(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
旋盤用チャックで把握するワーク(w)の端面のチャック本体(12)の軸方向に対する位置決め基準として、前記チャック本体(12)の前面に設けた筒状又は柱状の係止凸部(58)を有するストッパベースと、前記ストッパベースの係止凸部(58)に嵌る内径穴を有するストッパ(17)とを備え、前記係止凸部(58)に前記ストッパ(17)を嵌めて固定した状態で、前記チャック本体(12)側から送られた検知用エアが、前記係止凸部(58)の側面に設けられた開口部(50f)を経由して、前記ストッパ(17)の内径部に設けたエア取入れ口(50g)から前記ワーク(w)との接触面である着座検知部(51)に至るエア回路を備え、前記ストッパ(17)と前記係止凸部(58)との間に、前記ストッパ(17)を前記係止凸部(58)に嵌めると自動的に抜け止めが成され且つその抜け止めが解除可能なロック手段(59)を備え、
前記チャック本体(12)の軸心に沿って軸方向へ進退自在のドローバ(18)が備えられ、前記ドローバ(18)にドローバボルト(18a)を介してアクチエータ(14)が固定されており、前記係止凸部(58)に、前記ワーク(w)に対するエアブロー用のエアー又は冷却用のクーラント液が流れる供給通路(60)を開口させ、前記供給通路(60)は、前記ドローバ(18)側から前記ドローバボルト(18a)に設けた穴(63)を通って前記係止凸部(58)に至り、前記検知用エアは、前記ドローバ(18)側から前記ドローバボルト(18a)の外周を通って前記係止凸部(58)の側面の開口部(50f)に至ることを特徴とするチャック装置のストッパ取付構造。
【背景技術】
【0002】
旋盤等に使用されるチャック装置として、例えば、
図6に示すものがある。このチャック装置は、ワークwを引込みながらチャック本体2の軸心6と同心に把持する引込式チャック装置1である。
ドローバ8の進退や、流体の圧力によって作動するシリンダのピストンの進退等によって、チャック本体2の前部に設けた把持爪(ジョウ)3を径方向へ動かして、その把持爪3によりワークwの外周又は内周を掴むようになっている。
【0003】
図6は、ドローバ8を用いた引込式チャック装置1の例であり、その構成は、チャック本体2の軸心6周りに、複数の把持爪3が放射状に設けられている。そのチャック本体2の軸心6に沿って、前記軸心6と同心のドローバ8が軸方向進退可能に設けられている。
【0004】
チャック本体2には、後方から前方に向かって徐々に外径側に広がる傾斜孔9が前記把持爪3と同数形成されており、その各傾斜孔9内に軸状のマスタージョウ5がぴったりと嵌っている。前記各把持爪3は、そのマスタージョウ5の前端に設けられており、その把持爪3を備えたマスタージョウ5は、傾斜孔9の長さ方向に沿って摺動可能となっている。
【0005】
ドローバ8には、ドローバ接続用部材(ドローバボルト)8aを介してアクチュエータ4が接続されている。そのアクチュエータ4の外径部に設けた突出部4aが、前記マスタージョウ5の内径部に設けた係合溝5aに係合し、そのマスタージョウ5とアクチュエータ4とが軸方向相対移動不能に結合されている。
【0006】
チャック本体2に対してドローバ8が軸方向に後退すると、アクチュエータ4を介してマスタージョウ5が後方へ引かれる。マスタージョウ5が後方へ引かれると、把持爪3が径方向内側に動いて、その把持爪3の把持部3aでワークwの外周部を掴み、そのワークwを軸心6と同心に把持する。
そのとき、そのワークwの後面は、チャック本体2に設けたストッパ7の前面7aに密着し、その密着により、ワークwの後面が基準面として機能して、ワークwが正しい位置、正しい把持姿勢に維持される。
【0007】
また、チャック本体2の軸方向前面に設けられるストッパ7には、
図6に示すように、ワークwとの当接部分に開口部51を有するエア通路50が設けられている。前記エア通路50は、チャック本体2側へ伸びて、そのチャック本体2内のエア通路50、又は、そのチャック本体2外に引き出された前記エア通路50に、気体供給手段、気圧検知手段が接続されている。
【0008】
この気体供給手段は、前記エア通路50内へ所定の圧力で気体を供給することができ、また、気圧検知手段は、前記エア通路50内の気圧を検知することができる。
【0009】
ワークwを把持した際に、ワークwの後面がストッパ7の前面7aに完全に密着していれば、エア通路50の開口部51はワークwの後面によって気密に閉じられる。このため、気圧検知手段は、エア通路50内が予め設定された所定の気圧に至っていることを検知して、その検知により、ワークwの把持状態が正常であると判断できる。
