【課題を解決するための手段】
【0007】
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe
2+/Fe
3+が0.77V、V
4+/V
5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質となる金属イオン(活物質イオン)として、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価で、資源供給面においても優れると考えられるマンガン(Mn)を用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn
2+/Mn
3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、Mnイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。また、本発明者らは、負極活物質となる金属イオンとしてチタン(Ti)に着目し、そのTiを用いたレドックスフロー電池を検討した。Ti
4+/Ti
3+の標準酸化還元電位は、0Vであり、このチタンも起電力がより高いレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。特に、正極活物質としてMnイオンを、負極活物質としてTiイオンを用いたレドックスフロー電池は、今までにない高い起電力を得ることができるレドックスフロー電池として期待される。
【0008】
ここで、本発明者らがさらに検討した結果、正極活物質としてMnイオンを用いたレドックスフロー電池、あるいは負極活物質としてTiイオンを用いたレドックスフロー電池では、充放電を繰り返すうちに充電不足あるいは放電不足を引き起こす場合があることがわかった。
【0009】
まず、正極活物質としてMnイオンを採用したレドックスフロー電池では、正極用電解液中でMnイオン(活物質イオン)の濃度分布に偏りが生じることがわかった。放電時の酸化状態であるMn
2+に比べて充電時の酸化状態であるMn
3+の比重が大きいため、正極用タンクの下部側ではMn
3+濃度がMn
2+に比べて高い電解液(充電状態の電解液)があり、上部側ではMn
2+濃度がMn
3+に比べて高い電解液(放電状態の電解液)がある2層状態となり易い。そのため、正極用タンクの下部から電池要素に送液する構成を採用した場合、充電状態にある電解液を常に電池要素に送液することになるので、レドックスフロー電池に十分に充電させることができなくなる恐れがある。最悪の場合、充電時に過電圧となったり、活物質の析出が生じたりする恐れがある。
【0010】
一方、負極活物質としてTiイオン(活物質イオン)を採用したレドックスフロー電池では、Mn系の正極用タンクと反対に、負極用タンクの上部側に充電状態の電解液があり、下部側に放電状態の電解液がある2層状態となり易い。これは、放電時の酸化状態であるTi
4+に比べて充電時の酸化状態であるTi
3+の比重が小さいためである。このような場合、負極用タンクの下部から電池要素に送液する構成とすると、放電状態にある電解液を常に電池要素に送液することになるので、レドックスフロー電池から十分に放電させることができなくなる恐れがある。
【0011】
以上説明した検討・知見に基づき、本発明を以下に規定する。
【0012】
本発明レドックスフロー電池は、正極電極と、負極電極と、これら電極間に介在される隔膜と、を備える電池要素に、正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行なうレドックスフロー電池であって、正極活物質としてMnイオンを含む正極電解液、および負極活物質としてTiイオンを含む負極電解液の少なくとも一方を有する。そして、本発明レドックスフロー電池は、MnイオンまたはTiイオンを含む電解液を貯留するタンク内の電解液を撹拌する撹拌機構と、その撹拌機構の動作を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、本発明レドックスフロー電池では、正極電解液と負極電解液の構成に応じて撹拌機構の設置状態が異なる。具体的には、次の3つである。
[1]正極電解液が正極活物質としてMnイオンを含有し、負極電解液はTiイオンを含有しない場合、撹拌機構は正極電解液を貯留する正極用タンクに設ける。もちろん、負極電解液を貯留する負極用タンクにも撹拌機構を設けても構わない。
[2]負極電解液が負極活物質としてTiイオンを含有し、正極電解液はMnイオンを含有しない場合、撹拌機構は負極用タンクに設ける。もちろん、正極用タンクにも撹拌機構を設けても構わない。
[3]正極電解液がMnイオンを含有し、負極電解液がTiイオンを含有する場合、撹拌機構は正極用タンクと負極用タンクの両方に設ける。
【0014】
上記構成を備える本発明レドックスフロー電池によれば、充放電に伴ってタンク中の電解液において活物質イオンの分布が不均一になった場合でも、その分布を速やかに均一化することができる。撹拌のタイミングは、充放電のために電池要素に電解液を送液する前からとすると良く、少なくとも充放電のための電解液の送液を終えるまでの間、撹拌を継続することが好ましい。そうすることで、活物質としてMnイオンおよびTiイオンの少なくとも一方を用いたレドックスフロー電池における充電不足あるいは放電不足といった問題を生じ難くすることができる。
【0015】
以下、本発明レドックスフロー電池の好ましい形態について説明する。
【0016】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌機構は、導入配管とガス供給機構とを備える構成とすることが挙げられる。導入配管は、タンク外からタンク内に導入され、そのタンク内に貯留される電解液中に開口する配管である。また、ガス供給機構は、導入配管を介してタンク内に不活性ガスを供給する機構である。
【0017】
上記構成によれば、電解液を不活性ガスでバブリングすることで、電解液を撹拌することができる。より効率的なバブリングを行なうのであれば、後述する実施形態1に示すように、導入配管の側壁部分のうち、電解液中に配置される部分に複数の気孔を設けておくと良い。
