特許第5769484号(P5769484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5769484-マルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法 図000002
  • 特許5769484-マルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769484
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】マルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 43/02 20060101AFI20150806BHJP
   F25B 45/00 20060101ALI20150806BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   F25B43/02 N
   F25B45/00 H
   F25B1/00 387Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-95238(P2011-95238)
(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公開番号】特開2012-225614(P2012-225614A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】石原 淳
(72)【発明者】
【氏名】三苫 恵介
【審査官】 西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−293986(JP,A)
【文献】 特開2008−051497(JP,A)
【文献】 特開平10−170108(JP,A)
【文献】 特開2004−308934(JP,A)
【文献】 特許第3491629(JP,B2)
【文献】 特許第4110818(JP,B2)
【文献】 特許第4140422(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 43/02
F25B 45/00
F24F 1/26
F24F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の冷媒配管系を再利用し、それに新たな室外機および複数台の室内機を接続することによって更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、
前記複数台の室内機を複数のグループに分け、
その一のグループの前記室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの前記室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、他の一のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループとし、
前記液バック運転確保グループとされた前記室内機の中に、前記室外機から最も遠い位置に接続された前記室内機を含め、
それら全ての前記室内機を同時に運転しながら、前記冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行い、該残留油を吸入配管に接続されている油貯留タンクにより回収することを特徴とするマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法。
【請求項2】
既設の冷媒配管系を再利用し、それに新たな室外機および複数台の室内機を接続することによって更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、
前記複数台の室内機を少なくとも3つのグループに分け、
その第1のグループの前記室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの前記室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、第2のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループ、第3のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁の開度を吸入過熱度の検知により前記安定運転確保グループの前記室内電子膨張弁の開度よりも大きく開閉動作して液バック量を調整する液バック量調整グループとし、
前記液バック運転確保グループとされた前記室内機の中に、前記室外機から最も遠い位置に接続された前記室内機を含め、
それら全ての前記室内機を同時に運転しながら、前記冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行い、該残留油を吸入配管に接続されている油貯留タンクにより回収することを特徴とするマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法。
【請求項3】
前記液バック運転確保グループとされた前記室内機は、前記室内電子膨張弁が運転開始時に一旦全開とされた後、徐々に通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御による開度に移行されるように制御されることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法。
【請求項4】
