(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  高炉スラグ微粉末、分級セメント、ポリアクリル酸系分散剤、及び逸流防止剤としてのケイ酸アルカリ金属塩を含有し、前記ケイ酸アルカリ金属塩は、下記の一般式(1)におけるモル比nが3.5以上であり、前記高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100質量部に対して、0.2〜7質量部であることを特徴とする地盤注入用水硬性セメント組成物。
                    R2O・nSiO2(R:アルカリ金属)  (1)
【背景技術】
【0002】
  地盤改良方法の一種として、軟弱な地盤を強固にするためにロッドを介して地中に硬化性を有する薬剤を注入する薬液注入工法があり、数多くの薬液注入材が知られている。例えば、水ガラス系注入材、特殊シリカ系注入材、高分子系注入材、並びに、セメント、粘土、及びスラグなどの懸濁型注入材等が挙げられる。上記薬液注入材を用いた薬液注入工法では、ジェットグラウト工法のような高圧の噴流によって地盤を乱しながら改良する工法と異なり、極力地盤を乱さないで改良できること、設備がコンパクトであることが特徴であることから多くの実績がある。
  薬液注入材には、溶液型と懸濁型があり、高い浸透性が要求される場合は溶液型を用いる場合がある。しかし、溶液型の薬液注入材は、浸透性は高いが、得られる硬化体自体の強度が小さく、硬化体の収縮も大きいことから長期的な耐久性に課題が生じる場合があった。一方、懸濁型の薬液注入材は、水硬性を示すセメントやスラグなどを成分とするものは、比較的高い強度発現が期待でき、長期的な耐久性も確保しやすいという利点はあるが、浸透性が低いといった課題が生じていた。したがって懸濁型においては、浸透性の改善の開発が中心に行われている。しかしながら、港湾や沿岸部の地盤改良においては、高浸透性の薬剤であるほど注入した薬剤が、潮の干満により逸流し易いという二律背反の問題があった。
【0003】
  上記懸濁型の薬液注入材としては、微粉末化したセメントクリンカーと高炉スラグにポリカルボン酸系分散剤を必須成分とする注入材組成物が知られている。(例えば、特許文献1、2、3参照)。これら技術は、特定のポリカルボン酸系分散剤を用いることで、浸透性を向上させた注入材組成物を提供するものであるが、逸流防止能についての記載がなく、耐久性に関する実施例がない。
【0004】
  一方、ゲル化時間を有する注入材料としては水ガラス、固化剤、及びブレーン比表面積値8,000cm
2/g以上の微粉末高炉スラグを含有してなる注入材料等も知られている(例えば、特許文献4、5、6参照)。
【0005】
  特許文献4は、微粉スラグを併用することでゲル強度の高い硬化体が数十秒から数分レベルで得られることを示しているが、圧縮強度のみの評価であり、浸透性についての記載はなく、また、水ガラスの配合量が多く、水ガラスを主体とするものである。
【0006】
  特許文献5は、モル比が2.8〜4.0の範囲にある水ガラスと、平均粒子径が10μm以下でブレーン比表面積値が5,000cm
2/g以上、好ましくは8,000cm
2/g以上の微粒子スラグと、必要に応じて、さらにセメントを含有させた注入材に関する技術である。この文献では、水ガラスの使用量が多く、圧縮強度と浸透性に関する記載はあるが、逸流防止能に関する記載はない。
【0007】
  特許文献6は、微粒子スラグおよび微粒子セメントの混合物を含む懸濁型グラウトからなり、これらスラグおよびセメントの平均粒径がそれぞれ10μm以下、ブレーン比表面積値がそれぞれ5,000cm
2/g以上であり、セメントの混合比率が50%以下であることを特徴とするもので、さらに前記懸濁型グラウトに水ガラス及び/又はアルカリ材を含有することを特徴とする技術である。この文献でも、特許文献5と同様に、水ガラスの使用量が多く、浸透性に関する記載はあるが、逸流防止能に関する記載はなく、硬化体の評価としては圧縮強度のみの評価である。
【0008】
  さらに、特許文献7には、水、微粒子水砕スラグ、アルカリ刺激剤、分散剤、水に溶解又は分散して粘性を与える高分子物質、及び必要により固結性改良剤を含有してなることを特徴とする懸濁型地盤改良材に関する技術が示されている。この文献では、浸透性や沈降防止性能についての記載はあるが、硬化体の特性に関する開示がなされておらず、地盤に注入し固結したときの補強性能、逸流防止能がわからない。
【0009】
  また、特許文献8には、湿式粉砕したスラグ、ポリアクリル酸系分散剤、及びケイ酸ナトリウムを含有してなる注入材に関する技術である。この文献では、注入性や圧縮強度向上に関する記載はあるが、浸透性や逸流防止能に関する記載はない。
 