【0010】
また、ワークwを把持した際に、ワークwの後面がストッパ7の前面7aに完全に密着していなければ、そのワークwの位置、把持姿勢は正しい状態にない。このとき、エア通路50の開口部51は、ワークwの後面によって完全に閉じられた状態にはならないので、エア通路50内の気体の一部がエア通路50の外部に漏れる。
このため、気圧検知手段は、予め設定された所定の気圧に至っていないことを検知して、その検知により、ワークwの把持状態が正常でないと判断できる(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの引込式チャック装置1によると、異なる種類や大きさのワークwを把持しようとすると、マスタージョウ5に対して固定されている把持爪3を別のものに取り替える必要が生じる。また、ストッパ7も別のものに取り替える必要が生じる。これらの把持爪3やストッパ7の着脱は、ボルトの締め付け及び緩めなどのために専用の工具を必要とし相当な時間と手間を要する。
【0013】
特に、ストッパ7には、ワークwとの当接部分に開口部51を有するエア通路50が設けられているので、そのストッパ7のチャック本体2への着脱は、把持爪3の着脱と比較してさらに容易ではない。エア通路50はチャック本体2側へ伸びて、気体供給手段や気圧検知手段に接続されているからである。
【0014】
そこで、この発明は、ワークの把持状態をエア検知する機能を備えたチャック装置において、エア通路の開口部を有するストッパの着脱を容易にできるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この発明は、旋盤用チャックで把握するワークの端面のチャック本体の軸方向に対する位置決め基準として、前記チャック本体の前面に設けた筒状又は柱状の係止凸部を有するストッパベースと、前記ストッパベースの係止凸部に嵌る内径穴を有するストッパとを備え、前記係止凸部に前記ストッパを嵌めて固定した状態で、前記チャック本体側から送られた検知用エアが、前記係止凸部の側面に設けられた開口部を経由して、前記ストッパの内径部に設けたエア取入れ口から前記ワークとの接触面である着座検知部に至るエア回路を備え、前記ストッパと前記係止凸部との間に、前記ストッパを前記係止凸部に嵌めると自動的に抜け止めが成され且つその抜け止めが解除可能なロック手段を備えることを特徴とするチャック装置のストッパ取付構造を採用した。
【0016】
この構成によれば、ストッパとチャック本体側の係止凸部との間に、自動的に抜け止めが成され且つその抜け止めが解除可能なロック手段を備えるため、そのストッパの着脱に際し、固定ボルトの締め付けや緩めが伴わず、工具が不要であるためストッパの着脱が容易である。
このとき、ストッパに供給される検知用エアは、ストッパベースの前端面から取り入れられると、そのストッパベースとストッパとの接触部にエアの内圧がかかり、その内圧によって、ストッパがチャック本体(係止凸部)に対して軸方向前方へ浮き上がることがある。しかし、上記の構成のように、検知用エアを、係止凸部の側面に設けられた開口部を経由して、ストッパの内径部に設けたエア取入れ口から着座検知部に至るようにすることで、ストッパの浮き上がりを防止し得る。
【0017】
この構成において、前記チャック本体の軸心に沿って軸方向へ進退自在のドローバが備えられ、前記ドローバにドローバボルトを介してアクチエータが固定されており、前記係止凸部に、前記ワークに対するエアブロー用のエアー又は冷却用のクーラント液が流れる供給通路を開口させ、前記供給通路は、前記ドローバ側から前記ドローバボルトに設けた穴を通って前記係止凸部に至り、前記検知用エアは、前記ドローバ側から前記ドローバボルトの外周を通って前記係止凸部の側面の開口部に至る構成を採用することができる。
【0018】
この構成によれば、ドローバボルト内の穴を利用してエアブロー用のエアー又は冷却用のクーラント液を係止凸部側へ供給でき、また、検知用エアは、ドローバボルトの外周を通って係止凸部側へ供給できる。このため、エア検知とエアブロー又はクーラント液の流路を、チャック本体の軸心を中心に内外へ分けて配設することができ、その構造を簡素化し得る。
【0019】