前記安定運転確保グループとされた前記室内機は、前記室内電子膨張弁が運転開始時から通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御により制御されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法。
【請求項5】
前記液バック量調整グループとされた前記室内機は、前記室内電子膨張弁が吸入過熱度を検知しながら開閉動作されるように制御されることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の冷媒配管系をそのまま再利用し、それに新たな室外機および複数台の室内機を接続することにより更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機を新規ユニットに更新する際、既設の冷媒配管系を流用し、室外機および室内機のみを新規ユニットに更新する方法が採られることがある。特に、室内機が複数台接続されているマルチ形空気調和機では、冷媒配管系が複雑で建屋内部に埋め込まれている場合があり、冷媒配管系の交換が困難なため、既設の冷媒配管系をそのまま流用する方法を採っている。この場合、冷媒配管系内に旧冷媒用の油や劣化した油が残っている可能性があるため、冷媒配管内を洗浄して残留油を除去した後、再利用するようにしている。
【0003】
この既設の冷媒配管系を洗浄するための洗浄装置として、例えば特許文献1に示されるように、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器を接続し、圧縮機で搬送される冷媒により既設配管を洗浄して被洗浄物を回収する回収装置と、既設配管に流入する冷媒を気液二相流に制御する制御装置とを備えた専用の配管洗浄装置を、既設の冷媒配管系に接続して洗浄するもの、あるいは特許文献2に示されるように、圧縮機の吸入側に設けられ、循環される冷媒から油を分離する油分離手段(アキュームレータ)と、この油分離手段で分離された油を開閉手段および油通路を介して回収する回収容器と、を備え、油分離手段で分離された既設配管内の残留油を回収容器側に回収するようにしたもの等が知られている。
【0004】
また、特許文献3には、既設の冷却ユニットの半数以上の膨張弁を蒸発器出口冷媒が気液二相状態(液バック状態)となる開度とし、ガス管に一定時間液冷媒を流して既設の冷媒配管を洗浄した後、各ユニットを新規ユニットに更新し、その後、冷凍装置を所定時間だけ洗浄運転するようにした冷凍装置の更新方法が提示されている。更に、その他方法として、新規ユニットに置換された空気調和機の吸入配管系に、残留油を貯留するタンクを備えたリフレッシュキットを接続した状態で空気調和機を、(1)高低圧が安定状態となる冷房運転状態を確保する準備運転、(2)液バックによる配管洗浄運転、(3)タンク内の冷媒追出し運転、の順序で運転して配管洗浄を行う方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3491629号公報
【特許文献2】特許第4110818号公報
【特許文献3】特許第4140422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のものは、圧縮機、凝縮器、蒸発器等を備えた専用の配管洗浄装置が必要なため、それ自体がコスト高となる等の問題があった。また、特許文献2のものは、圧縮機吸入側のアキュームレータに開閉弁等を介して油回収用の容器を接続しなければならず、その設置スペースの確保やコストアップ等の課題があった。更に、特許文献3のものは、既設の冷却ユニットの半数以上を液バック状態で運転し、ガス管を洗浄した後、新規ユニットに置換えるものであり、既設ユニットが運転可能なことが前提となっている。従って、既設ユニットが運転不能な場合、適用できず、しかも多数の冷却ユニットを液バック状態とし、ガス管中の残留油を洗浄するものであるため、圧縮機を保護する必要がある新規ユニットでの配管洗浄運転には、不適当なものであった。
【0007】
一方、新規ユニットの吸入配管系に、リフレッシュキットを接続し、空気調和機を上記の如く(1)ないし(3)の順序で運転して配管洗浄を行う方法では、配管洗浄のための運転時間が長くなってしまうとともに、洗浄運転時間が長くなると、新規ユニットの圧縮機から流出する新油の量が増加し、据付け現場での新油補充量が増加したり、残留油貯留タンク内に冷媒が溜り込んだりする等の問題が生ずる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、既設の冷媒配管系をそのまま流用し、新たな室外機および室内機を接続した後、比較的短時間で冷媒配管を洗浄することができるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法は、既設の冷媒配管系を再利用し、それに新たな室外機および複数台の室内機を接続することによって更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、前記複数台の室内機を複数のグループに分け、その一のグループの前記室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの前記室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、他の一のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループとし、前記液バック運転確保グループとされた前記室内機の中に、前記室外機から最も遠い位置に接続された前