(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄化合物粒子粉末について還元処理を行い、次いで、窒化処理を行う強磁性粒子粉末の製造方法であって、前記鉄化合物粒子粉末は、一次粒子の平均短軸径が5〜40nmであって平均長軸径が30〜200nmであり、BET比表面積が85〜230m2/gである酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を出発原料として用いる請求項1〜4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造法。
鉄化合物粒子粉末の粒子表面をSi化合物及び/又はAl化合物で被覆した後、還元処理を行い、次いで、窒化処理を行う強磁性粒子粉末の製造方法であって、前記鉄化合物粒子粉末は、一次粒子の平均短軸径が5〜40nmであって平均長軸径が30〜200nmであり、BET比表面積が85〜230m2/gである酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を出発原料として用いる請求項2〜4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜10及び非特許文献1及び2記載の技術では、未だ十分とは言い難いものである。
【0009】
即ち、特許文献1には、表面酸化被膜が存在する鉄粒子を還元処理した後、窒化処理してFe
16N
2を得ることが記載されているが、最大エネルギー積を高くすることは考慮されていない。また、窒化反応が長時間にわたるものであり、工業的とは言い難い。
【0010】
また、特許文献2には、酸化鉄粉末を還元処理して金属鉄粉末を生成し、得られた金属鉄粉末を窒化処理してFe
16N
2を得ることが記載されているが、磁気記録媒体用磁性粒子粉末として用いられるものであり、高い最大エネルギー積BHmaxを有すべく硬磁性材料として好適とは言い難いものである。
【0011】
また、特許文献3〜9では、フェライトに変わる磁気記録材料用の極大磁気物質として記載されているが、α”−Fe
16N
2単相は得られておらず、より安定なγ‘−Fe
4Nやε−Fe
2〜3N、マルテンサイト(α’−Fe)やフェライト(α−Fe)様金属が混相として生成している。
【0012】
また、特許文献10では、α”−Fe
16N
2単相粉末が得られたことが記載されているが、単相を得ることができるのは、110〜120℃にて10日間と限られた条件で且つ非常に長い時間を要すことから量産には向いていない。
【0013】
非特許文献1〜2には、薄膜でのα”−Fe
16N
2単相を得ることに成功していて学術的には面白いが、薄膜では適用に限界があり、より幅の広い用途展開には不向きである。また、汎用の磁性材料とするには生産性や経済性に問題がある。
【0014】
そこで、本発明では、工業的生産可能な短時間において、大きなBH
maxを持つFe
16N
2単相粉末及びその製造方法、該粉末を用いた異方性磁石及びボンド磁石の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下の本発明によって解決することができる。
【0016】
即ち、本発明は、Fe
16N
2単相からなる強磁性粒子粉末であって、該強磁性粒子粉末のBH
maxが5MGOe以上であ
って、飽和磁化値σsが130emu/g以上であって、BET比表面積が80〜250m2/gであることを特徴とする強磁性粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、Fe
16N
2単相からなる強磁性粒子粉末であって、Fe
16N
2粒子粉末の粒子表面がSi及び/又はAl化合物で被覆され、該強磁性粒子粉末のBH
maxが5MGOe以上であ
って、飽和磁化値σsが130emu/g以上であって、BET比表面積が80〜250m2/gであることを特徴とする強磁性粒子粉末である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、本発明1又は2記載の強磁性粒子粉末
の保磁力H
cが1800Oe以上である強磁性粒子粉末である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、本発明1〜3のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の一次粒子径が平均短軸径5〜40nm、平均長軸径30〜250nmである強磁性粒子粉末である(本発明4)。
【0021】
また、本発明は、鉄化合物粒子粉末について還元処理を行い、次いで、窒化処理を行う強磁性粒子粉末の製造方法であって、前記鉄化合物粒子粉末は、一次粒子の平均短軸径が5〜40nmであって平均長軸径が30〜200nmであり、BET比表面積が85〜230m
2/gである酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を出発原料として用いる請求項1〜
4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造法である(本発明
5)。
【0022】
また、本発明は、鉄化合物粒子粉末の粒子表面をSi化合物及び/又はAl化合物で被覆した後、還元処理を行い、次いで、窒化処理を行う強磁性粒子粉末の製造方法であって、前記鉄化合物粒子粉末は、一次粒子の平均短軸径が5〜40nmであって平均長軸径が30〜200nmであり、BET比表面積が85〜230m
