特許第5769197号(P5769197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5769197地盤注入用水硬性セメント組成物およびそれを用いた地盤改良工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769197
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】地盤注入用水硬性セメント組成物およびそれを用いた地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20150806BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/22 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/18 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/44 20060101ALI20150806BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20150806BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20150806BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20150806BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20150806BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   C09K17/02 P
   C09K17/10 P
   C09K17/22 P
   C09K17/06 P
   C09K17/18 P
   C09K17/44 P
   C04B28/08
   C04B14/28
   C04B24/26 F
   C04B24/30 D
   E02D3/12 101
   C09K103:00
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-529973(P2011-529973)
(86)(22)【出願日】2010年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2010065278
(87)【国際公開番号】WO2011027890
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-205954(P2009-205954)
(32)【優先日】2009年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀弘
(72)【発明者】
【氏名】荒木 昭俊
(72)【発明者】
【氏名】水島 一行
(72)【発明者】
【氏名】西野 英哉
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 浩
(72)【発明者】
【氏名】大野 康年
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−062444(JP,A)
【文献】 特開2002−155277(JP,A)
【文献】 特開2006−272286(JP,A)
【文献】 特開2007−106961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
C04B 14/00
C04B 22/00
C04B 24/00
C04B 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーン比表面積で7000〜16000cm/g、メジアン径で1〜7μmの高炉スラグ微粉末100質量部、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、下記(1)から(3)の条件をすべて満たす分級セメント5〜30質量部、さらに、前記高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100質量部に対して0.1〜3質量部のポリアクリル酸系分散剤を含有してなる分散剤を含有することを特徴とする地盤注入用水硬性セメント組成物。
(1)炭酸カルシウムを分級セメント100質量部中6〜20質量部含有することを特徴とする分級セメント