記室内機を含め、それら全ての前記室内機を同時に運転しながら、前記冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行い、該残留油を吸入配管に接続されている油貯留タンクにより回収することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、既設の冷媒配管系を再利用し、新たな室外機および室内機を接続して更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、複数台の室内機を複数のグループに分け、その一のグループの室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、他の一のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループとし、液バック運転確保グループとされた室内機の中に、室外機から最も遠い位置に接続された室内機を含め、それら全ての室内機を同時に運転しながら、冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行い、該残留油を吸入配管に接続されている油貯留タンクにより回収するようにしているため、安定運転確保グループに分けられた室内機の運転によりマルチ形空気調和機の安定的な運転状態、すなわち高低圧が安定した状態となる冷房運転状態を確保しながら、全室内機の半数未満の台数とされた液バック運転確保グループの室内機を液バック運転することにより、配管洗浄に必要な液バック量を確保し、既設の冷媒配管系内に残されていた油を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク内に回収することができる。このように、空気調和機の安定運転の確保と冷媒の液バックによる配管洗浄とを過剰な液バックを回避しながら同時に行うことによって、配管の洗浄運転時間を短縮することができる。また、配管洗浄運転時間の短縮化により、新規ユニットの圧縮機からの冷凍機油の流出量を抑制することができるとともに、油貯留タンク内への冷媒の溜り込み量を抑制することができるため、据付け現場での冷凍機油の追加補充量の低減や冷媒追出し運転の省略化もしくは短縮化等を図ることができる。しかも、配管洗浄運転時、室外機から最も遠い位置に接続されている室内機を液バック運転し、その室内機から冷媒配管系に液冷媒を戻すことによって、既設の冷媒配管系の略全長を液冷媒で洗浄することができることから、既設の冷媒配管系を略全長にわたり確実に洗浄することができる。なお、室外機から最も遠い位置の室内機については、例えば全ての室内機の室内電子膨張弁を同時に開き、温度低下のタイミングが最も遅い室内機を温度センサ等で検知することにより、容易に検知することができる。
【0011】
さらに、本発明にかかるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法は、既設の冷媒配管系を再利用し、それに新たな室外機および複数台の室内機を接続することによって更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、前記複数台の室内機を少なくとも3つのグループに分け、その第1のグループの前記室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの前記室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、第2のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループ、第3のグループの前記室内機をその室内電子膨張弁の開度を吸入過熱度の検知により前記安定運転確保グループの前記室内電子膨張弁の開度よりも大きく開閉動作して液バック量を調整する液バック量調整グループとし、前記液バック運転確保グループとされた前記室内機の中に、前記室外機から最も遠い位置に接続された前記室内機を含め、それら全ての前記室内機を同時に運転しながら、前記冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行い、該残留油を吸入配管に接続されている油貯留タンクにより回収することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、既設の冷媒配管系を再利用し、新たな室外機および室内機を接続して更新されるマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、複数台の室内機を少なくとも3つのグループに分け、その第1のグループの室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、第2のグループの室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループ、第3のグループの室内機をその室内電子膨張弁の開度を吸入過熱度の検知により安定運転確保グループの室内電子膨張弁の開度よりも大きく開閉動作して液バック量を調整する液バック量調整グループとし、液バック運転確保グループとされた室内機の中に、室外機から最も遠い位置に接続された室内機を含め、それら全ての室内機を同時に運転しながら、冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行い、該残留油を吸入配管に接続されている油貯留タンクにより回収するようにしているため、3つのグループに分けられた複数台の室内機のうち、第2グループの安定運転確保グループとされた室内機の運転によりマルチ形空気調和機の安定的運転状態、すなわち高低圧が安定した状態となる冷房運転状態を確保するとともに、全室内機の半数未満の台数とされた第1グループの液バック運転確保グループの室内機を液バック運転し、更にその液バック量を第3グループの液バック量調整グループとされた室内機で適正に調整しながら運転することにより、配管洗浄に必要な液バック量を確保し、既設の冷媒配管系内に残っていた油を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク内に回収することができる。