【発明を実施するための形態】
【0014】
  本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は、高炉スラグ微粉末と、分級セメントと、ポリアクリル酸系分散剤と、逸流防止剤としてのケイ酸アルカリ金属塩から構成される。高強度および長期耐久性さらに高浸透性を発現させるため微粉末の高炉スラグと分級セメントを使用する。
 
【0015】
  高炉スラグ微粉末は、銑鉄を製造するときに発生する鉄鋼スラグを粉砕して製造される、一般的な高炉セメントやコンクリート用混和材として用いられているものである。
  高炉スラグ微粉末の粉末度はブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で7,000cm
2/g以上が好ましく、7,000〜16,000cm
2/gがより好ましく、9,000〜13,000cm
2/gが最も好ましい。7,000cm
2/g未満であると、充分な浸透性を得ることができない場合があり、16,000cm
2/gを超えると製造コストがかかり過ぎて実用的でない。ブレーン値はJIS R 5201のブレーン空気透過装置で測定した値である。
  高炉スラグ微粉末のメジアン径は、1〜7μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。例えば、メジアン径はレーザー回折式粒度分布測定機により測定できる。1μm未満であると製造コストがかかりすぎ実用的でなく、7μmを超えると、浸透性を阻害するおそれがある。
 
【0016】
  分級セメントは、セメントを分級設備を用いて粒度調整したものである。分級するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩セメントなどのポルトランドセメントいずれも使用可能であり、また、フライアッシュセメントやシリカセメントなどの混合セメントも同様であり、アルミナセメントなどの耐火セメントも同様である。
  分級セメントには、セメント成分以外にセメントの製造工程で加えられる二水セッコウや炭酸カルシウムを含有するものも含まれる。分級によって細かい粒子の炭酸カルシウムを含むものは強度発現性の点で有利となる。
  分級セメントの粉末度は、高炉スラグ微粉末と同様にブレーン値7,000cm
2/g以上が好ましく、7,000〜16,000cm
2/gがより好ましく、9,000〜13,000cm
2/gが最も好ましい。7,000cm
2/g未満では、充分な浸透性を得ることができない場合があり、16,000cm
2/gを超えると製造コストがかかり過ぎて実用的でない。
  分級セメントのメジアン径は、1〜7μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。例えば、メジアン径はレーザー回折式粒度分布測定機により測定できる。1μm未満であると製造コストがかかりすぎ実用的でなく、7μmを超えると浸透性を阻害するおそれがある。
 
【0017】
  分級セメントの割合は、高炉スラグ微粉末100部に対して、5〜30部が好ましく、10〜25部がより好ましい。5部未満であると充分な強度発現性を得ることができない場合があり、30部を超えると浸透性を阻害するおそれがある。
 
【0018】
  本発明においては、ポリアクリル酸系分散剤を使用する。ポリアクリル酸系分散剤は、懸濁溶液としたときの粒子の沈降を抑制する効果と、浸透性を付与するもので、下記一般式(2)の単量体を含む共重合体であることを特徴とするものである。
                CH
2=C(R
1)COO(R
2O)nR
3                  (2)
  ここで、式(2)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、例えば、−CH
2CH
2O−、−CH
2CH
2CH
2O−、−CH
2CH(CH
3)O−、−CH
2CH(CH
2CH
3)O−、及び−CH
2CH
2CH
2CH
2O−などが挙げられる。nはオキシアルキレン基の付加モル数を示し、5〜40の整数である。付加モル数nが小さすぎると分散力が不充分となる。一方、大きすぎると高融点の固体となり、ハンドリングが困難となる。
  また、R
3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等が挙げられる。
  単量体の例としては、アルキレンオキサイドの付加モル数nが5〜40モルのポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、及びプロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。一般式(2)で示される単量体が含まれていれば、他の化学構造を有する単量体成分と組み合わせた共重合体を使用してもよい。
  これらの中では、沈降防止性能や浸透性能の面で、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートやメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートを含む共重合体等が好ましい。
  ポリアクリル酸系分散剤の質量平均分子量は、5,000〜100,000が好ましく、20,000〜80,000がより好ましい。
  ポリアクリル酸系分散剤の使用量は特に限定されるものではないが、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、0.1〜3部が好ましく、0.3〜2部がより好ましい。
  本発明においては、メラミン系分散剤を本発明のポリアクリル酸系分散剤に併用して使用してもよい。
 
