特許第5769136号(P5769136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイ・エム・エスの特許一覧

特許5769136間葉系幹細胞の分化促進剤およびそれを用いた分化促進方法
<>
  • 特許5769136-間葉系幹細胞の分化促進剤およびそれを用いた分化促進方法 図000002
  • 特許5769136-間葉系幹細胞の分化促進剤およびそれを用いた分化促進方法 図000003
  • 特許5769136-間葉系幹細胞の分化促進剤およびそれを用いた分化促進方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769136
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の分化促進剤およびそれを用いた分化促進方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20150806BHJP
【FI】
   C12N5/00 202H
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-77168(P2012-77168)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-202014(P2013-202014A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】緒方 花澄
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/087283(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/091013(WO,A1)
【文献】 特開2008−297220(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/121043(WO,A1)
【文献】 再生医療,2010年,Vol. 9, Suppl,pp. 288(P-103)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0775
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/SCISEARCH(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波処理した血液液性成分を含むことを特徴とする、間葉系幹細胞の分化を促進する分化促進剤。
【請求項2】
前記血液が、臍帯血または末梢血である、請求項1記載の分化促進剤。
【請求項3】
前記液性成分が、血清または血漿である、請求項1または2記載の分化促進剤。
【請求項4】
前記血液が、哺乳類の血液である、請求項1から3のいずれか一項に記載の分化促進剤。
【請求項5】
前記哺乳類が、ヒトである、請求項4記載の分化促進剤。
【請求項6】
間葉系幹細胞の分化を促進する方法であって、
下記(X)工程を有することを特徴とする分化促進方法。
(X)請求項1から5のいずれか一項に記載の分化促進剤を含む培地で前記間葉系幹細胞を培養する工程
【請求項7】
前記間葉系幹細胞と、前記分化促進剤における前記液性成分が、同一個体由来である、請求項6記載の分化促進方法。
【請求項8】
前記個体が、哺乳類である、請求項7記載の分化促進方法。
【請求項9】
前記哺乳類が、ヒトである、請求項8記載の分化促進方法。
【請求項10】
前記間葉系幹細胞から、骨芽細胞および軟骨細胞の少なくとも一方への分化を促進する、請求項6から9のいずれか一項に記載の分化促進方法。
【請求項11】
間葉系幹細胞由来分化細胞の製造方法であって、
請求項6から10のいずれか一項に記載の分化促進方法により、前記間葉系幹細胞の分化を促進する工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項12】
前記分化細胞が、骨芽細胞および軟骨細胞の少なくとも一方である、請求項11記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の分化を促進する分化促進剤およびそれを用いた分化促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、骨芽細胞および軟骨細胞等の間葉系細胞への分化能を持つ多能性幹細胞であり、骨髄液および脂肪組織等に存在する。この多能性から、前記間葉系幹細胞を、骨、血管、心筋に再構築し、再生医療に利用することが試みられている。組織の再構築には、多数の前記間葉系幹細胞を要するが、前記骨髄液等の生体試料から得られる前記間葉系幹細胞はわずかである。このため、現在、前記間葉系幹細胞を増殖させ、増殖した前記間葉系幹細胞から各種細胞へ分化させる方法の開発が期待されている。前記分化促進の方法は、例えば、ウシ胎児血清と、trans−レチノイン酸、インシュリン、デクサメタゾン、IBMX(1−methyl−3−(2−methylpropyl)−7H−purine−2,6−dione;イソブチルメチルキサンチン)またはトログリタゾン等とを含む培養培地を使用する方法(特許文献1)、Rhoキナーゼ阻害物質と骨誘導因子とを含む骨形成促進剤を使用する方法(特許文献2)、ケンフェロールを含む骨分化誘導剤を使用する方法(特許文献3)等が報告されている。しかしながら、これらの方法は、例えば、工程が煩雑であり、結果的に高コストとなるおそれがある。また、異種由来成分を使用するものもあり、安全性が懸念されるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/106502号
