【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を、トイレットペーパーの加工及びティシュペーパーの加工についてそれぞれ説明する。
1.トイレットペーパーの加工
[クレープ紙]
NBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ)80〔重量%〕、LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ)20〔重量%〕の配合からなるパルプ原料をカナダ標準濾水度600〜610〔ml〕に叩解し、常法により抄紙機のヤンキードライヤー上でドライクレープをつけ、クレープ紙を抄紙した。得られたクレープ紙は、坪量16〔g/m
2〕、水中伸度25〔%〕であった。
このクレープ紙を用いて、以下に述べる加工を順次行った。
【0039】
[水または水を含む処理液の含浸、エンボス加工、プレス加工及びログ加工]
クレープ紙の巻き取り親ロール2組をリワインダーにセットし、
図1に示した湿潤化手段10において、2枚のクレープ紙Pa,Pbに、
図4に示す処理液をローター式スプレー装置を用いてそれぞれ含浸させた。なお、
図4の「処理液配合」における数値は、クレープ紙Pa,Pbに対する各処理液の含浸率〔重量%〕である。
次に、湿潤状態のクレープ紙Pa,Pbに1枚ずつ同時にエンボス加工を施す処理を行った。エンボス加工には、
図1に示した如く、エンボス加工手段20内の鋼製エンボスロール21a,21bとラバー製受けロール22a,22bとを用い、
図4に示すエンボスニップ圧をかけて行った。
次いで、クレープ紙Pa,Pbを
図1の乾燥手段30に通して熱風乾燥を行った後、エンボスの凸面を内側に向けてクレープ紙Pa,Pbを重ね合わせ、2枚1組とした。
次に、乾燥後のクレープ紙1組をプレス加工手段40に導入し、プレスロール41a,41bとして平滑なショア硬度90〔°〕の一対の鋼製カレンダーロールを用いて
図4に示すニップ圧で圧縮し、その後、トイレットペーパー状のログに巻き取った。
【0040】
ここで、エンボス加工手段20におけるエンボスロール21a,21bのエンボス形状は、直径0.5〔mm〕の円形であり、高さは1〔mm〕、ポイント数は45〔個/cm
2〕である。また、乾燥手段30における乾燥温度は80〔℃〕である。
なお、一連の加工速度は、100〔m/分〕である。
【0041】
[トイレットペーパー製品]
ログをスリッターによって114〔mm〕の長さに切断し、トイレットペーパー製品を得た。
こうして得られた製品を温度23〔℃〕、相対湿度50〔%〕の環境で調湿し、各特性値を測定した。その結果を
図5に示す。
【0042】
図4及び
図5における実施例1〜4は、水のみを含浸して湿潤状態でエンボス加工し、乾燥したエンボス加工紙にカレンダーロールによりニップ圧を変えてプレス加工したものである。なお、これらの実施例1〜4及び後述する実施例6〜11において、カレンダーロール同士は、紙を挟まない状態では接触している。
実施例5は、水のみを含浸して湿潤状態でエンボス加工し、乾燥したエンボス加工紙にカレンダーロールによりプレス加工した。ただし、カレンダーロールは、紙を挟まない状態で予めロール間に隙間を設けた。
実施例6,7は、水に柔軟成分として流動パラフィンを界面活性剤(ポリオキシエチレン(12EO)ステアリルエーテル)により乳化してなる処理液を含浸して湿潤状態にした。その後、実施例1〜4と同様にエンボス加工を行い、カレンダーロールによりニップ圧を変えてプレス加工した。
実施例8,9は、水に保湿成分としてグリセリンを溶解した処理液を含浸して湿潤状態にした。その後、実施例1〜4と同様にエンボス加工し、カレンダーロールによりニップ圧を変えてプレス加工した。
実施例10,11は、水に柔軟成分として流動パラフィンを界面活性剤(ポリオキシエチレン(12EO)ステアリルエーテル)により乳化し、更に、保湿成分としてグリセリンを加えた処理液を含浸して湿潤状態にした。その後、実施例1〜4と同様にエンボス加工し、カレンダーロールによりニップ圧を変えてプレス加工した。
【0043】
また、
図4及び
図5における比較例1は、水のみを含浸して湿潤状態でエンボス加工し、乾燥したエンボス加工紙である。乾燥後のプレス加工は行っていない。
比較例2は、比較例1と同様に処理した。ただし、エンボスニップ圧を3〔Kgf/cm〕とした。
比較例3は、水を含浸せずに乾燥状態でエンボス加工を行った。乾燥後のプレス加工は行っていない。