このように、空気調和機の安定運転の確保と冷媒の液バックによる配管洗浄とを過剰な液バックを回避して圧縮機を保護しながら同時に行うことによって、配管の洗浄運転時間を短縮することができる。また、配管洗浄運転時間の短縮化により、新規ユニットの圧縮機からの冷凍機油の流出量を抑制することができるとともに、油貯留タンク内への冷媒の溜り込み量を抑制することができるため、据付け現場での冷凍機油の追加補充量の低減や冷媒追出し運転の省略化もしくは短縮化を図ることができる。しかも、配管洗浄運転時、室外機から最も遠い位置に接続されている室内機を液バック運転し、その室内機から冷媒配管系に液冷媒を戻すことにより、既設の冷媒配管系の略全長を該液冷媒で洗浄することができることから、既設の冷媒配管系を略全長にわたり確実に洗浄することができる。
【0013】
さらに、本発明のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法は、上述のいずれかのマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、前記液バック運転確保グループとされた前記室内機は、室内電子膨張弁が運転開始時に一旦全開とされた後、徐々に通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御による開度に移行されるように制御されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、液バック運転確保グループとされた室内機は、室内電子膨張弁が運転開始時に一旦全開とされた後、徐々に通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御による開度に移行されるように制御されるため、液バック運転される室内機の室内電子膨張弁が全開状態から徐々に本来の吸入過熱度制御による開度に移行される間、液バック運転確保グループの室内機から適量の液冷媒を既設の冷媒配管系内に液バックさせ、特にガス側配管内に残されていた劣化油等を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク内に回収することができる。従って、再利用された既設の冷媒配管系内に残留していた旧冷媒用の油や劣化油等を液冷媒により確実に洗浄し、更新されたマルチ形空気調和機の系内から回収、除去することができる。
【0015】
さらに、本発明のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法は、上述のいずれかのマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法において、前記安定運転確保グループとされた前記室内機は、室内電子膨張弁が運転開始時から通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御により制御されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、安定運転確保グループとされた室内機は、室内電子膨張弁が運転開始時から通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御により制御されるため、安定運転確保グループの室内機の室内電子膨張弁を運転開始時から本来の吸入過熱度制御で制御することにより、既設の冷媒配管系内を洗浄運転する間、マルチ形空気調和機の運転点を高低圧が各々一定で安定化した冷房運転状態に維持することができる。従って、マルチ形空気調和機の安定運転を確保しながら、液バック運転される室内機からの液冷媒により、再利用された既設の冷媒配管系内を確実に洗浄することができる。
【0017】
前記液バック量調整グループとされた前記室内機は、室内電子膨張弁が吸入過熱度を検知しながら開閉動作されるように制御されることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のマルチ形空気調和機形の冷媒配管洗浄方法。
【0018】
本発明によれば、液バック量調整グループとされた室内機は、室内電子膨張弁が吸入過熱度を検知しながら開閉動作されるように制御されるため、液バック量調整グループの室内機の室内電子膨張弁を検知された吸入過熱度に応じて開閉動作させることにより、冷媒が過剰に液バックされないように、その量を適量にコントロールすることができる。従って、液バック量を適正に調整し、圧縮機を保護しながら、適度な液バック運転により再利用された既設の冷媒配管系内を確実に洗浄することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、安定運転確保グループに分けられた室内機の運転によりマルチ形空気調和機の安定的な運転状態、すなわち高低圧が安定した状態となる冷房運転状態を確保しながら、全室内機の半数未満の台数とされた液バック運転確保グループの室内機を液バック運転することにより、配管洗浄に必要な液バック量を確保し、既設の冷媒配管系内に残されていた油を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク内に回収することができるため、空気調和機の安定運転の確保と冷媒の液バックによる配管洗浄とを過剰な液バックを回避しながら同時に行うことができ、従って、配管の洗浄運転時間を短縮することができる。