【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、文部科学省、イノベーションシステム整備事業、大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)、「気体の超精密制御技術を基盤とした低侵襲手術支援ロボットシステムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
只野 耕太郎,力覚提示機能を有する空気圧駆動多自由度かん子システムの開発,第14回コンピュータ支援画像診断学会・第15回日本コンピュータ外科学会大会合同論文集,日本,日本コンピュータ外科学会,2005年12月30日,219−220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る力覚提示機能を有する操縦システムを示す概略構成図である。この力覚提示機能を有する操縦システムは、多自由度鉗子システム100であり、マスタマニピュレータ(主操作装置)101、マスタ制御部103、スレーブマニピュレータ(従操作装置)105及びスレーブ制御部107を備えている。この多自由度鉗子システム100は、マスタマニピュレータ101の手動操作に倣ったスレーブマニピュレータ105の自動操作を、マスタ制御部103とスレーブ制御部107との間の有線通信により遠隔制御可能な遠隔操縦システムである。
【0013】
マスタマニピュレータ101は、駆動に電動アクチュエータを使用した電気駆動系による位置決め制御を主としており、デルタ機構で構成された3自由度の並進部110と、当該並進部110に連結され、ジンバル機構で構成された4自由度の姿勢部120とを備えている。一方、スレーブマニピュレータ105は、駆動に空気圧アクチュエータを使用した空気圧駆動系による力制御を主としており、平行リンク機構とジンバル機構の組み合わせで構成された3自由度の保持部150と、当該保持部150に保持された4自由度の挟持部160とを備えている。
【0014】
電動アクチュエータ、特に高減速比のギヤと電動モータの組合せを用いた場合、空気圧シリンダと比較して高精度、広帯域の位置制御が可能であり、運動制御ベースの力制御を適用することで、術者の動作帯域ではマスタマニピュレータ101のダイナミクスや自重の補償が不要となる等の利点を有している。一方、空気圧アクチュエータは、非線形特性を有しているため制御性能の観点からは電動アクチュエータに劣るが、受動的な柔らかさを有している、質量対出力比が高く減速機無しに大きな力を発生できる等の利点を有している。
【0015】
マスタ制御部103は、コンピュータ31及びサーボアンプリファイア32を備えている。スレーブ制御部107は、コンピュータ71、サーボバルブ72、空気源73及び圧力計74を備えている。マスタ制御部103側のコンピュータ31は、マスタマニピュレータ101の各エンコーダの信号SPMから運動学計算により得られた先端位置信号を、UDP/IP通信によりスレーブ制御部107側のコンピュータ71へ送信する。スレーブ制御部107側のコンピュータ71は、受信した位置信号に基づいて、制御信号SCSをサーボバルブ72へ送信する。そして、サーボバルブ72は、受信した制御信号SCSに基づいて、空気源73からの圧縮空気CPAを調整してスレーブマニピュレータ105へ供給し、マスタマニピュレータ101の手動操作に倣ったスレーブマニピュレータ105の自動操作を制御する。
【0016】
一方、スレーブ制御部107側のコンピュータ71は、計算された先端の発生力の目標値を、UDP/IP通信によりマスタ制御部103側のコンピュータ31へ送信する。マスタ制御部103側のコンピュータ31は、受信した力信号に基づいて、制御信号SCMをサーボアンプリファイア32へ送信する。そして、サーボアンプリファイア32は、受信した制御信号SCMに基づいて、スレーブマニピュレータ105側に働く力をマスタマニピュレータ101側で力覚提示する。
【0017】
図2は、上記マスタマニピュレータ101の外観を示す斜視図、
図3は、上記並進部110を示す斜視図、
図4は、上記姿勢部120を示す斜視図である。このマスタマニピュレータ101は、
図2に示すように、図示しない筐体等にネジ止め固定される並進部110に姿勢部120がネジ止め固定されており、スレーブマニピュレータ105とは、自由度は同じ7自由度であるが、構造はパラレルリンク機構という異構造であってコンパクト化を実現している。
【0018】
並進部110は、
図2及び