【特許文献2】国際公開第2001/017562号
【特許文献3】特開2009−256350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、優れた安全性で、前記間葉系幹細胞の分化を促進する新たな分化促進剤および分化促進方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の分化促進剤は、間葉系幹細胞の分化を促進する分化促進剤であって、超音波処理した血液液性成分を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明の分化促進方法は、間葉系幹細胞の分化を促進する方法であって、下記(X)工程を有することを特徴とする。
(X)前記本発明の分化促進剤を含む培地で前記間葉系幹細胞を培養する工程
【0007】
本発明の製造方法は、前記間葉系幹細胞由来分化細胞の製造方法であって、前記本発明の分化促進方法により、前記間葉系幹細胞の分化を促進する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、超音波処理した血液液性成分を使用するのみで、間葉系幹細胞の分化を促進できる。本発明の分化促進剤における有効成分は、前記超音波処理した血液液性成分であることから、例えば、血液液性成分の由来と、処理対象の間葉系幹細胞の由来を、同じ種由来に設定することが可能であり、さらに、同一個体由来に設定することも可能であるため、安全性にも優れる。したがって、本発明は、例えば、再生医療等において極めて有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施例における、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を示す培養細胞の染色写真である。
図2図2は、本発明の実施例における、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を示す培養細胞の染色写真である。
図3図3は、本発明の実施例における、間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化の抑制を示す培養細胞の染色写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<分化促進剤>
本発明の分化促進剤は、前述のように、間葉系幹細胞の分化を促進する分化促進剤であって、超音波処理した血液液性成分を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の分化促進剤は、前記間葉系幹細胞から、間葉系に属する細胞への分化を促進できる。前記間葉系に属する細胞は、例えば、脂肪細胞を除く、間葉系に属する細胞であり、具体例としては、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、骨細胞、心筋細胞、腱細胞等があげられ、好ましくは骨芽細胞および軟骨細胞である。
【0012】
本発明において、前記血液の種類は、特に制限されず、例えば、臍帯血および末梢血があげられる。前記血液は、例えば、臍帯血および末梢血のいずれか一方を使用してもよく、また、両者を併用してもよい。
【0013】
本発明において、前記超音波処理した血液液性成分を、以下、「処理済み液性成分」ともいう。血液は、一般に、細胞成分(細胞画分)と液性成分(液性画分)とに大別できる。前記細胞成分(細胞画分)は、例えば、血球成分(血球画分)であり、血球は、例えば、赤血球、白血球および血小板があげられる。前記液性成分は、例えば、血清または血漿である。「血漿」とは、一般に、血液から前記血球を除いた液体画分であり、「血清」とは、一般に、血液から、前記血球と数種の血液凝固因子とを除いた液体画分である。前記血液凝固因子とは、例えば、フィブリノゲン(I因子)、プロトロンビン(II因子)等である。
【0014】
本発明の分化促進剤は、前記液性成分を含んでいればよく、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の分化促進剤は、例えば、前記血液由来の成分として、例えば、前記液性成分のみを含んでもよいし、さらに、その他の血液由来の成分を含んでもよい。すなわち、本発明の分化促進剤は、例えば、前記処理済み液性成分のみを含んでもよいし、超音波処理された血液そのものを含んでもよい。前者は、例えば、超音波処理済みの血清および血漿等があげられる。本発明の分化促進剤は、好ましくは、前記細胞成分が除去された液性成分、前記血液凝固因子が除去された液性成分、前記細胞成分および前記血液凝固因子が除去された液性成分が好ましい。なお、前記細胞成分の除去および前記血液凝固因子の除去とは、完全にこれらが除去されていることには限定されない。
【0015】
本発明において、前記処理済み液性成分は、例えば、超音波処理した血液、超音波処理した血液から回収した液性成分、血液から回収した液性成分に超音波処理を施したもの等、いずれでもよい。
