特許第5769373号(P5769373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デュール システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許5769373塗装プラント用のエラーを記録する方法及びコンピュータプログラム
<>
  • 特許5769373-塗装プラント用のエラーを記録する方法及びコンピュータプログラム 図000002
  • 特許5769373-塗装プラント用のエラーを記録する方法及びコンピュータプログラム 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769373
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】塗装プラント用のエラーを記録する方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20150806BHJP
   B05B 12/00 20060101ALI20150806BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20150806BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20150806BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   G06Q50/04 100
   B05B12/00 A
   B05D1/02 B
   G05B19/18 X
   G05B23/02 302Y
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-538607(P2009-538607)
(86)(22)【出願日】2007年11月7日
(65)【公表番号】特表2010-511232(P2010-511232A)
(43)【公表日】2010年4月8日
(86)【国際出願番号】EP2007009657
(87)【国際公開番号】WO2008064763
(87)【国際公開日】20080605
【審査請求日】2010年5月20日
【審判番号】不服2014-11675(P2014-11675/J1)
【審判請求日】2014年6月18日
(31)【優先権主張番号】102006056879.6
(32)【優先日】2006年12月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504389784
【氏名又は名称】デュール システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】ヘーレ、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルダームス、ディートマール
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ、ローランド
【合議体】
【審判長】 手島 聖治
【審判官】 金子 幸一
【審判官】 緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−149347(JP,A)
【文献】 特開2005−313077(JP,A)
【文献】 特開2003−295925(JP,A)
【文献】 特開平11−341706(JP,A)
【文献】 特開2000−65694(JP,A)
【文献】 特開2000−235412(JP,A)
【文献】 特開平11−331766(JP,A)
【文献】 特開2004−240513(JP,A)
【文献】 特開平8−152912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-50/00,G05B19/00,G05B23/02,B05B12/00,B05D1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラント用のエラーを記録する方法であって、
a)前記プラントの処理データ群を連続的に記録するステップ(S1)であって、個々の前記処理データ群は、互いに時刻同期化されており、それぞれプラント運転時間における特定の時点に由来し、かつ、前記プラントの複数の処理データを含む、ステップ(S1)と、
b)前記プラントの起こりうるエラー状態を検知するステップ(S3、S4、S5)と、
c)記録された前記処理データ群を格納するステップ(S2、S7)であって、エラー状態検知前の所定の先行時間内、および/またはエラー状態検知後の所定の後続時間内に測定された、キャッシュされている前記処理データ群が格納されるステップと
)プラントのエラー状態が検知されると、エラーコードを生成するステップ(S3、S4)と
