【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>米粉パン生地へのアルファ化米粉の配合の検討
アルファ化させていない通常の米粉に対し、適宜の量のアルファ化米粉を混合したものを主原料として製パンを行った際の、アルファ化米粉の混合割合が生地の膨らみ具合、成型性への影響について検討した。
【0043】
生地の主要として、以下の通りの割合で配合した。([表1])
【0044】
【表1】
【0045】
米粉は、市販の上新粉(日の本穀粉株式会社製)とアルファ化米粉(フライスター社製)を使用した。使用した上新粉は生米を粉砕したものであって、デンプンがアルファ化していない通常の上新粉である。また、アルファ化米粉は生米を炊飯した後に乾燥して粉砕したものであって、米粉に含まれるデンプンのほぼ全てがアルファ化しているものである。以下、便宜的に、純生粉をB粉、アルファ化米粉をA粉とする。
【0046】
上記A粉とB粉を表2に示す割合で混合したものを主原料の米粉として、水等を表1に示す割合でミキサーを使って室温で2分間混合したものをパン生地とした。このように作製した生地についてせん断粘度測定すると共に、一個80グラムの略ドーム状に手で生地を成形し40℃で30分発酵させて生地を膨張させた。その後、180℃で30分間焼成し、焼き上がった米粉パンの断面を観察し、生地の膨らみ具合を評価した。
【0047】
なお、せん断粘度は、TAインストルメント社製の回転タイプのレオメータ(製品名ARES)を用いて、平行平板型(円形の板が2枚あり、この間に試料を入れて、片側(下側)が回転して、片側(上側)で応力を検出する)を用い、実験は室温で、空気雰囲気中で行った。測定は、一定のひずみ速度(0.01 /s)で測定を開始した後、ほぼ粘度が安定した時の値を測定値とすることとし、具体的には測定開始から約1000秒後の粘度を測定値とした。
【0048】
また、製パン性の評価は、イースト発酵により大きなひび割れ等を生じることなく生地全体が均一に膨張することを主な観点として、その他にパンを製造する際の問題の有無について適宜判断を行った結果を加味して総合的に行った。
【0049】
検討の結果を表2に示す。また、焼成して得られたパンの外観図を
図1に、断面図を
図2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示したように、製造した生地は混合したアルファ化米粉の量に応じてせん断粘度が変化するが、概ね1.2×10
5〜2.0×10
5(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示し、いずれもドーム状に成形可能であった。また、
図1に示したように、米粉の10〜30%をアルファ化米粉としたサンプル2〜4では、イースト発酵や焼成により大きなひび割れ等を生じることなく生地全体が均一に膨張してスポンジ構造を形成しており、製パンが可能なことが示された。また、このサンプル2〜4のパンを試食したところ、引用文献5に記載される低いせん断粘度の生地を用いて製造したパンと同様に、米粉パン独特のもちもち感を有したパンであることが確認された。ただし、
図3に示すように、サンプル2〜4ではいずれも焼成後のパンの表面にイーストに起因すると思われる析出物が観察される点で改善すべき課題を有していた。一方、
図1に示したように、アルファ化米粉を含まないサンプル1では全体として膨張が小さく、断面観察においても内部に存在する気泡が僅かであると共に、表面には多数の大きく深いひび割れを生じており、製パン性が見られなかった。また、米粉の40〜100%をアルファ化米粉としたサンプル5〜7では、内部に大きな割れや空洞生じた結果、実質的に膨張が起こっておらず、製パン性に問題が見られた。
【0052】
<実施例2>米粉パン生地への油脂添加の検討
実施例1で作成した生地に適宜の量のベニハナ油を添加して、ベニハナ油の添加に伴う成形性、製パン性への影響について検討した。実験は実施例1で作成したアルファ化米粉を20%混合した米粉を用いたサンプル3の生地に対して、表3に示すように1.0〜10重量部(米粉を100重量部とした時のベニハナ油の重量)のベニハナ油をそれぞれ添加した生地を、実施例1と同様に作成、焼成を行ってせん断粘度と製パン性の評価を行った。
【0053】