図3に示すように、円形状の設置板111、3台のモータ112、3本のリンク113、3組の平行リンク114及び三角形状の固定板115を備えている。設置板111は、外周縁近傍に等角度間隔で複数の貫通穴111aが穿孔されており、これらの貫通穴111aにボルト111bが挿入されて筐体等にネジ止め固定されている。そして、設置板111は、3台のモータ112が、外周縁より内側の円周上に等角度(120度)間隔で配置され、且つモータ軸112aが当該配置円周接線方向を向くように配置されてネジ止め固定されている。モータ112は、ハーモニックギヤとエンコーダを内蔵したACサーボモータである。
【0019】
リンク113は、一端(後端)がモータ軸112aに固定され、他端(先端)に当該リンク軸と直交するように軸受113aが固定されている。平行リンク114は、2本のリンク114aと2本のリンク軸114bで構成されており、2本のリンク114aが所定間隔で互いに平行移動可能なように、2本のリンク114aの各端部同士が2本のリンク軸114bの両端部にそれぞれ回転自在に軸支されている。そして、一方のリンク軸114bは、リンク113の先端に固定されている軸受113aに嵌入されている。固定板115は、三角形の各頂点に配置される軸受115aが、リンク113の軸受113aの軸と平行になるように固定されている。そして、他方のリンク軸114bは、固定板115の各頂点に固定されている軸受115aに嵌入されている。
【0020】
以上のような構成の並進部110は、リンク113がモータ112のモータ軸112aを中心に
図3の矢印a方向に旋回自在となり、平行リンク114がリンク113の先端を中心にリンク113の旋回方向aと同方向及びそれと直交する
図3の矢印b方向に旋回自在となり、固定板115が平行リンク114の先端を中心にリンク113の旋回方向aと同方向に旋回自在となる、全体で3自由度のデルタ機構である。従って、並進部110は、並進駆動に高い発生力が得られ、位置によらず姿勢が変化しないという特徴を有している。
【0021】
姿勢部120は、
図2及び
図4に示すように、側面視L字状の取付板121、第1モータ122、側面視U字状の第1モータ固定板123、第2モータ124、側面視L字状の第2モータ固定板125、第3モータ126、側面視L字状の第3モータ固定板127、円柱状の回転アーム128、力センサ129、側面視L字状の力センサ固定板130、角柱状の操作子支持アーム131及び棒状の操作子132を備えている。取付板121は、一端に複数の貫通穴121aが穿孔されており、これらの貫通穴121aにボルト121bが挿入されて固定板115にネジ止め固定されている。そして、取付板121の他端には、第1モータ122がネジ止め固定された第1モータ固定板123が、モータ軸122aと固定板115とが平行になるようにネジ止め固定されている。
【0022】
第2モータ固定板125の一端は、第1モータ122のモータ軸122aに固定され、第2モータ固定板125の他端には、第2モータ124が、モータ軸124aと第1モータ122のモータ軸122aとが直交するようにネジ止め固定されている。第3モータ固定板127の一端は、第2モータ124のモータ軸124aに固定され、第3モータ固定板127の他端には、第3モータ126が、モータ軸126aと第1モータ122のモータ軸122aと第2モータ124のモータ軸124aとが互いに直交するようにネジ止め固定されている。回転アーム128は、軸方向が第3モータ126のモータ軸126aの軸方向を向くようにして、回転アーム128の後端が第3モータ126のモータ軸126aに連結固定されている。
【0023】
力センサ129は、回転軸129aが第3モータ126のモータ軸126aと直交するようにして、回転アーム128の先端に力センサ固定板130を介して固定されている。操作子支持アーム131は、後端が力センサ129の回転軸129a周りを回転自在となるように回転アーム128の先端に軸支されている。操作子132は、中空円筒状の本体132aと、この本体132a内に挿入されて軸方向にスライド自在な中実円筒状のスライダ132bを備え、本体132aの先端が操作子支持アーム131の先端にて力センサ129の回転軸129aと同方向に回転自在となるように軸支され、スライダ132bの先端が回転アーム128の略中央に穿設された穴128aに挿入固定されている。第1モータ122、第2モータ124及び第3モータ126は、ハーモニックギヤとエンコーダを内蔵したACサーボモータである。力センサ129は、それぞれ直交した3軸方向の並進力と、各軸周りのモーメントとを検出可能な6軸力センサである。
