【実施例】
【0101】
実施例1.動物モデルにおける急性敗血症および急性腎不全と関連する炎症の治療
この実施例は、急性敗血症および急性腎不全の症状と関連する炎症を治療するため、本発明の実施形態を評価するのに用いられた一連の実験を記載する。
【0102】
(I)背景および原理
白血球、特に好中球は、SIRS、敗血症、虚血/再灌流傷害および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む、多くの臨床的な炎症性疾患の発病および進行の主要な原因である。組織破壊および疾患の進行を最小限にするために、炎症部位における白血球の活性化および組織蓄積を制限するための多くの治療アプローチが研究されている。SIRSを伴う重篤な敗血症は、集中治療室や広範囲の抗生物質を使用したとしても、アメリカ合衆国において、30〜40%の死亡率で年間20万人の患者に生じる。
【0103】
この調査の源は、急性腎不全(ARF)を治療するために、体外の装置で尿細管前駆細胞を利用する、現在行われている有望な前臨床試験および臨床試験から生じる。ARFは、最終的には多臓器不全および死に至る一連の事象における腎毒性傷害および/または虚血性尿細管細胞傷害に伴う急性尿細管壊死(ATN)から生じる。腎置換療法を必要とするATNによる死亡率は、50〜70%の範囲にある。該障害の病態生理学についての理解がより深まり、血液透析および血液濾過療法が改善したにもかかわらず、この高い死亡率はここ数十年にわたって続いている。
【0104】
これらの症状に対する治療法としての尿細管前駆細胞の利用は、尿細管細胞が、敗血症性ショックにおいて重要で免疫学的な調節的役割を果たすという論文に基づいていた。特に、重篤な敗血症性ショックは、敗血症性ショックのブタモデルにおいて菌血症の数時間以内に急性尿細管壊死(ATN)およびARFになることが示された。従って、ARFは、敗血症性ショックの時間経過の早くに発症するが、急性傷害後、血中尿素窒素および血清クレアチニンの上昇が観察されるのに数日かかるので、時間枠は臨床的には理解されていない。ARFおよびATNにおける腎臓の免疫調節性機能の喪失は、SIRS、敗血症、多臓器不全、および死亡の高リスクを発症する傾向をもたらす。最近の報告は、心臓切開手術後の術後経過中に、ARFを発症する患者において、3.3〜60%に近い敗血症事象の上昇を示した。
【0105】
合成材料および体外回路が進歩したにもかかわらず、急性血液透析または血液濾過単独では、まだATNの死亡率を50%未満に減少させていないので、ARFまたはATNの障害は、連続的な血液濾過技術との併用療法に特に適している。ATNは、主に、近位尿細管細胞の傷害および壊死により発症する。敗血症ショックと同時に発症するATNの発作の間にこれらの細胞機能を早期に置換することにより、血液濾過と併せたほぼ完全な腎臓置換療法が提供され得る。アンモニア産生およびグルタチオン再生のような代謝活動、ビタミンD3活性化のような内分泌活動、およびサイトカインホメオスタシスの追加は、追加の生理的代替活動を提供し、この疾患の進行の現在の自然経過を変え得る。
【0106】
この症状に対する尿細管前駆細胞の効果を試験するために使用された1つのシステムは、一般的に米国特許第6,561,997号に記載のように、濾過装置(従来型の高流速血液フィルター)と、それに直列に続く腎臓補助装置(RAD)からなっていた。初期の実験において、RADは、繊維の内部表面に沿って成長したヒト腎臓上皮細胞を含む標準血液濾過カートリッジを利用する体外システムと言われた。この配置は、濾過液を、調節された輸送および代謝機能のために尿細管細胞で裏打ちされた、中空繊維ネットワークの内部区画に入れることを可能にした。対象からくみ出された血液を、第1の血液フィルターの繊維に入れ、そこで限外濾過液(UF)を作り、血液フィルターのRAD下流内にある中空繊維の管腔の中に送達した。RDAから出る処理されたUFを回収し、「尿」として排出した。最初の血液フィルターから出る濾過された血液は、毛細管外の空間(ECS)ポートを通ってRADに入り、装置の繊維の中で分散した。RADを出ると、処理された血液は第3のポンプを経て対象の体に戻った。体外の血液回路は、腎不全を患う患者における、持続的または断続的な血液透析療法のために使用されるものと同一の血液ポンプシステムおよび血液管に基づいた。
【0107】
RADの尿細管前駆細胞のin vitro研究は、該細胞が、分化した能動輸送特性、分化した代謝活性、および重要な内分泌過程を保持するということを実証した。追加の研究は、RADが、体外血液灌流回路内の血液濾過カートリッジと直列に組み込まれた場合、急性尿毒症のイヌの腎臓の濾過、輸送、代謝、および内分泌機能を代替することを示した。さらに、RADは、急性尿毒症の動物において内毒素ショックを改善した。
【0108】
尿細管細胞療法の免疫調節的役割をさらに理解するために、RAD療法を施す場合および施さない場合の敗血症の組織特異的結果を、気管支肺胞洗浄検査(BAL)を用いて評価した。BAL標本を、SIRSに反応する肺の微小血管損傷および炎症を評価するために使用した。以下に詳述された予備データは、腎臓細胞療法が、損傷した血管からのタンパク質の漏出の減少および炎症の減少と関連することを実証した。
【0109】
この実験モデルシステムを用いて、全身性および組織特異的炎症過程における腎細胞療法の役割を、第2の一連の評価において、より注意深く評価することができた。それと同時に、RADを評価する臨床試験において、登録する際の障壁は、体外の血液ラインおよび透析カートリッジの血液灌流を維持するために、ヘパリンを用いる全身の抗凝固を必要とすることであった。ここ10年にわたって、連続的な腎置換療法(CRRT)回路における全身ヘパリン処置および血液灌流のより良い維持に対する必要性を取り除くために、カルシウム結合剤としてクエン酸塩を用いる局所的な抗凝固が、標準的な治療方法になった。
【0110】
従って、模擬の無細胞カートリッジおよび細胞を含むカートリッジを用いる前臨床の動物モデルにおける比較を、血液回路内のクエン酸塩および低Ca
i量が、全身性ヘパリン処置を用いて観察された尿細管細胞療法の有効性を減少させないことを確かめるために行った。以下に詳述するように、2つのカートリッジシステムにおけるクエン酸塩の抗凝固は、難解なおよび予期せぬ結果を示した。
【0111】
(II)実験A−動物モデルの最初の実験
最初に本発明の実施形態を評価するために、敗血症のブタモデルにおけるSIRSの確立された再現性のあるモデルを用いた(例えば、Humes et al. (2003) Crit. Care Med. 31:2421-2428参照)。
【0112】
方法および材料
健常ブタ(30〜35 kg)を、心血管パラメータおよび持続的な静静脈血液濾過(CVVH)を用いた処置を評価するために、適切なカテーテルを導入することによって準備した。その後、該ブタの腹腔内に大腸菌30×10
10細菌/kg体重を入れた。細菌注入後15分以内に、該動物を、2つのカートリッジ(第1のカートリッジは血液フィルターであり、および第2のカートリッジは多孔質中空繊維を含む腎臓補助装置(RAD)である)を有するCVVH回路内に置いた。この実験について、RADは
図3に示される回路内の
図7に概略的に示される装置を表す。
図7において、RADは中空繊維752(明確にするため1つだけがラベルされている)である複数の膜を含む。繊維内の管腔空間は、毛細管内の空間(「ICS」)740と呼ばれる。その周辺空間は、RADのハウジング754内にある毛細管外の空間(「ECS」)742と呼ばれる。活性化白血球を含む血液は、ECS入口748に入り、繊維752の周りのECS742内に移動し、ECS出口750を経てRADを出て、流出ラインに入る。この実験について、RADの中空繊維752は多孔質であり、各繊維の管腔740の内膜層で単層培養された同種移植尿細管細胞を含む。その対照は、尿細管細胞を含まないが、その他はRADと同じである模擬RADであった。
【0113】
図3に示されるように、動物から出る血液を、第1の血液フィルターの繊維に送り込み、そこで限外濾過液(UF)を作り、血液フィルターの下流のRAD中空繊維752内のICS740 に輸送した。RADを出る処理されたUFを回収し、UFポンプ304を使用して廃棄物として捨てた。最初の血液フィルターを出る濾過された血液は、毛細管外の空間(ECS)入口748を通ってRADに入り、装置の繊維752の中で分散した。ECS出口750を経てRADを出ると、処理された血液は対象の身体へ戻された。血液は、血液濾過装置の前後に置かれた血液ポンプ204および300、ならびにRADと動物の間に置かれた第3の血液ポンプ(
図3に図示せず)を経てシステム中を移動した。クエン酸塩またはヘパリンを、206でシステムに加え、必要であれば、(再入する血液を準備するために)第2の薬剤を、対象に血液が再入する前に、258で加えた。
【0114】
