(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一又は複数の前記走査レンズが有する屈折面のうち少なくとも一つの屈折面は、前記母線を前記走査レンズの光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な平面による断面形状が円弧であると共に前記円弧における前記走査レンズの光軸方向の極値が前記母線上にあり、且つ前記zx平面に平行な平面による断面形状が楕円状である請求項1〜4のいずれかに記載の光走査装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真方式のプリンター、複写機、ファクシミリ装置、及び複合機などの画像形成装置は、光源から照射された光を感光体上に走査させる光走査装置(LSU)を備える。
この種の光走査装置において、
偏向器として反射面の等速回転により光を走査させるポリゴンミラーを用いる場合には感光体上における光の走査速度を等速にすることができる。一方、
偏向器として反射面の往復揺動により光を走査させるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーと称される正弦揺動ミラーを用いる場合には感光体上における主走査方向の光の走査速度が正弦波形を描いて変化することになる。そのため、MEMSミラーを用いた光走査装置では、感光体上における光の走査速度を等速に変換するため逆正弦特性を有するアークサインレンズが走査レンズとして用いられる(特許文献1、2参照)。
【0003】
なお、アークサインレンズを用いると、感光体上における光の走査範囲の中心(以下「像高中心」という)からその走査範囲の端部(以下「像高端部」という)にかけてビーム径が増大する(特許文献1参照)。
具体的に、像高中心からの距離(像高)をY、焦点距離をf、偏向角をθとしたとき、像高中心に対するビーム径変化率η(Y)は以下の(11)式で表される。なお、y=fθ
max・arcsin(θ/θ
max)で表される。
【数1】
例えば、f=180[mm]、θmax=50[°]、Y=110[mm]の場合は、ビーム径変化率η(Y)=1.3078となる(
図7に示す比較例)。
これに対し、例えば特許文献1では、透光性液体及び遮光性液体を有する液体レンズに印加する電圧を像高毎に制御してアパーチャー径を変化させることによりビーム径を均一化することが記載されている。
【0004】
ところで、従来から、MEMSミラーを用いる光走査装置では、MEMSミラーに対して副走査方向に所定角度だけ傾斜した位置から光を照射させる斜入射方式が採用されることがある(例えば特許文献2参照)。
この斜入射方式が採用された光走査装置では、MEMSミラーのミラー面積を小さくすることができるが、感光体ドラムなどの走査面上に走査される光の走査線に湾曲が生じることが問題となる。
そのため、例えば特許文献2では、走査レンズを副走査方向に偏心させて、光束をレンズ頂点から大きく離れた位置に通すことにより、走査湾曲を低減することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示された技術では、走査レンズの母線が副走査方向において変化しないため、主走査方向の各位置において母線の傾きと偏向光のビームの傾きとに差異が生じ、前記走査レンズの結像性能が劣化することが問題となる。
従って、本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、斜入射方式の入射光学系が採用された構成において結像性能の劣化を抑制しつつ走査湾曲を低減することのできる光走査装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明は、反射面に入射する光を前記反射面の回動により予め定められた走査面上に走査させる
偏向器と、前記
偏向器により走査される光を前記走査面に結像する一又は複数の走査レンズと、前記
偏向器の反射面に対して副走査方向に予め定められた角度傾斜した位置から光を入射させる入射光学系と、を備えてなる光走査装置である。そして、前記光走査装置は、一又は複数の前記走査レンズが有する屈折面のうち少なくとも一つの屈折面が、主走査方向の各位置において、子線頂点を結ぶ母線の傾きと前記
偏向器から前記屈折面に入射する偏向光のビームの傾きとが一致し、前記母線の傾きと前記偏向光の走査線の傾きとに差異があることを特徴として構成される。なお、前記
偏向器は、例えば前記反射面の往復揺動により光を非等角速度で前記走査面上に走査させる反射ミラーである。例えば、前記