【0024】
以上のような構成の姿勢部120は、第2モータ固定板125が第1モータ122のモータ軸122aを中心に
図4のα方向に旋回自在となり、第3モータ固定板127が第2モータ124のモータ軸124aを中心に
図4のβ方向に旋回自在となり、回転アーム128が第3モータ126のモータ軸126aを中心に
図4のγ方向に回転自在となる。更に、操作子支持アーム131が力センサ129の回転軸129aを中心に
図4のδ方向に旋回自在となり、操作子132の本体132aは、術者の操作によりスライダ132bに沿って軸方向(
図4のA方向)にスライド自在となる、全体で4自由度のシリアル型のジンバル機構である。従って、姿勢部120は、人間の手首の動きをカバーする広い可動範囲を実現することができるという特徴を有している。
【0025】
図5は、上記スレーブマニピュレータ105の外観を示す斜視図、
図6は、上記保持部150を示す斜視図、
図7は、上記挟持部160を示す斜視図である。このスレーブマニピュレータ105は、
図5に示すように、図示しない筐体等にネジ止め固定される保持部150に挟持部160がネジ止め固定されており、マスタマニピュレータ101とは、自由度は同じ7自由度であるが、構造は2組の平行リンク機構とジンバル機構を組み合わせ及びワイヤ機構の異構造であってコンパクト化を実現している。
【0026】
保持部150は、
図5及び
図6に示すように、矩形状の台座151、平行リンク支持軸152、2組の平行リンク153、挟持部支持台154、3台の空気圧シリンダ(空気圧アクチュエータ)155、156、157及び3つのシリンダ固定板158a、158b、158cを備えている。台座151上には、平行リンク支持軸152を回転自在に支持する2つの軸受151aが所定間隔をあけて配置されて固定されていると共に、第1の空気圧シリンダ155のロッド155aの先端に固定されたブロック155abを回転自在に軸支するロッド支持部151bが軸受151aの間に配置されて固定されている。平行リンク支持軸152の略中央には、第1の空気圧シリンダ155の本体155bを一端で支持する側面視L字状のシリンダ固定板158aの他端が固定されている。
【0027】
平行リンク支持軸152の両端には、平行リンク153を構成する2本のリンク153a、153bの一端が回転自在に軸支されている。2本のリンク153a、153bが平行を保った状態で、平行リンク153を構成する1本のリンク153cの一端がリンク153bの他端に回転自在に軸支されていると共に、リンク153cの略中央がリンク153aの略中央に回転自在に軸支されている。平行リンク153を構成する1本のリンク153dの一端がリンク153aの他端に回転自在に軸支されている。そして、2本のリンク153c、153dが平行を保った状態で、リンク153c、153dの他端がシリンダ固定板160に回転自在に軸支されている。
【0028】
リンク153bとリンク153cの軸支部には、第2の空気圧シリンダ156の本体156bを一端で支持する側面視L字状のシリンダ固定板158bの他端が回転自在に軸支されている。そして、リンク153aの両端間には、第2の空気圧シリンダ156のロッド156aの先端に固定された図示しないブロックが回転自在に軸支されている。第3の空気圧シリンダ157の本体157bを一端で支持する側面視L字状のシリンダ固定板158cには、挟持部支持台154が第3の空気圧シリンダ157のロッド157aの移動方向にスライド自在に取り付けられている。そして、第3の空気圧シリンダ157のロッド157aの先端が、挟持部支持台154の上部に固定された固定板154aに固定されている。空気圧シリンダ155、156、157は、復動片ロッドの低摩擦シリンダである。
【0029】
図6に示すように、空気圧シリンダ155,156,157の両室は、5ポート(供給ポート、制御ポート2、排気ポート2の合計5つのポート)の流量制御型サーボバルブ201の制御ポートとして接続されている。制御信号によって、サーボバルブ201の制御ポートの開度を調整し、供給ポートから空気圧シリンダ155,156,157の一方の部屋へ流入する流量を調節する。同時にもう一方の部屋内の空気は、サーボバルブ201のもう一つの制御ポートから排気ポートを通して大気に開放される。これによって、空気圧シリンダ両室の差圧を制御する。
【0030】
以上のような構成の保持部150は、平行リンク153が、第1の空気圧シリンダ155の作用により平行リンク支持軸152を中心に