2/gである酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を出発原料として用いる
本発明2〜
4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造法である(本発明
6)。
【0023】
また、本発明は、本発明
5又は
6記載の強磁性粒子粉末の製造法において、還元処理及び窒化処理の合計時間が36時間以内であることを特徴とする強磁性粒子粉末の製造法である(本発明
7)。
【0024】
また、本発明は、本発明1〜
4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末からなる異方性磁石である(本発明
8)。
【0025】
また、本発明は、本発明1〜
4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末を含有するボンド磁石である(本発明
9)。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、大きなBH
maxを有するので、磁性材料として好適である。
【0027】
また、本発明に係る強磁性粒子粉末の製造法は、大きなBH
maxを有するFe
16N
2粒子粉末を容易に得ることができるので、強磁性粒子粉末の製造法として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、Fe
16N
2単相からなる。他の結晶相が存在する場合には、磁気特性が十分とは言い難い。
【0029】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、最大エネルギー積BH
maxが5MGOe以上である。BH
maxが5MGOe未満では、硬磁性材料として磁気特性が十分とは言い難い。好ましくはBH
maxが6.0MGOe以上、更により好ましくは6.5MGOe以上である。
【0030】
本発明に係る強磁性粒子粉末は飽和磁化値σ
sが130emu/g以上であって、保磁力H
cが1800Oe以上である。飽和磁化値σ
s及び保磁力H
cが前記範囲未満の場合、硬磁性材料として磁気特性が十分とは言い難い。好ましくは飽和磁化値σ
sが135emu/g以上、保磁力H
cが2000Oe以上、更により好ましくは保磁力H
cが2200Oe以上である。
【0031】
本発明に係る強磁性粒子粉末の一次粒子径は、平均短軸径が5〜40nm、平均長軸径が5〜250nmであることが好ましい。。本発明では、平均短軸径及び平均長軸径が前記範囲外の単相のFe
16N
2を得ることが困難となる。好ましくは、平均短軸径が7〜38nm、平均長軸径が7〜220nm、より好ましくは平均短軸径が8〜35nm、平均長軸径が8〜200nmである。
【0032】
本発明に係る強磁性粒子粉末の比表面積は80〜250m
2/gであることが好ましい。80m
2/g未満では、窒化が進みにくく、単相Fe
16N
2粉末を得ることが困難となる。250m
2/gを超える場合は、窒化が過剰に起きるため単相Fe
16N
2粉末を得ることが困難となる。より好ましい比表面積は82〜245m
2/g、更により好ましくは85〜240m
2/gである。
【0033】
本発明において、Si化合物及び/又はAl化合物を被覆する場合には、その存在量は強磁性粒子粉末に対しSi換算又はAl換算で20000ppm以下が好ましい。Si化合物及び/又はAl化合物を被覆することによって、熱処理(還元処理、窒化処理)の温度を低減することができ、局所的に過剰に窒化が進行することを抑制することができる。Si化合物及び/又はAl化合物の被覆量が20000ppmを超える場合には、非磁性成分が増加することとなるため好ましくない。より好ましくは1000〜15000ppm、更により好ましくは1500〜13000ppmである。
【0034】
次に、本発明に係る強磁性粒子粉末の製造法について述べる。
【0035】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、必要により、鉄化合物粒子粉末の粒子表面をSi化合物及び/又はAl化合物で被覆した後、還元処理を行い、次いで、窒化処理を行って得ることができる。
【0036】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄の粒子形状には特に限定はないが、針状、粒状、紡錘状、板状、球状、立方体状、直方体状などいずれでもよい。
【0037】
出発原料である鉄化合物粒子粉末としては、酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を用いることができ、特に限定されないが、マグネタイト、γ−Fe
2O
3、α−Fe
2O
3、α−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOHなどが挙げられる。また、出発原料は単相でも不純物を含んでいてもよく、不純物としては主相以外の酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を含んでいてもよい。
【0038】
出発原料である鉄化合物粒子粉末の一次粒子径は、平均短軸径が5〜40nm、平均長軸径が5〜200nmである。平均短軸径が5nm未満及び/又は平均長軸径が5nm未満では、窒化が過剰に起きるため単相のFe
16N
