特許第5769641号(P5769641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧 ▶ 三菱電機ホーム機器株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000002
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000003
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000004
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000005
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000006
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000007
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000008
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000009
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000010
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000011
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000012
  • 特許5769641-誘導加熱調理器の電源回路装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769641
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】誘導加熱調理器の電源回路装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20150806BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20150806BHJP
【FI】
   H05B6/12 332
   H05B6/12 320
   H02M7/48 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-6716(P2012-6716)
(22)【出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2013-149353(P2013-149353A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2013年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176866
【氏名又は名称】三菱電機ホーム機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 浩二
(72)【発明者】
【氏名】原田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】小倉 洋介
【審査官】 長浜 義憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−235143(JP,A)
【文献】 特開昭58−089792(JP,A)
【文献】 特開2011−083123(JP,A)
【文献】 特開2011−044422(JP,A)
【文献】 特開昭60−143586(JP,A)
【文献】 特開2008−005575(JP,A)
【文献】 特開2008−235142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱コイル(7)を有する誘導加熱調理器のための電源回路装置(1)において、
交流電圧を直流電圧に変換する第1および第2の整流回路(12,32)と、
前記第1の整流回路(12)からの直流電圧から高周波電流を生成する、互いに直列接続された第1および第2のスイッチング素子(16,18)を有するインバータ(14)と、
同軸上に捲回された1次側巻線(P)ならびに第1および第2の2次側巻線(S,S)を含むトランス(40)と、
前記第1および第2の2次側巻線(S,S)の間に配置される結合阻害手段と、
前記第1および第2の2次側巻線(S,S)に発生する電圧を整流平滑し、第1および第2の電圧(V,V)を含む第1および第2の直流電源を生成する第1および第2の2次側整流平滑回路(38,39)と、
前記第2の整流回路(32)からの直流電圧を断続的に遮断して前記トランス(40)の前記1次側巻線()に供給するトランス制御回路(34)と、
