特許第5769101号(P5769101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769101
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】グリース組成物および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20150806BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20150806BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20150806BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20150806BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20150806BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20150806BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20150806BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20150806BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20150806BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   C10M169/06
   F16C33/66 Z
   F16C19/18
   !C10M137/02
   !C10M115/08
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:02
   C10N50:10
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-204738(P2010-204738)
(22)【出願日】2010年9月13日
(65)【公開番号】特開2012-57134(P2012-57134A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 元博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋司
(72)【発明者】
【氏名】三上 英信
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−170691(JP,A)
【文献】 特開昭62−275197(JP,A)
【文献】 特開2002−265970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00−80/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、添加剤からなるグリース組成物であって、
前記添加剤が、式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、前記亜リン酸エステルの含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であり、前記増ちょう剤がウレア化合物であり、
該グリース組成物は、式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステル、および、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルを含まないことを特徴とするグリース組成物。
【化1】
【化2】
(式(1)(2)において、R、R、R、R、Rは、それぞれメチル基またはエチル基である。また、RとRとは、RとRとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【請求項2】
前記亜リン酸エステルが、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルであることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記増ちょう剤が、式(3)で表されるウレア化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のグリース組成物。
【化3】
(式(3)において、Rは、炭素数6〜15の2価の炭化水素基である。また、R、Rは、それぞれ1価の芳香族環含有炭化水素基である。RとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【請求項4】
前記基油が、鉱油および/または合成油であり、40℃における動粘度が30〜150mm/sであることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記グリース組成物の混和ちょう度が、200〜350であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項6】
内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、上記転動体の周囲にグリース組成物を封入してなる転がり軸受であって、
前記グリース組成物は、請求項1ないし請求項のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項7】
前記転がり軸受は、ハブベアリングとして用いられることを特徴とする請求項記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関するものであり、詳しくは、相対運動の拘束を目的とする部品や微小な往復運動を受ける部品において、摺動部、接合部などに生じるフレッチング摩耗(微動摩耗)を防止する上で有用なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
軸の嵌合部、ボルト接合部、リベット接合部、テーパ継手などの相対運動の拘束を目的する部品、あるいは転がり軸受、すべり軸受、ボールブッシュ、スプライン軸受、たわみ軸継手、自在継手、等速ジョイント、重ね板ばね、コイルばね、電気接点、弁と弁座、ワイヤーロープなどの微小な往復運動を伴う部品などの各種機械部品には、一般に微動摩耗と呼ばれる摩耗現象(以下、フレッチングという)が生じる。また、自動車を輸送する際には、トレーラーや貨物列車による長距離輸送が行なわれているが、輸送中の微振動により、軸受転走面にフレッチングが生じることがある。特に、寒冷地での用途など、低温環境下では、転走面などへの潤滑油の十分な供給が得られず、上記フレッチングの被害が起こりやすい。
【0003】