2が得られない。短軸径が40nmを超える及び/又は長軸径が200nmを超える場合、窒化が進みにくく、単相のFe
16N
2が得られない。好ましくは平均短軸径が7〜38nm、平均長軸径が7〜190nm、より好ましくは平均短軸径が8〜35nm、平均長軸径が8〜185nmである。
【0039】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄の比表面積は、85〜230m
2/gである。85m
2/g未満では、窒化が進みにくく、単相Fe
16N
2粉末は得られない。230m
2/gを超える場合は、窒化が過剰に起きるため単相Fe
16N
2粉末は得られない。好ましい比表面積は90〜220m
2/g、より好ましくは95〜210m
2/gである。
【0040】
出発原料である鉄化合物粒子粉末中には、Al、Mn、Siなどの不純物元素が含有されないものが好ましい。鉄化合物粒子粉末中に異種元素が多量に存在する場合、硬磁性材料として好適な磁気特性を有する強磁性材料が得られない。前記不純物の含有量は3wt%未満であることがより好ましい。
【0041】
本発明においては、必要により、鉄化合物粒子粉末の粒子表面をSi化合物及び/又はAl化合物を被覆してもよい。
【0042】
Si化合物及び/又はAl化合物による被覆は、鉄化合物粒子粉末を分散して得られる水懸濁液のpHを調整した後、Si化合物及び/又はAl化合物を添加して混合攪拌することにより、又は、必要により、混合攪拌後にpH値を調整することにより、前記鉄化合物粒子粉末の粒子表面をSi化合物及び/又はAl化合物で被覆し、次いで、濾別、水洗、乾燥、粉砕する。
【0043】
Si素化合物としては、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ等が使用できる。
【0044】
Al化合物としては、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩や、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸アルカリ塩及びアルミナゾル等が使用できる。
【0045】
Si化合物及び/又はAl化合物の添加量は、鉄化合物粒子粉末に対しSi換算又はAl換算で1000〜20000ppmが好ましい。1000ppm未満の場合には熱処理時に粒子間の焼結を抑制する効果が十分とは言い難い。20000ppmを超える場合には、非磁性成分が増加することとなり好ましくない。
【0046】
本発明おける出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄は、少なくともアルミナやシリカによって被覆されていることが好ましい。ゲータイトから窒化処理前の原料である鉄金属を得るための熱処理によって粒子同士の焼結を抑制するためにゲータイト粒子表面を被覆する。表面被覆量は特に限定されないが、Si若しくはAl金属元素換算で、1000〜20000ppmが好ましく、より好ましい表面被覆量は1500〜15000ppm、更により好ましくは1500〜13000ppmである。
【0047】
Si化合物及び/又はAl化合物によって被覆された酸化鉄又はオキシ水酸化鉄の比表面積は90〜250m
2/gが好ましい。90m
2/g未満では、窒化が進みにくく、単相Fe
16N
2粉末は得られない。250m
2/gを超える場合は、窒化が過剰に起きるため単相Fe
16N
2粉末は得られない。好ましくは、92〜240m
2/g、より好ましくは、95〜240m
2/gである。
【0048】
本発明においては、Si化合物、Al化合物とともに、YやLaなどの希土類化合物等を被覆させても良い。
【0049】
次に、鉄化合物粒子粉末又は粒子表面がSi化合物及び/又はAl化合物によって被覆された鉄化合物粒子粉末について、還元処理を行う。
【0050】
還元処理の温度は300〜600℃である。還元処理の温度が300℃未満の場合には鉄化合物粒子粉末が十分に金属鉄に還元されない。還元処理の温度が600℃を超える場合には鉄化合物粒子粉末は十分に還元されるが、粒子間の焼結も進行することになり、好ましくない。より好ましい還元温度は350〜500℃である。
【0051】
還元処理の雰囲気は、水素雰囲気が好ましい。
【0052】
還元処理を行った後、窒化処理を行う。
【0053】
窒化処理の温度は100〜200℃である。窒化処理の温度が100℃未満の場合には窒化処理が十分に進行しない。窒化処理の温度が200℃を超える場合には、γ‘−Fe
4Nやε−Fe
2〜3Nが生成するため、Fe
16N
2単相は得られない。より好ましい
窒化処理の温度は110〜180℃である。
【0054】
窒化処理の雰囲気は、N
2雰囲気が好ましく、N
2の他、NH
3、H
2などを混合させてもよい。
【0055】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、36時間以内の熱処理(還元処理及び窒化処理の合計時間)で得られる。工業的に単相のFe
16N
2粉末を生産するにはできる限りの短い時間で単相化させることで、時間当たりの収量が増えるものであり、工業的生産性に優れるものである。好ましくは33時間以内、より好ましくは30時間以内である。
【0056】
次に、本発明に係る異方性磁石について述べる。
【0057】
本発明に係る強磁性磁石の磁気特性は目的とする用途に応じて所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、最大エネルギー積)となるように調整すればよい。
