【実施例】
【0126】
以下、実施例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0127】
以下の諸物性値についての測定方法を示す。
【0128】
<固形分濃度>
各層を形成する樹脂を精秤し、この時の重量をCgとする。電子天秤上で当該樹脂を溶剤に溶かすために、攪拌しながら溶剤を徐々に加え、最終的な溶液重量をDgとしたときの固形分濃度は、次式(II)となる。
固形分濃度=C/D×100(%) (II)
【0129】
<フィラー比表面積>
フィラーの比表面積(g/cm
3)の測定は、日本ベル株式会社製 自動比表面積測定装置
BELSORP−miniIIを用い、低温窒素吸着によるBET法にて行った。
【0130】
<表面粗さ(Rz)>
表面粗さ(μm)は、JIS B0601−1994に準拠して測定した。測定機は、キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9700を用い、観察条件は対物レンズ20倍×接眼レンズ50倍の1000倍で行った。観察で得られたベルト表面の画像を用い、線粗さを以下の測定条件で測定した。
傾き補正:面傾き補正(自動)
カットオフ:なし
測定長:0.25mm。
同一ベルト内で異なる表面部位を5箇所測定し、その十点平均粗さ(Rz)の平均値を表面粗さとした。
【0131】
<表面層厚み>
表面層の厚み(μm)は大塚電子製 MCPD3000を用いて、ピークバレイ法、計算範囲550nm〜700nm、ノイズSH=0.01にて測定した。
幅方向の長さ360mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで3ヶ所、縦(周)方向に4カ所の合計12ヶ所について、それぞれ測定し、その平均値で示した。
【0132】
<基材層厚み>
基材層の厚み(μm)は、株式会社ケツト製 渦電流式膜厚計LH−200Jを用いて測定した。
幅方向の長さ400mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで3ヶ所、縦(周)方向に8カ所の合計24ヶ所について、それぞれ測定し、その平均値で示した。
【0133】
<総厚み>
多層ベルトの総厚みは、(株)ミツヨト製デジマチックインジケータの平面型測定子を用いて幅方向3点、周方向8点の合計24点測定し、その平均値として示した。
【0134】
<静摩擦係数>
静摩擦係数は、新東科学(株)製のHeidon 94iを用いて、同一ベルト内で異なる表面部位を10箇所測定し、その平均値を静摩擦係数とした。
【0135】
<表面抵抗率、体積抵抗率>
表面抵抗率(Ω/□)及び体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学(株)製の抵抗測定器“ハイレスタIP・HRブロ−ブ”を用いて測定した。幅方向の長さ360mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで3ヶ所、縦(周)方向に4カ所の合計12ヶ所について、印加電圧100V、10秒後に表面抵抗率及び体積抵抗率をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0136】
<ヤング率>
ヤング率はJIS K7127に準拠し、(株)島津製作所製 オートグラフAG−Xを用いて測定した。
サンプル片25×250mmの短冊状
引張速度20mm/分
【0137】
<テーバー磨耗量>
テーバー磨耗量は、JIS K-7204に従って評価した。テーバー磨耗試験機の磨耗輪はCS−17、荷重250gにて300回行った(サンプル数=各5)。
【0138】
<マルテンス硬さ>
ダイナミック超微小硬度計(DUH−211S(株)島津製作所製)を用いて、押し込み深さ10μmの場合の硬度(ISO14577−1 マルテンス硬さ)を以下の条件にて測定した。この際、押込み深さ2μm丁度のマルテンス硬さデータを得るために、2μm押込み深さの前後2点間のプロットから最小ニ乗法により、直線の傾き、切片を計算し硬度を算出した。
なお、それぞれの押し込み深さの硬度については、同一ベルト内で異なる表面部位を5箇所測定し、その平均値をマルテンス硬さとした。
試験機:島津ダイナミック超微小硬度計DUH−211S
試験モード:負荷−除荷試験
負荷速度:0.1463mN/秒
最小試験力:0.02mN
負荷保持時間:2秒
除荷保持時間:0秒
設定押込み深さ:10μm
試験力レンジ:19.6133mN
Cf−Ap、As補正あり
圧子の種類:Triangular115(稜間角115°ダイアモンド三角すい圧子、バーコビッチ形)
【0139】
<IRHDゴム硬度>
JIS K6253に従い、IRHDマイクロ硬度計(型番:H12型、ウォーレス社製)を用いて、ベルトの表面層側からゴム硬度を測定した。
【0140】
<ゴム硬度(タイプA硬度)>
JIS K6253に従い、デュロメーターAを用いて、弾性層を構成する材料で厚み10mmのバルク(塊)を作成して評価した。
【0141】
<電子顕微鏡断面観察>
ベルト断面をミクロトームでスライスし、蒸着厚みが5nmになるよう金蒸着を施して、観察用サンプルを作製した。観察用サンプルについて、電子顕微鏡(日立製作所製SEM: S−4800)による断面観察を行った。
【0142】
<フィラー偏在確認>
ベルト断面をミクロトームでスライスし、蒸着厚みが5nmになるよう金蒸着を施して、観察用サンプルを作製した。観察用サンプルについて、電子顕微鏡(日立製作所製SEM: S−4800)による断面観察を行った。
また、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの質量濃度M
1、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ60〜80μmの領域に含まれるフィラーの質量濃度M
2、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ120〜140μmの領域に含まれるフィラーの質量濃度M
3を、EDX(堀場製作所製エネルギー分散型X線分析装置 EMAX モデル7593H、加速電圧:20kV、照射時間:5分間)により測定し、それぞれの濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を求めた。
【0143】
<ライン画像中抜け>
ライン画像中抜けの評価は、23℃、55%の環境下にて、用紙走行方向に並行なライン画像のみの画像をA4サイズで10プリントし、ライン画像をルーペで観察し、ラインの中抜けの程度評価した。
