特許第5769276号(P5769276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ワコールの特許一覧 ▶ 株式会社キューアサの特許一覧

<>
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000002
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000003
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000004
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000005
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000006
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000007
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000008
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000009
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000010
  • 特許5769276-編地およびそれを用いた衣類 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769276
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】編地およびそれを用いた衣類
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20150806BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20150806BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20150806BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   D04B1/00 A
   D04B21/00 A
   A41D13/00
   A41D31/00 D
   A41D31/00 501E
   A41D31/00 502D
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-506897(P2013-506897)
(86)(22)【出願日】2011年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2011057623
(87)【国際公開番号】WO2012131873
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(73)【特許権者】
【識別番号】513222935
【氏名又は名称】株式会社キューアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 勝
(72)【発明者】
【氏名】外山 敦
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−138403(JP,A)
【文献】 特開2009−052173(JP,A)
【文献】 特開2010−070876(JP,A)
【文献】 特開平11−001853(JP,A)
【文献】 特開2006−316359(JP,A)
【文献】 特開2004−323986(JP,A)
【文献】 特開2007−113125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00− 1/28
D04B21/00−21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の編地領域と第2の編地領域とを有する編地であって、
前記第1の編地領域と前記第2の編地領域とは、同一の編組織の伸度を段階的に調整されており、且つ異なる伸度であり、
さらに、緩衝領域を有しており、
前記緩衝領域は、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域の少なくとも一方に、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域に接して設けられ、
前記緩衝領域の伸度は、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域のいずれか一方に近づくにしたがって、近づく側に位置する前記第1の編地領域または前記第2の編地領域との伸度の差が小さくなるように設定されており、