【0058】
磁気的な配向をさせる方法は特に限定されない。例えばガラス転移温度以上温度においてEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合)樹脂に単相のFe
16N
2粉末を分散剤などとともに混練して成形し、ガラス転移温度を超えた付近の温度で所望の外部磁場をかけて、磁気的配向を促せばよい。または、ウレタン等の樹脂と有機溶剤と単相のFe
16N
2粉末をペイントシェーカーなどで強く混合・粉砕したインクをブレードやRoll−to−Roll法によって樹脂フィルムに塗布印刷し、素早く磁場中を通して、磁気的な配向をさせればよい。
【0059】
次に、本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物について述べる。
【0060】
本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物は、本発明に係る強磁性粒子粉末を結合剤樹脂中に分散してなるものであって、該強磁性粒子粉末を85〜99重量%含有し、残部が結合剤樹脂とその他添加剤とからなる。
【0061】
前記結合剤樹脂としては、成形法によって種々選択することができ、射出成形、押し出し成形及びカレンダー成形の場合には熱可塑性樹脂が使用でき、圧縮成形の場合には、熱硬化性樹脂が使用できる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン(PA)系、ポリプロピレン(PP)系、エチレンビニルアセテート(EVA)系、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系、液晶樹脂(LCP)系、エラストマー系、ゴム系等の樹脂が使用でき、前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系、フェノール系等の樹脂を使用することができる。
【0062】
なお、ボンド磁石用樹脂組成物を製造するに際して、成形を容易にしたり、磁気特性を十分に引き出すために、必要により、結合剤樹脂の他に可塑剤、滑剤、カップリング剤など周知の添加物を使用してもよい。また、フェライト磁石粉末などの多種の磁石粉末を混合することもできる。
【0063】
これらの添加物は、目的に応じて適切なものを選択すればよく、可塑剤としては、それぞれの使用樹脂に応じた市販品を使用することができ、その合計量は使用する結合剤樹脂に対して0.01〜5.0重量%程度が使用できる。
【0064】
前記滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度が使用できる。
【0065】
前記カップリング剤としては、使用樹脂とフィラーに応じた市販品が使用でき、使用する結合剤樹脂に対して0.01〜3.0重量%程度が使用できる。
【0066】
本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物は、強磁性粒子粉末を結合剤樹脂と混合、混練してボンド磁石用樹脂組成物を得る。
【0067】
前記混合は、ヘンシェルミキサー、V字ミキサー、ナウター等の混合機などで行うことができ、混練は一軸混練機、二軸混練機、臼型混練機、押し出し混練機などで行うことができる。
【0068】
次に、本発明に係るボンド磁石について述べる。
【0069】
ボンド磁石の磁気特性は目的とする用途に応じて所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、最大エネルギー積)となるように調整すればよい。
【0070】
本発明におけるボンド磁石は、前記ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、射出成形、押出成形、圧縮成形又はカレンダー成形等の周知の成形法で成形加工した後、常法に従って電磁石着磁やパルス着磁することにより、ボンド磁石とすることができる。
【0071】
<作用>
本発明に係る強磁性粒子粉末は、単相のFe
16N
2粉末であって他相の混在がないことから、大きなBH
maxが得られる。
【実施例】
【0072】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0073】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄や得られたFe
16N
2粒子粉末の比表面積値は、窒素によるB.E.T.法により測定した。
【0074】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄や得られたFe
16N
2の一次粒子サイズは透過型電子顕微鏡(日本電子(株)、JEM−1200EXII)を用いて測定した。粒子120個をランダマイズに選び粒子サイズを計測して平均値を求めた。
【0075】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄や得られたFe
16N
2粒子またはこれらの表面被覆を行った試料の組成分析は、加熱した試料を酸で溶解し、プラズマ発光分光分析装置(セイコー電子工業(株)、SPS4000)を用い分析して求めた。
【0076】
出発原料及び得られたFe
16N
