特許第5769709号(P5769709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5769709-酸化インジウム含有層の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769709
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】酸化インジウム含有層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 15/00 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   C01G15/00 B
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-525145(P2012-525145)
(86)(22)【出願日】2010年8月13日
(65)【公表番号】特表2013-502363(P2013-502363A)
(43)【公表日】2013年1月24日
(86)【国際出願番号】EP2010061805
(87)【国際公開番号】WO2011020781
(87)【国際公開日】20110224
【審査請求日】2013年3月15日
(31)【優先権主張番号】102009028801.5
(32)【優先日】2009年8月21日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シュタイガー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイ ヴ ファム
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ティーム
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ メルクロフ
(72)【発明者】
【氏名】アーネ ホッペ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−231495(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0233378(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム含有層を非水性溶液から製造するための液相法において、
i)一般式
xy(OR)z
[式中 x=3〜20、y=1〜、z=25、M=In、OR=C1〜C15−アルコキシ基、C1〜C15−オキシアルキルアルコキシ基、C1〜C15−アリールオキシ基又はC1〜C15−オキシアリールアルコキシ基]の少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドと、
ii)少なくとも1種の溶剤と
を含有する無水組成物を基材上に塗布し、そして酸化インジウム含有層に変換させることを特徴とする、酸化インジウム含有層を非水性溶液から製造するための液相法。
【請求項2】
前記無水組成物を基材上に塗布した後に乾燥させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドとして、一般式Mxy(OR)z
[式中 x=3〜15、y=1〜5、z=10〜20、OR=−OCH3、−OCH2CH3、−OCH2CH2OCH3、−OCH(CH32もしくは−O(CH33]のオキソアルコキシドが使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドが[In5(μ5−O)(μ3−OiPr)4(μ2−OiPr)4(OiPr)5]であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドが、前記方法で使用される唯一の金属酸化物前駆体であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドが、前記無水組成物の全質量に対して0.1〜15質量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種の溶剤が、非プロトン性又は弱プロトン性溶剤であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、tert−ブタノール及びトルエンから成る群から選択されたことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が粘度1mPa・s〜10Pa・sを有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材がガラス、シリコン、酸化ケイ素、金属酸化物、金属又はポリマー材料から成ることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記無水組成物の前記基材への塗布が、印刷法、噴霧法、回転コーティング法、浸せきコーティング、又はメニスカスコーティング、スリットコーティング、スロットダイコーティング及びカーテンコーティングからなる群から選択される方法で行われることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
