【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて
山と谷とを繰り返す略波状に形成された壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管が
前記壁体の谷部分に入り込んで、その長手方向を鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を
前記鋼矢板に嵌合させることなく油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の発明においては、鋼製壁が複数の鋼矢板を継手により連結した壁体(鋼矢板壁)と、この壁体の鋼矢板の長手方向に、長手方向を沿わせて接する鋼管からなる。
よって、鋼矢板の継手を連結した鋼矢板壁により鋼管矢板壁より高い止水性能をもつ鋼製壁を得ることが可能になる。さらに、高い剛性を有する鋼管が壁体に接することにより鋼管矢板壁と同等以上の高い剛性(断面性能)を持つ鋼製壁を得ることができる。
なお、鋼製壁の適用にあたっては、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。それに対して、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合には、条件によっては鋼矢板と鋼管が別々に挙動してしまう虞がある。したがって、鋼矢板と鋼管を連結しない場合には、土圧または水圧を受ける側と反対側に鋼管を設けるのが好ましい。
【0013】
鋼製壁の施工に際しては、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入する。鋼矢板を先行打設して鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁を構成する鋼矢板のうちの複数本の鋼矢板から反力を取って鋼管を鋼矢板に沿って圧入することで、鋼矢板壁に沿って任意の位置に鋼管が配置された鋼管列を設けることが可能となる。なお、先行打設する鋼矢板は油圧圧入で施工してもよいし、バイブロハンマ工法で施工してもよい。
【0014】
鋼矢板壁に沿って任意の位置に鋼管列を設ければ、止水性能に優れた鋼矢板壁を鋼管列で補強した構造と見ることができる。すなわち、鋼矢板と鋼管とを組み合わせた壁体になり、鋼矢板壁により高い止水性能を確保しつつ、鋼管列により高い断面性能を確保できる。この際に鋼管列における鋼管の位置により鋼矢板壁と鋼管列からなる壁体の断面性能を任意に設定することができる。すなわち、鋼管の位置を任意に設定できることから、適切な断面性能を有する壁体を構築することができるとともに、それにともなって適切なコストで壁体を構築することができる。
また、既設の鋼矢板壁からなる擁壁や護岸に対して、鋼矢板から反力を得て新たに鋼管を圧入する事により、例えば、河積(川の横断面の水の占める面積、または、計画高水位以下の河川流水断面積)増大のための掘削時の補強や、耐震性向上のための補強を行うこともできる。
また、壁体の谷部分に鋼管が入り込んでいるので、壁体の長さ方向に直交する方向に沿った鋼製壁の幅を狭くすることができる。よって、省スペースであり、スペース効率に優れる。
なお、山と谷とを繰り返す略波状に形成される壁体はハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板などを使用することで形成すればよい。ただし、ハット形鋼矢板は、U形鋼矢板やZ形鋼矢板に比べて施工性に優れ、工費縮減、工期短縮を図ることができる。また、ハット形鋼矢板は継手部分で長手方向のズレが発生せず断面性能が効率的かつ明確で、鋼矢板で構築した壁体の凹凸数に対する継手の箇所数もU形鋼矢板やZ形鋼矢板などの各種鋼矢板の中で最小となるため、鋼管と鋼矢板を組み合せた壁体をより安定的な構造とし、施工の管理や精度の確保を容易にする効果が期待できる。このため、鋼矢板壁を構築するためにはハット形鋼矢板を用いることが好ましい。
【0015】
請求項2に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて
山と谷とを繰り返す略波状に形成された壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管が
前記壁体の谷部分に入り込んで、その長手方向を鋼矢板の長手方向に沿って、壁体と間隔をあけて並べて設けられ、壁体と鋼管とが、両者の頭部で連結されており、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を
前記鋼矢板に嵌合させることなく油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明においては、壁体と鋼管が一定の間隔をあけて並べて設けられているため、鋼管と鋼矢板が長手方向にわたって連続的にお互いに力を伝達することはない。
しかし、壁体と鋼管との間に間隔を設ければ、振動、騒音や変形を防止できる可能性が高まる。すなわち、間隔が狭いと、例えば、鋼管を打設する際に、施工中に鋼管の打設方向にずれが生じた場合に壁体に鋼管が接触してしまい、これが振動、騒音や変形の発生の要因になる可能性があるが、これらの発生を抑制することができる。
一方で、壁体と鋼管とが、その頭部で連結されている。頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、土圧や水圧の作用する向きに関わらず、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧などを分担して受け持つ構造となり、合理的でより安定的な壁体とすることができる。特に、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合でも、鋼管と鋼矢板の力の伝達を確保し、両者が別々に挙動することを防止して、安定的な壁体を構築することができる。
なお、鋼管と鋼矢板の間に間隔を設ける場合、その間隔が100mm〜200mm程度であれば、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みがそれほど増加することもなく、鋼管と鋼矢板を組合せた壁体としての安定性を損なうこともない。
【0017】
ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