これらの各構成において、チャック本体は、チャック本体の中心軸と同心にワークを把持するとともに、その把持状態で、前記チャック本体に設けたストッパの前面に前記ワークの後面が密着するようになっている。前記ストッパに、前記前面のワークとの当接部分に開口部を有するエア通路を設けて、前記エア通路に、そのエア通路内へ気体を供給する気体供給手段とそのエア通路内の気圧を検知する気圧検知手段とを接続してエア回路を構成する。その気圧検知手段によって検知した気圧に基づいて前記ワークの把持状態の良否を判定する機能を備えている。
【0020】
これらの各構成において、前記係止凸部は、前記チャック本体の中心軸と並行な軸心を有する円柱部材又は円筒部材であり、前記ストッパは前記係止凸部に対して前記軸心周りに回転自在であり、そのストッパの回転範囲における任意の回転方位において、常に、前記係止凸部内の通路と前記ストッパ内の通路とが連通する構成を採用することができる。
【0021】
この構成によれば、ストッパを軸心周りに回転させることにより、ワークの種別や形状に合わせて開口部の位置を変化させることができる。なお、前記係止凸部の軸心は、前記チャック本体の中心軸と同心の軸心を有するものとすることもできる。
【0022】
これらの各構成において、前記ロック手段として、例えば、ボ−ルプランジャを採用することができる。すなわち、前記ロック手段を、前記係止凸部の外面に設けられる嵌合凹部と、前記ストッパに設けられ前記嵌合凹部内に嵌るボールプランジャとを備える構成とすることができる。ロック手段がボールプランジャであれば、ストッパを係止凸部に嵌めると自動的にボールが嵌合凹部に嵌って抜け止めが成され、また、ストッパを強い力で引けば、ボールが嵌合凹部から離脱するので抜け止めの解除が可能である。
【0023】
また、このロック手段としては、その他の周知の接続機構を採用することができる。例えば、係止凸部の外周にチャック本体の半径方向に突出する抜け止め凸部を形成し、その抜け止め凸部が嵌るストッパ側の孔又は凹部には、弾性部材で係止凸部側へ突出するように付勢された係合子を設ける。係止凸部にストッパを嵌めた際、その係合子が抜け止め凸部を軸方向後方へ乗り越えれば、ストッパは係止凸部に対して軸方向前方へ抜け止めが成され、ストッパを軸方向前方へ強く引けば、係合子が抜け止め凸部を軸方向前方へ乗り越えて抜け止めが解除される構成である。さらに、その係合子が、前述のボールプランジャと同じように、係止凸部側に設けた嵌合凹部に嵌って抜け止めされる構成としてもよい。また、その抜け止めの解除に際し、係合子を手動操作で解除方向に移動させる構成も考えられる。
【0024】
また、これらの各構成において、前記係止凸部は、前記チャック本体に固定された前部プレートに設けられ、前記ストッパと前部プレートの一方に前記係止凸部を囲む環状の突条を、他方に前記突条がぴったりと嵌る凹溝を設けた構成を採用することができる。
【0025】
この構成によれば、環状の突条が凹溝に嵌ることで、前記ストッパと前部プレートとの間の隙間に異物が入り込むことを防ぐことができる。このため、前記係止凸部内の通路と前記ストッパ内の通路との連通部などに異物が入り込んで、ワークのエア検知に支障がでる事態を防止することができる。
【0026】
なお、これらの各構成は、ワークの外面を把持するいわゆる外径張り方式のチャック装置と、ワークの内面を把持するいわゆる内径張り方式のチャック装置のいずれにも採用することができる。また、そのチャック装置の種別としては、特に引込式チャック装置が有効であるが、引込式チャック装置以外の他の形式のチャック装置にも使用可能である。
【発明の効果】
【0027】
この発明は、ワークの把持状態をエア検知する機能を備えたチャック装置において、エア通路の開口部を有するストッパの着脱を容易にできる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。このチャック装置は、把持爪13でワークwを軸方向後方に引き込みながら、ワークwの後端面をストッパ17に当接させ、その状態で、把持爪13でそのワークwをチャック本体12の軸心16と同心に把持する引込式チャック装置10である。
【0030】
なお、この実施形態は、把持爪13によりワークwの外周を掴むものであるが、変形例としては、把持爪13でワークwの内周を把持する場合にも適用できる。
【0031】
図1に示すように、チャック本体12は、後部プレート12aと前部プレート12bとが接続部材12cを介してボルト12dで接続されて構成されている。その後部プレート12aと前部プレート12bとの間の空間内には、チャック本体12の軸心16に沿って進退するアクチュエータ14が設けられている。
【0032】
そのアクチュエータ14は、前記軸心16周りに複数の傾斜孔19を等分方位に有している。この実施形態では、3つの傾斜孔19を設けている。
