図5】本発明の1実施例である樹脂製歯車の作製工程を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の繊維基材の製造方法を説明する前に、この製造方法に使用される抄造圧縮機の一例についての説明を行う。
【0017】
<抄造圧縮機>
本発明の繊維基材の製造方法に用いる抄造圧縮機13は、例えば図3に示すように、台座1、中空下圧縮型2、筒状金型3、中空上圧縮型4を備える。
また、前記中空下圧縮型2は、その内部にブッシュ支持台5、下弾性体6を、前記筒状金型3は、その内部にスラリ拡散ピン7を、前記中空上圧縮型4は、押下部材8、上弾性体9を備えている。
以下、個々の部材に関し、詳細に説明する。
【0018】
(台座)
台座1は、抄造圧縮機全体を支えるもので、直接的には、その上面に中空下圧縮型2が載置されるものであり、荷重による歪みが少なく、水平載置できるものであれば、特に制限されるものではない。
台座1の材質は、特に限定されるもではないが、ステンレス、炭素鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を用いることができ、耐食性の観点からステンレスを用いることが好ましい。
台座1の大きさは、特に制限されるものではないが、台座1の水平面の投射領域内に、抄造圧縮機の全体が入るようにすることで、設置場所の選定が行いやすくなる。
また、台座1には、剛性を保てる範囲内にて、重量を軽くするための、ザグリ、貫通孔を設けることもできる。
【0019】
(中空下圧縮型)
中空下圧縮型2は、前述した台座1の上面に設置されるものであり、設置方法としては、ボルト固定、溝固定、嵌合固定、溶接等、各種方法を用いることができ、分解の容易性から、ボルト固定することが好ましい。
中空下圧縮型2は、その内部に、上下方向に開放される中空部分を有しており、この中空部分に、ブッシュをその上面に載置するブッシュ支持台5を配置する。
【0020】
ブッシュ支持台5は、その下面を、台座1に立設した下弾性体6により支持され、弾性体の伸縮により、台座1からの高さを変化させることができる。尚、下弾性体6は、直接台座1に立設するばかりでなく、間接的に台座に立設しても良い。更に、下弾性体6は、複数設置しても良い。
下弾性体6は、先に述べたように、伸縮によりブッシュ支持台5の高さを変化させるものであれば良く、コイルバネ、皿バネ、板バネ、天然・合成ゴムの成形体等を用いることができるが、弾性体に高い圧縮力がかかる使用条件では、耐久性の面でバネが好ましい。バネの材質は、特に制限されないが、耐食性に優れるステンレスや防錆処理が施されたバネが好ましい。ゴム製のバネ等を用いることもできる。
【0021】
ブッシュ支持台5は、その上面にブッシュを載置するものであり、ブッシュの位置ずれを防止する溝が掘られているものを、好ましく用いることができる。また、ブッシュが磁性体であれば、溝の代わりに磁石を用いることもできる。
また、ブッシュ支持台5と、下弾性体6との接続は、接着又は固着させても良いが、ブッシュの種類に応じてブッシュ支持台を交換できるように、脱着自在に接続することが好ましい。
【0022】
中空下圧縮型2と、ブッシュ支持台5との関係は、少なくともブッシュ支持台5の一部が、水平方向から見て、中空下圧縮型2の中空部分に入り込んでおり、弾性体の伸縮により、中空部分への挿入量が変化するようになっている。通常の運転時において、ブッシュ支持台5が、弾性体の伸張により、水平方向から見て、中空下圧縮型2の中空部分から離れるものは、弾性体の縮みにより、ブッシュ支持台5が中空下圧縮型2内へと戻る際に、位置ずれを起こす可能性があり、実用的ではない。
【0023】
中空部分を形成する中空下圧縮型2の内壁には、段部10を設ける。段部10は、ブッシュ支持台5の下部と当接することにより、下弾性体6の伸縮によるブッシュ支持台5の下降を阻止するものであり、中空部分の内径を変化させるか、内壁に突起を設けることで形成することが好ましい。
尚、段部10は、必ずしも内壁の全周にわたって設ける必要はなく、内壁の一部に設けることもできるが、一部に設ける場合は、ブッシュ支持台5の水平を維持するため、等角度間隔で、三箇所以上に設けることが好ましい。具体的には、中空部分を、上下の開放されているところから見て、120度間隔に三箇所、90度間隔に四箇所、60度間隔に六箇所の段部10を設けることができる。
【0024】
段部の位置は、最終的な繊維集合体の厚みにより変化させることができるが、ブッシュ厚み方向の中心から、上下方向に等しい厚みの繊維基材層を形成できることが好ましく、具体的には、中空下圧縮型2の段部10と、後述する中空上圧縮型4の段部11との位置が、中空下圧縮型2の段部10とブッシュ支持台5とが当接した際の、中空下圧縮型2の上端からブッシュ厚み方向中心迄の距離と、中空上圧縮型4の段部11と押下部材8とが接した際の、中空上圧縮型4の下端からブッシュ厚み方向中心迄の距離とを、等しくする位置とすることが好ましい。