偏向器は、光を正弦波形の走査速度で前記走査面上に走査させる反射ミラーであることが考えられる。
このように構成された前記光走査装置では、前記屈折面において前記母線の傾きと前記偏向光のビームの傾きとが一致し、前記偏向光の短軸の向きと前記屈折面の光学的パワーの向きとが一致するため、良好な結像性能を得ることができる。また、前記屈折面において前記母線の傾きと前記偏向光の走査線の傾きとに差異があるため前記入射光学系を用いた場合に生じる走査湾曲を低減することが可能となる。
【0008】
ここで、前記走査レンズのうち前記
偏向器に最も近い位置に配置された走査レンズの前記
偏向器側のレンズ面の副走査方向のパワーが負であることが望ましい。これにより、前記走査レンズと前記
偏向器との距離を短くすることができ、前記走査レンズ及び前記光走査装置の小型化を図ることができる。
なお、前記入射光学系は、例えば前記
偏向器の反射面に対して副走査方向に4°以上傾斜した位置から光を入射するものである。これにより、前記
偏向器から前記走査レンズの入射面までの距離を20mm、前記走査レンズの厚みを7mm、副走査方向の高さを5mmとした場合でも、前記
偏向器への入射光と前記
偏向器からの偏向光との干渉を避けることができる。従って、前記光走査装置の小型化を図ることができる。
また、前記走査レンズ各々は、前記走査面上における副走査方向の走査湾曲の最大幅が0.1mm以下になるようにレンズ面のパワーが設定されると共に、前記
偏向器と前記走査面とが共役関係になるように配置される。さらに、前記走査レンズの少なくとも一つは、主走査位置により副走査方向の曲率半径が変化するものである。そして、前記走査光学系は、前記
偏向器と前記走査面とにおける各像高の副走査方向の横倍率と像高中心の横倍率の比が0.9以上1.1以下の範囲である。これにより、副走査方向のビーム径の変動及びマルチビームの副走査方向のビーム間ピッチの変動を共に低減することができる。
【0009】
また、一又は複数の前記走査レンズが有する屈折面のうち少なくとも一つの屈折面は、前記母線が副走査方向に湾曲しており、前記zx平面に平行な平面による断面形状が楕円であると共に前記楕円における前記走査レンズの光軸方向の極値が前記母線上にあり、且つ前記母線を前記走査レンズの光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な平面による断面形状が円弧状であることが考えられる。これにより、前記走査レンズの面形状が特定されるため、前記走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる。例えば、前記走査レンズ及び前記光走査装置の開発コストを低減させることができる。
【0010】
具体的に、前記屈折面の光軸が前記z軸上に配置された状態において、前記母線をyz平面に投影した形状をf(y)、前記母線をyx平面に投影した形状をg(y)、前記投影母線に垂直な平面による断面形状の円弧曲線をr
s、zx平面による断面形状の楕円曲線をr
lとしたとき、前記zx平面による前記屈折面の断面形状zは、下記(1)式で表される楕円であることが望ましい。
【数2】
【数3】
ここに、断面形状zは前記屈折面の面頂点(x=0、y=0)でz=0としたときのz軸方向への変位量、Kは円錐係数、yは光軸からの距離(像高)、Ryは主走査断面における曲率半径、R
0は副走査断面における曲率半径、A
2iは非球面係数、B
2i、D
2iは光路差関数の係数である。
これにより、前記屈折面の面形状が数式で定義されるため、例えば光学ソフト等を用いて前記屈折面の面形状を自動設計させることができる。
【0011】
また、一又は複数の前記走査レンズが有する屈折面のうち少なくとも一つの屈折面は、前記母線を前記走査レンズの光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な平面による断面形状が円弧であると共に前記円弧における前記走査レンズの光軸方向の極値が前記母線上にあり、且つ前記zx平面に平行な平面による断面形状が楕円状であってもよい。この場合も前記走査レンズの面形状が特定されるため、前記走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる。
【0012】