前記第1の編地領域と前記第2の編地領域とは、前記編地のコース方向と±0〜15°の範囲の角度をなしている境界線を有していないことを特徴とする編地。
【請求項2】
記境界線が、前記編地のコース方向と±0〜10°の範囲の角度をなしている境界線であることを特徴とする、請求項1記載の編地。
【請求項3】
前記緩衝領域が、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域の双方に跨って設けられていることを特徴とする、請求項1又は2記載の編地。
【請求項4】
前記緩衝領域が、複数形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の編地。
【請求項5】
前記緩衝領域が、前記第1の編地領域側と前記第2の編地領域側とに交互に形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の編地。
【請求項6】
前記緩衝領域が、階段状に設けられていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の編地。
【請求項7】
前記緩衝領域の周形状が、湾曲形状であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の編地。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の編地を、一部に含むことを特徴とする編地。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の編地を含むことを特徴とする衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地およびそれを用いた衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
編地においては、その用途に応じて、伸度の異なる部分を連続して形成したものがある。近年、着用することでバストやウエスト、ヒップ回り等の造形性を高めてスタイルを美しくしたり、姿勢を整えたりする衣類(補整衣類)が提案されている。これらの衣類は、部分的に伸度が強くなるように設計し、製造される。部分的に伸度を変える方法としては、例えば、伸度を強くしたい部分において、緊縛力が強い帯状片を身頃の上に積層固定する、または、身頃と同じ生地で緊縛力を異ならせることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。これらの衣類では、同じ生地であっても、緊縛力を変えるために編組織を変えるなどの手段を用いる場合が多いため、伸度の異なる部分の境界(切替ライン)が段差となりやすく、また、外観上目立つものとなっていた。また、前記伸度の異なる部分の境界線部分では、伸度の高い側の編地が伸度の低い側の編地に引っ張られやすく、伸度の高い側の編地が部分的に破損してしまうことがあり、耐久性の点で十分ではないという問題がある。このため、従来においては、前記境界線部分に沿うように、緩衝領域が形成されることもある。しかし、境界線部分に沿うように緩衝領域を形成した場合でも、伸度の低い側の編地に伸度の高い側の編地が引っ張られて、境界線に沿って編地に段差(かぶり)が形成されてしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−320640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような衣類では、編地に伸度切替部分があることが外観上わかるものであった。すなわち、他人から見て、補整衣類を着用していることが即座にわかってしまうため、着用者においては、補整衣類であることをわかり難くしたいというニーズが存在している。一方で、最近では、従来はインナーとして着用されていた種類の衣類が、アウターとしても着用される場合が多くある。そのため、インナーについても「見せる」ことができるようなファッション性が要求されることがある。しかし、前述の伸度の切替ラインが目立つような場合、消費者からはファッション性に劣るという印象を持たれがちであった。
【0005】
本発明は、上記切替ラインに沿って形成される段差を低減することができる編地、および、これを用いた衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の編地は、第1の編地領域と第2の編地領域とを有する編地であって、
前記第1の編地領域と前記第2の編地領域とは、異なる伸度であり、
さらに、緩衝領域を有しており、
前記緩衝領域は、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域の少なくとも一方に、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域に接して設けられ、