【0033】
各傾斜孔19は、その孔中心が、チャック本体12の軸心16に対して傾斜する方向に伸びている。この実施形態では、傾斜孔19は、チャック本体12の後方から前方に向かって徐々に外径側に向かう傾斜方向となっているが、把持対象であるワークwの形態、把持部分の設定によっては逆方向、すなわち、チャック本体12の後方から前方に向かって徐々に内径側に向かう傾斜方向となる場合もある。
【0034】
この傾斜孔19は、設置しようとする把持爪13と同数形成され、その各傾斜孔19内に動作部材として軸状のマスタージョウ15がぴったりと嵌められている。マスタージョウ15と傾斜孔19とは、その傾斜孔19の伸びる方向に沿って相対移動可能である。マスタージョウ15の後端とアクチュエータ14とは、接続部材14aを介して接続されている。
【0035】
この動作部材としての各マスタージョウ15の前端15aには、把持爪13が設けられている。このため、把持爪13は、
図1に示すように、チャック本体12の軸心16周りに、マスタージョウ15と同数の把持爪13が等分方位に放射状に設けられていることになる。この実施形態では、3つの把持爪13を設けている。
【0036】
また、この実施形態では、マスタージョウ15は断面円形であり、傾斜孔19も断面円形となっており、両者は、その全周に亘って密着した状態で、その密着面が摺動しながら前記相対移動が行われる。
【0037】
マスタージョウ15の前端には、外径寄りの部分にあご部20が設けられている。あご部20の内径面20aは、軸方向前方へ向かうにつれて、チャック本体12の軸心16に近づく方向に傾斜している。また、その内径面20aは、
図4に示す側面視において円弧状を成す円筒面又は円錐面となっている。
【0038】
把持爪13は、その内径側の端部に、ワークwに当接する把持部13aを備える。この把持部13aがワークwの外面に当接して、そのワークwを把持するようになっている。
【0039】
また、その把持爪13の外径側の端部には、あご部20の内径面20aに面接触する外径面13cを備える。外径面13cは、あご部20の内径面20aが円筒面である場合はそれに面接触する円筒面、円錐面である場合にはそれに面接触する円錐面となっている。
【0040】
把持爪13は、その把持爪13の外径面13cが、あご部20の内径面20aに面接触状態で当接した状態に、マスタージョウ15に固定されるようになっている。
【0041】
この実施形態では、アクチュエータ14を動作させるための手段としてドローバ18を用いている。
ドローバ18とアクチュエータ14とはドローバボルト18aで接合されているから、ドローバ18が軸方向前方へ移動すれば、アクチュエータ14も軸方向前方へ移動し、ドローバ18が軸方向後方へ移動すれば、アクチュエータ14も軸方向後方へ移動する。
【0042】
このアクチュエータ14の軸方向への進退により、マスタージョウ15は傾斜孔19内でわずかに進退する。この進退により、マスタージョウ15の前端はチャック本体12の半径方向に移動し、その移動とともに把持爪13もチャック本体12の半径方向へ移動する。これにより、把持爪13は、ワークwの外面を把持したり、その把持を解放したりできる。
【0043】
また、この引込式チャック装置10には、ワークwが正しい位置に把持されていることをエア検知する手段を備える。
エア検知の手段の構成は、チャック本体12の軸方向前面に設けられるストッパ17に、ワークwとの当接部分に開口部51を有するエア通路50が設けられている。エア通路50は、チャック本体12側へ伸びて、そのチャック本体12内のエア通路50、又は、そのチャック本体12外に引き出された前記エア通路50に、気体供給手段、気圧検知手段が接続されている。気体供給手段によってエア通路50内に気体が導入され、気圧検知手段によって検知したそのエア通路50内の気圧に基づいて、ワークwの把持状態の良否を判定する機能が備えられている。この気体供給手段や気圧検知手段の機能は、従来例と同様である。
【0044】
(把持爪13の取付構造)
以下、まず、把持爪13のマスタージョウ15に対する着脱について説明する。引込式チャック装置10を組み立てる際、マスタージョウ15の前端には把持爪13が固定される。また、異なる種類や大きさのワークwを把持しようとするとき、マスタージョウ15に対して固定されている把持爪13を別のものに取り替えることとなる。
【0045】
把持爪13とマスタージョウ15とを着脱自在に固定するために、この引込式チャック装置10は、把持爪13を半径方向外側へ押し出す密着維持手段30と、マスタージョウ15と把持爪13とのチャック本体12の軸方向への相対移動を規制し且つチャック本体12の半径方向への相対移動を許容する保持手段40とを備える。
