【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、文部科学省、イノベーションシステム整備事業、大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)、「気体の超精密制御技術を基盤とした低侵襲手術支援ロボットシステムの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スライド手段は、前記第2移動支持アームに取り付けられるベースに着脱自在に固定された固定部と、この固定部に設置されたスライダと、このスライダに沿って移動する長尺状のスライドレールと、このスライドレールに設けられ前記第1移動支持アームを取り付けるアーム取付機構を有する取付部と、を備え、
前記弾性部材は、前記固定部及び取付部にわたって設けられる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の手術用ロボットアーム。
【背景技術】
【0002】
従来、手術用ロボットアームに使用される鉗子や内視鏡等の手術器具は、ポートと呼ばれる冶具を患者に取り付け、そのポートの不動点を起点として使用される。そのため、手術器具が体内で小さな負荷で操作できるように、ポートの不動点と手術器具の作用点とが一致した状態に設定されている。例えば、立体内視鏡操作システムとして、非特許文献1に記載されているような構成が知られている。
この立体内視鏡システムは、内視鏡等の手術器具を保持する保持部と、この保持部を所定位置に支持するクランク機構を有する支持アームと、この支持アームを上下方向の所定位置に配置させる空気圧シリンダ等の駆動機構と、前記支持アームの支持端部を中心に回転させる回転機構とを備えている。
そして、この立体内視鏡システムは、施術する患者のポートの位置に合わせて手術器具を位置調整して固定されることで使用されている。
【0003】
しかし、前記した立体内視鏡操作システムは、一旦設置された位置での手術器具の操作が前提となっているので、例えば、患者の呼吸等によりポートの不動点と手術器具の作用点の位置が変化した場合、手術器具の操作精度が悪くなり、患者のポート周辺に対して余計な負担をかけてしまう。また、立体内視鏡操作システムでは、ポートの不動点と手術器具の作用点との位置に誤差が発生した場合に、その誤差を迅速に修正する対応ができないという問題が発生した。
【0004】
そこで、従来、ポートの不動点と手術器具の作用点の位置が施術中に変化しても対応して調整できる手術用ロボットアームが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この手術ロボットアームは、手術器具が装着されたロボットアームに作用する外力を算出し、切開孔の中心点が設定されると、ロボットアームに作用する外力をフィルタリングし、切開孔の中心点から外れた手術器具が切開孔の中心点に復帰するようにする仮想力を算出し、算出された仮想力をフィルタリングされた外力に追加して、ロボットアームの動きを制御するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記した手術用ロボットアームでは、手術器具に係る外力の力を測定する測定機構及びその測定機構で測定した外力を吸収するように手術器具を支持しているロボットアームのモータ等を制御する制御機構が必要となり、構成が複雑になってしまった。また、従来の手術用ロボットは、例えば、患者の呼吸等による患部の移動が発生することで、手術器具の作用点と切開孔の中心点とがずれた場合、常に外力を測定して制御する必要があり、演算速度と制御機構とが高性能なものとなり、経済的な負担が大きかった。さらに、従来の手術用ロボットでは、手術器具の外力を測定する測定装置が必要であるため、停電等の不足の事態が発生すると初期状態から設定が必要になってしまった。
【0008】
本発明は、前記した問題点に鑑みてなされたものであって、構成が簡単で従来と比較して経済的な負担が小さく、また、モータ等の駆動源がなくてもポートの不動点と手術器具の作用点の修正ができる手術用ロボットアーム及びその不動点誤差修正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明に係る手術用ロボットアーム及びその不動点誤差の修正方法では、以下に示す構成とした。