e)
e1)格納された前記処理データ群と時刻同期化し
e2)エラー状態毎の専用のエラーファイルに、関連する前記処理データ群とともに、および/または、
e3)前記エラー状態が検知された前後の所定の時間フレーム内に記録された前記処理データ群とともに、
前記エラーコードを格納するステップ(S7)と、からなり、
f)前記エラーを記録する方法は、塗装プラントととも用いられ、
g)
g1)塗装されるべき部品を特徴づける部品データ、
g2)オペレータと前記塗装プラントとの相互作用を特徴づけるユーザデータ、および/または、
g3)前記塗装プラント自体の作業応答を特徴づけるプラントデータ、
の塗装プラント処理データが格納され、
h)前記先行時間および/または前記後続時間は、少なくとも1個のスキッドまたは少なくとも10個のスキッドが前記塗装プラントを通って運ばれる時間に相当し、
i)前記処理データ群および前記エラーコードの格納(S2,S7)は、少なくとも10m秒の時間分解能で行われる、
ことを特徴とするエラーを記録する方法。
【請求項2】
前記エラーファイルに格納される前記処理データ群は、前記エラー状態が検知された時刻前後の所定の時間フレーム内に記録された処理データ群である、
ことを特徴とする請求項1に記載のエラーを記録する方法。
【請求項3】
前記処理データ群を格納するステップ(S2)では、エラー状態の検知とは無関係に、記録された前記処理データ群をバッファ内にキャッシュし、
前記エラーを記録する方法は、更に、前記エラー状態の検知前の所定の先行時間内に、および/または前記エラー状態の検知後の所定の後続時間内に、記録された前記キャッシュされた処理データ群を選択するステップ(S6)を含み、
前記処理データ群を前記専用のエラーファイルに格納するステップ(S7)における前記処理データ群は、前記選択された処理データ群である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエラーを記録する方法。
【請求項4】
a)前記エラーコードは、エラーの時刻を再現するタイムスタンプ(3)であること、および/または、
b)前記エラーコードは、検知されたエラーの種類を示すこと、
を特徴とする請求項3に記載のエラーを記録する方法。
【請求項5】
前記後続時間は、
a)所定の時間であること、
b)前記エラー状態の是正までの時間であること、
c)その時間内に、所定の数の塗装されるべきスキッドまたは部品が前記塗装プラントを
通って運ばれる所定の時間であること、または、
d)一定数のコンベヤサイクルからなる所定の時間であること、
を特徴とする請求項3又は4に記載のエラーを記録する方法。
【請求項6】
前記先行時間は、
a)所定の時間であること、
b)その時間内に、所定の数の塗装されるべきスキッドまたは部品が前記塗装プラントを通って運ばれる所定の時間であること、または、
c)一定数のコンベヤサイクルからなる所定の時間であること、
を特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項7】
a)前記処理データ群の格納のための前記先行時間および/または前記後続時間は、少なくとも200m秒、1秒、5秒、10秒、1分、1時間または1日であること、
を特徴とする請求項3ないし6のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項8】
プラント用のエラーを記録する方法であって、
a)前記プラントの処理データ群を連続的に記録するステップ(S1)であって、個々の前記処理データ群は、互いに時刻同期化されており、それぞれプラント運転時間における特定の時点に由来し、かつ、前記プラントの複数の処理データを含む、ステップ(S1)と、
b)前記プラントの起こりうるエラー状態を検知するステップ(S3、S4、S5)と、
c)記録された前記処理データ群を格納するステップ(S2、S7)であって、エラー状態検知前の所定の先行時間内、および/またはエラー状態検知後の所定の後続時間内に測定された、キャッシュされている前記処理データ群が格納されるステップと、
d)プラントのエラー状態が検知されると、エラーコードを生成するステップ(S3、S4)と、
e)
e1)格納された前記処理データ群と時刻同期化し、
e2)エラー状態毎の専用のエラーファイルに、関連する前記処理データ群とともに、および/または、
e3)前記エラー状態が検知された前後の所定の時間フレーム内に記録された前記処理データ群とともに、
前記エラーコードを格納するステップ(S7)と、からなり、
f)前記エラーを記録する方法は、塗装プラントととも用いられ、
g)
g1)塗装されるべき部品を特徴づける部品データ、
g2)オペレータと前記塗装プラントとの相互作用を特徴づけるユーザデータ、および/または、