(2)ブレーン比表面積が7000〜16000cm/gであることを特徴とする分級セメント
(3)メジアン径が1〜7μmであることを特徴とする分級セメント
【請求項2】
さらに、前記分散剤がメラミン系分散剤を含有することを特徴とする請求項1記載の地盤注入用水硬性セメント組成物。
【請求項3】
前記ポリアクリル酸系分散剤が下記一般式(I)の単量体を含む共重合体であることを特徴とする請求項1記載の地盤注入用水硬性セメント組成物。
CH2=C(R1)COO(R2O)nR3 (I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは5〜40の整数、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の地盤注入用水硬性セメント組成物に水を加え練り混ぜたことを特徴とするセメントミルク。
【請求項5】
前記地盤注入用水硬性セメント組成物に水を加え練り混ぜた、JSCE−F522の方法で測定のセメントミルクの60分静置後のブリーディング率が2%以下を示すことを特徴とする請求項4記載のセメントミルク。
【請求項6】
請求項4記載のセメントミルクを地盤内に注入する地盤改良工法。
【請求項7】
液状化対策を目的とした地盤改良に用いることを特徴とする請求項6記載の地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤注入用水硬性セメント組成物およびそれを用いた地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良方法の一種として、軟弱な地盤を強固にするためにロッドを介して地中に硬化性を有する薬剤を注入する薬液注入工法があり、数多くの薬液注入材が知られている。たとえば、水ガラス系注入材、特殊シリカ系注入材、高分子系注入材、およびセメント、粘土、スラグなどの懸濁型注入材などが挙げられる。上記薬液注入材を用いた薬液注入工法では、ジェットグラウト工法のような高圧の噴流によって地盤を乱しながら改良する工法と異なり、極力地盤を乱さないで改良できること、設備がコンパクトであることが特徴であることから多くの実績がある。薬液注入材には、溶液型と懸濁型があり、高い浸透性が要求される場合は溶液型を用いる場合がある。しかし、溶液型の薬液注入材は、浸透性は高いが、得られる硬化体自体の強度が小さく、硬化体の収縮も大きいことから長期的な耐久性に課題が生じる場合があった。一方、懸濁型の薬液注入材は、水硬性を示すセメントやスラグなどを成分とするものは、比較的高い強度発現が期待でき、長期的な耐久性も確保しやすいという利点はあるが、浸透性が低いといった課題が生じていた。また、懸濁型の場合は、粒子をもった薬液であるため、静置すると直ぐに粒子が沈降し、実施工中に注入ホース内の閉塞等のトラブルが発生する場合があった。
【0003】
懸濁型の薬液注入材としては、微粉末化したセメントクリンカーと高炉スラグにポリカルボン酸系分散剤を必須成分とする注入材組成物が知られている。(例えば、特許文献1、2、3参照)。これら技術は、特定のポリカルボン酸系分散剤を用いることで、浸透性を向上させた注入材組成物を提供するものであるが、セメント中の炭酸カルシウムや炭酸カルシウムの含有割合についての記載がなく、注入材組成物を静置したときの沈降防止性能についての記載がなく、耐久性に関する実施例がない。
【0004】
一方、ゲル化時間を有する注入材料としては水ガラス、固化剤、及びブレーン8,000cm2/g以上の微粉末高炉スラグを含有してなる注入材料等も知られている(例えば、特許文献4、5、6参照)。
【0005】
特許文献4は、微粉スラグを併用することでゲル強度の高い硬化体が数十秒から数分レベルで得られることを示しているが、圧縮強度のみの評価であり、水ガラスの配合量も多く、水ガラスを主体とするものである。また、粒子の沈降防止性能や浸透性についての記述もない。
【0006】
特許文献5は、モル比が2.8〜4.0の範囲にある水ガラスと、平均粒子径が10μm以下で比表面積が5000cm2/g以上、好ましくは8000cm2/g以上の微粒子スラグと、必要に応じて、さらにセメントを含有させた注入材に関する技術である。この文献では、水ガラスの使用量が多く、圧縮強度と浸透性に関する記載はあるが、粒子の沈降防止性能に関する記述はない。
【0007】
特許文献6は、微粒子スラグおよび微粒子セメントの混合物を含む懸濁型グラウトからなり、これらスラグおよびセメントの平均粒径がそれぞれ10μm以下、比表面積がそれぞれ5000cm2/g 以上であり、セメントの混合比率が50%以下であることを特徴とするもので、さらに前記懸濁型グラウトに水ガラスおよび/またはアルカリ材を含有することを特徴とする技術である。この文献でも、文献5と同様に、水ガラスの使用量が多く、浸透性に関する記載はあるが、硬化体の評価として圧縮強度のみの評価である。
