【実施例】
【0060】
以下、本発明の特定カビ検出システム、及び特定カビ検出方法によるユーロチウム属のカビとアスペルギルス ペニシリオイデス種のカビについての検出精度を確認するために行った実施例及び比較例について説明する。
【0061】
(実施例1)
試験番号1:対象ゲノムあり、新規プライマー対、DMSO濃度0%
上記実施形態の特定カビのDNA増幅用プライマー対を含有し、DMSOを含有しないPCR反応液を用いて、夾雑物混合下、上記実施形態の検出対象カビであるユーロチウム属の主要種1のカビ(A1,JCM1575 Eurotium herbariorum(F.H.Wiggers)Link)とアスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B1,JCM22961 Aspergillus penicillioides Spegazzini)のゲノムDNAを増幅した。そして、配列番号3−11により特定される塩基配列からなるプローブを固定化したマイクロアレイを用いて、増幅産物をハイブリダイズさせ、蛍光検出を行った。
【0062】
具体的には、PCR反応液として、Ampdirect(R)(株式会社島津製作所製)を使用し、次の組成のものを10μl作成した。
1.5×Amp addition−1 2.0μl
2.5×Amp addition−2 2.0μl
3.5×Ampdirect 2.0μl
4.核酸合成基質 dNTPmixture 0.5μl
(dCTP;400μM、dATP、dTTP、dGTP;500μM each)
5.フォワードプライマー(配列番号1:オペロンテクノロジー株式会社により合成) 0.5μl(10pmol/μl)
6.リバースプライマー(配列番号2:同上) 0.5μl(10pmol/μl)
7.核酸合成酵素 NovaTaq 0.1μl
8.標識成分 1mM Cy5−dCTP 0.1μl
9.対象カビ及び夾雑物のゲノム ユーロチウム属の主要種1のカビ(A1,JCM1575 Eurotium herbariorum(F.H.Wiggers)Link,(独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手) 0.1ng(100pg)、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B1,JCM22961 Aspergillus penicillioides Spegazzini,(独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手) 0.1ng(100pg)、夾雑物(C,NBRC4026 Alternaria alternata(Fries)Keissler,NBRC6348 Cladosporium cladosporioides(Fresenius)de Vries,(独)製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門より入手) 各3ng、合計6ng(6000pg)
10.水(全体が10.0μlになるまで加水)
【0063】
このPCR反応液を使用して核酸増幅装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(R) Gradient タカラバイオ株式会社製)により、次の条件でDNAの増幅を行った。
1.95℃ 10分
2.95℃ 30秒
3.56℃ 30秒
4.72℃ 60秒(2〜4を40サイクル)
5.72℃ 10分
6.4℃保持 ∞
【0064】
マイクロアレイには、ジーンシリコン(R)(東洋鋼鈑株式会社製)を使用し、これに配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11によりそれぞれ特定される塩基配列からなるプローブと、これらに相補的なプローブとを固定化した。
【0065】
次に、PCR増幅産物に緩衝液(3×SSC〈クエン酸−生理食塩水、株式会社ニッポンジーン社製〉に0.3%SDS〈ドデシル硫酸ナトリウム、株式会社ニッポンジーン社製〉を添加)を混合して94℃で5分間加温し、氷上にて急冷してマイクロアレイに滴下した。
【0066】
このマイクロアレイを45℃で1時間静置した。次に、上記緩衝液を用いてハイブリダイスしなかったPCR産物をマイクロアレイから洗い流した。
そして、マイクロアレイを標識検出装置(GenePix4100A Molecular Devices社製)にかけて蛍光強度を測定した。蛍光強度は、レーザー光で励起して標識成分(Cy5)を発光させ、それを検出器内に取り付けた光電子倍増管(PMT)の受光面にて光量を電気信号に置換し、それを数値化することで測定した。この蛍光強度は、当該装置での強度指標であり、単位はなく、バックグラウンドの数値が0になるように補正して算出される。また、このようなマイクロアレイによる検出を、同じプローブを固定化した別個の4つのマイクロアレイでも同様に、同一の増幅産物を用いて行った。そして、各蛍光強度を測定し、5回の平均をとることで、プローブ毎の蛍光強度を算出した。その結果を
図2に示す。
【0067】
同図において、「試験番号」は、試験ごとに付された連番である。「実施例等」は、実施例、比較例の番号をそれぞれ「実」「比」の後に示す。「ゲノム」は、PCR反応液に含まれるゲノムDNAの種類と量を示し、「ユーロ混入(ng)」にはユーロチウム属のカビの種類と量が、「アスペル混入」にはアスペルギルス ペニシリオイデス種のカビの種類と量が、「夾雑物混入」には夾雑物のカビの種類と量が、それぞれ表示されている。「↑」は上欄と同条件であることを示している。また、蛍光強度30以上を太枠で示している。
図4以降の試験結果についても同様である。また、実施例及び比較例で用いたカビの種類について、
図3に示す。
【0068】
(実施例2)
試験番号2:対象ゲノムあり、新規プライマー対、DMSO濃度0.5%
上記実施形態における新規プライマー対を含有し、かつDMSOを0.5容量%(本明細書において単に%と略称する場合もある)含有するPCR反応液を用いて、夾雑物混合下、その他の点については実施例1と同様の条件で、PCR法によりDNAの増幅を行った。そして、実施例1で使用したものと同様のマイクロアレイを用いて、増幅産物をハイブリダイズさせ、蛍光検出を行った。その結果を