また、配管洗浄運転時間の短縮化により、新規ユニットの圧縮機からの冷凍機油の流出量を抑制することができるとともに、油貯留タンク内への冷媒の溜り込み量を抑制することができるため、据付け現場での冷凍機油の追加補充量の低減や冷媒追出し運転の省略化もしくは短縮化等を図ることができる。しかも、配管洗浄運転時、室外機から最も遠い位置に接続されている室内機を液バック運転し、その室内機から冷媒配管系に液冷媒を戻すことにより、既設の冷媒配管系の略全長を該液冷媒で洗浄することができるため、既設の冷媒配管系を略全長にわたり確実に洗浄することができる。
【0020】
また、複数台の室内機を少なくとも3つのグループに分け、その第1のグループの室内機台数を全室内機の半数未満の台数とし、当該グループの室内機をその室内電子膨張弁を液バック開度として運転する液バック運転確保グループとするとともに、第2のグループの室内機をその室内電子膨張弁を吸入過熱度制御して運転する安定運転確保グループ、第3のグループの室内機をその室内電子膨張弁の開度を吸入過熱度の検知により安定運転確保グループの前記室内電子膨張弁の開度よりも大きく開閉動作して液バック量を調整する液バック量調整グループとしたものにおいては、液バック量を第3グループの液バック量調整グループとされた室内機で適正に調整しながら運転することにより、配管洗浄に必要な液バック量を確保し、既設の冷媒配管系内に残っていた油を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク内に回収することができるため、液バック量を適正に調整し、圧縮機を保護しながら適度な液バック運転により既設の冷媒配管系内を確実に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係るマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法を適用するマルチ形空気調和機の構成図である。
図2図1示す本発明のマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法のタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係るマルチ形空気調和機の冷媒配管洗浄方法を適用するマルチ形空気調和機の構成図が示されている。
マルチ形空気調和機1は、室外機2と、複数台の室内機3Aないし3Eとから構成されるものである。本実施形態では、室外機2に対して、5台の室内機3Aないし3Eが接続されたものが例示されているが、室内機の接続台数は、何ら制限されるものではない。
【0023】
室外機2は、圧縮機、四方切換弁、室外熱交換器、室外送風機、室外電子膨張弁(EEV)、レシーバ、室外コントローラ等が内蔵されているものであり、一般に知られている公知の室外機と特に変わるものではない。また、複数台の室内機3Aないし3Eは、室内熱交換器、室内送風機、室内電子膨張弁(EEV)4Aないし4Eおよび室内コントローラ等が内蔵されているものであり、一般に知られている公知の室内機と特に変わるものではない。なお、室内電子膨張弁4Aないし4Eは、便宜的に外部に取り出されて図示されているものとする。
【0024】
上記室外機2および複数台の室内機3Aないし3Eは、液側冷媒配管(冷媒配管系)5およびガス側冷媒配管(冷媒配管系)6を介して接続され、更に各室内機3Aないし3Eは、この液側冷媒配管5およびガス側冷媒配管6に対して、各々分岐液管5Aないし5Eおよび分岐ガス管6Aないし6Eを介して互いに並列に接続されている。なお、上記室内電子膨張弁4Aないし4Eは、室内機3Aないし3E内の室内熱交換器に接続される分岐液管5Aないし5E中に設けられている。
【0025】
上記マルチ形空気調和機1において、例えば、既設のマルチ形空気調和機を新しいマルチ形空気調和機1に取り換える場合、液側冷媒配管5およびガス側冷媒配管6等の冷媒配管系が建屋内部に埋め込まれているため、冷媒配管系ごと取り換えることが困難な場合がある。かかるケースでは、既設の冷媒配管系をそのまま再利用し、室外機2および室内機3Aないし3Eのみを新規ユニットに更新する方法が採られることがある。この場合、冷媒配管系内に旧冷媒用の油や劣化した油が残留していることが考えられるので、冷媒配管系内を冷媒により洗浄して再利用する方法が採られている。
【0026】
本発明は、上記冷媒配管の洗浄方法にかかるものであり、圧縮機への吸入配管系に接続されるリフレッシュキット7が用いられ、冷媒配管系の洗浄により回収される油を貯留できるようにしている。このリフレッシュキット7は、圧縮機への吸入配管系に接続(図1においては、便宜上、室外機2の外部配管に接続された状態で図示されている。)されるものであり、操作弁8の前後に入口管9および出口管10が操作弁11,12を介して接続される油貯留タンク13を備えている。油貯留タンク13には、圧縮機から吐出されたホットガスにより冷媒を加熱して蒸発させ、圧縮機に吸込ませるための加熱手段14が設けられるとともに、貯留された油を抜くためのドレン弁15が設けられている。
【0027】
本実施形態に係る冷媒配管洗浄方法は、既設の冷媒配管系(液側冷媒配管5、分岐液管5Aないし5E、ガス側冷媒配管6および分岐ガス管6Aないし6E)を流用し、室外機2および室内機3Aないし3Eを新規ユニットに更新するとともに、リフレッシュキット7を接続した後、以下の方法によって行われる。
