【0018】
得られた、本発明のシトリドンA1物質およびシトリドンA2物質の理化学的性状について以下に説明する。
シトリドンA1物質の理化学的性状は次の通りである。
(1)性状:油状
(2)分子式:C
18H
17NO
2
HRESI-MS (m/z) [M+Na]
+計算値302.1157,実測値302.1143
(3)分子量:279
(4)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法により測定した赤外吸収スペクトルは、νmax 2926, 1739, 1654, 1369, 1227 cm
-1等に特徴的な吸収極大を示す。
(6)旋光度:[α] D27.6 -129.6°(c=0.1、クロロホルム)
(7)プロトン及びカーボン核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキサイド中で、バリアン社製400M核磁気共鳴スペクトロメータにより測定した水素の化学シフト(ppm)(
図1)及び炭素の化学シフト(ppm)はそれぞれ次のとおり:
1H-NMR (400 Hz, CDCl
3) δ 7.54-7.50 (3H), 7.43-7.36 (1H), 7.34-7.28 (2H), 5.95 (1H), 5.73 (1H), 3.25 (1H), 3.14-3.12 (1H), 1.69 (3H), 1.29 (3H);
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 164.7, 163.1, 141.4, 134.5, 133.2, 131.1, 128.5, 127.6, 127.4, 127.3, 104.8, 55.5, 46.3, 26.0, 21.6。
【0021】
シトリドンA2物質の理化学的性状は次の通りである。
(1)性状:白色固体物質
(2)分子式:C
19H
19NO
2
HRESI-MS (m/z) [M+Na]
+計算値294.1494,実測値294.1485
(3)分子量:293
(4)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法により測定した赤外吸収スペクトルは、νmax 2965, 1652, 1600, 1454, 1431 cm
-1等に特徴的な吸収極大を示す。
(5)旋光度:[α] D27.6 -107.6°(c=1、クロロホルム)
(6)プロトン及びカーボン核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキサイド中で、バリアン社製400M核磁気共鳴スペクトロメータにより測定した水素の化学シフト(ppm)(
図2)及び炭素の化学シフト(ppm)はそれぞれ次のとおり:
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.54-7.51 (3H), 7.41-7.37 (2H), 7.32-7.28 (1H), 5.40 (1H), 3.28 (1H), 2.90 (1H), 1.73 (3H), 1.67 (3H), 1.30 (3H);
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 165.4, 162.6, 150.6, 134.3, 133.5, 128.7, 127.7, 127.4, 126.4, 111.8, 104.3, 56.7, 49.2, 26.4, 20.4, 14.9。
【実施例2】
【0031】
本例はシトリドンA2物質の合成を例示する。シトリドンA2物質は、次に示す反応経路に従って合成できる。下記において化合物2が目的化合物のシトリドンA2であり、記号の意味は次の通りである。
【0032】
TBDPS:tert-ブチルジフェニルシリル基(t-BuPh
2Si-);
TBAF:フッ化テトラブチルアンモニウム;
DBU:ジアザビシクロウンデセン;
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル。
【0033】
【化6】
【0034】
化合物5の合成
窒素雰囲気下、化合物4 (148 mg, 0.268 mmol) のCH
2Cl
2 (5.4 mL) 溶液に、I
2 (84.6 mg, 0.669 mmol) を加え、2.5時間反応させた。Na
2S
2O
3水溶液を加えて反応を止め、反応液をCH
2Cl
2で3回抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥後、濃縮し、得られた残渣(粗物質)をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル 8.60 g, CH
2Cl
