【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、請求項1に記載のバイトによって解決される。有利な実施形態は従属請求項に記載されている。本発明に基づく金属材料加工用バイトは、硬質金属本体及び該硬質金属本体上の少なくとも1つの表面領域に付与された多重被覆層を有している。多重被覆層は、硬質金属本体からバイト表面の方向に次の順序で並ぶ以下の層を有する。
(i)少なくとも一層のTiC
x1N
y1層(ここで、x1+y1=1、x1≧0、y1>0)、
(ii)少なくとも一層のTiC
x2N
y2O
z2層(ここで、x2+y2+z2=1、0≦z2≦0.03、0.5≦x2≦0.85)、
(iii)少なくとも一層の、TiN層又はTiC
x31N
y31層(ここで、0.2≦x31≦0.8、x31+y31=1)又はTiN
y32B
v32層(ここで、0.0001≦v32≦0.05、y32+v32=1)、
(iv)少なくとも一層の、TiN
y41B
v41O
z41層(ここで、y41+v41+z41=1、0.0001≦v41≦0.05、0.01≦z41≦0.6)又はTiC
x42N
y42O
z42層(ここで、x42+y42+z42=1、0≦y42≦0.5、0.01≦z42≦0.6)、並びに
(v)少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層。
前記少なくとも一層のTiC
x2N
y2O
z2層は、方位(311)に組織係数TC
(311)≧1.3の組織形態を有している。項目(iii)に記載の層は、上記のとおり、TiN又はTiC
x31N
y31又はTiN
y32B
v32を含んでいる。項目(iv)に記載の層は、TiN
y41B
v41O
z41又はTiC
x42N
y42O
z42を含んでいる。使用されている記号について、次のことに注意しなければならない。(i)のTiC
x1N
y1層に関しては、x1=0も可能である。(ii)のTiC
x2N
y2O
z2層では、z2=0も可能である。(iv)の第2選択肢であるTiC
x42N
y42O
z42層では、y42=0も可能である。TiC
x1N
y1層の少なくとも一層は、好ましくは0.1μm〜1μm、特に好ましくは0.1μm〜0.8μm、の層厚を有する。TiC
x2N
y2O
z2層の少なくとも一層は、好ましくは5μm〜15μm、特に好ましくは8μm〜14μm、の層厚を有する。TiN層又はTiC
x31N
y31層又はTiN
y32B
v32層で構成され得る少なくとも一層は、好ましくは0.1μm〜3μmの層厚を有する。TiN
y41B
v41O
z41層又はTiC
x42N
y42O
z42層で構成され得る少なくとも一層は、好ましくは0.01μm〜0.5μmの層厚を有する。κ−Al
2O
3からなる外層の少なくとも一層は、好ましくは2μm〜10μm、特に好ましくは3.5μm〜6.5μm、の層厚を有する。
【発明の効果】
【0012】
上記の層配列順序、及び、特に、κ−Al
2O
3からなる外層とTiC
x2N
y2O
z2層の方位(311)における好適な組織形態との組合せ、及び、これらの間に配置されている中間層により、多重被覆層全体の応力関係を非常に効果的に調整し得ることが、見出された。特に、層析出後には、機械的な平滑加工法により、なかでも加圧噴射平滑法により、好ましい応力関係に調整することができる。その場合、多重被覆層の層配列順序が上述どおりであれば、とりわけ、硬質金属本体から外層に到るまでの個々の層の間で非常に良好で安定な推移が確保され、個々の層で望ましい応力関係への調整を確実になし得る。上述の特徴によって、κ−Al
2O
3層の最も外側にある辺縁領域では、バイトの使用時に安定な表面をもたらす圧縮応力を発生させることが可能であるほか、より奥にある内部層に向かう方向に引張応力への移行が進むことも起こり得る。ここで引張応力とは、層平面に沿って層面の狭小化方向に作用する応力のことである。圧縮応力とは、層平面に沿って層面の拡張化方向に作用する応力のことである。特に、表面から硬質金属本体への方向に特別有利な応力勾配が形成され得ることが明らかになった。この特徴により、様々な切削条件下で改良された特性及び改良された耐久性が達成される。外層をκ−Al
2O
3層として形成することにより、バイトの特性に好影響を与えることができる。それは、機械的な平滑加工法においてκ−Al
2O
3は、α−Al
2O
3に比較して、より大きな塑性変形が可能であるため、表面での圧縮応力の調整をより有利になし得るからである。少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層の上に、更に一層又は複数の層を形成することもできる。バイトの使用時には、それに伴って表面が加熱されるが、これにより、κ−Al
2O
3層は、α−Al
2O
3に比較して高い強靭性を有し、高温での硬度損失が少ないので、改良された特性及び改良された耐久性をもたらす。α−Al
2O