前記第2の電圧(V)が前記トランス(40)の前記1次側巻線(P)に供給される間隔(τ)を調整することにより、前記第2の電圧(V)が一定となるように、前記トランス制御回路(34)を制御するフィードバック回路(36)と、
前記第1の直流電源の両端に接続され、前記第1および第2のスイッチング素子(16,18)をオンさせるための前記第1の電圧(Vを前記第1および第2のスイッチング素子(16,18)に供給するスイッチング素子駆動回路(20,22)と、
可変的なスイッチング周波数(f)を有する制御信号を、前記スイッチング素子駆動回路(20,22)に供給し、制御信号のスイッチング周波数(f)を制御することにより、前記第1および第2のスイッチング素子(16,18)と基準電位(GND)との間に設けた前記加熱コイル(7)に流れる高周波電流による電力実効値(P)を制御するスイッチング制御回路(50)と、
前記第2の直流電源の両端に接続され、前記加熱コイル(7)に流れる高周波電流による所望の電力実効値(P)とともに電流値(I)を変化させる電流調整手段(60)とを備え、
前記トランス(40)の前記第1および第2の2次側巻線(S,S)は、所望の電力実効値(P)が大きいほど、第2の直流電源から供給される電流(I)が増大し、前記第1の電圧(V)が増大するように構成されたことを特徴とする電源回路装置。
【請求項2】
トランス(40)は、第3の2次側巻線(A2)を有し、
前記結合阻害手段は、前記第2および第3の2次側巻線(S,SA2)の間に配置され、
前記電源回路装置は、前記第3の2次側巻線(A2)に発生する電圧を整流平滑し、第3の電圧(A2)を含む第3の直流電源を生成する第3の2次側整流平滑回路(38,39)をさらに有し、
前記トランス(40)の前記第1、第2、および第3の直流電源は、所望の電力実効値(P)が大きいほど、前記第3の電圧(A2)が増大するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の電源回路装置。
【請求項3】
電流調整手段(60)は、所望の電力実効値(P)を示す発光素子アレイを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電源回路装置。
【請求項4】
所望の電力実効値(P)が大きいほど、スイッチング制御回路(50)は、制御信号のスイッチング周波数(f)を低くするとともに、電流調整手段(60)は、これに流れる電流(I)を増大させることにより、第1の2次側巻線(S)の両端の第1の電圧(V)を増大させ、第1および第2のスイッチング素子(16,18)の導通損失を低減し、
所望の実効値(P)が小さいほど、前記スイッチング制御回路(50)は、制御信号のスイッチング周波数(f)を高くするとともに、前記電流調整手段(60)は、これに流れる電流(I)を減少させることにより、前記第1の2次側巻線(S)の両端の第1の電圧(V)を減少させ、前記第1および第2のスイッチング素子(16,18)のスイッチング損失を低減することを特徴とする請求項1〜のいずれか1に記載の電源回路装置。
【請求項5】
第1の電圧(V)は、制御信号のスイッチング周波数(f)が大きくなるほど小さくなるように構成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の電源回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、誘導加熱調理器に関し、とりわけ誘導加熱調理器の加熱コイルに高周波電流を供給する周波数可変方式の電源回路装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆるIHクッキングヒータやIH炊飯器等の誘導加熱調理器は、誘導加熱コイルに高周波電流を流し、調理鍋の底板に渦電流を流してジュール熱を発生させることにより、調理鍋の底板を直接的に加熱するものである。これまでにも誘導加熱調理器の「火力(誘導加熱コイルに流れる高周波電流による電力実効値)」を制御するための数多くの手法が提案されている。たとえば特許文献1に記載の誘導加熱調理器においては、高周波電流を誘導加熱コイルに供給するインバータのスイッチング周波数を制御することにより、火力を調整する誘導加熱調理器が提案されている。
【0003】
たとえばハーフブリッジ式インバータは、互いに直列接続された一対のスイッチング素子を含み、これらのスイッチング素子の間の中間端子と接地電位との間に配設された加熱コイルおよび共振コンデンサに、所定のスイッチング周波数を有する高周波電流を供給するものである。このとき、各スイッチング素子がオン状態にあるオン期間を一定とし、オフ状態にあるオフ期間(デューティ比)を増減することにより、すなわちスイッチング周波数を制御することにより、加熱コイルに流れる高周波電流による電力実効値が制御され、調理鍋に生じるジュール熱(火力)が調整される。より具体的には、スイッチング周波数が高いほど、オン期間に対するオフ期間は長くなり、高周波電流による電力実効値は小さくなる(火力は弱くなる)。一方、スイッチング周波数が低いほど、オン期間に対するオフ期間は短くなり、高周波電流による電力実効値は大きくなる(火力は強くなる)。