【0019】
  ケイ酸アルカリ金属塩は、地盤注入用水硬性セメント組成物に逸流防止能を付与するものである。逸流防止能は、地盤注入用水硬性セメント組成物をチキソトロピー性にすることにより達成することができる。
  なお、チキソトロピーとは、最初は固体のように流動しにくいものであるが、力を加えると液体のように流動性が得られ、力を抜くとまた固体のようになる性質である。したがって、薬液注入工法において、注入時は注入圧により流動性が高くなり容易に地盤に浸透する高浸透性となる。そして注入後は圧力負荷がないため流動性が低下し、潮位の干満程度の動水勾配では薬剤が逸流しない。
  動水勾配(水が流れる方向の単位距離あたりの水圧:動水勾配=水位差/水が流れる距離)が大きいほど薬剤が逸流しやすいが、ケイ酸アルカリ金属塩を併用しない場合は、動水勾配が0.1以上では薬剤が逸流する場合が多い。しかし、ケイ酸アルカリ金属塩を特定量併用することで、0.1以上でも薬剤の逸流を防止することができる。
 
【0020】
  本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物において、ケイ酸アルカリ金属塩は、下記の一般式(1)におけるモル比nが3.5以上のケイ酸アルカリ金属塩である。
                R
2O・nSiO
2(R:アルカリ金属)              (1)
  ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムなどがある。この中でもケイ酸ナトリウムが供給の安定性および価格の面から最も好適である。また、ケイ酸アルカリ金属塩の形態としては、水溶液と粉末があるが、水溶液の方が市販品の種類も多く、作業性が良い理由から、薬液注入材に使用する場合は水溶液が主流である。
  モル比nについては、3.5未満では逸流防止能の付与が小さく、さらにアルカリ量が多いためセメントの水和反応が抑制され圧縮強度の低下が懸念される。よってモル比nは、3.5以上である必要があり、3.7〜5.0が好ましい。また、モル比nが3.5以上になるとケイ酸アルカリ金属塩中のアルカリ量が減少し環境への負荷も低減される。
 
【0021】
  また、ケイ酸アルカリ金属塩の含有量は、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、0.2〜7部(水溶液の場合は固形分で0.2〜7部)であり、1〜4.5部が好ましい。0.2部未満では逸流防止能の付与が小さく、一方、7部を超えると粘度は低下し再び逸流防止能の付与が小さくなり、さらにケイ酸アルカリ金属塩とセメントによって生成する凝集体によって浸透性が低下する。
 
【0022】
  なお、本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物には、公知のセメント混和剤(材)を本来の性能に悪影響を与えない範囲で併用することができる。公知のセメント混和剤(材)としては、例えば、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、凝結遅延剤、早強剤、消泡剤、増粘剤、防水剤(材)、膨張剤(材)、急硬材、収縮低減剤(材)、防錆剤、セメント混和用ポリマーエマルジョン、及び粘土鉱物等が挙げられる。
 
【0023】
  本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は、水を加えてミルク状にして施工する。
  加える水の量が多くなるほど浸透性が良くなるが材料分離が助長され、圧送ホース内で閉塞するおそれがあり、少なければ、セメントミルクの粘度が大きくなりすぎて浸透性を阻害する。使用する水の最適範囲は、高炉スラグ微粉末、分級セメント、及びポリアクリル酸系分散剤の合計100部に対して、400〜1,500部が好ましく、700〜1,200部がより好ましい。
 
【0024】
  本発明の地盤改良工法は、注入箇所としては、軟弱な地盤の改良であれば特に限定されるものではなく、例えば、港湾、護岸、及び空港等の構造物、地盤の悪い都市部や山間部等の各種構造物が立地している地盤に適用でき、止水や遮水グラウト、ヒービング防止グラウト、沈下防止グラウト、ブロー防止グラウト、土圧軽減グラウト、支持力増加グラウト、及び吸出し防止グラウトなどを目的として使用できる。浸透性が良好であるため、礫を含むような砂質土地盤への適用も可能であり、液状化防止対策としても有功に機能する。
 
【0025】
  本発明において、施工方法は特に限定されるものではなく、通常の薬液注入で使用している施工設備を用いることができ、通常実施している注入設計と施工方法に準拠すればよい。例えば、ミキサーで調製した懸濁溶液をポンプでホースを介して圧送し、地中に配置したロッドを介して注入材を注入する方法が挙げられる。その際に使用するロッドは特に限定されるものではないが、単管ロッド、単管ストレーナロッド、二重管ロッド、及び二重管のダブルパッカー方式ロッドなどが使用できる。
  本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は、基本的には1ショットで注入を行なうが、地盤の状態や目的に応じて、市販されている凝結促進剤や他の各種混和材を別に圧送して1.5ショットや2ショット方式で施工することもできる。
 