前記緩衝領域の伸度は、前記第1の編地領域および前記第2の編地領域のいずれか一方に近づくにしたがって、近づく側に位置する前記第1の編地領域または前記第2の編地領域との伸度の差が小さくなるように設定されており、
前記第1の編地領域と前記第2の編地領域とは、編地のコース方向と略平行である境界線を有していないことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、前記第1の編地領域と前記第2の編地領域との境界付近において、コース方向に対する傾きが小さい部分(略平行部分)では、前記緩衝領域が形成される。したがって、前記第1の編地領域と前記第2の編地領域とは、前記略平行部分では隣接せず、前記2編地領域間の境界線が形成されない。このため、編地の境界部分において形成される段差を小さくすることができ、段差を目立ち難くしている。なお、第1の編地、第2の編地、緩衝領域は、同種類の編組織によって形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、部分的に伸度を変化させているにもかかわらず、伸度の異なる部分間における切替ラインが目立たない編地を提供することができる。本発明の編地を適用することで、スタイルを美しくしたり、姿勢を整えたりする等の効果を有しつつ、さらに、ファッション性にも優れた衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の編地を用いた衣類の一例である、第1の実施形態に係るキャミソールの斜視図である。
図2図2は、本発明における第1の実施形態に係るキャミソールの、伸度の異なる編地の境界BL1周辺の緩衝領域の構成の一例を示す模式図である。
図3図3は、図2における緩衝領域10B周辺の緩衝領域の構成を示す模式図である。
図4図4(A)、(B)および(C)は、実施形態1における緩衝領域の構成の変形例A1、A2およびA3を示す模式図である。
図5図5(A)および(B)は、実施形態1における緩衝領域の構成の他の変形例Bを示す模式図である。
図6図6(A)、(B)および(C)は、実施形態2の編地における第1の編地と第2の編地との間の境界部分周辺の構成を示す模式図である。
図7図7(A)、(B)および(C)は、実施形態3の編地における緩衝領域の構成を示す模式図である。
図8図8は、実施形態4の編地における緩衝領域の構成を示す模式図である。
図9図9(A)および(B)は、実施形態5の編地における緩衝領域の構成を示す模式図である。
図10図10は、実施形態6の編地における緩衝領域の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
近年、編地の伸びを部分的に変更することによって着用者の体を締め付ける、いわゆる緊締力を作用させて、所望の補整機能を発揮する体型補整機能を有する衣類が提案されている。このような体型補整機能を実現する1つの方法として、部分的に編地が伸び難くなるようにすることで行っていた。しかし、部分的に編地が伸び難くなるように伸度を低くした場合には、伸度の低い部分と低くない部分との境界において、伸度の高い側の編組織が伸度の低い側の編組織に引っ張られて段差が形成されてしまうという問題があった。
【0011】
そこで、発明者らは、上記段差を軽減する方法について検討を重ね、上記境界のうち、編地のコース方向に対する傾きが小さい部分(略平行となる部分)の方が、傾きの大きい部分よりも大きな段差が形成され易いことを発見し、この点に着目した。そして、コース方向に対する傾きが小さい部分周辺に緩衝領域を設けることにより、段差の形成が抑制されて編地のかぶりが低減されるとの知見を得た。この結果、編地における伸度の切替ラインでの境界が目立ち難くなり、補整機能を備えた衣類の場合であっても、外観上、露呈し難くすることができるとの知見を得るに至った。
【0012】
なお、本発明において、「略平行である境界線」とは、前記境界線の前記コース方向に対してなす角度が、±0〜15°の範囲である境界線であることが好ましく、より好ましくは±0〜10°の範囲である。
【0013】
以下、本発明の編地について、例をあげて説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。
【0014】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の編地を用いた衣類の実施形態の一例を示す。図1は、体型補整効果のあるキャミソール100である。本実施形態のキャミソール100は、同一の編組織の伸度を高、中、低の3段階に調整することによって、所定の体型補整効果が得られるように形成されている。なお、図中のL1の矢印は編地のコース方向を、L2の矢印は編地のウェール方向を表わす。
【0015】
