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特許57692182点結像光学デバイス、ディスプレイ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769218
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】2点結像光学デバイス、ディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20150806BHJP
   G02B 17/06 20060101ALI20150806BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   G02B27/02 Z
   G02B17/06
   G02B5/08 Z
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-98246(P2014-98246)
(22)【出願日】2014年5月12日
(62)【分割の表示】特願2008-537504(P2008-537504)の分割
【原出願日】2007年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-194561(P2014-194561A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2006-271191(P2006-271191)
(32)【優先日】2006年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】前川 聡
【審査官】 河原 正
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−021702(JP,A)
【文献】 特開平05−336549(JP,A)
【文献】 特開平10−062717(JP,A)
【文献】 特開平05−210078(JP,A)
【文献】 特開2003−185970(JP,A)
【文献】 特開2003−107402(JP,A)
【文献】 特開2000−137192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/02
G02B 27/22−27/26
G02B 5/00
G02B 5/08−5/136
G02B 17/00−17/06
G09F 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被投影物と、当該被投影物の像を結像させる2点結像光学素子とを具備する2点結像光学デバイスであって、
前記2点結像光学素子は、素子面となる2枚の平行な狭間隔の平面に垂直若しくはそれに近い角度で挟まるように配置された平板状をなす複数の鏡面部を備え、当該複数の鏡面部は、隣接する鏡面部同士を互いに平行若しくはそれに近い角度で離間して配置したものであり、
前記複数の鏡面部の各鏡面部は、それぞれほぼ同一平面内において相互に離間して配置された複数の鏡面要素から構成されるものであって、
前記被投影物を前記2枚の素子面のうち一方側に配置し、当該被投影物の像を、当該被投影物が配置された側の素子面側および他方の素子面側にそれぞれ1つずつ結像させるように構成したことを特徴とする2点結像光学デバイス。
【請求項2】
前記鏡面部の背面を、非鏡面としている請求項1に記載の2点結像光学デバイス。
【請求項3】
前記2点結像光学素子における複数の鏡面部を全て同じ方向を向けつつ互いに平行若しくはそれに近い角度で離間させて支持する支持部をさらに具備し、
前記被投影物を前記支持部の裏面側において前記鏡面部と対向配置し、
前記各鏡面部間の間隙を通じて各鏡面部に反射する前記被投影物の像を、前記支持部の表面側と裏面側にそれぞれ1つずつ結像させる請求項1又は2の何れかに記載の2点結像光学デバイス。
【請求項4】
前記支持部は、前記2つの素子面に沿って前記複数の鏡面部を挟持する相互に水平若しくはそれに近い姿勢で配置される透明硬質部材から構成されるものである請求項に記載の2点結像光学デバイス。
【請求項5】
前記支持部は、互いに平行若しくはそれに近い角度で複数の筋状溝又はスリット又は突条の何れかを形成した透明硬質素材から構成される薄板状の部材であり、各筋状溝又はスリット又は突条において前記被投影物と対向する側の面を前記鏡面部としている請求項に記載の2点結像光学デバイス。
【請求項6】
前記支持部は、その肉厚方向に貫通させた複数の穴部又は肉厚方向に突出させた透明な複数の筒状部を形成した薄板状の部材であり、前記複数の穴部又は複数の筒状部を平面視格子状に整列させ、各穴部又は筒状部のうち同じ側を向く面に光を反射する鏡面要素を形成し、ほぼ同一平面内に形成された複数の鏡面要素により1つの前記鏡面部を構成している請求項に記載の2点結像光学デバイス。
【請求項7】
前記穴部又は筒状部の内部を、屈折率が1を超える透明な液体もしくは固体で満たしている請求項に記載の2点結像光学デバイス。
【請求項8】
前記被投影物を、前記支持部の裏面側において前記鏡面部と対向配置し、当該被投影物を奥行きが反転した反転した立体物又は立体映像としている請求項乃至の何れかに記載の2点結像光学デバイス。
【請求項9】
前記被投影物を、前記支持部の裏面側において前記鏡面部と対向配置し、当該被投影物を動きのある物体又は映像としている請求項乃至の何れかに記載の2点結像光学デバイス。
【請求項10】