3に比較して熱伝導性が低いので、内部奥にある層への熱伝導は僅かに過ぎず、バイトの望ましくない過熱は回避される。上記の層は、それぞれ、多結晶質構造を有している。多重被覆層は、特に、熱活性化方式での化学的気相蒸着(CVD、chemical vapor deposition=化学気相成長法)によって形成される。多重被覆層は、バイト使用時に被加工材と噛合うバイトの表面領域に、付与することができる。バイトは、場合によっては、交換式切削チップとして形成されているのが好ましい。これは、特に鉄系基礎材の加工用に指定することができる。応用形態によれば、上述の層は、(中間形成層の追加なしに)相互に、直接、接し合っている。上述の個別層自体も多重形態に形成し、それら個々の重なりに異なった化学量論的関係を持たせることもできる。本明細書においては、組織形態に関する表示は、常に、hkl表記法のミラー指数によっている。ここでは、それぞれの層に対してJCPDSデータバンク(又はJCPDFデータバンク)の表記法に従って、hkl値を割り当てている。その場合、組織係数TCの計算は、次式に従って行なう。
【0013】
【数1】
【0014】
式中、I
(hkl)は、それぞれの(hkl)値について(少なくとも1つの対応ピークから)測定した強度を、I
0,(hkl)は、JCPDS(又はJCPDF)データバンクに基づく規格化された当該強度を表わし、nは、(hkl)値のそれぞれの組合せについて想定されるすべての強度に関わる指数としての変数である。
【0015】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層は、−100MPa(圧縮応力)から700MPa(引張応力)までの間の平均応力を有している。この関係で「平均応力」とは、層平面に垂直な方向で層厚全体を対象にした平均値のことである。なお、この方向に沿った場合、特に、層の一部が引張応力を、そして層の他の一部が圧縮応力を示すことがあり得ることに注意しなければならない。この場合の応力は、特に、XRD測定(X−Ray Diffraction=X線回折)及び公知のsin
2ψ法によって決定し得る(文献例:「回折による残留応力の測定及び解釈」(I.C.Noyan、J.B.Cohen著“Residual Stress Measurement by Diffraction and Interpretation”)Springer出版社/ニューヨーク、1987年(117〜130ページ)。以下に記述するその他の層内応力も、この方法によって決定することができる。上記領域での中庸の応力がバイトに非常に優れた耐久性をもたらすことが分った。応力の程度は、例えば加圧噴射平滑加工法により調整可能であるが、その加圧噴射平滑加工法では、パラメータとして、加圧噴射に使用される材料(例えばセラミック研磨粒体)の材料組成、材料の大きさ分布、噴射圧、並びに、それらより影響度は低いが、処理時間及び表面に向けられる噴射角度を変更することができる。
【0016】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層の最外領域は中庸の圧縮応力を有している。これは前記の処理によって達成することができる。この圧縮応力は、平均引張応力との組合せの場合も、κ−Al
2O
3からなる外層において層厚に亘って然るべき圧力勾配に調整することにより、κ−Al
2O
3からなる外層の全体に亘って実現可能であることに留意しなければならない。外層はκ−Al
2O
3で形成されているので、そのような圧力勾配を確実に作り出すことができる。
【0017】
好ましい実施形態の1つでは、少なくとも一層のTiC
x1N
y1層が0.1μm〜1μmの層厚を、少なくとも一層のTiC
x2N
y2O
z2層が5μm〜15μmの層厚を、TiN又はTiC
x31N
y31又はTiN
y32B
v32からなる少なくとも一層が0.1μm〜3μmの層厚を、TiN
y41B
v41O
z41又はTiC
x42N
y42O
z42からなる少なくとも一層が0.01μm〜0.5μmの層厚を、そして、少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層が2μm〜10μmの層厚を、有している。このような厚さを持つ多重被覆層の形成により、個々の層が望ましい特性を非常に効果的に達成し得ることが判明した。
【0018】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層は、層表面に平行な平面においては、3μm未満の粒径を有している。この粒径は、κ−Al
2O
3の場合、CVD法のパラメータを通じて実現することができる。この粒径により、平滑な表面を有し非常に耐久性のある被覆が達成されることが分った。
【0019】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のTiC
x2N
y2O
z2層がz2>0の成分指数を有している。層中でのそのような最終的酸素比率は、CVD法による場合では、プロセスガス中のCOにより的確な酸素のドーピングを行なうことによって達成することができる。z2値は、例えばプロセスガス中のCO流量により、調整することができる。特に酸素の漸進的ドーピングは、TiC
x2N
y2O
z2層及びκ−Al
2O
3からなる外層の優先的組織形態との組合せにより、層内の応力関係が確実に調整され、個々の層の良好な結合が保証されるという効果を、生んでいる。