【0008】
さらに、特許文献7には、水、微粒子水砕スラグ、アルカリ刺激剤、分散剤、水に溶解又は分散して粘性を与える高分子物質、及び必要により固結性改良剤を含有してなることを特徴とする懸濁型地盤改良材に関する技術が示されている。この文献では、浸透性や沈降防止性能についての記載はあるが、硬化体の特性に関する開示がなされておらず、地盤に注入し固結したときの補強性能がわからない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−238428号公報
【特許文献2】特開2007−238925号公報
【特許文献3】特開2004−175989号公報
【特許文献4】特開平02−167848号公報
【特許文献5】特開平07−229137号公報
【特許文献6】特開平07−286173号公報
【特許文献7】特開2005−344078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、練り混ぜた懸濁溶液(セメントミルク)を静置しても粒子の沈降抵抗性が高く、流水下でも注入材成分が流されにくく、浸透性と耐久性に優れた地盤注入用水硬性セメント組成物およびそれを用いた地盤改良工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下に述べる本発明1〜7の手段を採用する。
本発明1は、ブレーン比表面積で7000〜16000cm/g、メジアン径で1〜7μmの高炉スラグ微粉末100部、高炉スラグ微粉末100部に対して、下記(1)から(3)の条件をすべて満たす分級セメント5〜30部、さらに、前記高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して0.1〜3部のポリアクリル酸系分散剤を含有してなる分散剤を含有することを特徴とする地盤注入用水硬性セメント組成物である。
(1)炭酸カルシウムを分級セメント100部中6〜20部含有することを特徴とする分級セメント
(2)ブレーン比表面積が7000〜16000cm/gであることを特徴とする分級セメント
(3)メジアン径が1〜7μmであることを特徴とする分級セメント
本発明2は、さらに、前記分散剤がメラミン系分散剤を含有することを特徴とする本発明1の地盤注入用水硬性セメント組成物である。
本発明3は、前記ポリアクリル酸系分散剤が下記一般式(I)の単量体を含む共重合体であることを特徴とする本発明1又は2の地盤注入用水硬性セメント組成物である。
CH2=C(R1)COO(R2O)nR3 (I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは5〜40の整数、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
本発明4は、本発明1〜3のいずれかの地盤注入用水硬性セメント組成物に水を加え練り混ぜたことを特徴とするセメントミルクである。
本発明5は、前記水硬性セメント組成物に水を加え練り混ぜた、JSCE−F522の方法で測定のセメントミルクの60分静置後のブリーディング率が2%以下を示すことを特徴とする本発明4のセメントミルクである。
本発明6は、本発明4又は5のセメントミルクを地盤内に注入する地盤改良工法である。
本発明7は、液状化対策を目的とした地盤改良に用いることを特徴とする本発明6の地盤改良工法である。
なお、本明細書中の部や%は、特記しない限り、質量部や質量%をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は浸透性に優れ、地盤改良等の効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において使用する高炉スラグ微粉末は、ブレーン比表面積で7000〜16000cm/g、メジアン径で1〜7μmであり、銑鉄を製造するときに発生する鉄鋼スラグを粉砕して製造される。一般的な高炉セメントやコンクリート用混和材として用いられているものである。ブレーン比表面積はJIS R 5201のブレーン空気透過装置で測定した値であり、7000〜16000cm/gであ。
高炉スラグ微粉末は、7000cm/g未満であると、ブリーディング率が大きくなり、十分な浸透性を得ることができない場合があり、16000cm/gを越えると製造コストがかかり過ぎて実用的でない。