細菌注入後の最初の1時間、動物を晶質のヘスパン80mL/kgおよびコロイドヘスパン80mL/kgからなる量を用いて蘇生させた。細菌注入後15分で、臨床状況を再現するために、動物に抗生物質のセフトリアクソン100mg/kgを入れた。どの動物にも、血管収縮薬または強心薬は入れなかった。
【0115】
結果および考察
血圧、心拍出量、心拍、肺毛細管せつ入圧、全身血管抵抗および腎臓の血流を、試験中ずっと測定した。このモデルを用いて、RAD処置は、心拍出量および腎臓の血流によって決定されるように、対照よりも良好な心血管性能を維持することが示された。改善された腎臓の血流は、対照と比べたRAD動物におけるより低い腎臓の血管抵抗に起因した。
【0116】
改善された心血管パラメータは、生存期間を延長させた。(尿細管細胞を含まない、模擬RADで処置された)対照動物はどれも、7時間以内に息を引き取ったが、全てのRAD処置動物は7時間を超えて生存した。対照の5±1時間と比較して、RAD群は10±2時間生存した(p < 0.02)。敗血症ショックにおける予後的な炎症兆候であるインターロイキン(IL-6)、およびサイトカイン炎症反応のイニシエーターであるインターフェロン-γ(IFN-γ)の血漿濃度は、対照群と比較して、RAD群ではより低かった。
【0117】
最初のデータは、ブタモデルが急性敗血症ショックの信頼できるモデルであり、RAD処置はサイトカインプロファイルの変化と関連する心血管の性能を改善し、有意な生存優位性をもたらすことを実証した。最初のデータは、RAD療法が敗血症ショックで生じる多臓器機能障害を改善することができることも実証した。
【0118】
このモデルの再現性を向上させるために、緊急輸液療法プロトコールは、細菌投与の時に晶質/コロイドボーラスを注入した後すぐに、100mL/時間から150mL/時間に増加した。この改善された蘇生プロトコールに加えて、尿細管細胞療法の免疫調節的役割をさらに理解するために、RAD療法を施す場合および施さない場合の敗血症の組織特異的結果を、気管支肺胞洗浄検査(BAL)を用いて評価した。BAL標本を、SIRSに反応する肺の微小血管損傷および炎症を評価するために使用した。腎臓細胞療法が、損傷した血管からのタンパク質の漏出の減少およびBAL液体試料の炎症の減少ならびにSIRSの他の心血管効果の改善と関連することが示された。
【0119】
緊急輸液療法を利用している上記の洗練された動物モデルは、クエン酸塩の局所的抗凝固の下でのRAD療法の有効性が、全身ヘパリン抗凝固の下でのそれと類似であるかどうかを評価するための一連の研究において使用された。従って、模擬RAD(無細胞)カートリッジおよびRAD(細胞を含む)カートリッジの前臨床動物モデルの比較を、血液回路内のクエン酸塩および低Ca
i量が、全身ヘパリン処置を用いて観察された尿細管細胞療法の有効性に負の影響を与えるかどうかを評価するために開始した。
【0120】
予想外に、結果は、腎臓細胞のないRADを用いたクエン酸塩抗凝固(すなわち、クエン酸塩で処置されたSCID)が、SIRSに起因する肺損傷を回復させるのに有効であり、かつ下記に詳述されるのとほぼ同じぐらい、この大型動物モデルにおける敗血症ショックに起因する心血管機能障害および死までの時間を軽減するのに有効であることを示した。
【0121】
(III)実験B−腎臓上皮細胞を利用するシステムまたはそれを欠くシステムの大型動物モデル比較
上記の敗血症ショックの改善されたブタモデルを、選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)と対比して、腎臓補助装置(RAD)による介入の多臓器効果を評価するために使用した。この実験において、RADおよびSCIDの両方は、上記のように、
図3の回路の中の
図7の装置を表す。しかしながら、RADシステムは、RAD755のICS740の中にブタ腎臓上皮細胞を含み、ヘパリン抗凝固処置を受ける。SCIDシステムは、SCID755のICS740の中に細胞を含まず、クエン酸塩処置(ヘパリンを用いない)を受ける。以下のデータは、合計で14匹の動物から得られた。7匹の動物を、ICS内のブタ腎臓上皮細胞を含まず、ヘパリン抗凝固処置を受けるRADである模擬対照(
図9〜13に「模擬/ヘパリン」として表示)を用いて処置した。4匹の動物を、ブタ腎臓上皮細胞および全身ヘパリン療法を含むRAD(
図9〜13に「細胞RAD」として表示)を用いて処置した。3匹の動物を、ICS内に細胞を含まず、クエン酸塩局所抗凝固を受けるSCID(
図9〜13に「模擬/クエン酸塩」として表示)を用いて処置した。
【0122】
心血管パラメータの観察
図9に示されるように、腹腔内への上記の細菌投与は、全ての群において急速で、深刻で、最終的に致命的な動脈圧平均値(MAP)の減少を誘導した。初期データは、模擬/ヘパリン対照と比較して、クエン酸塩を用いたSCIDが、MAPへの効果を弱めることを示唆した。
図10に、各群についての心拍出量(CO)を詳述する。COは、他の群と比較して、RAD群において十分により高かった。クエン酸塩効果は、模擬/ヘパリン対照と比較して、RAD効果よりも顕著ではないが、より多くの動物を用いて有意に達した。群間での類似の傾向が、一回拍出量において同様に観察された。
【0123】
この敗血症経過に伴って誘導される全身毛細血管漏出の近似測定として、血球容量の変化を
図11に示す。
図11において、模擬/ヘパリン対照は、RAD群およびSCID群の両方と比較した模擬対照群における血管内区画からのより大きい容積減少率を反映して、時間と共により高い上昇率を有した。これらの変化は、模擬/ヘパリン群と比較して、この予備の評価段階で、RAD群およびSCID群における実質的な延命効果と関連した(
図12参照)。平均生存期間は、模擬/ヘパリン群については7.25±0.26時間、SCID(模擬/クエン酸塩)群については9.17±0.51時間、およびRAD(ICS空間に細胞を有する)群については9.56±0.84時間であった。これらのデータは、模擬/ヘパリン群と比較して、RAD(ICS空間に細胞を有する)、および予想外に、SCIDの両方が、心拍出量、腎臓の血流および生存期間を改善したことを示した。
【0124】
炎症パラメータの観察
ブタSIRSモデルを用いて、様々な治療的介入の効果を調べるため、気管支肺胞洗浄(BAL)液を死亡時に入手し、微小血管損傷のパラメータとしてのタンパク質含有量、様々な炎症性サイトカインおよび多形核細胞(PMN)の絶対数について評価した。表3にまとめたように、予備データは、RAD処置とSCID処置の両方が、SIRSにおける肺障害の初期段階で、血管損傷およびタンパク質漏出をより少なくし、炎症性サイトカイン放出を減少させることを示した。IL-6、IL-8および腫瘍壊死因子(TNF)-αの量は、模擬対照と比べて、治療的介入においてより低かった。IL-1およびIL-10の量に違いはなかった。各群、n=1または2であったが、模擬対照における好中球の絶対数は1000細胞/mLを越え、RAD群およびSCID群ではより低い傾向であった。
【0125】
(表3)敗血症ショックを患うブタから得た気管支肺胞洗浄(BAL)液中のタンパク質およびサイトカイン量
注釈:平均値±標準誤差。死亡時に行われたBAL。
【0126】
白血球隔離の観察
血液透析の文献は、単一カートリッジの中空繊維を通る血液循環が、一過的な1時間の好中球減少反応をもたらすと示唆する(例えば、Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135参照)。第2のカートリッジの体外空間を通る血流が、循環白血球のより高い接着率をもたらすかどうかを試験するために、敗血症動物における全白血球(WBC)数および差異を測定した。結果を
図13に示す。
【0127】
図13に示されるように、各群は、2時間で発症し、7時間で回復する底を有する、体外回路に対する白血球減少反応を有した。これらの動物(各群n=1〜2、合計=5)におけるベースライン〜3時間の平均白血球分画を表4にまとめた。白血球の全小集団は減少し、一番顕著なのは好中球であった。
【0128】
(表4)
注釈:数値は、5匹の動物(模擬対照動物1匹、RADにより処置された動物2匹およびSCDにより処置された動物2匹)の平均である。
【0129】
SCIDにおける白血球の隔離を実証するために、
図14A〜Dに、中空繊維の外部表面に接着した白血球の密度を表示する。これらの写真は、SCIDにおける白血球の隔離を示す。この処置プロトコールを受けている健常動物では、8時間の処置過程の間、それらの白血球(WBC)が9000を下回らなかった。これは、プライミングまたは活性化された白血球が、第2の膜システムに接着する必要があり得ることを示唆する。
【0130】
これらのデータは、模擬/ヘパリン対照と比較して、RADが、心拍出量、腎臓の血流(データ示さず)、および生存期間を改善することを確証する。さらに、第2の低せん断力の中空繊維カートリッジ(すなわちSCID)と組み合わせたクエン酸塩の使用は、それがICS内に細胞を含まなくても、大きな抗炎症効果を有するということを見出したのは予想外であった。
