特許第5769450号(P5769450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769450
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】車両用前照灯の配光制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20150806BHJP
   F21S 8/12 20060101ALI20150806BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   B60Q1/14 D
   F21S8/12 210
   F21S8/12 220
   F21S8/12 268
   F21S8/12 290
   F21W101:10
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-47135(P2011-47135)
(22)【出願日】2011年3月4日
(65)【公開番号】特開2012-183875(P2012-183875A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年2月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 尚己
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 真嗣
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001043(JP,A)
【文献】 特開2010−000957(JP,A)
【文献】 特開2007−112250(JP,A)
【文献】 特開昭62−253545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00−1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の前方に存在する車両の車両存在領域の領域端部を検出し、当該車両存在領域の領域端部の検出信号に基づいて当該車両存在領域を遮光するように自車の前照灯の配光を追従制御する手段を備える配光制御装置であって、領域端部が車両存在領域側に移動するときに信号レベルが低下される検出信号を保持して当該検出信号を遅延させるピークホールド回路を備えることを特徴とする車両用前照灯の配光制御装置。
【請求項2】
自車の前方に存在する車両の車両存在領域を検出し、当該車両存在領域の検出信号に基づいて当該車両存在領域を遮光するように自車の前照灯の配光を追従制御する手段を備える配光制御装置であって、車両存在領域が縮小するときに信号レベルが低下される検出信号を保持して当該検出信号を遅延させるピークホールド回路を備えることを特徴とする車両用前照灯の配光制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両の前照灯の配光を制御する配光制御装置に関し、特に自車の前方領域に存在する前方車両に対して配光を追従制御する配光制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の前照灯として自車の前方領域に存在する先行車や対向車に対する眩惑を防止する一方で当該前方領域の視認性を高めた配光制御装置の一つにADB(Adaptive Driving Beam )制御を採用したものがある。このADB制御はハイビーム配光での光照射を行う際に先行車や対向車等の前方車両を検出し、検出した前方車両に対して眩惑するおそれのある領域を遮光することで前方車両に対する眩惑を防止しながら自車の前方領域の可及的に広い領域を照明して視認性を向上するものである。例えば、特許文献1は自車の前方に存在する車両を検知し、自車の前照灯のロービーム用配光のカットオフラインよりも上方の領域に付加配光を付加した配光を構成し、この配光パターンを前方車両に対応して左右方向にスイブル制御することで配光におけるカットオフラインを変化制御し、前方車両を眩惑することなく自車両の前方領域の視認性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなADB制御においては、前方車両に対する眩惑を防止するために前方車両が存在する車両存在領域の領域変化に追従して配光パターンの切り替えを行ない、あるいは配光のスイブル制御を行っている。また、車両存在領域の変化に追従して配光を上下方向に偏向制御するレベリング制御を行うこともある。そのため、前方車両による細かな車両存在領域の変動に対して配光パターンの切替、スイブル制御、レベリング制御を追従させたときには、これらの制御が頻繁に行われることになり、自車の前方領域の照明状態の変化によって運転者に煩わしさを感じさせることになる。特に、前方に複数の車両が存在しているような場合には、各車両の車両位置が複雑に変化して車両存在領域も複雑に変化されるため自車の前方領域の照明状態の変化が顕著なものになる。このような問題を解消するために配光パターンの切替、スイブル制御、レベリング制御の追従速度を抑制すると、車両存在領域が高速で変化する場合に追従できなくなり前方車両を眩惑してしまうことになる。