【0004】
ところで、インバータに用いられるスイッチング素子において、通常、オフ状態からオン状態、およびオン状態からオフ状態に移行する際に過渡的な電流が流れ、スイッチングロス(スイッチング損失)が不可避的に発生する一方、オン状態にあるスイッチング素子に流れる電流量の二乗または導通抵抗に比例した導通ロス(導通損失)が生じる。
したがって、オン状態にあるオン期間を一定とし、スイッチング周波数を制御することにより、所望の火力(高周波電流による電力実効値)を実現するインバータにおいては、スイッチング周波数が高いほど、反復されるオンオフ回数が多くなるので、スイッチングロスが導通損失に比して実質的に増大し(スイッチングロスが支配的となり)、スイッチング周波数が低いほど、導通抵抗が大きくなるので、導通ロスがスイッチングロスに比して顕著となる(導通ロスが支配的となる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−155022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従前より、スイッチング素子がオン状態にあるオン期間を一定とし、スイッチング周波数を制御して、火力を調整する周波数可変方式の誘導加熱調理器のインバータにおいては、とりわけスイッチング周波数が高いときにスイッチングロスを抑制しつつ、スイッチング周波数が低いときには導通ロスを抑制することにより、全体的なエネルギ損失を低減することが求められていた。こうした要請に応えるため、高速スイッチング特性を有し、スイッチングロスの小さいSiC(炭化シリコン)半導体素子等のスイッチング素子を用いたインバータが提案されているが、こうした高速スイッチング素子は高価であり、低コスト化の妨げとなっていた。
【0007】
そこで本願発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、極めて簡便かつ安価な回路構成で、スイッチング周波数が高いときのスイッチングロスを低減するとともに、スイッチング周波数が低いときの導通ロスを抑制することができる、誘導加熱調理器の電源回路装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明に係る加熱コイルを有する誘導加熱調理器のための電源回路装置は、交流電圧を直流電圧に変換する第1および第2の整流回路と、前記第1の整流回路からの直流電圧から高周波電流を生成する、互いに直列接続された第1および第2のスイッチング素子を有するインバータと、同軸上に捲回された1次側巻線ならびに第1および第2の2次側巻線を含むトランスと、前記第1および第2の2次側巻線の間に配置される結合阻害手段と、前記第1および第2の2次側巻線に発生する電圧を整流平滑し、第1および第2の電圧を含む第1および第2の直流電源を生成する第1および第2の2次側整流平滑回路と、前記第2の整流回路からの直流電圧を断続的に遮断して前記トランスの前記1次側巻線に供給するトランス制御回路と、前記第2の電圧が前記トランスの前記1次側巻線に供給される間隔を調整することにより、前記第2の電圧が一定となるように、前記トランス制御回路を制御するフィードバック回路と、前記第1の直流電源の両端に接続され、前記第1および第2のスイッチング素子をオンさせるための電圧を、前記第1の電圧に基づいて前記第1および第2のスイッチング素子に供給するスイッチング素子駆動回路と、可変的なスイッチング周波数を有する制御信号を、前記スイッチング素子駆動回路に供給し、制御信号のスイッチング周波数を制御することにより、前記第1および第2のスイッチング素子と基準電位との間に設けた前記加熱コイルに流れる高周波電流による電力実効値を制御するスイッチング制御回路と、前記第2の直流電源の両端に接続され、前記加熱コイルに流れる高周波電流による所望の電力実効値とともに電流値を変化させる電流調整手段とを備え、前記トランスの前記第1および第2の2次側巻線は、所望の電力実効値が大きいほど、第2の直流電源から供給される電流が増大し、前記第1の電圧が増大するように構成されたことを特徴とするものである。

【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、スイッチング周波数を制御して、火力を調整する周波数可変方式の誘導加熱調理器の電源回路装置は、トランス、フィードバック回路、およびトランス制御回路からなる、極めて簡便で安価な構成により、火力(スイッチング周波数)の増減に伴い、より実質的なエネルギ損失の原因となるスイッチングロスまたは導通ロスを効率的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本願発明に係る実施の形態1の電源回路装置の回路構成を示すブロック図である。