図2に示す。
【0069】
(実施例3)
試験番号3:対象ゲノムあり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
DMSOを2容量%含有するPCR反応液を用いた点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図2に示す。
【0070】
(実施例4)
試験番号4:対象ゲノムあり、新規プライマー対、DMSO濃度5%
DMSOを5容量%含有するPCR反応液を用いた点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図2に示す。
【0071】
(実施例5)
試験番号5:対象ゲノムあり、新規プライマー対、DMSO濃度7%
DMSOを7容量%含有するPCR反応液を用いた点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図2に示す。
【0072】
(比較例1)
試験番号6:対象ゲノムあり、従来のリバースプライマーを含むプライマー対、DMSO濃度0%
配列番号1及び12により特定される塩基配列からなるプライマー対を使用した点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図4に示す。
【0073】
ここで、配列番号1及び12により特定される塩基配列からなるプライマー対を用いて、ユーロチウム属の主要種1のカビ(A1,JCM1575 Eurotium herbariorum(F.H.Wiggers)Link)のDNAを増幅すると、576bpの増幅産物が得られる。この増幅産物のDNA配列の長さは、実施例1における同種のDNAの増幅産物258bpの2倍以上に相当する。また、同様に、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B1,JCM22961 Aspergillus penicillioides Spegazzini)のDNAを増幅すると、643bpの増幅産物が得られる。この増幅産物のDNA配列の長さも、実施例1における同種のDNAの増幅産物309bpの2倍以上に相当する。以下、このような従来のリバースプライマーを含むプライマー対を用いて得られた長い増幅産物を長鎖と称し、上記実施形態の新規プライマーによる短い増幅産物を短鎖と称する場合がある。
【0074】
(比較例2)
試験番号7:対象ゲノムあり、従来のリバースプライマーを含むプライマー対、DMSO濃度2%
配列番号1及び12により特定される塩基配列からなるプライマー対を使用した点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図4に示す。
【0075】
(比較例3)
試験番号8:対象ゲノムなし、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液に、対象ゲノム及び夾雑物を混入させることなく、その他の条件は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図4に示す。
【0076】
(実施例6)
試験番号9:対象ゲノム(ユーロチウム属の主要種 A2)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、ユーロチウム属のカビとして、その他の主要種2のカビ(A2,NBRC8157 Eurotium tonophilum Otsuki)のDNAを用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図5に示す。
【0077】
(実施例7)
試験番号10:対象ゲノム(ユーロチウム属の主要種 A3)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、ユーロチウム属のカビとして、その他の主要種3のカビ(A3,JCM1568 Eurotium chevalieri L.Mangin)のDNAを用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図5に示す。
【0078】
(実施例8)
試験番号11:対象ゲノム(ユーロチウム属の主要種 A4)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、ユーロチウム属のカビとして、その他の主要種4のカビ(A4,JCM1565 Eurotium amstelodami Mangin)のDNAを用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図5に示す。
【0079】
(実施例9)
試験番号12:対象ゲノム(ユーロチウム属の主要種 A5)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、ユーロチウム属のカビとして、その他の主要種5のカビ(A5,JCM1580 Eurotium repens de Bary)のDNAを用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図5に示す。
【0080】
(実施例10)
試験番号13:対象ゲノム(ユーロチウム属の主要種 A6)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、ユーロチウム属のカビとして、その他の主要種6のカビ(A6,JCM22942 Eurotium rubrum Konig et al.)のDNAを用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図5に示す。
【0081】
(実施例11)