【0016】
本発明において、前記処理済み液性成分の調製方法は、特に制限されない。前記超音波処理の対象は、特に制限されず、例えば、血液そのものでもよいし、血液から回収した液性成分(例えば、血清または血漿)でもよい。
【0017】
前者の場合、例えば、血液に超音波処理を施せばよい。この場合、例えば、超音波処理した血液を、そのまま、前記処理済み液性成分を含む血液として、本発明の分化促進剤に使用してもよいし、前記超音波処理した血液から液性成分を回収し、これを前記処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用してもよい。前記血液から前記液性成分を回収する際、例えば、血球の他に、フィブリノゲン等の血液凝固因子も除去することが好ましい。
【0018】
後者の場合、例えば、超音波処理していない血液から回収した液性成分に超音波処理を施せばよい。この場合、例えば、前記超音波処理した前記液性成分を、そのまま、本発明の分化促進剤に使用できる。後者において、血液から回収した超音波処理していない液性成分を、以下、「処理前液性成分」ともいう。前記処理前液性成分は、例えば、血液から、前記血球成分を除いた液体画分、前記血液凝固因子を除いた液体画分、前記血球成分および前記血液凝固因子を除いた液体画分のいずれでもよく、中でも、前記血球成分を除いた液体画分が好ましい。また、前記処理前液性成分は、例えば、血小板を含んでもよく、例えば、前記血小板を含む血漿は、いわゆる多血小板血漿(Platelet-Rich-Plasma)等があげられる。前記血液から前記液性成分を回収する際、例えば、血球の他に、フィブリノゲン等の血液凝固因子も除去することが好ましい。
【0019】
前記超音波処理の条件は、特に制限されない。具体例としては、例えば、その対象物に対する超音波を音圧計で測定したとき、5mV以上の音圧が得られる条件下、周波数を、例えば、28〜100kHz、超音波発生装置からの距離を、例えば、5〜30cm、処理時間を、例えば、5分間〜60分間、好ましくは10分間〜30分間として、超音波処理を行う。前記超音波は、例えば、通常の超音波発生装置を用いて発生させることができる。このようにして、前記処理済み液性成分が得られる。
【0020】
前記超音波処理に供する血液または前記液性成分は、例えば、超音波処理の前および/または後に、さらに、前記血液凝固因子を除去することが好ましい。具体的には、例えば、前記血液から前記血液凝固因子を除去し、血清を回収し、これを前記液性成分として使用できる。前記血液に超音波処理を施した場合は、例えば、回収した血清を前記処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用でき、前記血液に超音波処理を施していない場合は、例えば、回収した血清に超音波処理を施し、これを前記処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用できる。また、前記液性成分が前記血液凝固因子を含む血漿の場合、例えば、前記血液凝固因子を除去して、血清を回収し、これを前記液性成分として使用できる。前記血漿に超音波処理を施した場合、例えば、前記回収した血清を前記処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用でき、前記血漿に超音波処理を施していない場合は、例えば、回収した血清に超音波処理を施し、これを前記処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用できる。
【0021】
前記血液凝固因子の除去処置は、特に制限されず、例えば、前記血液凝固因子を変性させ、不溶性画分として除去する方法があげられる。例えば、フィブリノゲンは、変性によりフィブリンを形成させて、これを前記不溶性画分として除去する方法があげられる。前記血液凝固因子を、変性により失活させることを、「非働化」という。前記変性方法は、特に制限されず、熱変性があげられ、前記熱変性の方法は、例えば、血液または前記液性成分に熱処理を施す方法があげられる。熱処理の条件は、特に制限されない。具体例として、加熱温度は、例えば、50〜60℃が好ましく、加熱時間は、10〜120分が好ましく、より好ましくは30〜60分である。前記不溶性画分の除去は、例えば、熱処理後の血液または液性成分を、静置、遠心またはフィルターろ過等に供することで行える。そして、前記不溶性画分の除去により得られた液体画分を、前記液性成分として使用できる。
【0022】
前記血液凝固因子の除去方法は、例えば、前記熱処理の他に、前記血液または前記液性成分に対する、塩化カルシウム、トロンビン等の凝固因子の添加等、血液凝固系の活性化機構を利用した方法があげられる。具体的な条件については、何ら制限されず、従来公知の条件が採用できる。
【0023】
前記熱処理によれば、例えば、前記血液凝固因子には限定されず、補体等の他のタンパク質についても変性でき、また、その後の除去処理によって、同様に除去できる。
【0024】
前記血液の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、および、げっ歯類、家畜類、ヒトを除く霊長類等の非ヒト哺乳類等があげられる。
【0025】