高炉スラグ微粉末のメジアン径は、1〜7μmが好ましい。たとえば、メジアン径はレーザー回折式粒度分布測定機により測定できる。1μm未満である製造コストがかかりすぎ実用的でなく、7μmを越えると、ブリーディング率が大きくなり、浸透性を阻害するおそれがある。
【0014】
本発明において使用する分級セメントは、セメントを分級設備を用いて粒度調整したものである。分級セメント100部中、炭酸カルシウムを6〜20部含有するものであり、10〜15部含有することが好ましい。
本発明は、分級セメント100部中、炭酸カルシウムを6〜20部含有することにより、沈降防止性能と耐久性といった、一見両立し難い特性を具備する。6部未満では、十分な沈降防止性能が得られず、20部を超えると粘度が大きくなり、強度が小さくなる。
分級セメントに含有する炭酸カルシウムは、分級によって細かい粒子となって存在するために、反応性が良好となる。炭酸カルシウムは、通常セメントのフィラーやコンクリートを製造するときの砂の一部として利用されている。通常利用されている炭酸カルシウム(石灰石微粉末)の粉末度は4000〜6000cm/gであるのでそれよりも細かく反応活性が高く強度増進の効果も期待できる。また、セメントに含まれるカルシウムアルミネート(3CaO・Al)と反応しモノカーボネートやヘミカーボネートを生成する。セッコウも同様にセメントに含まれるカルシウムアルミネート(3CaO・Al)と反応しエトリンガイトを生成するが、炭酸カルシウムが特定量存在するとモノカーボネートやヘミカーボネートの反応が卓越するため、生成したエトリンガイトがモノサルフェートへ転化する反応が抑制され耐久性が確保されやすくなる効果も付与されると考えられる。
【0015】
分級セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩セメントなどのポルトランドセメントいずれも使用可能であり、分級によって上記本発明1に示す(1)および(2)の条件にあえば使用可能である。また、フライアッシュセメントやシリカセメントなどの混合セメントも同様であり、アルミナセメントなどの耐火セメントも同様である。
分級セメントの粉末度は、高炉スラグ微粉末と同様に7000〜16000cm/gであり、9000〜16000cm/gが好ましい。7000cm/g未満では、ブリーディング率が大きくなり、十分な浸透性を得ることができない場合があり、16000cm/gを越えると製造コストがかかり過ぎて実用的でない。
分級セメントのメジアン径は、1〜7μmが好ましい。たとえば、メジアン径はレーザー回折式粒度分布測定機により測定できる。1μm未満である製造コストがかかりすぎ実用的でなく、7μmを越えると、ブリーディング率が大きくなり、浸透性を阻害するおそれがある。
【0016】
分級セメントの割合は高炉スラグ微粉末100部に対して5〜30部であり、10〜25部が好ましい。5重量部未満であると十分な強度発現性を得ることができない場合があり、30重量部を越えると浸透性を阻害するおそれがある。
【0017】
本発明の分散剤は、ポリアクリル酸系分散剤を含有する。
本発明のポリアクリル酸系分散剤とは、懸濁溶液としたときの粒子の沈降を抑制する効果と、浸透性を付与する効果を発揮するものである。下記一般式(I)の単量体を含む共重合体であることを特徴とするものである。
CH2=C(R1)COO(R2O)nR3 (I)
ここで、式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、ROは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、例えば、−CHCHO−、−CHCHCHO−、−CHCH(CH)O−、−CHCH(CHCH)O−、−CHCHCHCHO−等が挙げられる。nはオキシアルキレン基の付加モル数を示し、5〜40の整数であり、好ましくは7〜35、より好ましくは9〜30である。付加モル数(n)が小さすぎると分散力が不十分となる。一方、大きすぎると高融点の固体となり、ハンドリングが困難となる。
また、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
単量体の例としては、アルキレンオキサイドの付加モル数が5〜40モルのポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。一般式(I)で示される単量体が含まれていれば、他の化学構造を有する単量体成分と組み合わせた共重合体を使用してもよい。
