【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1−1]
‐基材の表面加工‐
表面が研磨されたグラッシーカーボン(東海カーボン株式会社製)の基板(厚さ:1mm、縦横:10mm×10mm)を、
図2に示したような構成のECR(電子サイクロトン共鳴)型のイオンビーム加工装置(株式会社エリオニクス製、商品名:EIS−200ER)を用いて表面にイオンビーム加工を施した。
このイオンビーム加工装置50は、基板52を保持するためのホルダ66、ガス導入管54、プラズマ生成室56、エクストラクター58、電磁石60、イオンビーム引き出し電極62、ファラデーカップ64等を備えている。なお、例えば500V以下の低加速電圧では電流密度が小さくなるので、エクストラクター58は、電流密度を上げるために引き出し電極62よりプラズマ側でイオンを引き出すためのグリッドである。エクストラクター58を用いれば、加速電圧が低くても、電流密度が大きくなり加工速度を高めることができる。
【0037】
グラッシーカーボン基板(GC基板)52をホルダ66にセットし、反応ガスとして酸素を導入するとともに所定の加速電圧をかけてGC基板52の表面にイオンビーム加工を施した。加工条件は以下の通りである。
ビーム照射角度:加工面に対して垂直(基板の転写パターン面に対して90°)
反応ガス:酸素
ガス流量:3.0SCCM
マイクロ波:100W
加速電圧:500V
真空度: 1.3×10
−2Pa
【0038】
図3は加工時間を変化させて加工したGC基板の表面状態を示すSEM画像である。
図3に見られるように、GC基板の表面(加工面)には先端に向けて縮径する形状を有する微小な突起群からなるパターン形成され、加工時間に応じて突起の高さ及びピッチが変化した。
【0039】
‐Cr膜の成膜‐
ECRにより5分間加工を施したGC基板の加工面にクロム(Cr)膜を成膜した。ここでは、真空蒸着装置(真空機工社製、商品名:CPC−260F)を用い、厚さ20nmのCr蒸着膜を成膜した。
図4(A)は、GC基板の微細パターン面にCr蒸着膜を成膜した後のSEM画像である。
【0040】
‐Au膜の成膜‐
GC基板の微細パターン面にCr膜を成膜した後、上記真空蒸着装置(CPC−260F)を用い、Cr膜上に厚さ1μmのAu蒸着膜を成膜した。
図4(B)は、Au膜を成膜した後のSEM画像である。
【0041】
‐転写‐
Au膜を成膜した後、Au膜上に光硬化性樹脂(PAK−01、東洋合成工業株式会社製)をスピンコートした。以下の条件で、PAK−01をコートした面にスライドガラスを押し付けるとともに、スライドガラス側から紫外光を照射してPAK−01を硬化させた。
押付け圧力:1.2MPa
加圧維持時間:60秒
UV照射時間:4秒
【0042】
硬化後、スライドガラスとGC基板をゆっくり引き離した。
図5は、PAK−01を介してスライドガラス上に転写されたAu膜のSEM画像であり、Au膜には突起状の微小な凹凸が形成されていることがわかる。
一方、
図6は、剥離後の母型を示すSEM画像であり、突起の破損は生じていないことがわかる。
【0043】
[実施例1−2、1−3]
GC基板の加工時間を10分又は15分とした以外は、実施例1−1と同様に加工、成膜、及び転写を行った。
【0044】
[比較例1−1]
実施例1−1と同様にしてGC基板にイオンビーム加工を施した後、加工面に離型剤(デュラサーフ HD‐1101Z、(株)ハーベス製)を塗布した。次いで、光硬化性樹脂(PAK−01、東洋合成工業株式会社製)をスピンコートした。PAK−01をコートした面をスライドガラスに押し付けるとともに、実施例1と同様の条件で紫外光を照射してPAK−01を硬化させた。硬化後、スライドガラスとGC基板をゆっくり引き離した。
【0045】
[比較例1−2]
GC基板の加工時間を10分とした以外は、比較例1−2と同様に加工、離型剤の塗布、及び転写を行った。
【0046】
[比較例2−1]
実施例1−1と同様にしてGC基板にイオンビーム加工を施した後、加工面に直接Au膜を成膜した。ここでは、真空蒸着装置(真空機工社製、商品名:CPC−260F)を用い、厚さ70nmのAu蒸着膜を成膜した。
