【実施例】
【0015】
鉛蓄電池の製造
JIS D 5301に準拠した、55B24形鉛蓄電池を製造した。公称電圧12V、5時間率定格容量は36Ahである。正極格子材料として、0.07質量部のCaと1.5質量部のSnと不可避不純物とを含み、残余がPbであるスラブを圧延してシートとした。次いでロータリエキスパンド法により、高さが115mm、幅が100mm、厚さが1.3mmの正極格子を作製した。正極格子のサイズ、組成等は任意で、ロータリエキスパンド法に代えて、レシプロエキスパンド法、打ち抜き法、ブックモールド法等で正極格子を作製しても良く、この点は負極格子も同様である。
【0016】
負極格子として、0.09質量部のCaと0.35質量部のSnと不可避不純物とを含み、残余がPbであるスラブを圧延してシートとした。次いで、ロータリエキスパンド法により、高さが115mm、幅が100mm、厚さが1mmの負極格子を作製した。
【0017】
正極活物質ペーストは、ボールミル法で作製した鉛粉100質量部に対して、補強材となるアクリル繊維を0.1質量部加え、水13質量部と20℃で比重1.40の希硫酸6質量部で混練したものである。なお鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。補強材はアクリル繊維に限らず任意であり、補強材を添加しなくても良く、鉛粉は鉛と酸化鉛の混合物である。
【0018】
負極活物質ペーストは、ボールミル法で作製した鉛粉に、カーボンブラックとグラファイト、繊維状カーボンを各々、負極既化成活物質100質量部に対して表1に示す量になるように加えると共に、リグニン0.2質量部、硫酸バリウム0.6質量部と0.1質量部のアクリル繊維を加え、水11質量部と20℃で比重1.40の希硫酸7質量部で混練したものである。鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。リグニン、硫酸バリウム、アクリル繊維の添加量は任意である。
【0019】
用いたカーボンブラックはアセチレンブラックで、BET法で窒素ガスを吸着させた際の比表面積(以下同様)が70m
2/gであり、遠心沈降法により測定した平均粒子径が40nmである。遠心沈降法では、イソブタノールを分散媒とし、プロペラ攪拌機にて撹拌した後に市販の粒度分布測定装置により粒度分布を測定し、粒子体積基準における50%粒子径(メジアン径)を平均粒子径とした。膨張黒鉛の平均2次粒子径も同様にして測定した。カーボンブラックの比表面積を30m
2/g以上、1000m
2/g以下とし、平均粒子径を10nm以上100nm以下とすると、効果は変わらない。またアセチレンブラックに代えて、同等の比表面積と同等の平均粒子径のファーネスブラック、チャンネルブラックなどでも良く、カーボンブラックの意義は高導電性の微細で化学的に安定な粉体である点に有る。グラファイトは、希硫酸電解液に接触するため、予めグラファイトを硫酸で処理した膨張黒鉛を用いたが、膨張黒鉛に限らず、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれでも良く、粒子の形状は球状、鱗片状、鱗状など任意である。用いた膨張黒鉛は、BET法で窒素ガスを吸着させた際の比表面積が20m
2/g、遠心沈降法により測定した平均2次粒子径が45μmである。膨張黒鉛に限らず、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイトは、比表面積が0.5m
2/g以上50m
2/g以下、平均2次粒子径が10μm以上500μm以下で有れば、効果は変わらない。
【0020】
繊維状カーボンは、電子顕微鏡で観察した際の繊維の平均長が15μm、繊維の平均直径が150nmのものを用いた。繊維状カーボンは、繊維の平均長が2μm以上で50μm以下、繊維の平均直径が50nm以上で300nm以下であれば効果は変わらず、繊維状カーボンはグラファイト構造を持つ導電性の繊維である。繊維状カーボンは、平均直径がサブミクロンオーダーである点から、カーボンナノファイバーと呼ばれることがあり、炭素繊維に比べて直径、繊維長が共に小さく、カーボンナノチューブに比べ直径、長さが共に大きい。繊維状カーボンは、グラファイトとカーボンブラックの中間のサイズで、またカーボンブラックとの親和性が高いためその担体となり、カーボンブラックが電解液中へ流出することを防止する。カーボンブラック、繊維状カーボン、グラファイトにより、負極活物質内に導電性ネットワークを構成し、充電時の硫酸鉛の還元を容易にする。
【0021】