鋼製壁の施工に際しては、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を油圧圧入または回転圧入する。先に構築された鋼矢板壁からの反力を取って任意の位置に鋼管を圧入し鋼管列を設けることができる点は請求項1と同じである。
【0018】
請求項3に記載の鋼製壁は、複数の鋼矢板が継手により連結されて
山と谷とを繰り返す略波状に形成された壁体が設けられるとともに、壁体の全てまたは一部の鋼矢板に鋼管が
前記壁体の谷部分に入り込んで、その長手方向を鋼矢板の長手方向に沿わせて接するように設けられ、壁体と鋼管とが、両者の頭部で連結されており、壁体を構成する鋼矢板から反力を取って鋼管を
前記鋼矢板に嵌合させることなく油圧圧入または回転圧入することにより、壁体に沿って複数の鋼管が並んでいることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明においては、鋼製壁が複数の鋼矢板を継手により連結した壁体(鋼矢板壁)と、この壁体の鋼矢板の長手方向に、長手方向を沿わせて接する鋼管からなり、さらに、壁体と鋼管とが、その頭部で連結されている。
よって、上述の請求項1および請求項2に記載の発明の効果を得ることができる。すなわち、壁体の前面側に鋼管を配置する(鋼管が掘削側となる)場合には、鋼矢板が受けた土圧や水圧を長手方向にわたって連続的に鋼管へ伝達することができる。さらに、壁体の背面側に鋼管を配置する(鋼矢板壁が掘削側となる)場合にも、頭部を連結し、鋼管と鋼矢板の間で少なくとも水平方向の力の伝達が可能な構造とすれば、鋼管と鋼矢板が別々の挙動を示すことなく、土圧または水圧を分担して受け持つ構造となる。すなわち、土圧などの作用する向きに関わらず、合理的な壁体を構築することができる。
また、鋼管と鋼矢板が接して沿うことで、頭部を連結するための部材の寸法・必要耐力や壁体全体としての厚みが最小限に抑えられる。ここで、壁体頭部と鋼管頭部との連結手法は特に問わない。例えば、コーピング、溶接、ボルト、ドリルねじ等が挙げられ、必要に応じて複数の連結方法を併用することもできる。例えば、鋼管と壁体を跨るようにコンクリートが打設されるようにすれば、鋼管と壁体との間の天端が陥没する等の危険性が少ない上、美観にも優れる。
【0020】
請求項4に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、複数設けられた前記鋼管の外径が同一であり、鋼管の板厚および鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体内で剛性を変化させたことを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明においては、鋼管の外径を同一にすることにより、鋼矢板と鋼管を組合せた壁体の厚さを一定に保つことができる。また、鋼管を打設する際、施工機械における鋼管の把持装置のサイズ変更が不要となり、施工効率を上げることができる。
さらに、板厚、鋼管どうしの間隔を変化させることによって、壁体の剛性を場所によって任意に設定することができる。この場合、例えば、壁体の一部が低い鋼製壁を構築するとき、当該部分で剛性を小さくすることで、過剰な剛性になるのを防止することに加え、剛性から要求される根入れ長も小さくすることができ、それによりコストの低減を図ることもできる。
鋼管どうしの間隔の組合せを変化させる場合、例えば、3つの連続する鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したり、2つの鋼矢板に対して1つの鋼管の割合で鋼管を配置したりすることでの剛性を変化させたりすることができる。
【0022】
請求項5に記載の鋼製壁は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、鋼矢板と鋼管とは、それぞれの長手方向の長さが互いに異なることを特徴とする。
鋼矢板に沿って鋼管が並べて設けられている壁体の鋼矢板の根入れ長は、壁体として鋼矢板のみを用いるときよりも小さく設定することもできる。通常、鋼矢板や鋼管矢板では、壁に作用する土圧や水圧に対して水平方向の抵抗を確保するために、その剛性に応じた根入れ長が設定されるが、鋼管が設けられた前記壁体では水平方向の抵抗を鋼管によって確保することが可能になるので、鋼矢板は止水や土留めのために必要な最低限の長さに留めることも可能になる。その場合、鋼矢板は前面側と背面側に作用する土圧が釣り合う点から1〜2m程度根入れしておけば十分な場合が多い。また、地下水の止水やボイリング防止のように、剛性は必要なく、壁の前面と背面の縁切りための根入れ長が必要な場合には、逆に鋼管より鋼矢板の方を深くしてもよい。
【0025】
請求項
6に記載の鋼製壁は、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して鋼矢板から反力を取り、鋼管を油圧圧入または回転圧入して形成することを特徴とする。
【0026】
請求項
6に記載の発明においては、鋼管が設置された谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して反力を取ると、杭圧入装置の大きさを小さくすることができる。また、鋼管は把持した部分に近い側に圧入する方が安定して施工する上でも好ましい。谷部分に隣接する山部分の壁体を把持して反力を取りさえすればよいが、この場合反力が不十分になる場合もあるので、当該山部分の壁体と隣接する山部分で、設置される鋼管とは逆側の山部分の1または2の壁体も合わせて把持して反力を取ること、すなわち連続する山部分の2または3の壁体を把持して反力を取ることが好ましい。
【0027】
請求項
7に記載の鋼製壁は、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、壁体の一側面に連続的に並んで形成されている複数の谷部分に離散的に設けられていることを特徴とする。
【0028】
請求項
7に記載の発明においては、鋼製壁にかかる圧力が比較的小さい場合や、使用される鋼矢板や鋼管の剛性が高い(例えば、鋼管径が大きい)場合には、例えば、鋼管を一つおきや二つおきの谷部分に配置することにより、離散的に鋼管を設けることで、すべての谷部分に鋼管が設けられる場合に比べ、鋼管の使用量を減らすことにより、コストの低減を図ることができる。
ことを特徴とする。