ところで、本発明は、前記光走査装置を備えてなる画像形成装置の発明として捉えてもよい。これにより、前記画像形成装置では、前記光走査装置を用いて、結像性能の劣化が抑制されると共に走査湾曲が低減された光により感光体上に静電潜像を形成することができ、高画質の画像形成処理(印字処理)を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、斜入射方式の入射光学系が採用された構成において結像性能の劣化を抑制しつつ走査湾曲を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
本発明の実施の形態に係るプリンター1は、外部の情報処理装置(パーソナルコンピューター等)などから入力された画像データに基づいて画像形成処理(印刷処理)を実行する電子写真方式の画像形成装置である。
なお、前記プリンター1は本発明に係る画像形成装置の一例であって、本発明に係る画像形成装置は、複写機、ファクシミリ装置、複合機などの各種の画像形成装置に適用可能である。
【0016】
図1に示すように、前記プリンター1は、LSU(光走査装置)10、感光体ドラム11、帯電装置12、現像装置13、トナーコンテナ14、転写ローラー15、除電装置16、定着ローラー17、加圧ローラー18、給紙カセット19などを備えている。そして、前記プリンター1では、前記給紙カセット19から供給される用紙に以下の手順で画像が形成される。
まず、前記帯電装置12によって前記感光体ドラム11が所定の電位に一様に帯電される。次に、前記LSU10により前記感光体ドラム11の表面に画像データに基づく光が照射される。これにより、前記感光体ドラム11の表面に静電潜像が形成される。そして、前記感光体ドラム11上の静電潜像は前記現像装置13によってトナー像として現像(可視像化)される。なお、前記現像装置13には、前記トナーコンテナ14からトナーが補給される。続いて、前記感光体ドラム11に形成されたトナー像は前記転写ローラー15によって用紙に転写される。その後、用紙に転写されたトナー像は、その用紙が前記定着ローラー17及び前記加圧ローラー18の間を通過して排出される際に前記定着ローラー17で加熱されて溶融定着する。なお、前記感光体ドラム11の電位は前記除電装置16で除電される。
【0017】
前記プリンター1は、前記LSU10の構成に特徴を有しており、以下、前記LSU10について詳説する。なお、本実施の形態では、
図2及び
図3に示すように、副走査方向をx軸、主走査方向をy軸、前記x軸及び前記y軸に垂直な方向をz軸と定義する。ここに、
図2は副走査方向(x軸)に垂直な平面による断面(主走査断面)である。
図3は主走査方向(y軸)に垂直な平面による断面(副走査断面)であって、
図2におけるA−A断面である。
【0018】
図2及び
図3に示すように、前記LSU10は、入射光学系20、MEMSミラー25(
偏向器の一例)、及び走査光学系30などを備えている。前記入射光学系20は、光源21、コリメータレンズ22、アパーチャー23、シリンドリカルレンズ24を有している。また、前記走査光学系30は、第1走査レンズ26及び第2走査レンズ27を有している。
【0019】
前記光源21は、所定波長のレーザー光を照射する半導体レーザー光源である。前記コリメータレンズ22は、前記光源21から照射されるレーザー光を平行光に変換する。前記アパーチャー23は、前記コリメータレンズ22からの平行光の幅を規制する。前記シリンドリカルレンズ24は、前記アパーチャー23を通過した光を、主走査方向が長軸であり副走査方向が短軸である楕円形の線状光束として前記MEMSミラー25の反射面251に結像させる。このようにして前記入射光学系20から前記MEMSミラー25の反射面251に入射される光束を入射光L0という。
【0020】
前記MEMSミラー25は、光を反射する反射面251を有しており、前記反射面251の主走査方向の中心位置において回動軸252により回動可能に支持された反射ミラーである。そして、前記MEMSミラー25は、所定の駆動源からの駆動力を受けて前記回動軸252を中心に往復揺動する。これにより、前記MEMSミラー25は、前記入射光学系20から前記反射面251に入射する入射光L0を前記反射面251の往復揺動により前記感光体ドラム11の走査面111上に偏向走査させる。以下、前記MEMSミラー25により偏向走査される光束を偏向光L1という。
ところで、前記反射面251の往復揺動により光が走査されると、前記走査光学系30において速度補正が行われない場合には、前記走査面111上における光の走査速度は正弦波形(非等角速度の一例)を描いて変化することになる。具体的に、前記走査面111上における光の走査速度は像高端部において0となる正弦波形を描く。そのため、前記LSU10では、前記走査光学系30において、前記MEMSミラー25による前記走査面111上における光の走査速度を等速に変換する。