密着維持手段30と保持手段40とは、マスタージョウ15と把持爪13との間に設けられる。
【0046】
密着維持手段30の構成は、
図2及び
図3に示すように、マスタージョウ15に設けられチャック本体12の軸方向に対して傾斜する押圧部31cと、把持爪13に設けられてその押圧部31cに当接する作用部13eとを備える。
【0047】
押圧部31cは、チャック本体12の軸心16に対して、あご部20の内径面20aの傾斜、及び把持爪13の外径面13cの傾斜と同じ側に傾斜する傾斜面で構成される。
【0048】
この実施形態では、押圧部31cは、マスタージョウ15に設けたピン孔15a内に収容された押圧ピン31の前端に設けられている。押圧ピン31は、軸方向へ進退自在である。また、押圧ピン31は、その押圧ピン31に設けた収容孔31b内に配置した弾性部材32によって、軸方向前方へ向かって付勢されている。この実施形態では、弾性部材32としてコイルバネを用いているが、コイルバネ以外のバネや、弾性力を有するバネ以外の素材を用いてもよい。
また、マスタージョウ15に設けた回り止めピン33の先端33aが、押圧ピン31の外周に設けたガイド溝31aに入り込むことで、その押圧ピン31の回転を防止し、且つ、その軸方向移動がガイドされている。
【0049】
また、作用部13eは、把持爪13の後端において、マスタージョウ15側の押圧ピン31が入り込む凹部13jの縁で構成されている。凹部13jは、把持爪13の後端側の端面に開口し、その凹部13jの縁が押圧部31cの傾斜面に当接している。
【0050】
把持爪13には、その把持爪13の前端側の端面に開口するピン孔13dが設けられている。このピン孔13d内に、パッキン35aを介して閉塞ピン35がねじ込み固定されている。閉塞ピン35の操作部35cに所定の工具を挿入して操作すれば、閉塞ピン35のねじ込み、抜き取りが可能である。
【0051】
この閉塞ピン35の後端側に、着脱ピン36が接続されている。着脱ピン36は、後端側の当接部36aと前端側のネジ軸部36bとからなる。凹部13jとピン孔13dとは連通しており、ピン孔13d内にねじ込み固定された状態の前記閉塞ピン35のネジ孔35bに、凹部13j側からネジ軸部36bをねじ込むことにより、閉塞ピン35と着脱ピン36とが一体化されている。
【0052】
着脱ピン36後端の当接部36aは、
図3(b)に示すように、押圧ピン31の端面31dに当接し、押圧ピン31の凹部13j内での軸方向位置を決定するストッパの機能を発揮する。このとき、ネジ孔35bに対するネジ軸部36bのねじ込み量を変化させることにより、そのストッパによって決定される押圧ピン31の軸方向位置を調整することができる。
【0053】
保持手段40の構成は、
図3(a)に示すように、マスタージョウ15に設けられチャック本体12の半径方向内側に向かって突出する保持凸部15gと、把持爪13に設けられその保持凸部15gがぴったりと嵌る保持凹部13gとで構成される。保持凸部15gと保持凹部13gとが互いにしっくりと噛み合うことで、マスタージョウ15と把持爪13とのチャック本体12の軸方向への相対移動が規制され、且つ、その状態で、半径方向の噛み合い深さが変化することで、把持爪13は、チャック本体12の半径方向への相対移動が許容された状態となる。
【0054】
この実施形態では、保持凸部15gは、チャック本体12の軸方向両側の端面(外面)が、それぞれ、その軸方向に直交する面方向を有するものとなっている。また、保持凹部13gは、チャック本体12の軸方向両側の側面(内面)が、保持凸部15gの軸方向両端面にそれぞれ面接触するようになっている。保持凹部13gの軸方向両側面と、保持凸部15gの軸方向両端面とがぴったりと面接触することで、保持凸部15gがしっくりと保持凹部13gに嵌り込み、把持爪13はマスタージョウ15に対して、チャック本体12の軸方向へ不動となる。また、その面接触状態を維持しながら、把持爪13はマスタージョウ15に対して、チャック本体12の半径方向へ移動可能である。
【0055】
また、その保持凹部13gと保持凸部15gの軸方向後方には、
図3(a)に示すように、把持爪13に設けられチャック本体12の半径方向外側に向かって突出する補助凸部13fと、マスタージョウ15に設けられその補助凸部13fが嵌る補助凹部15fが設けられている。
【0056】
さらに、マスタージョウ15には、
図3(c)、
図4及び
