(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769736
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】遠心振り子装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/14 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
F16F15/14 B
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-556380(P2012-556380)
(86)(22)【出願日】2011年2月21日
(65)【公表番号】特表2013-522546(P2013-522546A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】DE2011000172
(87)【国際公開番号】WO2011110150
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年2月18日
(31)【優先権主張番号】102010011140.6
(32)【優先日】2010年3月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512006239
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ダリウス ヴュスゴール
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト シュネーデルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】トルステン クラウゼ
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−078082(JP,A)
【文献】
米国特許第02348941(US,A)
【文献】
特開2000−283233(JP,A)
【文献】
特開2000−046119(JP,A)
【文献】
特開2000−149397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心振り子装置(20)であって、
該遠心振り子装置(20)が、
1つの回動軸線を中心として回動可能な振り子フランジ(22)と、
該振り子フランジ(22)の両側にピン(26)によって取り付けられた、ローラによって案内されて振り子フランジ(22)に対して制限されて旋回可能な複数の振り子質量体(24)と、を備えており、
少なくとも2つの振り子質量体(24)が、周方向で互いに隣り合って振り子フランジ(22)に配置されており、
それぞれ1つの振り子質量体(24)が、該振り子質量体(24)に周方向で隣り合った振り子質量体(24)に向けられた側面(40)を有している遠心振り子装置において、
側面(40)の輪郭が、実質的に鋭角部(42)を有しており、
該鋭角部(42)を有する前記輪郭が、周方向で互いに隣り合う両振り子質量体(24)を互いに逸らし合うガイドとして働くことを特徴とする、遠心振り子装置。
【請求項2】
互いに隣り合った振り子質量体(24)の互いに向かい合った2つの側面(40)の輪郭が、それぞれ1つの鋭角部(42)を有している、請求項1記載の遠心振り子装置。
【請求項3】
一方の振り子質量体(24)の側面(40)の輪郭に対する、隣り合った振り子質量体(24)の隣接する側面(40)の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている、請求項2記載の遠心振り子装置。
【請求項4】
1つの振り子質量体(24)の2つの側面(40)が、半径方向外側では外面(36)によって互いに接続されていて、半径方向内側では内面(38)によって互いに接続されており、側面(40)の輪郭の鋭角部(42)が、外面(36)または内面(38)と側面(40)との間に形成されるようになっている、請求項1から3までのいずれか1項記載の遠心振り子装置。
【請求項5】
1つの振り子質量体(24)の2つの側面(40)が、半径方向外側では外面(36)によって互いに接続されていて、半径方向内側では内面(38)によって互いに接続されており、側面(40)の輪郭の鋭角部(42)が、側面(40)の範囲内に形成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の遠心振り子装置。
【請求項6】
側面(40)の輪郭の鋭角部(42)が、側面(40)の実質的に半径方向中間に形成されている、請求項5記載の遠心振り子装置。
【請求項7】
1つの振り子質量体(24)の2つの側面(40)が、その輪郭にそれぞれ1つの鋭角部(42)を有しており、一方の輪郭に対する他方の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の遠心振り子装置。
【請求項8】
1つの振り子質量体(24)の2つの側面(40)が、その輪郭にそれぞれ1つの鋭角部(42)を有しており、一方の輪郭に対する他方の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して非対称的に形成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の遠心振り子装置。
【請求項9】
振り子フランジ(22)に設けられた、ピン(26)を収容するための切抜き部(32,34)および/またはピン(26)が、ピン(26)と切抜き部(32,34)の縁取り面との衝突を減衰するための減衰手段を具備している、請求項1から8までのいずれか1項記載の遠心振り子装置。
【請求項10】
