特許第5769719号(P5769719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769719
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】金属材料の加工のためのバイト
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20150806BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   C23C16/30
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-532408(P2012-532408)
(86)(22)【出願日】2010年9月2日
(65)【公表番号】特表2013-506570(P2013-506570A)
(43)【公表日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】AT2010000317
(87)【国際公開番号】WO2011041804
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年6月14日
(31)【優先権主張番号】GM614/2009
(32)【優先日】2009年10月5日
(33)【優先権主張国】AT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500005837
【氏名又は名称】セラティチット オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(72)【発明者】
【氏名】カトライン、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ビュルギン、ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】クツェットゥル、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】レヒライトナー、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】トゥルナー、ヨーゼフ
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−210066(JP,A)
【文献】 特開平11−131235(JP,A)
【文献】 特開2009−095907(JP,A)
【文献】 特表平11−512033(JP,A)
【文献】 特開2000−158207(JP,A)
【文献】 特開2000−334608(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/092608(WO,A1)
【文献】 特開2007−229821(JP,A)
【文献】 A. Larsson, S. Ruppi,「Microstructure and properties of Ti(C,N) coatings produced by moderate temperature chemical vapour,Thin Solid Films,Elsevier Science,2002年 1月,vol.402 No.1-2,p203-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14,
C23C 16/30,16/40,16/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質金属本体(10)と前記硬質金属本体(10)の少なくとも1つの表面領域に付与された多重被覆層とを有する、金属材料の加工のためのバイトであって、前記多重被覆層が、前記硬質金属本体(10)から前記バイトの表面(O)の方向に次の順序で並ぶ以下の層:少なくとも一層のTiCx1y1層(11)(ここで、x1+y1=1、x1≧0、y1>0);
少なくとも一層のTiCx2y2z2層(12)(ここで、x2+y2+z2=1、0.01≦z2≦0.02及び0.5≦x2≦0.85);
少なくとも一層のTiN層、TiCx31y31層(ここで、0.2≦x31≦0.8及びx31+y31=1)又はTiNy32v32層(13)(ここで、0.0001≦v32≦0.05及びy32+v32=1);
少なくとも一層のTiNy41v41z41層(ここで、y41+v41+z41=1、0.0001≦v41≦0.05及び0.01≦z41≦0.6)又はTiCx42y42z42層(14)(ここで、x42+y42+z42=1、0≦y42≦0.5及び0.01≦z42≦0.6);並びに
少なくとも一層のκ−Alからなる外層(15);を有し、
ここで、前記少なくとも一層のTiCx2y2z2層(12)が、方位(311)に組織係数TC(311)≧1.3の組織を有し、且つ、該層(12)の表面から見て平板状であり、多重被覆層の破断面で見て棒状である結晶を有しているバイト。
【請求項2】
前記少なくとも一層のκ−Alからなる外層(15)が、−100MPa(圧縮応力)から700MPa(引張応力)までの平均応力を有していることを特徴とする、請求項1に記載のバイト。
【請求項3】
前記少なくとも一層のTiCx1y1層(11)が0.1μm〜1μmの層厚を、前記少なくとも一層のTiCx2y2z2層(12)が5μm〜15μmの層厚を、前記少なくとも一層のTiN層又はTiCx31y31層又はTiNy32v32層(13)が0.1μm〜3μmの層厚を、前記少なくとも一層のTiNy41v41z41層又はTiCx42y42z42層(14)が0.01μm〜0.5μmの層厚を、そして、前記少なくとも一層のκ−Alからなる外層が2μm〜10μmの層厚を有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のバイト。
【請求項4】
前記少なくとも一層のκ−Alからなる外層(15)が、前記層表面(O)に平行な平面において3μm未満の粒径を有していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項5】