【実施例】
【0026】
  以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0027】
実験例1
  高炉スラグ微粉末と、高炉スラグ微粉末100部に対して、20部の分級セメントと、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、1部のポリアクリル酸系分散剤と、表1に示す水を混合して、1分間グラウトミキサーで練り混ぜ、混練物とした。次に、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、固形分で、表1に示すケイ酸ナトリウムAを加え、1分間グラウトミキサーで練り混ぜ、地盤注入用水硬性セメント組成物の注入材を調製した。
  調製した注入材の粘度、圧縮強度、浸透性、並びに、逸流防止能の評価指標となる流出状況、形状、及び硬化体の直径を測定する浸透流下試験の結果を表1に併記する。
  比較のため、ケイ酸ナトリウムAを加えないで、高炉スラグ微粉末100部に対して、分級セメントを20部、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、ポリアクリル酸系分散剤を1.0部加えた。次に、この混合物100部に対して、966部の水を加え、2分間グラウトミキサーで練り混ぜ地盤注入用水硬性セメント組成物の注入材を調製して、同様の試験を行った。結果を表1に併記する。
【0028】
<使用材料>
高炉スラグ微粉末:市販の高炉スラグ微粉末、ブレーン値10,500cm
2/g、メジアン径3.6μm
分級セメント:普通ポルトランドセメントを分級した分級セメント、ブレーン値9,700cm
2/g、メジアン径4.1μm、炭酸カルシウム含有量11.3%
ポリアクリル酸系分散剤:市販のポリアクリル酸系分散剤(メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート系)、一般式(2)において、R
1はメチル基、R
2Oは炭素数2のオキシエチレン基、R
3はメチル基、n=23、質量平均分子量は42,000。質量平均分子量はGPC法(標準物質:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム/水系)により測定した。
水        :清水
ケイ酸ナトリウムA:水溶液、モル比n3.97、SiO
223.38%、Na
2O6.07%、SiO
2+Na
2O濃度29.45%
ケイ酸カリウム:水溶液、モル比n3.69、SiO
2濃度21.2%、K
2O濃度9.0%、SiO
2+K
2O濃度30.2%
【0029】
<試験方法>
粘度      :
  B型回転粘度計を用いて練り上がり直後の粘度を測定した。測定時の温度は25℃。
圧縮強度  :
  直径50mm、高さ100mmの型枠に注入材を80ml秤量し、その後、5号珪砂を306g投入した。測定材齢は28日。
浸透性    :
  JGS0831−2000に示す薬液注入による安定処理土の供試体作成方法に準拠した。直径50mm、高さ1,000mmのアクリルパイプに珪砂5号を充填して水締めした模擬地盤に0.05MPaの注入圧で注入材を注入したときの浸透状況を観察した。
浸透流下試験:流出状況、形状、硬化体の直径
  JGS0311-2000に示す土の透水試験方法に準拠して行なった。試験条件は、φ10×23cmの透明なアクリル容器に5号珪砂を間隙率40.5%になるように充填し模擬地盤を作製した。なお、模擬地盤を作製するアクリル容器の底面はフィルターをセットし、水や注入材が流れ出るようにしている。作製した模擬地盤の中心付近に注入材が注入されるようにパイプをセットし、作製した模擬地盤容器ごと水を満たした容器に浸漬した。浸漬した模擬地盤容器は、模擬地盤容器上端部と水を満たした容器の水位差を3.5cmになるようにし(動水勾配=0.152)、常に水を供給することで水が入れ替わるような条件とし、パイプより注入材を120ml注入し、模擬地盤からの注入材の流出状況を観察した。また、模擬地盤内に留まった注入材硬化体の状態は、材齢7日後に模擬地盤容器を解体し、内部から硬化体を取り出し、その形状と、ほぼ球形に硬化していた場合は、硬化体の直径を確認した。なお、注入材120mlが球形になった場合、硬化体の直径は6.1cmである。
【0030】
【表1】
【0031】
  表1から以下のようなことがわかる。
  練り上がり直後の粘度は、ケイ酸ナトリウムが0.2〜7部である実験No.1- 2〜実験No.1- 8においては、29〜52mPa・sであった。一方、ケイ酸ナトリウムがない実験No.1- 1の粘度は4mPa・s、ケイ酸ナトリウムが8部の実験No.1-9においては、5mPa・sと、実施例より低い粘度であった。
  圧縮強度については、実験No.1-2〜実験No.1- 8においては、0.6〜1.4N/mm
2であった。一方、実験No.1-1の比較例は0.5N/mm
2、実験No.1- 9の比較例は0.4N/mmであった。
  浸透性について、実験No.1-2〜実験No.1- 8および比較例である実験No.1- 1においては、高さ1,000mmのアクリルパイプを全浸透した。一方、比較例である実験No.1- 9においては、全浸透せず、760mmしか浸透しなかった。