前記被投影物を、前記素子面からの距離に応じて当該素子面及び前記鏡面部と平行な方向の幅を拡大縮小可能な物体又は映像としている請求項1乃至の何れかに記載の2点結像光学デバイス。
【請求項11】
前記素子面及び前記鏡面部が鉛直となる姿勢で前記2点結像光学素子を配置している請求項1乃至10の何れかに記載の2点結像光学デバイス。
【請求項12】
前記素子面が水平となり且つ前記鏡面部が鉛直となる姿勢で前記2点結像光学素子を配置している請求項1乃至10の何れかに記載の2点結像光学デバイス。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れかに記載の2点結像光学デバイスを備えたディスプレイ装置であって、
遮光性があり上方に開口した箱体と、当該箱体の開口を塞ぐ蓋体とを備え、
前記蓋体の中央部に前記2点結像光学素子を配置し、当該2点結像光学素子の周囲を遮光するとともに、前記蓋体の底面側に前記2点結像光学素子の前記鏡面部と対向するように前記箱体の内部に前記被投影物を配置していることを特徴とするディスプレイ装置。
【請求項14】
前記箱体を起立体である壁に埋め込んだ構成とし、
前記蓋体及び前記2点結像光学素子を、起立体である前記壁の前記壁面と面一な鉛直姿勢となるように配置している請求項13に記載のディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの結像点を備えた光学素子を備えた光学デバイス、並びに当該光学デバイスを備えたディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
比較し得る従来技術としては、縦方向と横方向とで倍率の異なる光学系である「アナモフィック光学系」(非特許文献1参照)と呼ばれるものがある。アナモフィック光学系の実現には、シリンドリカルレンズやトーリックレンズ(非特許文献2参照)等が用いられる。シリンドリカル(円筒面)レンズは、入射光に対してレンズの曲率方向に変化を与えることで、長さ方向には変化を与えずに線状のビームを形成するレンズであり、目や距離計や半導体レーザ等の非点収差を補正するのに広く利用されており、また反射コーティング等を施すことにより、シリンドリカルミラーとしてスキャナやファクシミリ等にも利用されている。トーリックレンズは、一つ若しくは二つのトーリック表面を有するレンズであって、トーリック表面は、ある子午面内で最大の屈折力を持つ一方、当該子午面に対して直角な子午面では最小の屈折力を持ち、乱視用眼鏡レンズ等として利用されている。
【非特許文献1】「速解光サイエンス辞典」,p4,オプトロニクス社,1998年発行
【非特許文献2】辻内順平 他編,「最新光学技術ハンドブック」,p22,朝倉書店,2002年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように従来から存在する2つの結像点を有する従来の光学素子の場合、被投影物と前側焦点との距離をZ、被投影物の像と後側焦点との距離をZ’、焦点距離をfとすると、式<ZZ’=f>の関係が成立し、Zと焦点距離との間には反比例関係がある。また、拡大率をMとすると、式<Z=f/M>の関係が成立し、Zと拡大率も反比例関係にある。したがって、3次元物体の結像においては、奥行き変化に伴って非線形的な収差が発生する。
【0004】
本発明は、縦横で異なる結像点を有する光学素子に関して、従来のようなレンズを用いずに、複数の鏡面を利用することで、これまでに存在しない結像様式が得られる新規な2点結像光学素子を利用する新規な光学デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明に係る2点結像光学デバイスは、被投影物と、この被投影物の像を結像する2点結像光学素子とを備えたものであり、2点結像光学素子は、素子面となる2枚の平行な狭間隔の平面に垂直若しくはそれに近い角度で挟まるように配置された平板状をなす複数の鏡面部を具備しており、前記複数の鏡面部を隣接する鏡面部同士が互いに平行若しくはそれに近い角度で離間するように配置し、複数の鏡面部の各鏡面部を、それぞれほぼ同一平面内において相互に離間して配置された複数の鏡面要素から構成されるものとして構成し、被投影物を2枚の素子面のうち一方側に配置し、この被投影物の像を、被投影物が配置された側の素子面側および他方の素子面側にそれぞれ1つずつ結像させるように構成したものであることを特徴としている。
【0006】
このような構成の本発明の2点結像光学デバイスにおける2点結像光学素子では、被投影物から発せられた光(反射光の場合もある)が鏡面部間の隙間を通過する際に鏡面部で1回反射して当該光学素子を通過することで、2つの素子面Es,Esの両側で結像する。ここで、2点結像光学素子における結像の原理を図1を用いて説明する。同図では、視点Vから観察した場合における、点光源Sから作られる2つの像を模式的に示している。同図(a)は、1つの鏡面部2において反射した光が、当該鏡面部2に対して点光源Sの面対称位置Aに結像し、観察者の視点Vからはこの光学素子1における一方の素子面Es側(図示例では下側)の空間に像が見える様子を示している。なお、点Aは1枚の鏡に映った像と等価であって、実際に光線が集まっているわけではなく、虚像となる。次に、同図(b)は、各鏡面部2における共通垂線位置での反射の様子を示している。鏡面での光線の反射は、反射位置を通る垂線に対する線対称経路を通るため、結局各鏡面部2で反射された光は、共通垂線lに対する点光源Sの線対称位置である点Bを通ることになる。これにより、他方の素子面Es側(図示例では上側)の空間における点Bに点光源Sの実像が作られる。ただし、点光源Sの集合としての被投影物が立体である場合には、点Bの集合である実像は奥行きが反転した状態で観察される。以上の結像は同時に起こるため、同図(c)のように、点A及び点Bの二つの結像点が現れることになる。なお、視点Vから見た場合には、二つの結像点は同方向に見えるため、1点として観察される。
