(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769391
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】端子金具
(51)【国際特許分類】
H01R 13/11 20060101AFI20150806BHJP
H01R 13/42 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
H01R13/11 A
H01R13/42 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-188560(P2010-188560)
(22)【出願日】2010年8月25日
(65)【公開番号】特開2012-48903(P2012-48903A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】新川 大介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正剛
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−029020(JP,U)
【文献】
実開昭60−060881(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/11
H01R 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジングに形成される端子収容室に設けられた弾性変形可能なランスに係止されて前記端子収容室に装着される端子金具において、
前記ランスが係止する係止穴の穴縁係止端面に、前記ランスへの食い込み抵抗を増大させる食い込み抵抗増大部が形成され、かつ前記食い込み抵抗増大部が少なくとも前記穴縁係止端面の上縁に複数の凹凸が形成された波形状部であることを特徴とする端子金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタハウジングに弾性変形可能に設けられたランスに係止されて端子収容室に装着される端子金具に関する。
【背景技術】
【0002】
端子金具の保持力を大きくするには、ランスの幅寸法を増大させることで、係合孔の孔縁前部に対するランスの掛り代を増大させればよい。しかし、端子金具のなかには、接続部の外面後端部に、端子金具の姿勢安定化のためのスタビライザが突設されているものがあり、上記のような幅広のランスが長さ方向の全域に亘ってほぼ同幅をもって形成されると、ランスとスタビライザとが互いに重なり合って双方干渉する事態が起こり得る。
【0003】
このような不具合を解消したものに、例えば特許文献1に開示される
図8では、接続部501の外面には、キャビティ503の内壁に設けられた挿通溝505を通して端子金具507の挿入動作を案内するスタビライザ509を突設する。キャビティ503の内壁に設けられたランス511には、接続部501に設けられた不図示の突部の被係止面513及び不図示の係止孔の孔縁前部515をほぼ全幅に亘って係止可能な係止部517が設けられるとともに、係止部517より後方でかつ同係止部517と幅方向について重なる部分に、挿通溝505と連通してスタビライザ509の突入を許容する逃し凹部519が設けられている。
【0004】
このような構成によれば、接続部501に設けられた被係止部(被係止面513及び不図示の係止孔の孔縁前部515)に対してほぼ全幅に亘ってランス511の係止部517が係止するから、端子保持力が大きくなって剪断に対して強い構造となる。一方、ランス511には、係止部517より後方でかつこの係止部517と幅方向について重なる部分に、挿通溝505と連通してスタビライザ509の突入を許容する逃し凹部519が設けられているから、スタビライザ509との干渉を回避できる。また、干渉を回避するために、接続部501を幅方向に増大させる必要がないから、コネクタの大型化を回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−259363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、コネクタにおいて、ランスは、コネクタ小型化を進める中、その端子保持力低下が問題となる。ランスサイズが小さくなることは、そのまま保持力の低下を意味するため、小型化と保持力維持の双方の両立が課題となっている。上記した従来の技術は、小型化によるランス保持力の低下に対し、接続部501に設けられた被係止部に対してほぼ全幅に亘ってランス511の係止部517が係止するようにして、剪断に対して強い構造とし、端子保持力が大きくなるように図っている。