ライン画像中抜けは次の基準で評価した。
「○」:中抜け発生が10枚全てのプリント画像で3箇所以下
「△」:中抜け発生が4〜10箇所のプリントが1枚以上発生
「×」:中抜け発生が11箇所以上のプリントが1枚以上発生
【0144】
<厚口用紙通紙エッジ部クラック>
複写機の二次転写ロール外面に坪量250g/m
2の厚口用紙を巻きつけ、擬似的に連続通紙した状態とし、A4用紙30万枚相当の駆動試験を行った後、黒のハーフトーン画像を印刷し、駆動試験の紙エッジ部と通紙部に相当する位置における画像への影響を確認した。
駆動速度:ベルト外周速度300mm/秒
通電:電源(Trek 610C)によりベルト厚み方向に50μAの定電流を供給
通紙クラック:二次転写ロール外面に15cm幅にカットした厚口用紙を巻きつけ、擬似的に連続通紙した状態を作製
クリーニング機構:ウレタンゴム製クリーニングブレード(ゴム硬度 タイプA 80°)
紙エッジ部クラックの評価は次の基準で評価した。
「○」:画像への影響は全くない
「△」:画像への影響が僅かに認められる
「×」:画像への影響が認められる
【0145】
<耐久後ゴム層露出確認>
A4用紙30万枚相当の駆動試験後の厚口用紙通紙エッジ部クラックを確認した後、引き続き同一条件で、A4用紙100万枚相当になるまで駆動試験を継続し、ベルトの通紙部に相当する部位を顕微鏡で観察してゴム層の露出の有無を確認した。
ゴム層の露出は次の基準で評価した。
「○」:露出は全くない
「△」:画像への影響のないレベルの微小な露出あり
「×」:画像への影響のあるレベルの露出あり
【0146】
実施例1
(1)基材層の製膜
窒素流通下、N−メチル−2−ピロリドン488gに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)47.6gを加え、50℃に保温、撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70gを除々に添加し、ポリアミック酸溶液605.6gを得た。このポリアミック酸溶液の数平均分子量は19,000、粘度は43ポイズ、固形分濃度は18.1重量%であった。
次に、このポリアミック酸溶液450gに、酸性カーボンブラック(pH3.0)21gとN−メチル−2−ピロリドン80gを加えて、ボールミルにてカーボンブラック(CB)の均一分散を行った。このマスターバッチ溶液は、固形分濃度18.5重量%、該固形分中のCB濃度は20.4重量%であった。
そして該溶液から273gを採取し、回転ドラム内に注入し、次の条件で成形した。
回転ドラム:内径301.5mm、幅540mmの内面鏡面仕上げの金属ドラムが2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した(例えば、
図2参照)。
加熱温度:該ドラムの外側面に遠赤外線ヒータを配置し、該ドラムの内面温度が120℃に制御されるようにした。
まず、回転ドラムを回転した状態で273gの該溶液をドラム内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は1℃/分で120℃まで昇温して、その温度で60分間その回転を維持しつつ加熱した。
回転、加熱が終了した後、冷却せずそのまま回転ドラムを離脱して熱風滞留式オーブン中に静置してイミド化のための加熱を開始した。この加熱も徐々に昇温しつつ320℃に達した。そして、この温度で30分間加熱した後常温に冷却して、該ドラム内面に形成された半導電性管状ポリイミドベルトを剥離し取り出した。なお、該ベルトは厚さ80.1μm、外周長944.2mm、表面抵抗率1×10
11〜3×10
11Ω/□、体積抵抗率1×10
9〜3×10
9Ω・cmであった。
【0147】
(2)表面層の製膜
ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2801、アルケマ製:HFP11モル%)100gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)900gに溶解させ、固形分濃度10重量%の溶液Aを調製した。
有機変性モンモリロナイト(ルーセンタイトSEN、コープケミカル(株)製)100gを、ジメチルアセトアミド900gに加え、ボールミルにて均一分散を行って固形分濃度10重量%の溶液Bを調製した。
溶液Aと溶液BをA:B=99:1で調合しペイントシェイカーで混合し、固形分濃度10重量%、該固形分中の有機変性モンモリロナイト濃度1重量%の溶液を得た。これをDMAc:酢酸ブチル=1:2の混合溶媒で希釈し、固形分濃度2.0重量%、該固形分中有機変性モンモリロナイト濃度1重量%(表面層の総重量に対するモンモリロナイトの配合割合に相当する)の溶液(以下、表面層形成用組成物ということもある)を調製した。この溶液112gを次の条件で製膜した。
回転ドラム:内径301.0mm、幅540mm、内面十点平均粗さ(Rz)=0.5μmの金属ドラムが2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した(例えば、
図2参照)。
回転ドラムを回転した状態でドラム内面に均一に塗布し加熱を開始した。加熱は2℃/分で130℃まで昇温して、その温度で20分間その回転を維持しつつ加熱し、ドラム内面に表面層を形成した後ドラムを常温まで冷却した。
なお、上述の表面層形成用組成物を用いて、同一製膜条件で別途10μmの表面層を作製した。その10μmの表面層の体積抵抗率は4×10
12Ω・cm、ヤング率は610MPa、表面層の表面粗さ(Rz)は、0.6μmであった。
【0148】
(3)ゴム弾性層の製膜
キシレン219.58gに真比重1.1g/cm
3のブロック型ウレタン用プレポリマー(ウレハイパーRUP1627、DIC(株)製)169.6gを溶解させた溶液に、フィラーとして、3−アミノプロピルトリエトキシシランにて湿式法処理された、比表面積6.3m
2/g、平均アスペクト比1.8、真比重5.8g/cm
3の無定形粒子状の酸化ジルコニウム(SPZ酸化ジルコニウム、平均粒子径D50=3.0μm、第一稀元素化学工業(株)製)19.8gを加え、ボールミルにて均一分散を行った。更に、この分散液に脂肪族ジアミン系の硬化剤CLH−5(DIC(株)製)を13.28g添加し撹拌を行った。
