(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極電極と、負極電極と、これら電極間に介在される隔膜とを具える電池要素に、正極タンク内の正極電解液及び負極タンク内の負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電解液と前記負極電解液とは、共通の金属イオン種を含有し、
前記共通の金属イオン種が、マンガンイオン及びチタンイオンであり、
前記正極タンク内の液相と前記負極タンク内の液相とを連通する連通管を具え、
前記連通管の一端は、前記正極タンク内の正極電解液の液面寄りの位置に開口し、
前記連通管の他端は、前記負極タンクの底部寄りの位置に開口しているレドックスフロー電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バナジウム系レドックスフロー電池は、実用化されており、今後も使用が期待される。しかし、従来の鉄-クロム系レドックスフロー電池や全バナジウム系レドックスフロー電池では、起電力が十分に高いとは言えない。今後の世界的な需要に対応するためには、更に高い起電力を有し、かつ、活物質に用いる金属イオンを安定して供給可能な、好ましくは安定して安価に供給可能な新たなレドックスフロー電池の開発が望まれる。
【0007】
また、全バナジウム系レドックスフロー電池のように、正負の両極の電解液が混合可能であれば、当該混合により、電池の特性を改善することができて好ましい。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高い起電力が得られ、かつ正負の両極の電解液が混合可能なレドックスフロー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe
2+/Fe
3+が0.77V、V
4+/V
5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質となる金属イオン(活物質イオン)として、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価で、資源供給面においても優れると考えられるマンガン(Mn)を用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn
2+/Mn
3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、マンガンイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。また、本発明者らは、負極活物質となる金属イオンとしてチタン(Ti)に着目し、チタンを用いたレドックスフロー電池を検討した。Ti
3+/Ti
4+の標準酸化還元電位は、0Vであり、チタンイオンも、起電力がより高いレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。特に、正極活物質にマンガンイオンを用い、負極活物質にチタンイオンを用いたマンガン-チタン系レドックスフロー電池は、1.4V程度といった高い起電力を有することができる。
【0010】
従って、正極活物質としてマンガンイオンを含有すると共に、負極電解液にもマンガンイオンを含有させたり、負極活物質としてチタンイオンを含有すると共に、正極電解液にもチタンイオンを含有させたりすることで、高い起電力を有すると共に、電解液を混合可能なレドックスフロー電池が得られる。
【0011】
本発明者らが更に検討した結果、正極活物質としてマンガンイオンを含有する電解液や、負極活物質としてチタンイオンを含有する電解液では、充電状態のときの比重と放電状態のときの比重とが異なる、との知見を得た。
【0012】
従来の全バナジウム系レドックスフロー電池などでは、充電状態にある電解液の比重と放電状態にある電解液の比重との差がほとんどなく、タンク内の電解液は、自然に撹拌されてイオン濃度が均一的になっている。
【0013】
一方、正極活物質にマンガンイオンを含有する正極電解液では、2価のマンガンイオン(Mn
2+)に比較して、充電された3価のマンガンイオン(Mn