【0131】
実施例2.白血球の隔離ならびに阻害および/または失活のin vitro研究
この実施例で詳述される実験は、透析膜に接着した白血球が、クエン酸塩存在下で、阻害されるおよび/または失活することを示す。さらに、他のデータは、クエン酸塩抗凝固が、末期腎疾患(ESRD)を患う対象の血液透析の間、好中球の脱顆粒(カルシウム依存性のイベント)を無効にするということを実証した。この過程をより詳細に評価し、それを他の白血球集団およびサイトカイン放出に拡大するために、次のin vitro実験を行った。
【0132】
方法および材料
白血球を、確立された方法を使用して、健常個体から単離した。白血球(1ウェルに10
6細胞)を、14×14 mm平方のポリスルホン膜(Fresenius、Walnut Creek、カリフォルニア州)を含む12ウェル組織培養プレートに置き、RPMI培地中、37℃で60分間接着させた。培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄し、取り除いた上清を細胞放出について分析した。クエン酸塩を含む(Ca
i=0.25mmol/L)または含まない(Ca
i=0.89mmol/L) RPMI培地を用いて、下記の表5に記載のCa
i量を得た。各カルシウム条件は、また、白血球を活性化するために、リポ多糖(LPS、1μg/mL)を含むまたは含まない培地を有した。
【0133】
好中球からのエキソサイトーシス小胞の中にあるタンパク質であるラクトフェリン(LF)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)、ならびに白血球から放出されるサイトカイン、IL-6およびIL-8の放出を評価するために、細胞を60秒間これらの条件にさらし、培地から取り出した。これらの化合物を、市販のElisaキット(R & D Systems、Cell Sciences、およびEMD BioSciences)を用いてアッセイした。
【0134】
結果および考察
結果を表5に示す。
【0135】
(表5)
注釈:2つの異なる正常対照からの白血球(WBC)単離;各条件を2つ組で分析した。ベースラインはLPSを含まなかった;刺激ありの条件はLPSを含んでいた(1μg/mL)。
【0136】
これらの炎症性タンパク質の実質的な増加が観察された正常Ca
i培地と対照的に、低いCa
iを有するクエン酸塩を含む培地は、LF、MPO、IL-6、またはIL-8の増加が観察されなかった。これらの結果は、透析膜に接着した白血球集団の刺激は、培地中のCa
i量を下げるクエン酸塩の存在下で阻害されたおよび/または失活したということを示している。この低いCa
i量は、白血球内の複数の炎症性反応(例えば、炎症誘発性物質の放出)を阻害するおよび/または白血球を失活させるための細胞質カルシウム量に変化をもたらした。
【0137】
実施例3.ヒトにおける急性腎不全(ARF)と関連する炎症の治療
この実施例に記載される実験は、ヘパリンで処置されたシステム内の類似の装置を用いて処置された患者と比べて、本発明の実施形態(すなわち、クエン酸塩で処置したシステム内の中空繊維チューブを含むSCID)を用いて処置されたヒト対象において、予想外の生存率を示す。特に、この実験において、SCIDは
図3の回路内の
図7の装置を表す。腎臓細胞は、SCIDのICSに含まれなかった。
【0138】
背景
これまでに連続的な静静脈血液濾過(CVVH)を受けているARFおよび多臓器不全を患う10人の重病患者に対する腎臓細胞療法の安全性および有効性を、フェーズI/II臨床試験で調べた(例えば、Humes et al. (2004) Kidney Int. 66(4):1578-1588)。これらの患者の予測された病院死亡率は、平均85%を上回った。以前に報告された臨床試験で使用された装置に、腎臓(死体腎臓移植のために提供されたが、解剖学的欠陥または繊維性の欠陥のために移植に適さないことが分かった腎臓)から単離されたヒト近位尿細管細胞を播種した。この臨床試験の結果は、CVVHと併せて使用された時、この実験的処置が、最大24時間、研究プロトコール指針の下で安全に送達され得ることを実証した。臨床データは、このシステムが、臨床設定における実行可能性、耐久性、および機能性を提示し、ならびにこれらを維持することを示した。この処置と時間的に相関する増加した尿排出量によって決定されるように、患者の心血管の安定性は維持され、生来の腎臓機能を増大させた。
【0139】
以前の臨床研究におけるシステムは、分化した代謝活性および内分泌活性も実証した。4日以上の経過観察を経た一人を除く全ての処置を受けた患者は、急性の生理学的スコア(acute physiologic score)によって評価した場合、改善を示した。APACHE 3採点法を用いたこれら10人の患者についての予想された死亡率は平均で85%であったが、処置を受けた患者の10人中6人は、腎臓機能が回復し、28日を越えて生存した。血漿サイトカイン量は、この細胞療法が、患者特有の病態生理学的状態に応じて、患者における動的でかつ個別化された反応を生じさせることを示唆した。
【0140】
この好ましいフェーズI/II臨床試験の結果は、その後、この細胞療法アプローチが患者の死亡率を変化させるかどうかを決定するための、FDAに承認された、12〜15の臨床現場におけるフェーズIIのランダム化比較試験につながった。あるフェーズII研究は、58人の患者を含んでいた。このうち40人はRAD療法にランダムに割り当てられ、18人は対照群を構成し、人口統計学的なデータおよび経時的臓器不全評価(SOFA)スコアによる病気の重症度は同等であった。初期の結果は、フェーズI/IIの結果と同じくらい説得力のあるものであった。腎臓細胞療法は、28日の死亡率を、従来型の血液濾過で処置された対照群の61%から細胞で処置された群の34%まで改善した(例えば、Tumlin et al. (2005) J. Am. Soc. Nephrol. 16:46A参照)。この生存効果は、90〜180日の経過観察の間ずっと継続し(p < 0.04)、Cox比例ハザード比は、死亡リスクが従来型のCRRT群で観察されたリスクの50%であったことを示している。腎臓細胞療法を用いたこの延命効果は、様々な原因のARFについて、臓器不全数(1〜5+)または敗血症の存在に関わらず観察された。
【0141】
方法
追加の研究を、商業的な細胞製造過程およびクエン酸塩の局所的抗凝固の付加を評価するために行った。これらの患者処置群の結果は、全身性ヘパリン抗凝固またはクエン酸塩の局所的抗凝固を施してSCID(ICSに細胞を含まない)を用いて処置された患者における死亡率を比較するために分析した。これらの実験で使用した装置を、上記のような
図3に示した回路の中の
図7に概略的に示す。しかしながら、この実験については、第2の血液ラインポンプはSCIDと対象の間にある(
図3に示されるように装置間にはない)。
【0142】
結果
表6は、SCID/クエン酸塩システムが、28日および90〜180日の時点において、顕著な生存率の増加を生み出したことを示す。
【0143】
(表6)
注釈:SOFA=経時的臓器不全評価;OF =臓器不全数;MOF =多臓器不全数
【0144】
図15は、ヘパリン(「SCID/ヘパリン」)の代わりにクエン酸塩を使用する装置(「SCID/クエン酸塩」)で処置された患者における、0〜180日の間での顕著な生存率の増加をグラフで示す。SOFAスコアおよび臓器不全数によって測定された場合に、患者群が類似の疾患の活動性を有していても、これらの生存の違いが生じた。いずれの群も、システムの第2のカートリッジのICS内に細胞を含まなかった。
【0145】
考察
この臨床的効果は予期せぬものであった。これらの結果は、患者の生存を最大限に延ばすことにおいて、前例のない、驚くべき成功を提供した。これらの臨床データはARFを患う患者から得られたが、この観察は、より一般的に、例えば、SIRS、ESRDおよび他の炎症性症状に当てはまるであろうと考えられる。潜在的メカニズムについてのさらなる評価を、クエン酸塩処置群およびヘパリン処置群における、無細胞カートリッジの組織学的評価を用いて遂行した。上記の動物モデルのデータと類似して、クエン酸塩/SCIDシステムは、第2のカートリッジの中空繊維の外部表面を有しており、このカートリッジの血液側は白血球で覆われていた。類似の結合が、ヘパリン/SCIDシステム内で観察された。
【0146】
実施例4.1装置システムを使用した炎症の治療
いくつかの例では、単一の処置装置(すなわち、他の処置装置を含まないSCID)を用いた処置システムを使用することは有益であり得る。先に議論したように、本発明の特定の実施形態は、主たる処置機能の実行に加えて、(望ましくない形で)白血球を活性化し得る体外回路の中にある第1の処置装置(例えば、血液フィルター)を利用する。SCID内で直列の第2の処置装置は、(例えば、