【0025】
中空下圧縮型2の上面は、中空部分の上部開放箇所を除いた部分が、後述するスラリを投入する部分になる。そのため、中空下圧縮型2の上面には、スラリ中の液分を排出する排出口12を設けることが好ましく、この排出口12に真空吸引するポンプを接続することが、更に好ましい。このような中空下圧縮型2を用いた場合には、抄造時間をより短縮することが可能となる。
【0026】
(筒状金型)
筒状金型3は、上下に開放された開口を有しており、下側の開口には、中空下圧縮型2が、その外周と密接するように挿入され、スラリが金型外部に漏れないようにしている。尚、上側の開口には、後述する中空上圧縮型4が、挿入される。
筒状金型3の材質は、熱膨張率等を考慮し、更に圧縮歪み率を同様にする必要があるため、中空下圧縮型と同じものを使用することが好ましい。
筒状金型の上下方向長さは、特に制限されるものではないが、少なくともスラリ投入時に、規定量のスラリを入れて、漏洩しないだけの高さがあれば良い。
【0027】
筒状金型3の内部中央には、スラリ拡散ピン7が配置されている。スラリ拡散ピン7は、ブッシュ支持台5に載置したブッシュの上面に位置するもので、その下面は、ブッシュ支持台5の上面にて説明したように、ブッシュの位置ずれを防止する溝が掘られているものを、好ましく用いることができる。また、ブッシュが磁性体であれば、溝の代わりに磁石を用いることもできる。
スラリ拡散ピン7の上面は、上方が尖った円錐又は角錐形状であり、これに向かって、上方から筒状金型へスラリを投入した際に、ブッシュ周囲に均等にスラリ中の短繊維を分散させる。スラリ拡散ピン7の表面に螺旋状の溝を設けることもできる。螺旋状の溝を設けた場合には、スラリが渦を巻くように流れ、分散性をより向上させることができる。
スラリ拡散ピン7は、位置ずれを起こさない限り、ブッシュ上面に対し、固定する必要はなく、単純に載置するだけでも良い。
【0028】
(中空上圧縮型)
中空上圧縮型4は、中空下圧縮型2と、対向配置され、筒状金型3の上側開口に挿入される。中空上圧縮型4の外周と、筒状金型3の内壁とは、中空上圧縮型4の挿入時に密接し、スラリの漏洩を阻止する。
また、中空上圧縮型4の材質は、熱膨張率等を考慮し、更に圧縮歪み率を同様にする必要があるため、中空下圧縮型2及び筒状金型3と同じものを使用することが好ましい。
【0029】
中空上圧縮型4は、その中空部分に、押下部材8を有しており、この押下部材8が、スラリ拡散ピン7に当接する。押下部材8は、その上面を上弾性体9により支持されており、弾性体の伸縮により、押下部材8の位置を変化させる。
上弾性体9は、先に述べた下弾性体6と、同じものを用いても、異なるものを用いても良いが、中空下圧縮型2を加熱したり、弾性体に高い圧縮力がかかる使用条件では、耐久性の面でバネが好ましい。また、上弾性体9と下弾性体6を、共に同じバネ定数を有するバネとすることが好ましく、このようにすることで、上方からの圧縮と、下方からの圧縮とが、等しい速度でなされ、上下方向における繊維密度のばらつきを、低減することができる。
また、押下部材8と、上弾性体9との接続は、接着又は固着させても良いが、ブッシュの種類に応じて押下部材8を交換できるように、脱着自在に接続することが好ましい。
【0030】
中空上圧縮型4と、押下部材8との関係は、少なくとも押下部材8の一部が、水平方向から見て、中空上圧縮型4の中空部分に入り込んでおり、弾性体の伸縮により、中空部分への挿入量が変化するようになっている。通常の運転時において、押下部材8が、弾性体の伸張により、水平方向から見て、中空上圧縮型4の中空部分から離れるものは、弾性体の縮みにより、押下部材8が中空上圧縮型4内へと戻る際に、位置ずれを起こす可能性があり、実用的ではない。
【0031】
中空部分を形成する中空上圧縮型4の内壁には、段部11を設ける。段部11は、押下部材8の上部と当接することにより、上弾性体9の伸縮による押下部材8の上昇を阻止するものであり、中空部分の内径を変化させるか、内壁に突起を設けることで形成することが好ましい。
尚、段部11は、必ずしも内壁の全周にわたって設ける必要はなく、内壁の一部に設けることもできるが、一部に設ける場合は、押下部材8の水平を維持するため、等角度間隔で、三箇所以上に設けることが好ましい。具体的には、中空部分を、上下の開放されているところから見て、120度間隔に三箇所、90度間隔に四箇所、60度間隔に六箇所の段部11を設けることができる。
【0032】