図2】火力とスイッチング周波数との関係を示すグラフである。
図3】スイッチング周波数とスイッチングロスとの関係、およびスイッチング周波数と導通損失との関係を示すグラフである。
図4】(a)は商用電源からの交流電圧波形、(b)はトランス用整流回路からの直流電圧波形、および(c)はトランス制御回路からの断続的に遮断された直流電圧波形を示すグラフである。
図5】実施の形態1に係る例示的なトランスの断面図である。
図6】火力表示手段に流れる電流と、2次側巻線の電圧との関係を示すグラフである。
図7】スイッチング周波数と2次側巻線の電圧との関係を示すグラフである。
図8】2次側巻線に流れる電流と電圧との関係を示すグラフである。
図9】インバータを構成する第1および第2の駆動回路を示すブロック図である。
図10】実施の形態2の電源回路装置の回路構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態2に係るトランスの断面図である。
図12】実施の形態2に係るインバータを構成する第1および第2の駆動回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、添付図面を参照して本願発明に係る誘導加熱調理器の電源回路装置の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態1の電源回路装置1の回路構成を示すブロック図である。電源回路装置1は、概略、破線で囲む電源供給部10およびトランス回路部30、ならびにスイッチング制御回路50および火力表示手段(電流調整手段)60とを有する。
【0012】
電源供給部10は、電源用整流回路(第1の整流回路)12と、一点鎖線で囲むインバータ14と、LCR誘導加熱部6とを有する。電源用整流回路12は、二相または三相の商用電源5からの交流電圧を直流電圧に整流するものである。インバータ14は、互いに直列接続された一対の(第1および第2の)電圧駆動型スイッチング素子16,18と、各スイッチング素子16,18を駆動する一対の(第1および第2の)駆動回路20,22とを有する。インバータ14は、各駆動回路20,22がスイッチング制御回路50からの制御信号を受けて各スイッチング素子16,18を駆動して、電源用整流回路12からの直流電圧から高周波電流を生成するものである。LCR誘導加熱部6は、各スイッチング素子16,18の間の中間端子9と基準電位(接地電位、GND)との間に接続された加熱コイル7と、これに直列に接続された共振コンデンサ8とを有し、インバータ14から供給される高周波電流により、高周波磁場を形成し、調理鍋の底板に渦電流を流してジュール熱を発生させることにより、調理鍋を加熱するものである。
【0013】
インバータ14のスイッチング素子16,18は、オン状態にあるオン期間を一定とし、スイッチング周波数fを制御することにより、加熱コイル7に流れる高周波電流による電力実効値P(以下、便宜上「火力」という。)、すなわち調理鍋に生じるジュール熱量が制御されるように構成されている。図2は、火力Pとスイッチング周波数fとの関係を示すグラフである。スイッチング制御回路50は、ユーザにより設定または所望される火力Pに応じたスイッチング周波数fを選択して、駆動回路20,22を制御するものである。具体的には、スイッチング制御回路50は、火力を強くするためにはスイッチング周波数fを低くし、火力を弱くするためにはスイッチング周波数fを高くすることにより、LCR誘導加熱部6の火力Pを調整するものである。
【0014】
図3は、スイッチング周波数fとスイッチングロス(実線)との関係、およびスイッチング周波数fと導通ロス(破線)との関係を示すグラフである。背景技術の欄で上記説明したとおり、スイッチング周波数fが高いほど、スイッチングロスが導通損失に比して実質的に増大し、スイッチング周波数fが低いほど、導通ロスがスイッチングロスに比して支配的となる。
【0015】
なお、上述の電源供給部10の回路構成は、これに限定されるものではなく、フルブリッジ式インバータを採用したものであってもよく、当業者に知られた任意の型式を有するものを用いることができるので、さらに詳細な説明を省略する。
【0016】
次に、本願発明に係るトランス回路部30について説明する。トランス回路部30は、商用電源5からの交流電圧(図4(a))を直流電圧(図4(b))に整流するトランス用整流回路(第2の整流回路)32と、トランス40と、トランス用整流回路32からの直流電圧を断続的に遮断して(図4(c))トランス40の1次側巻線に供給するトランス制御回路34とを有する。すなわち、トランス制御回路34は、図4(c)に示す直流電圧が印加される間隔τを調整することにより、トランス40への入力エネルギを制御することができる。
【0017】