すなわち、手術用ロボットアームは、手術器具が装着される手術用ロボットアームであって、前記手術器具を支持して水平方向に移動させる第1移動支持アームと、この第1移動支持アームを支持して上下方向に移動させる昇降機構と、この昇降機構を支持して水平方向に移動させる第2移動支持アームと、を備え、前記第1移動支持アーム及び前記第2移動支持アームのいずれか一方は、前記手術器具にかかる外力により従動するように、水平方向に移動自在となる回動軸を有する水平多関節アームであり、前記昇降機構は、前記第1移動支持アームを支持し上下に案内してスライドさせるスライド手段と、このスライド手段に設けられスライド方向に沿って前記第1移動支持アームを上方に付勢する弾性部材と、を有し、前記弾性部材は前記手術器具が装着された第1移動支持アーム及び前記手術器具にかかる外力を支持するバネ定数に設定し
、前記弾性部材は、定荷重ばねと引張ばねとで構成され、前記荷重を前記引張ばねよりも前記定荷重ばねのほうが大きくなるように設定して、前記定荷重ばねと前記引張ばねとを並列に設置した構成とした。
【0010】
かかる構成により、手術用ロボットアームは、弾性部材により第1移動支持アーム及び手術器具が上方に付勢された状態で、患者に取り付けたポートの不動点と、手術器具の作用点が一致するように初めに設定される。そして、手術用ロボットアームは、手術を行うときに、例えば患者の呼吸等により、前記した不動点と作用点がずれるように手術器具に外力がかかることがある。手術用ロボットアームは、手術器具に外力がかかると、昇降機構の弾性部材がその外力に対応する荷重に従動して手術器具を降下あるいは上昇させることと、さらに、水平多関節アームが水平方向に従動する。手術用ロボットアームは、昇降機構及び水平多関節アームが手術器具にかかる外力により従動することで、ポートに設定された手術器具の姿勢を維持し、ポートの不動点と手術器具の作用点とを常に一致させるように誤差修正している。なお、手術用ロボットアームでは、水平多関節アームと、4自由度(手術器具を不動点周りにロール、ピッチ、ヨー、ズーム(長手方向))以上に移動させることができる移動支持アームの構成となる。
また、かかる構成により、手術用ロボットアームは、第1移動支持アーム及び手術器具の荷重の多くの割合を定荷重ばねで支持し、残りの荷重及び手術器具にかかる外力に対応する荷重を引張ばねで支持するようになり、ポートの不動点と手術器具の作用点の誤差修正をスムーズに行うことができる。
【0012】
さらに、手術用ロボットアームにおいて、前記定荷重ばねは、中央に配置され、前記引張ばねは、前記定荷重ばねの左右に配置さる第1引張ばね及び第2引張ばねを有する構成としてもよい。
かかる構成により、手術用ロボットアームは、定荷重ばねと第1引張ばね及び第2引張ばねの構成のバランスがよく、ポートの不動点と手術器具の作用点の誤差修正をよりスムーズに行うことができる。
【0013】
そして、手術用ロボットアームにおいて、前記定荷重ばねは、前記手術器具を装着した第1移動支持アームの荷重の5割から10割の荷重分担範囲で支持するバネ定数に設定し、
前記第1引張ばね及び前記第2引張ばねは、前記定荷重ばねの残りの荷重を支持するバネ定数、又は、前記荷重ばねの荷重分担が10割のときに予め設定される前記外力により付加される荷重を支持するバネ定数を等分して設定した構成としても構わない。
かかる構成により、手術用ロボットアームは、定荷重ばねの荷重分担の割合を第1引張ばね及び第2引張ばねの荷重分担の割合よりも大きくすることで、手術器具にかかる外力に対応する荷重を第1引張ばね及び第2引張ばねで吸収することができる。
【0014】
また、手術用ロボットアームにおいて、前記スライド手段は、前記第2移動支持アームに取り付けられるベースに着脱自在に固定された固定部と、この固定部に設置されたスライダと、このスライダに沿って移動する長尺状のスライドレールと、このスライドレールに設けられ前記第1移動支持アームを取り付けるアーム取付機構を有する取付部と、を備え、前記弾性部材は、前記固定部及び取付部にわたって設けられる構成としてもよい。