図5に示すように、軸方向前方に突出するピン15jが設けられている。ピン15jは、一つのマスタージョウ15に対して2本ずつ設けられている。その2本のピン15jは、チャック本体12の周方向に沿って並列している。
【0057】
把持爪13の後端面には、マスタージョウ15側のピン15jに対応する位置に、それぞれ長孔13bが設けられている。長孔13bは、把持爪13の外径面13cに開口し、その開口からチャック本体12の半径方向内側に向かい底部に至っている。
【0058】
把持爪13をマスタージョウ15に取付ける際には、保持凸部15gと保持凹部13gとを噛み合わせるとともに、マスタージョウ15のあご部20の内径面20aに対して、把持爪13の外径面13cが対面するように、その把持爪13をマスタージョウ15に宛がう。このとき、同時に、補助凸部13fも補助凹部15fに噛み合っている。
【0059】
把持爪13を、チャック本体12の半径方向外側に押圧すると、マスタージョウ15側の押圧ピン31は弾性部材32の付勢力に抗して軸方向後方へ押圧され、一旦、収容孔31b内に完全に入り込む。また、ピン15jは、それぞれ対応する長孔13bに前記開口から入り込み、把持爪13を半径方向外側へ押すにつれて、最終的にその長孔13bの底部へと至る。また、保持凸部15gと保持凹部13g、補助凸部13fと補助凹部15fとは、徐々に深く噛み合っていく。
【0060】
把持爪13が、チャック本体12の半径方向に対して所定の位置に来た時の状態を、
図3(b)に示す。この図で示すように、一旦、収容孔31b内に完全に入り込んでいた押圧ピン31は、把持爪13の凹部13jに臨むことにより突出する。
この状態で、把持爪13は、マスタージョウ15側の押圧ピン31を軸方向後方へ押圧しており(矢印A)、押圧ピン31は、弾性部材32の弾性力によって把持爪13を逆方向へ押圧している(矢印B)。この押圧ピン31の突出によって、把持爪13の後端に設けた作用部13eが、前記押圧部31cの傾斜に沿って摺動し、その摺動によって半径方向外側へ押し出される(矢印C)。
【0061】
このように、密着維持手段30の作用によって、その把持爪13は半径方向外側へ押し出され、把持爪13の外径面13cとあご部20の内径面20aとは、その密着を維持することができる。
【0062】
このとき、押圧部31cの傾斜と、あご部20の内径面20aの傾斜、及び、把持爪13の外径面13cの傾斜は、それぞれ軸方向に対して、すなわち、チャック本体12の軸心16に対して同一の傾斜角度であり、互いに並行となっている。このため、押圧部31cと作用部13eとの摺動前、摺動後を通じて、把持爪13の外径面13cとあご部20の内径面20aとの全域に亘る密着状態が維持されやすい。
【0063】
また、ピン15jは、それぞれ対応する長孔13bに入り込んでいるので、把持爪13はマスタージョウ15に対して、チャック本体12の周方向(軸周り方向)に対して位置決めされ、その周方向へは不動である。
【0064】
このように、把持爪13は、密着維持手段30と保持手段40との作用によって、チャック本体12の半径方向外側へ押し出され、且つ、軸方向移動が規制され、さらに、把持爪13の外径面13cとあご部20の内径面20aとはその密着を維持した状態に、把持爪13をマスタージョウ15に固定することができる。
また、この固定状態で、あご部20の内径面20aは、チャック本体12の軸方向前方へ向かうにつれてそのチャック本体12の軸心16に近づく傾斜面であるので、ワークwを把持した際に把持爪13に生じるモーメントMに対しては、密着維持手段30と保持手段40、及び、前記内外径面13c,20a間の密着で対抗することができる。このように、密着維持手段30と保持手段40とを備えたため、把持爪13の着脱に際し、固定ボルトの締め付けや緩めが伴わず、工具が不要であるため把持爪13の着脱が容易である。
【0065】
把持爪13がマスタージョウ15に固定された状態で、
図3(a)に示すように、把持爪13の端面13h(凹部13jが開口する端面)とマスタージョウ15の端面15h(ピン孔15aが開口する端面)とは面接触状態であることが望ましい。端面13h,15h同士の当接により、把持爪13がチャック本体12の軸方向へ位置決めされるとともに、ワークwを把持した際に把持爪13に生じるモーメントMに対しては、前記内外径面13c,20a間、及び、前記端面13h,15h間の、異なる二方向の密着で対抗することができる。この二方向は、
図3(a)に示すように、ワークwに向く側の成す角が鋭角であることによって、前記モーメントMに対してより強固に対抗できる。
【0066】