前記血液は、通常、生体から採血デバイスを用いて採取したものが使用される。前記採血デバイスは、例えば、抗凝固剤を含むデバイス、凝固剤を含むデバイス、いずれも含まないデバイス等がある。前記抗凝固剤を含むデバイスは、前記抗凝固剤を含むことから、例えば、採血した血液は、凝固が抑制された状態である。前記凝固剤を含むデバイスは、前記凝固剤を含むことから、例えば、採血した血液は、凝固が促進されている。いずれも含まないデバイスを使用した場合も、例えば、採血した血液は、デバイス内壁との接触により、凝固が促進されている。
【0026】
以下に、凝固剤等によって凝固が促進されている血液から、前記処理済み液性成分である血清を調製する方法の一例、抗凝固剤等によって凝固が抑制された血液から、前記処理済み液性成分である血清を調製する方法の一例を、それぞれ示す。本発明は、これらの例示には制限されない。
【0027】
(1)凝固が促進されている血液からの調製
まず、前記血液を遠心分離に供し、血清と血餅とに分離する。遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、遠心加速度2940〜39200m/s(300〜4000×g)、温度1〜20℃、時間3〜15分である。
【0028】
つぎに、前記血清に熱処理を施し、非働化を行う。非働化した前記血清を遠心分離に供し、上清の血清を液体画分として回収する。前記熱処理の条件は、例えば、前述の通りである。前記遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、遠心加速度2940〜39200m/s(300〜4000×g)、温度1〜20℃、時間3〜15分である。
【0029】
そして、前記血清に超音波処理を施し、処理済み血清を得る。前記超音波処理の条件は、例えば、前述の通りである。
【0030】
前記処理済み血清は、例えば、さらにフィルターろ過してもよい。前記フィルターろ過に使用するフィルターは、特に制限されない。前記フィルターの孔径は、例えば、0.1〜0.3μm、材質は、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、セルロース混合エステル(MCE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート(PC)等が例示できる。具体例としては、例えば、孔径0.22μm、ポリエーテルスルホン(PES)製のフィルターがあげられる。
【0031】
得られた前記処理済み血清は、前記処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用できる。本発明の分化促進剤は、例えば、前記処理済み液性成分のみを含んでもよいし、前記処理済み液性成分の他に、その他の成分を含んでもよい。前記その他の成分は、特に制限されず、例えば、分化誘導因子、サイトカイン、抗生物質、塩類、ビタミン等があげられる。前記分化誘導因子は、例えば、分化させる目的の細胞の種類に応じて適宜設定できる。具体例として、骨芽細胞への分化には、前記分化誘導因子として、例えば、デキサメサゾン、アスコルビン酸、βグリセロリン酸等が使用でき、これらはいずれか一種類でもよいし、複数種類を併用してもよいし、全てを併用してもよい。
【0032】
(2)凝固が抑制されている血液からの調製
前記凝固が抑制されている血液は、通常、前述のように、前記抗凝固剤を含んでいる。前記抗凝固剤は、例えば、ヘパリン、プロタミン、クエン酸、CPD液(Citrate−Phosphate−Dextrose solution)、ACD−A液(Acid−Citrate−Dextrose−A solution)等があげられる。臍帯血は、通常、抗凝固剤を含む採血バックに採取されることから、臍帯血からの調製は、例えば、この例示する方法が適している。
【0033】
そこで、まず、前記血液に、赤血球沈降剤を添加し、静置することによって、赤血球の沈殿画分と、血漿、血小板および白血球を含む上清画分とに分離する。前記赤血球沈降剤は、例えば、HES(Hydroxy Ethyl Starch)があげられる。前記赤血球沈降剤の添加量は、特に制限されず、例えば、1〜50mg/mLである。分離の条件は、特に制限されず、例えば、温度が15〜25℃である。
【0034】
つぎに、前記上清画分を遠心分離に供し、白血球の沈殿画分と、血漿および血小板を含む上清画分とに分離する。前記遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、遠心加速度2940〜39200m/s(300〜4000×g)、温度1〜20℃、時間3〜15分である。
【0035】
そして、前記血漿に超音波処理を施す。前記超音波処理の条件は、特に制限されず、例えば、前述の通りである。続いて、前記処理済み血漿に、熱処理を施し、遠心分離を行って、不溶性画分と、処理済み血清の上清画分とに分離する。前記熱処理の条件は、特に制限されず、例えば、前述の通りである。前記遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、遠心加速度2940〜39200m/s(300〜4000×g)、温度1〜20℃、時間3〜15分である。
【0036】
前記処理済み血清は、例えば、さらにろ過処理してもよい。前記処理済み血清を、例えば、限外ろ過し、得られたろ液を、さらに、フィルターろ過する。前記限外ろ過の条件は、特に制限されず、例えば、分画分子量の下限は、例えば、3〜100kであり、好ましくは、10kである。また、フィルターろ過に使用するフィルターは、特に制限されず、前述と同様である。