g3)前記塗装プラント自体の作業応答を特徴づけるプラントデータ、
の塗装プラント処理データが格納され、
h)前記先行時間および/または前記後続時間は、少なくとも1個のスキッドまたは少なくとも10個のスキッドが前記塗装プラントを通って運ばれる時間に相当し、
前記処理データ群および前記エラーコードの格納(S2、S7)は、少なくとも0.1m秒の時間分解能で行われること
を特徴とするエラーを記録する方法。
【請求項9】
a)時刻、および/または、
b)センサから計測信号を再現するセンサデータ、および/または、
c)前記塗装プラントで現在塗布されている塗装剤の色、および/または、
d)前記塗装プラントで以前塗布された塗装剤の色、および/または、
e)前記塗装プラントに現在配置されているスキッドの識別番号、および/または、
f)前記塗装プラントに現在配置されている、特に車体のような部品、または前記塗装プラントに現在配置されている複数の部品、の識別番号、および/または、
g)前記塗装プラントに現在配置されている単数もしくは複数の部品の種類、および/または、
h)現在使用されている前記塗装プラントの環状電力供給線の識別番号、および/または、
i)使用されている色の識別番号、および/または、
j)回転噴霧器の速度、および/または、
k)静電塗布装置の充電電圧、および/または、
l)静電塗布装置の充電電流、および/または、
m)現在塗布されている塗装剤の量、および/または、
n)個々の媒体、特に、洗浄剤、溶媒、誘導エア、フラットスプレイ用のシュラウドエア、ナイフエア、エンベロープエア、乾燥用エア、冷却エア、タービン軸受けエアの流量、および/または、
o)個々の誘導エア流の現在の流量、および/または、
p)現在の誘導エア圧、および/または、
q)現在のホーンエア流量および/または現在のホーンエア圧、および/または、
r)現在のドライビングエア流量および/または現在のドライビングエア圧、および/または、
s)塗装圧、および/または、
t)空気圧およびすべての利用可能な空気圧センサ測定値、および/または、
u)洗浄剤圧、および/または、
v)ピグ位置、および/または、
w)前記塗装プラント内の温度、および/または、
x)前記塗装プラント内の湿度、および/または、
y)塗装キャビンの状態、特に換気状態、水洗い出し状態、抽出状態、
z)塗装プラントの充填レベル、および/または、
aa)塗装プラントバルブ切替位置、および/または、
bb)塗装ロボットの位置、速度、加速度および/またはトルク、および/または、
cc)1つまたは複数の前記処理データの目標/実際の偏差、および/または、
dd)ユーザ入力、および/または、
ee)前記ロボットのブラシデータ、動作プログラム番号、および/または、
ff)コンベヤのデータ、特にコンベヤの増加分および状態、および/または、
gg)乾燥機のデータおよび状態、および/または、
hh)制御部品間のデータ交換、
の塗装プラント処理データが格納される
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項10】
記録されたデータ群および/またはエラーコードを保守サービス部門に遠隔送信するステップ(S11)を含む
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項11】
a)前記処理データ群および/またはエラーコードを互換性のある大容量記憶媒体に格納するステップと、
b)前記大容量記憶媒体および格納された処理データ群を保守サービス部門に搬送するステップと、
を含む
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項12】
前記塗装プラントの前記エラー状態を検知するステップ(S3、S4)は、
a)前記塗装プラントの前記処理データ群の解析を使用して、コンピュータ制御されること、および/または、
b)オペレータによりユーザ制御される
こと、を特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項13】
エラー状態を検知するために、記録された前記処理データ群の時間曲線が、前記処理データ群の解析の範囲内で所定のエラー曲線と比較される
ことを特徴とする請求項12に記載のエラーを記録する方法。
【請求項14】
a)前記格納されたデータコードおよび関連する処理データ群を読み取るステップと、
b)読み取られたエラーコードおよび関連する処理データ群をモニタ上に視覚表示するステップと、
を含む
ことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項15】
a)格納された前記処理データ群は、塗装プラントロボットの空間位置をも再現すること、および、
b)前記ロボットの位置は、視覚表示装置におけるスクリーン上に図形表示されること、