これらの中では、沈降防止性能や浸透性能の面で、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートやメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートを含む共重合体が好ましい。
【0018】
本発明の分散剤は、ポリアクリル酸系分散剤の他に、メラミン系分散剤を含有してもよい。
本発明のメラミン系分散剤とは、たとえば、メラミンを亜硫酸塩及びホルムアルデヒドでスルホン化した後、更にホルムアルデヒドで縮合させる方法などによって得られる分散剤である。メラミンスルホン酸ホルムアルデド縮合物のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等を用いることもできる。
本発明のメラミン系分散剤はポリアクリル酸系分散剤と併用して使用する。併用する場合、メラミン系分散剤の割合は、ポリカルボン酸系分散剤100部に対して、10〜1000部が好ましく、30〜600部がより好ましい。10部未満であると、粒子の沈降防止性能が相乗的に向上する効果が得られない場合があり、1000部を越えると、沈降防止性能を阻害する場合がある。
メラミン系分散剤と併用することで、ポリアクリル酸系分散剤単独で使用するよりも、練混ぜ直後からのブリーディング率を低減する効果が大きくなる作用を見出している。よって、粒子の分散性能が長時間に渡って向上するため、模擬地盤に対する浸透性も良好となり、均一に水硬性を示す粒子が地盤内に分散することから、より強固で均一な改良体を得ることができる。
【0019】
分散剤の使用量は、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して0.1〜3部であり、0.3〜2部が好ましい。0.1部未満であると十分な沈降防止性能と浸透性が得られず、3部を越えても効果が頭打ちとなる。
【0020】
なお、本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物には、公知のセメント混和剤(材)を本来の性能に悪影響を与えない範囲で併用することができる。例えばAE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、凝結遅延剤、早強剤、消泡剤、増粘剤、防水剤(材)、膨張剤(材)、急硬材、収縮低減剤(材)、防錆剤、セメント混和用ポリマーエマルジョン、粘土鉱物などが挙げられる。
【0021】
本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は、水を加えてミルク状にして施工する。加える水の量が多くなるほど浸透性が良くなるが材料分離が助長され圧送ホース内で閉塞するおそれがあり、少なければ、セメントミルクの粘度が大きくなりすぎて浸透性を阻害する。使用する水の最適範囲は、高炉スラグ微粉末、分級セメント、および分散剤の合計100部に対して、400〜1500部が好ましく、700〜1200部がより好ましい。使用する水量が上記の範囲であると、土木学会基準(JSCE F-522)の方法で、セメントミルクの60分後のブリーディング率が2%以下とすることが可能となる。ブリーディング率が2%を越えると、注入材の圧送を60分以上停止し、再始動を行なった場合に閉塞を起こす場合がある。
本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物に水を加えて練混ぜる時間は、特に限定するものではないが、グラウトミキサーに所定量の水を加え本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物を投入してから1〜3分間練り混ぜればよい。
【0022】
注入箇所としては、軟弱な地盤の改良であれば特に限定するものではなく、たとえば、港湾、護岸、空港などの構造物、地盤の悪い都市部や山間部などの各種構造物が立地している地盤に適用でき、止水や遮水グラウト、ヒービング防止グラウト、沈下防止グラウト、ブロー防止グラウト、土圧軽減グラウト、支持力増加グラウト、吸出し防止グラウトなどを目的として使用できる。浸透性が良好であるため、礫を含むような砂質土地盤への適用も可能であり、液状化防止対策としても有効に機能する。
【0023】
本発明の施工方法は、特に限定するものではなく、通常の薬液注入で使用している施工設備を用いることができ、通常実施している注入設計と施工方法に準拠すればよい。たとえば、ミキサーで調整したセメントミルクをポンプでホースを介して圧送し、地中に配置したロッドを介して注入材を注入する方法が挙げられる。その際に使用するロッドは、特に限定するものではないが、単管ロッド、単管ストレーナロッド、二重管ロッド、二重管のダブルパッカー方式ロッドなどが使用できる。