3+)の比重が大きいこと(重いこと)が分かった。そのため、正極タンク内の正極電解液は、当該タンクの液面寄りの領域にMn
2+が多く、当該タンクの底部寄りの領域にMn
3+が多いといったイオンの濃度分布(二層状態)が生じ易い。従って、連通管を介して正負の両極の電解液を混合するにあたり、連通管における正極側の開口部が正極タンクの底部側に設けられていると、充電状態のマンガンイオンを相対的に多く含む正極電解液と、負極電解液とを混合することになり、自己放電による損失が大きくなり易い。
【0014】
他方、負極活物質としてチタンイオンを含有する負極電解液では、4価のチタンイオン(Ti
4+、TiO
2+など)に比較して、充電された3価のチタンイオン(Ti
3+)の比重が小さいこと(軽いこと)が分かった。そのため、上述のマンガンイオンを含む正極電解液とは逆に、負極タンク内の負極電解液は、当該タンクの液面寄りの領域にTi
3+が多く、当該タンクの底部寄りの領域に4価のチタンイオンが多いといったイオンの濃度分布が生じ易い。従って、連通管を介して正負の両極の電解液を混合するにあたり、連通管における負極側の開口部が負極タンクの液面側に設けられていると、充電状態のチタンイオンを相対的に多く含む負極電解液と、正極電解液とを混合することになり、自己放電による損失が大きくなり易い。
【0015】
上記知見により、本発明は、正負の両極の電解液が特定の共通の金属イオン種を含有する場合に、連通管の開口箇所を特定の位置とすることを提案する。
【0016】
本発明は、正極電極と、負極電極と、これら電極間に介在される隔膜とを具える電池要素に、正極タンク内の正極電解液及び負極タンク内の負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行うレドックスフロー電池に係るものであり、上記正極電解液と上記負極電解液とが共通の金属イオン種を含有する。また、本発明レドックスフロー電池は、上記正極タンク内の液相と上記負極タンク内の液相とを連通する連通管を具える。
【0017】
そして、第一の発明として、上記共通の金属イオン種がマンガンイオンである形態、つまり、正極活物質としてマンガンイオンを含有し、負極電解液にもマンガンイオンを含有する形態が挙げられる。この形態では、上記連通管の一端は、上記正極タンク内の正極電解液の液面寄りの位置に開口している。
【0018】
第二の発明として、上記共通の金属イオン種がチタンイオンである形態、つまり、負極活物質としてチタンイオンを含有し、正極電解液にもチタンイオンを含有する形態が挙げられる。この形態では、上記連通管の一端は、上記負極タンクの底部寄りの位置に開口している。
【0019】
第三の発明として、上記共通の金属イオン種が、マンガンイオン及びチタンイオンである形態、つまり、正極活物質としてマンガンイオンを含有し、負極活物質としてチタンイオンを含有し、更に、正極電解液にチタンイオン、負極電解液にマンガンイオンを含有する形態が挙げられる。この形態では、上記連通管の一端が上記正極タンク内の正極電解液の液面寄りの位置に開口し、上記連通管の他端が上記負極タンクの底部寄りの位置に開口している。
【0020】
上記構成を具える本発明レドックスフロー電池は、連通管を介して正負の両極の電解液を混合する場合に自己放電を効果的に低減する、或いは実質的に生じなくすることができる。従って、本発明レドックスフロー電池は、経時的な液移りなどにより両極の電解液量のばらつき(液面差の発生)やイオン濃度のばらつきなどが生じた場合に、両極の電解液を混合して当該ばらつきを容易に是正できる上に、混合時の自己放電による損失を低減することができる。また、本発明レドックスフロー電池は、両極のタンク内における特定の領域の電解液を混合することで、混合時の自己放電が生じ難いため、上記タンク内の電解液の充電状態に依らず、任意のときに上記電解液を混合することができる。
【0021】
特に、正負の両極の電解液にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する第三の発明では、混合する両極の電解液がいずれも、十分に充電されていない状態(放電状態)のイオンが相対的に多い電解液である。そのため、この形態は、両極の電解液を混合した場合に、自己放電による損失をより低減し易い、或いは自己放電が実質的に生じない。また、上記第三の発明は、正極電解液中のチタンイオンが、Mn