同図において、伸度低の部分が補整領域(第1の編地領域)101、伸度中の部分が補整領域(第2の編地領域)102Aおよび102Bである。補整領域101は、伸度が最も低くなるように設定されており、アンダーバスト部分を覆うように胴回りに設けられている。これにより、アンダーバスト部分が締め付けられるため、バストアップ効果を得ることができる。
【0016】
補整領域102Aおよび102Bは、伸度が中位になるように設定されており、補整領域101の上下にそれぞれ設けられている。補整領域102Aは、バスト下部を覆うように設けられている。このため、バストアップ効果を高めることができる。補整領域102Bは、腹部を覆うように形成されている。これにより、腹部周りを締め付けて腹部の出っ張りを目立ち難くすることができる。
【0017】
ここで、符号BL1は、補整領域101と補整領域102Aとの間の境界線を示している。符号P、Q、Rは、境界BL1上における前中心点、アンダーバストの最下点、アンダーバストと前中心との間の点をそれぞれ示している。
【0018】
図2は、境界BL1周辺の緩衝領域の構成を模式的に示す図である。なお、図2では、アンダーバストと前中心との間の点R周辺の緩衝領域の構成については図示を省略している。図2に示すように、境界BL1は左右のバストの下部の湾曲に沿うようにW字状に湾曲している。ここで、境界BL1は、前中心点P周辺の湾曲部の曲率よりもアンダーバストの最下点Q周辺の湾曲部の曲率の方が大きくなるように形成されている。緩衝領域10Aは、境界BL1が補整領域102A側に突き出すように湾曲している前中心部分において、コース方向L1に対する傾きが小さくなる部分(底部)に弧状に形成されている。緩衝領域10Bは、境界BL1が補整領域101側に突き出すように湾曲している部分において、境界BL1のコース方向L1に対する傾きが小さくなる部分(底部)に弧状に形成されている。なお、本実施形態では、緩衝領域10A、10Bを設ける例を挙げているが、例えば、デザイン上の要請から緩衝領域10Bだけ設けて、緩衝領域10Aは設けないものとしても良い。このように、編地100において、段差が形成され易い部分の一部にだけ本発明の緩衝領域を設けるといったことも考えられる。
【0019】
図3は、アンダーバストと前中心との間の前記点R周辺の領域R’と、アンダーバストの前記最下点Q周辺の領域Q’における緩衝領域の構成を示す模式図である。緩衝領域10Bは、境界BL1が補整領域101側に突き出すように湾曲している部分において、境界BL1のコース方向L1に対する傾きが小さくなる部分(底部)に弧状に形成されている。緩衝領域10Cは、アンダーバストと前中心との間の点R周辺の、境界BL1のコース方向L1に対する傾きが比較的小さい領域に設けられている。このように、なだらかな傾斜が続く部分においても、段差が生じることがあるので、緩衝領域10Cを設けることにより、大きな段差が形成されないようにしている。なお、同図に示すように、緩衝領域10Cは、補整領域101と補整領域102Aの双方に跨って設けられていてもよい。このように、境界BL1に跨るように緩衝領域を設けることで、コース方向に対して境界部分が平行に形成されないようにしている。これにより、境界部分の段差を、より目立たないようにすることができる。本実施形態では、緩衝領域10Bが弧状に形成される例を挙げて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0020】
前記緩衝領域は、その伸度が、前記第1の編地領域との境界部分および前記第2の編地領域のいずれか一方に近づくにしたがって、近づく側に位置する前記第1の編地領域または前記第2の編地領域との伸度の差が小さくなるように設定されている。前記緩衝領域の伸度は、前記第1の編地領域の伸度と前記第2の編地領域の伸度との、間の値の単一の伸度としてもよい。前記緩衝領域は、具体的には、例えば、補整領域101の度目から補整領域102Aの度目に徐々に変化させるように、度目調整を行うことによって形成することができる。緩衝領域10Aは、ウェール方向L2において、境界(切替ライン)BL1から伸度が低い補整領域101側に向かう方向に形成されている。緩衝領域10Aでは、切替ラインBL1に向かい、伸度が徐々に高くなるように度目が調整されている。緩衝領域10Bは、ウェール方向L2において、境界(切替ライン)BL1から伸度が高い補整領域102A側に向かう方向に形成されている。緩衝領域10Bでは、切替ラインBL1から、伸度が徐々に高くなるように度目が調整されている。各緩衝領域のコース方向L1は、度目が同じ大きさになるように編組織を編成するとよい。このように、伸度の異なる編地間の、伸度の差分を均すように伸度を段階的に切り替えた緩衝領域を設けることによって、伸度の切替ラインを目立ちにくくすることができる。本実施形態のキャミソールは、例えば、丸編機等を用いて緯編で容易に編み立てることができるが、これに限定されず、ラッセル編、ダブルラッセル編等の経編でも製造することができる。
【0021】