を特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項16】
a)一定の処理データが、前記エラーコードに応じて格納された前記処理データから選
択されること、
b)エラー解析を容易にするため、選択された前記処理データのみが視覚的に表示され
ること、
を特徴とする請求項1ないし15のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項17】
a)前記格納されたエラーコードおよび関連する処理データ群から、可能性のあるエラ
ーの原因および/または対応策をコンピュータ制御により決定するステップ(S9)と、
b)可能性のあるエラーの原因および/または対応策をスクリーン上に視覚表示するス
テップ(S10)と、
を含む
ことを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項18】
エラー検知に続く所定の時間内にエラー検知を抑制するステップを含むことを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1項に記載のエラーを記録する方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれか1項に記載の、
エラーを記録する方法をコンピュータ上で実行するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装プラント用のエラーを記録する方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の本体部品を塗装するための塗装作業場の作業中に多数の処理データが蓄積する。処理データのいくつかをあげると、例えば、塗布および塗装ロボットの現在位置、回転噴霧器の速度、静電塗布装置の充電電圧、または(例えば、塗料と誘導エアのような)個々の媒体の流量である。塗装作業場の連続作業中の処理データの記録は、あるデータエラーが原因で塗装作業場で機能不良が起こったとき、その記録された処理データを使用したエラー解析に役立つ。
【0003】
第1に、処理データを記録するためにプリマスシステムが使用されている。このシステムでは、塗装作業場の連続作業中に蓄積する処理データは、塗装作業場のオペレータによってインストールされる外付け大容量メモリに恒久的かつ無制限に格納される。上記プリマスシステムの第1の欠点は、処理データを格納するために大容量のメモリが必要なことである。プリマスシステムの更なる欠点は、個々の処理データの記録と、それに付随する格納が時刻同期なしに行われるという事実である。例えば、塗装および塗布ロボットの制御システムは、塗装作業場を通って塗装される自動車の本体部品を運ぶコンベヤ制御ユニットとは少し異なるシステム時間を有しているかもしれない。そのような時刻同期の誤差があると、処理データの正確な時間割り当てができないので、格納された処理データを使用する、後のエラー解析の妨げとなる。
【0004】
第2に、蓄積する処理データは、実際には、ソフトログシステムまたはデータ記録装置により記録される。しかし、記録する前に、チャネルを形成するために、まず記録される処理データが特定されなければならない。データ記録装置により記録するときは、記録する前にケーブルを敷設する必要もある。信号の数や記録されるべき処理データが制限されるからである。そのようなシステムは通常、一連のエラーに対する欠陥発見のために使用されるだけで、すべての塗装作業場にあるわけではない。さらに、記録の期間および記録チャネルの数は制限されている。
【0005】
プリマスシステムおよびソフトログシステムは共に、蓄積する処理データが塗装作業場のエラーとは独立に記録されるという欠点を有する。
【0006】
また、プリマスシステムおよびソフトログシステムは、多大な経費をかけて断続的なエラーが解析できるだけであり、欠陥発見のために多くの時間が必要であるという欠点を有している。
【0007】
自動車業界において使用可能な作業データ記録方法は、例えば、特許文献1から知られている。蓄積する作業データは、連続的にメモリに書き込まれる。次に、蓄積され格納された作業データは、記録期間について、後の解析においてモニタ上で確認できる。したがって、前述の公知のプリマスシステムの場合と同様に、大容量メモリが必要である。さらに、作業データをあるエラーに帰因するとすることが困難であるため、エラー解析はこの場合も難しい。
【0008】
塗装作業場において塗装の質を調べる方法は、特許文献2から知られており、どのようなエラーも、塗装時における各製造過程にある製品ごとにデータベース内に保存できる。このように、データベース内の格納は、製造過程にある製品に関してであり、エラーに関してではない。さらに、データベースは、塗装期間中に生じた複数のエラーを含み、そのためエラー解析が妨げられる。
【0009】