段部11の位置は、中空下圧縮型2の段部10にて述べたように、前述した中空下圧縮型2の段部10と、中空上圧縮型4の段部11との位置が、中空下圧縮型2の段部10とブッシュ支持台5とが当接した際の、中空下圧縮型2の上端からブッシュ厚み方向中心迄の距離と、中空上圧縮型4の段部11と押下部材8とが接した際の、中空上圧縮型4の下端からブッシュ厚み方向中心迄の距離とを、等しくする位置とすることが好ましい。
【0033】
中空上圧縮型4の下面は、温度調整可能なことが好ましく、加圧圧縮時に加熱することで、短繊維に付着した液分を素早く乾燥させることができる。
温度調整は、可変抵抗を用いたヒータの抵抗値を変化させるか、単純にヒータのON−OFFによる制御を行うものであっても良い。
【0034】
(スラリ注入上型)
抄造圧縮機は、必要に応じてスラリを注入する上型を備えることができる(図3(B)参照)。スラリ注入上型20のスラリ注入孔21は、ブッシュの周囲に集積させた繊維の目付量が均一となる繊維基材を作製するため、スラリ拡散ピン7の上方に配置するが、真上に配置するのが好ましい。
更に、スラリ注入孔21の先端は、スラリ拡散ピン7に向かって凸となるノズルを配置する事が好ましい。これはスラリ注入後、スラリ拡散ピン7に短繊維が付着して残ると発生する(d)工程(繊維集合体を圧縮する工程)時の繊維の金型への噛み込みによる金型破損を防止するためであり、スラリ注入後、分散媒または水を注入する際、少量で効率よくスラリ拡散ピン7に付着した短繊維を落とすことが可能になる。
【0035】
また、スラリ注入上型20は、スラリ注入時、筒状金型3と密着し、密閉状態になる構造であることが好ましい。これは、スラリ注入時又は注入後に、中空下圧縮型2の排出口より真空ポンプで分散媒を排出する際、筒状金型内を密閉する事で効率よく排出可能になり、また金型からスラリが溢れてこぼれる事がなくなる。
【0036】
<ブッシュ>
ブッシュは、ブッシュ支持台5と、スラリ拡散ピン7の間に挟持される。以下、ブッシュについて詳細に述べる。
ブッシュは、繊維基材の径方向中心に位置し、最終的に所望するものが樹脂製歯車であれば、回転軸に固定されて、使用される。尚、ブッシュの材質は、特に限定されるものではないが、強度を考えると、金属製のものが好ましい。
図1は、模式的に示した樹脂製歯車の縦断面図である。この樹脂製歯車30は、図示を省略する回転軸に固定されて回転する、金属製ブッシュ31を備えている。金属製ブッシュ31の中央部には、図示を省略する回転軸が嵌合される貫通孔32が形成されている。
また、金属製ブッシュ31の外周部には、複数の回り止め部を構成する突出部33が、周方向に所定の間隔をあけて一体に形成されている。この間隔は、適宜決定されるものであるが、金属製ブッシュ31の中心部から見て、等角度間隔に設けることで、抜けに対する強度を均一にすることができる。
尚、金属製ブッシュ31は、軸が一体に形成されているものでもよい。
【0037】
金属製ブッシュ31について、具体的な一例を挙げて説明すると、複数の突出部33の軸線方向に測った厚み寸法:L2は、金属製ブッシュ31の軸線方向に測った厚み寸法:L1よりも小さい。そして回り止め部を構成する突出部33は、頂部の厚さが厚く基部の厚さが薄いアンダーカット形状である。このアンダーカットは、周囲の樹脂成形部分との界面にて、界面破壊が生じ、金属製ブッシュ31のみが空回りするのを阻止するもので、金属製ブッシュ31の回転軸方向断面での角度θが、5〜40°のものを用いている。
【0038】
回転方向への負荷に耐える回り止め部の作用を高めるためには、図2に示すように、回り止め部となる突出部33は、少なくとも高さh1の突出部33と、二つの突出部33間に形成されて高さh2の底部を有する凹部34とが、交互に配列されたものが好ましい。このようなアンダーカットの形状を持ち、角度θが、5〜40°、好ましくは、10〜35°の突出部33を用いると、繊維基材内に、回り止め部としての複数の突出部33が完全に埋まった状態となり、両者間の機械的結合の強度を充分なものとすることができる。
尚、隣り合う二つの突出部33間に形成される凹部34内に、繊維基材の一部が入ることによっても、前述の機械的強度は当然にして増加する。
【0039】
上記アンダーカット形状を有した回り止め部を構成する突出部33は、焼結法で成形すれば、精度よく設計通りに作ることができる。突出部33の最適構造は、例えば、外径:60mmの樹脂製歯車の場合、突出部(山)の数が30であり、突出部の間に形成される凹部すなわち谷部分の数は29である。尚、これらの数は、樹脂製歯車の径や厚さ、歯の構造に応じて適宜変更される。
【0040】
<スラリ>
次に、本発明に用いるスラリについて説明する。尚、本発明に用いるスラリは、以下に述べるものに限定されるものではない。
【0041】
(スラリの分散液)
スラリに用いる分散媒は、短繊維を分散可能であり、使用する短繊維に対して、性状を悪化させないものでれば、特に限定されるものではなく、有機溶媒、有機溶媒と水との混合物、水等を用いることができ、特に経済的で、環境への負荷が少ない、水を使用することが好ましい。