【0037】
得られた処理済み血清は、処理済み液性成分として、本発明の分化促進剤に使用できる。本発明の分化促進剤は、例えば、前記処理済み液性成分のみを含んでもよいし、前記処理済み液性成分の他に、その他の成分を含んでもよい。前記その他の成分は、特に制限されず、例えば、前述の通りである。
【0038】
前記(1)および(2)において、血液からの処理済み血清の調製方法を例示したが、例えば、各種画分の分離方法、熱処理の有無および条件、ろ過の有無および条件等は、これらには限定されない。前記分離方法は、例えば、遠心分離およびろ過の他に、例えば、沈殿処理、膜分離処理、吸着処理等があげられる。
【0039】
本発明の分化促進剤は、例えば、培地でもよく、前記処理済み液性成分を含む培地があげられる。前記培地は、例えば、基本培地に前記処理済み液性成分を含有させることで調製できる。前記基本培地は、特に制限されず、例えば、後述する分化促進方法で記載するものが援用できる。
【0040】
なお、本発明者らは、末梢血およびその血清が、熱処理等の非働化処理を施すことによって、間葉系幹細胞から間葉系に属する細胞への分化を抑制することも、明らかにしている。しかしながら、本発明においては、超音波処理を施すことによって、メカニズムは不明であるが、非働化の有無にかかわらず、例えば、非働化後の血液およびその血清等でも、間葉系幹細胞に対する分化の促進能を示す。この点は、本発明者らが初めて見出した知見である。このため、非働化後の血液、血漿または血清に超音波処理する方法は、例えば、非働化末梢血の液性成分の分化促進能の発現方法ともいえる。ここで、前記間葉系に属する細胞とは、例えば、脂肪細胞を除く、間葉系に属する細胞であり、具体例としては、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞、骨細胞、心筋細胞、腱細胞等があげられる。
【0041】
本発明の分化促進剤は、例えば、超音波未処理であり且つ非働化処理を施した血液液性成分と組合せて使用することにより、例えば、間葉系幹細胞の分化誘導のスイッチをON−OFFできる。
【0042】
また、本発明の分化促進剤によれば、例えば、間葉系幹細胞から、脂肪細胞以外の間葉系に属する細胞への分化を促進し、且つ、間葉系幹細胞から、脂肪細胞への分化を抑制できる。このため、本発明によれば、例えば、高い選択性で、脂肪細胞以外の間葉系に属する細胞、特に、骨芽細胞または軟骨細胞への分化を促進できる。
【0043】
<分化促進方法>
本発明の分化促進方法は、前述のように、間葉系幹細胞の分化を促進する方法であって、
下記(X)工程を有することを特徴とする。
(X)前記本発明の分化促進剤を含む培地で前記間葉系幹細胞を培養する工程
【0044】
本発明の分化促進方法は、前記本発明の分化促進剤を使用することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。前記本発明の分化促進剤は、前述の通りである。本発明の分化促進方法によれば、前記(X)工程において、前記本発明の分化促進剤を含む培地で、前記間葉系幹細胞を培養することによって、前記間葉系幹細胞の分化を促進できる。
【0045】
本発明によれば、間葉系幹細胞から、その分化細胞への分化を促進できる。前記間葉系幹細胞の分化によって形成される分化細胞は、特に制限されず、間葉系に属する細胞であり、例えば、脂肪細胞を除く間葉系に属する細胞であり、具体的には、骨芽細胞、軟骨細胞、骨細胞、心筋細胞、腱細胞等があげられる。
【0046】
前記間葉系幹細胞の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、および、げっ歯類、家畜類、ヒトを除く霊長類等の非ヒト哺乳類等があげられる。前記間葉系幹細胞の種類は、特に制限されず、例えば、骨髄由来、歯髄由来、脂肪組織由来等があげられる。
【0047】
本発明の分化促進方法において、前記間葉系幹細胞と、前記分化促進剤における前記液性成分は、例えば、同一種由来であることが好ましく、より好ましくは、同一個体由来である。前記個体は、特に制限されず、例えば、ヒト、前記非ヒト哺乳類等があげられ、好ましくは、ヒトである。
【0048】
前記培地は、前記分化促進剤の他に、例えば、さらに、前記分化誘導因子を含有する。前記分化誘導因子は、例えば、分化させる目的の細胞の種類に応じて適宜設定でき、前述の通りである。前記分化誘導因子の種類ならびに前記培地への添加量は、特に制限されず、公知の条件を参照できる。
【0049】
前記培地は、前記分化促進剤および前記分化誘導因子を含有すればよく、その他の構成や条件は、何ら制限されない。前記培地は、例えば、前記間葉系幹細胞の培養に使用可能な培地があげられ、具体的には、例えば、α−Minimal essential medium培地(αMEM培地)、Dulbecco’s modified eagle medium培地(DMEM培地)等が使用できる。前記培地における前記分化促進剤の濃度は、特に制限されず、例えば、前記処理済み液性成分が、0.01〜20v/v%であり、好ましくは1〜15v/v%であり、より好ましくは5〜10v/v%である。前記培地1mLあたりの前記間葉系幹細胞数は、例えば、1000〜10万個である。前記培地は、例えば、さらに、添加物を含んでもよく、前記添加物は、例えば、サイトカイン、抗生物質、塩類、ビタミン等があげられる。