最後に、特許文献3から、例えば熱間圧延機に使用される、エラーの原因を決定するシステムが知られている。しかしながら、発生するエラーを、適切な処理データ群に帰因するとすることは、この場合も困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第3224586号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10036741号明細書
【特許文献3】国際公開第02/013015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、前述のエラーを記録する方法を適切に改善するという課題に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、主請求項に記載の、エラーを記録する方法の発明によって解決される。
【0013】
本発明の範囲内において、塗装プラントの処理データ群は、作業中連続的に記録される。個々の処理データ群はそれぞれ塗装プラント運転時間の特定時点に由来し、かつ、塗装プラントの複数の処理データを含む。
【0014】
記録された処理データ群は、格納された処理データ群を使っての後のエラー解析を可能とするため、その後、連続的に保存される。
【0015】
塗装プラントでの動作不良を検出するために、本発明はまた、塗装プラントの運転中に生じるエラーを検知するのに提供される。下記に詳細に示されるように、本発明によってエラー検知が種々の方法で行われる。
【0016】
次に、下記に詳細に示されるとおり、さまざまな情報を含みうるエラーコードが、エラー検知の結果として生成される。
【0017】
先行技術から知られている方法中の上述ステップに加えて、本発明はまた、格納された処理データ群と時刻同期してエラーコードが保存されるように提供される。後のエラー解析中に、これにより、格納されたデータ群および同じく格納されたエラーコードを使用して、格納された処理データの時間曲線に対する正確な時間の対応付けが可能となり、エラー解析がかなり容易になる。
【0018】
本発明の範囲内で使用される処理データ群を連続的に記録するという概念は、処理データ群が通常の塗装作業中に、言い換えれば塗装作業を中断しないで記録されることを好適には意味する。処理データ群の記録は、連続的に行われてもよいし、または不連続的、すなわち特定のサンプリング周波数で行われてもよい。好適には、同様のことが、記録された処理データ群を保存することや、エラー検知およびエラーコードの保存にも適用される。
【0019】
好ましくは、塗装プラントの作業中に連続的に蓄積する処理データ群は、例えば循環バッファのようなバッファ内にまずキャッシュされる。そこでは、蓄積する処理データ群は特定の期間中連続的に保存され、その後上書きされる。その結果、新たな処理データ群に対してメモリが開放される。例えば、そのような循環バッファは、10秒から数時間または数日間の記録期間を有しうる。
【0020】
エラーが検知されると、エラー状態の検知前の所定の先行時間内および/またはエラー状態の検知後の所定の後続時間内に記録されたキャッシュ内の処理データ群が、エラー解析に関連しているので、バッファから選択される。一方、先行時間より先にまたは後続時間より後に蓄積する処理データ群では、通常、エラーの原因調査ができない。したがって、好適には、あるエラーがあった場合に、そのエラー時刻前後の所定時間フレーム内に記録されたそれら処理データ群だけが、後のエラー解析のために格納される。エラー時刻前後のある時間フレームから処理データ群を選択し保存するという本発明の概念は、独立して保護するに値する。したがって、本発明は、一般のエラーを記録する方法も含み、その中では、エラーコードの生成、保存ばかりかエラーとの時刻同期も必ずしも必要というわけではない。
【0021】
次に、上記方法により選択されるエラー関連の処理データ群は、後のエラー解析を可能にするため好適にはエラーメモリ内に格納される。
【0022】
次に、個々のエラーコードは、付随の処理データ群とともに、好適には、塗装プラントの各エラー状態ごとに専用エラーファイル内に保存される。第1に、これは、個々のエラーファイルが各エラーの解析に関連するデータのみを含むという利点を有し、より高い明瞭度のおかげでエラー解析を容易にする。第2に、個々のエラーをそれぞれ1個の専用エラーファイルに帰属させることにより、エラー特定専門家による最適のエラー解析を可能にする。例えば、塗布システムにおけるあるエラーから生じるエラーファイルは、塗布システムの専門家によって解析されうる。また、エラーファイルは、例えば電子メールにより各専門家に送信されてもよい。対照的に、コンベヤシステムにおける動作不良から生じるエラーファイルは、コンベヤシステムの専門家によって解析されうる。
【0023】