有機溶媒を用いる場合には、安全面に充分注意し、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用することも可能である。
【0042】
(短繊維)
分散媒中に分散させる短繊維は、融点、又は分解温度が、250℃以上の短繊維からなるものが好ましい。このような短繊維を用いることで、成形時の成形温度や加工温度、実使用時の雰囲気温度において、短繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた繊維基材又は樹脂製歯車とすることができる。
このような短繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた、少なくとも1種以上の短繊維を使用することが好ましく、特に、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維との混合繊維を用いた場合には、耐熱性、強度、樹脂成形後の加工性のバランスが優れている。
【0043】
また、短繊維は、引張強度:15cN/dtex以上、引張弾性率:350cN/dtex以上の高強度高弾性率繊維を、少なくとも20体積%以上含むことが好ましい。このような短繊維を用いた場合は、使用中にかかる高負荷に耐え得るものとすることができる。
【0044】
短繊維の単繊維繊度(太さ)は、好ましくは、0.1〜5.5dtex、より好ましくは、0.3〜2.5dtexの範囲である。0.1dtex未満の場合、製糸技術上困難な点が多く、断糸や毛羽が発生して良好な品質の繊維を使用することが困難なだけでなく、コストが高くなり好ましくない。5.5dtexを越えると、繊維の強度低下が、徐々に大きくなるため好ましくない。
【0045】
短繊維の長さは、特に限定されるものではないが、好ましくは、1〜12mm、より好ましくは、2〜6mmである。繊維長が1mm未満の場合、繊維強化樹脂成形体の機械特性が、徐々に低下する。繊維長さが、12mmを越えると、短繊維の絡み合いが大きすぎて、均一な地合形成が困難になるだけでなく、分散液に分散させた短繊維を、抄造圧縮装置に移送する配管内で、徐々に短繊維による詰まりが発生し易くなり好ましくない。
【0046】
短繊維の樹脂成形体中に含まれる割合は、所望する樹脂製歯車等の成形体の強度等によって異なるが、30〜50体積%であることが好ましい。樹脂成形体中に占める短繊維の割合が30体積%未満である場合、樹脂を短繊維で補強する効果がほとんど見られず、また、後述する金属製ブッシュの回り止め部への短繊維の充填も不充分となる。短繊維の割合が50体積%を越えた場合は、短繊維の占める割合が高すぎるため、繊維基材に樹脂を含浸する成形時に樹脂含浸不足が発生し易くなる等の問題が発生する。
そのため、樹脂成形体に含まれる短繊維の割合は、強度があり、短繊維が確実に充填され、しかも樹脂の含浸を阻害しない範囲を選択することが好ましく、35〜45体積%が、特に好ましい。
【0047】
図3に示す抄造圧縮装置を用いて繊維基材35を金属製ブッシュ31と一体化して形成したものを次工程に移動又は搬送する際に、形状を維持するための強度を付与するためには、短繊維がアラミド繊維をフィブリル化処理した微細繊維を含み、微細繊維のフリーネスが100〜400mlであって、微細繊維の含有量が、短繊維中の30質量%以下になるように配合することが望ましい。
【0048】
望ましい態様としては、パラアラミド繊維の機械的剪断で繊維軸方向に裂開させたフィブリル化処理のアラミド微細繊維を混合することが好ましい。フリーネスが400mlを超えると、フィブリル化が不充分のため繊維基材5の形状を維持するための強度を付与する上で好ましいものでなくなる。フリーネスが100ml未満になると、繊維軸方向に裂開させるだけでなく、径方向に剪断されて粉末状態になってしまうために繊維の絡みが悪くなって、繊維基材の形状を維持するための強度を付与する上で好ましいものでなくなる。また、濾過性が悪化し、樹脂含浸の妨げとなる。
【0049】
フィブリル化処理したアラミド微細繊維が30質量%を超えると、繊維間の隙間にフィブリル化した微細繊維が充填され、樹脂注入成形時に、樹脂の樹脂含浸が阻害され、含浸不良などの不具合が生じてしまうことがある。より好ましくは、適度な強度を付与し、樹脂含浸性を阻害しない5〜10質量%のフィブリル化した微細繊維を配合するのが好ましい。
【0050】
(短繊維の分散濃度)
短繊維の分散濃度は、0.3〜20g/リットル以下であることが好ましい。繊維長を1mmより短くした場合、分散濃度を20g/リットルより高濃度化することが可能であるが、樹脂成形体とした場合の機械特性が低下する。また、短繊維の繊維長を12mmより長くした場合は、繊維が長すぎるため繊維同士が絡まり分散濃度を0.3g/リットルより低濃度にしても十分分散させる事ができない。