従来、このようなフレッチングを防止するために種々の方法が提案されているが、その一つとして、適切な潤滑剤を選択してフレッチングを防止する方法がある。その中で、ウレア系増ちょう剤に酸化パラフィン、ジフェニルハイドロゲンホスファイトおよびヘキサメチルホスホリックトリアミドから選ばれた少なくとも一つを配合したグリースが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、自動車の車輪を回転自在に支持するためのハブベアリングにおいては、外輪にフランジが設けられる第二世代ハブベアリングおよび第三世代ハブベアリングでは、鍛造性が良く安価なS53Cなどの機械構造用炭素鋼が用いられるようになった。機械構造用炭素鋼は軌道部に高周波熱処理を施すことで、軸受部の転がり疲労強度を確保しているが、合金成分が少ないため表面強度が弱く、軸受鋼に比べ表面起点剥離への耐性が劣る。その対策として亜鉛ジチオカーバメートを必須成分として添加したグリースが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、ハブベアリングなどにおいて、比較的安価な基油を用いて低温から高温までの広い温度領域でのフレッチングの発生を防止するものとして、所定の基油を用い、ポリ(メタ)アクリレートと、ジチオリン酸亜鉛と、リン酸塩とを含むグリースが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2576898号公報
【特許文献2】特開2006−342260号公報
【特許文献3】特開2010−84142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のグリースは、フレッチング防止に関して、特に低温下では、十分な性能は有していない。また、特許文献2のグリースの表面起点剥離への耐性も十分とはいえず、特に低温下ではフレッチングが起こりやすい。
【0008】
また、グリースの耐フレッチング性については十分に解明されていないのが現状であり、例えば、同一の増ちょう剤を配合したグリースであっても試験法によっては耐フレッチング性について相反する結果を与える場合がある。その他、添加剤についてもリン酸塩やリン酸エステルなどのリン化合物を含むものが好ましいとする報告が多いが、その耐フレッチング性はリン化合物の構造により大きく異なっている。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、低温から高温までの広い温度領域、特に低温下でも優れた耐フレッチング性を有するグリース組成物、および、このグリース組成物を封入した転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物であって、上記添加剤が、式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、上記亜リン酸エステルの含有量が、上記基油および上記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であることを特徴とする。
【化1】
【化2】
(式(1)(2)において、R、R、R、R、Rは、それぞれメチル基またはエチル基である。また、RとRとは、RとRとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【0011】
上記グリース組成物が、上記式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステル、および、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルを含まないことを特徴とする。
【0012】
上記亜リン酸エステルが、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルであることを特徴とする。
【0013】
上記増ちょう剤が、式(3)で表されるウレア化合物であることを特徴とする。
【化3】
(式(3)において、Rは、炭素数6〜15の2価の炭化水素基である。また、R、Rは、それぞれ1価の芳香族環含有炭化水素基である。RとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【0014】
上記基油が、鉱油および/または合成油であり、40℃における動粘度が30〜150mm/sであることを特徴とする。また、上記グリース組成物の混和ちょう度が、200〜350であることを特徴とする。
【0015】
本発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、上記転動体の周囲にグリース組成物を封入してなる転がり軸受であって、上記転動体の周囲に上記グリース組成物を封入してなることを特徴とする。また、上記転がり軸受は、ハブベアリングとして用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のグリース組成物は、添加剤として亜リン酸エステルの中でも、特に上記式(1)または式(2)に表されるものを所定量含有するので、低温下でもフレッチングの発生を防止でき、優れた耐フレッチング性を有する。また、併せて、増ちょう剤として、所定のジウレア化合物などを用いるので、低温から高温までの広い温度領域でのフレッチングの発生を防止できる。このため、産業での利用分野は極めて広く、各種の機器に使用できる。
【0017】
本発明の転がり軸受は、上記グリース組成物を封入してなるので、低温から高温までの広い温度領域でフレッチングの発生を防止でき、特に自動車の車輪を回転自在に支持するための自動車用のハブベアリングとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の転がり軸受の一例として深溝玉軸受を示す断面図である。
図2】本発明の転がり軸受の他の例としてハブベアリングを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施状態について詳細に説明する。本発明のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤が、所定の亜リン酸エステルを含むものである。
【0020】
本発明のグリース組成物に使用する所定の亜リン酸エステルは、下記式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種である。これらの式で表される亜リン酸エステルは、1種を単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
【化4】
【化5】
(式(1)(2)において、R、R、R、R、Rは、それぞれメチル基またはエチル基である。また、RとRとは、RとRとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【0021】
式(1)または式(2)で表される亜リン酸エステルは、例えば、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸メチルエチルなどの亜リン酸ジエステル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸ジメチルエチル、亜リン酸メチルジエチルなどの亜リン酸トリエステルである。これらの中でも、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルが好ましい。