かかる構成により、手術用ロボットアームは、手術器具に外力が加わると、第2移動支持アームに固定された固定部に対して、弾性部材により上方に付勢され、かつ、スライダ及びスライドレールにより案内される取付部が、アーム取付機構に第1移動支持アームを取り付けた状態で、外力がかかる方向に従動することとなる。例えば、手術用ロボットアームの昇降機構では、手術器具に下方の外力が付加されれば、弾性部材が伸長して取付部が下方に従動する。また、手術用ロボットアームの昇降機構では、手術器具に上方の外力が付加されれば、弾性部材が収縮して取付部が上方に従動する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る手術用ロボットアーム及び手術用ロボットアームの不動点誤差修正方法によれば、以下に示すような優れた効果を奏する。
手術用ロボットアームは、昇降機構の弾性部材で手術器具にかかる上下方向の外力に従動し、第1移動支持アーム及び第2移動支持アームの少なくとも一方の多関節アームにより手術器具にかかる水平方向の外力に従動することで、ポートの不動点と手術器具の作用点とがずれないようにしているので、簡易な構成で不動点と作用点の誤差を常に一致させることができる。したがって、手術用ロボットアームは、不動点と作用点とをモータ等の駆動源を使用することなく常に整合させることになり、ポートの周辺に余計な負荷をかけることがなく、手術器具の操作精度が高く、かつ操作もしやすい。
【0016】
手術用ロボットアームは、定荷重ばねが引張りばねよりも荷重分担の割合を大きくして並列に設定しているため、手術器具の作用点とポートの不動点の誤差修正を調整しやすく、誤差修正のために昇降移動する第1移動支持アームが安定静止しやすい。
【0017】
手術用ロボットアームは、定荷重ばねの左右に第1引張ばね及び第2引張ばねを配置しているので、バランス良く手術器具の作用点とポートの不動点の誤差修正をよりスムーズに行うことができる。
そして、手術用ロボットアームは、分担する荷重を定荷重ばねと引張ばねで所定の割合にすることで、手術器具の作用点とポートの不動点との誤差を一致させる修正動作をスムーズに行うことができる。特に、手術用ロボットアームは、定荷重ばねで手術器具を装着している第1移動支持アームの全量を分担し、外力により手術器具にかかる変化量の荷重について引張ばねが分担することで、誤差修正を安定して最適に行うことができる。
【0018】
手術用ロボットアームは、昇降機構のスライド手段を、固定部、スライダ、スライドレール及び取付部とすることで、構成が簡易であっても、手術器具にかかる外力(荷重)により取付部が昇降するように従動して、手術器具の作用点とポートの不動点を一致させるように維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る手術用ロボットアーム及び不動点誤差修正方法について、図面を参照して説明する。なお、各図面において各構成の位置や大きさを誇張して示す場合がある。
図1に示すように、手術用ロボットアーム1は、鉗子や内視鏡等の手術器具OPを患者C(
図7(a)〜(c)参照)の手術する位置に機械的に保持した状態とするものである。この手術用ロボットアーム1は、手術器具OPを着脱自在に支持する第1移動支持アーム10と、この第1移動支持アーム10を上方に付勢し支持して昇降させる昇降機構30と、この昇降機構30を着脱自在に支持する第2移動支持アーム20と、を備えている。なお、手術用ロボットアームは、第2移動支持アーム20が、固定柱PL等(
図7(a)参照)の固定手段に設置され、水平多関節アームである構成として説明する。
【0021】
図1に示すように、手術器具OPは、患者C(
図7(a)〜(c)参照)に対して手術を行う場合に、必要な鉗子や内視鏡等の器具であり、特に限定されるものではない。ここで使用される手術器具OPは、予め第1移動支持アーム10で着脱自在に装着できるように形成されているものが使用されている。
【0022】