正極格子1枚当たり正極活物質ペーストを55g充填し、負極格子1枚当たり負極活物質ペーストを52g充填し、各々50℃相対湿度50%で48時間熟成し、次いで50℃の乾燥雰囲気で24時間乾燥させ、未化成正極板及び負極板を得た。袋状のポリエチレンセパレータ内に未化成負極板を収納し、セパレータに収納した未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とを交互に積層し、同極性の極板の耳を互いに溶接して、極板群とした。得られた極板群6個をポリプロピレンの電槽に収納して直列に接続するように溶接し、20℃で比重が1.230の希硫酸に表1に記載した量の硫酸アルミニウムと硫酸リチウムとを添加した電解液を注入し、25℃の水槽内で電槽化成を行い、55B24形の鉛蓄電池とした。アルミニウムイオン源とリチウムイオン源は任意で、例えば硫酸アルミニウム,硫酸リチウムの他に、炭酸リチウム,アルミン酸リチウム、水酸化アルミニウムと水酸化リチウムなどの形態で添加しても良い。
【0022】
試験法
各組成の鉛蓄電池に対し、5時間率容量試験(JIS D 5301:2006の9.5.2b))を行い、初期放電容量を求めた、また各組成の鉛蓄電池に対し、アイドリングストップ寿命試験(電池工業会規格SBA S 0101: 2006の9.4.5)を行い、アイドリングストップ寿命性能(SBA-IS寿命性能)を求め、低温ハイレート放電試験(JIS D 5301:2006の9.5.3b))を行い、高率放電性能を求めた。表1に結果を示し、カーボンブラックの含有量を変えた際の結果を
図1に、グラファイトの含有量を変えた際の結果を
図2に、繊維状カーボンの含有量を変えた際の結果を
図3に示す。また電解液中のアルミニウムイオン濃度の影響を
図4に、リチウムイオン濃度の影響を
図5に示す。
図1〜
図5のデータは、表1のデータを再掲したものである。結果は各3個の蓄電池での平均を示し、負極既化成活物質100質量部に対し、カーボンブラックを0.5質量部含み、グラファイト、繊維状カーボン、アルミニウムイオン、リチウムイオンのいずれも含まない、試料1の結果を100として相対値で示す。なお以下、カーボンブラック等の含有量を示す際に、負極既化成活物質100質量部を基準とする値であることを省略して示す。
【0023】
結果
初期放電容量について、実用的な許容値は95以上、アイドリングストップ寿命性能(SBA-IS寿命性能)は120以上、高率放電性能の実用的な許容値は95以上である。アルミニウムイオンとリチウムイオンのいずれも含まない試料では、カーボンブラックとグラファイトと繊維状カーボンの3者を共に含有させることにより、SBA-IS寿命性能を目標値近くまで向上させることができた。この系で電解液中に、例えば0.1mol/Lのアルミニウムイオンを含有させることにより、SBA-IS寿命性能は目標値に達するが、高率放電性能が低下した。それに対して、カーボンブラックとグラファイトと繊維状カーボンの3者を負極活物質に含有させ、アルミニウムイオンとリチウムイオンを電解液に含有させると、初期放電容量とSBA-IS寿命性能と高率放電性能とを満足する鉛蓄電池が得られた(試料8)。なお繊維状カーボンを含まない場合、SBA-IS試験後に、電解液中へのカーボンブラックの流出が見られた。
【0024】
図1はカーボンブラック含有量の影響を、
図2はグラファイト含有量の影響を、
図3は繊維状カーボン含有量の影響を示し、これらの図では、他の添加物の含有量は最適量付近に固定してある。
図1〜
図3から以下のことが明らかである。
・ カーボンブラック、グラファイト、繊維状カーボンのいずれを欠いても、SBA-IS寿命性能は目標値に達しない。
・ カーボンブラック及びグラファイトでは、含有量が0と0.1質量部とで、SBA-IS寿命性能は著しく異なる。
・ 繊維状カーボンでは、含有量が0と0.05質量部とで、SBA-IS寿命性能は著しく異なる。
・ カーボンブラック、グラファイト、繊維状カーボンのいずれの場合も、含有量を不必要に増すと、初期放電容量が低下する。
・ カーボンブラック及びグラファイトでは高率放電性能への影響は小さいが、繊維状カーボンを多量に、特に1質量部超含有させると、高率放電性能が著しく低下する。
【0025】
図4は電解液中のアルミニウムイオン濃度の影響を、
図5は電解液中のリチウムイオン濃度の影響を示し、負極既化成活物質中でのカーボンブラック、グラファイト及び繊維状カーボンの含有量は最適値付近に固定してある。
図4,
図5から以下のことが明らかである。
・ SBA-IS寿命性能を目標値に達させるためには、アルミニウムイオンが不可欠である。・ アルミニウムイオンは高率放電性能に悪影響を与え、特に0.2mol/L超で悪影響が著しい。なお0.2mol/Lまでは高率放電性能へのアルミニウムイオンの影響は小さい。
・ リチウムイオンは高率放電性能を向上させ、高率放電性能を向上させる添加物は実験した範囲ではリチウムイオンのみである。しかし0.2mol/L超のリチウムイオンを含有すると、SBA-IS寿命性能が低下する。
【0026】
また
図1〜
図5から最適含有量は、カーボンブラックが0.5質量部以上で1.5質量部以下、グラファイトが0.5質量部以上で1.5質量部以下、繊維状カーボンが0.2質量部以上で0.75質量部以下、アルミニウムイオンとリチウムイオンとが各0.05mol/L以上で0.2mol/L以下であることが分かる。ただし高率放電性能を重視しないのであれば、リチウムイオンを含有させる必要はない。
【0027】
【表1】