本実施形態において、補整領域(第1の編地領域)101と補整領域(第2の編地領域)102Aとは、編地のコース方向と略平行である境界線を有していない。補整領域101と補整領域102Aとが、直接接している境界線は、図2における点R付近のように、編地のコース方向とは略平行ではない部分のみである。その他の部分(略平行部分)では、補整領域101と補整領域102Aとの間に、緩衝領域10Aおよび10Bが設けられることで、境界部分における段差を目立たないようにすることができる。
【0022】
本実施形態のキャミソール100は、バスト部分の伸度が高く編成されているため、着用時にバストをつぶすことがなく、バストの造形性を良好に保つことができる。また、アンダーバスト部分では伸度を低くしているため、バージスラインが曖昧になることを防止できる。そして、ウエストライン付近では、中程度の伸度とすることで、締め付けすぎずに良好なスタイルを維持することができる。また、切替ラインに緩衝領域を設けることにより、外観上は段差を目立ちにくくできるとともに、着用時に押さえる力も段階的に強弱をつけることができるため、部分的な締め付けに起因する切替部の跡が肌に残るといった問題も解消する。なお、本例では伸度を3段階としているが、2段階であってもよいし、さらに多段階としてもよい。このように、本実施形態によると、スタイルの矯正効果を有しつつ、外観上は、多段階の伸度の変化があることがわかり難い衣類を得ることができる。したがって、矯正下着の着用に外観上の抵抗感はあるものの、矯正下着の効果の付与された衣類は着てみたいと考えている消費者も、本実施形態のキャミソールであれば、抵抗なく着用することができる。なお、本実施形態において、前記本発明の編地は、全体に使用してもよいし、部分的に使用してもよい。例えば、段差を目立ち難くしたい部分の編地については前記本発明の編地によって形成しつつ、デザイン上のアクセントとして段差を残しておきたい部分の編地については前記本発明の編地によって形成しないといったことが考えられる。
【0023】
(変形例A1)
図4(A)に、実施形態1の変形例A1を示す。実施形態1において、境界BL1は、前中心周辺で上方に湾曲しているが、例えば、図4(A)に示すように、前中心周辺で上方に湾曲しない形状の境界BL1’とすることもできる。この場合、緩衝領域10Dとしては、台形に近似した形状とすることもできる。なお、符号Q1、Q2は、境界BL1上における左右のバストそれぞれのアンダーバストの最下点の位置を示している。
【0024】
なお、符号T1は、緩衝領域10Dの上辺を示しているが、緩衝領域10Dの上辺は、破線で示す上辺T2のように緩やかに補整領域102A側に湾曲するように、編地のコース方向L1に対して非平行となるようにしても良い。このように湾曲させることにより、上辺T1よりもコース方向L1に対して平行になる部分を減らすことができるため、上辺T2と補整領域102Aとの間の段差をさらに低減することもできる。さらに、図中の上辺T3のように、上辺を補整領域101側に湾曲させてもよい。また、緩衝領域の上辺を湾曲させる代わりに下辺T4を補整領域102A側、または、101側へ湾曲させることもことによっても同様の効果を得ることができる。
【0025】
このように、緩衝領域の幅の長さ(コース方向の長さ)を長く設定する場合には、上辺T1または下辺T4を湾曲させることにより、上辺T1、下辺T4周辺における段差を低減することができる。
【0026】
(変形例A2)
図4(B)に、実施形態1の変形例A2を示す。変形例A2では、底辺部分に四角形状の緩衝領域10Eを設け、その両端側に境界BL1を設ける代わりに、緩衝領域10Fをそれぞれ設けている。この場合にも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0027】
(変形例A3)
図4(C)に、実施形態1の変形例A3を示す。変形例A3では、変形例A2で示した緩衝領域10Eの下辺の一部を下側に湾曲させて緩衝領域10Gを形成する例を示している。その他の構成は、変形例A2と同様である。
【0028】
(変形例B)
図5に、実施形態1の他の変形例を示す。実施形態1において、境界BL1は湾曲した波形状であるが、図5(A)に示すように台形状に形成したり、図5(B)に示すように矩形状に形成することもできる。この場合、緩衝領域10Aおよび10Bは、境界BL1の形状や仕様に応じて、好適な形状とすることができる。
【0029】
(実施形態2)
図6に、本発明の編地における第1の編地領域と第2の編地領域との間の境界部分周辺の構成の一例の模式図を示す。図6は、互いに伸度が異なっている第1の編地領域210と第2の編地領域220との境界BL2(切替ライン、図中の二点鎖線)が、コース方向と平行である編地200を示す。同図においては、切替ラインBL2の上側の第1の編地領域210の伸度が高く(度目:大)、切替ラインBL2の下側の第2の編地領域220の伸度が低い(度目:小)編地を表わしている。図6(A)においては、切替ラインBL2において、緩衝領域が、連続して複数形成されている。編地200のウェール方向に波形状に湾曲するように第2の編地領域220側に突出する緩衝領域20Aおよび第1の編地領域210側に突出する緩衝領域20Bが互い違いに交互に形成されている。本実施形態においては、第1の編地領域210側および第2の編地領域220側に、複数の緩衝領域を交互に設けることで、コース方向に対して境界部分が平行に形成されないようにしている。これにより、境界部分の段差を、より目立たないようにすることができる。