2粒子粉末の構成相は、粉末X線回折装置(XRD、(株)リガク製、RINT−2500)による同定と、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)、JEM−1200EXII)を用いた電子線回折(ED)評価を行い決定した。ED評価は、XRDでは分からない、不純物相としてのα−FeやFe
4Nなどがそれらの格子定数の相違を利用してミクロに存在しているかどうかを決定することができる。
【0077】
得られたFe
16N
2粒子粉末の磁気特性は、物理特性測定システム(PPMS、日本カンタム・デザイン(株))を用いて室温(300K)にて、0〜7Tの磁場中で測定した。
【0078】
実施例1
<出発原料の調整>
短軸径17nm、長軸径110nm、比表面積123m
2/gのゲータイト粒子を塩化第二鉄、苛性ソーダ、炭酸ソーダを用いて作製した。これをヌッチェで濾別分離し、純水中3g/Lとなるようディスパーミキサーを用いてリパルプした。これを攪拌しながら、希硝酸を用いてスラリーのpHが6.5となるように保持し、5wt%−SiO
2とした水ガラス溶液を、SiO
2被覆ゲータイト粒子としてSiが5000ppmとなるよう、40℃にて2hかけて滴下した。再びヌッチェで濾別分離して、試料5gに対して純水150ml相当の純水でよく洗浄した。続いて、60℃の真空乾燥機で乾燥し、アトマイザー粉砕機と振動篩で10μm以下の凝集粒子のみを抽出した。得られた試料のSi含有量は4800ppmであった。
【0079】
<出発原料の還元処理及び窒化処理>
上記で得られた試料粉末50gをアルミナ製甲鉢(125mm×125mm×深さ30mm)に入れ、熱処理炉に静置させた。炉内を真空引きした後、アルゴンガスを充填し、再び真空引きする操作を3回繰り返した。その後、水素ガスを5L/minの流量で流しながら、5℃/minの昇温速度で400℃まで昇温し、4h保持して還元処理を行った。その後、140℃まで降温して水素ガスの供給を止めた。続いて、アンモニアガスを10L/minにて流しながら、140℃で20h窒化処理を行った。その後、アルゴンガスを流通させて室温まで降温し、アルゴンガス供給を止めて、空気置換を3hかけて行った。
【0080】
<得られた試料の分析・評価>
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe
16N
2単相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径22nm、長軸径98nm、比表面積132m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=147emu/g、保磁力H
c=2710Oe、BH
max=7.4MGOeであった。
【0081】
実施例2
実施例1と同様にして、短軸径15nm、長軸径30nm、比表面積197m
2/gのゲータイト粒子を塩化第二鉄、苛性ソーダ、炭酸ソーダを用いて得た。これをヌッチェで濾別分離し、純水中5g/Lとなるようディスパーミキサーを用いてリパルプした。これを攪拌しながら、pHを希硝酸で7.0保持となるようにして、5wt%−SiO
2とした水ガラス溶液を、SiO
2被覆ゲータイト粒子としてSiが10000ppmとなるよう、40℃にて5hかけて滴下した。再びヌッチェで濾別分離して、試料5gに対して純水200ml相当の純水でよく洗浄した。続いて、55℃の真空乾燥機で乾燥し、アトマイザー粉砕機と振動篩で10μm以下の凝集粒子のみを抽出した。得られた試料のSi含有量は9800ppmであった。
【0082】
次に、実施例1同様に還元処理と窒化処理を行った。ただし、窒化処理時のガスは、アンモニアガスと窒素ガスと水素ガスの混合比が7:2.8:0.2の混合ガスとして、全量で8L/minを流しながら、140℃で17h窒化処理を行った。
【0083】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe
16N
2単相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径19nm、長軸径28nm、比表面積201m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=159emu/g、保磁力H
c=2658Oe、BH
max=7.0MGOeであった。
【0084】
実施例3
実施例2同様にして試料を得た。ただし、ゲータイト粒子表面をまずイットリアをY換算で700ppmを被覆し、さらにその上にアルミナをAl換算で3000ppmとなるように表面被覆した。還元処理は実施例1同様に行った。また、窒化処理はアンモニアガス5L/min気流中142℃にて15h行った。得られた試料のY,Al含有量はそれぞれ689ppm、2950ppmであった。
【0085】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe
16N
2単相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径18nm、長軸径30nm、比表面積205m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=151emu/g、保磁力H
c=2688Oe、BH
max=7.1MGOeであった。
【0086】
実施例4
硝酸第一鉄と硝酸第二鉄のFe比率が0.97:2となるように秤量し溶解した溶液と苛性ソーダを用いて長軸、短軸ともに13nm、比表面積156m
2/gのマグネタイトを得た。実施例1同様にしてSi換算4000ppmのシリカコートを行い、分析の結果、Si含有量は3780ppmであった。このマグネタイトには、不純物として、ごく微量のα−Fe