前記硬質金属本体(10)が、5.5〜10重量%のCo及び5〜9重量%の、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の、立方晶系カーバイドを有するWCから形成されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項6】
前記硬質金属本体(10)が、Co成分の割合が前記硬質金属本体の内部に比べて高く、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の立方晶系カーバイドの成分の割合が前記硬質金属本体(10)の内部に比べて低い、厚さ5μm〜30μmの辺縁領域を有していることを特徴とする、請求項に記載のバイト。
【請求項7】
前記少なくとも一層の外層(15)がκ−Alの単一層であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項8】
前記硬質金属本体(10)に接合する前記多重被覆層が、層厚1μmまでのTiN層を少なくとも一層含んでいることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項9】
前記少なくとも一層のTiN層又はTiCx31y31層又はTiNy32v32層(13)が、微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項10】
前記少なくとも一層のTiNy41v41z41層又はTiCx42y42z42層(14)が、微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項11】
前記少なくとも一層のκ−Alからなる外層(15)が、機械的に平滑加工されている、ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項12】
前記少なくとも一層のκ−Alからなる外層(15)が、方位(110)に組織係数TC(110)≧1.3の優先的組織形態を有していることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のバイト。
【請求項13】
z2=0.01及び0.5≦x2≦0.75であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のバイト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の加工のためのバイトに関する。特に、本発明は、硬質金属の本体と該硬質金属本体上の少なくとも1つの表面領域に付与された多重被覆層とを備える、金属材料の加工のためのバイトに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなバイトは、特に交換式回転切削チップとして、また、例えば鋼鉄、鋳造工材及びステンレス鋼のような鉄系基礎材に対する回転様式の切削工程に、用いられる。バイトは、その場合、特に、精密な、中程度の、そして大まかな加工操作に使用される。ここでは、精密な、中程度の、そして大まかな加工は、切削屑断面が微小なもの(高い切削速度の場合)から大まかなもの(低い切削速度の場合)に到る態様の細分化によって区分する。
【0003】
磨耗負荷のかかるバイトは耐磨耗性の硬質金属から成るが、その耐久性の改良策として、熱活性化方式による蒸気相又は気相からの化学的層析出法(化学気相成長法=CVD法)により、高い耐磨耗性を持つ硬質物質層を付与することが公知である。この場合、硬質物質層は、しばしば、異なる化学組成を有する層からなる多重層として構成される。この種の多重層としては、TiCxyzy及びAl23から成る層が使用できる(ここで、x+y+z+v=1である)。この場合、個々のパラメータx、y、z及びvは、様々な値を取ることができ、特に、個々の層において、一部では、1つ又は複数のパラメータは、0の値を取ることができる。この種の多重層により、15〜40GPaの領域の(EN ISO 14577−1に規定された)硬度を有する表面を得ることができる。CVD法によって生成される表面は、殆どが単(多)結晶質構造を有するので、例えば、殆どの場合セラミック研磨粒体を乾式又は湿式で噴射する、加圧噴射平滑加工による(外)表面の平滑加工が、多くの場合、行なわれる。
【0004】
バイトの外層としてAl23を使用することは公知である。この外層の一部分には、更に、TiN若しくはTiCxy(ここで、x+y=1)から成る薄層又はそれらを組合せた層を析出させる。Al23は異なった多数の相に結晶化することが可能であるが、バイト用硬質物質層を得るためのCVD法によるAl23薄層の析出に関しては、それらの相の2つ、κ−Al23及びα−Al23が主要な役割を果たしている。α−Al23は熱力学的に安定な六方相で、κ−Al23は熱力学的に準安定な相である。(実質上)純粋なα−Al23からなる層又は(実質上)純粋なκ−Al23からなる層を析出させることは可能である。しかし、α−Al23とκ−Al23との混合物を含む層を形成することもでき、この場合、様々な混合比を設定することができる。最新型CVD装置によれば、Al23層の直下に析出させる層(特に、それらの詳細な化学組成、モルフォロジー及び組織)の然るべき選択及びAl23層形成のためのCVD法における被着パラメータの然るべき選択によって、確実な設定目標どおりの、α−Al23又はκ−Al23の析出を行なうことができる。
【0005】
CVD法による上述の多重層の製造は、500℃を超える温度における熱活性化によって、通常、行なわれる。層形成はこのように高い温度で行なわれ、続いて、通常、室温へ冷却される。バイトの使用による金属材料の加工では、多重層では、部分的に、温度が再び高温に上昇する。層の製造が高温で行なわれ、個々の層の熱膨張係数が異なるので、室温への冷却の際に、幾つかの層に、引張応力又は圧縮応力が生じる。層間で異なるこれらの応力により、室温への冷却の際又は材料加工の際に、バイトの外層において亀裂の発生を招くことがある。この亀裂及び層間に残留する応力勾配が、達成可能なバイトの寿命に、直接関係する。というのは、形成された亀裂が端緒となって及び/又は高い残留応力勾配に起因して、一つ又は複数の層の領域に割れが発生しやすくなり得るからである。特に、1つの層とそれに直接接する次の層との間の界面が、一層又は複数層の一部に剥離を起こさせ得る特別危険な部分を、形成している。