第1移動支持アーム10は、一例として、手術器具OPを着脱自在に支持して所定方向に空気圧を駆動源として移動する構成を備えている。この第1移動支持アーム10は、空気圧で駆動するエアシリンダ11と、このエアシリンダ11の駆動により動作するリンク機構12と、リンク機構12の基端側を支持する共に上下方向(昇降方向)にリンク機構12を移動させる上下機構13と、エアシリンダ11及びリンク機構12の先端側に設けられた手術器具OPを着脱自在に支持する器具着脱機構14とを備えている。なお、第1移動支持アーム10は、例えば、手術器具OPを4自由度(手術器具を不動点周りにロール、ピッチ、ヨー、ズーム(長手方向))で移動できるようにここでは構成されている。
【0023】
器具着脱機構14は、エアシリンダ11及びリンク機構12の先端を接続する接続柱体14aと、この接続柱体14aに対面した設けたシールド板14bと、このシールド板14bに設けた手術器具OPの保持部14cとを主に備えている。
この第1移動支持アーム10は、エアシリンダ11の伸縮でリンク機構12の伸縮駆動を行い、また、上下機構13の駆動でリンク機構12の上下位置を調整することで、保持部14cに保持する手術器具OPの位置を設定している。
この第1移動支持アーム10は、支持する手術器具OPを患者Cに取り付けたポートPの不動点D1(
図7(b)参照)に合うように設定することができる構成であれば、特に限定されるものではない。また、器具着脱機構14は、手術器具OPを支持して操作できる既存の構成であれ、限定されるものではない。
【0024】
図1及び
図2に示すように、昇降機構30は、第1移動支持アーム10を上方に付勢して昇降自在に支持するものである。昇降機構30は、第2移動支持アーム20と第1移動支持アーム10との間に接続されている。この昇降機構30は、スライド手段31と、このスライド手段31のスライド方向に沿ってスライド手段30に設置された弾性部材36とを備えている。
【0025】
スライド手段31は、第2移動支持アーム20に取り付けられるベースBを着脱自在に固定する固定部32と、この固定部32に設置されたスライダ33(
図3(c)参照)と、このスライダ33に沿って移動する長尺状のスライドレール34(
図3(c)参照)と、このスライドレール34に設けられた第1移動支持アーム10を取り付ける取付部35と、を備えている。なお、スライド手段31は、一側にスライダ33及びスライドレール34を配置し、他側に弾性部材36を配置している、また、弾性部材36は、固定部32及び取付部35にわたって設置されている。
【0026】
図2及び
図3に示すように、固定部32は、ベースBを挿通して固定するベース支持部32aと、このベース支持部32aに設けられ、弾性部材36の一端側を固定すると共に、スライダ33が設置される固定板部32bと、を備えている。
【0027】
ベース支持部32aは、弾性部材36が設けられる側とは反対側に突出してベースBの挿通穴を形成した挿通部322aと、この挿通部322aが接続されると共に、固定板部32bを支持する固定ブロック321aとを備えている。なお、挿通部322aは、ベースBが挿通されてベース長手方向の所定位置でネジ等の固定手段によりベースBを固定するように構成されている。また、挿通部322aは、固定ブロック321a側にフランジ323aを形成し、このフランジ323aのネジ穴にネジ等で固定ブロック321aに接続されるように構成されている。さらに、固定ブロック321aは、固定板部32bの上端側を、挿通部322aのフランジ323aと重ねてネジ等で固定して支持している。この固定ブロック321aは、直方体形状に形成され固定板部32bよりも厚みをもっている。そして、固定ブロック321aは、長手方向の中央で上下方向に貫通穴324aが形成され、後記するスライドレール34の他端側が挿通できるように構成されている。
【0028】
固定板部32bは、一側板面において、弾性部材36である定荷重ばね37(巻回したばね部37a、ブラケット37b)と、弾性部材36である第1引張ばね38a及び第2引張りばね38bの一端と、が取り付けられ、他側板面においてスライダ33が設けられている。なお、
図3(a)〜(c)に示すように、固定板部32bは、ここでは第1案内固定板321bと、この第1案内固定板321bに対向して所定間隔を空けて平行に設けた第2案内固定板322bとにより構成されている。そして、第1案内固定板321bは、その上端側を固定ブロック321aと挿通部322aのフランジ323aとの間に挟持された状態でネジ等により固定されている。また、第2案内固定板322bは、その一端側を固定ブロック321aの下面に当接させた状態で、第1案内固定板321bと対面させ、スライダ33を設置できる間隔を空けてネジ等で固定されている。