周方向で互いに隣り合った2つの振り子質量体(24)が、互いに結合手段を介して弾性的にまたは剛性的にまたは部分的に互いに運動可能に互いに結合されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の遠心振り子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心振り子装置であって、該遠心振り子装置が、1つの回動軸線を中心として回動可能な振り子フランジと、該振り子フランジの両側にピンによって取り付けられた、ローラによって案内されて振り子フランジに対して制限されて旋回可能な複数の振り子質量体とを備えており、少なくとも2つの振り子質量体が、周方向で互いに隣り合って振り子フランジに配置されており、それぞれ1つの振り子質量体が、該振り子質量体に周方向で隣り合った振り子質量体に向けられた側面を有している遠心振り子装置に関する。
【0002】
このような遠心振り子装置はその機能において、特に自動車のパワートレーンに使用されるねじり振動吸振器として、たとえばドイツ連邦共和国特許出願公開第102004011830号明細書に基づき公知である。同明細書では、振り子質量体が、制限されて旋回可能に振り子フランジに配置されている。この振り子フランジは、ねじり振動が付随する原動機、たとえば内燃機関によって駆動される。振り子フランジの回動加速度が異なることにより生じる、この振り子フランジに対する振り子質量体の振り子運動の結果、ねじり振動の吸振効果が得られる。
【0003】
振り子フランジは、たとえばねじり振動ダンパの構成部材またはデュアルマスフライホイールの構成部材から一体に形成されていてもよいし、これらの構成部材の一方に配置されていてもよい。振り子フランジの両側には、複数の振り子質量体を配置することができる。軸方向で互いに反対の側に位置する両振り子質量体は、ピンによって互いに結合されている。このピンは、振り子質量体の振り子運動に適合された形状を備えた開口内で運動させられる。振り子フランジに対する振り子質量体の案内は、この振り子質量体に加工された切抜き部によって行われる。この切抜き部は、振り子フランジに設けられた切抜き部に対して相補的に形成されている。切抜き部内では、転動体が転動する。遠心振り子装置の運転中には、振り子フランジの回動に際して振り子質量体同士が衝突し合うことがある。また、振り子フランジの回動から静止への移行時には、一方の振り子質量体が、この振り子質量体に周方向で隣り合った振り子質量体に激しく衝突することもあり、このことは、遠心振り子装置の不快な騒音を招く結果となる。
【0004】
本発明の課題は、遠心振り子装置の騒音に対する快適さと同時に構成スペースの最適な利用とを改善し、特に周方向で互いに隣り合った振り子質量体の激しい相互作用を減衰するかまたは回避することである。
【0005】
この課題を解決するために本発明に係る遠心振り子装置によれば、側面の輪郭が、実質的に鋭角部を有している。
【0006】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、互いに隣り合った振り子質量体の互いに向かい合った2つの側面の輪郭が、それぞれ1つの鋭角部を有している。
【0007】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、一方の振り子質量体の側面の輪郭に対する、隣り合った振り子質量体の隣接する側面の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている。
【0008】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、1つの振り子質量体の2つの側面が、半径方向外側では外面によって互いに接続されていて、半径方向内側では内面によって互いに接続されており、側面の輪郭の鋭角部が、外面または内面と側面との間に形成されるようになっている。
【0009】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、1つの振り子質量体の2つの側面が、半径方向外側では外面によって互いに接続されていて、半径方向内側では内面によって互いに接続されており、側面の輪郭の鋭角部が、側面の範囲内に形成されている。
【0010】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、側面の輪郭の鋭角部が、側面の実質的に半径方向中間に形成されている。
【0011】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、1つの振り子質量体の2つの側面が、その輪郭にそれぞれ1つの鋭角部を有しており、一方の輪郭に対する他方の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている。
【0012】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、1つの振り子質量体の2つの側面が、その輪郭にそれぞれ1つの鋭角部を有しており、一方の輪郭に対する他方の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して非対称的に形成されている。
【0013】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、振り子フランジに設けられた、ピンを収容するための切抜き部および/またはピンが、ピンと切抜き部の縁取り面との衝突を減衰するための減衰手段を具備している。
【0014】
本発明に係る遠心振り子装置の有利な態様によれば、周方向で互いに隣り合った2つの振り子質量体が、互いに結合手段を介して弾性的にまたは剛性的にまたは部分的に互いに運動可能に互いに結合されている。
【0015】