2:MeOH=100:1)で精製を行うことにより、油状物質として化合物5 (115 mg, 63%) を得た。
【0035】
1H-NMR (400 Hz, CDCl
3) δ 7.68-7.66 (2H), 7.60-7.57 (2H), 7.48-7.31 (12H), 4.64 (1H), 3.88 (1H), 3.73 (1H), 3.21 (1H), 2.35-2.26 (1H), 1.68 (3H), 1.65-1.54 (1H), 1.26 (3H), 0.96 (9H);
HRMS (ESI) [M+Na]
+ calcd for C
35H
38INNaO
3Si 698.1563, found 698.1547。
【0036】
出発物質の化合物4は Organic Letters, 2011, 13, 1158-1161 (T. Miyagawa et al.) に記載されているように、(+)プレゴンとトランス桂皮酸より合成することができる。
化合物6の合成
窒素雰囲気下、化合物5 (320 mg, 0.474 mmol) のTHF (4.7 mL) 溶液にTBAF (1.0 M THF溶液) (0.47 mL, 0.47 mmol) を滴下し、滴下終了後、混合物を室温で90時間撹拌した。H
2Oを加えて反応を止め、反応液をAcOEtで3回抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥後に濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 4.30 g, CH
2Cl
2:MeOH=60:1) で精製を行うことにより、黄褐色油状の化合物6 (159 mg, 77%) を得た。
【0037】
1H-NMR (300 MHz, CD
3CD) δ 7.41-7.30 (5H), 7.28-7.22 (1H), 4.43 (1H), 3.74 (1H), 3.70 (1H), 3.17 (1H), 2.05-1.94 (1H), 1.66-1.60 (1H), 1.63 (3H), 1.35 (3H);
HRMS (ESI) [M+H]
+ calcd for C
19H
21INO
3 438.0566, found 438.0567。
【0038】
化合物8の合成
窒素雰囲気下、化合物6 (159 mg, 364μmol) のCH
2Cl
2 (3.6 mL) 溶液にピリジン (3.6 mL) 及びDMSO (3.6 mL) を加え、さらにデス・マーチン・ペルヨージナン (DMP、309 mg, 728μmol) を加えた後、得られた混合物を室温下で30分間撹拌した。飽和Na
2S
2O
3水溶液を加えて反応を止め、次いで飽和NaHCO
3水溶液を加えた後、反応液をAcOEtで3回抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥後に濃縮し、化合物7を粗生成物として得た。この化合物7を精製せずに次工程に使用した。
【0039】
窒素雰囲気下、化合物7のCH
2Cl
2(7.3 mL) 溶液に0℃でDBU (163μL, 1.09 mmol) を滴下し、混合物を室温で15分間撹拌した。H
2Oを加えて反応を止め、反応液をCH
2Cl
2で3回抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥後に濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 4.30 g, CH
2Cl
2:MeOH=50:1) で精製を行うことにより、黄褐色油状の化合物8 (72.7 mg, 2 steps 65%) を得た。
【0040】
1H-NMR (300 MHz, CDCl
3) δ 9.83 (1H), 8.06 (1H), 7.43-7.31 (5H), 6.69 (1H), 3.41 (1H), 3.24 (1H), 1.81 (3H), 1.31 (3H);
HRMS (ESI) [M+H]
+ calcd for C
19H
18NO
3 308.1287, found 308.1292。
【0041】
化合物9の合成
窒素雰囲気下、化合物8 (72.7 mg, 237μmol) のCH
2Cl
2 (2.4 mL) 溶液にZnI
2 (2.6 mg, 7.11μmol)およびMe
3SiSSCH
2CH
2SSiMe
3 (79μL, 308 mol) を加え、室温で14時間撹拌した。この反応混合物に追加のZnI
2 (2.6 mg, 7.11μmol)およびMe
3SiSSCH
2CH
2SSiMe
3(79μL, 308μmol) を加え、更に4時間撹拌した後、飽和Na
2S
2O
3水溶液および飽和NaHCO
3水溶液を加えて反応を止め、反応液をCH
2Cl