各エラー状態ごとのエラーファイルという上記概念は、独立して保護するに値する。したがって、本発明は、一般的にエラーを記録するシステムも含み、そのシステムでは、1つのエラー状態に属する処理データ群だけが単一のエラーファイルにそれぞれ保存される。その際、エラーコードの生成や格納は必ずしも必要というわけではない。
【0024】
最も単純な場合、時刻に基づいてエラーの時刻を処理データ時間曲線に帰属させられるように、エラーコードは、エラーの時刻を再現するだけのタイムスタンプであってよい。しかしながら、エラーコードが、検知されるエラーの種別を再現することもまた可能である。例えば、塗装プラントの種々の作業上の機能不良は、ほんの2、3例をあげると、コンベヤシステムのエラー、塗布システムのエラーまたは高電圧エラーに区分し得る。さらに、エラーの種別は、どの処理データが許容範囲外であるかを示すことも可能である。
【0025】
所定の先行時間または後続時間内にバッファ内の処理データ群を上記のように選択するにあたり、先行時間または後続時間は、有益なエラー解析を可能にするため、例えば10秒から10分といった特定の範囲であってよい。
【0026】
一方、本発明の範囲によれば、先行時間または後続時間は、その間に所定の数量の塗装されるべきスキッドまたは部品が塗装プラントを通って運ばれる所定の時間とすることが可能である。
【0027】
本発明の範囲内において、先行時間または後続時間は、塗装プラントコンベヤシステムの所定数のコンベヤサイクルからなる所定の時間であることもまた可能である。したがって、先行時間または後続時間は、所定の時間、または部品、スキッド、もしくはコンベヤサイクルの数によって定義されてもよい。
【0028】
また、後続時間は、エラー検知とエラー修正との間に蓄積するすべての処理データ群が選択されるように、エラー検知とそれに続くエラー状態の修正との間の時間であってもよい。
【0029】
好適には、処理データ群の保存および/またはエラー検知は、少なくとも0.1ms、1ms、10msまたは少なくとも200msの時間分解能により行われ、これは近代的な塗装プラントの高度に動的な運転のための効率的なエラー解析に望ましい。
【0030】
記録されかつ保存されるべき塗装プラントの処理データについては種々の可能性があり、そのいくつかが以下に示される。
【0031】
例えば、処理データは、塗装されるべき部品を特徴づける部品データであってよい。格納される部品のデータは、所与の時間にサブコンパクトカー、コンパクトカー、ステーションワゴンまたは高級車のいずれの車体が塗装されるかを規定してもよい。
【0032】
さらに、オペレータと塗装プラントとの相互作用を特徴づけるユーザデータが、処理データとして記録されかつ保存されてもよい。例えば、作業エラーを検知しかつそれらを後に個別に原因を特定するために、ユーザデータは、個別のオペレータによる、すべての入力(例えば、キーボード入力、スイッチ操作等)を含みうる。さらに、ユーザデータは、オペレータによって認識される塗装プラント出力(例えば、画面表示メッセージ、アラーム等)も含みうる。従って、オペレータが塗装プラントのアラームを無視していたかどうか、後の解析の間に確かめることが可能となる。
【0033】
好適には、塗装プラント自体の作業応答を特徴づけるプラントデータもまた、処理データとして記録される。塗装プラントに蓄積する種々のデータは、プラントデータと考えてもよく、下記例によって説明される。
【0034】
例えば、処理データとして格納される塗装プラントデータは、どの色が塗装プラントにおいて現在塗布されているのか、および/または、どの色が塗装プラントにおいて以前に塗布されていたのかを提示しうる。この方法により、特定の色シーケンスまたは特定の着色時間シーケンスのどちらが問題を起こしているのかを、後のエラー解析の間に確かめることが可能である。
【0035】
また、処理データとして保存されるプラントデータは、塗装プラントにおける現在のスキッドの各識別番号を含みうる。この方法により、特定のスキッドが作業上の問題の原因となっているのかどうかを、後のエラー解析の間に確かめることが可能である。
【0036】
さらに、塗装プラントにおける現在の部品の識別番号が記録されてもよい。これにより、後のエラー解析の間に、発生するエラーを、規格から逸脱しそれによりエラーを生じたかもしれない特定の部品に帰属させることが可能になる。
【0037】
また、使用される塗装プラントの環状電力供給線を指す識別番号も保存されてよい。この方法において、例えば、粘性の変化または圧力の変動のために、特定の環状電力供給線がエラーの原因となっているかどうかを、後のエラー解析の間に決定することが可能である。また、環状電力供給線の遮断も理論上のエラー原因である。
【0038】