このようにして得られた溶液の固形分濃度は55重量%、該固形分中の酸化ジルコニウムは、9.7重量%、体積分率で2.0%であった。この分散液を、先に製膜した表面層内面に回転した状態で均一に塗布し加熱を開始した。加熱は1℃/分で150℃まで昇温して、その温度で30分間その回転を維持しつつ加熱し、ドラム内面にゴム弾性層を形成した。
この加熱段階における回転ドラムの回転速度は重力加速度の5.0倍の遠心加速度であった。一般に、重力加速度(g)は9.8(m/s
2)である。
遠心加速度(G)は前述の下記式(I)から導かれる。
G(m/s
2)=r・ω
2=r・(2・π・n)
2 (I)
ここで、rは円筒金型の半径(m)、ωは角速度(rad/s)、nは1秒間での回転数(60秒間の回転数がrpm)を示す。前記式(I)より、円筒状金型の回転条件を適宜設定することができる。
上記、弾性層用ウレタン原料溶液に、フィラーを加えなかった以外は同様にして製膜したゴム弾性層単膜を10mm厚になるよう重ね合わせ、タイプA硬度を測定したところ40°であった。
【0149】
(4)ゴム弾性層内面とポリイミド外面の張り合わせ
上記(3)で製膜したゴム弾性層内面にプライマーDY39−067(東レダウコーニング製)を塗布、風乾した後に、ドライラミ接着剤を薄く外面に塗布した(1)のポリイミドベルトを挿入し重ね合わせた。基材層内面から圧着し、加熱(80〜100℃)を行い、張り合わせを完了させた。張り合わせた多層ベルトを金型から剥離し両端部をカットし幅360mmの多層ベルトと電子顕微鏡観察用サンプル片を採取した。
該多層ベルトは、厚さ380.5μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.28、表面抵抗率1×10
11〜3×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜6×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.7μm、表面層のみの厚さは2.53μm、IRHD硬度75.8 IRHD、テーバー摩耗量0.12mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=15.2、M
1/M
3=19.3であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
【0150】
実施例2
ゴム弾性層に配合する酸化ジルコニウムの表面処理を、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランで行った以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ380.0μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.28、表面抵抗率1×10
11〜2×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜6×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.7μm、表面層のみの厚さは2.49μm、IRHD硬度75.3 IRHD、テーバー摩耗量0.14mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=17.3、M
1/M
3=21.8であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
【0151】
実施例3
ゴム弾性層に配合するフィラーを、3−アミノプロピルトリエトキシシランにて湿式法処理された、比表面積2.4m
2/g、平均アスペクト比1.9、真比重5.8g/cm
3の無定形粒子状の酸化ジルコニウム(SOPT酸化ジルコニウム、平均粒子径D50=8.7μm、第一稀元素化学工業(株)製)とした以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ381.3μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.25、表面抵抗率1×10
11〜4×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜7×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.8μm、表面層のみの厚さは2.55μm、IRHD硬度78.7 IRHD、テーバー摩耗量0.21mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=23.8、M
1/M
3=40.3であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
【0152】
実施例4
ゴム弾性層に配合するフィラーを、3−アミノプロピルトリエトキシシランにて湿式法処理された、比表面積7.9m
2/g、平均アスペクト比21.6、真比重3.0g/cm
3の針状のホウ酸アルミニウム(アルボレックス、平均粒子径D50=14μm、四国化成(株)製)とし、その量を5.3重量%、体積分率2.0%とした以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ381.2μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.24、表面抵抗率2×10
11〜5×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜6×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.7μm、表面層のみの厚さは2.42μm、IRHD硬度79.6 IRHD、テーバー摩耗量0.49mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるアルミニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=20.6、M
1/M
3=23.3であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
【0153】
実施例5
ゴム弾性層に配合するフィラーの表面処理を、アルミニウム系カップリング剤であるアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートとした以外は、実施例4と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ381.1μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.25、表面抵抗率2×10