トランス回路部30を構成するトランス40は、図1に示すように、1次側巻線Pと、3つの2次側巻線S,S,Sとを有する。2次側巻線S,S,Sはそれぞれ、整流ダイオード38A,38B,38Cに直列に、平滑コンデンサ39A,39B,39Cに並列に接続され、直流に平滑された電圧V,V,Vを供給する。
【0018】
実施の形態1に係るトランス40の2次側巻線S(第1の2次側巻線)は、詳細後述するが、インバータ14のスイッチング素子16,18のオン電圧(電圧V)を与えるものである。
【0019】
またトランス40の2次側巻線Sは、シリーズレギュレータ等の定電圧生成回路37を介して、スイッチング制御回路50(図1)に駆動電圧(電圧V)を供給するものである。
【0020】
トランス40の2次側巻線S(第2の2次側巻線)は、火力Pに応じて点灯数が増減するLEDランプアレイのような火力表示手段60(図1)、または火力Pに応じて単に電流値が増減する電流調整手段の駆動電圧(電圧V)を与えるものである。
また本願発明によれば、2次側巻線Sはフィードバック回路36に接続され、フィードバック回路36は、火力表示手段または電流調整手段60に印加される駆動電圧(電圧V)が一定の値に維持されるように、トランス制御回路34を制御するように構成されている。
【0021】
図5を参照しながら、トランス40の具体的な構成について説明する。図5は実施の形態1に係る例示的なトランス40の断面図である。図5のトランス40は、いわゆるコイルボビン式変圧器として構成され、コア42を中心として同軸上に第1の1次側巻線Pa、2次側巻線S,S,S、および第2の1次側巻線Pbが順次捲回されている。第1のおよび第2の1次側巻線Pa,Pbは、互いに直列に接続され、2次側巻線S,S,Sとは電気的に絶縁され、磁気的に結合するように形成されている。すなわち分割された1次側巻線Pa,Pbは、2次側巻線S,S,Sを挟持することにより、トランス40の1次側巻線から生じる磁界エネルギを2次側巻線に効率よく伝え、磁界漏洩によるエネルギ損失を低減しようとするものである。
【0022】
トランス制御回路34は、トランス用整流回路32で整流された直流電圧を所定の時間間隔τで断続的に1次側巻線Pa,Pbに供給するものであり、フィードバック回路36は、その時間間隔τを調整して、2次側巻線Sの電圧Vが一定の値に維持されるようにトランス用整流回路32を制御するものである。トランス制御回路34は、たとえば電圧Vが所定の基準設定値よりも小さいときに1次側巻線Pa,Pbに電圧を印加する時間τを増大させ、基準設定値よりも大きいときに1次側巻線Pa,Pbに電圧を印加する時間τを低減させることにより、直流電圧Vが一定値となるように制御される。
【0023】
図6は、火力表示手段または電流調整手段60に流れる電流Iと、トランス40の2次側巻線S(第1の2次側巻線)の電圧Vおよび2次側巻線S(第2の2次側巻線)の電圧Vとの関係を示すグラフである。図6において、2次側巻線Sの電圧Vは一定の値に維持されるが、駆動電圧Vが印加される火力表示手段または電流調整手段60の電流値が増大するとき、これに流れる電流I(図示せず)および出力エネルギが増大し、これに伴い、1次側巻線Pへの入力エネルギも増大するため、2次側巻線Sの両端の電圧Vは電流Iと共に増大する。
【0024】
図6における電圧Vの傾きは、2次側巻線S,Sの結合が悪いときに、より大きくなる。2次側巻線S,Sの結合は2次側巻線S,Sの位置関係によって決まり、巻線間の距離が遠いほど悪くなる。図5で説明したように、2次側巻線S,Sは、別の2次側巻線Sを挟んで捲回されるため、2次側巻線間の距離S,Sが遠い。すなわち本願発明に係るトランス40は、2次側巻線S,Sの結合が悪くなるように構成されているため、図6に示すように、2次側巻線Sの両端の電圧Vは、電流Iと共に増大する。
【0025】
本願発明に係るトランス40は、2次側巻線Sと2次側巻線Sの間に、スイッチング制御回路50に駆動電圧Vを供給する別の2次側巻線Sを捲回して、2次側巻線Sと2次側巻線Sを互いに離間させ、意図的に2次側巻線S,Sの結合が悪くなるように設計して、2次側巻線Sの両端の電圧Vが電流Iと共に増大するように構成されている(図6)。換言すると、本願発明に係るトランス40は、2次側巻線S,Sの間の磁気的な結合関係を阻害する結合阻害手段(2次側巻線S)を設けることにより、2次側巻線Sの電圧Vが電流Iに伴い増大するように構成されている。結合阻害手段は、2次側巻線S,Sの間に捲回された2次側巻線Sであってもよいし、単なるスペーサ部材(図示せず)であってもよい。
【0026】
上記説明したように、火力表示手段または電流調整手段60は火力Pに応じて単に電流値が増減するものであり、スイッチング周波数fと火力Pとの間には図2のグラフで示すような関係があるので、スイッチング周波数fと2次側巻線S,Sの電圧V,Vとの間には図7に示すような関係が成り立つ。さらに換言すると、火力Pが一定であるとき、電圧Vと1次側巻線Pからの入力エネルギとが一定であるので、2次側巻線Sの出力エネルギも一定となり、2次側巻線Sに流れる電流Iは、図8に示すように、電圧Vの変動に応じて増減する。