【0005】
本発明の目的は前方車両に対する眩惑を防止する一方で自車の運転者に対する配光制御の煩わしさを解消することを可能にした配光制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、自車の前方に存在する車両の車両存在領域の領域端部を検出し、当該車両存在領域の領域端部の検出信号に基づいて当該車両存在領域を遮光するように自車の前照灯の配光を追従制御する手段を備える配光制御装置であって、領域端部が車両存在領域側に移動するときに信号レベルが低下される検出信号を保持して当該検出信号を遅延させるピークホールド回路を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の発明は、自車の前方に存在する車両の車両存在領域を検出し、当該車両存在領域の検出信号に基づいて当該車両存在領域を遮光するように自車の前照灯の配光を追従制御する手段を備える配光制御装置であって、車両存在領域が縮小するときに信号レベルが低下される検出信号を保持して当該検出信号を遅延させるピークホールド回路を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明において、検出信号を遅延する手段はピークホールド方式で構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘッドランプの配光を前方車両の位置変化、すなわち車両存在領域の変化に追従して制御し、前方車両に対する眩惑を防止する場合に、車両存在領域の領域端部が車両存在領域と反対側に移動するとき、例えば車両存在領域が拡大方向に変化するときには、当該変化に追従して制御を行うことにより前方車両に対する眩惑を確実に防止することができる。一方、車両存在領域の領域端部が車両存在領域側に移動するとき、例えば車両存在領域が縮小方向に変化するときには、当該変化に対する制御を実質的に遅延させることで、車両位置の細かい変化にかかわらず実質的な配光制御を行わないようにし、前方車両に対する眩惑を防止しながらも頻繁な配光の切り替えを回避して運転者が煩わしさを感じることを防止することができる。
【0010】
本発明によれば、検出信号を遅延する手段をピークホールド方式で構成することで、簡単な構成でありながら領域端部が車両存在領域側に変化したとき、あるいは車両存在領域が縮小したときに車両存在領域の検出信号を遅延させ、配光が直ちには追従制御されないようにすることを実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の配光制御装置の実施形態の概念構成図。
図2】本実施形態のヘッドランプの概略構成図。
図3】左右のヘッドランプによる配光パターンの設定を説明する図。
図4】車両存在領域を説明する図。
図5】車両存在領域に対する配光制御を例示する模式図。
図6】車両存在領域の領域端部の検出信号とそのピークホールド出力、及びスイブル制御方向を説明するためのタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明を自動車のヘッドランプに適用した配光制御装置の概念構成図である。自動車の前部の左右にそれぞれ左ヘッドランプLHLと右ヘッドランプRHLが搭載されており、これらヘッドランプLHL,RHLの配光を配光制御装置100によって制御するように構成されている。左右の各ヘッドランプLHL,RHLは基本的には同じ構成であり、例えば図2に右ヘッドランプRHLを示すように、ランプボディ11と透光性のある前面カバー12とで構成されるランプハウジング1内にプロジェクタ型のランプユニット2が内装されている。このランプユニット2は、ここでは詳細な説明は省略するが放電バルブからなる光源21と、回転楕円形状のリフレクタ22と、当該リフレクタ22の前方位置に配設された投射レンズ23と、投射レンズ23から投射する光の配光パターンを形成するための可変シェード24を備えている。
【0013】
このランプユニット2はランプハウジング1内に配設したブラケット3に支持されるとともにスイブルアクチュエータ4によって左右方向にスイブル制御、すなわち光照射方向を左右に偏向可能に構成されている。前記ブラケット3は複数箇所においてエイミングボルト31で前記ハウジング1に支持されるとともに、ブラケット3の一部はレベリングアクチュエータ6のレベリングロッド61に連結されており、このレベリングアクチュエータ6を駆動することによってブラケット3は上下方向に傾動され、ランプユニット2の光軸を上下方向に偏向可能に構成されている。さらに、前記可変シェード24は円筒状をした主軸241の周面に複数の異なる形状をした遮光板242を備えた構成とされており、シェードアクチュエータ5によって軸回り方向に回転位置が可変とされている。この回転位置を変化することによりランプ光軸上に位置する遮光板242が変化され、ランプユニット2から投射する光の配光パターンを変化することが可能とされている。前記放電バルブ21は放電回路ユニット7に電気接続されて点灯される。