試験番号14:対象ゲノム(アスペルギルス ビトリコラ B2)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビとして、B1と同種かつ別個の系統のアスペルギルス ビトリコラ(B2,NBRC8155 Aspergillus penicillioides(Synonym Aspergillus vitricola Otsuki))のゲノムDNAを0.1ng用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0082】
(実施例12)
試験番号15:対象ゲノム(アスペルギルス ペニシリオイデス2種 B1,B2)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビとして、B1とB2の両方のDNAをそれぞれ0.1ng用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0083】
(実施例13)
試験番号16:対象ゲノムではないアスペルギルス ペニシリオイデスの近縁種のDNA(AV,AR)を含む、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムのうち、アスペルギルス ペニシリオイデス種の近縁種のカビとして、アスペルギルス レストリクタス(AR,JCM1727 Aspergillus restrictus G.Smith,(独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手)、及びアスペルギルス ヴェルシカラー(AV,JCM10258 Aspergillus versicolor(Vuillemin)Tiraboschi,(独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手)のゲノムDNAをそれぞれ0.1ng用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0084】
(実施例14)
試験番号17:対象ゲノム(ユーロチウム属のカビと夾雑物のみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムとして、ユーロチウム属のカビ(A1)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0085】
(実施例15)
試験番号18:対象ゲノム(アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビと夾雑物のみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムとして、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B1)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0086】
(実施例16)
試験番号19:対象ゲノム(ユーロチウム属のカビのみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度0%
PCR反応液における対象ゲノムとして、ユーロチウム属のカビ(A1)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点、及びPCR反応液に夾雑物を含めなかった点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0087】
(実施例17)
試験番号20:対象ゲノム(ユーロチウム属のカビのみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムとして、ユーロチウム属のカビ(A1)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点、及びPCR反応液に夾雑物を含めなかった点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0088】
(実施例18)
試験番号21:対象ゲノム(アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビのみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度0%
PCR反応液における対象ゲノムとして、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B1,アスペルギルス ペニシリオイデス)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点、及びPCR反応液に夾雑物を含めなかった点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0089】
(実施例19)
試験番号22:対象ゲノム(アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビのみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムとして、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B1,アスペルギルス ペニシリオイデス)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点、及びPCR反応液に夾雑物を含めなかった点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0090】
(実施例20)
試験番号23:対象ゲノム(アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビのみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度0%
PCR反応液における対象ゲノムとして、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B2,アスペルギルス ビトリコラ)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点、及びPCR反応液に夾雑物を含めなかった点以外は、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0091】