【0029】
図3(b)、(c)に示すように、スライダ33は、スライドレール34を挿通して上下に案内するものである。このスライダ33は、第2案内固定板322bの他側板面に固定され、第1案内固定板321bと第2案内固定板322bとの間に設けられている。スライダ33は、ここでは固定板部32bの中央に配置されている。
なお、定荷重ばね37のブラケット37bと、第1引張ばね及び第2引張ばねのそれぞれの一端とが、第2案内固定板322bの一側板面に取り付けられている。
【0030】
弾性部材36である定荷重ばね37は、コイル状に巻回したばね部37aと、このばね部37aを巻取りあるいは引出し自在に支持するブラケット37とを備えている。この定荷重ばね37は、ばね部37aの先端が引き出されて一定の荷重で巻取り方向(上方向)に付勢されるものである。この定荷重ばね37は、第1移動支持アーム10及び手術器具OPの荷重を支えるばね定数となるように構成されている。例えば、定荷重ばね37は、第1移動支持アーム10及び手術器具OPの荷重が98N(10Kgf)であれば、その98N(10Kgf)を定荷重として支えるバネ定数となるように構成されている。
【0031】
弾性部材36である第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bは、定荷重ばね37を中央としてその両側に並列して設置されている。この第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bは、手術器具OPにかかる外力による荷重を支持できるバネ定数に設定されている。例えば、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bは、手術器具OPにかかる外力が20N(19.6Kgf)であると設定した場合には、半分の10Nをそれぞれが支えることができる5〜20Nあるいは10〜30Nの範囲で有効なバネ定数のものが使用され、合計で20Nを有効に支持できるように設定される。この第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bは、例えば、コイルスプリングが使用され、その一端を固定板部32bに係合し、その他端を取付部35に係合している。
【0032】
なお、ここで使用される定荷重ばね37と、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bとの最良である条件は、(定荷重ばねの発揮力+(引張ばねのばね定数×ばねの伸び))が、(第1移動支持アームと手術器具の合計荷重)となっていることが好ましい。そして、定荷重ばね37と第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bとで、第1移動支持アーム10及び手術器具OPを支持したときに、スライダ33に対するスライドレール34の位置が移動方向における真ん中に位置するようになることが好ましい。つまり、弾性部材36が手術器具OP及び第1移動支持アーム10を上方に付勢して支持されたときに、スライドレール34が上下に均等な距離を移動できる状態に設定されていることが好ましい。
【0033】
図2及び
図3(a)〜(c)に示すように、取付部35は、固定部32から近接離間自在に設けられている。この取付部35は、板状に形成され、一側板面において、定荷重ばね37の先端側が固定され、かつ、第1引張ばね38a及び第2引張りばね38bの他端側が係合して固定部32に昇降可能に設けられている。また、取付部35は、他側板面においてスライドレール34の一端がネジ等で固定され、スライドレール34の他端側を上方に突出してスライドレール34がスライダ33に挿通できる状態で設けられている。なお、スライドレール34は、スライダ33から抜け落ちないように、その他端に図示しないストッパが形成されていることが好ましい。
【0034】