複数台の室内機3Aないし3Eは、複数のグループA,Bにグループ分けされる。このグループA,Bのうち、全室内機台数(ここでは5台)の半数未満の室内機によって構成されるとともに、室外機2から最も遠い位置に接続されている室内機3Aを含んで構成されるグループAの2台の室内機3Aおよび3Bは、液バック運転確保グループの室内機とされる。また、他のグループBの3台の室内機3Cないし3Eは、安定運転確保グループの室内機とされる。
【0028】
液バック運転確保グループとされたグループAの2台の室内機3A,3Bは、冷房サイクルによる冷媒配管の洗浄運転時、いわゆる液バック運転されるように、各々の室内電子膨張弁4A,4Bが運転開始時に一旦全開とされた後、徐々に通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御による開度に移行されるように制御され、この間に室内熱交換器から圧縮機側に気液二相状態の冷媒(以下、単に液冷媒と表現される場合もある。)を戻す液バック運転機能を担う室内機とされるものである。
【0029】
一方、安定運転確保グループとされたグループBの3台の室内機3Cないし3Eは、冷房サイクルによる冷媒配管の洗浄運転時、マルチ形空気調和機1の安定運転が確保されるように、各々の室内電子膨張弁4Cないし4Eが通常の冷房運転時と同様に吸入過熱度制御され、高低圧が各々略一定で安定した状態となる冷房運転状態を確保する機能を担う室内機とされるものである。
【0030】
そして、上記機能を担う液バック運転確保グループ(グループA)の室内機3A,3Bと、安定運転確保グループ(グループB)の室内機3Cないし3Eと、を同時運転することにより、マルチ形空気調和機1の安定運転を確保しながら、液バック運転される室内機3A,3Bより配管洗浄に必要な適度の量の液冷媒を液バックさせ、再利用する既設の冷媒配管(液側冷媒配管5およびガス側冷媒配管6等)系内に残されている油を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されているリフレッシュキット7の油貯留タンク内に回収するようにしている。なお、上記の配管洗浄運転は、予め設定された時間が経過すると終了されるが、必要に応じて冷媒追出し運転を行うようにしてもよい。
【0031】
斯くして、本実施形態の冷媒配管洗浄方法によれば、以下の作用効果を奏する。
上記の如く、既設の液側冷媒配管5およびガス側冷媒配管6等を再利用し、これに新たに接続された室外機2および室内機3Aないし3Eの複数台の室内機3Aないし3Eを複数のグループA,Bに分け、その一のグループAの室内機台数を全室内機3Aないし3Eの半数未満の台数(ここでは2台)とし、このグループAの室内機3A,3Bを液バック運転確保グループとするとともに、他の一のグループBの室内機3Cないし3Eを安定運転確保グループとし、これら全ての室内機3Aないし3Eを同時に運転しながら、再利用する冷媒配管系内に残留している油の洗浄運転を行うようにしている。
【0032】
これによって、安定運転確保グループに分けられた室内機3Cないし3Eの運転によりマルチ形空気調和機1の安定的な運転状態、すなわち高低圧が安定した状態となる冷房運転状態を確保しながら、全室内機3Aないし3E(5台)の半数未満の台数とされた液バック運転確保グループの2台の室内機3A,3Bを液バック運転することにより、配管洗浄に必要な液バック量を確保して、既設の冷媒配管系内(液側冷媒配管5およびガス側冷媒配管6等)に残されていた油を、液バックされる液冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク13内に回収することができる。
【0033】
このため、マルチ形空気調和機1の安定運転の確保と冷媒の液バックによる配管洗浄とを過剰な液バックを回避しながら同時に行うことができ、冷媒配管の洗浄運転時間を大幅に短縮することが可能となる。また、配管洗浄運転時間の短縮化により、新たに接続したユニットの圧縮機からの冷凍機油の流出量を抑制することができるとともに、油貯留タンク13内への冷媒の溜り込み量を抑制することができるため、据付け現場での冷凍機油の追加補充量の低減や冷媒追出し運転の省略化もしくは短縮化等を図ることができる。
【0034】
また、本実施形態においては、液バック運転確保グループ(グループA)とされた室内機3A,3Bは、室内電子膨張弁4A,4Bが運転開始時に一旦全開とされた後、徐々に通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御による開度に移行されるように制御され、液バック運転されるようになっている。このため、液バック運転される室内機3A,3Bの室内電子膨張弁4A,4Bが全開状態から徐々に本来の吸入過熱度制御による開度に移行される間、室内機3A,3Bから適量の液冷媒を既設の冷媒配管系内に液バックさせ、特にガス側配管6内に残されていた劣化油等を、液バックされる冷媒と共に吸入配管に接続されている油貯留タンク13内に回収することができる。従って、再利用される液側冷媒配管5およびガス側冷媒配管6等の内部に残されていた旧冷媒用の油や劣化油等を確実に洗浄し、更新されたマルチ形空気調和機1の系内から回収、除去することができる。
【0035】