【0051】
<樹脂製歯車>
以下、本発明の樹脂製回転体を用いて、好適に製造される樹脂製歯車について説明する。
樹脂製歯車は、繊維基材に樹脂を含浸硬化させ、歯車形状に成形したものである。より具体的には、歯車を回転させる回転軸に嵌合する金属製ブッシュと、この金属製ブッシュの周囲に配置される歯部とを有するものを、好適に使用することができる。
【0052】
(歯部)
歯部は、先に述べた金属製ブッシュの外周に配置される。先に説明した図1を用いて、より具体的に述べると、1つの繊維基材35が、金属製ブッシュ31の外周部36の外側の位置に、外周部36に嵌った状態で配置されている。そして、繊維基材35は、樹脂が含浸され且つ樹脂が硬化して形成された樹脂成形体37となる。歯部は、この樹脂成形体37の外周に形成される。
歯部の形成は、樹脂を含浸させる際に、最終的な歯の形状を有した金型を用いて行うことも、一旦樹脂成形体37を作製した後に、切削加工等により作製しても良いが、精度の高い歯部を形成するのであれば、切削加工により行うことが好ましい。また、切削加工は、荒削り加工を行った後に、精度の高い切削加工を行うように、多段階にて行うこともできる。
【0053】
<抄造圧縮機の駆動>
抄造圧縮機は、先に述べた上下の中空圧縮型の離間距離を変化させることができる駆動装置を有するが、駆動源としては特に限定されるものではなく、移動速度、加圧力が制御可能な電動プレス機を使用することができる。
また、駆動すべきものは、上下の中空圧縮型の何れでもよいが、分解清掃が行い易いことから、中空上圧縮型を上下駆動させることが好ましい。
【0054】
<繊維基材の製造方法>
以下、本発明の繊維基材の製造方法について、歯車として使用する場合の説明をする。
図3に概略的に示すように、繊維基材35は、抄造圧縮装置13を用いて、金属製ブッシュ31の外周部36の外側位置に繊維集合体38を形成し、この繊維集合体38を、金属製ブッシュ31を回転させる回転軸(図示省略)の軸線方向に圧縮することにより形成される。
先ず、抄造法により金属製ブッシュの外周部の周囲に短繊維を集積させる、工程(a)について説明を行う。
【0055】
<工程(a)>
工程(a)では、スラリ拡散ピンに向かって、筒状金型へ上方からスラリを投入する。このスラリは、筒状金型に一旦貯留するか、投入と並行して分散媒を筒状金型外へ排出する。
先ず、抄造圧縮装置13について述べると、図3(A)に示すように、抄造圧縮装置で用いる金型は、圧縮動作時に繊維集合体38(図3(C)参照)が金属製ブッシュ31の径方向外側に広がるのを規制する筒状金型3と、この筒状金型3の内部に配置されて、金属製ブッシュ31の外周部36よりも内側に位置する部分を軸線方向の両側から挟み且つ圧縮動作時に繊維集合体38が、金属製ブッシュ31の径方向内側に広がるのを規制するブッシュ支持台5及びスラリ拡散ピン7と、筒状金型3とブッシュ支持台5及びスラリ拡散ピン7の間に位置して、圧縮動作時に繊維集合体38を軸線方向両側から挟んで圧縮する中空上圧縮型4及び中空下圧縮型2と、繊維集合体38を加圧圧縮時に、スラリ拡散ピン7を押さえるための、押下部材8を備えている。
【0056】
中空下圧縮型2は、繊維集合体38に含まれる分散媒の透液性を付与するために、分散媒の排出を行う排出口12を有している。この排出口12には、図示を省略する真空吸引ポンプが取付けられ、分散媒の排出を短時間で完了することができる。尚、この例では、排出口12からの分散媒の排出時に、短繊維が流出するのを防止するため、中空下圧縮型2の上面に、底部材39が配置されている。
この底部材39には、金網を使用でき、そのメッシュサイズを、10〜250メッシュとすることが好ましい。250メッシュより大きくなると、徐々に分散液の濾過抵抗が大きくなり、金型の内部に入れた短繊維を含む後述のスラリから、ポンプで吸引して液分を排出させ、短繊維と液分の分離を行う時間が長くなり、製造サイクルが長くなる。また、10メッシュより小さいと、繊維長が長い繊維を使用しても、網目が大きいために繊維の多くが、液分と共に流出してしまう。こうなると、繊維集合体38の繊維密度が著しく低下してしまう問題が発生する。
尚、本明細書にて用いるメッシュサイズは、JIS G 3555に規定されるものに順ずる。
【0057】
ブッシュ支持台5及びスラリ拡散ピン7は、金属製ブッシュ31の外周部よりも内側に短繊維が入り込まないように、金属製ブッシュ31の外周部36よりも内側に位置する部分を、筒状金型3の中心線が延びる方向の両側から挟んで支持する。図3に示す例では、ブッシュ支持台5、スラリ拡散ピン7、中空下圧縮型2が、上方向に移動可能に構成されているが、中空上圧縮型4と押下部材8が下側に移動する構造でも良い。