【0014】
図3は前記可変シェード24によって制御される左右の各ヘッドランプLHL,RHLの配光パターンと、これら左右のヘッドランプLHL,RHLの配光パターンを重畳したヘッドランプ全体としての配光パターンを示す図である。同図横枠の右ヘッドランプRHLでは、可変シェード24の第1回転位置ではカットオフラインが存在しないハイビーム配光RHを形成し、第3回転位置ではカットオフラインを有するロービーム配光RLを形成する。また、第2回転位置では右側領域がハイビーム配光で左側領域がロービーム配光をした右側ハイビーム配光、ここでは右片ハイ配光と略称する配光RMを形成する。同様に同図縦枠の左ヘッドランプLHLでは可変シェード24の回転位置に応じてハイビーム配光LH、ロービーム配光LL、および左片ハイ配光LMを形成する。これにより、ヘッドランプ全体としては、左右の各ヘッドランプLHL,RHLの配光を重畳することで、同図に示すように、ハイビーム配光Hi、ロービーム配光Lo、右片ハイ配光RHi、左片ハイ配光LHi、さらには右片ハイ配光と左片ハイ配光を重畳して中央が凹状をしたスプリット配光SPでの照明が行われることになる。なお、ハイビーム配光Hiについては左右のヘッドランプの各光の重畳により光度分布の異なるハイビーム配光が得られる。
【0015】
図1を再度参照すると、前記配光制御装置100は、前方道路上に存在する他車両、すなわち前方車両が存在する領域を検出する車両存在領域検出部101と、検出した車両存在領域に基づいて自車の左右のヘッドランプLHL,RHLの配光パターンを決定するADB制御部102と、検出した車両存在領域に基づいて自車の左右のヘッドランプLHL,RHLの各スイブルアクチュエータ4を制御するスイブル制御部103と、検出した車両存在領域に基づいて自車の左右のヘッドランプLHL,RHLの各レベリングアクチュエータを制御するレベリング制御部104を備えている。さらに、前記配光制御装置100は、車両存在領域検出部101で検出した車両存在領域の検出信号に基づいて当該車両存在領域の領域変化を認識し、この領域変化に基づいて前記スイブル制御部103とレベリング制御部104での制御タイミングを制御するタイミング制御部105を備えている。
【0016】
車両存在領域検出部101には自車の前方領域を撮像する撮像カメラCAMが接続されている。この車両存在領域検出部101は前記撮像カメラCAMで撮像した画像に基づいて前方車両を検出する。この前方車両の検出方法は種々の方法が考えられるが、その一つとして撮像された車両の左右に設けられているヘッドランプやテールランプ等の灯火を利用する方法がある。例えば、図4(a)に示すように、画像中に対向車CAR1が存在する場合に、当該対向車CAR1の左右のヘッドランプHLを検出し、検出した灯火の右側の灯火位置XRを右側領域端部とし、左側の灯火位置XLを左側領域端部とし、これら左右の領域端部で挟まれる領域を左右方向の車両存在領域とする。また、図4(b)のように対向車CAR1,CAR2や先行車CAR3等の複数の前方車両が存在するときには、最も左側に存在する車両CAR3の左側の灯火位置を左側領域端部XLとし、最も右側に存在する車両CAR1の右側の灯火位置を右側領域端部XRとして検出する。また、上下方向については、図4(a)のように1台の車両CAR1の場合には特に上下方向の領域端部は設定しないが、図4(b)のように複数台の車両が存在する場合には検出した最も上側の車両CAR2の灯火位置YUを上側領域端部とし、最も下側の車両CAR1の灯火位置YDを下側領域端部とし、これらの領域端部で挟まれる領域を上下方向の車両存在領域として検出する。そして、この車両存在領域検出部101では、検出した車両存在領域の右側領域端部XR、左側領域端部XL、下側領域端部YDがそれぞれ車両存在領域が拡大する方向に変化したときに各検出信号の信号レベルが増大するように構成されている。すなわち、右側領域端部XRが右方向に移動変化するとき、左側領域端部XLが左方向に変化するとき、下側領域端部YDが下方向に変化するときにそれぞれの検出信号の信号レベルが増加するように構成されている。
【0017】