このとき、端面13h,15h同士の当接を阻害しないよう、補助凸部13fと補助凹部15fとが噛み合う際に、把持爪13の奥部端面13iとマスタージョウ15の奥部端面15iとは隙間w2を介在していることが望ましい。
また、密着維持手段30による把持爪13の半径方向外側への押し出しを阻害しないよう、補助凸部13fの外径面と補助凹部15fの内径面、保持凸部15gの内径面と保持凹部13gの外径面とは、それぞれ隙間w1,w3を介在していることが望ましい。
また、把持爪13に押圧された押圧ピン31が弾性力に抗して軸方向後方へ移動できるよう、ピン孔15aの底面と押圧ピン31の後端との間には、隙間w4が介在していることが望ましい。
【0067】
なお、保持手段40の構成は、これらの実施形態には限定されず、マスタージョウ15と把持爪13との間に設けられ、そのマスタージョウ15と把持爪13とのチャック本体12の軸方向への相対移動を規制し且つチャック本体12の半径方向への相対移動を許容する機能を備えていれば、保持凸部15gと保持凹部13g以外の構成であってもよい。例えば、把持爪13の外径部全体がマスタージョウ15に設けた凹部にぴったりと入り込んで、その把持爪13がマスタージョウ15に対して、軸方向移動不能、半径方向移動可能とされた構成としてもよい。
【0068】
(ストッパ17の取付構造)
つぎに、ストッパ17の着脱について説明する。
図1及び
図2に示すように、チャック本体12の前面に前部プレート57がボルト57bで固定されている。
前部プレート57は円盤状を成す基部の中央に、軸方向前方に向かって突出する係止凸部58が設けられてストッパベースとして機能する。係止凸部58は円筒状を成し、その中心軸(筒軸)は、チャック本体12の中心軸16に一致している。また、係止凸部58の前端は、その前面をフラット面、周面をテーパ面とする円錐台形状となっており、この前端が、ワークwの加工済み部に当接する固定センタとなっている。
【0069】
また、前部プレート57は、前記係止凸部58内に、チャック本体12の軸方向後方側に開口する孔57aを有する。この孔57a内に、ドローバボルト18a又はそのドローバボルト18aと一体の部材が軸方向へ摺動可能に嵌った状態である。
【0070】
この前部プレート57に設けられた係止凸部58に、ストッパ17が固定される。ストッパ17は、その中央に係止凸部58がぴったりと嵌る内径穴を有する環状部材である。
図2に示すように、ストッパ17は、係止凸部58の外周に嵌めて固定される。これにより、旋盤用チャックで把握するワークwの端面のチャック本体12の軸方向に対する位置決め基準として機能する。
【0071】
また、係止凸部58にストッパ17を嵌めて固定した状態で、チャック本体12側から送られた検知用エアが、係止凸部58の側面(軸周り側周面)に設けられた開口部50fを経由して、ストッパ17の内径部(前記内径穴の内面)に設けたエア取入れ口50gからワークwとの接触面である着座検知部51に至るエア回路が設けられている。
【0072】
さらに、ストッパ17と係止凸部58との間には、ロック手段59が設けられている。この実施形態では、ロック手段59として、ボールプランジャ59aとそのボールプランジャ59aのボールが嵌る嵌合凹部56を備えている。ストッパ17を係止凸部58に嵌めて、両者を正規の軸方向位置にすると、ボールプランジャ59aのボールが嵌合凹部56に嵌って自動的に抜け止めが成される。ボールは弾性部材によって突出方向に付勢されているので、そのボールは嵌合凹部56に留まろうとする。このため、ストッパ17を軸方向前方へ向かって軽く引いても、そのストッパ17は係止凸部58から抜けない状態である。また、ストッパ17を強い力で軸方向前方へ引けば、ボールが嵌合凹部56から離脱するので抜け止めの解除が可能である。
【0073】
このように、ストッパ17とチャック本体12側の係止凸部58との間に、自動的に抜け止めが成され且つその抜け止めが解除可能なロック手段59を備えるため、把持爪13の着脱に際し、固定ボルトの締め付けや緩めが伴わず、工具が不要であるためストッパ17の着脱が容易である。
【0074】
ストッパ17を係止凸部58に嵌めて、そのストッパ17を正規の軸方向位置に固定した状態で、前記エア回路の一部を構成するエア通路50は、チャック本体12側の通路50e,50dから係止凸部58内の通路50cを通って、開口部51へ通じるストッパ17内の通路50b,50aに連通している。
【0075】