比較例4,5は、水を含浸せずに乾燥状態でエンボス加工を行った。その後、カレンダーロールによりニップ圧を変えてプレス加工した。
比較例6は、水を含浸せずに乾燥状態でエンボス加工を行った。その後、カレンダーロールによりプレス加工した。ただし、この比較例6のみ、カレンダーロールは紙を挟まない状態でロール間に隙間を設けた。
比較例7は、エンボス加工及びプレス加工を行わない無処理のクレープ紙である。
【0044】
2.ティシュペーパーの加工
[クレープ紙]
NBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ)50〔重量%〕、LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ)50〔重量%〕の配合からなるパルプ原料を、カナダ標準濾水度540〜580〔ml〕に叩解した。パルプスラリーに湿潤紙力増強剤である「湿潤紙力剤 WS4024」(星光PMC社製)を固形分として対パルプ当たり0.2〔重量%〕添加し、常法により抄紙機のヤンキードライヤー上でドライクレープをつけ、クレープ紙を抄紙した。
得られたクレープ紙は、坪量13.5〔g/m
2〕、水中伸度22〔%〕であった。
【0045】
[水または水を含む処理液の含浸、エンボス加工、プライ、及びプレス加工]
クレープ紙の巻き取り親ロール2組をリワインダーにセットし、
図1の湿潤化手段10において、2枚のクレープ紙Pa,Pbに、
図6に示す処理液を、ローター式スプレー装置を用いて含浸させた。なお、
図6の「処理液配合」における数値は、クレープ紙Pa,Pbに対する各処理液の含浸率〔重量%〕である。
次に、湿潤状態のクレープ紙Pa,Pbに1枚ずつ同時にエンボス加工を施す処理を行った。エンボス加工には、
図1に示した如く、エンボス加工手段20内の鋼製エンボスロール21a,21bとラバー製受けロール22a,22bとを用い、
図6に示すエンボスニップ圧をかけて行った。
次いで、クレープ紙Pa,Pbを
図1の乾燥手段30に通して熱風乾燥を行った後、エンボスの凸面を内側に向けてクレープ紙Pa,Pbを重ね、2枚1組とした。
次に、乾燥後のクレープ紙1組をプレス加工手段40に導入し、プレスロール41a,41bとして平滑なショア硬度90〔°〕の一対の鋼製カレンダーロールを用いて
図6に示すニップ圧で圧縮し、その後、リールに巻き取った。
【0046】
エンボス加工手段20におけるエンボスロール21a,21bのエンボス形状は、トイレットペーパーの場合と同様に、直径0.5〔mm〕の円形であり、高さは1〔mm〕、ポイント数は45〔個/cm
2〕である。また、乾燥手段30における乾燥温度は80〔℃〕である。更に、一連の加工速度は、100〔m/分〕である。
【0047】
[ティシュペーパー製品]
リールに巻き取った紙をインターホルダーにセットし、組み合わせ、断裁を経てティシュペーパー製品を得た。
こうして得られた製品を温度23〔℃〕、相対湿度50〔%〕の環境で調湿し、形状及び特性値を測定した。その結果を
図7に示す。
図6及び
図7における実施例12〜22、比較例8〜14の処理液配合、カレンダーロールニップ圧、カレンダーロール隙間は、
図4及び
図5に示したトイレットペーパーにおける実施例1〜11、比較例1〜7にそれぞれ準じている。
【0048】
3.トイレットペーパーの加工(エンボスロールによるプレス加工)
実施例1と同じクレープ紙を用い、同様に処理液の含浸、エンボス加工、プレス加工、ログ加工を行ってトイレットペーパー製品を得た。
ただし、ここでは、プレスロールとして、平滑な鋼製カレンダーロールに代えてエンボスロールを用い、クレープ紙を1枚の状態でプレスしてその後に凸面を内側にして2枚のクレープ紙を重ね合わせた。
図8は実施例23〜26における処理液成分、プレス加工用エンボスニップ圧を示す図であり、
図9は実施例23〜26の特性値を示す図である。ここで、実施例23,24,25,26の処理液の配合は、それぞれ実施例3,6,8,10に準じている。
プレス加工用のエンボスロールとしては、硬質の鋼製エンボスロールと平滑なラバー製受けロールとを組み合わせて使用した。エンボスロールのエンボス形状は一辺が0.7〔mm〕の正方形であり、その高さは1〔mm〕、ポイント数は30〔個/cm
2〕である。
【0049】
4.試験方法について
次に、加工前のクレープ紙の水中伸度、及び、
図5,
図7,
図9の各特性値を測定するための試験方法について説明する。