【0030】
緩衝領域20Aおよび緩衝領域20Bは、第1の編地領域210との境界部分および第2の編地領域220との境界部分に近づくにしたがって、第1の編地領域210および第2の編地領域220との伸度の差が小さくなるよう、例えば、度目に徐々に変化させる度目調整を行うことによって形成する。緩衝領域20Aは、ウェール方向L2において、切替ラインBL2から伸度が低い第2の編地領域220側に向かう方向に形成されている。緩衝領域20Aでは、切替ラインBL2に向かい、伸度が徐々に高くなるように度目が調整されている。緩衝領域20Bは、ウェールL2方向において、切替ラインBL2から伸度が高い第1の編地領域210側に向かう方向に形成されている。緩衝領域20Bでは、切替ラインBL2から、伸度が徐々に高くなるように度目が調整されている。各緩衝領域のコース方向は、例えば、度目が同じ大きさになるように編組織が編成されている。このように緩衝領域を設けることによって、伸度の切替ラインを目立ちにくくすることができる。
【0031】
前記緩衝領域の形状は、図6(A)に例示したような波形状であってもよいし、例えば、図6(B)に示すような台形状、図6(C)に示すような矩形状であってもよい。緩衝領域の形状は鋭角状(例えば、三角形状)にならないように形成することが、切替ラインを目立たせないという観点からは好ましい。波形状、台形状および矩形状の緩衝領域を併用することもできる。また、前記緩衝領域は前記のように交互に形成しなくてもよく、例えば、緩衝領域20Aのみまたは緩衝領域20Bのみであってもよい。切替ラインの長さによっては、緩衝領域を単独で設けてもよい。緩衝領域の形状や大きさを組合わせることで、複雑な切替ラインを有する編地においても、本発明の前記効果を得ることができる。
【0032】
前記緩衝領域においては、3〜16段階程度で度目を調整して伸度を変化させことが好ましい。本実施形態の前記緩衝領域において、例えば、1段階を0.05mmとして10段階程度の細かい度目調整を行って、低伸度から高伸度に切り替えると、切替ラインが外観上目立たず好ましい。前記緩衝領域が台形状または矩形状の場合、台形の上底および矩形の幅は、ウェール数が30〜50程度あればよく、例えば、40ウェールとすることができる。
【0033】
(実施形態3)
図7は、本実施形態の編地における緩衝領域の構成を説明する図である。ここでは、図2に示す緩衝領域10Bについての変形例として説明するが、以下の変形例は緩衝領域10Bの変形に限られるものではなく、他の緩衝領域においても適用可能である。
【0034】
湾曲の曲率が大きい境界BL3を有している場合、図7(A)に示すような台形状の緩衝領域30Aを、第1の編地領域310側に形成する。このように、湾曲部の底辺近傍の一部を含むように緩衝領域を形成してもよい。
【0035】
また、台形状の緩衝領域30Aを第1の編地領域310側と第2の編地領域320側に、互い違いに設けることによっても同様に境界線上の編地のかぶりを低減することができる。なお、図7(B)では、第1の編地領域310側と第2の編地領域320側とにそれぞれ1つずつ緩衝領域30Aを形成する例を挙げているが、例えば、図7(C)に示すように、第1の編地領域310側に1つ、第2の編地領域320側に2つ、緩衝領域30Aを設けるようにしてもよい。
【0036】
(実施形態4)
図8は、本実施形態の緩衝領域の構成を説明する図である。ここでは、図3に示す緩衝領域10Cについての変形例として説明するが、以下の変形例は緩衝領域10Cの変形に限られるものではなく、他の緩衝領域においても適用可能である。
【0037】
図8に示すように境界BL4が直線状に傾斜する距離が長い場合には、緩衝領域においてコース方向に略平行に形成される部分の距離が長くなることで、緩衝領域の略平行となる部分での伸度の切替部分が見えやすくなる場合がある。このような場合、緩衝領域を多段階で階段状に形成するようにしても良い。第1の編地領域と第2の編地領域との境界部分が、コース方向に傾斜する部分に対しては、階段状の緩衝領域40Cを形成することで段差を低減することができる。図8に示す緩衝領域は、例えば、図1に示すキャミソール100の前身頃において、符号Qから符号Rの周辺領域に好適に適用することができる。符号Q周辺の領域Q’には、緩衝領域10Bが設けられ、符号R周辺の領域R’には、緩衝領域40Cを設けることができる。なだらかな傾斜が長く続く箇所においては、段差が生じることがあるので、このような階段状の緩衝領域40Cを設けることが、段差低減の点で好ましい。