このとき、係止凸部58内の通路50cは、その係止凸部58の外周全周に亘って連続的に設けた周溝52内に開口している(前記開口部50f)。また、ストッパ17側の通路50bの開口部(前記エア取入れ口50g)も前記周溝52に臨んでいる。この周溝52は、係止凸部58の外面に設けた凹部で形成してもよいし、ストッパ17の内面に設けた凹部で形成してもよい。また、係止凸部58の外面とストッパ17の内面の両方に凹部を設け、それらを向いあわせで形成してもよい。
【0076】
ストッパ17を係止凸部58に嵌めた状態で、ストッパ17の内周と係止凸部58の外周との間に設けられたパッキンによって、係止凸部58内の通路50cとストッパ17内の通路50bとは、気密が維持された状態に連通している。
このため、ストッパ17は、係止凸部58に対してその係止凸部58の軸心周り任意の方位に固定しても、常に、係止凸部58内の通路50cとストッパ17内の通路50bとが気密が維持された状態に連通することができる。
【0077】
このように、ストッパ17を係止凸部58の軸心周り任意の方位に固定できれば、ワークwの種別や形状に合わせて開口部51の位置を変化させることができる。特に、この実施形態では、係止凸部58の軸心は、チャック本体12の中心軸16と同心であるので、開口部51の位置をチャック本体12の中心軸16間wりに回転移動することができる。
【0078】
このとき、ストッパ17と前部プレート57とは、チャック本体12の軸方向に並行に配置されたピン55で連結されているので、ストッパ17は係止凸部58の軸心周りに回転止めすることができる。このピン55が嵌るストッパ17側の孔、あるいは、前部プレート57側の孔を、別の位置に設けた孔に変更することにより、ストッパ17を固定する方位を変更することが可能である。
【0079】
また、この実施形態では、係止凸部58にストッパ17を嵌めて固定した状態で、チャック本体12側から送られたエアブロー用のエアー又は冷却用のクーラント液が流れる供給通路60が備えられている。
【0080】
供給通路60は、ドローバ18側からドローバボルト18aに設けた穴63を通って係止凸部58に至っている。穴63は、チャック本体12の軸心と同心にドローバボルト18aの全長に亘って設けられている。
【0081】
この構成によれば、ドローバボルト18a内の穴63を利用してエアブロー用のエアー又は冷却用のクーラント液を係止凸部58側へ供給でき、また、検知用エアは、ドローバボルト18aの外周を通って係止凸部58側へ供給できる。このため、エア検知とエアブロー又はクーラント液の流路を、チャック本体12の軸心を中心に内外へ分けて配設することができ、その構造を簡素化し得る。
【0082】
また、この実施形態では、ストッパ17と前部プレート57の一方に係止凸部58を囲む環状の突条53を、他方にその突条53がぴったりと嵌る凹溝54を設けている。この実施形態では、前部プレート57側に突条53を、ストッパ17側に凹溝54を設けているが、これを逆に配置してもよい。
環状の突条53が凹溝54に嵌ることで、ストッパ17と前部プレート18との間の隙間に異物が入り込むことを防ぐことができる。このため、係止凸部58内の通路とストッパ17内の通路とを連通する周溝52などに異物が入り込んで、ワークwのエア検知に支障がでる事態を防止することができる。
【0083】
なお、このストッパ17の取付構造は、この実施形態の把持爪13の取付構造を備えたチャック装置以外のチャック装置にも採用することができる。
【0084】
また、これらの把持爪13の取付構造、ストッパ17の取付構造は、それぞれ、ワークwの外面を把持するいわゆる外径張り方式のチャック装置と、ワークwの内面を把持するいわゆる内径張り方式のチャック装置のいずれにも採用することができる。また、そのチャック装置の種別としては、特に引込式チャック装置が有効であるが、引込式チャック装置以外の他の形式のチャック装置にも使用可能である。
【0085】
把持爪13を取付ける動作部材に関し、引込式チャック装置以外の他の形式のチャック装置を採用する場合は、その動作部材としては、例えば、一般的なパワーチャックにおいては、チャック本体12内のアクチュエータ14等の動作に連動して、半径方向へ移動、あるいは旋回移動等する把持爪取付部材(マスタージョウ)に相当する。この把持爪取付部材の半径方向移動や旋回移動等によって、把持爪13がチャック本体12の半径方向に移動する構成である。
その他、ドローバの動作や、圧力流体によるシリンダのピストンの動作によって、把持爪をチャック本体の半径方向に移動させる種々の構造からなるチャック装置においては、この把持爪13とそれが取付けられる動作部材(前記把持爪取付部材)との間に、上記各構成からなる取付構造を採用することができる。