【0027】
図9を参照しながら、実施の形態1に係るインバータ14の具体的な構成について説明する。図9は、インバータ14を構成する第1および第2の駆動回路20,22を示すブロック図である。第1の駆動回路20は、トランス40の2次側巻線S(第1の2次側巻線)からの電圧Vに直列接続されたブートストラップダイオード23および充電抵抗24を介して、互いに並列接続されたブートストラップコンデンサ25と、駆動回路用スイッチ(以下、単に「スイッチ」という。)26A,26Bとを有する。また第1の駆動回路20は、抵抗を介してスイッチ26A,26Bの中間端子に接続された制御端子(ゲート端子)を有する第1のスイッチング素子16を有する。
【0028】
一方、第2の駆動回路22は、トランス40の2次側巻線Sからの電圧Vに直接的に接続された駆動回路用スイッチ28A,28Bと、その中間端子に抵抗を介して接続された制御端子(ゲート端子)を有する第2のスイッチング素子18とを有する。第1および第2のスイッチング素子16,18の間の中間端子9は、加熱コイル7(LCR誘導加熱部6、図1)に接続されている。また電圧Vに対する基準電位GNDは、この中間端子9を介して、第2のスイッチング素子28Bの基準電位(MOSFETの場合にはソース端子、IGBTの場合にはエミッタ端子)に接続されている。
【0029】
実施の形態1に係るインバータ14の動作において、電圧駆動型の第1および第2のスイッチング素子16,18を交互にオンオフさせることにより、加熱コイル7に高周波電流を供給することができる。また第1のスイッチング素子16をオンさせるためには、スイッチ26Aをオンさせるとともに、スイッチ26Bをオフさせることにより、第1のスイッチング素子16の制御端子(ゲート端子)と中間端子9との間を導通させる。このとき、第1のスイッチング素子16の制御端子(ゲート端子)と中間端子9(ソース端子またはエミッタ端子)との間には、ブートストラップコンデンサ25の両端と同等の電圧Vが印加されるが、制御端子と中間端子9との間の寄生の静電容量Qを充電する必要がある。なお2次側巻線Sに流れる電流Iは、寄生の静電容量Qとスイッチング周波数fとの積に比例する(I∝Q×f)。
【0030】
ここで火力P(スイッチング周波数f)、2次側巻線Sの電圧Vおよびこれに流れる電流I、ならびにスイッチング素子16,18のスイッチングロス(スイッチング損失)および導通ロス(導通損失)の関係について考える。上述のように、火力Pが小さい(スイッチング周波数fが高い)ほど、第1および第2のスイッチング素子16,18において、オフ状態/オン状態の移行の際に過渡的電流が流れることにより生じるスイッチングロスが、電流Iの二乗またはスイッチング素子16,18の導通抵抗に比例する導通ロスに比して実質的に大きくなる。すなわち火力Pが小さいときには、スイッチングロスが支配的となり、火力Pが大きいときには、導通ロスが支配的となる。
一般的に電圧駆動型スイッチング素子は、制御端子と中間端子との間に印加される電圧が高いほど導通ロスが低くなり、電圧が低いほどスイッチングロスが低くなる特徴を有し、スイッチングロスが支配的な場合には、制御端子と中間端子との間に印加される電圧を低くし、導通ロスが支配的な場合には、制御端子と中間端子との間に印加される電圧を高くすることが必要となる。
【0031】
そこで本願発明に係る誘導加熱調理器の電源回路装置1は、より支配的となるエネルギ損失を低減するために、第2の2次側巻線Sの電圧Vを一定の値に維持するとともに、2次側巻線S,Sの間の磁気的な結合関係を阻害する結合阻害手段(たとえば2次側巻線S,Sの間に設けた2次側巻線Sまたはスペーサ)が設けられている。すなわち本願発明によれば、火力Pが小さい場合には、第1の2次側巻線Sの両端の電圧Vが小さくなるように火力表示手段または電流調整手段60によりIを調整し(図7)、スイッチング周波数fが高いため電流Iが大きくなり(図8)、比較的により大きいスイッチングロスを低減できる。これに加え、本願発明によれば、火力Pが大きい場合には、2次側巻線Sの電圧Vが大きくなるように火力表示手段または電流調整手段60によりIを調整し(図7)、また、スイッチング周波数fが低いため電流Iが小さくなり(図8)、相対的に顕著となる導通ロスを実質的に抑制することができる。
【0032】
換言すると、本願発明に係る電源回路装置1は、極めて簡便で安価な構成を有するトランス回路部30を有することにより、火力Pまたはスイッチング周波数fの増減に伴い、より実質的なエネルギ損失の原因となるスイッチングロスまたは導通ロスを効率的に低減する。なおトランス40の2次側巻線Sの両端の電圧Vは、第1の2次側巻線の電圧Vと同様、火力Pまたは電流調整手段60の電流値に依存して増減するが、定電圧生成回路(図1)37に接続されているので、スイッチング制御回路50に印加される電圧Vは火力Pに依存しない。
【0033】
実施の形態2.