図6のφ方向に旋回自在になると共に、第2の空気圧シリンダ156の作用により平行リンク支持軸152とリンク153a、153bの軸支部を中心に
図6のψ方向に旋回自在となり、挟持部支持台154が、第3の空気圧シリンダ157の作用により
図6のρ方向にスライド自在となる、全体で3自由度の平行リンク機構とジンバル機構の組み合わせである。従って、保持部150は、腹腔鏡手術の際に被術者の腹部に装着するトロッカー部が不動点となるように設計することができるので、鉗子の挿入孔部分を直接支持する必要がなく、鉗子の挿入孔における生体への負荷を最小限にして駆動可能であり、運動学演算においてトロッカー部のポートの位置座標を必要としないという特徴を有している。尚、一部カウンタウエイト159により機械的に自重補償を行っている。
【0031】
挟持部160は、
図5及び
図7に示すように、鉗子部170と鉗子保持部180を備えており、更に
図8(A),(B)の鉗子部170を示す斜視図及び断面図と
図9(A),(B)の鉗子保持部180を示す斜視図及び断面図も参照して説明する。鉗子部170は、棒状の鉗子軸171、鉗子爪保持部172及び一対の鉗子爪173を備えている。鉗子軸171は、後端が鉗子保持部180に回転自在に軸支されている。鉗子爪保持部172は、一端が鉗子軸171の先端に鉗子軸171の回転軸と直交する方向に配置された回転軸172aを中心に回転自在に軸支されていると共に、この回転軸172aに直交する方向に配置された回転軸172bを中心に回転自在に軸支されている。一対の鉗子爪173は、鉗子爪保持部172の他端に回転軸173aを中心に開閉自在に軸支されている。
【0032】
図8(B)に示すように、各鉗子爪173は、くの字状に折れ曲げて形成されており、その折れ曲がり部に回転軸173aが通されて先端部が開閉自在に軸支されている。そして、各鉗子爪173の後端部には、一対のリンク174の一端が回転自在に軸支され、各リンク174の他端が空気圧シリンダ(空気圧アクチュエータ)175のピストン175aの先端部に回転自在に軸支されている。この空気圧シリンダ175は一般的なもので、ピストン175aの摺動部にはOリング175bが嵌め込まれ、軸部にはバネ175cが差し込まれ、それらが空気配管175dに接続されたシリンダ175e内に挿入された構成となっており、ピストン175aの図示左右の移動により鉗子爪173が開閉する。これらは鉗子爪保持部172に内蔵されている。
【0033】
鉗子保持部180は、箱状の保持体181、1台の空圧揺動アクチュエータ(空気圧アクチュエータ)182、1台のロータリーエンコーダ及び圧力センサ183、1つの駆動プーリ184、1つの被駆動プーリ185、4台の空気圧シリンダ(空気圧アクチュエータ)186、187、188、189を備えている。保持体181は、保持部150の挟持部支持台154にネジ止め固定される。そして、保持体181の側面181aに設けられた穴を覆うように取り付けられた軸受181bには、鉗子軸171が貫通挿入されて回転自在に軸支され、鉗子軸171の後端に被駆動プーリ185が固定されている。また、保持体181の側面181aに対向する側面181cに設けられた穴を貫通するように取り付けられた空気圧シリンダ186、187、188、189は2本1組(
図9(B)には1組のみ示す)で作用するようになっており、空気圧シリンダ186、187(188、189)には、鉗子軸171から延びるワイヤ190(191)が固定されている。
【0034】
空圧揺動アクチュエータ182は、円筒状の本体182aと、その中心に所定角度範囲内で揺動自在な軸を有し、当該揺動軸から本体内周面まで伸びる図示しない揺動片と、当該揺動軸から本体内周面まで伸びる図示しない仕切り板を備えている。そして、本体182aの周面に設けられた2つの空気給排気口182b、182cから揺動片と仕切り板で区切られた2つの区画室に対し、空気を給排気することにより揺動片を揺動させて揺動軸と連結された回転軸182dを所定角度範囲内で回転させる。
【0035】
ロータリーエンコーダ及び圧力センサ183が連結された空圧揺動アクチュエータ182は、回転軸182dが鉗子軸171と平行になって保持体181の側面181aに設けられた穴を貫通するように側面181aに取り付けられ、回転軸182dの先端に駆動プーリ184が被駆動プーリ185と並列固定されている。そして、図示しない無端のワイヤが、駆動プーリ184と被駆動プーリ185の間に架け渡されて駆動プーリ184と被駆動プーリ185にそれぞれ固定されている。
【0036】