図2Cおよび2Dに示されるような)ECSの低抵抗の区画内で、接着と体系的隔離を達成する。従って、第1の処置装置がその主たる機能を実行する必要がない場合、それを取り除き、白血球の望まない活性化を減少させることは有益であり得る。他の実施形態(例えば、敗血症)において、循環白血球はすでに活性化されている可能性があり、血流がECSの低抵抗区画を通る(例えば、
図2Aおよび2Bに示されるような)単一装置SCIDシステムは、白血球の接着および隔離に適し得る。血液ライン上の1つのポンプのみがこの回路に必要とされ、治療的介入を単純化する。
【0147】
この実験は、対象(例えば、炎症反応を発症するリスクのあるまたは炎症反応を有する動物またはヒトの患者)における選択的細胞吸着除去の有効性、ならびに生存率、ならびに炎症反応を軽減および/または予防する効果を評価する。特に、この実験は、システム内にSCIDのみ含む1装置システムと、システム内にSCIDおよび血液を処置する他のシステム構成要素、例えば、1つまたは複数の血液濾過カートリッジを含む2装置システムを比較する。1装置システムは、SIRSのような症状を有するかまたは有するリスクのある対象に対して特に役立ち得る。この場合、白血球隔離ならびに、任意で、白血球失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害が、体外回路にとって主たる処置目的である。2装置(または複数装置)システムは、体外回路を使用する2つ以上の処置の必要性のある対象に対して、例えば、腎臓透析処置と白血球隔離の両方、ならびに、任意で、白血球失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害の必要性のある急性腎不全を患う対象に対して役立ち得る。
【0148】
第1の試験システムは、それぞれ、
図2Aまたは2Bのいずれかの回路の中の
図5または6の1つに示されるような単一SCIDを含む。第2の試験システムは、それぞれ、
図2Cまたは2Dのいずれかの複数装置回路の中の
図5または6の1つに示されるようなSCIDを含む。両方の試験システムについて、SCID中空繊維カートリッジまたはシステム全体は、クエン酸塩を含む。両システムについて、限外濾過液および細胞は、SCIDのICSに含まれない。
【0149】
2群の対象(例えば、ブタ)に、上記の実施例1に記載のように、敗血症およびSIRSを誘導するため細菌を投与する。その後、各群を試験システムの1つを用いて処置し、実施例1に記載されたような測定を行う。この2群の測定を比較する。記載された1装置および2装置システム構成に加えて、装置およびそれらの装置を含むシステムの他の構成も試験され得る。
【0150】
一過的な白血球減少症および好中球減少症の程度は、1装置システムと2装置システムの間で同等であると予想される。単一装置構成および2装置構成の両方が効果的であると予想されるが、白血球(WBC)数と、心血管および肺の機能パラメータに対する影響との関係、全身性の炎症および肺の炎症の兆候、ならびに単一装置システム対2装置システムの全域での白血球活性化マーカーの変化は、より簡素な単一装置システムまたは2装置システムが第2の処置装置を必要としない状況において有益かどうかを確かめる。
【0151】
実施例5.白血球隔離表面域の比較
この実験は、試験対象における炎症反応を予防するためにおよび生存率を上昇させるために選択的細胞吸着除去を行うことにおける、異なる白血球隔離表面域を有する1つまたは複数のSCID中空繊維カートリッジの有効性を評価する。いくつかの膜の大きさを試験する。最初の試験は、それぞれ、約0.7m
2および約2.0m
2の表面域を有するSCID膜の比較を含む。追加の試験群は、約0.7m
2〜約2.0m
2の膜表面域の比較、および/または約2.0m
2を越える膜表面域の比較を含み得る。
【0152】
1つの研究において、上記のような、様々な白血球隔離表面域を有する中空繊維カートリッジを含むSCIDを用意する。
図5の一般設計のSCIDを、
図2Aまたは2Cの回路内に設置するか、または
図6の一般設計のSCIDを、
図2Bまたは2Dの回路内に設置する。対象(例えば、ブタ)に、上記の実施例1に記載のように、敗血症およびSIRSを誘導するため細菌を投与する。その後、対象群を、本明細書に記載のシステムのうちの1つまたは複数を使用して処置する。試験される各システムについて、少なくとも2つの異なるSCIDの膜表面域サイズ(例えば、0.7m
2および2.0m
2)を試験する。実施例1に記載のような測定を行い、各群からの測定を比較する。
【0153】
別の研究において、CPBを受けている対象(例えば、ブタまたは子ウシ)を研究する。CPBを用いた処置は、急性腎損傷(AKI)および急性肺損傷(ALI)を含む臓器機能不全を引き起こす。様々な白血球隔離表面域を有する中空繊維カートリッジを含むSCIDを、CPB回路内で試験する。
【0154】
CPBを、
図4A〜4Fのいずれかに示されるような回路内に構成されたSCIDを使用して、本明細書の実施例8および9に記載の対象に対して行う。各システムについて、少なくとも2つの異なるSCIDの膜表面域サイズ(例えば、0.7m
2および2.0m
2)を試験する。終点測定は、本明細書に、例えば、実施例1または8に記載の測定を含む。さらに、CPBによって誘導されたAKIおよびCPBによって誘導されたALIの重症度を、SCID膜隔離表面域の関数として評価し得る。
【0155】
増大した膜表面域は、白血球結合を増強し、SCIDを使用して誘導される白血球減少症の時間間隔をより長くすることが予想される。従って、(より小さい隔離表面域と比べて)より大きい隔離表面域を有するSCIDは、(例えば、改善された生存率および/または炎症反応を軽減および/もしくは予防する改善された効果によって測定される)選択的細胞吸着除去の有効性を改善し、CPBと関連する合併症(例えば、CPBと関連する臓器傷害)を軽減することに対してより大いに有益な効果を有すると予想される(例えばAKIとALI)。
【0156】
実施例6.急性腎損傷を患う敗血症ショックモデルにおける選択的細胞吸着除去装置
この実施例に記載される実験は、SCIDを有する1ポンプおよび2ポンプシステムの前臨床試験、およびAKIを伴う敗血症ショックのブタモデルへのクエン酸塩またはヘパリンのいずれかの投与について記載する。実験は、一般的に、2つの評価に向けられた。最初に、実験は、2ポンプ回路内のSCID(例えば、
図3の回路内の
図7のSCID)と比べて、1ポンプ回路内のSCID(例えば、
図2Dの回路内の
図6のSCID)を利用することの有効性を評価した。「1ポンプ」または「2ポンプ」は、例えば、
図2Dのポンプ204(1ポンプシステム)によってまたは
図3のポンプ204および300(2ポンプシステム)によって示されるような回路の血液ライン上のポンプの数を表す。1ポンプ回路を使用する利点は、既存の透析機器が、ベッドサイドでのケアを提供するために、追加の訓練またはポンプシステムなしに利用できることである。さらに、この実験は、ヘパリンと対比してクエン酸塩を使用して、活性化した白血球を隔離するおよびそれらの活性化状態を阻害するためのSCIDの作用のメカニズムを評価した。
【0157】
材料および方法
2ポンプ回路と比べた1ポンプ回路内のSCIDの有効性を評価するために、以下の2つの試験システムを準備した。第1に、1ポンプ試験システムは、
図2Dの回路内に
図6のSCIDを含んでいた。第2に、2ポンプ試験システムは、
図3の回路内に
図7のSCIDを含んでいた。両方の試験システムは、また、クエン酸塩またはヘパリンを含み、SCIDのICS内に細胞を含んでいなかった。
【0158】
実施例1で記載されたように、この実施例の実験は、AKIおよび多臓器機能不全と関連する敗血症ショックの確立されたブタモデルを利用した。(例えば、Humes et al. (2003) Crit. Care Med. 31:2421-2428参照)。簡潔に説明すると、2群の対象(ブタ)に、上記実施例1に記載されたように、敗血症およびSIRSを誘導するために細菌を投与した。その後、各群を、1ポンプまたは2ポンプ試験システムの1つを使用して処置した。各1ポンプおよび2ポンプシステムは、2つの処置下位群(クエン酸塩注入またはヘパリン注入のいずれかを用いた処置群)を有した。従って、敗血症およびSIRSを有する一方の群の対象を、1ポンプシステムおよびクエン酸塩またはヘパリンのいずれかを用いて処置し、敗血症およびSIRSを有するもう一方の群の対象を、2ポンプシステムおよびクエン酸塩またはヘパリンのいずれかを使用して処置した。
【0159】