【0007】
このような本発明の2点結像光学デバイスであれば、複数の鏡面部を所定の配置とした簡易な構成で2つの素子面側のそれぞれに1つずつ結像点を備える2点結像光学素子を有しているという、これまでにない像の観察が可能な新たな光学デバイスを得ることができる。なお、本発明の2点結像光学デバイスは、上述のような2点結像光学素子と被投影物とを最低限具備するものであればよい。
【0008】
次に、本発明に適用される2点結像光学素子による結像の位置関係を詳細に説明する。図2において、被投影物(点光源)をS、観察者の視点をV、SとVを通る直線をm、mと素子の交点をC、Cを通る鏡面部の垂線をlとする。これが各鏡面部の共通垂線となる。上で示したように、共通垂線lに対してSと線対称な位置がBとなる。また、VとBを通る直線をnとし、直線nと共通垂線lの交点をDとして、線分SD=線分DAとなる直線n上の点がAとなる。なお、素子面は直線lを含んでいるが、V,S,Aを含む平面は、素子面Es,Esと垂直である必要はない。また、素子面Es,Esに平行で点光源Sを含む仮想の平面Pを考慮すると、点Aは平面P上に存在し、平面Pと素子面に対して面対称位置にある仮想の平面Qを考慮すると、点Bは平面Q上に存在する。
【0009】
次に、2点結像光学素子の収差については、まず、図3を用いて視点Vから縦・奥行き方向の収差を説明する。同図において、点光源Sが素子面Es,Esと平行にS’の位置へ移ったとすると、点AがA’へ、点BがB’へそれぞれ素子面Es,Esと平行に移ることになる。つまり、BB’はSS’と等倍であるが、AA’はSS’よりも拡大する。また、点光源Sが素子面Es,Esに垂直な近付く方向のS’’の位置へ移ったとすると、点AがA’’へ、点BがB’’へそれぞれ移ることになる。つまり、AA’’は素子面Es,Esに対して斜めとなりSS’’よりも拡大するが、BB’’はSS’’と等倍を維持し、BB’’の方向はSS’’の方向とは反転する。一方、視点Vから横方向の収差について図4を用いて説明する。点光源SがS’’’の位置へ素子面Es,Esと平行に移ったとすると、点AがA’’’へ、点BがB’’’へそれぞれ素子面Es,Esと平行且つ共通垂線と平行に移ることになる。つまり、AA’’’はSS’’’と等倍を維持するが、BB’’’はSS’’’よりも縮小する。ここで、素子面Es,Esから視点Vまでの距離をR、素子面Es,Esから点光源Sまでの距離をrとすると、これらの距離と被投影物の大きさとの関係は、次式
【数1】
となる。すなわち、以上をまとめると、図示例において上側の素子面Esの上方の像は、横方向には縮小し、その他の2軸方向には等倍となる。他方、図示例において下側の素子面Esの下方の像は、横方向には等倍であるが、その他の2軸方向には拡大して斜めの線形変換を受けることになる。
【0010】
なお、本発明において、前記「素子面となる2枚の平行な狭間隔の平面」は、本発明に係る用途や被投影物の大きさによって異なるが、数μmから数cmの間隔で相互に近接した平面であるが、物理的な実体のある平面として存在する必要はなく、仮想平面でよい。例えば、素子から数mm〜数cmの近距離で被投影物の像を観察する場合は、前記2平面の間隔は数μm〜数十μmとするのが好ましく、素子から数cm〜数mの中距離で被投影物の像を観察する場合は、前記2平面の間隔は数十μm〜数百μmとするのが好ましく、素子から数m〜数十mの遠距離で被投影物の像を観察する場合は、前記2平面の間隔は数百μm〜数mmとするのが好ましい。
【0011】
また、本発明において、前記「2枚の…平面に垂直若しくはそれに近い角度」とは、「2枚の平面に対してちょうど垂直の角度、ないし垂直から数分程度の誤差範囲内の角度」を意味する。さらに、前記「複数の鏡面部が互いに平行若しくはそれに近い角度」とは、「全ての鏡面部が完全に平行にあるか、平行から数分程度の誤差範囲の角度」を意味している。
【0012】
上述したような本発明の2点結像光学デバイスにおいて、余分な反射光を除去して被投影物の像の解像度を高めるには、2点結像光学素子における鏡面部の背面を、非鏡面とすることが望ましい。
【0013】
以上のような本発明の2点結像光学デバイスが備える2点結像光学素子において、各鏡面部は、分割することもできる。本発明において各鏡面部の各鏡面部は、それぞれほぼ同一平面内において相互に離間して配置された複数の鏡面要素から構成している。各鏡面部は、短冊状の鏡によって構成することができるが、このように、被投影物を向くほぼ同一の平面内に存在する複数の鏡面要素によって1つの鏡面部を構成すれば、短冊状の鏡の両端を支持する場合と比較して、複数の鏡面部の平行度や各鏡面部の平面度を簡易に維持することが可能となる。なお、「複数の鏡面要素が配置されるほぼ同一平面」とは、複数の鏡面要素が完全に同一平面内にある場合が好適であるが、同一平面からの平行移動、及び数分程度の角度誤差範囲であれば許容される。
【0014】
より具体的な本発明の2点結像光学デバイスの基本構成としては、複数の鏡面部を全て同じ方向を向けつつ互いに平行若しくはそれに近い角度で離間させて支持する支持部をさらに具備し、被投影物を支持部の裏面側において前記鏡面部と対向配置し、各鏡面部間の間隙を通じて各鏡面部に反射する被投影物の像を、支持部の表面側と裏面側にそれぞれ1つずつ結像させるという、鏡面部を支持部により適切な姿勢で保持可能な構成を挙げることができる。