回転噴霧器の速度、静電塗布装置の充電電圧、現在塗布されている塗装媒体の量、(例えば、誘導エア、ホーンエア、ドライビングエアなどの)他の媒体の流量、および(例えば、塗料、エア、洗浄剤などの)各種媒体の圧力もまた、塗装プラントの処理データとして特に重要である。
【0039】
ピグパイプ配置において、塗装プラントのピグに特有の機能不良を検知するため、ピグの各位置もまた検知され保存されうる。
【0040】
さらに、塗装プラント内の温度、塗装プラントの充填状態、および塗装プラント内のバルブの切替位置は、処理データとして記録されかつ保存されうる。
【0041】
塗装または塗布ロボットの位置、速度、加速度および/またはトルクもまた、後のエラー解析に特に重要であり、したがって、これらも好適には処理データとして記録されかつ保存される。
【0042】
さらに、1つまたは複数の前記処理データの目標/実体間の偏差もまた処理データとして記録されかつ保存されてもよい。
【0043】
しかしながら、本発明は、記録されかつ保存される処理データに関して、前記例に制限されず、別の処理データによって実施されてもよい。
【0044】
本発明の実施形態において、記録される処理データ群および/またはエラーコードは、個々の塗装プラントのメーカに配置され、かつその結果エラー解析を容易にする特別な技能を有しうる保守サービス部門に、電子的に送信される。例えば、未加工データは保守サービス部門に電子的に送信され、その結果、キャッシング、選択および時刻同期格納は保守サービス部門で行われる。対照的に、エラー関連処理データのキャッシングおよび選択は、好適には塗装プラントのオペレータにおいて行われ、その結果、上記エラーファイルのみが保守サービス部門に送信される。
【0045】
もちろん、本発明の範囲内において、遠隔データ伝送によって送信するかわりに、処理データまたはエラーファイルを記憶媒体(例えば、ディスケットまたはメモリースティック)に入れて保守サービス部門に運ぶこともまた可能である。
【0046】
また、本発明に係るエラーを記録する方法の範囲内において、エラー検知は、異なる方法により行われうることにも言及しなければならない。本発明の実施形態において、記録される塗装プラントの処理データ群の自動解析を使用して、エラー検知はコンピュータ制御される。そのような解析の範囲内において、例えば、個々の処理データは、エラーとして検知されるであろう所定の範囲を超えているかどうかが確認されうる。対照的に、本発明の別の実施形態において、エラー検知は、例えば緊急停止ボタンを操作することにより、オペレータによってユーザ制御される。本発明の範囲内において、上記の択一的なエラー検知方法の両方を組合せてもよい。
【0047】
記録される処理データ群の解析を使用する上記コンピュータ制御のエラー検知の範囲内において、記録される処理データ群の時間曲線は、特定のエラー曲線と比較することが可能である。例えば、処理データがある一定の時間曲線を示せば、あるエラーが検知され得る。
【0048】
処理データ群の記録および選択的な格納が、本発明に係るエラーを記録する方法の範囲内において好適に行われるだけでなく、オペレータによるエラー解析を容易にするため、視覚表示もまた行われる。その上、処理データ群は、好適には、関連するエラー検知と時刻同期して図表形式でモニタ上に視覚表示される。例えば、種々の処理データの時間曲線は、モニタ上で互いに重ねて表示される。それにより、エラーの正確な時刻を特定するエラーコードが、モニタ上に表示される。さらに、塗布および塗装ロボットを遠近法で表示することにより、エラー時刻における塗布および塗装ロボットの位置を視覚表示装置に示してもよい。
【0049】
さらに、本発明の好適な実施形態では、格納されたエラーコードおよび関連する処理データ群を解析することにより、エラーが検知されると、推定エラーの原因および/または是正措置をコンピュータ制御により決定する。その上、決定されたエラーの原因または是正措置は、エラー解析における最初の指示を与えるために、モニタ上に視覚的に表示されうる。
【0050】
また、本発明の一実施形態では、エラーが検知されると、所定の時間、エラー検知に抑制を加えるので、その後に結果として生じるエラーは無視されうる。
【0051】
最後に、本発明は、上記本発明のエラーを記録する方法だけでなく、上記エラーを記録する方法を実行するコンピュータプログラムを格納するデータ記憶媒体をも含むことに言及しなければならない。ただし、コンピュータプログラムが適切なコンピュータまたは制御プロセッサ上にロードされることが必要である。
【0052】
また、本発明は、上記エラーを記録する方法を実行する対応エラー記録装置も含む。
【0053】
本発明に係る他の有利な実施形態は、従属請求項に記載され、または本発明の好適な実施形態の記述と合わせて図面を使用して以下に説明される。それらの図は以下のとおり。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明のエラーを記録する方法を示すフローチャートである。