次いで、Au膜上に光硬化性樹脂(PAK−01、東洋合成工業株式会社製)をスピンコートした。PAK−01をコートした面にスライドガラスを押し付けるとともに、実施例1と同様の条件で紫外光を照射してPAK−01を硬化させた。
硬化後、スライドガラスとGC基板をゆっくり引き離した。
【0047】
[比較例2−2、2−3]
GC基板の加工時間を10分又は15分とした以外は、比較例2−1と同様に加工、成膜、及び転写を行った。
【0048】
上記実施例1−1〜比較例2−3における転写結果を表1に示す。表1中の転写評価は以下の通りである。
A:Au膜(比較例2ではPAK−01)が全てスライドガラス側に転写された。
B:Au膜(比較例2ではPAK−01)の一部がGC基板側に残留した。
C:Au膜(比較例2ではPAK−01)の転写ができなかった。
【0049】
【表1】
【0050】
[実施例2]
図7(A)に示すように、Siウエハ12上に、SOG(Honeywell社製、Accuglass(登録商標)512B)13をスピンコートした後、焼成した(プレ加熱:80℃、3分間 メイン加熱:425℃、1時間)。
次いで、
図7(B)に示すように、レジストを塗布して電子ビームを任意の部分15に照射した(加速電圧:30kV、ドーズ量:2000〜5500μC/cm
2)。
さらに、これを現像液であるBHF(2.4%、2分間)に浸漬すことにより、電子ビームが照射された部分が溶解して凹部となり、
図7(C)に示すようなSi基板12上にSOGの凹凸パターン14が形成されたモールドを得た。このモールドの凹凸パターンの凸部間の最小ギャップは110nmである。
【0051】
次いで、
図8(D)に示すように、得られたモールドにCr蒸着膜16(厚み:10nm)を成膜し、さらにAu蒸着膜18(厚み:60nm)を成膜した。
次いで、
図8(E)に示すように、PET基板20をAu膜18上に接触させて80℃で30分間加熱することによりコンタクトプリントを行った。
さらに、冷却後、
図8(F)に示すように、PET基板20をゆっくり引き離すことによりAu膜18をPET基板20の表面に転写させた。
【0052】
[比較例3]
図9に示すように、実施例2と同様にしてモールドを作製した後、パターン形成面に、離型剤としてフッ素系樹脂コーティング剤(デュラサーフ HD‐1101Z、(株)ハーベス製)24を塗布し、その上にAu蒸着膜18を成膜した。
【0053】
図10は、実施例2及び比較例3でそれぞれ成膜したAu膜の表面状態を示すSEM画像である。比較例3で成膜したAu膜(
図10(a))は多数のヒビ割れが生じていたのに対し、実施例2で成膜したAu膜(
図10(b))は滑らかであった。
【0054】
図11は、実施例2においてPET基板への転写後のAu膜を観察したSEM画像である。PETフィルムはだれることなく、また、線幅が約70nmのAuパターンでも断線せずに形成されていた。
【0055】
[実施例3]
図14に示すようにモールドの凸部間の最小ギャップを70nmに変更した以外は実施例2と同様にしてモールドを作製した。次いで、モールドの凹凸パターン面にCr蒸着膜(厚み:10nm)を成膜し、さらにAu蒸着膜(厚み:60nm)を成膜した。
次いで、実施例2と同様にしてAu膜をPETフィルムに転写させた。
図15はPETフィルムに転写されたAu膜のSEM画像である。Au膜のラインが断線せずに転写されており、ライン間は約30nmのギャップが確保されている。
【0056】
[実施例4−1]
実施例2と同様にしてSiウエハ上にSOG(Honeywell社製、Accuglass(登録商標)512B)をスピンコートした後、焼成してSOG層(厚さ:500nm)を形成した。SOG層の任意の部分に電子ビームを照射して凹凸パターンが形成されたモールドを得た。このとき、電子ビームのライン幅は400nmに設定し、電圧を変化させて凹部(溝)の深さを変化させた。
次いで、SOGの凹凸パターン面にAl蒸着膜(厚み:20nm)を成膜し、さらにCu蒸着膜(厚み:500nm)を成膜した。