変換が温度150℃超によって熱的に行われることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
熱処理の前、その間又はその後に、UV線、IR線又はVIS線を照射することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウム含有層の製造方法、前記方法で製造可能な層及びその使用に関する。
【0002】
酸化インジウム(酸化インジウム(III),In23)は、バンドギャップが3.6〜3.75eVと大きいため(蒸着された層に関して測定)[H.S.Kim,P.D. Byrne,A.Facchetti,T.J.Marks;J.Am.Chem.Soc.2008,130,12580−12581]将来性のある半導体である。さらに、厚さ数百ナノメートルの薄膜は、550nmで可視スペクトル域90%超において高い透明度を有しうる。それに加え、極めて高配向の酸化インジウム単結晶においては、160cm2/Vsまでの電荷担体移動度が測定できる。
【0003】
酸化インジウムは、しばしばとりわけ酸化スズ(IV)(SnO2)と合わせて半導体性の混合酸化物ITOとして用いられる。可視スペクトル域における透明度と同時にITO層の導電率が比較的高いため、なかんずく液晶ディスプレイ分野(LCD;liquid crystal display)において、特に「透明電極」として使用される。たいていはドープされている金属酸化物層は、工業的にとりわけコストの大きい蒸着法で高真空において製造される。
【0004】
酸化インジウム含有層及びその製造、特にITO層及び純粋な酸化インジウム層、並びにその製造は、従って半導体及びディスプレイ産業にとってきわめて重要である。
【0005】
酸化インジウム含有層の合成のために考えられうる出発材料もしくは前駆体として、多数の化合物類が議論される。それには、例えばインジウム塩が含まれる。このようにMarks他は、製造時にInCl3及び塩基のモノエタノールアミン(MEA)からなるメトキシエタノールに溶かされた前駆体溶液が使用される素子を記述している。前記溶液のスピンコーティング後に、相応する酸化インジウム層が400℃での熱処理によって生成される[H.S.Kim,P.D.Byrne,A.Facchetti,T.J.Marks;J.Am.Chem.Soc.2008,130,12580−12581 及び補足情報]。
【0006】
別の箇所では、酸化インジウム合成のために考えられうる出発材料もしくは前駆体としてインジウムアルコキシドが議論される。インジウムアルコキシドとは、この場合少なくとも1個のインジウム原子と、式−OR(R=有機基)の少なくとも1個のアルコキシド基と、場合により1個又は複数個の有機基−R、1個又は複数個のハロゲン基及び/又は1個もしくは複数個の基−OHもしくは−OROHとからなる化合物を表す。
【0007】
先行技術では、酸化インジウム形成のために考えられうる使用とは無関係に、様々なインジウムアルコキシド及びインジウムオキソアルコキシドが記載されている。前述のインジウムアルコキシドに対して、インジウムオキソアルコキシドは、さらに、インジウム原子1個に直接結合した、又は少なくともインジウム原子2個を橋かけする少なくとも1個の更なる酸素基(オキソ基)を有する。
【0008】
Mehrotra他は、塩化インジウム(III)(InCl3)からのNa−ORを用いたインジウム−トリス−アルコキシドIn(OR)3の製造[式中 Rはメチル基、エチル基、イソプロピル基、n−、s−、t−ブチル基及びペンチル基を表す]について記述している。[S.Chatterjee,S.R.Bindal,R.C.Mehrotra;J.Indian Chem.Soc.1976,53,867] 。
【0009】
Carmalt他の総説論文(Coordination Chemistry Reviews 250(2006),682−709)は、一部アルコキシド基を介しても橋かけして存在してよい様々なガリウム(III)アルコキシド及びガリウム(III)アリールオキシド、並びにインジウム(III)アルコキシド及びインジウム(III)アリールオキシドを記載している。さらに、式In5(μ−O)(OiPr)13のオキソ中心型クラスター、より正確には[In5(μ5−O)(μ3−OiPr)4(μ2−OiPr)4(OiPr)5]が発表され、それはオキソアルコキシドであり、[In(OiPr)3]からは製造できない。
【0010】
N.Turova他の総説論文Russian Chemical Reviews 73(11),1041−1064(2004)は、ゾルゲル技術での酸化物材料の製造のための前駆体と論文においてみなされる金属オキソアルコキシドの合成、特性及び構造をまとめている。その他多数の化合物と並んで、[Sn3O(OiBu)10iBuOH)2]、前述の化合物[In5O(OiPr)13]及び[Sn64(OR)4](R=Me、Pri)の合成及び構造が記載される。
【0011】
N.Turova他の論文Journal of Sol−Gel Science and Technology,2,17−23(1994)では、アルコキシド及びアルコキシドベースの粉末のゾルゲル法の開発に関する科学的基礎とみなされるアルコキシドの研究結果を呈示している。この文脈では、なかんずく推定上の「インジウムイソプロポキシド」についても詳しく述べられ、それはCarmalt他でも説明される1個の中心酸素原子を有し、取り囲む5個の金属原子を有する式M5(μ−O)(OiPr)13のオキソアルコキシドであることが証明されている。