【0050】
前記培養条件は、特に制限されず、温度は、例えば、37℃であり、時間は、例えば、2〜30日である。また、前記培地は、例えば、1〜5日ごとに新しい培地に取り換えることが好ましい。前記培地の取換え方法は、何ら制限されず、例えば、所定時間ごとに培地交換する方法、新たな培地を連続的または断続的に供給する方法等があげられる。後者の場合、例えば、前記新たな培地の供給にあわせて、古い培地の一部を連続的または断続的に廃棄することが好ましい。
【0051】
<間葉系幹細胞由来分化細胞の製造方法>
本発明の製造方法は、間葉系幹細胞由来分化細胞の製造方法であって、前記本発明の分化促進方法により、前記間葉系幹細胞の分化を促進する工程を有することを特徴とする。
【0052】
本発明の製造方法は、前記本発明の分化促進剤を使用して前記間葉系幹細胞を培養することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。本発明の製造方法は、例えば、前記本発明の分化促進剤および分化促進方法の記載を援用できる。
【0053】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
ヒトの末梢血およびヒトの臍帯血から、超音波処理した血清を調製し、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化に対する影響を確認した。
【0055】
(1)末梢血からの処理済み血清の調製
凝固剤であるガラスビーズ2個(粒径4mm、ブライト標識工業社製)を含む遠沈管(商品名50mL遠沈管、コーニング社製)で採取した末梢血50mLについて、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、血清の上清画分と、血餅の沈殿画分とに分離した。前記上清画分に、56℃、30分の条件で熱処理を施した後、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、血清の上清画分を回収した。前記血清10mLを、5×10cmの大きさのPVC製バッグに入れ、超音波処理した。前記超音波処理は、超音波発生装置(商品名 Ultrasonic Multi Cleaner、本多電子社製)を使用し、その対象物に対する超音波を音圧計で測定したとき、5mVの音圧が得られる条件下、周波数45kHz、超音波発生装置から前記バック表面までの距離を15cmに設定し、30分間行った。そして、超音波処理後の前記血清を、フィルター(0.22μm、商品名マイクロフィルタユニット、ミリポア社製)でろ過し、ろ液を回収した。前記ろ液を、超音波処理した血清として使用した。これを、以下、末梢血血清(+)という。
【0056】
比較例として、前記熱処理後の遠心で得られた血清を、フィルター(商品名マイクロフィルタユニット、ミリポア社製)でろ過し、ろ液を回収した。前記ろ液を、超音波未処理の血清として使用した。これを、以下、末梢血血清(−)という。
【0057】
(2)臍帯血からの処理済み血清の調製
抗凝固剤液(CPD液)を含む採血バック(商品名 JMS血液バッグ200(CPD入)、ジェイ・エム・エス社製)で採取した臍帯血に、1/5体積量のHES40(商品名HES40、ニプロ社製)を添加し、室温で60分間静置した。静置により、血漿、血小板および白血球を含む上清画分と、赤血球を含む沈殿画分とに分離した。前記上清画分を回収し、遠心分離(400×g、4℃、5分)を行い、血漿と血小板を含む上清画分と、白血球の沈殿画分とに分離した。前記上清画分について、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、血漿の上清画分と、血小板の沈殿画分とに分離した。前記血漿10mLを、5×10cmの大きさのPVC製バッグに入れ、前記バッグ中の血漿を超音波処理した。前記超音波処理は、前記超音波発生装置を使用し、その対象物(すなわち、前記バッグ)に対する超音波を音圧計で測定したとき、5mVの音圧が得られる条件下、周波数45kHz、超音波発生装置から前記バック表面までの距離を15cmに設定し、30分間行った。そして、超音波処理後の前記血漿に、56℃、30分の熱処理で非働化した後、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、血清の上清画分を回収した。前記血清を、限界ろ過(分画分子量10k)し、得られたろ液を、さらに、フィルター(0.22μm、商品名マイクロフィルタユニット、ミリポア社製)でろ過し、ろ液を回収した。前記ろ液を、超音波処理した血清として使用した。これを、以下、臍帯血血清(+)という。
【0058】
比較例として、前記血漿を、前記超音波処理を施さない以外は、同様に、熱処理、遠心分離、限外ろ過およびフィルターろ過に供し、ろ液を回収した。前記ろ液を、超音波未処理の血清として使用した。これを、以下、臍帯血血清(−)という。
【0059】
(3)間葉系幹細胞の培養
間葉系幹細胞として、骨髄由来間葉系幹細胞BM−MSC(Lonza社)を使用した。培地は、血清として、前記末梢血血清(+)、前記末梢血血清(−)、前記臍帯血血清(+)または前記臍帯血血清(−)を添加し、分化誘導因子として、デキサメサゾン、アスコルビン酸およびβグリセロリン酸を添加した、αMEMを基本培地とする下記組成の血清添加分化誘導培地を使用した。