本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は、基本的には1ショットで注入を行なうが、地盤の状態や目的に応じて、市販されている凝結促進剤や他の各種混和材を別に圧送して1.5ショットや2ショット方式で施工することもできる。
【実施例1】
【0024】
高炉スラグ微粉末100部に対して分級セメントを表1に示すように変え、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して表1に示す分散剤を1.0部加え地盤注入用水硬性セメント組成物を調整した。この地盤注入用水硬性セメント組成物100部に対して850部となるように水を加え2分間グラウトミキサーで練り混ぜた。得られたセメントミルクの粘度、ブリーディング率、浸透性、圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
【0025】
<使用材料>
高炉スラグ微粉末a:市販の高炉スラグ微粉末、ブレーン比表面積10500cm/g、メジアン径3.6μm
分級セメントe:普通ポルトランドセメントと炭酸カルシウムを混合後、分級した分級セメント、ブレーン比表面積9700cm/g、メジアン径4.1μm、炭酸カルシウム含有量11.3%
分散剤A:市販のポリアクリル酸系分散剤(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート系)、一般式(I)において、Rはメチル基、ROは炭素数2のオキシエチレン基、Rはメチル基。
分散剤B:分散剤A100部に対して日本シーカ社製のメラミン系分散剤300部配合した分散剤
【0026】
<測定方法>
粘度:B型回転粘度計を用いて測定 粘度は練り上がり直後、3時間後、6時間後に測定した。測定時の温度は25℃。
ブリーディング率:JSCE−F522−1999プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリ−ディング率および膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)に準拠した。測定は0.5時間後、1時間後、2時間後とした。測定時の温度は25℃
浸透性:JGS0831−2000に示す薬液注入による安定処理土の供試体作成方法に準拠した。直径50mm高さ1000mmのアクリルパイプに豊浦砂を充填して水締めした模擬地盤に0.05MPaの注入圧でセメントミルクを注入したときの浸透状況を観察した。
圧縮強度:浸透性試験を行ったアクリルパイプを高さ100mmになるように切断し、アクリルパイプ内から硬化したサンドゲルを取り出し圧縮強度を測定した。測定材齢は28日。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、本発明の高炉スラグ微粉末に分級セメントを特定量配合し、ポリアクリル酸系分散剤を併用することで、ブリーディング率が小さい注入材セメントミルクを製造することができ、優れた浸透性を示し、浸透後のサンドゲルの圧縮強度も良好に発現することがわかる。特に、ポリアクリル酸系分散剤とメラミン系分散剤を含有する分散剤Bを用いることで、よりブリーディング率が低減し、強度発現性も向上していることがわかる。
【実施例2】
【0029】
ブレーン比表面積の異なる高炉スラグ微粉末100部に対してブレーン比表面積の異なる分級セメントを15部、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して分散剤Aを1.0部加え地盤注入用水硬性セメント組成物を調整した。この地盤注入用水硬性セメント組成物100部に対して850部となるように水を加え2分間グラウトミキサーで練り混ぜた。得られたセメントミルクの粘度、ブリーディング率、浸透性、圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0030】
<使用材料>
高炉スラグ微粉末b:ブレーン比表面積6100cm/g、メジアン径7.4μm
高炉スラグ微粉末c:ブレーン比表面積8200cm/g、メジアン径:4.8μm
高炉スラグ微粉末d:ブレーン比表面積15500cm/g、メジアン径:1.6μm
分級セメントf:普通ポルトランドセメントと炭酸カルシウムを混合後、分級した分級セメント、ブレーン比表面積6050cm/g、メジアン径8.6μm、炭酸カルシウム含有率9.9%
分級セメントg:普通ポルトランドセメントと炭酸カルシウムを混合後、分級した分級セメント、ブレーン比表面積8300cm/g、メジアン径6.1μm、炭酸カルシウム含有率9.5%