3+の不均化反応に伴うMnO
2の析出を抑制する機能も有する。本発明者らは、正極電解液に、マンガンイオンと共にチタンイオンを存在させると、上記析出を効果的に抑制できることを見出した。従って、この形態は、長期に亘り、高い起電力を有することができる。
【0022】
本発明において「液面寄りの位置」とは、タンクの底部から同タンク内の電解液の液面までの距離をLとするとき、タンクの底部から(L/2)超L未満の位置とする。また、本発明において「底部寄りの位置」とは、タンクの底部から(L/2)以下の位置とする。
【0023】
本発明の一形態として、上記連通管に開閉弁が取り付けられた形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、開閉弁の閉動作により、正負の両極のタンクが常時連通されて、両極の電解液が常時混合された状態となることを防止できる。従って、上記形態は、両極の電解液の混合による自己放電をより低減でき、自己放電に伴う損失をより低減することができる。
【0025】
本発明の一形態として、上記連通管の少なくとも一部の内径φが25mm以下である形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、正負の両極のタンクが常時連通されており、両極の電解液量のばらつきやイオン濃度のばらつきなどが実質的に生じない。従って、上記形態は、開閉弁を開閉するなどの操作を行うことなく、両極の電解液を混合できる。かつ、上記形態は、連通管の少なくとも一部が細いことで、過度に電解液が混合されることを防止でき、自己放電に伴う損失を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明レドックスフロー電池は、高い起電力を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図中、同一符号は、同一名称物を示す。なお、図中の金属イオン(種類、価数)は例示である。また、
図4において、実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。
【0030】
本発明レドックスフロー電池(以下、RF電池と呼ぶ)の基本的な構成は、従来のRF電池と同様であり、特徴の一つは、正負の両極の電解液を貯留するタンク間に接続される連通管にある。従って、まず、
図4を参照してRF電池の基本的な構成を説明する。
【0031】
RF電池100は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。
【0032】
RF電池100は、電池要素100cを主要構成部材とし、この電池要素100cに正極電解液及び負極電解液を循環供給する循環機構(タンク、配管、ポンプ)を更に具える。
【0033】
電池要素100cは、正極電極104を内蔵し、正極電解液が供給される正極セル102と、負極電極105を内蔵し、負極電解液が供給される負極セル103と、両セル102,103を分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜101とを具える。代表的には、電極104,105は、カーボンフェルトからなるものが挙げられ、隔膜101は、陽イオン交換膜や陰イオン交換膜といったイオン交換膜が挙げられる。
【0034】
電池要素100cは、代表的には、正極セル102と負極セル103とを複数積層させたセルスタックと呼ばれる形態が利用される。正極セル102,負極セル103は、一面に正極電極104、他面に負極電極105が配置される双極板(図示せず)と、電解液を供給する給液孔及び電解液を排出する排液孔を有し、かつ上記双極板の外周に形成される枠体(図示せず)とを具えるセルフレームを用いた構成が代表的である。複数のセルフレームを積層することで、上記給液孔及び排液孔は電解液の流路を構成する。セルスタックは、セルフレーム、正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム、…と順に繰り返し積層されて構成される。代表的には、双極板は、プラスチックカーボンからなるもの、セルフレームの枠体は、塩化ビニルなどの樹脂からなるものが挙げられる。