2で3回抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥後に濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー (シリカゲル 2.15 g, CH
2Cl
2:MeOH=100:1) で精製を行うことにより黄褐色油状の化合物9 (86.9 mg, 83%) を得た。
【0042】
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.54-7.49 (3H), 7.42-7.26 (3H), 5.86 (1H), 5.06 (1H), 3.34 (1H), 3.32-3.26 (1H), 3.23-3.05 (4H), 1.67 (3H), 1.38 (3H);
HRMS (ESI) [M+Na]
+ calcd for C
21H
21NNaO
2S
2406.0911, found 406.0907。
【0043】
シトリドンA2物質 (化合物2) の合成
窒素雰囲気下、化合物9 (86.9 mg, 22.7μmol) のベンゼン (2.3 mL) 溶液に、Bu
3SnH (240μL, 907μmol)およびAIBN (1.5 mg, 9.08μmol) を加え、80℃で23時間撹拌した。追加のBu
3SnH (240μL, 907μmol)およびAIBN (1.5 mg, 9.08μmol) を加え、更に2.5時間撹拌した。反応液を室温に戻し、ヘキサンを加えた後、MeOHで3回抽出した。得られたMeOH層を合わせて濃縮し、カラムクロマトグラフィー (シリカゲル 2.15 g, CH
2Cl
2:MeOH=100:1) で精製を行うことにより、シトリドンA2物質 (32.1 mg, 49%) を得た。得られたシトリドンA2物質の各種理化学性状やスペクトルデータは上述した通りである。
【0044】
(試験例1)
MRSAは抗酸化活性を有する黄色色素(スタフィロキサンチン)を産生することで宿主の免疫系に抵抗を示すことが報告されている (特許文献3)。そこで、本発明のシトリドンA1物質およびシトリドンA2物質について黄色色素(スタフィロキサンチン)産生阻害活性を評価した。
【0045】
臨床分離株であるMRSA K-24 株をMueller Hinton Broth (BD) 10 mLに白金耳を用いて植菌し、37℃で18時間培養した。その後、培養液1 mLにMHB 5 mLを加え、0.5番マクファーランドに調整したものを、MRSA菌液として使用した。
【0046】
次に、TYB 培地(Marshall J H.等 J. Bacteriol., 147 巻,p.900-913, 1982 年)(Bacto Tryptone (BD) 1.7%, 酵母エキス (DIFCO) 1.0%, NaCl (Wako) 0.5%, K
2HPO
4 (Wako) 0.25%, Bacto agar (DIFCO) 1.5%) を調製し、121℃で15分間滅菌処理した。滅菌フィルター(Minisart 0.20μm, Sartorius Stedim)により滅菌したモノ酢酸グリセロール (Wako) 溶液を、終濃度1.5%になるようにTYB培地に加え、この培地を2号角シャーレ(栄研)に25 ml撒いた。寒天培地が固まったことを確認後、先ほど調製したMRSA菌液を、滅菌綿棒を用いて寒天表面に塗布し、37℃で4時間培養した。その後、試験化合物50μgを含ませた直径6 mmのペーパーディスクを寒天培地上のほぼ中心に置き、37℃で68時間培養した。活性はペーパーディスクの周りにできる白い円(黄色色素を作れなくなったMRSAの生育円)の直径を測定し評価した。
【0047】
その結果、シトリドンA1物質およびシトリドンA2物質は、いずれも13 mmの白い円を形成した。この結果から、本発明に係るシトリドンA1物質およびシトリドンA2物質はいずれも抗菌活性を示さずに黄色色素(スタフィロキサンチン)の生合成を阻害することから、MRSAの宿主への感染予防に有用であると考えられる。
【0048】
なお、ここで用いたMRSAが産生する黄色色素の産生阻害活性の評価方法は、本発明者らが新たに開発したものである。この評価方法では、バンコマイシンなどの抗菌剤の抗菌活性を出現させず、目的とする黄色色素阻害活性のみを選択的に評価できることを確認している。すなわち、ペーバーディスクが黄色色素阻害活性を有する化合物を含んでいる場合には、白い円が生ずるのに対し、抗菌剤を含ませたペーパーディスクを上記寒天培地上に置いても、その周囲に白い円は現れない。
【0049】
なお、同様の評価方法でシトリドンAについてスタフィロキサンチン生合成阻害活性を調べたところ、シトリドンA1物質およびシトリドンA2物質とほぼ同様の活性を示すことが確認された。従って、シトリドンAも、MRSA感染症の予防および治療に有用である。