【0015】
また、本発明の2点結像光学デバイスは、複数の鏡面部を適切な姿勢で保持し且つ保護するために、支持部を、前記2つの素子面に沿って前記複数の鏡面部を挟持する相互に水平若しくはそれに近い姿勢で配置される透明硬質部材から構成したものとすることができる。硬質透明素材として適当なものには、例えばガラスやアクリルが例示される。
【0016】
あるいはまた、本発明の2点結像光学デバイスは、2点結像光学素子における複数の鏡面部をそれらの支持要素である支持部内に形成する態様として、支持部を、互いに平行若しくはそれに近い角度で複数の筋状溝又はスリット又は突条の何れかを形成したガラスやアクリル等の透明硬質素材から構成される薄板状の部材として、各筋状溝又はスリット又は突条において前記被投影物と対向する側の面を前記鏡面部とした構成とすることも可能である。このようにすることで、2点結像光学素子を鏡面部を規則正しく配置したものとして簡易に作成することができる。
【0017】
同様の観点から、支持部自体に鏡面部を形成する本発明の2点結像光学デバイスの態様としては、支持部を、その肉厚方向に貫通させた複数の穴部又は肉厚方向に突出させた透明な複数の筒状部を形成した薄板状の部材として、前記複数の穴部又は複数の筒状部を平面視格子状に整列させ、各穴部又は筒状部のうち同じ側を向く面に光を反射する鏡面要素を形成し、ほぼ同一平面内に形成された複数の鏡面要素により1つの前記鏡面部を構成したものを挙げることができる。このような構成において、前記穴部又は筒状部の内部を、屈折率が1を超える透明な液体もしくは固体で満たす場合は、被投影物の像を観察する角度を適宜調整することが可能となる。
【0018】
また、被投影物を動きのある物体又は映像とする場合には、その被投影物の動作に対応して動作する実像と虚像とを2点に結像させて観察することが可能な光学デバイスを得ることが可能である。
【0019】
また、被投影物各部の素子面からの距離が一定ではないか若しくは変動する場合には、素子面からの距離に応じて被投影物を横幅すなわち素子面及び鏡面部と平行な方向の幅寸法の拡大縮小が可能なものとすることで、正常な大きさの実像を再現可能である。
【0020】
また、本発明に係るディスプレイ装置は、上述した何れかの2点結像光学デバイスを備えたディスプレイ装置であって、遮光性があり上方に開口した箱体と、この箱体の開口を塞ぐ蓋体とを備え、蓋体の中央部に2点結像光学素子を配置し、当該2点結像光学素子の周囲を遮光するとともに、蓋体の底面側に2点結像光学素子の鏡面部と対向するように箱体の内部に被投影物を配置していることを特徴としている。斯かるディスプレイ装置は、
箱体を起立体である壁に埋め込んだ構成とし、蓋体及び2点結像光学素子を、起立体である壁の壁面と面一な鉛直姿勢となるように配置した構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の2点結像光学デバイスによれば、微小な間隔の平行な2つの素子面間にほぼ垂直な姿勢で設けられる複数の鏡面部をほぼ平行に整列させるという簡易な構成の2点結像光学素子と被投影物とを備えていることで、被投影物から発せられる光を各鏡面部に反射させて両素子面の側にそれぞれ1つずつ、合計2つの像が得られるという、これまで存在しなかった結像様式を有する光学装置を創出するものである。本発明に適用される2点結像光学素子は、従来のアナモフィック光学系とは特に3次元物体の結像において全く異なる収差を与えるものであるため、光学系の設計に新たな自由度を与えるものであるといえる。
【0022】
また、斯かる本発明の2点結像光学デバイスによれば、上述の通り当該デバイスの表裏両面に被投影物の像を映し出すという特徴を備えるものであるので、これまでにない結像方式のディスプレイ装置や展示装置等に利用することができる。
【0023】
特に、光学デバイスを、2点結像光学素子を素子面及び鏡面部が鉛直となる姿勢で配置したものとすれば、図1(b)、図16を参照して説明すると、自然な姿勢によって視点Vから観察する観察者からは、両眼の離間方向が素子面Es,Esに対して垂直方向の成分を持つため、点光源Sから発して各鏡面部2で反射され共通垂線lに対する点光源Sの線対称位置である点Bで結像した像、すなわち2点結像光学素子よりも手前側(視点側)に浮き出た実像を優先的に観察し易くなる。ただし、被投影物が立体である場合には、この実像は奥行きが反転した状態で観察される。
【0024】
他方、光学デバイスを、2点結像光学素子を素子面が水平となり且つ鏡面部が鉛直となる姿勢で配置したものとする場合には、図1(a)を参照して説明すると、自然な姿勢によって視点Vから観察する観察者の両眼の離間方向が素子平面と平行になるため、点光源Sから発して1つの鏡面部2において反射した光が当該鏡面部2に対して点光源Sの面対称位置Aに結像した像、すなわち2点結像光学素子の奥方に見える虚像を優先的に観察し易くなる。
【0025】
また、本発明の光学デバイスにおいて、被投影物を視点から見て支持部の裏面側において鏡面部と対向配置し、その被投影物を奥行きが反転した反転した立体物又は立体映像とすることで、特に2点結像光学素子の手前に観察される被投影物の実像の奥行きを、本来の正しい奥行きを持った立体物又は立体映像の実像として観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の2点結像デバイスに適用される2点結像光学素子による結像原理を示す原理図。