【0035】
正極電解液は、正極タンク106に貯留され、負極電解液は、負極タンク107に貯留される。各タンク106,107と、上記電解液の流路との間はそれぞれ正極上流配管108及び正極下流配管110、負極上流配管109及び負極下流配管111によって接続される。上流配管108,109には、通常、ポンプ112,113が取り付けられて電池要素100c(セルスタック)に電解液を圧送可能とし、電池要素100cからの電解液は、下流配管110,111を経て各タンク106,107に戻される。
【0036】
RF電池100は、上述の循環機構を利用して、電池要素100cに電解液を圧送し、正負の各極の電解液中の活物質となる金属イオンの価数変化反応に伴って充放電を行う。
【0037】
なお、
図1〜
図4において、上流配管108,109、下流配管110,111の開口位置(配管108〜111の接続位置)は例示である。また、
図1〜
図4において、配管108〜111や後述する連通管10,20,30は、直線的に屈曲した形状を示すが、湾曲形状でもよいし、屈曲させずに単に傾斜するように接続してもよい。更に、
図1〜
図4では、正負の両極のタンク106,107の大きさ及び底面の位置を同じとしているが、異ならせることもできる。
【0038】
そして、本発明レドックスフロー電池では、正負の両極の電解液として、共通する金属イオン種を含有するものを利用する。
図4では、両極にマンガンイオン及びチタンイオンを含有する例を示す。
【0039】
(実施形態1)
図1を参照して、実施形態1のRF電池1を説明する。実施形態1のRF電池1は、上述の基本的な構成を具え、正負の両極の電解液にマンガンイオンを含有する点、両極のタンク106,107を連通する連通管10を具える点を特徴とする。以下、この特徴点を中心に説明する。
【0040】
[電解液]
正負の両極の電解液は、共通する金属イオン種として、マンガンイオンを含有する。正極では、このマンガンイオンを正極活物質とする。
【0041】
正極電解液は、2価のマンガンイオン(Mn
2+)及び3価のマンガンイオン(Mn
3+)から選択される少なくとも一種のマンガンイオンを含有するものが挙げられる。本発明者らが調べた結果、MnO
2も活物質として利用できるとの知見を得たことから、4価のマンガン(MnO
2)を更に含有することを許容する。この正極のマンガンイオンに関する事項は、後述する実施形態3についても同様に適用できる。
【0042】
負極電解液は、例えば、負極活物質として、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有するものが挙げられる。チタンイオンやスズイオンを含有するマンガン-チタン系RF電池やマンガン-スズ系RF電池では、起電力:1.4V程度、バナジウムイオンを含有するマンガン-バナジウム系RF電池では、起電力:1.8V程度、クロムイオンを含有するマンガン-クロム系RF電池では、起電力:1.9V程度、亜鉛イオンを含有するマンガン-亜鉛系RF電池では、起電力:2.2V程度という更に高い起電力を有することができる。なお、
図1では、負極タンク107にマンガンイオン(価数は例示)のみを示す。
【0043】
そして、正極電解液は、負極活物質として負極電解液に含有される金属イオン種と同種の金属イオンを更に含有し、負極電解液は、負極活物質となる金属イオンに加えて、マンガンイオンを更に含有する。正極電解液における上記負極活物質と同種の金属イオン、負極電解液におけるマンガンイオンは、主として、正負の各極の電解液において組成を揃えるために含有する。組成を揃えるための金属イオンによっては、正負の各極において活物質として利用することもできる(この点は、後述する実施形態についても同様である)。
【0044】
正負の両極の電解液は、互いに反応し合わず、完全に混合可能であれば、任意の金属イオンを含有することができる。両極の電解液に含有される金属イオン種の全てが重複する形態、即ち、両極の電解液の金属イオン種が完全に同じである形態が代表的である。この形態は、正負の各極の金属イオンが対極に移動して、各極で本来反応する金属イオン(活物質となる金属イオン)が相対的に減少することによる電池容量の減少現象を効果的に回避できる。また、この形態は、電解液の製造性にも優れる。なお、両極の電解液に含有される金属イオン種のうち、一部のみが重複する形態とすることができる。例えば、設置初期のRF電池として、両極の電解液に含有される金属イオン種のうち、一部のみが重複したものを用意し、混合作業を行った以降のRF電池では、金属イオン種の全てが重複する形態とすることができる。上述の事項(重複するイオン数、重複する時期)は、後述する実施形態についても同様に適用できる。