(実施例21)
試験番号24:対象ゲノム(アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビのみ)あり、新規プライマー対、DMSO濃度2%
PCR反応液における対象ゲノムとして、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビ(B2,アスペルギルス ビトリコラ)のゲノムDNAのみを0.1ng用いた点、及びPCR反応液に夾雑物を含めなかった点以外は、実施例3と同様にして試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0092】
次に、上記の試験結果にもとづいて、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法の効果について説明する。
上記各実施例及び比較例において、試験結果における蛍光強度(光量)が、50以上の場合は、標識検出装置(GenePix4100A)から出力される画像データ上、肉眼で識別可能なレベルの強度であり、対象ゲノムを検出している可能性が高いと考えられる。試験結果における蛍光強度が、30〜50未満の場合は、肉眼ではほとんど識別できないが、明らかに反応が見られ、対象ゲノムを検出している可能性が比較的高いと考えられる。試験結果における蛍光強度が、10〜30未満の場合は、明らかに反応が見られるが、対象ゲノム以外の類似するゲノムを検出している可能性も高いと考えられる。試験結果における蛍光強度が、10未満の場合は、試験番号8に示されるように、ノイズの検出と考えられる。以上のことから、以下の説明では、蛍光強度30以上を有効な検出として説明している。
【0093】
<1.夾雑物の影響>
まず、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法における夾雑物の影響について、
図8及び
図9を参照して検証する。
図8は、ユーロチウム属のカビの検出における夾雑物の影響に関する試験結果をまとめたものであり、
図9は、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビの検出における夾雑物の影響に関する試験結果をまとめたものである。なお、
図8及び
図9において、注目すべき部分を太枠で示している。
図10〜
図14においても同様である。
【0094】
ユーロチウム属のカビの検出については、
図8の実施例16に示されるように、PCR反応液に夾雑物が含まれていない場合は、DMSO濃度が0%でも、多くのプローブに有効な検出がみられる。一方、実施例1に示されるように、PCR反応液に夾雑物が含まれている場合、DMSO濃度が0%であれば、配列番号5の正鎖プローブ以外では、有効な検出は見られない。なお、これらの実施例でも上記実施形態の新規プライマーは使用されており、この新規プライマーにより従来プライマーを用いた場合に比較して蛍光強度がより増加しているものと考えられる。
【0095】
上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法を使用する場合、特定カビのDNA以外に、どのような夾雑物が存在するかは不明である。したがって、実用上、特定カビを高精度に検出可能にするためには、夾雑物の存在下において、十分な光量により有効な検出がなされることが望ましい。
そこで、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法では、実施例14及び実施例17に示されるように、PCR反応液にDMSOを適量含有させることで、夾雑物の存在下でも、対象カビをより効率的に増幅させている。特に、A1の増幅産物に対して優れたハイブリダイズ性を示している配列番号5の正鎖プローブでは、夾雑物の存在下、蛍光強度が「601」から「7501」へと10倍以上に大きく増加している。
【0096】
アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビの検出については、
図9の実施例1に示されるように、PCR反応液に夾雑物が含まれている場合でも、上記実施形態の新規プライマー対を用いることにより、多くのプローブで有効な光量が検出されている。また、実施例18に示されるように、PCR反応液に夾雑物が含まれていない場合には、多くのプローブで夾雑物が含まれている場合の10倍以上の光量が検出されている。
【0097】
上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法を実際に使用する場合、PCR反応液における対象カビのゲノムDNAと夾雑物の割合がどのようになるかは不明である。このため、夾雑物の割合が多い場合を考慮すれば、蛍光強度はできるだけ大きいことが望ましい。
そこで、実施例15では、PCR反応液にDMSOを適量含有させることで、夾雑物の存在下において、蛍光強度を一層増加させることを可能としている。
【0098】
<2.特定カビの検出>
次に、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法による対象カビの特定的検出について、
図10及び
図11を参照して検証する。
ユーロチウム属のカビについては、
図10に示されるように、その主要な6種について検出することができる。特に、A2〜A6のユーロチウム属のカビについては、配列番号3,4で表される配列からなるプローブ、又はこれらと相補的な配列からなるプローブにも有効な検出や、有効ではないものの比較的高い検出が見受けられ、これらを配列番号5で表される配列からなるプローブ、及びこれと相補的な配列からなるプローブとともに補助的に使用することで、検出の確実性を向上させることが可能である。
【0099】
また、A1〜A6のカビは、ユーロチウム属のカビのうちの多くを占める頻出種である。