【0006】
上記の多重層では、層の配列順序、個別層の化学組成選択並びに個別層の層厚及び組織形態に関して、多数の組合せの可能性が存在する。非常に良好な特性、特に高い耐久性、が要求されるバイトの製造については、個別層の正しい配列順序、その組織及び個別層に残留する引張応力又は圧縮応力の如何が極めて重要である。特に、多重層のうちの一層における組織の変化が、達成されるバイト品質にかなり大きな影響を及ぼし得ることが明らかになった。詳細な層の配列順序と例えば加圧噴射法による(最外)表面の平滑処理との間の相互関係が、形成されるバイトの特性に重大な影響を及ぼすことがある。この関連において、加圧噴射法の適用が、多重層における層の配列順序に依存して、また、平滑処理対象の最外層に依存して、バイトの達成品質に決定的な影響を与えることが、確認された。
【0007】
通常、工具被覆層の形成のための硬質物質層としては、その熱安定性の観点から、κ−Al23を使用するよりもα−Al23を使用するほうが有利であると見なされている。
【0008】
特許文献1には、TiCxy層の上に形成された100%α−Al23から成る多結晶質層を有する、バイト切刃用の硬質物質層が記載されている。設定したとおりの層配列順序及び特に100%α−Al23層の使用が、工具の被覆における応力関係に有利に作用するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1696051A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、硬質金属の本体と該硬質金属本体上の少なくとも1つの表面領域に付与された多重被覆層とを備え、様々な切削条件に対して改良された特性及び改良された耐久性を達成する、金属材料の加工のためのバイトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、請求項1に記載のバイトによって解決される。有利な実施形態は従属請求項に記載されている。本発明に基づく金属材料加工用バイトは、硬質金属本体及び該硬質金属本体上の少なくとも1つの表面領域に付与された多重被覆層を有している。多重被覆層は、硬質金属本体からバイト表面の方向に次の順序で並ぶ以下の層を有する。
(i)少なくとも一層のTiCx1y1層(ここで、x1+y1=1、x1≧0、y1>0)、
(ii)少なくとも一層のTiCx2y2z2層(ここで、x2+y2+z2=1、0≦z2≦0.03、0.5≦x2≦0.85)、
(iii)少なくとも一層の、TiN層又はTiCx31y31層(ここで、0.2≦x31≦0.8、x31+y31=1)又はTiNy32v32層(ここで、0.0001≦v32≦0.05、y32+v32=1)、
(iv)少なくとも一層の、TiNy41v41z41層(ここで、y41+v41+z41=1、0.0001≦v41≦0.05、0.01≦z41≦0.6)又はTiCx42y42z42層(ここで、x42+y42+z42=1、0≦y42≦0.5、0.01≦z42≦0.6)、並びに
(v)少なくとも一層のκ−Al23からなる外層。
前記少なくとも一層のTiCx2y2z2層は、方位(311)に組織係数TC(311)≧1.3の組織形態を有している。項目(iii)に記載の層は、上記のとおり、TiN又はTiCx31y31又はTiNy32v32を含んでいる。項目(iv)に記載の層は、TiNy41v41z41又はTiCx42y42z42を含んでいる。使用されている記号について、次のことに注意しなければならない。(i)のTiCx1y1層に関しては、x1=0も可能である。(ii)のTiCx2y2z2層では、z2=0も可能である。(iv)の第2選択肢であるTiCx42y42z42層では、y42=0も可能である。TiCx1y1層の少なくとも一層は、好ましくは0.1μm〜1μm、特に好ましくは0.1μm〜0.8μm、の層厚を有する。TiCx2y2z2層の少なくとも一層は、好ましくは5μm〜15μm、特に好ましくは8μm〜14μm、の層厚を有する。TiN層又はTiCx31y31層又はTiNy32v32層で構成され得る少なくとも一層は、好ましくは0.1μm〜3μmの層厚を有する。TiNy41v41z41層又はTiCx42y42z42層で構成され得る少なくとも一層は、好ましくは0.01μm〜0.5μmの層厚を有する。κ−Al23からなる外層の少なくとも一層は、好ましくは2μm〜10μm、特に好ましくは3.5μm〜6.5μm、の層厚を有する。
【発明の効果】
【0012】
上記の層配列順序、及び、特に、κ−Al23からなる外層とTiCx2y2z2層の方位(311)における好適な組織形態との組合せ、及び、これらの間に配置されている中間層により、多重被覆層全体の応力関係を非常に効果的に調整し得ることが、見出された。特に、層析出後には、機械的な平滑加工法により、なかでも加圧噴射平滑法により、好ましい応力関係に調整することができる。その場合、多重被覆層の層配列順序が上述どおりであれば、とりわけ、硬質金属本体から外層に到るまでの個々の層の間で非常に良好で安定な推移が確保され、個々の層で望ましい応力関係への調整を確実になし得る。上述の特徴によって、κ−Al23層の最も外側にある辺縁領域では、バイトの使用時に安定な表面をもたらす圧縮応力を発生させることが可能であるほか、より奥にある内部層に向かう方向に引張応力への移行が進むことも起こり得る。ここで引張応力とは、層平面に沿って層面の狭小化方向に作用する応力のことである。圧縮応力とは、層平面に沿って層面の拡張化方向に作用する応力のことである。特に、表面から硬質金属本体への方向に特別有利な応力勾配が形成され得ることが明らかになった。この特徴により、様々な切削条件下で改良された特性及び改良された耐久性が達成される。外層をκ−Al23層として形成することにより、バイトの特性に好影響を与えることができる。それは、機械的な平滑加工法においてκ−Al23は、α−Al23に比較して、より大きな塑性変形が可能であるため、表面での圧縮応力の調整をより有利になし得るからである。少なくとも一層のκ−Al23からなる外層の上に、更に一層又は複数の層を形成することもできる。バイトの使用時には、それに伴って表面が加熱されるが、これにより、κ−Al23層は、α−Al23に比較して高い強靭性を有し、高温での硬度損失が少ないので、改良された特性及び改良された耐久性をもたらす。