白血球、好中球、および血小板を、1ポンプおよび2ポンプシステムの相対的な有効性を評価するために測定した。さらに、ヘパリンと比べたクエン酸塩を有するSCIDによる活性化白血球の隔離および阻害のための作用のメカニズムを評価するために、いくつかのパラメータを、クエン酸塩またはヘパリンのいずれかを使用したシステム内で測定した。評価したパラメータには、好中球活性化の指標であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)およびCD11bが含まれた。CD11bの測定のために、動物から血液試料を取得し、白血球細胞表面上で発現したCD11bタンパク質に結合する蛍光抗体を加えた。白血球を、細胞選別を用いて様々な部分集団に分け、その後、好中球ゲート内の好中球を、蛍光抗体と結合した表面上のCD11b分子の数に比例する蛍光強度によって分析した。その後、好中球集団全体を分析し、CD11b発現を伴う活性化量を蛍光強度平均値(MFI)として定量的に評価した。評価パラメータは、動物の生存期間も含んでいた。
【0160】
結果
図16A、16B、および17は、白血球数、好中球数、および血小板数に対する、1ポンプおよび2ポンプシステムの効果の結果を示す。白血球隔離(
図16A)、好中球隔離(
図16B)および血小板隔離(
図17)は、クエン酸塩で処置されたおよびヘパリンで処置された1ポンプシステムならびにクエン酸塩で処置されたおよびヘパリンで処置された2ポンプシステムについて概して同じだったので、これらの図は、2つの2ポンプ下位群の平均と比較した場合の2つの1ポンプ下位群の平均を示す。
図18〜21は、クエン酸塩で処置されたまたはヘパリンで処置されたシステムの結果を示す。
図18〜21についての測定された特性は、クエン酸塩で処置された1ポンプおよび2ポンプシステムについてならびにヘパリンで処置された1ポンプおよび2ポンプシステムについて概して同じだったので、これらの図は、2つのヘパリン下位群の平均と比較した場合の2つのクエン酸塩下位群の平均を示す。
【0161】
2ポンプ対1ポンプ試験システム比較
1ポンプ回路と2ポンプ回路の間の圧力および/または流れの違いが、2つの試験システムのSCID内での白血球隔離に及ぼし得る効果を評価するために、全身の血液中の白血球(WBC)および好中球の数を調べた。白血球(WBC)および好中球の数と関連する1ポンプシステムおよび2ポンプシステムについての結果を、それぞれ
図16Aおよび
図16Bに示す。図の中で詳述されるように、1ポンプシステム(n=5)と2ポンプシステム(n=5)の間のこれらのパラメータに、違いは観察されなかった。
【0162】
血小板隔離
血小板数も、1ポンプシステムまたは2ポンプシステムのいずれかを使用して処置された動物について評価した。
図17に示されるように、SCIDを有する1ポンプシステムおよび2ポンプシステムの両方は、SCIDを使用した処置後、少なくとも9時間、血小板数の減少を示した。これらのデータは、SCIDを有するシステムが血小板を隔離することを示す。
【0163】
好中球活性化
活性化好中球は、侵入してくる微生物または組織損傷に反応して様々な酵素を放出し、組織修復を開始する。好中球顆粒から放出される主要な酵素は、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)である。従って、MPOの全身量を、対象における好中球活性化量を示すために測定した。
図18は、SCIDおよびクエン酸塩を使用して処置された動物(SCID平均; n=5)における平均MPO量は、SCIDおよびヘパリンを使用して処置された動物(ヘパリン平均; n=3)よりも低かったことを示す。また、好中球活性化量を、血液循環を出て炎症部位へ移動する最初のステップとしての内皮上への結合に関与する膜タンパク質であるCD11bの発現を測定することによって定量化した。
図19に詳述されるように、敗血症誘導の6時間の時点で、全身循環血液中の好中球のMFIは、SCIDおよびクエン酸塩を使用して処置された動物(クエン酸塩(全身); n=4)に比べて、SCIDおよびヘパリンを使用して処置された動物(ヘパリン(全身); n=4)において、劇的に増加した。
【0164】
回路全体にわたる平均を得るために、回路の動脈ラインおよび静脈ライン内の好中球MFIを評価することによって、分析をさらに洗練させた。試料を、血液が対象から血液ラインに出る回路の動脈ラインから、および血液が血液ラインから出て対象に再入する回路の静脈ラインから同時に取得した。
図20に示されるように、ヘパリン群(n=4)およびクエン酸塩群(n=4)におけるMFI(動脈-静脈)の違いは、3および6時間の時点で劇的に異なった。このデータは、クエン酸注入が回路に沿って好中球活性化量を抑制することを示唆し、そのことは同じ期間に全身を循環している活性化好中球が少ないことを示し得る。
【0165】
動物の生存
ヘパリンを有するSCIDと比較した場合のクエン酸塩を有するSCIDの有効性の最終的な評価は、生存効果である。
図21に示されるように、一貫性のある生存期間の優位が、ヘパリン群と比較して、クエン酸塩群において観察された。クエン酸塩を有するSCIDを使用して処置された動物の平均生存期間は、8.38+/-0.64時間 (n=8)であるのに対し、ヘパリンを有するSCIDを使用して処置された動物の平均生存期間は、6.48+/-0.38時間(n=11)であった。
【0166】
さらなる評価が考えられる。例えば、局所的クエン酸塩抗凝固と比べた全身ヘパリン処置を有するSCIDの効果、または1ポンプシステムもしくは2ポンプシステムの効果を評価するためのデータセットは、1.心血管パラメータ(心拍;収縮期、弛緩期、およびMAP;心拍出量、全身の血管抵抗、一回拍出量;腎臓動脈血流;中心静脈圧;肺毛細血管せつ入圧);2.肺のパラメータ(肺動脈の収縮期および弛緩期圧、肺の血管抵抗、動脈から肺胞の酸素勾配);3.動脈血ガス(pO
2、pCO
2、pH、全CO
2);4.全血球数(血球容量(毛細血管漏出の間接測定);白血球(WBC)および白血球分画);5.炎症指標(全身の血清のサイトカイン量(IL-6、IL-8、IL-1、INF-γ、TNF-α));ならびに6.BAL液による肺の炎症のパラメータ(タンパク質含有量(血管漏出);白血球分画を含む全細胞数;TNF-α、IL-6、IL-8、IL-1、INF-γ、好中球ミエロペルオキシダーゼおよびエラスターゼ;BAL液由来の肺胞のマクロファージ、ならびにLPS刺激後に評価されるサイトカインのベースラインおよび刺激を受けた量)を含み得る。さらに、SCID炎症パラメータ(血液フィルターの前、第2カートリッジの前後の血清における、様々なサイトカイン量(IL-6、IL-8、TNF-α、IL-1、INF-γ))ならびに好中球によりエキソサイトーシスされた化合物(ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼおよびラクトフェリン)が、白血球活性を評価するために測定され得、これらの要素の同時測定も、処置の進行の間に血液およびUF区画と関連づけるために、UFの第2カートリッジの前後で行われ得る。さらに、血清およびBAL液中の酸化マーカーが、様々な群内の炎症により誘導された酸化ストレスを評価するために、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析法を使用して測定され得る。
【0167】
結論
実験から得られたデータは、SCIDおよびクエン酸塩処置を含む体外回路が、効果的に白血球を隔離し、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは白血球を失活させることができることを確証する。特に、これらのデータは、白血球隔離効果が1ポンプ回路と2ポンプ回路の間で類似であることを示す。さらに、敗血症ショック動物モデルにおいて、SCIDおよびクエン酸塩処置システムは、SCIDおよびヘパリン処置システムと比較して好中球活性化量を減少させた。SCIDおよびクエン酸塩処置システムの有効性が、敗血症の致死的な動物モデルにおいて生存期間の延長をもたらした。さらに、1ポンプシステムおよび2ポンプシステムの両方は、少なくとも9時間、効果的に血小板を隔離した。このデータに基づいて、血小板の隔離ならびに血小板の失活および/または血小板からの炎症誘発性物質の放出の阻害は、本明細書および実施例の全体を通して記載されているような白血球の隔離ならびに白血球の失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害によって達成される効果と類似の有益な効果を有し得ると考えられる。
【0168】
実施例7.ヒトにおける末期腎疾患の治療
この実施例に記載される実験は、本発明の実施形態、すなわち、ヘパリンで処置された類似のシステムと対比して、クエン酸塩で処置されたシステム内に中空繊維管を含むカートリッジを使用して処置されたヒト対象における生存率を評価するように設計されている。この実験のシステム構成は、SCIDのICSに細胞を含まない、それぞれ、
図2Cまたは2Dの1つの回路内にある
図5または6の1つのSCIDである。方法および観察は、SCIDカートリッジ内に追加の腎臓細胞を含まないクエン酸塩システム対ヘパリンシステムの比較を含み得る。
【0169】
背景