したがって、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法によれば、ユーロチウム属のカビをほぼ属レベルで特定的に検出できることがわかる。
【0100】
次に、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビについては、
図11に示されるように、アスペルギルス ペニシリオイデス、及びアスペルギルス ビトリコラのいずれの系統でも、多くのプローブで有効な検出が得られている。
また、アスペルギルス属でペニシリオイデス種ではない近縁の種のカビである、アスペルギルス レストリクタス(AR)、及びアスペルギルス ヴェルシカラー(AV)については、有効な検出は得られず、偽陽性反応は見られなかった。
したがって、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法によれば、アスペルギルス ペニシリオイデス種のカビを選択的に特定できることがわかる。
【0101】
さらに、実施例3、11、12(
図2,
図6参照)の結果から明らかなように、上記実施形態の特定カビ検出システム及び特定カビ検出方法によれば、ユーロチウム属のカビ及びアスペルギルス ペニシリオイデス種のカビが混在し、夾雑物が存在する環境下において、これらを同時に、かつそれぞれを特定して検出することが可能になっている。
【0102】
<3.DMSO濃度の影響>
次に、PCR反応液のDMSO濃度が、対象カビの検出に与える影響について、
図12を参照して説明する。
同図に示されるように、ユーロチウム用プローブの配列番号5で表される配列からなるプローブでは、DMSO濃度が0%の時に比較して、DMSO濃度が0.5%,2%で約6倍、DMSO濃度が5%で約10倍、DMSO濃度が7%で約3倍に蛍光強度が増加している。
【0103】
また、アスペルギルス ペニシリオイデス用の多くのプローブでも、DMSO濃度が0%の時に比較して、DMSO濃度が0.5%〜7%の場合に蛍光強度の増加が認められ、特にDMSO濃度が5%の場合に大きく増加している。
したがって、夾雑物が多く存在し、検出対象カビであるユーロチウム属のカビ及びアスペルギルス ペニシリオイデス種のカビが比較的少ない環境下であっても、DMSOを添加することで、蛍光強度を増大させ、より高い精度で検出できることがわかる。また、このような検出精度の向上効果は、後述するように、上記実施形態における新規プライマーを組み合わせることで、より一層増大させることが可能となっている。
【0104】
<4.プライマーの影響>
次に、PCR反応液における新規プライマー対が、対象カビの検出に与える影響について、
図13を参照して説明する。
同図に示されるように、ユーロチウム用プローブの配列番号5で表される配列からなるプローブでは、従来のリバースプライマーを含む比較例2のプライマー対を用いた場合の蛍光強度に比較して、上記実施形態の新規プライマー対を用いた場合は約8倍の光量が検出されている。また、アスペルギルス ペニシリオイデス用プローブでも、約2.5〜17倍の光量が検出されている。
【0105】
上記実施形態の新規プライマー対を用いることで、比較例2のプライマー対を用いる場合の約半分の短鎖の増幅産物を得ることができる。
図13の結果から、このような短鎖の増幅産物は、長鎖の増幅産物に比較して、プローブとのハイブリダイズ効率が高いと推定される。
このように、上記実施形態における新規プライマー対によれば、対象カビの検出精度をより向上させることが可能になっている。
【0106】
<5.DMSO濃度とプライマーの影響>
次に、PCR反応液のDMSO濃度、及び新規プライマー対が、対象カビの検出に与える影響について、
図14を参照して説明する。
同図には、有効な光量が検出されているユーロチウム用プローブ及びアスペルギルス ペニシリオイデス用プローブについて、長鎖の増幅産物が得られる従来のリバースプライマーを含む比較例1,2のプライマー対を用いたときのDMSO濃度が0%,2%の場合と、短鎖の増幅産物が得られる上記実施形態の新規プライマー対を用いたときのDMSO濃度が0%,2%の場合の蛍光強度の比較結果が示されている。
【0107】
同図に示される通り、長鎖の増幅産物が得られる場合よりも、短鎖の増幅産物が得られる場合の方が、DMSOが良く効いていることがわかる。
すなわち、配列番号5のプローブでは、比較例1、2のプライマー対を用いた場合、PCR反応液にDMSOを2容量%含有させることで、蛍光強度が1.9倍に増加している。これに対し、実施例1及び実施例3の新規プライマー対を用いた場合、PCR反応液にDMSOを2容量%含有させることで、蛍光強度が5.7倍に増加している。
【0108】
また、配列番号8のプローブ及びこれと相補的な配列からなるプローブ、並びに配列番号9のプローブ及びこれと相補的な配列からなるプローブでは、比較例1、2のプライマー対を用いた場合、DMSOの効果が比較的低く、むしろ蛍光強度が低減しているものが多い。これに対し、実施例1及び実施例3の新規プライマー対を用いた場合、PCR反応液にDMSOを2容量%含有させることで、蛍光強度が1.4倍〜4.3倍に増加している。
【0109】
これは、長鎖の増幅産物が得られる場合よりも、短鎖の増幅産物が得られる場合の方が、DMSOを添加した場合のPCR増幅効率が高くなることによるものと推定される。
このように、上記実施形態における新規プライマー対を用いるとともに、DMSOをPCR反応液に添加することで、対象カビの検出効率をより一層高めることが可能になっている。
【0110】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、PCR反応液として本発明における新規プライマーが含有され、本発明と同様の効果を奏することができるものであれば、その他の成分は適宜変更することが可能である。
また、本実施形態における検出対象カビは、図書館や文化財保管場におけるものに限定されず、例えば香辛料や穀物などの乾燥食品、皮革や綿などの乾燥した工業製品の保管庫におけるものなど、ユーロチウム属又はアスペルギルス ペニシリオイデス種のカビであれば、その検出場所はどこであってもかまわない。