しかしながら、係止面積を大きく確保しても、端子金具とランスの係止部分では、金属からなる端子金具の係止穴に樹脂製のランスが係止するため、係止穴の穴縁係止端面におけるエッジが鋭いと、エッジがランスに食い込み、ランスの剪断破壊の開始強度が大幅に低下する問題があった。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、小型化によるランスの剪断破壊の増大を抑えて、保持力の向上を図ることのできる端子金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1)コネクタハウジングに形成される端子収容室に設けられた弾性変形可能なランスに係止されて前記端子収容室に装着される端子金具において、
前記ランスが係止する係止穴の穴縁係止端面に、前記ランスへの食い込み抵抗を増大させる食い込み抵抗増大部が形成され、かつ前記食い込み抵抗増大部が
少なくとも前記穴縁係止端面の上縁に複数の凹凸が形成された波形状部であることを特徴とする端子金具。
【0009】
この端子金具によれば、端子金具が端子収容室の所定位置に挿入されると、弾性復帰したランスが、端子金具の係止穴に係止する。係止穴に係止したランスは、端子係止面が係止穴の穴縁係止端面に当接する。係止された端子金具に引き抜き方向の外力が作用すると、穴縁係止端面がランスの端子係止面を押圧する。この際、穴縁係止端面には食い込み抵抗増大部が形成されていることから、穴縁係止端面がランスに食い込む際の抵抗力が大きくなる。また、食い込んだ後も、食い込み抵抗増大部が剪断表面を引っかくような形状で抵抗力を増加させ、剪断の表面積も底上げできる。これにより、剪断抵抗を増大し、保持力を増加することができる。
また、食い込み抵抗増大部が、穴縁係止端面を部分的に潰したことにより形成される波形状部となり、食い込み抵抗や、剪断抵抗を増大させる食い込み抵抗増大部が容易に形成可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る端子金具によれば、小型化によるランスの剪断破壊の増大を抑えて、保持力の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は穴縁係止端面の上部に波形状部が形成された本発明に係る端子金具の要部断面図、(b)は穴縁係止端面の上部及び下部に波形状部が形成された変形例に係る端子金具の要部断面図である。
【
図2】(a)はコネクタハウジングにおける端子受入口の正面図、(b)はそのA−A断面図である。
【
図3】(a)は雄端子金具の斜視図、(b)は雌端子金具の斜視図である。
【
図4】(a)は雄端子金具の正面図、(b)はそのB−B断面図である。
【
図5】(a)は雌端子金具の正面図、(b)はそのC−C断面図である。
【
図7】(a)は穴縁係止端面にR付け部が形成された他の実施の形態に係る端子金具の要部断面図、(b)はそのD−D断面図である。
【
図8】従来の端子金具及び端子収容室の要部を表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(a)は穴縁係止端面11の上部に波形状部13が形成された本発明に係る端子金具15の要部断面図、(b)は穴縁係止端面11の上部及び下部に波形状部13が形成された変形例に係る端子金具15の要部断面図、
図2(a)はコネクタハウジング17における端子受入口19の正面図、(b)はそのA−A断面図である。
本実施の形態に係る端子金具15は、雄端子金具21(
図3参照)、又は雌端子金具23(
図3参照)のいずれであってもよい。但し、いずれの端子金具15であってもランス25が係止する係止穴27を有することが構成要件となる。
【0017】
端子金具15の装着されるコネクタ29は、直方体に形成されるコネクタハウジング17の長手方向の一端面に、図示しない相手側コネクタの雄端子を受け入れる端子受入口19を開口させている。端子受入口19は、コネクタハウジング17の内部に画成されている端子収容室31に連通する。本明細書では説明の都合上、コネクタ29の端子受入口19を前、その反対側を後と称する。
【0018】
端子収容室31には、コネクタハウジング17の後部に開口する端子装着口33から雌型の端子金具15が挿入される。なお、雌型の端子金具15は一例であり、端子金具15は雄型であってもよい。この端子金具15が装着される空間にはランス25が突出している。ランス25は、合成樹脂材料によりコネクタハウジング17と一体に成形されている。基端が底壁35に接続されたランス25は、先端が自由端37となる。ランス25は、底壁35に基端が片持ち状に支持されて弾性変形可能となる。ランス25の下方には、底壁35との間に退避空間31aが形成されている。
【0019】
ランス25は、自由端37の近傍の上面に、凸部39が形成されている。凸部39は、後部が傾斜面41となり、前部が係止部43となる。傾斜面41は、端子金具15が挿入される際、端子金具15の電気接触部先端45が当たり、ランス25を退避空間31aへ押し下げる分力を生じさせる。係止部43は、ランス25が弾性復帰して元の位置に戻ったとき、端子金具15の係止穴27に係止して、端子金具15の後方への離脱を規制する。
【0020】