[水中伸度]
クレープ紙を水中に浸漬するとクレープが伸びるため、クレープ紙を水中に浸漬したときに紙が縦方向に伸びる割合を〔%〕で表す水中伸度により、クレープの程度を測定することができる。
水中伸度の測定手順は、以下のとおりである。
(1)浸漬容器に水を入れる。
(2)試料1枚を紙の縦方向に100〔mm〕、横方向に25〔mm〕切り取る。
(3)試料を浸漬容器に浸漬する。
(4)60秒経過後、紙の縦方向の長さを測定する。
水中伸度〔%〕は、以下の式により求める。
水中伸度〔%〕=(L2−L1)/L1×100
L1:浸漬前の試料の縦方向長さ
L2:浸漬後の試料の縦方向長さ
【0050】
[摩擦試験]
摩擦感試験機器として、摩擦感テスター(KES−SE4)(カトーテック社製)を用いた。
凸面が内側になるように重ね合わされた試料(2枚1組)の表面を摩擦子によってなぞり、摩擦特性として、摩擦係数(MIU)及び摩擦係数の変動量(MMD)を求める。測定は、試料を替えて10回行い、その平均値を求めた。なお、摩擦子の荷重は50〔g〕、摩擦子の移動速度は1〔mm/sec〕である。
MIUは数値が小さいほどすべりやすく、MMDは数値が小さいほど滑らかであることを示す。
【0051】
[紙の厚さ]
紙の厚さは、圧縮試験機(KES−FB3)(カトーテック社製)を用いて測定した。試料は、2枚を凸面が内側になるように重ね合わせたもの(2枚1組)を用いた。
測定条件は、標準高感度測定、加圧板2〔cm
2〕、圧縮スピード0.0067〔mm/s〕で、測定荷重0.5〔gf/cm
2〕における高さを求めた。測定は試料を替えて10回行いその平均値を求めた。
【0052】
[柔らかさ]
「JAPAN TAPPI No.34 紙−柔らかさ試験方法」に規定される試験方法に準じ、以下の条件で測定した。
試料は、2枚を凸面が内側になるように重ね合わせたもの(2枚1組)を用いた。この試料を試験機のスリット間に押し込み、そのときの抵抗力(mN/100mm)を測定した。
測定は試料を替えて試料の縦方向と横方向とについてそれぞれ10回行い、そのすべての平均値を求めた。数値が小さいほど、抵抗が少なく柔らかいと判断される。
なお、試験機にはハンドルオメーター(熊谷理機工業製)を用いた。また、試料の寸法は10×10〔cm〕であり、上記スリット幅は6.35〔mm〕である。
【0053】
[密度]
以下の計算により、2枚重ねの試料の密度を求めた。
密度〔g/cm
3〕=坪量〔g/m
2〕×2/〔紙の厚さ〔mm〕×1000〕
【0054】
官能試験については、製品化した各試料をモニター10名が手で触り、以下の項目を評価した。
[滑らかさ]
試料の表面を手の指でなぞって感じる滑らかさを、以下の基準により評価した。
大変滑らかである:4点
滑らかである:3点
やや滑らかである:2点
滑らかでない:1点
モニター10名による評価点を集計した合計点について、以下のようにランク付けした。
36〜40点:◎
26〜35点:○
16〜25点:△
10〜15点:×
【0055】
以下の評価項目についても、同様の方法によりランク付けした。
[ふんわり感]
空気を含んだような柔らかい厚み感をふんわり感と定義し、以下の基準により評価した。
大変ふんわりしている:4点
ふんわりしている:3点
ややふんわりしている:2点
ふんわりしていない:1点
【0056】
次に、トイレットペーパー及びティシュペーパーについて、それぞれ特性値を評価する。
1.トイレットペーパー(
図4,
図5)
(1)摩擦係数(MIU):すべりやすさ
すべての実施例1〜11は、プレス工程のない比較例1と比べてすべりやすい。
実施例1〜4は、プレスのニップ圧(カレンダーロールニップ圧)を上げるに従ってMIUの数値が減少しており、表面のすべりやすさが向上している。また、カレンダーロール間に隙間を設けた場合についても、実施例5は比較例6と比べてすべりやすくなっている。これは、本発明ではエンボスが潰れにくいため、カレンダーロールの平滑面が転写しやすいためと思われる。
処理液に柔軟成分を配合した実施例6,7は、同じプレス圧の実施例1,3と比べてすべりやすくなっている。これは、柔軟成分による潤滑作用によるものと思われる。
処理剤に保湿成分を配合した実施例8,9は、柔軟成分を配合した実施例6,7よりすべりにくい。これは、保湿成分によりパルプ繊維が膨潤してすべりにくくなっているものと思われる。
実施例10,11は、処理液に柔軟成分と保湿成分とを含み、処理液に柔軟成分のみを配合した実施例6,7と同程度のすべりやすさである。