図2】エラーコードと時刻同期した処理データ曲線を有するスクリーンショットである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明に係るエラーを記録するシステムの好適な実施形態を、図を参照して説明する。
【0056】
塗装プラントの現在の処理データ群の連続測定は、第1のステップS1において行われる。それにより個々の処理データ群のそれぞれは、種々の塗装プラント処理データ、すなわち、例えば、個々の媒体(例えば、塗料、誘導エア、ドライビングエアなど)の流量、回転噴霧器の速度、または現在塗装されている部品の種類のような部品固有のデータを含む。
【0057】
さらにステップS2において、測定された処理データ群は、次に、1時間または数日の保存期間を有しうる循環バッファであるバッファ内にキャッシュされるので、循環バッファ内の処理データは周期的に上書きされる。
【0058】
さらにステップS3において、バッファ内に保存された処理データ群は、塗装プラントのエラー状態を検知するため、およびエラーの種別を再現するエラーコードを決定するために解析される。最も単純な場合、バッファ内に保存された処理データ群の解析は、現在の処理データ値を所定の限界値と比較することによって行われ、その結果、ある限界値を超えていればエラーが検知される。最も単純な場合、エラーコードは、許容範囲外にある処理データを識別し得る。
【0059】
さらにまた、ステップS4において、エラー状態を示している緊急停止スイッチをオペレータが手動操作することによって、エラー状態を検知するために緊急停止スイッチのデータが入手される。しかるべきエラーコードが、操作された緊急停止スイッチの識別番号に応じて生成されるであろう。
【0060】
さらに、ステップS5において、塗装プラントの作業中にエラーが検知されたかどうかが確かめられる。エラーが検知されなかった場合、処理データ群の実測およびキャッシングをしながら塗装プラントの運転は継続される。反対に、エラーが検知されると、次のステップS6において、エラー検知前の所定の先行時間内、およびエラー検知後の所定の後続時間内に測定されたキャッシュされている処理データ群がバッファから選択される。そのとき、先行時間および後続時間は、例えば10秒間という所定の時間である。
【0061】
次に、ステップS6において選択されたエラー関連の処理データ群は、次のステップS7で、しかるべきエラーコードとともに、時刻同期した形で各エラーごとに別個のエラーファイル内に、格納される。
【0062】
さらに、ステップS8において、エラーファイル内に保存された処理データ群は、図2に図示されるように塗装プラントのオペレータ用のモニタ上で図表にして視覚的に表示される。このことは以下に記載される。
【0063】
このように、図2は、種々の処理データの時間曲線20、21、22、29、30、32を有するスクリーンショット1を示し、時間曲線20、21、22、29、30、32は、共通の時間軸2の上に、時刻同期した形で互いに重なり合って表示されており、個々の時間曲線20、21、22、29、30、32の正確な時刻属性の相互の対応関係を分かりやすくしている。
【0064】
さらに、スクリーンは、エラーの正確な時刻を表し、かつ表示される処理データに対する帰因を直観的に分かりやすくするエラーコード3を表示する。
【0065】
種々の処理データに対するいくつかのパラメータ軸4、5もまたスクリーンに表示されている。例えば、パラメータ軸4は、静電回転噴霧器の高電圧をkVで表し、一方、パラメータ軸5は、電流をμAで表す。しかし、ユーザは他のパラメータ軸を表示したり、非表示としてもよい。同じことは、スクリーン上に表示される処理データの選択にもあてはまるので、ユーザは、簡易な方法でエラー解析のために重要なそれらの処理データを選択しかつスクリーン上に表示させることも可能である。
【0066】
さらにまた、ウィンドウ6は、スクリーン上に表示され、そこでは、直観的なエラー検知を可能にするため、個々の塗布装置および操作ロボットの物理的配置が遠近法ビューで示される。
【0067】
ステップS8に続き、次のステップS9では、予想されるエラーの原因および対応策を決定するために、塗装作業場オペレータのコンピュータ支援エキスパートシステムによるエラー解析が行われる。それらは、次にステップS10においてウィンドウ7のスクリーンに表示される。
【0068】
その後、次のステップS11において塗装作業場オペレータから塗装作業場メーカへのエラーファイルの遠隔データ転送が行われる。その後、メーカの専門家によるエラー解析が実施される。
【0069】
本発明は、上記の好適な実施形態の例に制限されない。それだけでなく、本発明の概念を利用しており、従って保護の範囲内であれば、種々の代替や変更が可能である。
図1
図2