【0032】
  ケイ酸ナトリウムの含有量が、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、0.2〜7部よりも多い8部の比較例である実験No.1- 9においては、浸透性と圧縮強度が、実験No.1- 5よりやや低下し、浸透流下試験では注入材が注入から10分後に流出し注入材が均一に浸透しないため不定形な硬化体であった。
  ケイ酸ナトリウムを含有しない比較例である実験No.1−1においては、浸透性は、実験No.1- 5と同様な結果が得られたが、圧縮強度はやや低下し、浸透流下試験では注入材が注入から5分後に流出し硬化体の痕跡がなく、地盤改良(補強)効果が得られなかった。
【0033】
実験例2
  高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、表2に示すケイ酸ナトリウムを固形分で1.5部使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0034】
<使用材料>
ケイ酸ナトリウムB:水溶液、モル比n4.96、SiO
2濃度19.56%、Na
2O濃度4.07%、SiO
2+Na
2O濃度23.63%
ケイ酸ナトリウムC:水溶液、モル比n3.74、SiO
2濃度24.00%、Na
2O濃度6.62%、SiO
2+Na
2O濃度30.62%
ケイ酸ナトリウムD:水溶液、モル比n3.5、SiO
2濃度25.61%、Na
2O濃度7.55%、SiO
2+Na
2O濃度 33.16%
ケイ酸ナトリウムE:水溶液、モル比n3.16、SiO
2濃度28.84%、Na
2O濃度9.43%、SiO
2+Na
2O濃度38.27%
【0035】
【表2】
【0036】
  一般式(1)におけるモル比nが3.5以上のケイ酸ナトリウムを、高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、ケイ酸アルカリ金属塩の固形分として1.5部含有した実験No.1- 5と実験No.2- 2〜実験No.2-4の注入材は、練り上がり直後の粘度が25〜41mPa・sと高く、材齢の28日の圧縮強度が0.5〜0.8N/mm
2と高く、浸透性に優れ、また、動水勾配を比較的大きく設定した浸透流下試験でも流出がなく、硬化体はほぼ球形に保たれており、逸流防止能に優れていた。
  ケイ酸ナトリウムのモル比nが3.5未満の3.16である実験No.2- 1においては、浸透性は、実験No.1- 5と同様な結果が得られたが、圧縮強度はやや低下し、浸透流下試験では注入材が注入から10分後に流出し不定形な硬化体であった。
【0037】
実験例3
  高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、ケイ酸ナトリウムAを固形分で1.5部使用し、表3に示すポリアクリル酸系分散剤を用いたこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0038】
【表3】
【0039】
  ポリアクリル酸系分散剤を使用しない実験No.3- 1では、浸透流下試験で注入材の流出はなかったが、浸透性試験で500mmしか浸透性が得られなかった。
【0040】
実験例4
  高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、ケイ酸ナトリウムAを固形分で1.5部使用し、表4に示す高炉スラグ微粉末、分級セメントを使用したこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0041】
【表4】
【0042】
  ブレーン値が7,300cm
2/g、メジアン径が6.3μmの高炉スラグ微粉末とブレーン値が9,700cm
2/g、メジアン径が4.1μmの分級セメントを用いた注入材の浸透性は900mm浸透であり、全浸透ではなかった。
【0043】
実験例5
  高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、ケイ酸ナトリウムAを固形分で1.5部使用し、高炉スラグ微粉末100部に対して、表5に示す分級セメントを使用したこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0044】
【表5】
【0045】
  分級セメントを使用しない実験No.5-1は、浸透性試験では全浸透であったが、浸透流下試験では注入材が注入から5分後に流出し、硬化体の痕跡がなく、地盤改良(補強)効果が得られなかった。
【0046】
  以上の結果から、高炉スラグ微粉末、分級セメント、ポリアクリル酸系分散剤、及び逸流防止剤としてのケイ酸アルカリ金属塩を含有し、前記ケイ酸アルカリ金属塩が、一般式(1)におけるモル比nが3.5以上であり、前記高炉スラグ微粉末と分級セメントの合計100部に対して、0.2〜7部である本発明の地盤注入用水硬性セメント組成物は、浸透性と逸流防止能に優れ、さらに充分な強度発現と長期的な耐久性に優れることがわかる。