α−Al23に比較して熱伝導性が低いので、内部奥にある層への熱伝導は僅かに過ぎず、バイトの望ましくない過熱は回避される。上記の層は、それぞれ、多結晶質構造を有している。多重被覆層は、特に、熱活性化方式での化学的気相蒸着(CVD、chemical vapor deposition=化学気相成長法)によって形成される。多重被覆層は、バイト使用時に被加工材と噛合うバイトの表面領域に、付与することができる。バイトは、場合によっては、交換式切削チップとして形成されているのが好ましい。これは、特に鉄系基礎材の加工用に指定することができる。応用形態によれば、上述の層は、(中間形成層の追加なしに)相互に、直接、接し合っている。上述の個別層自体も多重形態に形成し、それら個々の重なりに異なった化学量論的関係を持たせることもできる。本明細書においては、組織形態に関する表示は、常に、hkl表記法のミラー指数によっている。ここでは、それぞれの層に対してJCPDSデータバンク(又はJCPDFデータバンク)の表記法に従って、hkl値を割り当てている。その場合、組織係数TCの計算は、次式に従って行なう。
【0013】
【数1】
【0014】
式中、I(hkl)は、それぞれの(hkl)値について(少なくとも1つの対応ピークから)測定した強度を、I0,(hkl)は、JCPDS(又はJCPDF)データバンクに基づく規格化された当該強度を表わし、nは、(hkl)値のそれぞれの組合せについて想定されるすべての強度に関わる指数としての変数である。
【0015】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al23からなる外層は、−100MPa(圧縮応力)から700MPa(引張応力)までの間の平均応力を有している。この関係で「平均応力」とは、層平面に垂直な方向で層厚全体を対象にした平均値のことである。なお、この方向に沿った場合、特に、層の一部が引張応力を、そして層の他の一部が圧縮応力を示すことがあり得ることに注意しなければならない。この場合の応力は、特に、XRD測定(X−Ray Diffraction=X線回折)及び公知のsin2ψ法によって決定し得る(文献例:「回折による残留応力の測定及び解釈」(I.C.Noyan、J.B.Cohen著“Residual Stress Measurement by Diffraction and Interpretation”)Springer出版社/ニューヨーク、1987年(117〜130ページ)。以下に記述するその他の層内応力も、この方法によって決定することができる。上記領域での中庸の応力がバイトに非常に優れた耐久性をもたらすことが分った。応力の程度は、例えば加圧噴射平滑加工法により調整可能であるが、その加圧噴射平滑加工法では、パラメータとして、加圧噴射に使用される材料(例えばセラミック研磨粒体)の材料組成、材料の大きさ分布、噴射圧、並びに、それらより影響度は低いが、処理時間及び表面に向けられる噴射角度を変更することができる。
【0016】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al23からなる外層の最外領域は中庸の圧縮応力を有している。これは前記の処理によって達成することができる。この圧縮応力は、平均引張応力との組合せの場合も、κ−Al23からなる外層において層厚に亘って然るべき圧力勾配に調整することにより、κ−Al23からなる外層の全体に亘って実現可能であることに留意しなければならない。外層はκ−Al23で形成されているので、そのような圧力勾配を確実に作り出すことができる。
【0017】
好ましい実施形態の1つでは、少なくとも一層のTiCx1y1層が0.1μm〜1μmの層厚を、少なくとも一層のTiCx2y2z2層が5μm〜15μmの層厚を、TiN又はTiCx31y31又はTiNy32v32からなる少なくとも一層が0.1μm〜3μmの層厚を、TiNy41v41z41又はTiCx42y42z42からなる少なくとも一層が0.01μm〜0.5μmの層厚を、そして、少なくとも一層のκ−Al23からなる外層が2μm〜10μmの層厚を、有している。このような厚さを持つ多重被覆層の形成により、個々の層が望ましい特性を非常に効果的に達成し得ることが判明した。
【0018】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al23からなる外層は、層表面に平行な平面においては、3μm未満の粒径を有している。この粒径は、κ−Al23の場合、CVD法のパラメータを通じて実現することができる。この粒径により、平滑な表面を有し非常に耐久性のある被覆が達成されることが分った。
【0019】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のTiCx2y2z2層がz2>0の成分指数を有している。層中でのそのような最終的酸素比率は、CVD法による場合では、プロセスガス中のCOにより的確な酸素のドーピングを行なうことによって達成することができる。z2値は、例えばプロセスガス中のCO流量により、調整することができる。特に酸素の漸進的ドーピングは、TiCx2y2z2層及びκ−Al23からなる外層の優先的組織形態との組合せにより、層内の応力関係が確実に調整され、個々の層の良好な結合が保証されるという効果を、生んでいる。
【0020】
硬質金属本体は、5.5〜10重量%のCo及び5〜9重量%の、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の、立方晶系カーバイドを含むWCから形成されているのが好ましい。上記の周期表IVb、Vb又はVIb族に属する少なくとも1種の金属は、Ti、Hf、Zr又はそれらの組合せによって形成されている。特に、このように形成された硬質金属本体上に前記の多重被覆層を形成することにより、その物理的及び化学的特性に応じて、非常に高い抵抗性及び耐久性を持つバイトが得られる。この場合、好ましくは、硬質金属本体の辺縁領域について、厚さを、好ましくは5μm〜30μm、特に好ましくは15μm〜25μm、とし、そこでのCo成分の割合を硬質金属本体の内部に比べて高くし、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の立方晶系カーバイドの成分の割合を硬質金属本体の内部に比べて低くする。