ADB制御部102は前記車両存在領域検出部101において検出した車両存在領域に基づいて左右の各ヘッドランプLHL,RHLの各可変シェード24のシェードアクチュエータ5をそれぞれ独立して制御することにより、図3に示したように、右ヘッドランプRHLについては配光パターンRH,RL,RMに切り替え、左ヘッドランプLHLについては配光パターンLH,LL,LMに切り替えることが可能である。したがって、これら左右のヘッドランプLHL,RHLの配光を重畳することにより、ヘッドランプ全体の配光はハイビーム配光Hi、ロービーム配光Lo、右片ハイ配光RHi、左片ハイ配光LHi、スプリット配光SPのいずれかに制御することができる。
【0018】
スイブル制御部103は、車両存在領域検出部101で検出した検出信号、すなわち車両存在領域に基づいて左右の各ヘッドランプLHL,RHLのスイブルアクチュエータ4を駆動し、各ヘッドランプLHL,RHLのランプユニット2を左右に偏向制御する。このスイブル制御部103はADB制御部102において設定される左右のヘッドランプの各配光によって前方車両を眩惑することがないように、換言すれば各ヘッドランプの配光で車両存在領域を照射することがないように各ヘッドランプの光軸をそれぞれ独立して左右方向に偏向制御するように構成されている。
【0019】
同様にレベリング制御部104は、車両存在領域検出部101で検出した車両存在領域に基づいて左右の各ヘッドランプLHL,RHLのレベリングアクチュエータ4を駆動し、各ヘッドランプLHL,RHLのランプユニット2を上下に偏向制御する。このレベリング制御部104はADB制御部102において設定される左右のヘッドランプの各配光によって前方車両を眩惑することがないように、すなわち各ヘッドランプの配光で車両存在領域を照射することがないように各ヘッドランプの光軸をそれぞれ独立して上下方向に偏向制御するようになっている。なお、実際のヘッドランプの配光は、カットオフラインよりも下側の領域を照射するように設定されているので、レベリング制御部ではカットオフラインが車両存在領域よりも下側に向けられるようにレベリング制御するように構成されている。
【0020】
タイミング制御部105は前記車両存在領域検出部101で検出した車両存在領域の検出信号、ここでは当該車両存在領域の右側領域端部XRと左側領域端部XL、および下側領域端部YDをそれぞれ車両存在領域の領域端部の検出信号として入力する。ここでは車両存在領域の上側領域端部YUについては配光の制御に必要とされないので検出信号を入力してはいない。また、このタイミング制御部105は、図示は省略するが所定のホールド時間に設定されたピークホールド回路を備えており、入力された検出信号の信号レベルについてピークホールド処理を実行し、このホールドした信号レベルを前記スイブル制御部103とレベリング制御部104の各制御信号としてそれぞれ出力する。このピークホールド回路のホールド時間は500mS(ミリ秒)に設定されており、このホールド時間だけ検出信号をレベル保持するようになっている。このホールド時間は任意に設定することが可能であり、例えば自車の車速の変化に相関させて変化させるようにしてもよい。そして、このピークホールド回路の出力信号を前記スイブル制御部103またはレベリング制御部104の制御信号として出力するように構成されている。
【0021】
以上の構成の実施形態の配光制御装置100の動作を説明する。車両存在領域検出部101は撮像カメラCAMで撮像した画像信号に基づいて前方に存在する車両の左右の灯火を検出し、これを当該車両の右位置と左位置として検出し、これら右位置と左位置から左右方向の車両存在領域を検出する。前方車両が1台の場合には、図4(a)に示したように、この左位置と右位置がそれぞれ左側領域端部XLと右側領域端部XRとなり、これらで挟まれる領域が左右方向の存在領域となる。また、これら左位置と右位置の高さが下側領域端部YDとなる。前方車両が複数台のときには、図4(b)に示したように、最も右側に存在する車両の右位置と最も左側に存在する車両の左位置がそれぞれ右側領域端部XRと左側領域端部XLとなり、これらで挟まれる領域が車両存在領域となる。また、上下方向については全ての車両のうちの最も上側の上位置と下側の下位置を検出し、これらを上側領域端部YUと下側領域端部YDとして上下方向の車両存在領域を検出する。なお、本発明においては下側領域端部YDよりも上方の領域を遮光するように配光を制御しているので、上側領域端部YUは特に必要とされていない。
【0022】
ADB制御部102は検出された車両存在領域に基づいて左右のヘッドランプLHL,RHLの配光を制御する。例えば、図5(a)に示すように、対向車CAR1と先行車CAR2が存在している場合を例にすると、これらの車両が自車の直進方向の近傍位置に検出されたときには左右のヘッドランプLHL,RHLをそれぞれ片ハイ配光に設定する。すなわち、右ヘッドランプRHLは右片ハイ配光RMとし、左ヘッドランプLHLは左片ハイ配光LMとする。これにより、左右のヘッドランプLHL,RHLの配光が重畳されて中央領域を遮光したスプリット配光SPに制御される。一方、図5(b)に示すように、検出した車両位置が左側または右側に偏っているときには左右のヘッドランプLHL,RHLの少なくとも一方をロービーム配光に設定する。ここでは、対向車CAR1が自車に接近して右側の位置に検出されたときには左ヘッドランプLHLは左片ハイ配光LMのままとし、右ヘッドランプRHLはロービーム配光RLとする。これにより、ヘッドランプ全体の配光は片ハイ配光LHiとなり、右側に存在する対向車CAR1に対しては遮光して眩惑を防止する一方で左側領域の視認性を確保する。この場合、両ヘッドランプの配光をロービーム配光とすることもある。図示は省略するが車両位置が左側に検出されたときには、これと左右反対の配光制御をすることは言うまでもない。