2O
3が含まれていることがXRDより分かった。これを実施例1同様にして洗浄・乾燥・粉砕・篩の作業をして、実施例2と同様に還元処理及び窒化処理を行った。
【0087】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe
16N
2単相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径、長軸径ともに14nm、比表面積173m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=145emu/g、保磁力H
c=2258Oe、BH
max=6.3MGOeであった。
【0088】
実施例5
実施例1と同様にして、短軸径17nm、長軸径110nm、比表面積123m
2/gのゲータイト粒子を得た。これを空気中で300℃にて1h熱処理することでヘマタイト粒子粉末とした。続けて、得られたヘマタイト粒子粉末を水素100%気流中で295℃にて4hの還元処理を行った。100℃まで水素を流通させながら炉冷した。流通ガスをアンモニアガス100%に切換え、4L/minにてガスを流した。150℃まで5℃/minの昇温速度で昇温し、150℃にて10h窒化処理を行った。
【0089】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe
16N
2単相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径32nm、長軸径53nm、比表面積86m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=166emu/g、保磁力H
c=1940Oe、BH
max=9.1MGOeであった。
【0090】
比較例1
実施例1と同様にして得られたシリカ被覆ゲータイト粒子を、実施例1と同様にして還元処理した。窒化処理時のガスは、アンモニアガスと窒素ガスと水素ガスの混合比が7:0.3:2.7の混合ガスとして、全量で8L/minを流しながら、160℃にて24h窒化処理を行った。
【0091】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe
16N
2、Fe
3N、Fe
4Nの混相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径23nm、長軸径98nm、比表面積131m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=115emu/g、保磁力H
c=1380Oe、BH
max=3.8MGOeであった。
【0092】
比較例2
実施例1と同様にして得られたシリカ被覆ゲータイト粒子を650℃にて20h還元し、アンモニアガス4L/min気流中で160℃にて12h窒化処理を行った。
【0093】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりα−Fe、Fe
16N
2、Fe
3N、Fe
4Nの混相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径34nm、長軸径85nm、比表面積105m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=136emu/g、保磁力H
c=1235Oe、BH
max=3.4MGOeであった。
【0094】
比較例3
塩化第二鉄と苛性ソーダを用いて短軸径24nm、長軸径240nm、比表面積88m
2/gのゲータイトを得た。次いで、実施例1と同様にしてSi換算4000ppmのシリカ被覆を行い、分析の結果、Si含有量は3530ppmであった。これを実施例1同様にして洗浄・乾燥・粉砕・篩の作業をして、比較例1同様に還元及び窒化処理を行った。
【0095】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりα−Fe、Fe
16N
2、Fe
3N、Fe
4Nの混相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径30nm、長軸径207nm、比表面積99m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=108emu/g、保磁力H
c=1745Oe、BH
max=2.9MGOeであった。
【0096】
比較例4
塩化第二鉄と苛性ソーダを用いて短軸径35nm、長軸径157nm、比表面積78m
2/gのゲータイトを得た。次いで、実施例1と同様にしてSi換算9000ppmのシリカ被覆を行い、分析の結果、Si含有量は8600ppmであった。これを実施例1同様にして洗浄・乾燥・粉砕・篩の作業をし、次いで、実施例1と同様に還元及び窒化処理を行った。
【0097】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりα−Fe、Fe
16N
2、Fe
3N、Fe
4Nの混相であった。また、一次粒子サイズは、短軸径43nm、長軸径126nm、比表面積97m
2/gであった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ
s=106emu/g、保磁力H
c=1368Oe、BH
max=2.1MGOeであった。