分級セメントh:普通ポルトランドセメントと炭酸カルシウムを混合後、分級した分級セメント、ブレーン比表面積15800cm/g、メジアン径2.5μm、炭酸カルシウム含有率13.2%
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、7000cm/g以上のブレーン比表面積を持ち、メジアン径が7μm以下である高炉スラグ微粉末と分級セメントを用いることで、小さなブリーディング率と良好な浸透性と優れた圧縮強度を示すことがわかる。高炉スラグ微粉末と分級セメントの両者又はいずれかがブレーン比表面積で7000cm/g未満であるか、メジアン径で7μmを超える場合には、ブリーディング率が大きくなり、浸透性が悪くなり、圧縮強度も低下する。
【実施例3】
【0033】
高炉スラグ微粉末a100部に対して炭酸カルシウムの含有量が異なる分級セメントを表3に示すように加え、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して分散剤Aを1.0部加え地盤注入用水硬性セメント組成物を調整した。この地盤注入用水硬性セメント組成物100部に対して850部となるように水を加え2分間グラウトミキサーで練り混ぜた。尚、比較のために、炭酸カルシウムを含有しない普通ポルトランドセメントを分級し、その後、ブレーン比表面積5500cm/gの炭酸カルシウムを所定量加え同様に評価した。得られたセメントミルクの粘度、ブリーディング率、浸透性、圧縮強度を測定した。結果を表3に示す。
【0034】
<使用材料>
炭酸カルシウム:上越鉱業社製、ブレーン比表面積5500cm/g 市販品
【0035】
【表3】
【0036】
表3より、炭酸カルシウムが分級セメント100部中6〜20部(本発明の範囲)である場合、ブリーディング率が小さく、強度発現性も大きいことがわかる。これに対して、炭酸カルシウムが分級セメント100部中6部未満の場合や、炭酸カルシウムの含有量が本発明の範囲内でも分級しないで分級セメントに添加した場合には、ブリーディング率が大きく、強度発現性も小さくなる傾向が認められ、反応活性が小さいことがわかる。よって、粒子が細かい炭酸カルシウムを特定量含有することで強固な硬化体を形成するので長期的な耐久性も向上すると考えられる。
【実施例4】
【0037】
高炉スラグ微粉末a100部に対して分級セメントeを15部、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して分散剤を表4に示すように加え地盤注入用水硬性セメント組成物を調整した。この地盤注入用水硬性セメント組成物100部に対して850部となるように水を加え2分間グラウトミキサーで練り混ぜた。得られたセメントミルクの粘度、ブリーディング率、浸透性、圧縮強度を測定した。結果を表4に示す。
【0038】
<使用材料>
分散剤C:分散剤A100部に対して日本シーカ社製のメラミン系分散剤10部配合した分散剤
分散剤D:分散剤A100部に対して日本シーカ社製のメラミン系分散剤30部配合した分散剤
分散剤E:分散剤A100部に対して日本シーカ社製のメラミン系分散剤100部配合した分散剤
分散剤F:分散剤A100部に対して日本シーカ社製のメラミン系分散剤600部配合した分散剤
分散剤G:分散剤A100部に対して日本シーカ社製のメラミン系分散剤1000部配合した分散剤
分散剤H:ナフタレンスルホン酸塩系分散剤 第一工業製薬社製 セルフロー110P
分散剤I:リグニンスルホン酸塩系分散剤 日本製紙社製 バニレックスN
分散剤J:メラミン系分散剤 日本シーカ社製 シーカメントFF
【0039】
<測定方法>
圧縮強度のばらつき:1000mのアクリルパイプ内を浸透させ硬化したサンドゲルを100mmの長さになるように切断し10個の圧縮強度試験体を作製し、それぞれの圧縮強度を測定したときの変動係数を求めた。
【0040】
【表4】
【0041】
表4より、ポリアクリル酸系分散剤を用いることでブリーディング率を小さくでき良好な浸透性を確保することができることがわかる。特に、メラミン系分散剤との併用は好ましく、浸透距離の違いによる圧縮強度差が小さくなることから、より均一な改良固化体を得ることが可能と考えられる。ポリアクリル酸系分散剤以外の分散剤(ナフタレンスルホン酸塩系分散剤、リグニンスルホン酸塩系分散剤、メラミン系分散剤)を単独で用いた場合には、良好な浸透性を確保できない。
【実施例5】
【0042】