さらに、取付部35は、定荷重ばね37を固定した位置の下方に第1移動支持アーム10の基端側を着脱自在に支持するアーム取付機構40を備えている。この取付部35は、定荷重ばね37、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bの伸縮により、スライドレール34がスライダ33に案内されることで、そのスライダ33及びスライドレール34で特定される軌道上を上下方向(昇降方向)に移動する。
【0035】
図1に示すように、取付部35のアーム取付機構40は、既存の構成を採用すればよく、使用される第1移動支持アーム10に対応して形成されている。このアーム取付機構40は、ここでは、取付部35の板面に直交する棒状に形成されている。アーム取付機構40は、リンク機構12の基端側を支持して上下動自在に移動させる上下動機構13が取り付けられると共に、エアシリンダ11の基端側が接続冶具(図面上は省略)を介して接続されている。
【0036】
以上のように構成されている昇降機構30は、手術器具OPにかかる外力が昇降方向であったときには、その外力の荷重に従動して第1移動支持アーム10を昇降させて手術器具OPの作用点とポートPの不動点D1(
図7(d)参照)とがずれないようにしている。
例えば、手術器具OPが患者Cの呼吸により設定位置から下方向に移動した場合について昇降機構30は次のように動作する。
【0037】
つまり、
図4(a)、(b)に示すように、手術器具OPの下方の移動に伴って第1移動支持アーム10に下方に移動させる力がかかる。そのとき昇降機構30は、定荷重ばね37がその下方に移動せる力の分の荷重だけ、設定位置から下方に引き出され、併せて、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bが下方にかかる荷重に対応して伸長する。
そして、昇降機構30は、定荷重ばね37が引き出され、かつ、第1引張ばね38a,第2引張ばね38bが伸長するときに、スライダ33に挿通しているスライドレール34が案内されて、取付部35を固定部32から離間する方向に移動さることで、第1移動支持アーム10を降下させる。
【0038】
したがって、昇降機構30は、第1移動支持アーム10を手術器具OPにかかる外力に従動して降下させることで、手術器具OPを降下させて手術器具OPの姿勢を保ち、手術器具OPの作用点とポートPの不動点D1(
図7(d)参照)との位置がずれないように動作することになる。
このように、昇降機構30は、手術器具OPに外力として下方向に力がかかると、その下方向の力に従動して第1移動支持アーム10を移動させることで、手術器具OPの姿勢を保ち、手術器具OP作用点とポートPの不動点がずれることなく一致した状態を維持する。
【0039】
また、手術器具OPが患者Cの呼吸により設置位置から上方向に移動した場合、
図4(c)に示すように、昇降機構30は、定荷重ばね37がその移動しようとする力に対応する分だけ上方に巻き取られ、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bが上方にかかった力(荷重)に対応する分だけ収縮する。
そして、昇降機構30は、定荷重ばね37が巻き取られ、かつ、第1引張ばね38a,第2引張ばね38bが収縮するときに、スライダ33に挿通しているスライドレール34が案内されて、取付部35を固定部32に近接する方向に移動することで、第1移動支持アーム10を上昇させる。
【0040】
したがって、昇降機構30は、第1移動支持アーム10を外力に従動して上昇させることで、手術器具OPを上昇させて手術器具OPの姿勢を保持し、手術器具OPの作用点とポートPの不動点D1との位置がずれないように動作する。
このように、手術器具OPに外力として上方向に力がかかると、その上方向の力に従動して手術器具OPの姿勢を保ち、手術器具OP作用点S1とポートPの不動点D1(
図7(d)参照)がずれることなく一致した状態を維持する。
【0041】
つぎに、
図5に示すように、第2移動支持アーム20は、昇降機構30を支持して水平方向に移動することができるものである。この第2移動支持アーム20は、例えば、水平多関節アーム(スカラ型パッシブアーム)が使用され、外部からの力がかかると、そのかかった力(荷重)に従動して移動できるように水平方向に移動自在に構成されている。第2移動支持アーム20は、ベースBを挟持する挟持部21と、この挟持部21を回動自在に支持する先端支持部22と、この先端支持部22を垂直方向に所定角度に支持する第1関節アーム23と、この第1関節アーム23を、第1固定軸24aを介して支持する第2関節アーム24と、この第2関節アーム24を、第2回動軸25aを介して水平方向に回動自在に支持する第3関節アーム25とを備えている。なお、第3関節アーム25は、ここでは、