比較例1〜3はプレス工程が無いためすべりにくく、特に比較例1はエンボスが鮮明であるため、最も滑りにくい。また、比較例2は実施例1〜4と同程度の密度と厚さを持っているが、すべりにくい。
【0057】
(2)摩擦特性の変動量(MMD):滑らかさ
すべての実施例1〜11は、プレス工程のない比較例1と比べて滑らかである。
実施例1〜4は、プレスのニップ圧を上げることでMMDの数値が減少し、表面の滑らかさが向上している。また、カレンダーロール間に隙間を設けた場合についても、実施例5は比較例6と比べて滑らかになっている。
処理液に柔軟成分を配合した実施例6,7は、実施例1,3より滑らかである。これは、柔軟成分による効果と思われる。
処理液に保湿成分を配合した実施例8,9は、実施例6,7より更に滑らかである。すなわち、保湿成分は滑らかさにおいて効果が高い。
実施例10,11は、柔軟成分及び保湿成分の相乗効果により最も滑らかである。
比較例1〜3はプレス工程がないため滑らかでなく、特に比較例1はエンボスが鮮明であるため、最も滑らかでない。また、比較例2は実施例1〜4と同程度の密度と厚さを持つが、滑らかではない。
【0058】
(3)柔らかさ
すべての実施例1〜11は、プレス工程のない比較例1と比べて柔らかい。
実施例1〜4はプレス圧を上げるほど柔らかさが向上している。柔らかの試験では表面がすべりやすく、かつ曲げやすいほど柔らかく評価される。表面のすべりやすさと曲げやすさが、柔らかさを向上させたものと思われる。
処理液に柔軟成分を配合した実施例6,7は、実施例1、3より柔らかい。これは、柔軟成分によってすべりやすさと曲げやすさが更に向上したことによるものと思われる。
処理液に保湿成分を配合した実施例8は実施例6より柔らかく、同様に実施例9は実施例7より柔らかい。これは、保湿成分による水分の増加によってパルプが可塑化しているためと思われる。
実施例10,11は、柔軟成分及び保湿成分の相乗効果により最も柔らかくなっている。
【0059】
(4)密度
実施例1〜4はプレス圧を上げることで少しずつ密度が高くなるが、比較例1との差は少なく、初期密度の維持性が高い。
処理液に柔軟成分を配合した実施例6,7は、実施例1,3より密度が低い。これは、柔軟成分によって紙の圧縮が抑制されたためと思われる。
比較例1は最も密度が低い。これは、エンボスの形状がそのまま残っているためである。
比較例4,5は比較例3との差が大きく、無処理の比較例7と同程度まで密度が高くなっている。これは、比較例4,5が乾式エンボスをプレス加工しているため、エンボスの凹凸がほとんど消失しているためである。同様に比較例6も、エンボスの消失の程度が大きい。
【0060】
(5)滑らかさ
実施例1〜4は、プレス圧を上げることで滑らかさが向上する。
処理液に柔軟成分を配合した実施例7は、実施例3より滑らかである。これは、柔軟成分による効果と思われる。
処理液に保湿成分を配合した実施例8,9は、いずれも非常に滑らかである。つまり、保湿成分は滑らかさにおいて効果が高い。
比較例1〜3は、エンボスのざらつきが感じられるため、滑らかではない。
【0061】
(6)ふんわり感
処理液に柔軟成分を配合した実施例6,7は、ふんわり感の評価が高い。これは、柔軟成分によって紙の圧縮が抑制されたためと思われる。
実施例10,11は、柔軟成分及び保湿成分の相乗効果によってふんわり感が高く、かつ滑らかである。
【0062】
2.ティシュペーパー(
図6,
図7)
各特性値とも、トイレットペーパーとほぼ同様の傾向を示している。
3.トイレットペーパー(エンボスロールによるプレス加工:
図8,
図9)
実施例23〜26は、平滑な硬質のプレスロールを用いた同じ処理液の実施例3,6,8,10と比べて密度が低く、滑らかさには劣るが、ふんわり感に優れている。
【0063】
総じて、本発明の加工方法を用いればクレープ紙の平滑性が向上すると共に低密度性も保つことができ、滑らかで、ふんわりとした特性を同時に有する紙製品を得ることができる。
また、湿潤工程における処理液に柔軟成分を配合すると、更にふんわり感が向上し、保湿成分を配合すると更に滑らかさが向上する。そして、処理液に柔軟成分及び保湿成分を同時に配合することで、一層優れた特性を有することが可能となる。また、プレス加工におけるニップ圧を変えることで嵩高さの微調整も可能であり、トイレットペーパー等のロール製品の巻き長さと外径の調整、ティシュペーパー等のボックス製品では箱入り枚数の調整が容易になる。