【0021】
前記走査光学系30を構成する前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27は、例えばfθ特性を有する特殊トーリック面(回転非対称の屈折面)を備えている。そして、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27は、前記MEMSミラー25による前記走査面111上における光の走査速度を等速に変換すると共に、その光を前記走査面111上に結像させる。
また、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27の光学的パワーは、前記MEMSミラー25と前記走査面111とにおける各像高の副走査方向の横倍率と像高中心の横倍率の比は0.9以上1.1以下の範囲となるように設定されている。各像高における副走査方向のビーム径を均一化し、かつマルチビームの副走査方向のビーム間ピッチの変動を共に低減することができる。さらに、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27の少なくとも一方は主走査位置により副走査方向の曲率半径が変化するものである。なお、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27は、前記MEMSミラー25と前記走査面111とが共役関係になるように配置されている。これにより、前記MEMSミラー25の面倒れによる副走査方向の走査位置ズレを低減すると共に、前記MEMSミラー25の副走査方向のサイズを小さくすることができる。
【0022】
具体的に、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27は、前記MEMSミラー25で走査される光の走査速度を正弦波形から等速に変換するための逆正弦特性を有するアークサインレンズ(逆正弦特性レンズ)である。即ち、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27は、前記MEMSミラー25の反射面251で反射・偏向された光を前記走査面111上で等速走査させる特性をもったレンズである。
また、前記走査光学系30のうち前記MEMSミラー25に最も近い位置に配置された前記第1走査レンズ26は、前記MEMSミラー25側の屈折面(入射面)の副走査方向のパワーが負である。これにより、前記第1走査レンズ26及び前記MEMSミラー25の距離を短くすることができ、前記第1走査レンズ26のサイズを小型化することができる。
なお、本発明に係る走査光学系は、前記走査光学系30のように二枚の走査レンズ(第1走査レンズ26及び第2走査レンズ27)を含むものに限らず、一枚又は三枚以上の走査レンズを含むものであってもよい。また、前記走査光学系に含まれる走査レンズは逆正弦特性を有するものに限らず、
偏向器による走査面上における光の走査速度の変化態様に対応して、その光の走査速度を等速に変換する特性を有するものであればよい。
【0023】
また、
図3に示すように、前記入射光学系20には、前記MEMSミラー25の反射面251に対して副走査方向に予め定められた角度傾斜した位置から光を入射する斜入射方式が採用されている。
具体的に、前記入射光学系20は、
図3に示す副走査断面において、前記MEMSミラー25から前記走査面111上に走査される偏向光L1の光路よりも下方に配置されている。そして、前記入射光学系20は、前記MEMSミラー25の反射面251に対して副走査方向に予め設定された所定角度αだけ傾斜した位置から前記入射光L0を入射させる。本実施形態では、前記所定角度αが5°であり、前記入射光L0と前記偏向光L1との開き角度(2α)が10°である。なお、前記MEMSミラー25への入射光と前記MEMSミラー25からの偏向光との干渉を避けるため前記所定角度αは4°以上であればよい。この場合、前記MEMSミラー25から前記第1走査レンズ26の入射面までの距離が20mmと近く、前記第1走査レンズ26の厚みを7mm、副走査方向の高さを5mmとした場合でも、前記MEMSミラー25への入射光L0と前記MEMSミラー25からの偏向光L1との干渉を避けることができる。これにより、前記LSU10の小型化を図ることもできる。
【0024】
さらに、
図2及び
図3に示すように、前記入射光学系20には、前記MEMSミラー25の反射面251に対して主走査方向に傾斜しない位置から光を入射するセンター入射方式が採用されている。