【0060】
(血清添加分化誘導培地)
αMEM基本培地
血清 10%(v/v)
デキサメサゾン 100nmol/L
アスコルビン酸 50μg/ml
βグリセロリン酸 10mmol/L
【0061】
そして、ウェルプレートを使用し、前記血清添加分化誘導培地に、前記間葉系幹細胞がウェルあたり5000細胞になるように播種し、37℃で21日間培養した(各培地についてn=2)。そして、培養後の細胞を、アリザニンレッドS(商品名、和光純薬社製)で染色し、骨芽細胞の存在を確認した。前記染色により骨芽細胞は、赤色に染色される。
【0062】
これらの結果を、図1に示す。図1は、各血清添加分化誘導培地を使用した培養後の細胞の染色を示す写真である(n=1)。同図において、赤色の染色部分は、濃いグレーで表わされる。同図に示すように、超音波処理を施した末梢血血清(+)および臍帯血血清(+)を含む培地を使用した結果、培養細胞が赤色に染色されたことから、間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化していることが確認できた。これに対して、超音波処理を施していない末梢血血清(−)および臍帯血血清(−)は、培養細胞の染色が確認できなかったことから、間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化していなかった。この結果から、同じ血清でも、超音波処理を施すことによって、間葉系幹細胞の分化を促進できることがわかった。
【0063】
[実施例2]
異なる超音波条件で血清を処理し、前記超音波処理後の血清について、間葉系幹細胞の分化への影響を確認した。
【0064】
(1)ウシ胎児血清からの調製
超音波処理に供する血清として、ウシ胎児血清(FBS、Gibco社)を、前記実施例1と同じ50mL容量の血液バッグ(5×10cmの大きさのPVC血液バッグ)に入れた。そして、前記血液バッグ中の血清を、超音波発生装置(商品名 Ultrasonic Multi Cleaner、本多電子社製)を使用して、超音波処理した。超音波処理は、その対象物(前記血液バッグ)に対する超音波を音圧計で測定したとき、5mVの音圧が得られる条件下、超音波発生装置から前記バック表面までの距離を15cmに設定し、出力最大とし、所定の周波数(45kHz、100kHz)および処理時間(30分、60分)で行った。そして、超音波処理後の前記血清を、56℃、30分の熱処理で非働化し、遠心(2330×g、15分)してフィブリン塊を除去し、フィルター(0.22μm、商品名マイクロフィルタユニット、ミリポア社製)でろ過し、ろ液を回収した。前記ろ液を、超音波処理した血清として使用した。これを、以下、血清(+)という。
【0065】
(2)間葉系幹細胞の培養
間葉系幹細胞として、骨髄由来間葉系幹細胞BM−MSC(Lonza社)を使用した。培地は、血清として、前記血清(+)を添加した、αMEMを基本培地とする前記実施例1の血清添加分化誘導培地を使用した。比較例として、前記血清(+)に代えて、10%(v/v)となるように超音波未処理のウシ胎児血清(FBS、Gibco社)を添加した、αMEM基本培地を使用した。また、各血清について、比較例として、同様に血清を添加し、前記分化誘導因子を未添加とする、αMEM基本培地を使用した。
【0066】
そして、ウェルプレートを使用し、前記培地に、前記間葉系幹細胞がウェルあたり3000細胞になるように播種し、37℃で21日間培養した(各培地についてn=3)。そして、培養後の細胞を、アリザニンレッドS(商品名、和光純薬社製)で染色し、骨芽細胞の存在を確認した。前記染色により骨芽細胞は、赤色に染色される。
【0067】
これらの結果を、図2に示す。図2は、培養後の細胞の染色を示す写真である(n=2)。図2において、比較例が、超音波未処理(−)のFBSの結果であり、45kHZ 30min、45kHZ 60minおよび100kHZ 60minが、それぞれ、これらの条件で超音波処理した血清(+)の結果であり、左から2列が、前記分化誘導因子を含む培地を使用した結果であり、右の1列が、前記分化誘導因子を含まない培地を使用した結果である。赤色で染色された部分は、図2において、濃いグレーで表わされる。図2に示すように、超音波処理を施した血清(+)を含む培地を使用した結果、処理条件にかかわらず、培養細胞が赤色に染色されたことから、間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化していることが確認できた。具体例として、超音波処理の処理時間が長い程、分化を促進でき、また、周波数が低い程、短い処理時間で、分化を促進できた。
【0068】
[実施例3]
超音波処理した血清を調製し、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化に対する影響を確認した。
【0069】
(1)臍帯血からの血清の調製
(1−1)臍帯血血清(−)
ヒトの臍帯から採取した20mLの臍帯血(n=1)を、凝固剤としてガラスビーズ2個(粒径4mm、ブライト標識工業社製)を含む血液バッグ(5×10cmの大きさのPVC血液バッグ)に移した。前記採血バックを、2〜3回、軽く振とうしてから、1時間、室温に放置した後、4℃で保存した。
【0070】