検討の結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表2に示したように、ベニハナ油の添加を添加して製造した生地はその添加量に応じてせん断粘度が若干ずつ増加し、概ね1.6×10
5〜2.0×10
5(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示した。また、定量的な測定は困難であるが、ベニハナ油の添加により生地の成形性が大きく変化した。つまり、ミキサーで2分間程度の混練を行った生地において、ベニハナ油を添加していない生地では、3倍程度の長さに引き延ばした段階で生地がちぎれるのに対して、3.0重量部のベニハナ油を添加した生地においては、ちぎれを生じるまでの伸び量がその2〜3倍程度に増加し、ベニハナ油の添加による展伸性の向上が明らかであった。
【0056】
また、3.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地においては、そのような展
伸性はほぼ同様である一方、5.0重量部以上のベニハナ油を添加した生地においては混
練の際にミキサーの内側等に油が付着するようになることから、油が生地に溶解せず、生
地中に微細な粒となって存在するようになることが推察された。
【0057】
図4の外観図、
図5の断面図に示すように、1.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地をイースト発酵させた後に焼成して得られたパンは、いずれも良好な膨張性を示すと共に、ベニハナ油を添加しないものと比較して焼成後のスポンジ構造のキメが細かくなる傾向が見られた。また、5.0〜10.0重量部のベニハナ油を添加した生地を焼成したパンにおいては焼成後のパン表面に油が析出して、焦げ目が付きやすくなると共に、特に10.0重量部のベニハナ油を添加したものでは表面が揚げパンのような様相を呈していた。
【0058】
これに対し、1.0〜5.0重量部のベニハナ油を添加したものでは、焼成後のパンにおいても油を添加した様子が観察されず、もちっとした食感の米粉パンが焼き上がり、通常のパンとして見た場合に非常に好ましい食感が得られた。また、
図2に示したとおり、ベニハナ油を添加して焼成したパンでは、表面に析出物等が観察されず、良好な外観を示すことが明らかになった。
【0059】
表4には、アルファ化米粉の割合の異なる生地中へ所定量のベニハナ油を添加した場合の成形性、製パン性を検討した結果を示す。表4に記載の各生地を用いた製パンは、ベニハナ油の添加以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
【表4】
【0061】
表4中のベニハナ油の添加なしの生地は、表1中のサンプル1〜7と同一のものである。表4から明らかなように、ベニハナ油の添加による効果は、アルファ化米粉による製パン性の向上が見られる場合にのみ顕著に観察された。特に、アルファ化米粉が添加されていない生地にベニハナ油を添加した場合には、3重量部の添加によってもミキサーの内側等に油が付着して生地にベニハナ油が溶解せずに分離する傾向が見られたことからも、米粉パンの生地にベニハナ油を添加することで得られる効果は、アルファ化米粉の混合との相乗作用であることが明らかになった。 このように、通常の米粉に対して所定量のアルファ化粉とベニハナ油を混合することで生地の展伸性が向上すると共にパンの食感が向上する理由は明らかでないが、アルファ化米粉に起因するデンプン分子と油脂が複合体を形成することで高分子量のデンプン分子となり、生地の混練時にこれらが相互に絡まり合うことで、生地内部のデンプン粒子間の移動度が向上されたためと考えられる。
【0062】
<実施例3>米粉パン生地へ添加する油脂の種類の検討
表5には、20%のアルファ化米粉を混合した生地に各種の油脂を3重量部添加した場合のせん断粘度と製パン性を検討した結果を示す。また、表6には、アルファ化米粉を混合せず通常の米粉のみを用いた生地に、同様に各種の油脂を3重量部添加した場合のせん断粘度と製パン性を検討した結果を示す。また、表5に記載の各生地を焼成して得られたパンの外観と断面の様子を
図6、
図7に、表6に記載の各生地を焼成して得られたパンの外観と断面の様子を、
図8、
図9に示す。表5,6に記載の各生地を用いた製パンにおいて、各種の油脂を添加する以外は実施例1と同様に行った。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