図9(B)に示すように、空気圧シリンダ186、187(188、189)は、シリンダ186a、187a(188a、189a)が保持体181の側面181bに並列固定され、ピストン186b、187b(188b、189b)の先端がリニアポテンショメータ186c、187c(188c、189c)を介して鉗子軸171から延びるワイヤ190(191)の両端がそれぞれ固定されている。ワイヤ190(191)は、鉗子爪保持部172の回転軸172a(172b)に配置されている図示しないプーリに架け渡されて固定されている。
【0037】
以上のような構成の挟持部160は、鉗子軸171が、空圧揺動アクチュエータ182の作用により回転軸182dを中心に
図8及び
図9のθ方向に回転自在となり、鉗子爪保持部172が、空気圧シリンダ186、187の作用により回転軸172aを中心に
図8のζ方向に回転自在となると共に、空気圧シリンダ188、189の作用により回転軸172bを中心に
図8のψ方向に回転自在となり、一対の鉗子爪173は、空気圧シリンダ175の作用により回転軸173aを中心に
図8のη方向に開閉自在となる、回転、屈曲、把持の4自由度のワイヤ機構とリンク機構である。従って、鉗子部170と鉗子保持部180は滅菌処理を想定して分離可能な構造とすることができるという特徴を有している。
【0038】
図10は、多自由度鉗子システム100の制御ブロック線図である。空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の駆動には5ポートのスプール形のサーボバルブ72を用いている。尚、空気圧アクチュエータである空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の駆動力Fdr(区画室の差圧から算出)から外乱オブザーバを用いてスレーブマニピュレータ105の先端である鉗子爪173に働く外力fextを推定する制御方法も適用することができる。但し、この制御方法を用いるためには、空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182から鉗子爪173までの逆動力学モデルが必要である。しかし、ワイヤを動力伝達に用いているため、ワイヤの摩擦や自由度間の干渉の影響によりモデル化は容易ではない。そこで、任意の駆動パターンを与え、ニューラルネットワークで学習させてモデルの導出を行う。
【0039】
また、一般にマスタスレーブシステムにおける理想応答は、マスタマニピュレータとスレーブマニピュレータの位置と力が全く同じになることである。しかし、仮に理想応答が実現できた場合、術者は自分の手で直接操作している感覚が得られるが、作業能力は完全に術者に依存する。そこで、マスタマニピュレータ101とスレーブマニピュレータ105それぞれに異なるインピーダンス制御を適用したバイラテラル制御系が用いられる。スレーブ制御部107は、空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の柔らかさを活かし、スレーブマニピュレータ105にコンプライアンスを持たせる制御方法を採用している。つまり空気は圧縮性があることから、スレーブマニピュレータ105は柔らかさを有している。また、その柔らかさは圧縮空気の圧力によって調節可能である。スレーブマニピュレータ105がコンプライアンスを有することで、過大な力の発生を避けることができる。スレーブマニピュレータ105が柔らかさを有していることから、対象物に強く当たったときに、クッションの役目を果すことができる。この場合、スレーブマニピュレータ105が高剛性の環境と接触する際、コンプライアンスによってマスタマニピュレータ101とスレーブマニピュレータ105の位置偏差が大きくなる。しかし、手術用のスレーブマニピュレータ105の主な接触対象は臓器であり、術者は内視鏡によってスレーブマニピュレータ105の映像を見ながら作業するため、マスタマニピュレータ101とスレーブマニピュレータ105との間に位置偏差が生じても違和感なく作業することができる。
【0040】
また、マスタマニピュレータ101では、適度の粘性効果を持たせることで安定した動作の実現が望まれる。そこで、マスタ制御部103は、モータ112、第1モータ122、第2モータ124、第3モータ126の特性から、力制御ループに運動制御ループを内包した運動制御型インピーダンス制御方法(アドミタンス制御方法)を採用している。そして、スレーブ制御部107は、空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182が、高いバックドライバビリティと低剛性特性を有していることから、運動制御に力制御ループを内包した力制御型インピーダンス制御を採用している。