【0045】
正負の各極の電解液において、各金属イオン(活物質として含有するもの、組成を揃えるために含有するもののいずれの金属イオンも含む)の濃度は0.3M以上5M以下が好ましい(M:体積モル濃度)。各極の電解液の溶媒は、硫酸、リン酸、硝酸、硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩の少なくとも一種を含む水溶液が好ましい。特に、硫酸アニオン(SO
42-)を含むものが利用し易い。酸の濃度は、5M未満が好ましい。上述の事項(イオン濃度、溶媒)は、後述する実施形態についても同様に適用できる。
【0046】
[連通管]
正極タンク106と負極タンク107とを連結する連通管10は、各タンク106,107内に貯留される電解液(液相)にそれぞれ開口しており、各タンク106,107に対する開口箇所が異なる。
【0047】
連通管10において正極タンク106に接続される一端は、タンク106内の正極電解液の液面寄りの位置に接続されている。より具体的には、連通管10の一端は、正極タンク10の底面から液面までの高さをLpとするとき、底面から(Lp/2)超の位置に開口している。この連通管10の一端の開口位置は、正極タンク106内の液面に近いほど好ましく、底面から(2/3)×Lp以上の位置、(3/4)×Lp以上の位置がより好ましい。なお、
図1〜
図3において、正極タンク106内の実線は液面を、
図1,
図3において、正極タンク106内の一点鎖線は、底面から(Lp/2)の位置を示す。
【0048】
一方、連通管10において負極タンク107に接続される他端は、タンク107内の液相に対して任意の位置に接続されている。より具体的には、連通管10の他端は、負極タンク107の底面から液面までの高さをLaとするとき、底面からLa未満の位置に開口している。
図1では、底面から(La/2)の位置を示す。
【0049】
また、RF電池1では、連通管10に開閉弁11が取り付けられており、所望のときに、正極タンク106と負極タンク107との間を連通又は非連通に切り替えられるようにしている。開閉弁11は、電磁弁などが利用できる。
【0050】
[運転方法]
上記構成を具えるRF電池1は、従来のRF電池と同様に、配管108〜111及びポンプ112,113を利用して、マンガンイオンを含有する正極電解液、及び負極活物質となる金属イオンを含有する負極電解液を電池要素100cに循環供給することで、充放電を行うことができる。充放電運転は、後述する実施形態についても同様に行う。
【0051】
一方、経時的な液移りなどにより、正負の各極の電解液量にばらつき(液面差)が生じたり、各極の電解液内の金属イオンのイオン濃度にばらつきが生じた場合などに、連通管10を利用して正負の両極の電解液を混合することで、上記ばらつきを是正できる。
【0052】
ここでは、RF電池1は、開閉弁11を開くことで、正負の両極の電解液を混合することができる。特に、RF電池1では、正極タンク106の底部側に、充電されたマンガンイオン(Mn
3+)がその比重により集まり易く、未充電状態(放電状態)のマンガンイオン(Mn
2+)がタンク106の液面側に集まり易くなっている。そのため、開閉弁11を開くと、放電状態のマンガンイオンを相対的に多く含む正極電解液と、負極タンク107内の負極電解液とを混合することができる。両極の電解液を十分に混合できたら、開閉弁11を閉じるとよい。
【0053】
この例では、正負の両極のタンク106,107の大きさ及び底面の位置を同じとしている。そのため、両極の電解液は、電解液の自重により各タンク106,107に移動して混合され、両極の電解液量が等しくなると、混合を自然に止めることができる。従って、開閉弁11の開閉動作によって容易に混合を行えて、作業性に優れる。その他、開閉弁11の閉動作の時期やタンク106,107の底面の位置(上下関係)などを調整して、混合量を調整することもできる。或いは、連通管10にポンプを別途設けて、混合量を調整できるようにすることもできる。上述の事項(タンクの大きさ・配置位置、ポンプの取り付け)は、後述する実施形態についても適用できる。