同様に、安定運転確保グループ(グループB)とされた室内機3Cないし3Eは、室内電子膨張弁4Cないし4Eが運転開始時から通常の冷房運転時と同様の吸入過熱度制御により制御される。このため、安定運転確保グループの室内機3Cないし3Eの室内電子膨張弁4Cないし4Eを運転開始時から本来の吸入過熱度制御で制御することにより、既設の冷媒配管系内を洗浄運転する間、マルチ形空気調和機1の運転点を高低圧が各々略一定で安定化した冷房運転状態に維持することができる。従って、マルチ形空気調和機1の安定運転を確保しながら、液バック運転される室内機3A,3Bからの液冷媒により、再利用された既設の冷媒配管系内を確実に洗浄することができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、液バック運転確保グループ(グループA)とされる室内機3A,3Bの中に、室外機2から最も遠い位置に接続された室内機Aを含ませている。このため、配管洗浄運転時、室外機2から最も遠い位置に接続されている室内機3Aを液バック運転させ、該室内機3Aから冷媒配管系に液冷媒を戻して、既設の冷媒配管系の略全長を該液冷媒により洗浄することができる。従って、室外機2から最も遠い室内機3Aからの液バックにより、既設の冷媒配管系を略全長にわたり確実に洗浄することができる。
【0037】
なお、室外機2から最も遠い位置に接続されている室内機3Aについては、例えば全ての室内機3Aないし3Eの室内電子膨張弁4Aないし4Eを同時に開き、温度低下する室内熱交換器のうち、温度低下のタイミングが最も遅い室内機を温度センサ等で検知することによって、容易に検知することができる。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、複数台の室内機3Aないし3Eを少なくとも3つのグループに分け、配管洗浄運転を行うようにしている点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、複数台の室内機3Aないし3Eを、図1に示されるように、3つのグループA1,B1,C1にグループ分けしている。
【0039】
グループA1(第1のグループ)の室内機3Aは、第1実施形態の場合と同様、液バック運転確保グループとされ、配管洗浄運転時、室内熱交換器から圧縮機側に気液二相状態の冷媒を戻す液バック運転機能を担っている。また、グループB1(第2のグループ)の室内機3Cないし3Eは、第1実施形態の場合と同様、安定運転確保グループとされ、配管洗浄運転時、マルチ形空気調和機1を安定運転する機能を担っている。更に、グループC1(第3のグループ)の室内機3Bは、液バック量調整グループとされ、配管洗浄運転時、室内電子膨張弁4Bが吸入過熱度を検知しながら開閉動作され、吸入過熱度に応じて液バック量を調整し、冷媒が過剰に液バックされないようにその量をコントロールする機能を担う室内機とされている。
【0040】
斯くして、本実施形態によれば、3つのグループA1,B1,C1にグループ分けされた5台の室内機3Aないし3Eは、配管洗浄運転時、同時に運転され、図2に示されるように、グループA1(第1のグループ)の液バック運転確保グループとされた室内機3Aと、グループB1(第2のグループ)の安定運転確保グループとされた室内機3Cないし3Eとによって、第1実施形態の場合と同様、マルチ形空気調和機1の安定運転の確保と冷媒の液バックによる配管洗浄とが過剰な液バックを回避しながら同時に実行される。
【0041】
従って、第1実施形態と同様、再利用される冷媒配管の洗浄運転時間を大幅に短縮することができ、また、これによって、新たに接続したユニットの圧縮機からの冷凍機油の流出量を抑制することができるとともに、油貯留タンク13内への冷媒の溜り込み量を抑制することができるため、据付け現場での冷凍機油の追加補充量の低減や冷媒追出し運転の省略化もしくは短縮化等を図ることができる等の効果を得ることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、上記グループA1,B1以外に、グループC1(第3のグループ)として液バック量調整グループを設定し、該グループの室内機3Bに液バック量をコントロールする機能を担わせている。この液バック量調整グループの室内機3Bは、図2に示されるように、配管洗浄運転中、室内電子膨張弁4Bが吸入過熱度を検知して開閉動作され、液バック量を調整するように制御されるため、冷媒が過剰に液バックされないように、その量を適量にコントロールすることができる。従って、液バック量を適正に調整し、圧縮機を保護しながら、適度な液バック運転により再利用された既設の冷媒配管系内を確実に洗浄することができる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、室内機3Aないし3Eが5台接続されているマルチ形空気調和機の例について説明したが、室内機の台数については、特に制限されるものではなく、5台以上あるいは5台以下であってもよいことはもちろんである。
【0044】
また、複数台の室内機3Aないし3Eのグループ分けについては、少なくとも液バック運転確保グループおよび安定運転確保グループを含む2以上のグループに分けられておればよく、その際、液バック運転確保グループの室内機台数は、全台数の半数未満とされることは云うまでもない。なお、室外機2から最も遠い位置に接続されている室内機が必ずしも液バック運転確保グループの室内機とされる必要はない。
【符号の説明】
【0045】
1 マルチ形空気調和機
2 室外機
3A,3B,3C,3D,3E 室内機
4A,4B,4C,4D,4E 室内電子膨張弁
5 液側冷媒配管(冷媒配管系)
6 ガス側冷媒配管(冷媒配管系)
7 リフレッシュキット
13 油貯留タンク
A グループ(液バック運転確保グループ)
B グループ(安全運転確保グループ)
A1 第1のグループ(液バック運転確保グループ)
B1 第2のグループ(安全運転確保グループ)
C1 第3のグループ(液バック量調整グループ)
図1
図2