【0041】
図10に示すように、マスタ制御部103スレーブ制御部107は、マスタマニピュレータ101とスレーブマニピュレータ105にそれぞれ以下のようなインピーダンス特性を持たせるように制御を行う。
【0042】
スレーブマニピュレータ105
−fs=Kd(xs−xm)+Bdx・s…(1)
マスタマニピュレータ101
fm−fs=Cdx・m…(2)
ここで、
xs:スレーブマニピュレータ105の先端(鉗子爪173、174)の位置及び姿勢
xm:マスタマニピュレータ101の先端(操作子132)の位置及び姿勢
fs:スレーブマニピュレータ105の先端が外部環境に加える力
fm:術者がマスタマニピュレータ101の先端に加える力
Kd:スレーブマニピュレータ105の設定剛性
Bd:スレーブマニピュレータ105の設定粘性
Cd:マスタマニピュレータ101の設定粘性
スレーブマニピュレータ105側では式(1)を実現するため力制御ループを内包するインピーダンス制御を適用する。まず、スレーブマニピュレータ105の運動方程式は関節座標系で以下のように記述される。
【0043】
τdr−Js(転置)fs=Z(qs,q・s,q¨s)…(3)
ここで、
τdr:スレーブマニピュレータ105の各関節の駆動トルク
Z:スレーブマニピュレータ105の逆動力学関数
q:スレーブマニピュレータ105の各関節の変位
Js:スレーブマニピュレータ105の関節変位から先端位置までのヤコビ行列
式(1)を実現するためにスレーブマニピュレータ105の先端が発生すべき力fdrと、空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の駆動トルクの目標値τdrrefを以下のように計算する。
【0044】
fdr=Kd(xs−xm)+Bdx・s…(4)(図中1の枠内)
τdrref=−Js(転置)fdr+Z(qs,q・s,q¨s)…(5)(図中2の枠内)
空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の動特性が十分でτdrrefとτdrが一致すると仮定し、式(4)を式(5)に代入し、さらに式(3)に代入すれば式(1)が導かれる。実際には式(5)において位相遅れによる不安定化を避けるため、逆動力学モデルの入力のうち速度、加速度についてはマスタマニピュレータ101からの目標軌道値を用いている(図中3の枠内)。式(5)で計算されるトルクを各関節で発生させるため、次式(6)として機構学計算により空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の駆動力目標値Fdrrefに変換する。
【0045】
Fdrref=Jaτdrref…(6)(図中4の枠内)
ここで、
Ja:空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の変位から関節変位までのヤコビアン
次に、式(6)で計算された駆動力を発生させるためPI制御を行う。
【0046】
u=(Kap+Kai/s)・(Fdrref−Fdr)…(7)(図中5の枠内)
ここで、
u:サーボバルブ72への制御電圧
Kap:比例ゲイン
Kai:積分ゲイン
Fdr:圧力値から計算される空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の駆動力
マスタマニピュレータ101側では以下のようにアドミタンス制御により式(2)を実現する。
【0047】
x・m=(fm−fs)/Cd…(8)(図中6の枠内)
q・m=Jm(インバース)x・m…(9)(図中7の枠内)
式(8)から分かるようにスレーブマニピュレータ105と外部環境と接触力が必要であるが、スレーブマニピュレータ105側でのインピーダンス制御が実現されている場合、
fdrはfsと一致するため推定値としてそれぞれ相手側のマスタ制御部103、スレーブ制御部107に与えられる(図中8の枠内)。空気圧シリンダ155、156、157、175、186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の駆動力目標値Fdrrefは、内包された差圧制御ループによって高速、高精度に発生することができる。このため、空気の圧縮性やバルブの中立点のずれ等の位置決めに悪影響を及ぼす特性を補償することが可能となる。
【0048】