図7(a)に示す固定柱PL等の固定物に第3回動軸26aを介して取り付けられている。
【0042】
この第2移動支持アーム20は、モータ等の駆動源がない状態で、挟持部21、第2回動軸25a、第3回動軸26aが水平方向に自在に回動できる状態となっている。したがって、第2移動支持アーム20は、
図6(a)〜(c)に示すように、水平方向に従動することができる。なお、
図6では、第1固定軸24aから第3回動軸26aまでを模式的に示して水平方向の従動について説明する。
【0043】
設定位置として仮定する
図6(a)に示す位置から、手術器具OPにかかる外力の水平方向であるx方向の力であった場合、その水平方向の力に沿って第2関節アーム24及び第3関節アーム25が、第2回動軸25aから第3回動軸26aが回動することで従動して、手術器具OPの作用点の位置をポートPの不動点の位置からずらさないように動作する。つまり、第2移動支持アーム20は、水平方向に力がかかったときに、ベースBの水平方向おける位置を従動して移動させ、手術器具OPの作用点S1とポートPの不動点D1とが常に一致している状態を維持する。
【0044】
また、
図6(b)及び
図6(c)に示すように、手術器具OPにかかる外力の水平方向にかかる力がy方向であった場合、その水平方向の力に沿って第2関節アーム24及び第3関節アーム25が、第2回動軸25a及び第3回動軸26aが回動することで従動して、手術器具OPの作用点の位置をポートPの不動点の位置からずらさないように動作する。
以上のように第2移動支持アーム20は、ここでは、水平多関節アームとして作動して手術器具OPを水平方向に従動することができる。
【0045】
つぎに、手術用ロボットアーム1の動作を説明する。
手術用ロボットアーム1は、
図7(a)に示すように、はじめに、手術台の近くに設置された固定柱PLに取り付けられ準備される。そして、
図7(b)、(c)に示すように、手術用ロボットアーム1は、手術が開始され、患者Cに取り付けたポートPの位置に、手術器具OPが位置するように調整され、第1移動支持アーム10を操作して、手術器具OPの作用点S1とポートPの不動点D1(
図7(d)参照)とが一致するように設定される。
【0046】
そして、手術が進んでいくことに伴い、例えば、患者Cの呼吸等によりポートPの位置が移動することや、あるいは、手術器具OPの動作により、ポートPの不動点D1と手術器具OPの作用点S1との位置関係にずれが発生する原因が生じる場合がある。つまり、手術器具OPに外力がかかることで、ポートPの不動点D1と手術器具OPの作用点S1とのずれる原因が生じることになる。
【0047】
手術用ロボットアーム1は、手術器具OPに外力がかかった場合に、第2移動支持アーム20が水平方向の外力に対応して従動し、昇降機構30が上下方向(昇降方向)の外力に対応して従動し、手術器具OPの作用点S1とポートPの不動点D1とを一致した状態を、モータ等の駆動源がなくても保持することができる。
具体的には、すでに
図4(a)〜(c)及び
図6(a)〜(c)に示すように、水平方向および昇降方向において、手術器具OPにかかる力(荷重)により従動して、昇降機構30が手術器具OPを支持している第1移動支持アーム10を降下あるいは上昇させ、第2移動支持アームが水平方向に昇降機構30を移動させている。
【0048】
したがって、手術用ロボットアーム1は、昇降機構30及び第2移動支持アーム20が、モータ等の駆動機構を使用することなく、手術器具OPに受けた外力(荷重)に従動するので、手術中における手術器具OPにかかる外力に合わせて昇降方向および水平方向に第1移動支持アームを移動させ、手術器具OPの作用点S1とポートPの不動点D1とがずれないように確実に保持することができる。