【0023】
スイブル制御部103はADB制御部102で設定された配光と、車両存在領域検出部101で検出された車両存在領域とを認識した上で、当該配光で車両存在領域を照明することがないように左右のヘッドランプLHL,RHLの各ランプユニット2をスイブル制御する。例えば、図5(b)の場合には、ADB制御部102において右ヘッドランプRHLを片ハイ配光RMからロービーム配光RLに切り替えたが、これと同時にスイブル制御部103は右ヘッドランプRHLの光軸を対向車CAR1に追従させて右方向にスイブル制御する。これにより、車両存在領域を照明することがないように配光制御する。対向車CAR1がすれ違って前方に存在しなくなった場合には、スイブル制御部103は右ヘッドランプRHLをロービーム配光RLのまま、あるいは右片ハイ配光RMに切り替えた上で再び光軸を左方向にスイブル制御し、図5(a)の状態に戻すことが可能であることは言うまでもない。
【0024】
なお、この例では実行していないが、前方車両の位置変化に応じてレベリング制御部104も同様に車両存在領域を照明することがないように、左右のヘッドランプLHL,RHLの光軸を上下方向に制御する。これにより車両存在領域に存在する前方車両に対する遮光領域を拡大して眩惑を防止する一方で、車両存在領域の左右両側及び下側領域を照明し自車の前方領域の視認性を確保する。
【0025】
このようなスイブル制御部103とレベリング制御部104におけるスイブル制御とレベリング制御においては、車両存在領域検出部101で検出した車両存在領域が変化する際、換言すれば車両存在領域の領域端部が車両存在領域側またはこれと反対側のいずれの方向に変化したかに応じて追従性を制御する。例えば、図6(a)は車両存在領域検出部101から出力される車両存在領域の右側領域端部の検出信号、ここでは図4(b)に示した右側領域端部XRの検出信号の一例であり、車両存在領域の変化に伴って当該右側領域端部XRが移動すると、これに伴って当該右側領域端部XRの信号レベルが変化される。ここでは前記したように右側領域端部XRが右方向、すなわち車両存在領域とは反対の右方向に移動したときに信号レベルが増加される。この検出信号はタイミング制御部105においてピークホールド回路によりホールドされるため、図6(b)に示すように、破線で示す検出信号の信号レベルが低下してもホールド時間の500msの間は実線のように低下される前の信号レベルに保持されることになる。すなわち、車両存在領域が拡大して右側領域端部XRが右方向に移動したときには信号レベルが増加するため出力される信号レベルもこれに追従して増加するが、車両存在領域が縮小するとき、すなわち右側領域端部XRが左方向に移動したときには信号レベルは減少しても、ピークホールド回路により信号レベルはホールド時間だけ保持され、ホールド時間の経過後に信号レベルが低下することになる。換言すれば検出信号の信号レベルが遅延されて出力されることになる。このことは左側領域端部の検出信号及び下側領域端部の検出信号についても同様であり、車両存在領域が拡大する方向では検出信号の信号レベルは迅速に追従するが、縮小する方向では検出信号の信号レベルは遅延されることになる。
【0026】
したがって、図6(c)に光軸のスイブル制御方向を示すように、前方車両の車両位置が右方向に移動して車両存在領域の右側領域端部XRが右方向に拡大したとき、すなわち車両存在領域が拡大するときには、当該検出信号の信号レベルが増加するため、タイミング制御部105からスイブル制御部103に出力される信号レベルもこれに迅速に追従して増加し、スイブル制御部103は瞬時に右ヘッドランプを右方向にスイブル制御して右片ハイ配光を右方向に偏向する。これにより右方向に位置変化した車両に対する眩惑を防止する。一方、当該右側領域に存在する前方車両の車両位置が左方向に移動して車両存在領域の右側領域端部が左方向に移動して車両存在領域が縮小するときには、右側領域端部XRの検出信号の信号レベルが減少するが、この信号レベルはピークホールド回路によってホールド時間だけ保持されるため、タイミング制御部105からスイブル制御部103に出力される信号レベルもホールド時間だけ遅延されて減少されることになる。これによりスイブル制御部103が右ヘッドランプを左方向にスイブル制御して右片ハイ配光を左方向に偏向するのに遅れが生じる。