11〜5×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜5×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.7μm、表面層のみの厚さは2.42μm、IRHD硬度78.8 IRHD、テーバー摩耗量0.58mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるアルミニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=19.9、M
1/M
3=24.7であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
【0154】
実施例6
表面層材料として、エーテル系ウレタン樹脂をバインダーとした水系ウレタン塗料(Emralon345、ヘンケルジャバン株式会社製)と、硬化剤(WH−1、ヘンケルジャパン株式会社製)を主剤:硬化剤:蒸留水=19:1:100(質量比)の割合で調整した溶液120gを用い、使用する回転ドラムを内面十点平均粗さ(Rz)=0.9μmの金属ドラムとした以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ380.2μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.26、表面抵抗率1×10
11〜5×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜7×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は1.1μm、表面層のみの厚さは4.12μm、IRHD硬度75.5RHD、テーバー摩耗量0.40mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=14.7、M
1/M
3=18.1であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
なお、上述の表面層形成用組成物を用いて、同一製膜条件で別途10μmの表面層を作製した。その10μmの表面層の体積抵抗率は2×10
12Ω・cm、ヤング率は380MPa、表面層の表面粗さ(Rz)は、1.2μmであった。
【0155】
実施例7
ゴム弾性層の硬化剤として、CLH−5を7.97g(DIC(株)製)、4,4−メチレンビス(2−メチルシクロヘキサンアミン)を3.93g(DIC(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ379.9μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.25、表面抵抗率3×10
11〜6×10
11Ω/□、体積抵抗率3×10
10〜9×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.8μm、表面層のみの厚さは2.59μm、IRHD硬度81.1 IRHD、テーバー摩耗量0.17mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=15.3、M
1/M
3=21.0であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
上記、弾性層用ウレタン原料溶液に、フィラーを加えなかった以外は同様にして製膜したゴム弾性層単膜を10mm厚になるよう重ね合わせ、タイプA硬度を測定したところ55°であった。
【0156】
実施例8
ゴム弾性層の硬化剤として、CLH−5を6.64g(DIC(株)製)、4,4−メチレンビス(2−メチルシクロヘキサンアミン)を4.91g(DIC(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ379.6μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.23、表面抵抗率2×10
11〜6×10
11Ω/□、体積抵抗率3×10
10〜8×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.8μm、表面層のみの厚さは2.55μm、IRHD硬度81.9 IRHD、テーバー摩耗量0.27mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=16.0、M
1/M
3=23.8であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
上記、弾性層用ウレタン原料溶液に、フィラーを加えなかった以外は同様にして製膜したゴム弾性層単膜を10mm厚になるよう重ね合わせ、タイプA硬度を測定したところ59°であった。
【0157】
比較例1
ゴム弾性層に配合する酸化ジルコニウムに表面処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ381.6μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.29、表面抵抗率2×10
11〜5×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜6×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.9μm、表面層のみの厚さは2.44μm、IRHD硬度76.2 IRHD、テーバー摩耗量0.82mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=19.5、M
1/M
3=23.3であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出が、通紙部で認められた。
【0158】
比較例2
ゴム弾性層に配合する酸化ジルコニウムに表面処理を行わなかった以外は、実施例3と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ382.2μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.27、表面抵抗率1×10