【0057】
次いで、PET基板をCu膜上に接触させて90℃で30分間加熱することによりコンタクトプリントを行った。
冷却後、PET基板をゆっくり引き離すことによりCu膜をPET基板の表面に転写させた。これにより、PET基板上には、SOG層の凹凸パターンが反映されたCuパターンが転写された。
【0058】
[実施例4−2、4−3、4−4]
SOGの凹凸パターンを形成するときに電子ビームのライン幅を300nm、200nm、100nmにそれぞれ変更した以外は、実施例4−1と同様に、SOG凹凸パターンの形成、Al蒸着膜の成膜、Cu蒸着膜の成膜、及び、PET基板へのCu膜の転写を順次行った。
図19は、ライン幅を200nm、100nmにそれぞれ設定した場合のPET基板上に転写されたCuパターンを示すSEM画像である。いずれもPET基板上にはSOG層の凹凸パターンが反映されたCuパターンが転写されている。なお、Cuパターンの測定溝幅(ライン間のギャップ)は、それぞれ75nm(設計幅:200nmの場合)、40nm(設計幅:100nmの場合)である。
【0059】
[実施例5]
実施例4−1と同様の方法によりSi基板上にSOG層を形成し、第1の金属膜と第2の金属膜を種々変更して第2の金属膜をPET基板に転写させた。転写状態をSEM画像で評価し、その結果を表2に示す。表中のCu−Niはコンスタンタン(銅とニッケルとの合金)であり、A、B、Cでの評価は以下の通りである。
A:第2の金属膜のラインパターンが断線せずに転写。
B:第2の金属膜(凹凸なし)がPET基板に転写。
C:第2の金属膜がPET基板に転写されたが部分的に剥離又は断線が見られる。
【0060】
【表2】
【0061】
[実施例6]
SOG層を形成せずに、Si基板上に第1の金属膜と第2の金属膜を順次形成し、PET基板に第2の金属膜を転写させた。その結果を表3に示す。評価は実施例5と同様である。
【0062】
【表3】
【0063】
−転写後のモールドの分析−
1.SEM−EDX(エネルギー分散型X線分光法)による分析
実施例2と同様にモールドを作製し、モールドのパターン面にCr蒸着膜(厚み:22nm)、Au蒸着膜(厚み:50nm)を順次成膜した。その後、実施例2と同様にしてAu膜をPETフィルムに転写させた。
転写前後においてモールド表面についてSEM−EDXによる分析を行った。SEM−EDX装置は、エリオニクス社製「ERAX−8900」を用いた。
図16(A)は転写前の分析結果を、
図16(B)は転写後の分析結果をそれぞれ示している。転写前後で比較すると、転写後においてAuは大きく減少し、Crはほぼ残留していることが分かる。
【0064】
2.XPS(X線光電子分光分析)による分析
Siウエハ上に、SOG(Haneywell社製、Accuglass(登録商標)512B)をスピンコートした後、焼成した(プレ加熱:80℃、3分間 メイン加熱:425℃、1時間)。次いで、Cr蒸着膜(厚み:18nm)を成膜し、さらにAu蒸着膜(厚み:50nm)を成膜した。次いで、実施例2と同様にしてAu膜をPETフィルムに転写させた。
【0065】
転写後のモールドの表面についてXPSによる分析を行った。XPS装置はアルバック・ファイ(株)の「ESCA5600Ci」を用い、モールドの表面を徐々にスパッタしていくことで深さ方向の元素分布の変化を調べた。
図17はXPSの分析結果を示している。矢印Aで示される最表面付近ではCr
2O
3等のクロム酸化膜が形成されており、このクロム酸化膜が金膜の離型に効いていると考えられる。そして、最表面からOが減少し、Crが増加している部分では、酸化Crが減少する一方、金属Crの割合が増加していると考えられる。さらに矢印Bで示す領域ではCrからSOGに変化し、再度Cr酸化膜が増加していることで、SOGとの密着性が増していると考えられる。
なお、
図18は最表面におけるCrのスペクトル分離比率を示しており、576.6eVがCr
2O
3のピークであり、574.3eVがCr金属のピークである。このグラフからも最表面では主にCr酸化膜が形成されていると考えられる。