本発明によれば、遠心振り子装置が、振り子フランジと、この振り子フランジの両側にピンによって取り付けられた、ローラによって案内されて振り子フランジに対して制限されて旋回可能な複数の振り子質量体とを備えている遠心振り子装置が提案される。少なくとも2つの振り子質量体は、周方向で互いに隣り合って振り子フランジに配置されており、それぞれ1つの振り子質量体が、この振り子質量体に隣り合った振り子質量体に向けられた側面を有しており、この側面の輪郭が、実質的に鋭角部を有している。これによって、振り子フランジの回動に際した振り子質量体同士の衝突時にかつ/または振り子フランジの回動から静止への移行時に、一方の振り子質量体を、この振り子質量体に周方向で隣り合った振り子質量体に対してスムーズに逸らすことを達成することができる。側面の輪郭は、遠心振り子装置の運転中、互いに隣り合った2つの振り子質量体が振り子フランジに対して可能な限り広範囲の振り子運動を実施することができるように形成することができる。この振り子運動の間には、振り子質量体が互いに接触しないようになっている。
【0016】
本発明の有利な態様では、互いに隣り合った振り子質量体の互いに向かい合った2つの側面の輪郭が、それぞれ1つの鋭角部を有している。有利には、一方の振り子質量体の側面の輪郭に対する、隣り合った振り子質量体の隣接する側面の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている。この態様では、輪郭の尖端部が丸み付けられていて、互いに隣り合った2つの振り子質量体が、規定された事情のもと、先端部で最初に接触させられるようになっている。しかし、輪郭は、尖端部同士の衝突が可能な限り起こり得ないように形成されていてもよい。
【0017】
本発明の別の態様では、1つの振り子質量体の2つの側面が、半径方向外側では外面によって互いに接続されていて、半径方向内側では内面によって互いに接続されており、側面の輪郭の鋭角部が、外面または内面と側面との間に形成される。
【0018】
本発明の別の態様では、1つの振り子質量体の2つの側面が、半径方向外側では外面によって互いに接続されていて、半径方向内側では内面によって互いに接続されており、側面の輪郭の鋭角部が、側面の範囲内に形成されている。有利には、側面の輪郭の鋭角部が、側面の実質的に半径方向中間に形成されている。
【0019】
本発明の別の態様では、1つの振り子質量体の2つの側面が、その輪郭にそれぞれ1つの鋭角部を有しており、一方の輪郭に対する他方の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている。また、1つの共通の振り子質量体の一方の輪郭に対する他方の輪郭が、半径方向に延びる1つの線に対して非対称的に形成されていてもよい。
【0020】
本発明の更なる利点および有利な態様は、明細書および図面から明らかである。なお、図面では、見やすさを考慮して、正確な縮尺での図示を省略した。説明した全ての特徴は、本発明の範囲を逸脱することなしに、記載した組合せだけでなく、別の組合せでも、単独でも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ねじり振動ダンパの構成部材に配置された本発明の独特の実施の形態に係る遠心振り子装置の側面図である。
【0022】
本発明を以下に図面を参照して詳しく説明する。
【0023】
図1には、ねじり振動ダンパ10の構成部材の側面図が示してある。この構成部材は、本実施の形態では、ダンパフランジとして形成されている。このダンパフランジは、半径方向内側の範囲に、エネルギ蓄えエレメント、たとえばコイルばねを収容するための切抜き窓12を有している。ダンパフランジは同時に遠心(力)振り子装置20の振り子フランジ22を成している。軸方向でこの振り子フランジ22の両側にそれぞれ2つの振り子質量体24が配置されていて、ピン26を介して互いに結合されて、振り子質量体対を形成している。ピン26は、振り子フランジ22に設けられた切抜き部28を貫通している。この切抜き部28は、振り子フランジ22に対する振り子質量体24の振り子運動が可能となるように加工されている。振り子質量体24は振り子フランジ22に対して転動体30を介して案内されている。このためには、この転動体30が、振り子質量体24に設けられた切抜き部32と、この切抜き部32に対応する、振り子フランジ22に設けられた相補的な切抜き部34とにおいて転動することができる。
【0024】
図2に詳しく示したように、1つの振り子質量体24は、半径方向外側に外面36を有していて、半径方向内側に内面38を有している。振り子質量体24の周方向の側では、この振り子質量体24が側面40によって仕切られる。1つの振り子質量体24と、この振り子質量体24に周方向で隣り合った振り子質量体とのそれぞれ2つの側面40は、互いに向かい合っている。側面40の輪郭は、この側面40の半径方向の延在長さに対してほぼ中間に鋭角部42を有している。また、隣り合った振り子質量体の、1つの振り子質量体24の側面40にそれぞれ隣り合った側面も同様である。それぞれ互いに隣り合った振り子質量体の側面相互の輪郭ならびに1つの振り子質量体の両側面相互の輪郭は、半径方向に延びる1つの線に対して鏡像対称的に形成されている。
【0025】
互いに向かい合った両側面は、遠心振り子装置20の運転中、互いに特定の不変の間隔または変化させられる間隔を有していてよい。特定の事情下では、両振り子質量体がその側面で互いに接触していてもよい。側面の輪郭の尖った独特の構成によって、振り子質量体の激しいぶつかり合いを減少させることができる。なぜならば、振り子質量体の、ガイドとして働く輪郭によって、両振り子質量体を部分的に互いに逸らし合うことができるからである。
【符号の説明】
【0026】
10 ねじり振動ダンパ
12 切抜き窓
20 遠心振り子装置
22 振り子フランジ
24 振り子質量体
26 ピン
28 切抜き部
30 転動体
32 切抜き部
34 切抜き部
36 外面
38 内面
40 側面
42 鋭角部