慢性の炎症誘発性状態と関連する疾患の1例は、末期腎疾患(ESRD)である。(例えば、Kimmel et al. (1998) Kidney Int. 54:236-244; Bologa et al. (1998) Am. J. Kidney Dis. 32:107-114; Zimmermann et al. (1999) Kidney Int. 55:648-658参照)。主要な治療法である透析は、小分子排泄物の除去および体液平衡に焦点が当てられている。しかしながら、それは、ESRDと関連する慢性の炎症に対処しない。ESRD患者において、それは、深刻な罹患率および21%にのぼる受け入れ難いほどの高い年間死亡率と関連する(例えば、USRD System, USRDS 2001 Annual data report: Atlas of end-stage renal disease in the United States, 2001, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases: Bethesda. p. 561参照)。
【0170】
ESRDを患う患者の平均余命は、平均すると4〜5年である。血管変性、心血管疾患、血圧の調節不良、頻繁におこる感染、慢性疲労、および骨の変性は、生活の質に重大な影響を与え、高い罹患率、度重なる入院、および高額な費用を生む。ESRD患者における死亡の主要原因は心血管疾患であり、ESRDにおける全死亡率のほぼ50%を占め、(例えば、USRD System, USRDS 2001 Annual data report: Atlas of end-stage renal disease in the United States, 2001, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases: Bethesda. p. 561参照)、感染イベントがそれに次ぐ。
【0171】
ESRD患者は、心血管疾患および急性の感染の合併症の両方にかかりやすくする慢性の炎症状態を発症する。ESRD患者は、適切な血液透析にもかかわらず、より感染しやすくなる。慢性の血液透析は、膜の活性化、炎症、およびクリアランスと無関係に、慢性の炎症誘発性状態に等しいサイトカインのパターンの変化を引き起こす(例えば、Himmelfarb et al. (2002) Kidney Int. 61(2):705-716; Himmelfarb et al. (2000) Kidney Int. 58(6):2571-2578参照)。これらの小さいタンパク質は血液透析され得るが、血漿量は、産生率の増加により変化しない(例えば、Kimmel et al. (1998) 上記; Bologa et al. (1998) 上記; Zimmermann et al. (1999) 上記; Himmelfarb et al. (2002) 上記; Himmelfarb et al. (2000) 上記参照)。血液透析を受けているESRD患者における酸化ストレスへの増強した曝露は、さらに免疫システムを損ない、易感染性を高める(例えば、Himmelfarb et al. (2002) 上記; Himmelfarb et al. (2000) 上記参照)。
【0172】
ESRD患者における慢性の炎症性状態は、IL-1、IL-6、およびTNF-αを含む増加した炎症誘発性サイトカイン量と共に、新たな臨床マーカーであるCRPの増加量によって明らかである。(例えば、 Kimmel et al. (1998) 上記; Bologa et al. (1998) 上記; Zimmermann et al. (1999) 上記参照)。これらのパラメータの全てが、ESRD患者における増加した死亡率と関連する。特に、IL-6は、血液透析患者における死亡率と密接に相関する単一の予測因子として同定されている。IL-6が1ミリリットル当たり1ピコグラム増加するごとに、心血管疾患の相対死亡率が4.4%ずつ上昇する(例えば、Bologa et al. (1998)上記参照)。実際、炎症誘発性状態が、ESRDを患う患者における好中球のプライミングおよび活性化に起因することを示唆する証拠が増えている(例えば、Sela et al. (2005) J. Am. Soc. Nephrol. 16:2431-2438参照)。
【0173】
方法
末期腎不全を患う患者は、血液濾過装置、SCID、およびクエン酸塩または、対照として、血液濾過装置、SCID、およびヘパリン(すなわち、クエン酸塩処置またはヘパリン処置を含む、それぞれ、
図2Cまたは2Dの1つの回路内にある
図5または
図6の1つのSCID)を含む体外回路を使用して処置された血液を有する。該研究は、各SCID内に尿細管細胞も含み得る(それにより、該SCIDは腎臓補助装置またはRADとしても作用する)。血液は、患者から血液濾過装置へ、SCIDへと流れ、患者に戻る。患者に戻る血液の流れを促進するために、適切なポンプおよび安全フィルターも含まれ得る。
【0174】
クエン酸塩またはヘパリンを有するSCIDの効果を評価するためのデータセットは、SCID炎症パラメータ(血液濾過前、第2カートリッジの前後の血清における、様々なサイトカイン量(IL-6、IL-8、TNF-α、IL-1、INF-γ))ならびに好中球によりエキソサイトーシスされた化合物(ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼおよびラクトフェリン)(これらは、SCID内にある様々な構成要素カートリッジの全域の白血球活性を評価するために測定される)を含む。SCIDおよびUFを有する回路(例えば、
図3の回路内にある
図7のSCID)が使用される場合、これらの要素の同時測定も、処置の進行の間の血液およびUF区画と相関させるために、第2カートリッジの前後のUFにおいて行われる。
【0175】
結果および考察
SCIDおよびクエン酸塩を含む体外回路で血液が処置されたESRD患者は、SCIDおよびヘパリンを含む体外回路で処置されたESRD患者と比較して、著しくより良い結果を示す。特に、炎症誘発性マーカーは、ヘパリン処置を含むSCID処置を受けている患者と比べて、クエン酸塩処置を含むSCID処置を受けている患者において下がることが期待される。
【0176】
実施例8.心肺バイパス回路の一部としての選択的細胞吸着除去装置
この実施例に記載される実験は、SCIDとして単一血液濾過カートリッジ(例えば、
図5または6に示されるSCID)を使用した。このカートリッジは、より大きい体積流量回路と並列の回路内に血流(200mL/分)を有する体外回路へ接続されていた。クエン酸塩の局所的抗凝固は、この並列回路の抗凝固およびSCID内の膜の外部表面に沿って隔離される白血球を失活させる手段の両方を改善するために使用される。
【0177】
このプロトコールは、子ウシモデルにおいて、SCIDと共に体外のCPB回路を含んでいた。各回路におけるSCIDの使用は、循環白血球、主に好中球の実質的な減少と一時的な相関関係を有した。この減少は、隔離効果の飛躍的進歩なしに、この手順の間ずっと維持された。安全性の問題なしに既存のCPB回路にSCIDを容易に組み込む回路設計を、
図4Bおよび4Cに示す。
【0178】
背景
心臓手術の進歩は、CPBの技術に完全に依存している。残念なことに、全身性炎症反応はCPBと関連して生じ、手術後の多臓器機能不全を引き起こすことが認識されている。CPBの間の多くの傷害は、血液成分の人工膜活性化(膜酸素供給器)、外科手術による外傷、臓器への虚血再灌流傷害、体温変化、心臓切開吸引による血液活性化、およびエンドトキシンの放出を含む、この炎症反応を開始および拡大することが示された。これらの傷害は、白血球活性化、サイトカインの放出、補体活性化、およびフリーラジカルの生成を含む複雑な炎症反応を促進する。この複雑な炎症過程は、しばしば、ALI、AKI、出血性障害、変化した肝機能、神経機能障害、および最終的に多臓器不全(MOF)の発症の一因となる。
【0179】
肺機能障害は、CPBを必要とする手術後に非常によく起こる。この急性肺損傷は、軽症の手術後の呼吸困難から劇症のARDSにまで及び得る。ほぼ20%の患者が、CPBを必要とする心臓手術後、48時間よりも長い間、人工呼吸器を必要とする。ARDSは、50%を超える死亡率で、約1.5〜2.0%のCPB患者に発症する。AKIを伴う腎機能障害も、CPB後の成人患者によく起こる。これらの患者の最大40%が、血清クレアチニンおよびBUNの上昇を発症し、1〜5%で透析補助が必要となり、術後の死亡率は80%に近づく。
【0180】