【0021】
特に、少なくとも1種の外層を、κ−Al23単一層として、形成すれば非常に良好な結果が得られることが分った。ここで言う「単一層」とは、特に、単独層の晶子が少なくとも圧倒的多数を占めていて、層平面に垂直な方向に複数晶子が重なり合って配置されている部分は限定的であるとの意味である。そのような外層では、圧力関係について非常に信頼性の高い調整が可能である。
【0022】
硬質金属本体に接合する多重被覆層が、層厚1μmまでのTiN層を少なくとも一層含んでいれば、硬質金属本体に対する多重被覆層の非常に良好な結合が達成される。
【0023】
好ましい実施形態の1つでは、少なくとも一層のTiCx2y2z2(12)が、該層(12)の表面から見て平板状であり多重被覆層の破断面で見て棒状である結晶を有している。更に、TiN又はTiCx31y31又はTiNy32v32によって形成されている少なくとも一層が、好ましくは微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいる。同様に、TiNy41v41z41又はTiCx42y42z42によって形成されている層についても、少なくとも一層が、好ましくは微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいる。この構造を通じて、各上下層相互間の良好な結合及び小さな粒径を持つκ−Alからなる外層の形成が達成される。
【0024】
実施形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al23からなる外層が機械的に平滑加工されており、特に加圧噴射平滑加工法により噴射処理されている。この種の加工は、バイトに形成される特性に直接反映されており、外層に残留する構造から加工の様子が見て取れる。機械的な平滑加工は、一方では外層に平滑な外表面をもたらし、他方、同時に、被覆層内に望ましい応力関係を作り上げる。加圧噴射平滑加工法におけるパラメータを然るべく適切にすることにより、両効果を望みどおりに達成することができる。加圧噴射平滑加工法の若干のパラメータとしては、なかでも、加圧噴射に使用される材料(例えばセラミック研磨粒体)の素材組成、材料の大きさ分布、噴射圧、並びにそれらより影響度は低いが、処理時間及び表面に向けられる噴射角度があり、それらは変更可能である。
【0025】
好ましい応用形態の1つでは、少なくとも一層のκ−Al23からなる外層が、方位(110)に、組織係数TC(110)≧1.3の優先的組織形態を有している。ここで、外層が、同時に、方位(004)に、組織係数TC(004)≧1.3の優先的組織形態を、そして、方位(015)に、組織係数TC(015)≧1.3の優先的組織形態を有するのが好ましい。但し、ここでは、好ましくは、TC(110)>TC(004)及びTC(110)>TC(015)が成り立つものとする。特に、外層がそのような組織形態であれば、その他の層との相互作用も加わり、被覆層内の応力関係が非常に効果的に調整できて平滑な表面が達成されることが、明らかになった。
【0026】
好ましい実施形態の1つでは、0.01≦z2≦0.02である。従って、この場合では、TiCx2y2z2層の酸素含有量z2は、0.01〜0.02の範囲内にある。特にこの酸素含有量によって、バイトに非常に好ましい特性がもたらされることが、明らかになった。ここで、特に3つの効果が決定的な役割を果たしている。z2値の増加と共にTiCx2y2z2層の構造が精緻となり、その結果、ホールペッチ効果により、層の強靭性が増大する。更に、0.01≦z2≦0.02の領域では、TiCx2y2z2層内の残留引張応力が、その生成後、最小に達する。更に、この領域では、該層の非常に高い侵入硬度が達成される。これらの効果は、特にバイトの耐磨耗性に有利に作用する。
【0027】
実施形態の1つでは、0≦z2≦0.01及び0.5≦x2≦0.75である。
【0028】
本発明のその他の長所及び応用形態は、図面に関連付けた下記実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ある実施形態の硬質金属本体上の多重被覆層の破断面の走査型電子顕微鏡による画像である。
図2】硬質金属本体上の多重被覆層の研磨面の光学顕微鏡による画像である。
図3】TiCx2y2z2層の表面の走査型電子顕微鏡による画像である。
図4】バイトにおける層配列順序の模式図(寸法整合性なし)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、図1図4を参照して実施形態の説明をする。
【0031】
下記の実施形態でのバイトは、金属材料の切削加工のための交換式切削チップである。このバイトは、実施形態のモデル例として示されており、鉄系基礎材、例えば鋼鉄、鋳造工材及びステンレス鋼等、の回転切削及び回転類似方式による切削のための交換式チップである。このバイトは、細かい加工、平均的加工及び粗い加工用である。例示のバイトは、特に、ISO P、M、K15〜35の領域、なかでもP15〜P35の領域、を対象にした回転式バイトである。これが適用される領域は、大きな負荷を要求するという側面を持っており、それには、様々な鉄含有材料、例えば合金鋼、ステンレス鋼若しくは種々の合金成分を含む鋳造工材、に対する、例えば、連続的な(若しくはスムーズな)又は断続的な切削操作を伴う乾式及び湿式の切削細断の、種々様々な適用が、含まれる。
【0032】
バイトは、少なくとも1つの機能性表面領域、特に切削辺縁部及びそれに続く切削屑誘導構造、が設けられた硬質金属本体(10)を有している。本実施例では、硬質金属本体は、Coを5.5〜10重量%及び周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の立方晶系カーバイドを5〜9重量%含むWCから形成されている。以下に記述する例では、硬質金属本体は、特に7±1重量%のCo及び8.1±0.5重量%のTa(Nb)Cを含んでいて、1μm〜2μmの粒径を有している(仕様書H718)。本実施例では、硬質金属本体(10)は、(下記の多重被覆層に隣接する)厚さ5μm〜30μmの辺縁領域を有しており、そこでは、Coの割合は、硬質金属本体の内部に比較して高く(濃縮されていて)、周期表IVb、Vb、VIb族に属する少なくとも1種の金属の立方晶系カーバイドの割合は、硬質金属本体の内部に比較して低い(希釈されている)。