表5に示すように、20%のアルファ化米粉を混合した生地に各種の油脂を3重量部添加した場合、添加する油脂の種類によって概ね0.6×10
5〜1.8×10
5(Pa・s)の範囲のせん断粘度を示すことが明らかになった。また、表5に示す各生地をミキサーで2分間混合して得た後の展伸性を検討した結果、特にベニハナ油、コメ油、オリーブ油、バターを添加した生地において大きな展伸性が観察されたが、他の油脂についても油脂を添加しない状態と比較して明らかに展伸性が向上することが確認された。
【0066】
また、
図6の外観図、
図7の断面図に示すように、いずれの油脂を添加した生地をイースト発酵、焼成した場合でも大きな割れや空洞を生じることなく、またパンの表面に析出物が生じることもなく良好な製パン性を示すことが明らかになった。これらの油脂を添加して得られる米粉パンは、油脂を添加しないものと比較して食感が軽やかであり、食品として優れていた。また、上記の内で、特にコメ油、オリーブ油、バター、マーガリンを用いたものは、香りも良好で食品として特に好ましいものであった。
【0067】
これに対し、表6、
図8の外観図、
図9の断面図に示すように、アルファ化米粉を混合せず通常の米粉からなる生地に各種の油脂を添加した場合(B100)には、それぞれのせん断粘度に相違を生じる一方で、製パン性に大きな変化は観察されず、いずれも製パンに適するとは認められなかった。また、表6のいずれの生地においても、生地に添加した油脂が溶解しない様子が観察された点で、油脂の種類によらずベニハナ油を添加した場合と同様の傾向が観察された。
【0068】
以上のことから、実験を行った油脂については、その種類によらず、アルファ化米粉を混合した生地に添加することで展伸性や製パン性の向上が見られることが明らかになり、所定量のアルファ化米粉と油脂を米粉パンの生地に同時に添加することによって、せん断粘度が高く成形パンの製造が容易な米粉パンの生地を提供可能であることが明らかになった。
【0069】
<実施例4>生地のせん断粘度が製パン性へ与える影響の検討
表1に記載したパン生地の配合よりも水の量を減らすことで、せん断粘度が高い生地を作製した。油脂(オイル)を添加する場合は、ベニバナ油(三和油脂株式会社、食用サフラワー油)を使用した。せん断粘度の測定は、実施例1の測定方法によって行った。
【0070】
具体的には、以下の[表7]に示す条件1〜8とし、生地のせん断粘度および製パン性を確認した。各条件の生地のせん断粘度と製パン性の結果を[表8]に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
混練後の生地のせん断粘度が、5×10
4〜5×10
5(Pa・s)範囲内である条件1、2の場合は、
図10、
図11に示したように、焼成後のパンの断面に気泡が確認され、製パンが可能であった。一方、生地のせん断粘度が5×10
5(Pa・s)以上である条件3、4は、
図12、
図13に示したように、焼成後のパンの断面に気泡がなく、製パンは困難であった。生地のせん断粘度が5×10
5(Pa・s)以上である場合には、油脂の添加の有無に関わらず、製パンが困難であることが確認された。さらに、配合する水の量を70g以下とした条件5〜8では、粘度が高すぎたため、生地のせん断粘度を測定することはできなかった。条件5〜8では、
図14(A)(B)および
図15(A)(B)に示したように、生地にまとまりがなく、製パンできる状態ではなかった。したがって、生地のせん断粘度を5×10
4〜5×10
5(Pa・s)範囲内に調整することで、十分な成型性、保形性を有する米粉パン生地となり、製パンも可能であることが確認された。
【0074】
以上の通り、本発明によれば、通常の米粉に対して所定量のアルファ化米粉を混合することにより、成形パンの製造が可能な程度のせん断粘度に調整した場合でも良好に米粉パンが製造可能となり、小麦粉やグルテンを使用せずに成形が可能な米粉パンを提供可能となった。また、当該所定量のアルファ化米粉を混合した生地に所定量の油脂を添加することで、更に生地の展伸性が向上すると共に焼成後の米粉パンに適度な気泡が形成されたふっくらとした形状の米粉パンを製造することが可能となり、米粉パンの商品性を向上することが可能となった。