【0012】
前記化合物の合成及び結晶構造は、Bradley他、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1988,1258−1259、によって説明される。この著者らによる更なる研究では、前記化合物の形成はその間に生成するIn(OiPr)3の加水分解に帰結しないという結果に至った(Bradley他、Polyhedron Vol.9,No.5,pp.719−726,1990)。Suh他、J.Am.Chem.Soc.2000,122,9396−9404、はさらに、前記化合物はIn(OiPr)3からは熱による方法でも製造できないことを立証した。さらに、Bradleyによって(Bradley他、Polyhedron Vol.9,No.5,pp.719−726,1990)、前記化合物は昇華しえないことが確認された。
【0013】
金属酸化物層は、原則的に様々な方法で製造されうる。
【0014】
金属酸化物層を製造するひとつの方法は、スパッタ技術を基礎とする。しかしながら、前記技術は、高真空下で実施しなければならないという短所がある。また他の短所としては、前記技術で製造された被膜は、層のねらい通りの、かつ再現可能な化学量論の調整を不可能にし、従って製造された層の性質を悪化させる多くの酸素欠陥を有することである。金属酸化物層を製造する別の原則的な方法は、化学気相堆積を基礎とする。それによって、例えば酸化インジウム含有層を、インジウムアルコキシド又はインジウムオキソアルコキシドなどの酸化インジウム前駆体から気相堆積によって製造することができる。これについては、例えばUS6,958,300 B2は、一般式M1q(O)x(OR1y(q=1〜2;x=0〜4,y=1〜8,M1=金属;例えば、Ga,In又はZn、R1=有機基; x=0の場合はアルコキシド、x≧1の場合はオキソアルコキシド)の少なくとも1種の金属有機酸化物前駆体(アルコキシドもしくはオキソアルコキシド)を、例えばCVD又はALDなどの気相堆積によって半導体もしくは金属酸化物層を製造する際に使用することを教示している。しかし、あらゆる気相堆積法は、該方法がi)熱的反応操作の場合に非常に高い温度の使用を必要とすること、又はii)前駆体分解に必要なエネルギーを電磁線の形態で入れる場合に高いエネルギー密度を必要とすること、という短所を有する。どちらの場合も、非常に高い設備投資を伴ってのみ、前駆体の分解に必要なエネルギーをねらい通りに、かつ均等に導入できるにすぎない。
【0015】
従って、金属酸化物層は液相法で製造されるのが好ましい。つまり、金属酸化物への変換前に、被覆されるべき基材を金属酸化物の少なくとも1種の前駆体の液体溶液で被覆し、場合によりその後乾燥させる、少なくともひとつの方法工程を含む方法で製造されるのが好ましい。金属酸化物前駆体とは、この場合、酸素又は別の酸化作用物質の存在又は不在において金属酸化物含有層を形成しうる熱により又は電磁線で分解可能な化合物を表す。金属酸化物前駆体の有名な例は、例えば金属アルコキシドである。原則的に該層の製造は、i)使用される金属アルコキシドを水の存在下に加水分解及びそれに続く縮合によってまずゲルに変換し、その後金属酸化物に変換するゾルゲル法によって、又はii)非水性溶液から行うことができる。
【0016】
その際、酸化インジウム含有層を液相からインジウムアルコキシドから製造することも先行技術に該当する。
【0017】
大量の水の存在下で、ゾルゲル法によるインジウムアルコキシドからの酸化インジウム含有層の製造は、先行技術の一つに数えられる。WO 2008/083310 A1は、金属アルコキシド(例えば一般式R1M−(OR2y-xの金属アルコキシドの1種)又はそのプレポリマーを基材に塗布し、生じた金属アルコキシド層を水の存在下に水との反応において硬化させる、基材上に無機層もしくは有機/無機複合層を製造する方法を記載している。使用可能な金属アルコキシドは、なかんずくインジウム、ガリウム、スズ又は亜鉛のアルコキシドであってよい。しかし、ゾルゲル法を用いる場合の欠点は、加水分解・縮合反応が水の添加によって自動的に開始され、その開始後には困難を伴ってのみ制御できるということである。加水分解・縮合工程がすでに基材への塗布前に開始する場合、その間に発生したゲルはその高められた粘度に基づき、しばしば薄い酸化物層の生成方法には適さない。それとは逆に、加水分解・縮合工程が基材への塗布後に初めて水を液体形又は蒸気として供給することによって開始する場合、生じる混ざり具合の悪い、不均質なゲルは、しばしば相応して好ましくない性質を有する不均質な層をもたらす。
【0018】
JP 2007−042689 Aは、インジウムアルコキシドを含有しうる金属アルコキシド溶液、及び前記金属アルコキシド溶液を使用する半導体素子の製造方法を記載している。金属アルコキシド被膜は、熱処理され、酸化物層に変換されるが、この系も十分に均質的な被膜を提供しない。しかし、純粋な酸化インジウム層は、そこに記述された方法では製造できない。
【0019】
まだ公開されていないDE 10 2009 009 338.9−43は、無水溶液から酸化インジウム含有層を製造する際のインジウムアルコキシドの使用を記載している。生じる層は、ゾルゲル法で製造された層よりも確かに均一ではあるが、しかしながら、無水系でのインジウムアルコキシドの使用は、インジウムアルコキシドを含む配合物の酸化インジウム含有層への変換によって、生じた層の十分優れた電気的性能は与えられないという短所が依然としてある。