図10図12を参照しながら、本願発明に係る誘導加熱調理器の電源回路装置の実施の形態2について以下詳細に説明する。実施の形態2の電源回路装置2は、インバータ14の回路構成およびトランス40の構成部品が異なる点を除き、実施の形態1の電源回路装置1と同様の構成を有するので、重複する点については説明を省略する。
【0034】
図10は、実施の形態2の電源回路装置2の回路構成を示すブロック図である。実施の形態2の電源回路装置2は、トランス40が1次側巻線Pと、4つの2次側巻線SA1,SA2,S,Sとを有し、実施の形態1の電源回路装置1に比して(第3の)2次側巻線SA2が追加されている。また実施の形態2の電源回路装置2において、インバータ14のスイッチング素子16,18は、2次側巻線SA1,SA2からの直流に平滑された電圧VA1,VA2が印加されている。
【0035】
図11は実施の形態2に係るトランス40の断面図である。図11に示すトランス40は、同様にコイルボビン式変圧器として構成され、コア42を中心として同軸上に第1の1次側巻線Pa、2次側巻線SA1,SA2,S,S、および第2の1次側巻線Pbが順次捲回されている。第1のおよび第2の1次側巻線Pa,Pbは互いに直列に接続され、2次側巻線SA1,SA2,S,Sとは電気的に絶縁され、磁気的に結合するように形成されている。
【0036】
実施の形態2に係るトランス40は、実施の形態1と同様、2次側巻線SA1,SA2と2次側巻線Sの間に、結合阻害手段として、スイッチング制御回路50に駆動電圧Vを供給する別の2次側巻線Sを捲回して(またはスペーサ部材を設けて)、2次側巻線SA1,SA2と2次側巻線Sを互いに離間させ、意図的に2次側巻線SA1,SA2と2次側巻線Sの結合関係が一致しないようにして、2次側巻線SA1,SA2の両端の電圧VA1,VA2が電流Iと共に増大するように構成されている。
【0037】
図12は実施の形態2に係るインバータ14を構成する第1および第2の駆動回路20,22を示すブロック図である。実施の形態2の第1の駆動回路20は、トランス40の2次側巻線SA1(第1の2次側巻線)に直接的に接続されており、実施の形態1で説明したブートストラップダイオードおよびブートストラップコンデンサを有さない。第2の駆動回路22も同様にトランス40の2次側巻線SA2(第1の2次側巻線)に直接的に接続されている。
【0038】
実施の形態2の電源回路装置2は、トランス40の2次側巻線を追加する必要があるが、第1の駆動回路20の回路構成を簡略化することができ、実施の形態1と同様の効果を実現することができる。すなわち、実施の形態2の電源回路装置2は、極めて簡便で安価な構成を有するトランス回路部30を有することにより、火力Pまたはスイッチング周波数fの増減に伴い、より実質的なエネルギ損失の原因となるスイッチングロスまたは導通ロスを効率的に低減することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,2.電源回路装置、5.商用電源、6.LCR誘導加熱部、7.加熱コイル、8.共振コンデンサ、9.中間端子、10.電源供給部、12.電源用整流回路(第1の整流回路)、14.インバータ、16,18.電圧駆動型スイッチング素子、20,22.駆動回路、23.ブートストラップダイオード、24.充電抵抗、25.ブートストラップコンデンサ、26,28.駆動回路用スイッチ、30.トランス回路部、32.トランス用整流回路、34.トランス制御回路、36.フィードバック、37.定電圧生成回路、38.整流ダイオード、39.平滑コンデンサ、40.トランス、42.コア、50.スイッチング制御回路、60.火力表示手段(電流調整手段)、P、1次側巻線、S,S,S.2次側巻線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12