以上のように、本実施形態の多自由度鉗子システム100によれば、マスタマニピュレータ101は、電気駆動系による速度制御を主とし、スレーブマニピュレータ105は、空気圧駆動系による力制御を主とし、スレーブマニピュレータ105側に働く力をマスタマニピュレータ101側で力覚提示するので、マスタマニピュレータ101においては、術者の動作帯域ではマスタマニピュレータ101のダイナミクスや自重の補償が不要となり、電気駆動系特有の高精度、広帯域の位置制御を行うことができ、スレーブマニピュレータ105においては、空気圧駆動系特有の非線形特性により受動的な柔らかさを有し、質量対出力比が高く大きな力を発生させることができる。また、スレーブマニピュレータ105は、空気圧駆動系で構成されているため、例えば磁場を伴うMRI(Magnetic Resonance Imaging)内に設置して手術を行うことが可能となる。
【0049】
また、マスタマニピュレータ101は、3自由度の並進部110と、当該並進部110に連結された4自由度の姿勢部120とを備え、スレーブマニピュレータ105は、3自由度の保持部150と、当該保持部150に保持された4自由度の挟持部160とを備えているので、マスタマニピュレータ101側での人間の手の動きをスレーブマニピュレータ105側で再現することができる。また、並進部110は、デルタ機構で構成され、姿勢部120は、ジンバル機構で構成され、保持部150は、平行リンク機構とジンバル機構の組み合わせで構成され、挟持部160は、ワイヤ機構とリンク機構で構成されているので、マスタマニピュレータ101とスレーブマニピュレータ105は互いに異構造となり、操作性において最適な形状とすることができる。また、挟持部160は、空気圧シリンダ186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182と、空気圧シリンダ186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182に接続されたワイヤ190、191とを備え、空気圧シリンダ186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182によるワイヤ190、191の引張動作により駆動されるので、挟持部160は空気圧シリンダ186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182の動作をそのまま伝達駆動することができ、スレーブマニピュレータ105を軽量化することができる。
【0050】
また、挟持部160に働く力は、空気圧シリンダ186、187、188、189及び空圧揺動アクチュエータ182のバックドライバビリティによりそれぞれの駆動力から推定されるので、挟持部160に力センサを取り付ける必要が無く、挟持部160を小型化することができ、挟持部160の滅菌作業が容易となり、挟持部160の較正が不要になるという効果を得ることができる。また、スレーブマニピュレータ105は、コンプライアンスを持たせた制御が行われるので、スレーブマニピュレータ105側における過大な力の発生を避けることができる。
図11は鉗子爪173のトルク推定精度を評価した図であるが、このようにセンサ値(図示点線)と評価値(図示実線)は近似したものとなっている。
【0051】
また、マスタマニピュレータ101は、力制御ループに運動制御ループを内包した運動制御型のインピーダンス制御が行われ、スレーブマニピュレータ105は、運動制御ループに力制御ループを内包した力制御型のインピーダンス制御が行われるので、マスタマニピュレータ101側にて適度の粘性効果を持たせることで安定した動作を実現することができる。つまり、本制御系によってマスタマニピュレータ101は、固定壁にダンパで固定され、これを操作者が押し引きする感覚を実現できる。また、マスタマニピュレータ101とスレーブマニピュレータ105は、ばねとダンパを介して結合されている状態が実現される。さらに、このばねとダンパの値は制御パラメータの選定によって調整することができる。
【0052】
尚、上述した実施形態では、有線通信による遠隔制御可能な多自由度鉗子システム100を説明したが、無線通信のシステムであっても良く、また近傍で制御可能なシステムであっても良い。また、多自由度鉗子システム100を内視鏡手術支援装置として説明したが、医師のトレーニング装置やスキル評価装置としても構成することができる。また、力覚提示機能を有する操縦システムとして医療業界で使用される多自由度鉗子システム100を例に説明したが、これに限定されるものでは無く、広く一般的な製造業界においても適用可能である。