そして、手術用ロボットアーム1では、予めポートPの不動点D1に整合するように設置された手術器具OPの作用点S1がずれることなく保持された状態で手術器具OPを施術者が操作することが可能となり、患者Cに対して最小侵襲性手術において患者の負担を小さくし、かつ、手術器具OPの扱いもし易くなるものである。
【0049】
なお、手術用ロボットアーム1は、以上のように説明したが、以下に示すような構成であっても構わない。
手術用ロボットアーム1は、弾性部材36として、定荷重ばね36と、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bとを用いて第1移動支持アーム10を従動的に昇降させる構成としたが、弾性部材38として、定荷重ばね36と、一つの引張ばねとで構成し、定荷重ばねの中心位置に設置高さ(板面からの距離)を変えて並列に設置する構成としても構わない。
【0050】
また、手術用ロボットアーム1は、弾性部材36として、引張ばねのみを使用する構成としても構わない。引張ばねのみを弾性部材36として使用する場合には、第1移動支持アーム10及び手術器具OPの荷重と、手術器具OPに外力としてかかる荷重を支持できる範囲のバネ定数(バネ剛性)を備えていればよい。なお、昇降機構30は、引張ばねのみの使用した場合に比較して、定荷重ばね37及び引張ばねの組み合わせにより使用されるほうが、より小さいばね定数の引張ばねを使用することができるので、小さい外力にも敏感に従動するように構成することが可能になる。
【0051】
また、手術用ロボットアーム1では、定荷重ばね37に第1移動支持アーム10及び手術器具OPの全荷重を支持させ、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bに手術器具OPにかかる外力の荷重を担うように設定する構成として説明したが、その割合を次のようにしても構わない。つまり、定荷重ばね37に第1移動支持アーム10及び手術器具OPの全荷重の5割から10割の範囲とし、引張ばね(1つまたは2つの場合)に残りの荷重を担うようにしてもよい。定荷重ばね37の荷重の分担の割合をおおきく、引張ばねで小さな荷重を分担させるほうが従動する調整がし易く、昇降動作が安定してより好ましい。
【0052】
また、第2移動支持アーム20を水平多関節アームとして説明したが、第1移動支持アーム10を水平多関節アームとし、第2移動支持アームに駆動源を備える構成としても構わない。
さらに、弾性部材36として定荷重ばねと引張ばねとの構成として説明したが、空気ばね等の他の構成であっても同等の動作をすることができるものであれば、限定されるものではない。
また、固定部32は、固定板部32を第1案内固定板321b及び第2案内固定板322bの2枚として説明したが、1枚の板材の表裏にスライダ33及び弾性部材36を設置する構成としても構わない。
【0053】
そして、第1引張ばね38a及び第2引張ばね38bは、ばね収納筒体に収納される構成としても構わない。そして、ばね収納筒体は、ばねの伸縮状態にあわせて、伸縮するように構成され、例えば、直径が異なる円筒ケースの一方が他方に挿入さればねの伸縮で挿入深さが変わり伸縮できるように構成されていても構わない。ばね収納筒体を使用する場合には、筒体一端が固定部32に支持され、筒体他端が取付部に支持されることで、スライドガイドの役割を担うことが可能となり、スライダ33及びスライドレール34の代わりのガイド手段として使用することや、スライダ33及びスライドレール34と併せてガイド手段として使用することも可能となる。
【0054】
さらに、昇降機構30は、取付部35を案内するスライダ33及びスライドレール34が、板面の中央に配置される構成として説明したが、固定部32及び取付部35の両側端にスライダ33と同等の機能となるガイドを設け、そのガイドにスライドレール34と同等の機能となるレールを挿通させることで、取付部35の昇降動作を案内する構成としても構わない。つまり、スライダ33及びスライドレール34の取付位置は、限定されず取付部35の昇降動作を案内することができる構成であれば限定されるものではない。
なお、昇降機構30は、その構成全体をカバー体で収納するようにしても構わない。
以上説明したように、本発明にかかる手術用ロボットアーム1は、本発明を逸脱しない範囲で、種々の変更ができることは勿論である。