表5に示すように地盤注入用水硬性セメント組成物を調整し、さらにその組成物100部に対して表に示す水を加えてセメントミルクを調整した。そのセメントミルクを用いて浸透流下試験を行い、水流がある模擬地盤を想定したセメントミルクの流出試験を行なった。評価項目は、セメントミルクの流出の有無、7日後に模擬地盤内から硬化体を取り出し、その形状とほぼ球形に硬化していた場合は直径を確認した。試験結果を表6に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
<試験方法>
浸透流下試験:JGS0311−2000に示す土の透水試験方法に準拠して行なった。試験条件は、φ10×23cmの透明なアクリル容器に5号珪砂を間隙率40.5%になるように充填し模擬地盤を作製した。なお、模擬地盤を作製するアクリル容器の底面はフィルターをセットし、水やセメントミルクが流れ出るようにした。作製した模擬地盤の中心付近にセメントミルクが注入されるようにパイプをセットし、作製した模擬地盤容器ごと水を満たした容器に浸漬した。浸漬した模擬地盤容器は、模擬地盤容器上端部と水を満たした容器の水位差を0.7cmになるようにし、常に水を供給することで水が入れ替わるような条件とし、パイプより練り混ぜたセメントミルクを120cc注入し、模擬地盤からのセメントミルクの流出状況を観察した。また、模擬地盤内に留まったセメントミルク硬化体の状態は、材齢7日後に模擬地盤容器を解体し、内部から硬化体を取り出し、その形状と、ほぼ球形に硬化していた場合は直径を確認した。注入する前の注入材のブリーディング率も測定した。
【0045】
【表6】
【0046】
表6より、本発明の地盤注入用セメント組成物を用いることで、流水下で地盤内に注入しても流出せずに地盤内に留まり、ほぼ理論どおりの硬化体を形成することがわかる。また、硬化体がほぼ球形の状態で地盤内で硬化していることから、均一な浸透注入もなされている。また、使用水量が、地盤注入用水硬性セメント組成物100部に対して、400〜1500部の範囲内であれば、ブリーディング率の変化も小さいことがわかる。
【実施例6】
【0047】
防波堤基礎地盤の液状化対策工事において、本発明の地盤注入用セメント組成物を用いた実施工を行なった。施工方法は、グラウトミキサーで実験No.5-9、5-11、5-16の注入材セメントミルクを調整して地盤内に注入した。それぞれのセメントミルクは2分間練混ぜ、一旦、貯留槽に移し、グラウトポンプでホース、注入管(単管ロッド)を介して圧送注入した。注入中の圧力管理は0.5MPaを最大とし、注入率は40%、注入量は1mとした。いずれの注入材セメントミルクともに、注入圧力の管理以下で注入することができた。1ヶ月後、注入したセメントミルクの硬化状況を確認するために地盤を掘り返したところ、注入材セメントミルクが地盤に浸透し硬化した状況を観察できた。いずれの硬化体も直径が45〜65cmの球形に近い形状であった。その硬化体からサンプルを切り出し圧縮強度を測定したところ、実験No.5-9に相当する注入材硬化体は3.5N/mm2、実験No.5-11は1.4N/mm2、実験No.5-16は0.4N/mm2であり、十分な改良効果があることを確認できた。
【実施例7】
【0048】
実施例6に示す防波堤基礎地盤の液状化対策工事において使用した設備を用いて、本発明の地盤注入用セメント組成物を練り混ぜてホース内を圧送し、圧送を中断して60分間ホース内に注入材を滞留させた。その後、再度運転を開始したときの始動状態を確認した。確認した配合は、実験No.5-9、5-11、5-13、5-14、5-18(練混ぜ水量が異なる)の注入材セメントミルクであり、比較として、実験No.5-1、5-2、5-3、5-4、5-6も同様に実施した。その結果、実験No.5-9、5-11、5-13、5-14、5-18の注入材は、ホース内での粒子の沈降はほとんどなく、始動時の圧力もかからずスムーズに圧送を再開できた。一方、比較例である実験No.5-1、5-2、5-3、5-4、5-6の注入材は、ホース内での粒子の沈降が確認された。特に、実験No.5-4、5-5はホース断面の半分程度が沈降した粒子で覆われており、再始動できなかった。実験No.5-1、5-2、5-3は、始動できたが、始動時の圧力が大きく始動後数分程度で分散しない塊状の粒子がホース内を流れたためホースの閉塞が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は材料分離が小さく、浸透性に優れ、施工性および広範の改良を迅速に行なうことが可能となる。また、特性の分級セメント、微粉スラグ、分散剤により形成した硬化体は、十分な強度発現性を示し、長期的な耐久性に優れることから、砂質土地盤の液状化対策などの各種軟弱地盤の補強工事に適用できる。