図2】同光学素子における結像の位置関係を示す原理図。
図3】同光学素子における視点からの縦・奥行き収差を示す原理図。
図4】同光学素子における視点からの横収差を示す原理図。
図5】本発明の一実施形態に適用される2点結像光学素子の構成概念図。
図6】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図7】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図8】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図9】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図10】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図11】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図12】本発明の一実施形態に係る2点結像光学デバイスの基構成概念図。
図13図11に示す実施形態の2点結像光学デバイスの応用例に係る本発明の一例であるディスプレイ装置を示す図。
図14】同ディスプレイ装置の2点結像光学デバイスにおける結像様式を示す概略図。
図15図11に示す実施形態の2点結像光学デバイスの応用例に係る本発明の一例である他のディスプレイ装置を示す図。
図16】同ディスプレイ装置の2点結像光学デバイスにおける結像様式を示す概略図。
図17】本発明の実施形態において適用される光学素子における視点からの被投影物が動作する場合の横収差を示す原理図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図5に、本発明において適用される2点結像光学素子(以下、単に「光学素子」と称する)1の一態様の基本的な構成概念図を示す。同図に示すように、光学素子1は、平滑な細長い短冊状をなす鏡面部2を多数、各鏡面部2が平行となり且つ同一方向を向くように前後方向に等間隔で並べて配置することにより構成される。各鏡面部2は、例えば表面を鏡面とした薄板状の鏡部材により構成することができる。また、鏡面部2以外での余計な反射を防ぐため、斯かる鏡部材において鏡面部2の背面は非鏡面とすることが望ましい。図示例では各鏡面部2の上端縁及び下端縁がそれぞれ素子面Es,Esを構成する平面l’,l’’内に収まっている。各鏡面部2と前記両平面l’,l’’は垂直の関係にある。
【0028】
両平面l’,l’’の間隔(換言すれば鏡面部2の幅寸法(図示例では高さ方向)、更に換言すれば素子の厚さ)d1、は、隣接する鏡面部2,2同士の間隔d2との関係で決定される。d1/d2の比は、当該光学素子1の最適観察角度と関係する。この比の値が1であれば、すなわちd1=d2であれば、透過率が最大となる素子面Es,Esに対して45°の方向から観察するのが最適である。前記比の値が1よりも小さければ、すなわちd1がd2よりも小さければ、素子面Es,Esに対して平行に近い浅い角度から観察することが望ましく、また、前記比の値が1よりも大きければ、すなわちd1がd2よりも大きければ、素子面Es,Esに対して垂直に近い深い角度から観察するのが最適となる。
【0029】
一方、隣接する鏡面部2,2同士の間隔d2は、当該光学素子1の解像度を決定する。幾何光学的には、d2が小さければ小さいほど解像度が向上するといえるが、光の回折の影響を考慮すればd2が小さいほど解像度が低下する。これら二つの要因を考慮してd2の最適値を決定することになる。一般的には、d2は、光学素子1からの観察距離や、用途や被投影物の大きさを考慮して数μm〜数cmの間の適宜の値に設定し、さらに最適観察角度を考慮してd2に対応するd1の値を数μm〜数cmの間で設定すればよい。d2の値は、例えば光学素子1から数mm〜数cmの近距離から被投影物の像を観察する場合は数μmから数十μm、数cm〜数mの中距離から観察する場合は数十μmから数百μm、数m〜数十mの遠距離から観察する場合は数百μmから数mmとするのが好適である。
【0030】
なお、以下の各実施形態に係る2点結像光学デバイスについての説明で特に言及しない場合でも、参照する各図には素子面Es,Esを示している。図6に、前述した光学素子1を利用した本発明の実施形態として、2点結像光学デバイス(以下、単に「光学デバイス」と称する)の一例の基本的な構成概念図を示す(被投影物は図示省略)。同図に示す光学デバイス10は、図5に示した光学素子1における各鏡面部2(又は当該各鏡面部2を備えた鏡部材)の両側端部を、適宜の支持部11,11で支持した構成のものである。この支持部11,11によって、各鏡面部2が互いに平行状態で配列され、且つ図示例では起立姿勢を維持するようにしている。支持部11としては、このような機能を発揮するものであれば形状や大きさ等の構成は特に限定されるものではなく、棒状部材、板状部材、線状部材等を適宜用いることができる。例えば支持部11として棒状部材や板状部材を用いる場合、これらの部材の内側面に各鏡面部2と平行な溝を刻設しておき、その溝に各鏡面部2の側端部を嵌め込むことによって、鏡面部2の位置及び姿勢を保持することができる。
【0031】