金属製ブッシュ31をブッシュ支持台5及びスラリ拡散ピン7の間に挟む場合には、図3(B)に示すように、スラリ拡散ピン7をブッシュの上に載せ、スラリ拡散ピン7の重みで、金属製ブッシュ31を挟持する。
【0058】
短繊維を分散媒に分散して形成したスラリは、図3(B)に示すように、筒状金型3とスラリ注入上型20を密閉し、スラリ注入孔21から供給される。
スラリは、スラリ拡散ピン7に向かってその上方から供給し、これにより短繊維が、スラリ拡散ピン7の周囲に均等配分されて広がる。
【0059】
<工程(b)>
工程(b)では、スラリ拡散ピンに向かってその上方から、前記(a)工程にて用いた分散媒と同一の分散媒又は水を注ぎ、スラリ拡散ピンに付着する短繊維を落下させる。
工程(a)にてスラリ投入後、スラリ拡散ピン7の上部に繊維が付着して残る。スラリ拡散ピン7に繊維が残ると次工程(c)及び(d)の分散媒排出中又は排出後に繊維集合体を圧縮する工程において、中空上圧縮型4及び押下部材8とスラリ拡散ピン7の間に短繊維を噛み込んでしまう基材ガミが発生し、金型が損傷し、連続生産できなくなる。そこでスラリ投入後、スラリ注入孔21よりスラリの分散媒と同じ分散媒又は水を注入し、スラリ拡散ピン7の上部に残った短繊維を洗い流す。
短繊維を洗い流す分散媒又は水の注入開始タイミングは、金型内のスラリの液面が金型内に集積した繊維集合体の上面に到達するタイミングで投入するのが好ましい。
短繊維を洗い流す分散媒又は水の量は、金型内から分散媒又は水が溢れない程度に少量投入し、分散媒又は水の注入回数を2回以上(複数回)とする事で、確実にスラリ拡散ピン7の上部に残った短繊維を洗い流す事ができる。
分散媒又は水を2回以上注入する場合の間隔は、先に注入した分散媒又は水の液面が金型内に集積した繊維集合体の上面に下がるまであけるのが好ましい。
【0060】
<工程(c)、(d)>
工程(c)では、筒状金型から分散媒を排出し、筒状金型内に短繊維を集積した繊維集合体となす。
工程(d)では、繊維集合体を圧縮する工程を行う。
より具体的に一例を述べると、図3(B)に示すように、筒状金型内を真空吸引して、中空下圧縮型2に設けた複数の排出口12から液分を排出することにより、金属製ブッシュ31の外周部の周囲を囲む繊維集合体38を作製する。
このようにブッシュ支持台5及びスラリ拡散ピン7を用いると、金属製ブッシュ31の位置決め及び支持を、簡単に行うことができる。
【0061】
また、繊維集合体38の外周面の形状は、筒状金型3の内周面の形状によって定まる。そのため、筒状金型3の内周面を歯車形状とすることにより、繊維集合体38の外周面に歯車形状の凹凸を形成することも可能になる。
前述の抄造圧縮装置で用いる金型であれば、中空上圧縮型4及び中空下圧縮型2にて、繊維集合体38を圧縮した場合に、金属製ブッシュ31の径方向の内側及び外側の両方向に短繊維が流出するのを確実に阻止することができる。
【0062】
中空下圧縮型2に設けた複数の排出口12から液分を排出した後、図3(C)に示すように、ブッシュ支持台5、スラリ拡散ピン7、中空下圧縮型2が上方向に移動する。すると、先ず始めにスラリ拡散ピン7と押下部材8とが接触し、上弾性体9及び下弾性体6の力で金属製ブッシュ31を固定する。尚、図3に示すものでは、上下の弾性体として、バネ定数の等しいバネを用いている。
更に、ブッシュ支持台5、スラリ拡散ピン7、中空下圧縮型2を上昇させ、ブッシュ支持台5と中空下圧縮型2に設けた段部10、押下部材8と中空上圧縮型4に設けた段部11とが当接し、中空下圧縮型2と中空上圧縮型4との距離が縮まらない位置(図3(D)参照)まで上昇させる。
【0063】
ここで、図4を用いて、繊維基材の厚みについて、詳細に説明する。
図4(A)に示すように、金属製ブッシュ31の厚み:T1と、段部10、11(図3参照)により決定される繊維基材35の厚み(圧縮時の厚み):T2との関係は、(イ)T1=T2、(ロ)T1>T2、(ハ)T1<T2の3パターンから、任意に選択することが可能である。
また、金属製ブッシュ31の下面から圧縮時の繊維基材35下面迄の距離:T3と、金属製ブッシュ31の上面から圧縮時の繊維基材35上面迄の距離:T4との関係は、(ニ)T3=T4、(ホ)T3>T4、(ヘ)T3<T4の3パターンから、任意に選択することができ、これは段部段部10、11の高さL3、L4(図4(B)参照)を変更することで可能となる。
更に、前述した(イ)〜(ハ)、(ニ)〜(ヘ)を組合せた仕様にすることもできる。
【0064】