図3(a)は雄端子金具21の斜視図、(b)は雌端子金具23の斜視図、
図4(a)は雄端子金具21の正面図、(b)はそのB−B断面図、
図5(a)は雌端子金具23の正面図、(b)はそのC−C断面図、
図6は比較例に係る端子金具の要部断面図である。
図3(a)に示す雄端子金具21は、先端に電気接触部47である雄タブ49を有し、その後方に端子本体部51と、導体圧着部53と、外被保持部55と、が順次連設されてなる。雄端子金具21は、金属板を板金加工することによって作られる。
【0021】
図3(b)に示す雌端子金具23は、先端に電気接触部47である雄タブ49を受け入れる箱部57を有し、その内部には雄タブ49と接触する接触バネ部59(
図5参照)を備える。箱部57の後方には、雄端子金具21と同様に端子本体部51と、導体圧着部53と、外被保持部55と、が順次連設されてなる。
【0022】
雄端子金具21及び雌端子金具23の端子本体部51にはランス25の係止する係止穴27が形成されている。係止穴27は、
図3に示すように、矩形状に形成される。この係止穴27は、前方側が穴縁係止端面11となる。
図1はこの穴縁係止端面11を、雌端子金具23を代表例として示している。
図1は係止穴27の略中央部を切断して雌端子金具23の前方側を見た断面図となっている。すなわち、係止穴27の内側から穴縁係止端面11を正面視している。この穴縁係止端面11には、
図6に示した比較例のフラットな形状ではなく、ランス25への食い込み抵抗を増大させる食い込み抵抗増大部61が形成されている。
【0023】
本実施の形態において、この食い込み抵抗増大部61は、穴縁係止端面11を部分的に潰して形成した波形状部13として形成されている。波形状部13は、
図1(a)に示すように、穴縁係止端面11の上部のみに形成されてもよく、
図1(b)に示すように、穴縁係止端面11の上下部の双方に形成されてもよい。穴縁係止端面11を潰す方向は、上下から穴縁係止端面11を挟む方向(
図1の上下方向)や、係止穴27の内側から穴縁係止端面11に向かう垂直な方向(
図4(b)、
図5(b)の左方向)とすることができる。
なお、
図1(a)(b)において、穴縁係止端面11の下部に形成された半円状の膨出部は接触バネ部59の雄タブ49との接圧を上げるように作用するインデントである。
【0024】
本実施の形態では、食い込み抵抗増大部61が、穴縁係止端面11を部分的に潰したことにより形成される波形状部13となり、食い込み抵抗や、剪断抵抗を増大させる食い込み抵抗増大部61が容易に形成可能となる。
【0025】
次に、上記の構成を有する端子金具15の作用を説明する。
端子金具15は、端子収容室31の所定位置に挿入されると、弾性復帰したランス25が、端子金具15の係止穴27に係止する。係止穴27に係止したランス25は、係止部43が係止穴27の穴縁係止端面11に当接する。係止された端子金具15に引き抜き方向の外力が作用すると、穴縁係止端面11がランス25の係止部43を押圧する。
【0026】
つまり、ランス25は穴縁係止端面11からの反力を受ける。このとき
図6に示した比較例の端子金具のようにフラットな穴縁係止端面11では、フラットな周縁の角部63で剪断が開始する。
【0027】
本実施の形態に係る端子金具15では、穴縁係止端面11に食い込み抵抗増大部61が形成されていることから、穴縁係止端面11がランス25に食い込む際の抵抗力が大きくなる。また、食い込んだ後も、食い込み抵抗増大部61が剪断表面を引っかくような形状で抵抗力を増加させ、剪断の表面積も底上げできる。これにより、剪断抵抗を増大させ、端子金具15の保持力を増加させることができる。
【0028】
次に、本発明に係る端子金具15の他の実施の形態を説明する。
図6は比較例に係る端子金具15の要部断面図、
図7(a)は穴縁係止端面11にR付け部65が形成された他の実施の形態に係る端子金具15の要部断面図、(b)はそのD−D断面図である。
この実施の形態に係る端子金具15Aは、ランス25に食い込む際の抵抗力を上げるため、尖った端面(すなわち、角部63)をなくすことで、抵抗力をあげている。すなわち、この例による食い込み抵抗増大部61は、穴縁係止端面11の係止側の角部63を除去して形成したR付け部65としている。
【0029】
この端子金具15Aでは、穴縁係止端面11にR付け部65を形成することで、無加工の穴縁係止端面11における係止側の角部63を除去すると同時にR付け部65を形成でき、食い込み性を促進する角部63を除去して、食い込み易さや、剪断破壊の生じ易さを抑止することができる。
【0030】
したがって、本実施の形態に係る端子金具15によれば、小型化によるランス25の剪断破壊の増大を抑えて、保持力の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0031】
11 穴縁係止端面
13 波形状部
15 端子金具
17 コネクタハウジング
25 ランス
27 係止穴
31 端子収容室
61 食い込み抵抗増大部
63 角部
65 R付け部