【0054】
[効果]
実施形態1のRF電池1は、正負の両極の電解液にマンガンイオンを含有し、正極では、このマンガンイオンを正極活物質とすることで、従来の全バナジウム系RF電池に比較して高い起電力を有することができる。特に、RF電池1は、両極の電解液を混合するにあたり、連通管10における正極側の開口位置を正極タンク106内の正極電解液の液面寄りとすることで、液面側に集まっている放電状態のマンガンイオンを多く含む正極電解液と、負極タンク107内の負極電解液とを混合することができる。従って、RF電池1は、両極の電解液の混合による自己放電が少なく、或いは実質的に生じず、自己放電による損失を低減することができる。また、放電状態のマンガンイオンを多く含む正極電解液を混合できるRF電池1は、自己放電による損失が少ないことから、正極電解液の充電状態に係わらず、電解液の混合作業を行える。このようにRF電池1では、従来の全バナジウム系RF電池と同様に液移りなどによる電解液量のばらつきなどを電解液の混合により容易に是正可能でありながら、低損失であり、長期に亘り、高い起電力を有することができる。
【0055】
更に、実施形態1のRF電池1では、連通管10に開閉弁11を具えることで、通常時、開閉弁11を閉じることができる。つまり、RF電池1は、通常時、正負の両極の電解液が混合されず、混合による自己放電が生じ得ない。従って、RF電池1は、電解液の混合に起因する自己放電による損失をより抑制し易い。
【0056】
(実施形態2)
図2を参照して、実施形態2のRF電池2を説明する。実施形態2のRF電池2は、上述の基本的な構成を具え、正負の両極の電解液にチタンイオンを含有する点、両極のタンク106,107を連通する連通管20を具える点を特徴とする。以下、この特徴点を中心に説明する。
【0057】
[電解液]
正負の両極の電解液は、共通する金属イオン種として、チタンイオンを含有する。負極では、このチタンイオンを負極活物質とする。
【0058】
負極電解液は、3価のチタンイオン(Ti
3+)及び4価のチタンイオン(Ti
4+、TiO
2+など)の少なくとも一種のチタンイオンを含有する形態が挙げられる。更に、2価のチタンイオンを含有していてもよい。この負極のチタンイオンに関する事項は、後述する実施形態3についても同様に適用できる。
【0059】
正極電解液は、例えば、正極活物質として、上述したマンガンイオンを好適に利用できる。その他、正極電解液は、例えば、鉄イオンやバナジウムイオン、チタンイオンを正極活物質として含有するものが挙げられる。なお、
図2では、正極タンク106にチタンイオン(価数は例示)のみを示す。
【0060】
そして、負極電解液は、正極活物質として正極電解液に含有される金属イオン種と同種の金属イオンを更に含有し、正極電解液は、正極活物質となる金属イオンに加えて、チタンイオンを更に含有する。負極電解液における上記正極活物質と同種の金属イオン、正極電解液におけるチタンイオンは、主として、正負の各極の電解液において組成を揃えるために含有する。
【0061】
[連通管]
正極タンク106と負極タンク107とを連結する連通管20は、実施形態1の連通管10と同様に各タンク106,107内に貯留される電解液(液相)にそれぞれ開口しており、途中に開閉弁11が取り付けられている。また、連通管20も、各タンク106,107に対する開口箇所が異なる。
【0062】
連通管20において負極タンク107に接続される一端は、タンク107の底部寄りの位置に接続されている。より具体的には、連通管20の一端は、負極タンク107の底面から液面までの高さをLaとするとき、底面から(La/2)以下の位置に開口している。この連通管20の一端の開口位置は、負極タンク107の底部に近いほど好ましく、底面から(1/3)×La以下の位置、(1/4)×La以下の位置がより好ましい。なお、
図2において、負極タンク107内の一点鎖線は、底面から(La/2)の位置を示す。
【0063】