図7は、前述した光学素子1を利用した光学デバイスの別の例を示す構成概念図である(被投影物は図示省略)。同図に示す光学デバイス20は、2つの支持部21,21を2つの素子面Es,Esにそれぞれ当接させて各鏡面部2を挟み込んだ構成をなすものである。これら支持部21,21は、薄い平板状をなす硬質透明部材から構成することができる。硬質透明部材の素材には、ガラスやアクリルを採用することができる。このような支持部21,21の素子面Es,Esへの当接面は、各鏡面部2の表面と直交させている。例えば支持部21,21の素子面Es,Esへの当接面に、各鏡面部2の上端縁及び下端縁に対応する溝を刻設しておき、その溝に各鏡面部2の上端部及び下端部を嵌め込むことによって、鏡面部2の位置及び姿勢を保持し、さらに鏡面部2の保護を図ることができる。
【0032】
図8は、前述した光学素子1を利用した光学デバイスの別の例を示す構成概念図である(被投影物は図示省略)。同図に示す光学デバイス30は、硬質透明部材から構成される薄板状の支持部31に、当該支持部31の肉厚方向に貫通する多数のスリット32を互いに平行となるように形成した構成のものである。そして、各スリット32の内側面のうち、一方向を向く面(図示しない被投影物と対向する面)にそれぞれ鏡面部2を形成している。硬質透明部材の素材には、ガラスやアクリルを採用することができる。例えば硬質透明部材としてアクリルを採用する場合には、前記各スリット32の一方向を向く面に鏡面コーティングを施すことで、鏡面部2を得ることができる。また、前述した通りの理由から、鏡面部2の背面は非鏡面とすることが望ましい。ここで、当該硬質透明部材の厚さは、上述した鏡面部2の幅寸法d1に対応させるとよい。隣接するスリット32,32同士の間隔は、上述した通り隣接する鏡面部2,2同士の間隔d2の半分程度に対応させればよい。また、各スリット32の開口幅は、例えばスリット32の深さ(支持部31の厚み)の半分程度とする。このような構成によれば、1つの部材からなる支持部31に加工を施すことで、光学デバイス30が得られる。なお、このようなスリット32に代えて、支持部31を構成する透明硬質部材に、その肉厚を貫通しない多数の筋状の溝を互いに平行となるように形成し、前記スリット32の場合と同様に各溝の内側面に鏡面部2を形成することによっても、同様の光学デバイスを得ることが可能である。
【0033】
図9は、前述した光学素子1を利用した光学デバイスの別の例を示す構成概念図である(被投影物は図示省略)。同図に示す光学デバイス40は、図8に示した光学デバイス30の支持部31におけるスリット32に代えて、支持部41を構成する硬質透明部材の一方の面(図示例では上面)に突出する複数の細長い突条42を互いに平行となるように形成した構成のものである。突条42は、支持部41と同一素材とすることができる。また、各突条42の外側面のうち、一方向を向く面(図示しない被投影物と対向する面)にそれぞれ鏡面部2を形成している。斯かる鏡面部2は、前記光学デバイス30の場合と同様の加工により得ることができる。また、前述した通りの理由から、鏡面部2の背面は非鏡面とすることが望ましい。ここで、突条42の突出高さは、上述した鏡面部2の幅寸法d1に対応させるとよい。隣接する突条42,42同士の間隔は、上述した通り隣接する鏡面部2,2同士の間隔d2の半分程度に対応させればよい。また、突条42の鏡面部2の垂線方向の幅は、例えば突条42の高さの半分程度とする。このような構成によれば、1つの部材からなる支持部41に加工を施すことで、光学デバイス40が得られる。また、突条42は薄板状の支持部41の「リブ」としても機能するため、光学デバイス40の強度増強と形状維持にも寄与する。なお、突条42を矩形状をなして樋状に上方へ開口するような形状として、突条42の外側面に形成した前記鏡面部2に代えて、当該外側面と平行な内側面に鏡面部を形成した構成の光学デバイスによっても、前記光学デバイス40と同様の効果を得ることができる。さらにこのような光学デバイスにおける樋状の開口に、前記光学デバイス30に形成したようなスリット32や当該スリット32に代わる筋状の溝を連通させたような形態の光学デバイスであっても、同様の効果を有する光学デバイスを得ることができる。
【0034】
図10は、前述した光学素子1を利用した光学デバイスの別の例を示す構成概念図である(被投影物は図示省略)。同図に示す光学デバイス50は、図9に示した光学デバイス40の支持部41と同様に、平板状をなす硬質透明部材から構成される支持部51の一方の面(図示例では上面)に、平面視格子状(碁盤目状)をなすように微細な直方体形状の突起52を多数突出させた構成のものである。そして、各突起52のうち、被投影物側を向く平滑な外側面に鏡面加工を施して、鏡面要素2aを形成している。また、前述した通りの理由から、鏡面要素2aの背面は非鏡面とすることが望ましい。さらに、被投影物に対向する一平面内に存在して一列に整列する複数の鏡面要素2aによって、1つの鏡面部2を構成している。ここで、各突起52の突出高さは、上述した鏡面部2の幅寸法d1に対応させるとよい。隣接する列の突起52,52同士の間隔は、上述した通り隣接する鏡面部2,2同士の間隔d2に対応させればよい。また、同一の鏡面部2を構成して隣接する突起52,52同士の間隔は適宜設定することができるが、例えば上述のd2と同一寸法とすることができる。このような構成の光学デバイス50は、前記光学デバイス40における突条42を、複数の突条52の並ぶ方向に細分割したような構成であるといえる。なお、前記光学デバイス40の変形例と同様に、光学デバイス50の突起52を上方へ矩形状をなして開口する筒状部として、その筒状部のうち被投影物側を向く平滑な内側面に鏡面要素2aを形成した光学デバイスとしても、光学デバイス50と同様のものを得ることができる。
【0035】