【0020】
硬質金属本体は、5.5〜10重量%のCo及び5〜9重量%の、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の、立方晶系カーバイドを含むWCから形成されているのが好ましい。上記の周期表IVb、Vb又はVIb族に属する少なくとも1種の金属は、Ti、Hf、Zr又はそれらの組合せによって形成されている。特に、このように形成された硬質金属本体上に前記の多重被覆層を形成することにより、その物理的及び化学的特性に応じて、非常に高い抵抗性及び耐久性を持つバイトが得られる。この場合、好ましくは、硬質金属本体の辺縁領域について、厚さを、好ましくは5μm〜30μm、特に好ましくは15μm〜25μm、とし、そこでのCo成分の割合を硬質金属本体の内部に比べて高くし、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の立方晶系カーバイドの成分の割合を硬質金属本体の内部に比べて低くする。
【0021】
特に、少なくとも1種の外層を、κ−Al
2O
3単一層として、形成すれば非常に良好な結果が得られることが分った。ここで言う「単一層」とは、特に、単独層の晶子が少なくとも圧倒的多数を占めていて、層平面に垂直な方向に複数晶子が重なり合って配置されている部分は限定的であるとの意味である。そのような外層では、圧力関係について非常に信頼性の高い調整が可能である。
【0022】
硬質金属本体に接合する多重被覆層が、層厚1μmまでのTiN層を少なくとも一層含んでいれば、硬質金属本体に対する多重被覆層の非常に良好な結合が達成される。
【0023】
好ましい実施形態の1つでは、少なくとも一層のTiC
x2N
y2O
z2層
(12)が、
該層(12)の表面から見て平板状
であり多重被覆層の破断面で見て棒状
である結晶を有している。更に、TiN又はTiC
x31N
y31又はTiN
y32B
v32によって形成されている少なくとも一層が、好ましくは微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいる。同様に、TiN
y41B
v41O
z41又はTiC
x42N
y42O
z42によって形成されている層についても、少なくとも一層が、好ましくは微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいる。この構造を通じて、各上下層相互間の良好な結合及び小さな粒径を持つκ−Al
2O
3からなる外層の形成が達成される。
【0024】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層が機械的に平滑加工されており、特に加圧噴射平滑加工法により噴射処理されている。この種の加工は、バイトに形成される特性に直接反映されており、外層に残留する構造から加工の様子が見て取れる。機械的な平滑加工は、一方では外層に平滑な外表面をもたらし、他方、同時に、被覆層内に望ましい応力関係を作り上げる。加圧噴射平滑加工法におけるパラメータを然るべく適切にすることにより、両効果を望みどおりに達成することができる。加圧噴射平滑加工法の若干のパラメータとしては、なかでも、加圧噴射に使用される材料(例えばセラミック研磨粒体)の素材組成、材料の大きさ分布、噴射圧、並びにそれらより影響度は低いが、処理時間及び表面に向けられる噴射角度があり、それらは変更可能である。
【0025】
好ましい応用形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al
2O
3からなる外層が、方位(110)に、組織係数TC
(110)≧1.3の優先的組織形態を有している。ここで、外層が、同時に、方位(004)に、組織係数TC
(004)≧1.3の優先的組織形態を、そして、方位(015)に、組織係数TC
(015)≧1.3の優先的組織形態を有するのが好ましい。但し、ここでは、好ましくは、TC
(110)>TC
(004)及びTC
(110)>TC
(015)が成り立つものとする。特に、外層がそのような組織形態であれば、その他の層との相互作用も加わり、被覆層内の応力関係が非常に効果的に調整できて平滑な表面が達成されることが、明らかになった。
【0026】
好ましい実施形態の1つでは、0.01≦z2≦0.02である。従って、この場合では、TiC
x2N
y2O
z2層の酸素含有量z2は、0.01〜0.02の範囲内にある。特にこの酸素含有量によって、バイトに非常に好ましい特性がもたらされることが、明らかになった。ここで、特に3つの効果が決定的な役割を果たしている。z2値の増加と共にTiC
x2N
y2O
z2層の構造が精緻となり、その結果、ホールペッチ効果により、層の強靭性が増大する。更に、0.01≦z2≦0.02の領域では、TiC
x2N
y2O
z2層内の残留引張応力が、その生成後、最小に達する。更に、この領域では、該層の非常に高い侵入硬度が達成される。これらの効果は、特にバイトの耐磨耗性に有利に作用する。
【0027】
実施形態の1つでは、0≦z2≦0.01及び0.5≦x2≦0.75である。
【0028】
本発明のその他の長所及び応用形態は、図面に関連付けた下記実施例の説明から明らかになる。