圧縮を行う時間及び温度は、使用する短繊維の種類によって任意に変更できるが、前記圧縮の際、中空上圧縮型4にヒータを取り付け、加熱した状態で圧縮することにより、抄造後の繊維基材35に含まれる液分を取り除く時間を短縮することができると共に、圧縮後の繊維基材35の厚みの経時変化を抑えることができる。好ましくは、使用する分散媒、本例では水の沸点以上の温度:100〜180℃で、0.1〜10分間圧縮することにより、厚みの経時変化の殆ど無い繊維基材35を得ることができる。
また、前記圧縮の際、中空下圧縮型2の排出口12から真空吸引した状態で圧縮することにより、抄造後の繊維基材35に含まれる液分を取り除く時間を短縮することができる。
【0065】
尚、工程(c)と、工程(d)とは、同時に行っても、工程(c)を行った後、工程(d)を行っても良い。
順番に行った場合は、先に分散媒と繊維基材を十分に分離する事ができるので、工程(d)の圧縮時に上型を加熱した場合、上型の温度低下幅を少なく繊維を圧縮する事ができる。
同時に行った場合は、1工程分の工程を削減できるのでより短時間に繊維基材を製造する事ができる。
【0066】
<工程(e)>
工程(e)の樹脂を含浸し硬化させる工程について、以下に説明する。
図5に示すように、繊維基材35を備えた樹脂製回転体成形用素材40を、金型41内に配置した後に、金型41に液状樹脂を注入して繊維基材35に樹脂を含浸させ、その後硬化させて、樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を成形する。
金型41は、固定金型42と、固定金型42の中心に配置されて上下方向に変位する移動金型43と、この移動金型43と対になって金属製ブッシュ31を挟持する上金型44とを備えている。
【0067】
上金型44の押圧部44Aが、固定金型42内に挿入されて、金属製ブッシュ31を押圧すると、移動金型43は、上金型44の挿入量に応じて下方に変位する。
上金型44で、固定金型42の開口部を完全に塞いだ後に、固定金型42内に液状樹脂が注入される。この際、液状樹脂は、固定金型42内を真空にすることで、素早く注入することができる。
その後、樹脂が硬化したら、繊維基材35を芯材として成形された樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を金型41から取り出して、樹脂製回転体の製造を完了する。
【0068】
繊維基材35に含浸させる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の何れでも良く、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、選択された樹脂の種類に応じた硬化剤とを組み合わせたものが使用できる。
これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、触媒には硬化促進剤として、例えば、n−オクチルブロマイドが5質量部以下からなる樹脂を使用することが好ましい。尚、この触媒は、5質量部を超えて添加すると、硬化時間が短くなって、繊維基材35に樹脂が充分含浸される前に樹脂が硬化してしまうため、樹脂含浸不良の問題が発生し易くなる。
【0069】
<工程(f)>
工程(f)では、樹脂を含浸硬化させた繊維基材の外周部に歯切り加工工程について、以下に説明する。
歯は、型成形時に付加することも、型成形の後に切削加工により付加することもできるが、精度を高くすることができることから、切削加工により設けることが好ましい。
【0070】
また、切削加工は、三段階に分けて、外周部分の第一加工、歯形創作の第二加工、歯面仕上げの第三加工とすることが好ましい。
第一加工について、より詳細に述べると、旋盤加工を施し、外周面および内径部を切削し、所定の寸法に加工する。この段階では、歯の作製は行われず、単純な円周加工になる。
第二加工について、より詳細に述べると、ホブ盤にて、歯形形状に加工する。ホブ盤としては、例えば三菱重工株式会社製のGE15A(商品名)を用いることができる。
第三加工について、より詳細に述べると、シェービング盤にて歯面の仕上げ加工をする。シェービング盤としては、例えば三菱重工株式会社製のFE30A(商品名)を用いることができる。尚、シェービング加工は、最終的な仕上げ加工なので、切削量は少なく、20〜150μm程度になる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
スラリを製造するために、短繊維の分散濃度が、4g/リットルとなる量の水を満たしたタンクを用意する。そしてこのタンク内に、樹脂成形体中の短繊維総量が40体積%となる量の短繊維を入れる。具体的には、短繊維として、単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:3mm長のパラ系アラミド短繊維(帝人株式会社製「テクノーラ(帝人株式会社商標)」)を45質量%と、単繊維繊度:2.2dtex、繊維長:3mm長のメタ系アラミド短繊維(帝人株式会社製「コーネックス(帝人株式会社商標)」)を50質量%、そしてデュポン株式会社製「ケブラー(デュポン株式会社商標)パルプ」を、フリーネス値:300mlまでフィブリル化処理した微細繊維:5質量%となる量をそれぞれ投入する。次に攪拌機でタンク内の水を攪拌し短繊維を分散させスラリを調製する。