具体的に、前記入射光学系20では、前記光源21、前記コリメータレンズ22、前記アパーチャー23、及び前記シリンドリカルレンズ24における光軸が、
図3に示す副走査断面上に位置するように配置されている。即ち、前記反射面251が往復揺動の回転中心に位置する場合(反射面251及び走査面111が平行な場合)、
図2に示す主走査断面において前記入射光L0は前記反射面251に対して垂直(主走査方向の傾斜角0°)に入射する。従って、前記LSU10では、前記MEMSミラー25の反射面251のミラー径を極力小さくすることができる。
【0025】
但し、前記斜入射方式が採用された前記LSU10では、前記MEMSミラー25からの前記偏向光L1が副走査方向に湾曲することが知られている。ここに、
図4は、前記MEMSミラー25からの偏向光L1の走査線L11をyx平面に投影した図を示している。なお、前記走査線L11は、前記偏向光L1の中心である主光線の走査軌道を示している。
図4に示すように、前記センター入射方式が採用された前記LSU10では、前記MEMSミラー25からの偏向光L1の走査線L11が、yx平面において像高端部から像高中心に向けて上方に湾曲する。
【0026】
これに対し、前記LSU10において、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27が有する4つの屈折面のうち少なくとも1つの屈折面Rは、以下の(A)〜(D)の条件を満たす回転非対称のトーリック面である。
(A)子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲している。
(B)zx平面に平行な平面による断面形状が楕円である。
(C)前記楕円におけるレンズの光軸方向の極値が前記母線上にある。
(D)母線をレンズの光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な平面による断面形状が円弧状である。
【0027】
より具体的に、前記屈折面Rの副走査断面(
図3参照)における形状zは、前記屈折面Rの光軸が前記z軸上に配置されたと仮定した場合に、以下の(2)式によって表される。ここに、前記母線をyz平面に投影した形状をf(y)、前記母線をyx平面に投影した形状をg(y)、前記投影母線に垂直な平面による断面形状の円弧曲線をr
s、zx平面による断面形状の楕円曲線をr
lとする。
【数4】
【数5】
ここに、断面形状zは前記屈折面Rの面頂点(x=0、y=0)でz=0としたときのz軸方向への変位量、Kは円錐係数、yは光軸からの距離(像高)、R
yは主走査断面における曲率半径、R
0は副走査断面における曲率半径、A
2iは非球面係数、B
2i、D
2iは光路差関数の係数である。
【0028】
そして、前記条件(D)が満たされると、前記投影母線に垂直な平面による断面形状が曲率半径r
sの円弧とほぼ等しくなる。従って、前記屈折面Rに入射する楕円の偏向光束の短軸と前記屈折面Rの光学的パワーの方向とが一致することになり、像高端部における結像性能を良好なものとすることができる。なお、上記(D)において「円弧状」と表しているのは、走査方向によって曲率半径が変化して完全な円弧にならないためであり、トーリック面の光学性能としては円弧として扱うことができる。
また、前記条件(B)、(C)が満たされると、前記屈折面Rの副走査断面における楕円形状がその副走査断面におけるz軸方向の極値を頂点として対象となり、前記楕円の極値が母線上に位置する。従って、前記屈折面Rの副走査断面における形状が特定されるため、前記屈折面Rの面形状の検証を容易に行うことができる。特に、前記屈折面Rの面形状が前記(2)式に示す数式で定義されるため、例えば光学ソフト等を用いて前記屈折面Rの面形状を自動設計させることが可能となる。
【0029】
なお、前記LSU10において、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27が有する4つの屈折面の少なくとも1つが、以下の(E)〜(H)の条件を満たす回転非対称の屈折面R(トーリック面)として構成されてもよい。
(E)子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲している。
(F)母線をレンズの光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な平面による断面形状が円弧である。
(G)前記円弧におけるレンズの光軸方向の極値が前記母線上にある。