【0022】
本発明のグリース組成物において、上記亜リン酸エステルの含有量は、基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部である。亜リン酸エステルの含有量が0.5重量部未満であると、耐フレッチング性の向上が図れない可能性がある。また、亜リン酸エステルの含有量が4重量部をこえると、耐フレッチング性がそれ以上に向上しにくい。なお、2種以上の亜リン酸エステルを用いる場合は、その合計量を上記範囲内とする。
【0023】
また、本発明のグリース組成物は、上記式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステルを含まないことが好ましい。また、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルも含まないことが好ましい。すなわち、上記式(1)または式(2)で表される亜リン酸エステルが酸化されたものなど以外は含まないことが好ましい。これらの亜リン酸エステルやリン酸エステルが含まれる場合、低温時の耐フレッチング性に劣るおそれがある。
【0024】
本発明のグリース組成物は、添加剤に上記所定の低分子量の亜リン酸エステルを用いることで、従来、フレッチングや表面起点剥離を防止するために配合していた、ジチオリン酸亜鉛、リン酸トリクレシルなどの他のリン化合物や、他の極圧剤などを配合しない場合でも、低温下におけるフレッチングの発生を防止できる。
【0025】
また、本発明のグリース組成物には必要に応じて、上記亜リン酸エステル以外の公知の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤として、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの防錆剤、ポリアルキレングリコール、グリセリンなどの耐摩耗剤、塩素化パラフィン、硫化油、有機モリブデン化合物などの極圧剤、高級脂肪酸、合成エステルなどの油性向上剤、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤などが挙げられる。なお、これらは、単独または2種類以上組合せて添加できる。
【0026】
本発明のグリース組成物の基油は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、鉱油、合成油、またはこれらの混合油が挙げられる。ここで、基油は、40℃における動粘度が30〜150mm/sであることが好ましい。40℃における動粘度が30mm/s 未満の場合は粘度が低すぎて油膜切れを起こしやすくなったり、また油の蒸発も多い。一方、40℃における動粘度が150mm/sより高いと、低温下における転走面への潤滑油の供給性に劣り、フレッチングが起こりやすくなる。また、動力損失が大きくなり、軸受に使用した場合のトルクが上昇し発熱も大きくなる。なお、混合油を用いる場合は、該混合油の動粘度が上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
上記鉱油としては、例えば、石油精製業の潤滑油製造プロセスで通常行われている方法により得られるもの、より具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものが挙げられる。
【0028】
上記合成油としては、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマーなどのポリα−オレフィンまたはこれらの水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ3−エチルヘキシルセバケートなどのジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル;アルキルナフタレン;アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル;ジアルキルジフェニルエーテル;シリコーン油;フッ素油;などが挙げられる。その他、フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油なども挙げられる。
【0029】
本発明のグリース組成物の増ちょう剤は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱耐久性、転走面などへの介入性と付着性に優れ、フレッチングを防止しやすくなることから、ウレア化合物の使用が好ましく、特に下記式(3)で示すジウレア化合物が好ましい。
【0030】
【化6】
【0031】
式(3)中、R、Rは、それぞれ1価の芳香族環含有炭化水素基である。RとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。RおよびRを芳香族環含有炭化水素とすることで、耐熱耐久性や耐フレッチング性に優れる。このような基としては、フェニル基、ナフチル基、およびこれらの基に1個または複数個のアルキル基が置換したアルキルアリール基、アルキル基にフェニル基、ナフチル基などのアリール基が置換したアリールアルキル基などが挙げられる。
【0032】
およびRの芳香族炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、炭素数6〜15のものが好ましく用いられる。かかる炭素数を有する芳香族環含有炭化水素基としては、具体的には、トルイル基、キシル基、β−フェンシル基、t−ブチルフェニル基、ドデシルフェニル基、ベンジル基、メチルベンジル基などが挙げられる。
【0033】
式(3)中、Rは、炭素数6〜15の2価の炭化水素基である。このような炭化水素基としては、直鎖状または分枝状のアルキレン基、直鎖状または分枝状のアルケニレン基、シクロアルキレン基、芳香族基などが挙げられる。
【0034】
式(3)で示すジウレア系化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、3,3−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。また、モノアミンとしては、アニリン、p−トルイジンなどが挙げられる。
【0035】
基油にウレア化合物などの増ちょう剤を配合して、上記の各添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。
【0036】
ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の含有量は、3〜40重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。この範囲内であることが、グリース組成物本来の潤滑性を得るために適する。増ちょう剤の含有量が3重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となる。増ちょう剤の含有量が40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0037】