【0072】
次に、図3(A)に示す抄造圧縮装置を用いて、ブッシュ支持台5上に金属製ブッシュ31を位置決めし、スラリ拡散ピン7を金属製ブッシュ31上に位置ズレしないように載置し、金属製ブッシュ31を挟持する。尚、スラリ拡散ピン7の上側に凸となる円錐形状部の角度は90°である。
使用する金属製ブッシュ31の突出部33及び凹部34の形状(図2参照)は、h1=2mm、h2=0.5mmであり、アンダーカット形状で、金属製ブッシュ31の仮想中心横断面と側面との間の角度θが20°である。
ここで、中空下圧縮型2の位置は、金属製ブッシュ31の軸方向中央から底部材39上面までの距離が40mmとなる位置とした。
【0073】
図3(B)に示すスラリ注入上型20と筒状金型3を密着させ抄造圧縮装置内に、上記スラリを投入する。そして、筒状金型内を真空吸引して中空下圧縮型2に設けた複数の排出口12から水を排水することにより、短繊維と水を分離して円筒状の繊維集合体38を得る。真空吸引し短繊維と水を分離後、スラリ注入孔21より水を注入し、スラリ拡散ピン7の上側に残った短繊維を洗い流す。スラリ注入孔21は、スラリ拡散ピン7の直上に配置する。
尚、排水時に排出口12より短繊維が流出するのを防止するために、中空下圧縮型2上には底部材39を配置した。この底部材39としては金属製:100メッシュの金網を用いた。
【0074】
次に金属製ブッシュ31の回り止め部に、更に強固に短繊維を喰い込ませるために圧縮を行う。図3(C)に示すように、金属製ブッシュ31の軸方向中央から150℃に加熱した中空上圧縮型4下面までの距離が40mmとなる位置まで、中空下圧縮型2、筒状金型3、ブッシュ支持台5、金属製ブッシュ31、スラリ拡散ピン7、繊維集合体38を、台座1ごと上昇させる。この位置は、金属製ブッシュ31が、中空上圧縮型4と中空下圧縮型2の間の、中央に位置する状態となる位置である。
【0075】
図3(D)に示すように、金属製ブッシュ31が、中空上圧縮型4と中空下圧縮型2の間の中央に位置する状態で、台座1を速度:1〜5mm/sで上昇させ、繊維集合体38が厚み:10mmとなるまで圧縮する。
そして、加熱した状態で2分間圧縮することにより、金属製ブッシュ2と一体化した樹脂製回転体成形用素材を得た。
尚、前記圧縮の際、中空下圧縮型2の貫通孔32から真空吸引した状態で圧縮している。また、図4(B)に示す、ブッシュ支持台5の長さ:L7=100mm、スラリ拡散ピン7の長さ:L6=70mm、押下部材8の長さ:L5=30mm、金属製ブッシュ31の厚み:T1=10mm、中空上圧縮型4と中空下圧縮型2の段部の高さL3及びL4:L3=L4=100mmとした。
【0076】
<繊維基材の作製>
前述した抄造圧縮装置及びスラリを用いて、10個の繊維基材を作製した。
【0077】
[比較例1]
スラリ拡散ピン7に付着し残留する短繊維を洗い流すことをしない以外は、実施例1と同じ方法で繊維基材を作製した。
【0078】
前述した実施例1及び比較例1に示す方法でスラリ注入後、スラリ拡散ピン7上に短繊維が残る回数を測定(10回の繊維基材作製中の繊維残り回数)した。測定結果を以下の表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1より、短繊維を洗い流すことをしなかった比較例1は、10回中10回スラリ拡散ピン7上に短繊維が残ったのに対し、洗浄水を投入した実施例1はスラリ拡散ピン7上に繊維が残ったのは10回中0回であった。そのため比較例1と比べ、工程(b)にてスラリ拡散ピンに付着にし残留する短繊維を洗い流す工程を含む本願発明では、スラリ拡散ピン7上に繊維が残らないため製品個々の繊維量ばらつきが少なく、また金型損傷が発生しないため連続生産を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…台座、2…中空下圧縮型、3…筒状金型、4…中空上圧縮型、5…ブッシュ支持台、6…下弾性体、7…スラリ拡散ピン、8…押下部材、9…上弾性体、10…段部、11…段部、12…排出口、13…抄造圧縮機、20…スラリ注入上型、21…スラリ注入孔、30…樹脂製歯車、31…金属製ブッシュ、32…貫通孔、33…突出部、34…凹部、35…繊維基材、36…外周部、37…樹脂成形体、38…繊維集合体、39…底部材、40…樹脂製回転体成形用素材、41…金型、42…固定金型、43…移送金型、44…上金型、44A…押圧部、
図1
図2
図3
図4
図5