(H)zx平面に平行な平面による断面形状が楕円状である。
この場合にも前記屈折面Rの副走査断面における形状が特定されるため、前記屈折面Rの面形状の検証を容易に行うことができる。
【0030】
ところで、前記LSU10のように前記MEMSミラー25による光の走査速度を前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27によって等速変換する構成では、像高中心から像高端部に向けてビーム径が増大する。即ち、像高中心のビーム径は像高端部のビーム径に比べて小さい。
一方、光束の直径(アパーチャー23の開口径)をD
AP、焦点距離をf、収束角をβ、ビーム径をD
rとしたとき、(D
AP/2)/f=tan(β/2)、D
r=k(λf/D
AP)の関係が成立する。即ち、光束の直径D
APが同じであるとすれば、焦点距離f(光路長)が長くなるほど、収束角βは小さくなりビーム径D
rは大きくなる。
そこで、前記LSU10において、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27は、zx平面に投影される光路長を像高端部から像高中心に向けて長くするように構成されている。これにより、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27における像高中心の収束角が像高端部の収束角よりも小さくなって像高中心のビーム径が像高端部のビーム径に近づく。そのため、前記LSU10では、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27としてアークサインレンズ等を用いた場合に生じる像高によるビーム径の差異が緩和される。そして、このような構成は、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27のレンズの面形状や配置状態などを調整することにより簡素な構成で実現可能である。
【0031】
具体的には、
図4に示すように前記屈折面Rにおける前記母線L12と入射光である偏向光L1の走査線L11との離間距離が像高端部から像高中心に向けて長くなるように、前記zx平面(
図3参照)においてレンズの光軸が前記z軸に対して予め定められた角度傾斜した状態で前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27を配置することが考えられる。
図4に示す例では、前記屈折面Rにおいて、前記走査線L11と前記母線L12との離間距離は、像高端部が最短、像高中心が最長であって、像高端部から像高中心に向けて長くなっている。即ち、前記屈折面Rにおいて、前記母線L12の傾きと前記走査線L11の傾きとには差異が生じている。特に、前記屈折面Rでは、像高端部において副走査断面では前記母線L12の接線と前記偏向光L11とが垂直に交わるように配置されている。即ち、前記偏向光L1は、前記屈折面Rの像高端部において前記母線L12上に入射されるが、像高中心においては前記母線L12から離間した位置に入射される。
【0032】
このように前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27が配置された場合における光路を
図5に示している。ここに、
図5は主走査方向(y軸)に垂直なzx平面に投影される光路を示す要部拡大図であって、実線が像高端部における光路、破線が像高中心における光路を示している。
図5に示されているように、像高中心に入射する偏向光L1が像高端部に入射する偏向光L1に比べて前記母線L12からずれた位置を通過すると、副走査断面における光路長は像高端部よりも像高中心の方が長くなる。そのため、前記走査光学系30における像高中心の焦点距離が像高端部の焦点距離よりも長くなり、前記走査光学系30における像高中心の収束角が像高端部の収束角よりも小さくなって像高中心のビーム径が像高端部のビーム径に近づく。従って、前記LSU10では、前記走査光学系30のレンズの面形状や配置状態などを調整することにより簡素な構成で、前記走査光学系30を用いた場合に生じる像高によるビーム径の差異を緩和することができる。
また、前記走査面111における像高中心の副走査方向の結像位置のシフト量を像高端部の副走査方向の結像位置のシフト量よりも大きくすることができるため前記走査面111上における走査湾曲を低減することができる。従って、前記プリンター1では、前記LSU10によって前記感光体ドラム11上に形成される静電潜像に歪みが生じず、高画質の画像形成を実現することができる。