図11は、前述した光学素子1を利用した光学デバイスの別の例を示す構成概念図である(被投影物は図示省略)。同図に示す光学デバイス60は、図8に示した光学デバイス30の支持部31と同様に、平板状をなす硬質透明な部材から構成される支持部61に、その肉厚を貫通する矩形状の微細な穴部62を平面視平面視格子状(碁盤目状)をなすように多数形成した構成のものである。そして、各穴部62のうち、被投影物側を向く平滑な内側面に鏡面加工を施して、鏡面要素2aを形成している。また、前述した通りの理由から、鏡面要素2aの背面は非鏡面とすることが望ましい。さらに、被投影物に対向する一平面内に存在して一列に整列する複数の鏡面要素2aによって、1つの鏡面部2を構成している。ここで、穴部62の深さは、上述した鏡面部2の幅寸法d1に対応させるとよい。隣接する列の穴部62,62同士の間隔は、隣接する鏡面部2,2同士の間隔d2の半分程度に対応させればよい。また、同一の鏡面部2を構成して隣接する穴部62,62同士の間隔も適宜設定することができるが、例えば上述のd2の約半分の寸法とすることができる。このような構成の光学デバイス60は、前記光学デバイス30におけるスリット32を、複数のスリット32の並ぶ方向に細分割したような構成であるといえる。なお、このような支持部61を貫通する穴部62に代えて、支持部31を構成する透明硬質部材に、その肉厚を貫通しない有底の孔を格子状に形成し、前記穴部62の場合と同様に各孔の内側面に鏡面要素2aを形成することによっても、同様の光学デバイスを得ることが可能である。
【0036】
なお、以上に述べたような2つの結像点が得られる光学デバイスは、図12に示す光学デバイス70によっても実現することができる(被投影物は図示省略)。この光学デバイス70は、前述した光学デバイス60とほぼ同様の構成を有し、穴部71の直交する2つの内側面を鏡面2b,2bとしたものであり、基本的にはこの光学デバイス70の下方に配置した被投影物を2つの鏡面2b,2bのなす角度の中心線の方向から(図中矢印I)これら鏡面2b,2bに向け、当該被投影物から発せられる光を2つの鏡面で1回ずつ、合計2回反射させ、光学デバイス70の上方に被投影物の像を浮かび上がらせるように投影する、という使用方法がなされる。斯かる光学デバイス70において、どちらか一方の鏡面2bのみに対向する(例えば図中矢印II)ように被投影物を配置し、その鏡面2bを含む平面内に含まれる他の穴部71の鏡面2bと共に鏡面部2を構成する(当該鏡面2bが前記鏡面要素2aと同等の役割を果たしている)態様とすれば、前述の光学デバイス60と同様の構成となり、光学デバイス70を光学デバイス60と同じものとして使用することができる。
【0037】
以下、前述した光学デバイス60の具体的な応用例に係る本発明の一例としてディスプレイ装置を例に挙げて、結像様式と像の観察態様を説明する。なお、ここでは光学デバイス60を例に挙げているが、上述した他の光学デバイスの場合でも同様である。図13に示すディスプレイ装置600は、遮光性があり上方に開口した箱体601と、この箱体601の開口を上方から塞ぐ蓋体602と、箱体601の内部に配置される照明603とを備えるものであり、蓋体602の中央部には前記光学デバイス60を配置してその周囲を「ロ」字型に遮光している。蓋体602の底面側には、点光源Sの集合としての被投影物(図示例では文字「A」を記載した紙片)604を上下反転させた倒立姿勢で、光学デバイス60の鏡面部2と対向するように配置される。照明603は、箱体601に蓋体602を被せた状態で被投影物604を照らすように、被投影物604と対向する位置に設置される。観察者は、ディスプレイ装置600における被投影物604の斜め上方位置に視点Vを置いて光学デバイス60を覗き込むことになる。ここで、本例のディスプレイ装置600では、光学デバイス60を、各鏡面要素2aが100μm四方の正方形状であり、前後左右の鏡面要素2a間の距離も100μmとしたものを採用するものとする。
【0038】
図14に、照明603により照らされて被投影物604で反射する光の経路と、被投影物604の2つの像を模式的に示す。なお同図では、実際には鏡面部2の幅寸法すなわち素子面Es,Es間の間隔が被投影物その他の物体と比して非常に小さいため、光学デバイス60の上面と下面を1つの平面に擬して表している。被投影物604である文字「A」上の1点(ここでは、文字「A」の頂点)を点Sとして説明すると、図1図4でも説明したように、点Sからの光は、ある鏡面部2(光学デバイス60のように鏡面部2が複数の鏡面要素2aに分割されている場合は、それら鏡面要素2aの集合)で反射して(反射点を、図中●で示す)光学デバイス60の下側の素子面Esの下方の点Aに虚像として結像し、点Sを通る鏡面部2の垂線上にある鏡面要素2aで反射して光学デバイス60の上側の素子面Esの上方の点Bに実像(同図にグレーで示す)として結像する。すなわち、このディスプレイ装置600を、光学デバイス60における鏡面部2が鉛直姿勢となるように設置した場合、被投影物604上の点Sで反射した光が鏡面部2で反射すると、横方向の光線束が与える虚像(光線が仮想的に集まる点)が点Aであり、各鏡面部2の共通垂線lと平行な方向である縦方向の光線束が与える実像(光線が実際に集まる点)が点Bである。
【0039】