【0033】
硬質金属本体(10)は、少なくとも1つの機能性表面領域に、複数の異なった層によって形成されている多重被覆層を有している。異なった層は、いずれも、CVD法により、硬質金属本体(10)の表面上に順次蒸着されている。様々な層の蒸着には、以下で更に詳しく述べるように、前駆体であるTiCl4、CH3CN、CH4、H2、N2、CO、CO2、HCl、H2S及びAlCl3が使用される。ここで、AlCl3は、特に金属AlとHClとから調製し供給することができる。層は、SuCoTec SCT600−THタイプの被覆装置を操作手引どおりに運転して、LPCVD法(low pressure chemical vapour deposition=低圧化学気相成長法)により、蒸着される。
【0034】
硬質金属本体(10)の表面上に、直接、0.1μm〜1μmの厚さを持つ層(11)TiCx1y1層(ここで、x1+y1=1、x1≧0、y1>0)が形成されている。図1及び図2に描かれている実施例では、層(11)は、厚さが約0.5μm〜1μmのTiN層(即ち、x1=0)によって形成されている。層(11)は、硬質金属本体(10)と後続層との良好な結合を保証するための中間層として、用いられる。
【0035】
層(11)の表面上に、直接、厚さが5μm〜15μmの層(12)TiCx2y2z2層(ここで、x2+y2+z2=1、0≦z2≦0.03及び0.5≦x2≦0.85)が蒸着されている。もちろん、この層は、例えば、0≦z2≦0.01及び0.5≦x2≦0.75であってもよい。z2>0であるのが好ましい。しかし、特に好ましいのは、0.01≦z2≦0.02の範囲である。図1図3に描かれた実施例では、層(12)は、約10μmの厚さを有している。図1図3に描かれた実施例では、層(12)は、例えば、微量のO(好ましくは0.01≦z2≦0.02)を含むTiC0.590.41の組成を有している。層(12)は、中間温度工程において、COによる漸進的ドーピングにより、前駆体としてのTiCl及びCHCNから製造される。この層(12)は、図3から見て取れるように、該層(12)の表面から見て平板状であり図1から見て取れるように、多重被覆層の破断面で見て棒状である結晶を有している。中間温度工程でのCO流量が約0.2L/分〜約1L/分の範囲内にあれば、望みどおりの層(12)を得る上で、非常に有利なことが確認された。層(12)は、方位(311)において組織係数TC311≧1.3の優先的組織形態を持つように形成される。ここで、TC311は、次式から求める。
【0036】
【数2】
【0037】
式中、I(hkl)は、それぞれの(hkl)値について(少なくとも1つの対応ピークから)測定した強度を、I0,(hkl)は、JCPDS(又はJCPDF)データバンクに基づく規格化された当該強度を表わし、nは、(hkl)値のそれぞれの組合せについて想定されるすべての強度に関わる指数としての変数である。層(12)の漸進的な酸素ドーピングをもたらす、特に、工程ガスにおけるCOの的確な混合と方位(311)での優先的組織形態との組合せにより、多重被覆層全体における応力関係が非常に効果的に調整でき、個々の層間が非常に安定な結合を生じることが、明らかになった。ここで、z2≦0.03の領域、特に0.01≦z2≦0.02の領域、が好ましいと判明した。このようにして、特に層(12)における応力は、なかでも0.01≦z2≦0.02の場合には、比較的低水準の引張応力に保持することができる。上記のようにして形成された(個別層としての)層に生じる応力は、sin2ψ法により確認したところ、約200±47MPaである。個別層の侵入硬度HIT0.003/30/1/30は、EN ISO 14577−1に従って確認したところ、約29.1±1.3GPaである。
【0038】
層(12)の上に、直接、TiN又はTiCx31y31又はTiNy32v32から成る少なくとも一層の層(13)が、形成されている。ここで、0.2≦x31≦0.8及びx31+y31=1、又は、0.0001≦v32≦0.05及びy32+v32=1が成り立つものとする。ここで、層(13)は、0.1μm〜3μmの層厚を有する。図1及び図2に描かれた実施例では、その層の平均層厚は、約0.5μmである。層(13)の上に、直接、TiNy41v41z41又はTiCx42y42z42から成る少なくとも一層の層(14)が形成されている。ここで、y41+v41+z41=1及び0.0001≦v41≦0.05及び0.01≦z41≦0.3であるか、又は、x42+y42+z42=1及び0≦y42≦0.5及び0.01≦z42≦0.3である。ここで、層(14)は、0.01μm〜0.5μmの層厚を有している。層(13)及び層(14)は、特に、それらの上に重なるκ−Al23からなる外層(15)との非常に良好な結合を形成するのに役立っている。この結合は、特に前記の層配列順序によって、極めて効果的に達成される。層(13)及び(14)は、前駆体TiCl4、N2、CH4、H2、BCl3及びCOから、様々なエッチング過程、洗浄過程を経て、製造される。層(14)の製造においては、CO由来以外の炭素がプロセスガス中に含まれていなければ、非常に有利であることが判明した。層(13)及び層(14)は、それぞれ、微粒状〜薄片状に細分化された結晶を含んでいる。特に層(14)は、下記のκ−Al23からなる外層(15)に対して、特にその粒径分布及び晶子配向又は組織に関して、大きな影響を及ぼす。
【0039】