本発明のグリース組成物の混和ちょう度(JIS K 2220)は、200〜350の範囲にあることが好ましい。ちょう度が200未満である場合は、低温での油分離が小さく潤滑不良となり、フレッチングが起こりやすくなる。一方、ちょう度が350をこえる場合は、グリースが軟質で軸受外に流出しやすくなり好ましくない。
【0038】
本発明のグリース組成物は、フレッチング摩耗(微動摩耗)防止に優れているので、軸の嵌合部、ボルト接合部、リベット接合部、テーパ継手などの相対運動の拘束を目的する部品、あるいは転がり軸受、すべり軸受、ボールブッシュ、スプライン軸受、たわみ軸継手、自在継手、等速ジョイント、重ね板ばね、コイルばね、電気接点、弁と弁座、ワイヤーロープなどの微小な往復運動を伴う部品などの各種機械部品のグリースとして有用である。
【0039】
本発明の転がり軸受の一例を図1に示す。図1はグリース組成物が封入されている深溝玉軸受の断面図である。深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4は、保持器5により保持されている。また、外輪3などに固定されるシール部材6が、内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲にグリース組成物7が封入される。
【0040】
本発明の転がり軸受をハブベアリングとして用いた一例(従動輪用第三世代ハブベアリング)を図2に示す。図2は、ハブベアリングを示す断面図である。ハブベアリング16は、ハブ輪11および駆動用内輪12を有する内輪(内方部材ともいう)15と、外輪(外方部材ともいう)13と、複列の転動体14、14とを備えている。ハブ輪11は、その一端部に車輪(図示せず)を取付けるための車輪取付けフランジ11dを一体に有し、外周に内側転走面11aと、この内側転走面11aから軸方向に延びる小径段部11bとが形成されている。本明細書においては、軸方向に関して「外」とは、車両への組付け状態で幅方向外側をいい、「内」とは、幅方向中央側をいう。ハブ輪11の小径段部11bには、外周に内側転走面12aが形成された駆動用内輪12が圧入されている。そして、ハブ輪11の小径段部11bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部11cにより、ハブ輪11に対して駆動用内輪12が軸方向へ抜けるのを防止している。外輪13は、外周に車体取付けフランジ13bを一体に有し、内周に外側転走面13a、13aと、これら複列の外側転走面13a、13aに対向する内側転走面11a、12aとの間には複列の転動体14、14が転動自在に収容されている。本発明のグリース組成物は、シール部材17と、外輪13と、シール部材18と、内輪15と、ハブ輪11とに囲まれた空間に封入され、外輪13と、内輪15とに挟まれた複列の転動体14、14の周囲を被覆し、転動体14、14の転動面と、内側転走面11a、12aおよび外側転走面13a、13aとの転がり接触部の潤滑に供される。
【0041】
上記ハブベアリングに使用できる材質は、軸受鋼、浸炭鋼、または機械構造用炭素鋼を挙げることができる。これらの中で鍛造性が良く安価なS53Cなどの機械構造用炭素鋼を用いることが好ましい。該炭素鋼は一般に高周波熱処理を施すことで、軸受部の転がり疲労強度を確保した上で用いられる。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例6
表1に示すように、増ちょう剤として芳香族ウレアを用い、基油として鉱油(JX日鉱日石エネルギー社製:タービンオイル68)を用いてベースグリースを調整した。増ちょう剤原料としては、p-トルイジン(和光純薬工業社製)およびMDI(日本ポリウレタン工業社製:MILLIONATE MT(主成分:ジフェニルメタンジイソシアネート))を用いた。ベースグリース(200gスケール(増ちょう剤量:18重量%))の具体的な調整方法は、以下のようにした。
【0044】
(1)p−トルイジン16.8gとMDI19.4gをそれぞれ別のビーカーに量り取り、量り取ったビーカーそれぞれに基油となるタービンオイル68を82g加える。(2)マントルヒーターにより約80℃まで加熱し、p−トルイジンとMDIをそれぞれ基油に溶かす。(3)p−トルイジンを溶かした基油を、MDIを溶かした基油に、撹拌しながら加えていくとグリースとなる。この時、温度は100〜120℃になるようにする。(4)赤外分光法(IR)により、2280cm−1付近のイソシアネート(N=C=O)のバンドを確認する。(5)恒温槽130℃に2時間に入れ(30分毎に撹拌する)、p−トルイジンとMDIの反応を促す。2280cm−1付近のイソシアネート(N=C=O)のバンドにより、反応が十分進んだか確認する。室温にて、一晩自然冷却する。(6)3本ロールにて、ロールがけを行い、ベースグリースとする。
【0045】
上記で作製したベースグリース100重量部に対して、表1に示す割合で添加剤を添加して攪拌脱泡機にて十分攪拌して供試グリースを得た。得られた供試グリースについて、以下に示す低温フレッチング試験に供し、摩耗量を測定した。その結果を表1に併記した。
【0046】
<低温フレッチング試験>
ASTM D4170に準拠し、ファフナー微動摩耗試験機を用いて性能評価試験を行なった。軸受として51204Jを用い、最大接触面圧が2.0GPa、揺動サイクル30Hz、揺動角12°、雰囲気−20℃の条件下で、試験時間は8時間とした。軸受1個あたりの摩耗量(mg)で評価した。
【0047】
【表1】
【0048】
比較例1に示すように、添加剤を添加しない場合では、低温下での耐フレッチング性能に劣った。また、比較例2〜4に示すように、本発明で用いる亜リン酸エステル以外の添加剤を添加した場合では、低温下での耐フレッチング性能に劣った。また、比較例5および6に示すように、本発明で用いる亜リン酸エステル以外の添加剤の添加量を増加減少した場合でも、低温下での耐フレッチング性能に劣った。一方、これらの比較例に対して、各実施例では、優れた低温下での耐フレッチング性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のグリース組成物は、低温から高温までの広い温度領域、特に低温下でも優れた耐フレッチング性を有するので、軸の嵌合部、ボルト接合部、リベット接合部、テーパ継手などの相対運動の拘束を目的する部品、あるいは転がり軸受、すべり軸受、ボールブッシュ、スプライン軸受、たわみ軸継手、自在継手、等速ジョイント、重ね板ばね、コイルばね、電気接点、弁と弁座、ワイヤーロープなどの微小な往復運動を伴う部品などの各種機械部品のグリースとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 開口部
11 ハブ輪
11a 内側転走面
11b 小径段部
11c 加締部
11d 車輪取付けフランジ
12 駆動用内輪
12a 内側転走面
13 外輪(外方部材)
13a 外側転走面
13b 車体取付けフランジ
14 転動体
15 内輪(内方部材)
16 ハブベアリング
17 シール部材
18 シール部材
図1
図2