前記臍帯血を静置して、血漿、血小板および白血球を含む上清画分と、赤血球を含む沈殿画分とに分離した。前記上清画分を回収し、遠心分離(400×g、4℃、5分)を行い、血漿と血小板を含む上清画分(多血小板血漿:PRP)と、白血球の沈殿画分とに分離した。前記上清画分(PRP)について、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、血漿の上清画分(PPP)と、血小板の沈殿画分とに分離した。前記上清画分(PPP)に、56℃、30分の熱処理で非働化した後、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、フィブリン塊を除去して、血清の上清画分を回収した。これを、超音波処理していない臍帯血血清(−)とした。
【0071】
(1−2)臍帯血血清(+)
多血小板血漿である前記上清画分(PRP)を、遠心せずに、50mL容量の血液バッグ(5×10cmの大きさのPVC血液バッグ)に入れた。そして、前記血液バッグ中の前記上清画分を、超音波発生装置(商品名 Ultrasonic Multi Cleaner、本多電子社製)を使用して、超音波処理した。前記超音波処理は、前記実施例1と同様に行った。そして、超音波処理後の前記上清画分に、56℃、30分の熱処理で非働化した後、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、フィブリン塊を除去して、血清の上清画分を回収した。これを、超音波処理した臍帯血血清(+)とした。
【0072】
(2)末梢血からの血清の調製
(2−1)末梢血血清(−)
成人末梢血(n=3)から血液成分分離バッグ(商品名セルエイド、ジェイエムエス社製)を用いて血清画分を調製した。そして、前記血清画分に、56℃、30分の熱処理で非働化した後、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、フィブリン塊を除去して、血清の上清画分を回収した。これを超音波処理していない末梢血血清(−)とした。
【0073】
(2−2)末梢血血清(+)
前記末梢血清を、50mL容量の血液バッグ(5×10cmの大きさのPVC血液バッグ)に入れ、前記血液バッグ中の前記血清を、超音波発生装置(商品名 Ultrasonic Multi Cleaner、本多電子社製)を使用して、超音波処理した。前記超音波処理は、前記実施例1と同様に行った。そして、超音波処理後の前記上清画分に、56℃、30分の熱処理で非働化した後、遠心分離(2330×g、4℃、10分)を行い、フィブリン塊を除去して、血清の上清画分を回収した。これを、超音波処理した末梢血(+)とした。
【0074】
(3)間葉系幹細胞の培養
間葉系幹細胞として、骨髄由来間葉系幹細胞BM−MSC(Lonza社)を使用した。培地は、血清と、分化誘導因子(デキサメサゾン、インドメタシンおよびIBMX)と、増殖抑制剤(インスリン)を添加した、DMEMを基本培地とする下記組成の血清添加分化誘導培地を使用した。前記血清は、臍帯血血清(−)、臍帯血血清(+)、末梢血血清(−)、末梢血血清(+)を使用した。比較例として、前記血清に代えて、10%(v/v)となるように超音波未処理のウシ胎児血清(FBS、Gibco社)を添加した、DMEM基本培地を使用した。また、各血清について、コントロールとして、同様に血清を添加し、前記分化誘導因子を未添加とする、DMEM基本培地を使用した。
【0075】
(血清添加分化誘導培地)
DMEM基本培地
血清 10%(v/v)
デキサメサゾン 1μmol/L
インドメタシン 0.2mmol/L
IBMX 0.5mol/L
インスリン 10μg/ml
【0076】
そして、ウェルプレートを使用し、前記血清添加分化誘導培地に、前記間葉系幹細胞がウェルあたり8000細胞になるように播種し、37℃で21日間培養した。そして、培養後の細胞を、OilRed(商品名、和光純薬社製)で染色し、脂肪細胞の存在を確認した。
【0077】
これらの結果を、図3に示す。図3は、各血清添加培地を使用した培養後の細胞の染色を示す写真である。図3は、臍帯血由来の血清(n=1)、末梢血由来の血清(n=3)および比較例のFBSを使用した結果である。図3に示すように、超音波処理未処理のFBSの添加により、脂肪細胞への分化が確認された。これに対して、超音波処理した臍帯血血清(+)または末梢血血清(+)の添加によって、脂肪細胞への分化が抑制された。
【0078】
これらの結果から、超音波処理した血清によれば、間葉系幹細胞からの脂肪細胞への分化を抑制することが確認された。このため、前記実施例1および2の結果と照らし合わせることにより、間葉系幹細胞から、脂肪細胞へ分化させることなく、優れた選択性で骨芽細胞への分化を誘導できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
このように、本発明によれば、例えば、超音波処理した血液液性成分を使用するのみで、間葉系幹細胞の分化を促進できる。本発明の分化促進剤における有効成分は、前記超音波処理した血液液性成分であることから、例えば、血液液性成分の由来と、処理対象の間葉系幹細胞の由来を、同じ種由来に設定することが可能であり、さらに、同一個体由来に設定することも可能である。このように、本発明によれば、同種由来成分の使用も可能となることから、安全性にも優れる。したがって、本発明は、例えば、再生医療等において極めて有用といえる。
図1
図2
図3