一方、連通管20において正極タンク106に接続される他端は、タンク106内の液相に対して任意の位置、つまり、底面からLp未満の位置に開口している。
図2では、底面から(Lp/2)の位置を示す。
【0064】
[運転方法]
上記構成を具えるRF電池2も、連通管20を利用して、正負の両極の電解液を混合することで、電解液量のばらつきやイオン濃度のばらつきがなどを是正することができる。
【0065】
具体的には、実施形態1のRF電池1と同様に、実施形態2のRF電池2は、開閉弁11を開くことで、正負の両極の電解液を混合することができる。特に、RF電池2では、負極タンク107内の負極電解液の液面側に、充電されたチタンイオン(Ti
3+)がその比重により集まり易く、未充電状態(放電状態)のチタンイオン(Ti
4+など)がタンク107の底部側に集まり易くなっている。そのため、開閉弁11を開くと、放電状態のチタンイオンを相対的に多く含む負極電解液と、正極タンク106内の正極電解液とを混合することができる。両極の電解液を十分に混合できたら、開閉弁11を閉じるとよい。
【0066】
[効果]
実施形態2のRF電池2は、正負の両極の電解液にチタンイオンを含有し、負極では、このチタンイオンを負極活物質とすることで、従来の全バナジウム系RF電池と同等程度の起電力を有することができる。特に、RF電池2は、両極の電解液を混合するにあたり、連通管20における負極側の開口位置を負極タンク107の底部寄りとすることで、底部側に集まっている放電状態にあるチタンイオンを多く含む負極電解液と、正極タンク106内の正極電解液とを混合することができる。従って、RF電池2では、両極の電解液の混合による自己放電が少なく、或いは実質的に生じず、自己放電による損失を低減することができる。また、放電状態のチタンイオンを多く含む負極電解液を混合できるRF電池2は、自己放電による損失が少ないことから、負極電解液の充電状態に係わらず、電解液の混合作業を行える。このようにRF電池2では、従来の全バナジウム系RF電池と同様に液移りなどによる電解液量のばらつきなどを電解液の混合により容易に是正可能でありながら、低損失であり、長期に亘り、高い起電力を有することができる。
【0067】
更に、実施形態2のRF電池2では、連通管20に開閉弁11を具えることで、実施形態1のRF電池10と同様に、通常時には正負の両極の電解液が混合されず、電解液の混合に起因する自己放電による損失を低減し易い。
【0068】
(実施形態3)
図3を参照して、実施形態3のRF電池3を説明する。実施形態3のRF電池3は、上述の基本的な構成を具え、正負の両極の電解液にマンガンイオン及びチタンイオンを含有する点、両極のタンク106,107を連通する連通管30を具える点を特徴とする。以下、この特徴点を中心に説明する。
【0069】
[電解液]
正負の両極の電解液にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有するRF電池3では、正極電解液中のマンガンイオンを正極活物質として利用する。かつ、正極電解液中のチタンイオンは、金属イオン種を揃えるために含有すると共に、Mn
3+の不均化反応に伴うMnO
2の析出を抑制する析出抑制剤としても機能させる。かつ、RF電池3では、負極電解液中のチタンイオンを負極活物質として利用し、負極電解液中のマンガンイオンは、金属イオン種を揃えるために含有する。
【0070】
[連通管]
RF電池3に具える連通管30は、その一端が正極タンク106内の正極電解液の液面寄りの位置((Lp/2)超の位置)に接続され、その他端が負極タンク107の底部寄りの位置((La/2)以下の位置)に接続されている。実施形態1,2で説明したように、連通管30において正極タンク106に接続される一端は、正極タンク106内の液面に近いほど好ましく、底面から(2/3)×Lp以上の位置、(3/4)×Lp以上の位置がより好ましい。また、連通管30において負極タンク107に接続される他端は、負極タンク107の底部に近いほど好ましく、底面から(1/3)×La以下の位置、(1/4)×La以下の位置がより好ましい。この例では、連通管30において負極タンク107に接続される他端は、正極タンク106に接続される一端よりも低い位置になっている。その他、この例でも、連通管30には、開閉弁11が取り付けられている。