【0020】
従って本発明の課題は、先行技術の欠点を回避する酸化インジウム含有層の製造方法を提供することである。その際、特に、高真空の使用を回避し、前駆体もしくは出発材料の分解もしくは変換に必要なエネルギーが容易にねらい通りに、かつ均一に導入でき、前述のゾルゲル技術の欠点を回避し、かつねらい通りで均一かつ再現可能な化学量論、高い均一性及び優れた電気的性能を酸化インジウム層にもたらす方法が提供されるべきである。
【0021】
前記課題は、i)一般式Mxy(OR)z[O(R’O)cH]ab[R’’OH]d[式中 M=In、x=3〜25、y=1〜10、z=3〜50、a=0〜25、b=0〜20、c=0〜1、d=0〜25、R、R’、R’’=有機基、X=F、Cl、Br、I]の少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドと、ii)少なくとも1種の溶剤とを含有する無水組成物を基材上に塗布し、場合により乾燥させ、そして酸化インジウム含有層に変換させる、酸化インジウム含有層を非水性溶液から製造するための液相法によって解決される。
【0022】
酸化インジウム含有層を非水性溶液から製造するための本発明による液相法は、被覆すべき基材を少なくとも1種の金属酸化物前駆体を含有する液状の非水性溶液で被覆し、場合によりその後乾燥させる、少なくとも1つの方法工程を含む方法である。特にこれはスパッタ法、CVD法又はゾルゲル法ではない。金属酸化物前駆体とは、ここでは熱による、又は電磁線で分解可能な化合物であって、その化合物によって酸素又は別の酸化作用物質の存在又は不在下に金属酸化物含有層を形成しうる化合物を表す。本発明の範囲における液状の組成物とは、SATP条件("Standard Ambient Temperature and Pressure"(標準環境温度と圧力);T=25℃及びp=1013hPa)でかつ被覆すべき基材への塗布時に液状に存在するものを表す。非水性溶液もしくは無水組成物とは、こことこれ以降では200ppm 以下のH2Oを有する溶液もしくは配合物を表す。
【0023】
本発明による方法のプロセス生成物である酸化インジウム含有層とは、主として酸化物で存在するインジウム原子もしくはインジウムイオンを有する金属又は半金属を含む層をここでは表す。場合によっては、酸化インジウム含有層はまた、不完全な変換又は発生した副生成物の不完全な除去に基づき、なおもカルベン、ハロゲン又はアルコキシドの含分を有することがある。酸化インジウム含有層は、ここでは純粋な酸化インジウム層であってよい。つまり、場合によってはあり得るカルベン、アルコキシド又はハロゲンの含分を考慮しなければ、主として酸化物として存在するインジウム原子もしくはインジウムイオンから成るか、又は自体、元素形もしくは酸化物の形態で存在してよいまた別の金属を部分的に有してよい。純粋な酸化インジウム層を生成するには、本発明による方法では、インジウム含有前駆体のみ、好ましくはインジウムオキソアルコキシド及びインジウムアルコキシドのみ使用されることが望ましい。それとは異なり、インジウム含有前駆体以外に別の金属を有する層を生成するには、酸化状態0の金属の前駆体(中性形の他の金属を含む層を製造するため)、もしくは金属酸化物前駆体(例えば、別の金属アルコキシド又は金属オキソアルコキシド)も使用可能である。
【0024】
好ましくは、インジウムオキソアルコキシドは、一般式Mxy(OR)z[式中 x=3〜20、y=1〜8、z=1〜25、OR=C1〜C15−アルコキシ基、C1〜C15−オキシアルキルアルコキシ基、C1〜C15−アリールオキシ基、又はC1〜C15−オキシアリールアルコキシ基]のインジウムオキソアルコキシドであり、特に好ましくは、一般式Mxy(OR)z[式中 x=3〜15、y=1〜5、z=10〜20、OR=−OCH3、−OCH2CH3、−OCH2CH2OCH3、−OCH(CH32又は−O(CH33]のインジウムオキソアルコキシドである。
【0025】
殊に好ましいのは、使用されるインジウムオキソアルコキシドが[In5(μ5−O)(μ3−OiPr)4(μ2−OiPr)4(OiPr)5]である方法である。
【0026】
本発明による方法は、インジウムオキソアルコキシドが唯一の金属酸化物前駆体として使用される場合に、酸化インジウム層の製造に特に良く適している。唯一の金属酸化物前駆体が[In5(μ5−O)(μ3−OiPr)4(μ2−OiPr)4(OiPr)5]である場合、殊に優れた層が得られる。
【0027】
少なくとも1種のインジウムオキソアルコキシドは、無水組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜15資量%の割合で、特に好ましくは1〜10質量%、殊に好ましくは2〜5質量%の割合で存在する。
【0028】