【0033】
一方、前記LSU10のように、前記屈折面Rにおける前記母線L12の傾きと前記偏向光L1の走査線L11の傾きとが一致しない場合(
図4参照)には結像性能の劣化が懸念される。そこで、前記LSU10では、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27が有する前記屈折面Rのうち少なくとも一つの屈折面は、前記母線L12の傾きと前記偏向光L1のビームの傾きとが一致するように構成されている。即ち、この屈折面では、主走査方向の各位置において、前記母線L12の傾きと前記偏向光L1のビームの傾きとが一致し、前記母線L12の傾きと前記偏向光L1の走査線L11の傾きとに差異があることになる。
ここに、
図6は、前記屈折面Rにおける前記偏向光L1のビームの傾きa1と前記母線L12の傾きb1との関係を示す図である。
図6において、前記偏向光L1の走査線L11は、前記偏向光L1の中心を表す主光線r1(x1,y1)の軌道を示している。なお、前記偏向光L1のビームの傾きa1は、前記偏向光L1の長軸端部を表す周辺光線をr2(x2,y2)、r3(x3,y3)としたとき、(x2−x3)/(y2−y3)で求められる。
具体的に、前記LSU10では、前記屈折面Rにおける母線の傾きと前記偏向光L1のビームの傾きとが一致するように前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27の面形状及び配置状態を所定のパラメータに従って定めればよい。これにより、前記屈折面Rにおける主走査方向の各位置において前記母線L12の傾きと前記偏向光L1のビームの傾きとが一致すれば、楕円形の線上光束である前記偏向光L1のビームの短軸の向きと前記屈折面Rの光学的パワーの向きとが一致する。従って、前記LSU10において、前記屈折面Rにおける母線の傾きと前記偏向光L1の走査線L11の傾きとが一致しない場合であっても、前記走査面111上における結像性能の低下を抑制することができる。
即ち、このような構成によれば、前記走査面111上における結像性能の低下を抑制しつつ、前記走査面111上における走査湾曲を防止し、且つ像高によるビーム径の差異を緩和することができる。
【実施例1】
【0034】
本実施例1において、前記LSU10を以下のように構成した。
具体的に、前記アパーチャー23は、主走査方向の半径が1.98mm(長軸)、副走査方向の半径が0.95mm(短軸)の楕円形状である。前記第1走査レンズ26の入射面と前記MEMSミラー25の反射面251との距離は−20mmである。なお、面間距離は次の面の中心までのz軸方向の距離で、都合により負の数を用いている。
また、前記第1走査レンズ26について、レンズの光軸をzx平面において主走査方向(y軸)を軸に−7.2721°回転させると共に、副走査方向(x軸)において0.0043mmシフト(オフセット)させた。前記第2走査レンズ27については、レンズの光軸をzx平面において主走査方向(y軸)を軸に−52.7446°回転させると共に、副走査方向(x軸)において−2.36mmシフト(オフセット)させた。なお、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27の回転角度(傾き)やシフト量の値は下記表1のパラメータに対応して定めた一例に過ぎない。例えば、前記入射光学系20が、前記MEMSミラー25の反射面251に対して副走査方向に5°傾斜した位置から光を入射した場合、前記第1走査レンズ26の回転角度が−8°〜−4°、前記第2走査レンズ27の回転角度が−55°〜−20°であり、前記第1走査レンズ26のシフト量は0.003〜0.6mm、前記第2走査レンズ27のシフト量は−2.5〜1mmであることが考えられる。これにより、像高端部では前記屈折面Rの母線に極力近い位置に光が入射され、像高中心では前記屈折面Rの母線から離れた位置に光が入射されるため、像高端部よりも像高中心の光路長が長くなる。
さらに、前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27について、前記(2)式における各パラメータを下記表1のように設定した。ここに、前記第1走査レンズ26の入射面を屈折面R1、出射面を屈折面R2、前記第2走査レンズ27の入射面を屈折面R3、出射面を屈折面R4とする。下記表1のパラメータは、前記母線L12の傾きと前記偏向光L1のビームの傾きとを概ね一致させることのできる前記第1走査レンズ26の屈折面R1及び屈折面R2の形状を特定するものである。
【表1】
【0035】