【0027】
したがって、図5(b)の状態から対向車CAR1がすれ違って検出できない状態になったときに、右ヘッドランプRHLの配光が左方向に戻るようにスイブル制御することが遅れるため、その直後に図5(a)のように次の対向車(CAR1)を検出し、再び図5(b)の状態になったような場合には右ヘッドランプの配光が左方向に偏向されることなく右方向に偏向されたままとなるため、右ヘッドランプRHLがいたずらに左右にスイブル制御されることがなく、運転者に対する煩わしさが防止できる。
【0028】
因みに、仮にタイミング制御部105にピークホールド回路を備えていないとした場合には、図6(d)に示すように、当該タイミング制御部105から出力される信号レベルは右側領域端部XRの検出信号の信号レベルの変化に伴って追従変化されるため、右ヘッドランプRHLは前方車両の左右方向の移動に伴って左右に偏向制御されることになり、前方車両の眩惑を防止することは可能でも運転者に対する煩わしさを感じさせてしまうことになる。
【0029】
以上の説明は前方車両の車両位置が左方向に移動して車両存在領域の左側領域端部XLが左方向に拡大した場合についても同様であり、左ヘッドランプLHLを追従して左方向にスイブル制御することで当該前方車両に対する眩惑を防止する。その一方で当該車両が右方向に移動して車両存在領域の左側領域端部XLが右方向に縮小した場合にはピークホールド回路によって左ヘッドランプが右方向にスイブル制御することが抑制され、運転者が煩わしさを感じることを防止する。
【0030】
さらに、前方車両の車両位置が下方向に移動して車両存在領域の下側領域端部YDが下方向に拡大した場合についても同様であり、左右のヘッドランプを追従して下方向にレベリング制御することで当該前方車両に対する眩惑を防止する。その一方で当該車両が上方向に移動して車両存在領域の下側領域端部YDが上方向に縮小した場合にはピークホールド回路によって左右のヘッドランプが上方向にレベリング制御することが抑制され、運転者が煩わしさを感じることを防止する。
【0031】
このように、ヘッドランプの配光をスイブル制御、レベリング制御する際に車両存在領域が拡大方向に変化するときには、当該変化に追従して制御を行うことにより前方車両に対する眩惑を確実に防止する。一方、車両存在領域が縮小方向に変化するときには、ピークホールド回路での信号レベルのホールド作用によって当該変化に対する制御を実質的に遅延させることで、車両位置の細かい変化にかかわらず配光制御を行わないようにし、前方車両に対する眩惑を防止しながらも頻繁な配光の切り替えを回避して運転者が煩わしさを感じることを防止することができる。
【0032】
実施形態では車両存在領域検出部101とは別にタイミング制御部105を設け、このタイミング制御部105において車両存在領域検出部101から出力されてくる領域端部の検出信号をピークホールド回路によってホールドして出力することでタイミング制御を行っているが、この種のピークホールド回路を車両存在領域検出部101内に一体的に組み込み、車両存在領域検出部101から出力する領域端部の検出信号をピークホールド処理して出力するようにしてもよい。この場合には実施形態のような独立したタイミング制御部105を省略した配光制御装置として構成することができる。
【0033】
また、実施形態では前方車両の車両位置変化に追従して配光のカットオフラインを追従制御する例、すなわち当該配光を左右にスイブル制御し、また上下にレベリング制御する例について説明したが、図1に破線で示すように、前方車両の車両位置変化に追従してADB制御部102において左右のヘッドランプLHL,RHLの配光パターンを切り替えて実質的に配光のカットオフラインを車両存在領域の変化に追従制御する構成の配光制御装置においても適用することが可能である。この場合にはタイミング制御部105において制御された検出信号、あるいは上記のように実質的にタイミング制御された車両存在領域検出部からの検出信号に基づいてADB制御部102を制御するように構成すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は前方車両の車両位置変化に追従して配光パターンを切り替え、あるいはスイブル制御やレベリング制御により配光のカットオフラインを車両に追従して制御する配光制御装置に採用することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 ランプハウジング
2 ランプユニット
4 スイブルアクチュエータ
5 シェードアクチュエータ
6 レベリングアクチュエータ
24 可変シェード
100 配光制御装置
101 車両存在領域検出部
102 ADB制御部
103 スイブル制御部
104 レベリング制御部
105 タイミング制御部
LHL,RHL ヘッドランプ
CAM 撮像カメラ
CAR1〜3 前方車両


図1
図2
図3
図4
図5
図6