【0071】
[運転方法]
上記構成を具えるRF電池3も、連通管30を利用して、正負の両極の電解液を混合することで、電解液量のばらつきやイオン濃度のばらつきがなどを是正することができる。
【0072】
具体的には、実施形態1,2のRF電池1と同様に、実施形態3のRF電池3は、開閉弁11を開くことで、正負の両極の電解液を混合することができる。特に、RF電池3では、開閉弁11を開くと、放電状態のマンガンイオンを相対的に多く含む正極電解液と、放電状態のチタンイオンを相対的に多く含む負極電解液とを混合することができる。両極の電解液を十分に混合できたら、開閉弁11を閉じるとよい。
【0073】
[効果]
実施形態3のRF電池3は、正負の両極の電解液にマンガンイオン及びチタンイオンを含有し、正極では、マンガンイオンを正極活物質とし、負極では、チタンイオンを負極活物質とすることで、従来の全バナジウム系RF電池に比較して高い起電力を有することができる。特に、RF電池3では、正極電解液にチタンイオンを含有することで、MnO
2の析出を抑制して、Mn
3+を安定化することができ、長期に亘り、高い起電力を有することができる。
【0074】
かつ、RF電池3では、正負の両極の電解液を混合するにあたり、連通管30における一方の開口位置を正極タンク106内の正極電解液の液面寄りとし、他方の開口位置を負極タンク107の底部寄りとすることで、放電状態にあるマンガンイオンを多く含む正極電解液と、放電状態にあるチタンイオンを多く含む負極電解液とを混合することができる。従って、RF電池3は、正負の両極の電解液の混合による自己放電が少なく、或いは実質的に生じず、自己放電に伴う損失を低減することができる。また、正負の両極において放電状態の電解液を混合できるRF電池3は、自己放電による損失が少ないことから、両極の電解液の充電状態に係わらず、電解液の混合作業を行える。このようにRF電池3では、従来の全バナジウム系RF電池と同様に液移りなどによる電解液量のばらつきなどを電解液の混合により容易に是正可能でありながら、低損失であり、長期に亘り、高い起電力を有することができる。
【0075】
更に、実施形態3のRF電池3では、連通管30に開閉弁11を具えることで、実施形態1,2のRF電池1,2と同様に、正負の両極の電解液の混合時間(開閉弁11を開く時間)を任意の時間に容易に制御できる。そのため、RF電池3も、電解液の混合に起因する自己放電による損失を低減し易い。
【0076】
(実施形態4)
実施形態1〜3では、連通管10,20,30に開閉弁11を具える形態を説明した。その他、開閉弁を省略した形態とすることができる。この形態は、常時、正極タンク106の液相と負極タンク107の液相とが連通されることになる。しかし、この場合にも、連通管の少なくとも一部の太さを特定の大きさとすることによって、自己放電による損失を低減することができる。
【0077】
この形態では、RF電池の仕様(電池要素100cの大きさや電池容量など)にもよるが、内径φが25mm以下である細径部を有する連通管を利用することが好ましい。上記細径部が細過ぎると、正負の両極の電解液を十分に混合することが難しくなるため、上記細径部の内径φは13mm以上が好ましく、13mm〜25mm程度が利用し易い。連通管の全長に亘って内径が一様であり、当該内径φが25mm以下の形態、つまり、連通管全体が細径部である形態としてもよいし、連通管の長手方向の一部(好ましくは長さ10cm以上)おいて内径φが25mm以下の細径部を有する形態としても、上述の効果を得られる。
【0078】
実施形態4のRF電池は、正負の両極のタンクが連通管により、常時、連通された状態であるため、経時的に、電解液量のばらつき(液面差の発生)やイオン濃度のばらつきなどが実質的に生じない。また、実施形態4のRF電池は、開閉弁を具えていないため、電解液の混合にあたり、開閉動作を行う必要が無い。これらの点から、実施形態4のRF電池は、両極の電解液を混合するための別途作業を行う必要がない。
【0079】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、正極電解液や負極電解液に含有する金属イオンを変更することができる。