11〜3×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜6×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.8μm、表面層のみの厚さは2.51μm、IRHD硬度78.6 IRHD、テーバー摩耗量0.67mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=22.7、M
1/M
3=無限大であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出が、通紙部で認められた。
【0159】
比較例3
ゴム弾性層に配合するホウ酸アルミニウムに表面処理を行わなかった以外は、実施例4と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ381.6μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.25、表面抵抗率3×10
11〜7×10
11Ω/□、体積抵抗率3×10
10〜9×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.8μm、表面層のみの厚さは2.50μm、IRHD硬度78.7 IRHD、テーバー摩耗量1.23mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるアルミニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=22.1、M
1/M
3=27.5であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出が、通紙部で認められた。
【0160】
比較例4
ゴム弾性層に配合するフィラーを、比表面積26.3m
2/g、平均アスペクト比1.9、真比重5.8g/cm
3の無定形粒子状の酸化ジルコニウム(EP酸化ジルコニウム、平均粒子径D50=1.1μm、第一稀元素化学工業(株)製)とし、表面処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ379.9μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.37、表面抵抗率1×10
11〜3×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜5×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.7μm、表面層のみの厚さは2.42μm、IRHD硬度75.3 IRHD、テーバー摩耗量0.26mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=3.3、M
1/M
3=4.4であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに、表面層の剥離、クラック発生が起こり、画像への影響が明確に確認されたので、ここで耐久テストを終了した。
【0161】
比較例5
ゴム弾性層に配合するフィラーを、3−アミノプロピルトリエトキシシランにて湿式法処理された、比表面積0.65m
2/g、平均アスペクト比1.3、真比重3.98g/cm
3の球状アルミナ(AX3-15アルミナ、平均粒子径D50=3.5μm、(株)マイクロン製)とし、その量を6.8重量%、体積分率2.0%とした以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ380.8μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.26、表面抵抗率2×10
11〜4×10
11Ω/□、体積抵抗率2×10
10〜7×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は0.8μm、表面層のみの厚さは2.51μm、IRHD硬度76.9 IRHD、テーバー摩耗量0.78mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるアルミニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=23.8、M
1/M
3=30.7であった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜け発生が3箇所以下であり、良好であった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出が、通紙部で認められた。
【0162】
比較例6
ゴム弾性層の硬化剤としてCLH−5を5.31g(DIC(株)製)、4,4−メチレンビス(2−メチルシクロヘキサンアミン)を5.89g(DIC(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
得られた多層ベルトは、厚さ381.3μm、外周長945.0mm、静摩擦係数0.24、表面抵抗率3×10
11〜8×10
11Ω/□、体積抵抗率3×10
10〜9×10
10Ω・cm、表面粗さ(Rz)は1.0μm、表面層のみの厚さは2.50μm、IRHD硬度83.3RHD、テーバー摩耗量0.33mgであった。電子顕微鏡(SEM)による断面観察とEDXによるジルコニウムの質量濃度比(M
1/M
2、M
1/M
3)を測定したところ、M
1/M
2=14.3、M
1/M
3=18.4だった。これより、表面層とゴム弾性層の界面から基材層側に向かって深さ20μmまでの領域に含まれるフィラーの濃度が、ゴム層中央部よりも高濃度になっていることが確認された。
初期画像のライン画像中抜けについては、10枚全てのプリント画像で、中抜けが11箇所以上発生し、実用上問題あるレベルであった。
また、30万枚相当の厚口用紙通紙耐久テスト後のハーフトーン画像を確認したところ、通紙耐久テスト紙エッジ部、通紙部ともに画像への影響は全く認められなかった。さらに100万枚相当の駆動テスト後の表面観察を行ったところ、磨耗によるゴム弾性層の露出は認められなかった。
上記、弾性層用ウレタン原料溶液に、フィラーを加えなかった以外は同様にして製膜したゴム弾性層単膜を10mm厚になるよう重ね合わせ、タイプA硬度を測定したところ62°であった。
【0163】
実施例1〜8、比較例1〜6により得られた多層ベルトの物性を、表1に示した。
【0164】
【表1】