【0038】
(実施形態5)
図9は、本実施形態の緩衝領域の構成を説明する図である。境界が湾曲してU字状に形成されているのではなく、図9(A)に示すように、境界BL5がコース方向に対する傾きを連続的に変化させるように形成されている場合には、他の部分よりもコース方向に対する傾きが小さい部分に本発明の緩衝領域を配置することが効果的である。図9(B)に示すように、このような部分には、階段状の緩衝領域50Cを設けることが好ましい。
【0039】
(実施形態6)
図10は、本実施形態の緩衝領域の構成を説明する図であり、編地400は、キャミソール等を編成するための編地の一部を示すものである。編地400は、補整領域(第1の編地領域)410、補整領域(第2の編地領域)420、残反領域430、440から編成されている。補整領域410は、バスト下部から下側の前身頃本体を覆う部分である。補整領域420は、バスト下部から首周りに至る領域を覆う部分である。編地400は、左右の残反領域440を裁断することによってアームホールが形成される。中央の残反領域430を裁断することによって、頭部を挿通するための開口が形成される。ここで、補整領域410は、他の3つの領域、残反領域430、補整領域420、残反領域440よりも伸度が低くなるように形成されている。残反領域430は、補整領域410よりも伸度が低くなるように形成されている。補整領域420は、残反領域430よりも伸度が低くなるように形成されており、残反領域440は、補整領域420と同程度の伸度に設定されている。緩衝領域450及び緩衝領域Sは、補整領域420と補整領域410との間と、残反領域440と補整領域410との間にそれぞれ形成されている。これにより、伸度差の大きい境界部分における段差を低減している。同図において、符号Q1およびQ2は、左右のバストのそれぞれのバージスラインの最下点の位置を示している。
【0040】
本実施形態では、前中心側のアンダーバスト領域付近では、図4(B)に示した緩衝領域と類似の構成となっている。また、編地領域の境界線がコース方向に対して略平行ではない部分では、緩衝領域を設けずに、編地領域同士が接して設けられている。なお、緩衝領域Sのように、外観上の境界線は傾斜しているが、傾斜している部分も、曲線ではなく、階段状に編成することで曲線に見せる場合がある。その階段の部分で、平行になる部分が生じるとき、その部分について緩衝領域を設けることで、段差を目立ちにくくすることができる。なお、前記アンダーバスト領域付近のみに緩衝領域を設けると、この領域付近では編地の段差(かぶり)は抑えられるが、その近接する領域で、段差が目立ちやすくなる場合がある。このような場合に、領域Sにおける緩衝領域のように、他の緩衝領域から離れて階段状の緩衝領域を設けることが有効である。
【0041】
また、図10における左右両端側の部分は、脇から背中側にかけての部分を示す。脇から背中側にかけての部分は、編地の境界線の傾斜にあわせて、緩衝領域が階段状に設けられている。このように編地を構成することによって、例えば図1に示したキャミソール100を得ることができる。
【0042】
以上、実施の形態の具体例として、キャミソールおよびキャミソールを構成する編地をあげて本発明を説明したが、本発明の編地を用いた衣類は、これらの具体例で記載されたもののみに限定されるものではなく、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のようなキャミソール以外のボディスーツ、ガードル等のファンデーション衣類にも適用することができる。また、ブラキャミソール、セパレートタイプの水着のトップ部、レオタード、その他のボトム衣類、その他各種の衣類に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の編地を用いた衣類は、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のようなファンデーション衣類以外にも、スポーツ衣類、アウターなど、各種の衣類に適用できる。また、本発明の編地は、衣類に限られず、伸度を変化させることが求められる用途全般に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
100 キャミソール(衣類)
101、410 補整領域(第1の編地領域)
102A、102B、420 補整領域(第2の編地領域)
200、400 編地
210、310 第1の編地領域
220、320 第2の編地領域
430、440 残反領域
10A、10B、10C、10D、10E、10F、10G、20A、20B、30A、40C、50C、450、S 緩衝領域
L1 コース方向
L2 ウェール方向
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図1