層(14)の上に、直接、κ−Al23からなる外層(15)が形成されている。κ−Al23からなる外層(15)は、2μm〜10μm、好ましくは3.5μm〜6.5μm、の層厚を有する。図1及び図2に描かれた実施例では、外層(15)は、約5μmの層厚を有する。κ−Al23からなる外層(15)は、層表面に平行な平面において、3μm未満、好ましくは1.3μm〜1.8μm、の平均粒径を有する。ここで、平均粒径は、単位面積当りの個体数(表面上の晶子数)から求めたその正方形の一辺の平均長さを基に算出した。このとき、外層(15)表面の走査型電子顕微鏡撮影像を計算の基礎資料として用いた。即ち、単位面積当りの晶子数を計数し、それぞれが正方形の底面を有していると想定した。これから、平均粒径を算出した。κ−Al23からなる外層(15)は、単一層から成っている。κ−Al23層(15)の確実な蒸着は、的確な塩素化及び前駆体HCl、AlCl3、CO2、H2S及びH2からの酸素分圧の正確な調整を通じて、行なうことができる。κ−Al23からなる外層(15)は、方位(110)、(004)及び(015)に、優先的組織形態を有している。方位(110)の組織係数としては、TC(110)≧1.3が適用される。方位(004)の組織係数としては、TC(004)≧1.3が、方位(015)の組織係数としては、TC(015)≧1.3が適用される。特に、方位(110)の組織係数は、方位(004)及び方位(015)の組織係数のいずれよりも大きい。即ち、TC(110)>TC(004)、且つ、TC(110)>TC(015)である。図1及び図2に描かれたモデル例としての外層(15)では、測定値は、例えばTC(110)=2.7、TC(004)=1.85及びTC(015)=1.73である。外層(15)及び層(12)それぞれの組織係数の決定には、いずれも、Cu Kα線によるGA−XRD(grazing incidence x−ray diffraction=斜入射X線回折)測定を行ない、JCPDSデータバンク(又はJCPDFデータバンク)を参照して、前記式から組織係数を算出した。上記方法で蒸着したκ−Al23からなる外層(15)は、図示された実施例の場合、EN ISO 14577−1に基づく測定で、HIT0.003/30/1/30=22.5±0.5GPaの侵入硬度を示す。
【0040】
κ−Al23からなる外層(15)の表面は、湿潤加圧噴射法で後処理した。この後処理は、多重被覆の上方層における粗さ及び応力に関して、表面に顕著な改質をもたらす。湿潤加圧噴射法では、水溶液中のAl23粉末を使用した。ここで、粒径分布試験は、メッシュ等級500、280/320及び180/220により行なった。最高の結果は、メッシュ等級280/300で、噴射圧力約3〜4バール及び表面への入射角35°〜45°の場合に、達成された。このとき、機能性表面領域では、Ra値<0.25の表面粗さが達成された。なお、この値は、光干渉法によって求めた。
【0041】
上述の表面処理により、κ−Al23からなる外層(15)全体において、−100MPa(圧縮応力)〜700MPa(引張応力)の平均応力が形成され、これにより、表面に接するκ−Al23からなる外層(15)の最も外側の辺縁領域は、平均的圧縮応力を示すという結果になった。このように、外層(15)の最外辺縁領域では、有利にも、表面の良好な耐久性をもたらす圧縮応力が達成された。同時に、外層(15)の内部に、多重被覆層(11)、(12)、(13)、(14)、(15)の優れた安定性及び耐久性をもたらす応力勾配が、下方層に向かう方向に生じた。この有利な応力関係は、加圧噴射法による表面処理と組み合わせた層(12)の酸素ドーピングと関連して、κ−Al23からなる外層(15)の比較的高い可塑変形性に帰することができる。
【0042】
上記個別層の厚さ測定は、バイト研磨面の腐蝕後の光学顕微鏡像及び半球研磨法に基づいて行なった。図1及び図2に示された実施例では、多重被覆層(11)、(12)、(13)、(14)、(15)の厚さの総和の平均は、約15μmである。
【0043】
以下では試験例を説明しているが、それから、上述のバイトによれば公知のバイトに比較して改良された特性が得られるのが明らかである。下表では、総計10の例を記載しており、それらを以下で説明する。
【0044】
【表1】
【0045】
切刃のタイプ(第2欄)に関しては、以下では、様々な種類の切刃が定義付けされているISO規格1832を引用する。様々な種類に及ぶ加工材料(第4欄)に関しては、それぞれ工材番号を引用する。「得られる改良率[%]」の欄には、それぞれ、本発明に基づくバイトの寿命(又は耐用期間)について、比較用バイトに対する改良の度合を記載している。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
実施例1では、本発明に基づくバイト及び公知のバイトAを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(I)CNMG−432のタイプである。加工材料は、工材番号1.7220の合金鋼であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.2mm、切削深度5mm及び切削速度切換式で行なった。作業は、何段階かの複数過程とした。バイトAの多重被覆層は、硬質金属本体から表面の方向へ向かって、以下の層を有している:厚さ約0.3μmのTiN層、厚さ約6.3μmのTiCxy層、厚さ約0.2μmのTiCxyz層、厚さ約0.4μmのTiCxy層、厚さ約0.6μmのTiCxyz層、及び、α−Al23からなる厚さ約5.5μmの外層。
【0047】
本発明に基づくバイトにより、バイトAに比較して、23%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、本発明に基づくバイト及び公知のバイトBを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(II)WNMG060408のタイプである。加工材料は、工材番号1.7131の合金鋼であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.3mm、切削深度2mm及び切削速度220m/分で行なった。バイトBの多層被覆層は、実施例1に記載のバイトAと同じ層配列順序を有している。
【0049】
本発明に基づくバイトにより、バイトBに比較して、60%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0050】
(実施例3)
実施例3では、本発明に基づくバイト及び公知のバイトCを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(III)SNMM250732のタイプである。加工材料は、工材番号1.4923のステンレス鋼であった。材料加工は、1回転当りの送り量1.25mm、切削深度2mm〜10mm及び切削速度43m/分で行なった。バイトCの多重被覆層は、硬質金属本体から表面の方向へ向かって、以下の層を有している:厚さ約0.3μmのTiN層、厚さ約9μmのTiCxy層、α−Al23からなる厚さ約4μmの外層。外層の上には厚さ約3μmのTiN層を付与した。