【0018】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌機構は、タンク内の電解液中で回転または揺動して、電解液を撹拌する撹拌部材を備える構成とすることが挙げられる。
【0019】
上記構成によれば、撹拌部材の動きによって電解液に対流を生じさせ、タンク中の電解液を効果的に撹拌することができる。
【0020】
上記撹拌部材を備える本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌部材は、電磁力により動作する構成とすることが挙げられる。その場合、撹拌部材として、永久磁石を樹脂でコートした物を用いると良い。そして、この樹脂コート磁石をタンク外からの電磁力により回転あるいは振動させると良い。これは、いわゆるマグネティックスターラーと同じ構成である。
【0021】
例えば、回転軸の先端にプロペラの付いた撹拌部材で電解液を撹拌する構成とした場合、タンクに孔を開けてその孔に回転軸を通した上で、孔と回転軸との間をシールする必要がある。これに対して、電磁力で撹拌部材を動作させる構成であれば、タンクに孔を開ける必要がなく、従ってシールの必要もない。
【0022】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌機構は、撹拌用配管と、送液ポンプとを備える構成とすることが挙げられる。撹拌用配管は、その一端がタンク内の液相に開口し、他端が同じタンク内の液相もしくは気相に開口する配管である。また、送液ポンプは、撹拌用配管の一端側から他端側に向かって電解液を送り出すポンプである。
【0023】
上記構成とすることで、タンク内の電解液に大きな対流を生じさせることができ、タンク内の電解液を効率的かつ効果的に撹拌することができる。
【0024】
撹拌用配管と送液ポンプとを備える本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌用配管の途中に、電解液の温度調整をする温度調整機構を設けても良い。
【0025】
基本的に、本発明レドックスフロー電池では、充放電を行なう前に撹拌機構を動作させる。そのため、撹拌用配管の途中に温度調整機構を設けておけば、レドックスフロー電池の充放電の際に、効率的に電解液を充放電に適した温度に調整することができる。また、撹拌機構を動作させないときに温度調整機構を動作させる無駄を無くすことができるため、レドックスフロー電池のランニングコストを低減させることができる。
【0026】
撹拌用配管と送液ポンプとを備える本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌用配管の途中に、電解液中の不純物および析出物を除去するフィルターを備える構成とすることが挙げられる。
【0027】
撹拌用配管にフィルターを設けることで、電解液を撹拌しつつ電解液をフィルターにかけることができる。そのため、フィルターへの送液のための別ポンプが不要となることから、レドックスフロー電池の設備コストやランニングコストの低減が可能となる。
【0028】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、正極電解液と負極電解液に含まれる金属イオン種が共通であり、正極電解液を貯留する正極用タンクの液相と、負極電解液を貯留する負極用タンクの液相と、を連通する液相連通管を備える構成とすることが挙げられる。この場合、負極用タンク側にある液相連通管の一端は、負極用タンクの底部寄りの位置に開口させ、正極用タンク側にある液相連通管の他端は、上記一端よりも高い位置で、かつ正極用タンク中の電解液の液面寄りの位置に開口させることが好ましい。
【0029】
正・負電解液の金属イオン種を共通とする場合、即ちMnイオンとTiイオンを含有する電解液を、正極電解液と負極電解液として利用する場合、両電解液を混合することでレドックスフロー電池を速やかに自己放電させ、電池容量の回復を図ることができる。ここで、活物質としてMnイオンを含有する正極用タンクでは上部側に放電状態の電解液が、活物質としてTiイオンを含有する負極用タンクでは下部側に放電状態の電解液が偏る傾向にある。そのため、正・負電解液を自己放電させるときに、正極用タンクの上部側にある放電状態の電解液と負極用タンクの下部側にある放電状態の電解液とを混合すれば、自己放電を速やかに行なうことができる。
【0030】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、制御手段は、予め定められたスケジュールに従って前記撹拌機構を間欠的に動作させる構成とすることが挙げられる。
【0031】
撹拌機構を常に動作させておくのは非効率的である。これに対して、撹拌機構を間欠的に運転することで、レドックスフロー電池のランニングコストを下げることができる。撹拌機構をスケジュール通りに運転できるのは、通常のレドックスフロー電池ではその運転スケジュールもある程度決まったものである場合が多いからである。例えば、負荷平準化のためにレドックスフロー電池を設ける場合、そのレドックスフロー電池は、夜間に充電し、昼間の電力需要が高い時間帯に放電するというような決まった運転スケジュールで運転されることが多い。このように運転スケジュールが決まっていれば、その運転スケジュールに合わせて電解液を撹拌するスケジュールも容易に決めることができる。
【0032】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、タンク内における電解液中の活物質イオンの分布状態を検知する検知機構を備える構成とすることが挙げられる。その場合、制御手段は、検知機構の検知結果に基づいて撹拌機構を制御すると良い。
【0033】
検知結果に基づいて撹拌機構を運転する、つまり電解液における活物質イオンの濃度分布が不均一になったときに撹拌機構を動作させることで、レドックスフロー電池のランニングコストを効果的に低減することができる。ここで、検知機構としては、
図4(A)を参照する後述の実施形態3に示すように、電解液の透明度(あるいは色度)を検知して活物質イオンの濃度分布を検知する検知機構を挙げることができる。電解液の透明度を検知の対象とできるのは、Mnイオンを含む電解液もTiイオンを含む電解液も、イオンの酸化数の違いにより透明度に差ができるからである。その他、電解液を実際にサンプリングして活物質イオンの濃度分布を検知するものを採用しても良い。