ただし、ディスプレイ装置600の上方におけるある1点Vから単眼で観察すると、点Aと点Bは同一直線上に存在するため区別することはできない。仮に、焦点距離を厳密に合わせた場合は、点A及び点Bの2つの距離で焦点が合うことになる。被投影物604上の他の点で反射し、さらに鏡面部2で反射した光も、素子面の上下両方においてそれぞれに対応する位置で結像する。このようにして得られる文字「A」の像は、下側の素子面Esの下方の像(虚像)については、横幅には変化なく等倍であるが、縦と奥行き方向には斜めに引き延ばされ、上側の素子面Esの上方の像(実像)については、縦と奥行き方向には変化なく等倍であるが、横幅は縮小される。ただし、前述したある一点Vを視点としてこれらの像を観察した場合には、2つの像は完全に重なって見え、ただ1つの文字「A」の像が見える。なお、両眼によって、視差を持たせて観察した場合には、下方若しくは上方の像を確認することになる。詳述すると、素子面Es,Esを水平として鏡面2を鉛直とした2点結像光学素子1(図6等参照)を備えた光学デバイス60を利用する場合、通常の姿勢で両眼で観察する観察者にとっては、横方向の光線束により下側の素子面Esの下方に結像した虚像の方が自然な状態で見やすくなる。縦方向の光線束により上側の素子面Esの上方に結像した実像については、観察者は顔を横にするなどして両眼を縦に並べた状態とすれば自然に見えることとなる。
【0040】
特に、縦方向の光線束が与える実像を観察者が顔を縦にした自然な姿勢で観察する場合には、光学デバイス60における2点結像光学素子1を素子面Es,Esと鏡面2が鉛直姿勢となるように配置すればよい。図15に示す例は、上述したディスプレイ装置600を立てて起立体である壁Wに埋め込み、上側の素子面Es及び蓋体602を壁面Wsと面一な鉛直姿勢となるようにしたものである。ディスプレイ装置600の立てる方向は、各鏡面部2も鉛直姿勢となる方向としている。図14に準じて図16に示すように、被投影物604(文字「A」を右側へ横倒しにしたものとする)は壁Wの内側に配置される。このようにすることで、図16に拡大して示すように、観察者が自然な姿勢で壁面Wsの手前側の視点Vから(実際には両眼で)見ると、両眼視差が素子面Esに対して垂直方向となるため、素子面Esの壁面Wsよりも手前側の実像が観察されることになる。なお、この実像は、縦(図示例において左右方向)と奥行き方向には変化なく等倍であるが、文字「A」の横幅(図示例において上下方向)は縮小され、特にこの実像が立体である場合には被投影物604とは奥行きが反転された像として観察されることになる。なお、図14の場合とは逆に、本例の場合は観察者が顔を横にした姿勢で観察すれば、壁面Waの内側に虚像(図16ではグレーで示す)が見えることになる。
【0041】
以上、平面的な被投影物を観察した場合について説明したが、立体的な被投影物の像を観察することも同様に可能である。ただし、被投影物が立体の場合は、素子面に対して視点と同じ側の空間に結像する実像は奥行きが反転して見える。また、素子面に対して被投影物と同じ側の空間に結像する虚像については奥行きが反転することはないが、奥行き方向に引き伸ばされた像となる。
【0042】
また、以上では被投影物が静止物(静止画像を含む)であるものとして説明したが、被投影物を動作する物体や映像とすることも可能であり、その場合には、動く映像として被投影物の実像及び虚像を観察することができる。例えば図17に示すように、被投影物に素子面素子面Es,Esに対する垂直方向の動きがある場合における、ある固定された視点Vから見た横方向の歪みについて、図4に準じて説明する。線分Sの位置にある被投影物(被投影物Sとする)が素子面Es側の空間にあり、視点Vから見て素子面Es側の空間に結像した実像Bが観察されているとする。同図(a)に示すように、被投影物Sが素子面Es,Esから離れる方向へ垂直に移動して線分S’S’の位置に移動したとすると、実像はBの位置からB’B’の位置へ素子面Es,Esから垂直方向へ離れるように移動して縮小するという幾何変化を受ける。被投影物Sが素子面Es,Esに近付く方向へ垂直に移動すれば、実像はBの位置から素子面Sから垂直方向に近付くように移動して拡大する。また、同図(b)に示すように、被投影物Sの素子面Es,Esに対する垂直方向へ移動しても、実像Bの大きさを変化させずに実像B’’B’’が観察できるようにするには、例えば被投影物Sの素子面Es,Esから遠ざかる場合には、三角形VB’’B’’と三角形VS’’S’’とが相似形を保つように、被投影物Sを被投影物S’’S’’に拡大すればよい。具体的には、素子面Es,Esから視点Vまでの距離をR、素子面Es,Esから被投影物Sまでの距離をr、移動後の素子面Es,Esから被投影物S’’S’’までの距離をr’とすると、移動後の被投影物S’’S’’の大きさは、次式
【数2】
を満たすようにすればよい。このように、被投影物の素子面及び鏡面部と平行な方向の幅の拡大縮小を自在に行うためには、被投影物としてディスプレイ装置を採用したり、スクリーンに投影した映像を採用することが好ましい。なお、被投影物の各部の素子面からの距離が一定ではない場合には、あらかじめ素子面からの距離に応じて拡大縮小を行うことで、正常な大きさを再現可能である。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
光学素子の裏側に配置した光源から発する光をその光学素子が備える鏡面部で反射させることで、ある視点から見て当該光学素子の手前側に実像を且つ裏側に虚像をそれぞれ結像させ、しかも実像と虚像とをその視点から一直線上に観察できるという、新たな結像様式を備えた光学素子、光学デバイスを提供することができ、新規なディスプレイ等として応用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17