CPB後の多臓器機能障害に関わるメカニズムは、多数で、相互に関連し、複雑であるが、CPB誘導性ポストポンプ症候群におけるARDSの発症において、循環白血球、特に、好中球の活性化における重要な役割を示唆する証拠が増えている。ARDSおよびポストポンプ症候群の両方における急性肺損傷が、肺でのPMN隔離後、主に好中球に仲介されることを支持する証拠が増えている。隔離および活性化されたPMNは肺組織に移動し、結果的に組織傷害および臓器機能障害を引き起こす。CPBの間の白血球枯渇に向けられる、当技術分野において記載される治療的介入は、前臨床動物モデルおよび早期臨床研究の両方で評価されてきた。当技術分野の白血球を枯渇させるフィルターを使用した結果は一貫性がなく、CPBの間の循環白血球数の減少はなかったが、酸素要求の軽度の改善はあった。当技術分野の白血球を減少させるフィルターを使用する選択的な冠動脈バイパス移植(CABG)を受けている患者においては、顕著な臨床的改善は見られなかった。対照的に、本発明のシステム、装置、および方法は、下記のように、有益な効果を有する。血液分離装置を使用した白血球の枯渇は、術後の肺のガス交換機能を改善し得る。
【0181】
方法および結果
手術を、SCID 102、SCID 103、およびSCID 107として識別される3匹の子ウシの各々に対して行った。各子ウシ(約100kg)を、全身麻酔下に置き、心室補助装置(VAD)を設置するためにCPB回路に接続した。CPBを、心筋保護および大動脈遮断を使用して60〜90分間遂行した。SCIDは、各動物について下記に識別されたように、
図4Bまたは
図4Cのいずれかに描かれた場所に設置される。3匹の動物(SCID 102、SCID 103、およびSCID 107)の結果を、
図22A〜22Fおよび23A〜23Bにまとめる。
【0182】
手術の詳細および結果
SCID 102について、回路は、
図4Bにあるように設置され、回路内のSCIDとしてF40 カートリッジ (Fresenius Medical Care, ドイツ)を有した。
図22A〜22Fに示されるように、白血球および血小板の数に減少が観察された。
図22Eに示されるように、好酸球数は減少したが、これは急性肺損傷において重要であり得る。
【0183】
SCID 103について、回路は、
図4Bにあるように設置され、回路内のSCIDとしてHPH 1000血液濃縮器(Minntech Therapeutic Technologies、ミネアポリス、ミネソタ州)を有した。SCID処置は75分続き、SCID処置の終了の15分後に、追加試料を取得した。
図22A〜22Eに示されるように、白血球の時間依存的な減少が観察された。SCIDが75分の時点で接続を切られると、15分以内に好中球の劇的な回復があった。凝固は観察されなかった。
【0184】
SCID 107 について、回路は、
図4Cにあるように設置され、回路内のSCIDおよび血液濾過装置/血液濃縮器の各々としてHPH 1000血液濃縮器(Minntech Therapeutic Technologies、ミネアポリス、ミネソタ州)が使用された。CPBは、SCIDが組み込まれる15分前に開始され、SCID処置は45分続いた。SCID処置の終了の15分後に、追加試料を取得した。
図22A〜22Fに示されるように、SCIDを回路内に組み込む前に白血球および血小板の数が減少し、単球を除き、SCIDの導入によりさらに減少した。この手術において、圧力プロファイルを取得し、50mL/分のUF流が示された。
【0185】
図23Aおよび23Bに示されるように、全身性Ca
iが維持され、SCID回路Ca
iは目標範囲内にあった。これらの手術から一般に注目すべきこととして、限外濾過液(UF)はより低いSCID圧力では観察されなかった。
【0186】
結論
この実施例に記載された実験は、体外回路(例えば、CPB回路)内へのSCID装置の組み込みが、白血球および血小板を隔離し得る、および手術中の良好な臨床転帰の可能性を高め得ることを示唆する。
【0187】
実施例9.動物モデルにおける心肺バイパスにより誘導される急性肺損傷(ALI)および急性腎損傷(AKI)と関連する炎症の治療
実施例8に記載された実験の延長として、この実施例に記載される実験が、白血球を隔離するおよびそれらの炎症作用を阻害するための本発明の装置の、CPBにより誘導されるALIおよびAKIの治療における有効性を示すように計画される。
【0188】
特に、この実施例の目的は、CPBにより誘導されるALIまたはAKIを効果的に治療するSCIDプロトコールの最適化を伴う。この目標を達成するために、動物は、
図4B、4C、4E、または4Fに記載されるCPB回路のいずれかを使用して処置され得る。各回路は、SCIDおよびクエン酸塩の供給口を含む。あるいは、
図4Aまたは4Dに記載されるCPB回路が試験され得る。各回路は、クエン酸塩注入のないSCIDを含む。さらに、CPBの間に使用されるSCIDは、処置が行われている間、未使用のSCIDと交換され得る、ならびに/または1つもしくは複数のSCIDが、
図4A〜4Fのいずれかの「SCID」の位置に、直列にまたは並列に設置され得る。
【0189】
CPBにより誘導されるALIのメカニズムおよび治療的介入を評価するために、様々なブタモデルが文献に報告されている。例えば、実証可能なALIは、追加的な傷害により追加的に誘導され得るということが先のブタモデルにおいて実証された。それらの傷害には以下のことが含まれる。(1)60〜120分のCPBの時間;(2)虚血/再灌流傷害を引き起こす大動脈遮断および心臓の低温心筋保護(cardiac cold cardioplegia);(3)血液成分(白血球、血小板、および補体)の活性化を促進する、開放式貯留槽を用いた心臓切開吸引;ならびに(4)おそらく心臓手術および軽度の虚血/再灌流傷害後の胃腸バリアの機能障害に起因する、CPB後の検出可能なエンドトキシン量が原因で患者において観察されるSIRS反応と類似のSIRS反応を促進するCPB後のエンドトキシン注入。
【0190】
CPB後3.5時間以内および連続的なリポ多糖(LPS;60分かけて1μg/kg)後2時間以内の肺機能および気管支肺胞洗浄(BAL)液中の分子マーカーの顕著な変化を伴うCPBにより誘導されるALIの確立されたブタプロトコールが報告された。この報告されたプロトコールは、大腿骨-大腿骨低体温バイパス(femoral-femoral hypothermic bypass)術と、それに続く、CPBが中止された30分後に始まる60分のLPS注入を使用する。肺のパラメータを、これらの連続的な傷害の後2時間まで測定し、著しい傷害パラメータが観察された。CPBを用いる臨床診療をより反映しながら、4時間で測定可能なALIを引き起こすように、他のプロトコールが、開発され得る。
【0191】
この実施例は、追加の傷害を促進するための心臓切開およびCPBの間の開放式静脈貯留槽への心臓吸引とともに、ベースラインプロトコールとして、60分のCPB、大動脈遮断、および心臓の低体温心筋保護を利用する臨床的に意義のあるALIおよびAKIのモデルを使用する。これが、測定可能なALIおよびAKIを引き起こすのに十分ではない場合、その後、CPBの完了30分後に始まる30〜60分の大腸菌LPS(0.5〜1.0μg/kg)注入を加える。このCPBブタモデルに対する一般的アプローチを、以下に詳述する。
【0192】
CPBプロトコール
1つの例示的プロトコールでは、ヨークシャーブタ (30〜35kg)に、IMアトロピン(0.04mg/kg)、アザペロン(4mg/kg)、およびケタミン(25mg/kg) を前投与し、その後、5μg/kgのフェンタニルおよび5mg/kgのチオペンタールを使用して麻酔する。8-mmの気管内チューブ (Mallinckrodt Company、メキシコシティ、メキシコ)を使用して挿管した後、ブタを仰臥位に置く。麻酔を、5mg/kg/時間のチオペンタールおよび20μg/kg/時間のフェンタニルの連続的な注入により維持する。筋弛緩を、0.2mg/kgのパンクロニウムで誘導し、その後、最適な手術条件および換気条件を達成するために、0.1mg/kgのパンクロニウムを断続的に再注入する。
【0193】
換気を、従量式人口呼吸器を使用して、全量10mL/kgおよび終末呼気陽圧のない吸入気酸素比1に設定する。ポリエチレン製の監視ラインを、外頸静脈ならびに大腿動脈および大腿静脈に設置する。食道および直腸の温度プローブを挿入する。胸骨正中切開を行う。16mmまたは20mmのTransonic社製の血管周囲流プローブ(perivascular flow probe)を主肺動脈に設置し、Millar社製のマイクロチップ式圧力トランスデューサーを肺動脈および左心房に設置する。CPBを開始する前に、心拍出量の決定のために、ベースラインの肺動脈圧、流速および左心房圧力を測定する。全身ヘパリン処置(300U/kg)の後、18Fのメドトロニック社製のDLP動脈カニューレを上行大動脈に設置し、24Fのメドトロニック社製のDLP1段式静脈カニューレを左心房に設置する。
【0194】
CPB回路を、1000mLの乳酸リンゲル液および25mEqのNaHCO