ここに、
図7は、本実施例1に係る前記LSU10で得られた像高y及びビーム径比ηの関係を示すグラフである。なお、ビーム径比ηは、像高中心のビーム径を「1」としたときのビーム径の比率を示している。
図7から、本実施例1に係る前記LSU10では、像高端部(y=110)でもビーム径比ηは1.2以下であり、前述した(11)式で求められるビーム径比ηの理論値(比較例)よりもビーム径の差異が小さくなっていることがわかる。
【0036】
また、
図8及び
図9は、本実施例1における前記第1走査レンズ26の屈折面R1及び屈折面R2における像高とビームの傾き及び母線の傾きとの関係を示す図である。
図8及び
図9から、前記表1のパラメータで設計された前記第1走査レンズ26の屈折面R1、R2各々では、主走査方向(y軸方向)の各位置において前記偏向光L1のビームの傾きa1と前記母線L12の傾きb1が概ね一致していることがわかる。なお、前記第1走査レンズ26の光学的パワーの方向は前記母線L12に垂直及び水平な方向である。従って、前記LSU10では、前記第1走査レンズ26において前記偏向光L1の短軸と前記第1走査レンズ26の光学的パワーの方向とが一致することにより、結像性能を良好に保つことができる。
【0037】
具体的に、
図10は、本実施例1に係る前記LSU10による前記走査面111上への光の結像状態を示す図である。ここに、
図10(A)は走査面111の主走査方向の中心(像高中心)から−110mmの箇所における偏向光束のスポット像を示している。また、
図10(B)は走査面111の主走査方向の中心(像高中心)の箇所における偏向光束のスポット像を示している。さらに、
図10(C)は走査面111の主走査方向の中心(像高中心)から+110mmの箇所における偏向光束のスポット像を示している。なお、
図10(A)〜(C)各々について、結像位置をz軸方向に2mmずつ変化させて(中央の図が0mm、左側の図が−2mmだけデフォーカス、右側の図が+2mmだけデフォーカス)、スポット像を取得している。
図10(A)〜(C)から、像高中心だけでなく像高端部においても良好な結像状態が得られていることがわかる。
【0038】
また、
図11は本実施例1の前記LSU10により前記走査面111上に走査された光の走査湾曲を示すグラフである。
図11に示すように、走査湾曲は若干発生しているものの、主走査方向(像高)全体において副走査位置のズレ量の最大値が60μm以下と良好であり、実用上は問題ないことが確認された。なお、前記副走査方向の走査湾曲の最大幅は、0.1mm以下であれば走査湾曲による画像の歪みへの影響が小さい。そのため、前記走査光学系30における前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27の前記屈折面R1〜R4のパワーは、前記走査湾曲の最大幅が0.1mm以下となるように設定しておくことが望ましい。
さらに、
図12は前記LSU10において前記光源21が複数設けられた場合の前記走査面111上におけるビームピッチを示すグラフである。
図12から、複数の前記光源21から照射された光の前記走査面111上におけるビームピッチの変動は0.1μm以下となっており、マルチビームに十分対応可能であることがわかる。
【実施例2】
【0039】
なお、像高によるビーム径の変動の緩和を目的とする場合、前記実施例1で用いた前記表1に示すパラメータに代えて下記表2に示すパラメータを用いて設計された前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27を用いることも考えられる。このとき、前記第1走査レンズ26について、レンズの光軸をzx平面において主走査方向(y軸)を軸に−5.2°回転させると共に、副走査方向(x軸)において0.5mmシフト(オフセット)させた。前記第2走査レンズ27については、レンズの光軸をzx平面において主走査方向(y軸)を軸に−22.43°回転させると共に、副走査方向(x軸)において−0.8mmシフト(オフセット)させた。
【表2】
前記表2に示すパラメータに従って設計された前記第1走査レンズ26及び前記第2走査レンズ27を用いた場合にも、前記屈折面R1及び前記屈折面R2における前記母線L12と前記偏向光L1の走査線L11との離間距離が像高端部から像高中心に向けて長くなる。従って、本実施例2に係る前記LSU10でも、zx平面に投影される光路長が像高端部から像高中心に向けて長くなり、像高中心のビーム径が増大するため、像高中心におけるビーム径と像高端部におけるビーム径との差異が緩和される。