【0051】
本発明に基づくバイトにより、バイトCに比較して、16%〜33%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0052】
(実施例4)
実施例1では、本発明に基づくバイト及び公知のバイトDを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(I)CNMG−432のタイプである。加工材料は、工材番号1.6562の合金鋼であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.2mm、切削深度5mm及び切削速度切換式で行なった。作業は何段階かの複数過程とした。バイトDの多層被覆層は、実施例3に記載のバイトCの場合と同じ構成を有している。
【0053】
本発明に基づくバイトにより、バイトDに比較して、11%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0054】
(実施例5)
実施例5では、加圧噴射法により表面処理を実施した本発明に基づくバイト及び加圧噴射法による表面処理を実施しなかった同一構造のバイトEを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(IV)CNMG120412のタイプである。加工材料は、工材番号1.3505の100Cr6であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.4mm、切削深度各種及び切削速度220m/分で行なった。作業は、切断片の湿潤切削加工とした。
【0055】
加圧噴射法により表面処理を実施したバイトにより、19%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0056】
(実施例6)
実施例6では、加圧噴射法により表面処理を実施した本発明に基づくバイト及び加圧噴射法による表面処理を実施しなかった同一構造のバイトFを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(V)CNMG120812のタイプである。加工材料は、工材番号1.7225の42CrMo4であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.4mm、切削深度各種及び切削速度220m/分で行なった。作業は、切断片の湿潤切削加工とした。
【0057】
加圧噴射法により表面処理を実施したバイトにより、16%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0058】
(実施例7)
実施例7では、本発明に基づくバイト及びバイトGを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(IV)CNMA120408のタイプである。加工材料は、工材番号0.6025のGG25であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.3mm、切削深度2mm及び切削速度350m/分で行なった。作業は乾式縦回転とした。バイトGの多重被覆層は、硬質金属本体から表面の方向へ向かって、以下の層を有している:厚さ約0.3μmのTiN層、厚さ約5.5μmのTiCxy層、厚さ約0.7μmのTiCxyz層、α−Al23からなる厚さ約4.5〜5μmの外層。外層の上には、更に、厚さ約1μmのTiCxy層を形成した。
【0059】
本発明に基づくバイトにより、バイトGに比較して、18%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0060】
(実施例8)
実施例8では、本発明に基づくバイト及び実施例7で述べたバイトGを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。加工材料は、実施例7と同等のものである。材料加工は、1回転当りの送り量0.25mm、切削深度2mm及び切削速度500m/分で行なった。作業は湿式縦回転とした。
【0061】
本発明に基づくバイトにより、バイトGに比較して、10%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0062】
(実施例9)
実施例9では、本発明に基づくバイト及び実施例7で述べたバイトGを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。加工材料は、工材番号0.7060のGGG60であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.25mm、切削深度2mm及び切削速度250m/分で行なった。作業は縦回転とした。
【0063】
本発明に基づくバイトにより、バイトGに比較して、15%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【0064】
(実施例10)
実施例10では、本発明に基づくバイト及びバイトHを用いて、それぞれ、同一の材料加工を行なった。両バイトは、ISO1832に規定された形態(VII)CNMG120408のタイプである。加工材料は、工材番号1.7225の合金鋼であった。材料加工は、1回転当りの送り量0.25mm、切削深度2.5mm及び切削速度220m/分で行なった。作業は縦回転とした。バイトHの多重被覆層は、硬質金属本体から表面の方向へ向かって、以下の層を有している:厚さ約0.3μmのTiN層、厚さ約3〜4μmのTiCxy層、厚さ約2.5μmのTiCxy層(別なx値、y値)、厚さ約0.4μmのTiNyv層及び厚さκ−Al23からなる約2μmの外層。
外層の上には、更に、厚さ約0.2〜0.3μmのTiN層を形成した。
【0065】
本発明に基づくバイトにより、29%の耐用性(又は有効寿命)の改善が達成された。
【符号の説明】
【0066】
O バイト表面
10 硬質金属本体
11 TiCx1y1
12 TiCx2y2z2
13 TiN層、TiCx31y31層又はTiNy32v32
14 TiNy41v41z41層又はTiCx42y42z42
15 κ−Al23からなる外層
図1
図2
図3
図4