3を使用して刺激する。回路は、Medtronic社製のBiomedicus遠心式血液ポンプ、一体式熱交換器を有するMedtronic社製のアフィニティ中空繊維酸素供給器、および心臓切開術用の貯留槽からなる。Medtronic社製のアフィニティ38-μmフィルターを、微粒子破片を捕獲するために動脈肢に設置する。左心室は、通気ラインがSarns社製のローラーポンプおよび心臓切開術用の貯留槽に接続された12-Ga Medtronic社製の標準的な大動脈根カニューレを使用して通気される。除去された血液を心臓切開術用の吸引カテーテルを使用して回収し、また、Sarns社製のローラーポンプおよび心臓切開術用の貯留槽に接続する。心肺バイパスを開始し、換気を中断し、全身灌流を2.4L/分/m
2体表面積に維持する。中等度の灌流低体温(32℃の直腸温度)を使用し、流れの変更および静脈内のフェニレフリン注入(0〜2μg/kg/分)によって、大動脈圧平均値を60〜80mmHgに保つ。上行大動脈を遮断し、血液で4:1の比に希釈したミシガン大学標準心筋保護液からなる心筋保護液を、7℃で大動脈根カニューレに送達する。該溶液は、クエン酸塩/リン酸塩/デキストロース(CPD)、トロメタミン、および塩化カリウムからなる。総用量1Lの心筋保護液を送達し、500mLを20分ごとに繰り返した。全身復温を40分後に始め、体外循環を60分後に止める(遮断時間45分)。CPBからの離脱の前に、肺を、3回の呼吸に対して10秒間、30-cm H
2O気道内圧まで膨らませ、同じ人工呼吸機設定を使用して機械による換気を再開する。CPBからの離脱の間、大動脈圧を正常範囲内に維持するために、エピネフリン(0〜1μg/kg/分)注入を用量設定する。体外循環の停止から30分以内に、酸素供給器内の血液を循環に戻し、ヘパリンをプロタミン(100Uのヘパリンに対して1mg)によって無効にし、正常温度の直腸温度を達成する。生理学的測定を、CPBの前、CPBの間、およびCPBの後4時間、記録する。
【0195】
体外回路
ALIおよびAKIを反映する実質的な変化を有するCPBのブタモデルを用いて、回復中の組織傷害におけるSCIDの影響を直接試験することができる。単一カートリッジSCIDを、(例えば、
図4Fに示されるように)膜酸素供給器の後の並列回路内に設置する。膜酸素供給器は循環白血球を活性化し、その後、この循環白血球はSCID内で隔離されると考えられる。並列回路の末端でのCa
2+再注入を用いて、血液のイオン化Ca
iを目標水準、例えば、約0.2〜約0.4mMに下げるため、クエン酸塩を局所SCID並列血液回路に加える。2群の動物を評価し、比較する。第1の群はSCIDおよびヘパリン抗凝固を受け、第2の群はSCIDおよびクエン酸塩抗凝固を受ける。各群6匹を有し、各群の3匹を処置した後、2群の分析を始める。局所的クエン酸塩抗凝固を標準治療溶液および臨床プロトコールを利用して達成する。クエン酸塩は、カルシウムと結合することによって抗凝固剤として作用する。その結果、結合したカルシウムは、凝固因子を誘発するのに利用できない。十分な凝固および心臓機能を可能にする全身のCa
i量を元の状態に戻すために、血液が動物に戻る直前に、カルシウムを血流に加える。
【0196】
クエン酸抗凝固のための連続的腎置換療法に使用される現在の標準的なプロトコールを使用する。ACD-A クエン酸塩 IV 溶液 (Baxter Healthcare)を、クエン酸塩注入ポンプおよびSCID前のSCID血液注入ポートへのラインへ接続する。全身のカルシウムを回復させるため、注入ポートを経たSCID後の戻された血液に、カルシウムを投与する。0.2〜0.4mmol/Lのカートリッジ前Ca
i量を達成するために、クエン酸塩注入液の速度(mL/時間)は、血液流速(mL/分)の1.5倍である。
【0197】
SCID血液流速を200mL/分になるようにし、200mL/分の流速で設定されたSCID前の血液回路に設置されたポンプを使用して制御する。0.9〜1.2mmol/Lのシステム内Ca
i量(動物血流値)を達成するために、塩化カルシウム(20mg/mL、0.9% N.S.)をSCID後の血液ラインに注入する。最初のCa
2+注入速度は、クエン酸塩注入速度の10%である。全身Ca
i量を反映させるために、ポンプシステム前のCPB回路の動脈末端およびSCID並列回路の静脈末端においてCa
i量を評価する。全Ca
iを、i-STAT(登録商標)診断装置(Abbott Labs)を使用して測定する。
【0198】
急性肺損傷(ALI)の測定
肺機能
CPB後のALIは、肺胞-動脈血酸素供給勾配、肺内シャント率、肺コンプライアンス、および肺血管抵抗の上昇をもたらす。これらのパラメータを、CPB期間後4時間、30分ごとに測定する。
【0199】
肺組織分析
ポストポンプ症候群の中のALIは肺内の好中球蓄積および間質液の増加と関連する。好中球の凝集を、BALに使用されない部分から肺組織を取得することによって、研究プロトコールの最後に評価する。組織の試料を、組織好中球浸潤を反映するミエロぺルオキシダーゼ組織活性、半定量的好中球数の組織学的処理、および肺組織における水の重量(乾燥前後で重量に違いがあり、湿重量のパーセント[(湿重量−乾燥重量) / 湿重量]として表す)のために使用する。
【0200】
BAL液体分析
20mLの通常の生理食塩水の3回の連続注入および穏やかな吸引での肺の右中葉の挿管によって、BAL液を取得する。この液体を、タンパク質含有量(微小血管損傷を反映する)ならびにサイトカイン濃度(IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-α)について調べる。上皮、好中球、およびマクロファージ/単球を含む、様々な細胞成分の合計およびパーセンテージを提供するために、BAL液内の細胞数を、細胞学染色法を用いたサイトスピンの後に決定する。肺胞マクロファージを単離し、一晩インキュベートし、LPSに対するそれらのサイトカイン反応を次の日に調べる。マトリックスメタロプロテイナーゼ-2および-9、エラスターゼ、ならびにミエロペルオキシダーゼの液量を、組織傷害を発症させるのに重要な、活性化好中球により分泌された産物を反映するものとして定評のあるアッセイ法で測定する。
【0201】
急性腎損傷(AKI)の測定
最近の臨床データは、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)が、CPB後のAKIの早期バイオマーカーであることをはっきり実証した。CPBの2時間後における尿中および血清中のNGAL量はAKIの非常に特異的な、高感度の予測マーカーであり、血清クレアチニンおよびBUNの上昇が続いて起こる。血清および尿を、全動物のベースライン時、CPB停止時、CPBの1時間後に回収する。NGAL量は、ブタについての高感度ELISAアッセイによって決定する。NGAL量における違いは、この動物モデルにおけるAKIの度合いを反映するはずである。
【0202】
血清生化学検査を、自動化学分析器を用いて測定する。サイトカイン量を、ブタのサイトカイン(IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-α(R & D Systems))に反応する市販のELISAアッセイキットを用いて測定する。BAL液を、細胞数および細胞型の分布、血管漏出の尺度としてのタンパク質、ならびにIL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-αを含むサイトカイン量のために取得する。
【0203】
心血管データおよび生化学データを、反復測定分散分析(ANOVA)によって分析する。様々な部分の血漿レベル、および生存期間を、必要に応じて、対応のあるまたは対応のないステューデントT-検定を利用して比較する。
【0204】
SCIDを含むCPBシステム内においてクエン酸塩局所抗凝固を受ける動物は、NGALを使用して測定された場合、肺機能障害、肺の炎症、およびAKIをあまり示さないと考えられる。好中球減少症および白血球減少症による全身の白血球(WBC)数の程度は、3時間で底を打つが、両群において同じ規模であるとも考えられる。白血球性炎症指標の放出は、ヘパリン群と比べて、クエン酸塩群において阻害されるとも考えられる。
【0205】
参照による組み込み
本明細書に言及される出版物および特許文献の各々の開示全体は、各々の個々の出版物または特許文献がそのように個々に示されるのと同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書の中で援用される。
【0206】
同等物
本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなしに、他の特定の形態で実施されてもよい。それゆえに、前述の実施形態は、あらゆる点で、本明細書に記載の本発明に対する限定ではなく、例証であるとみなされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の記載ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と同等の意味および範囲内で生じる全ての変更は、その中に包含されることが意図される。