前記無水組成物は、さらに少なくとも1種の溶剤を含有する。つまり、該組成物は1種の溶剤又は種々の溶剤の混合物も含有してよい。好ましくは本発明による方法のために配合物において使用できるのは、非プロトン性溶剤及び弱プロトン性溶剤、つまり、非極性非プロトン性溶剤、つまり、アルカン、置換アルカン、アルケン、アルキン、脂肪族又は芳香族の置換基を有するもしくは有さない芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素、テトラメチルシランの群、極性非プロトン性溶剤、つまりエーテル、芳香族エーテル、置換エーテル、エステル又は酸無水物、ケトン、第三級アミン、ニトロメタン、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)又はプロピレンカーボネートの群及び弱プロトン性溶剤、つまりアルコール、第一級及び第二級アミン及びホルムアミドの群から選択されるものである。特に好ましく使用できる溶剤は、アルコール及びトルエン、キシレン、アニソール、メシチレン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トリス−(3,6−ジオキサンヘプチル)アミン(TDA)、2−アミノメチルテトラヒドロフラン、フェネトール、4−メチルアニソール、3−メチルアニソール、メチルベンゾエート、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラリン、エチルベンゾエート及びジエチルエーテルである。殊に好ましい溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、tert−ブタノール及びトルエン並びにそれら混合物である。
【0029】
好ましくは、特に優れた印刷適性を達成するために本発明による方法で使用される組成物は、DIN53019 Part1〜2に準拠、20℃で測定して、粘度1mPa・s〜10Pa・s、特に1mPa・s〜100mPa・sを有する。相応の粘度は、ポリマー、セルロース誘導体、又は例えば、商品名エアロジルで入手可能なSiO2、及び特にPMMA、ポリビニルアルコール、ウレタン増粘剤又はポリアクリレート増粘剤の添加によって調整可能である。
【0030】
本発明による方法で使用される基材は、好ましくは、ガラス、シリコン、二酸化ケイ素、金属酸化物もしくは遷移金属酸化物、金属又はポリマー材料、特にPIもしくはPETから成る基材である。
【0031】
本発明による方法は、特に好ましくは、印刷法(特にフレキソ/グラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、デジタルオフセット印刷及びシルクスクリーン印刷)、噴霧法、回転コーティング方法(「スピンコーティング」)、浸せきコーティング(「ディップコーティング」)から選択されるコーティング方法、及びメニスカスコーティング、スリットコーティング、スロットダイコーティング、及びカーテンコーティングから選択される方法である。本発明による印刷法は、殊に好ましくは印刷法である。
【0032】
コーティング後で変換前には、被覆された基材はさらに乾燥させてよい。これに相応する処置と条件は、当業者に公知である。
【0033】
酸化インジウム含有層への変換は、熱による経路及び/又は電磁線、特に化学線の照射によって行うことができる。150℃を上まわる温度による熱による経路での変換は、有利に行われる。しかしながら、変換のために温度250℃〜360℃を使用する場合、特に優れた結果を得ることができる。
【0034】
その際、一般的に数秒から複数時間の変換時間が使用される。
【0035】
熱による変換は、熱処理の前、その間又はその後に、UV線、IR線又はVIS線を照射するか、又は被覆された基材を空気又は酸素で処理することでさらに促進されうる。
【0036】
本発明による方法で作成された層の品質の良さは、さらに前記変換段階の後に続く温度と気体(H2もしくはO2で)の組み合わされた処理、プラズマ処理(Arプラズマ、N2プラズマ、O2もしくはH2プラズマ)、レーザー処理(UV域、VIS域もしくはIR域にある波長で)又はオゾン処理でさらに改善できる。
【0037】
本発明の対象は、さらに本発明による方法で製造可能な酸化インジウム含有層である。ここでは本発明による方法で製造可能な、純粋な酸化インジウム層である酸化インジウム含有層は特に優れた特性を有する。
【0038】
本発明による方法で製造可能な酸化インジウム含有層は、好ましくは、電子素子の製造、特にトランジスター(特に薄膜トランジスター)、ダイオード、センサー又は太陽電池の製造に適している。
【0039】
以下の実施例は、本発明の対象をより詳しく解説するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】試料1に関するトランスファー特性曲線
【0041】
実施例:
辺長約15mmを有し、厚さ約200nmの酸化ケイ素コーティング、ITO/金からなるフィンガー構造を有するドープされたシリコン基材を、アルコール(メタノール、エタノールもしくはイソプロパノール)又はトルエン中の[In5(μ5−O)(μ3−OiPr)4(μ2−OiPr)4(OiPr)5]の5 質量%溶液100μlでスピンコーティング(2000rpm)によって被覆した。水を排除するために、乾燥した溶剤(水200ppmよりも少ない)を使用し、さらに被覆をグローブボックス内(10ppmのH2Oよりも少ない状態)で実施した。被覆過程の後に、被覆された基材を空気に接して温度260℃又は350℃で1時間アニールした。
【0042】
本発明によるコーティングは、6cm2/Vsまでの電荷担体移動度を示す(30Vのゲート−ソース間電圧、30Vのソース−ドレイン間電圧、チャネル幅1cm、チャネル長20μm)。
【0043】
第1表 電荷担体移動度
【表1】
図1