(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸音領域、遮音領域、あるいは追加の吸音特性を有する遮音領域を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の遮音トリム部品を、乗用車およびトラックのような車両内にて、内部ダッシュ、床仕上げ材、ホイールライナーのような自動車用のトリム部品として使用する方法。
【背景技術】
【0002】
車両内のノイズ源は多数あるが、中でも、パワートレイン、ドライブライン、タイヤの接地面(路面により発生する)、ブレーキおよび風である。これらのノイズ源により車室内で発生するノイズは、比較的広い周波数範囲を有し、通常のディーゼル車およびガソリン車では、6.3kHzになりうる(この周波数超では、車両内のノイズ源からの放射音響パワーは、一般的に無視される)。車両ノイズは、一般的に低、中、および高周波数のノイズに分けられる。一般的に、低周波数ノイズは、50Hzから500Hzまでの周波数範囲をカバーするものとみなされ、「構造負担(structure-borne)」ノイズに支配される。振動は、様々な構造経路を介して車室を包囲するパネルに伝達され、これらのパネルはノイズを車室自身へ放射する。一方、一般的に高周波数ノイズは、2kHz超の周波数範囲をカバーするものとみなされる。高周波数ノイズは、一般的に、「気中浮遊(airborne)」ノイズに支配される。この場合、振動は、気中経路を介して、車室を包囲するパネルに伝達される。2つの影響が組み合わされるが、2つのうちのいずれも支配的ではないない中間範囲が存在することを認識されたい。ここで、乗客の快適のために、低周波数範囲および高周波数範囲と同様に中間周波数範囲において防音することも重要である。
【0003】
乗用車およびトラックのような車両内の防音のために、遮音材、ダンパーおよび吸音材を使用して、音を反射および消散し、全体的な内部音レベルを減少させることはよく知られている。
【0004】
遮音は、伝統的に、「質量ばね」バリア系によって得られ、それによって、質量要素は、通常厚層として設計される高密度の不浸透性材料によって形成され、ばね要素は、非圧縮のフェルトあるいは発泡体のような低密度材料の層によって形成される。
【0005】
「質量ばね」という名称は、「質量」および「ばね」と呼ばれる2つの要素の組み合わせによって遮音を提供するバリア系を定義するものとして、一般的に使用される。部品あるいは装置は、その物理的挙動が質量要素およびばね要素の組み合わせによって表現可能な場合、「質量ばね」として作用するといわれている。理想的な質量ばね系は、主に、結合された要素の機械的特性により、遮音材として機能する。
【0006】
質量ばね系は、通常、車両内で鋼層上に、ばね要素が鋼と接触した状態で設けられる。全体的に見た場合、完全系(質量ばね+鋼層)は、二重の壁の特性を有する。挿入損失は、質量ばね系が鋼層上に設けられた場合、鋼層自体によって提供される遮音とは無関係に、質量ばね系の作用がどのくらい有効であるかを示す量である。それゆえ、挿入損失は、質量ばね系の遮音性能を示す。
【0007】
質量ばね系を特徴付ける論理上の挿入損失曲線(dBで測定されたIL)は、特に、以下の特徴を有する。周波数範囲の大部分において、曲線は、周波数に伴ってほぼ線形に増加し、増加率は、約12dB/オクターブである。このような線形傾向は、入力音波に対する良好な遮音を保証するのに非常に有効であるとみなされる。このため、質量ばね系は自動車産業において広く用いられてきた。この傾向は、「質量ばね系の共振周波数」と呼ばれる所定の周波数値より上でのみ達成され、共振周波数では、系は遮音材として有効ではない。共振周波数は、主に、質量要素の質量に依存するとともに(質量が多いほど共振周波数は低い)、ばねの剛性に依存する(剛性が高いほど共振周波数は高い)。質量ばね系の共振周波数において、ばね要素は、下部構造の振動を質量要素に非常に効率的に伝達する。この周波数において、質量要素の振動は、下部構造の振動よりはるかに高いため、質量要素による放射ノイズは、質量ばね系がない場合の下部構造によって放射されるノイズよりはるかに高い。したがって、質量ばね系の共振周波数付近において、挿入損失(IL)曲線は最小値を有する。
【0008】
吸音系および遮音系の両方は、それ自体では、最適に機能する周波数帯域幅は小さい。一般的に、吸音材は高周波数においてより良く機能し、一方、遮音材は低周波数においてより良く機能する。さらに、両方の系は現代車両における使用には準最適である。遮音材の有効性は、その質量に大きく依存し、質量が高いほど遮音材の有効性は高い。一方、吸音材の有効性は、材料の厚さに大きく依存し、材料が厚いほど有効性は高い。しかしながら、厚さおよび質量の両方は、近年、次第に制限されてきている。例えば、質量は車両の燃費に影響を与え、材料の厚さは車両の空間に影響を与える。
【0009】
近年、旧知の質量ばね系の質量層すなわち厚層の質量は減少する傾向にあり、平均質量は、約3kg/m
2から約2kg/m
2に減少した。面積質量の減少は、従来技術で使用されていた材料の低下、それゆえ、コストの低下もまた意味する。質量を1kg/m
2まで低下させることは可能であり、市場には存在しているが、これを達成する技術は高価であり、特に、少量生産には難点がある。典型的な旧知の質量層は、EPDM、EVA、PU、PP等のような高充填の高密度材料からなる。これらの材料は高密度、通常1000kg/m
3超を有するため、低い面積質量を得るために、非常に薄い層を作製する必要がある。これは製造コストを増加させ、成形中に材料が裂けるといった製造上の問題を発生させうる。
【0010】
音響バリアの遮音性能は、音響透過損失TLによって評価される。透過するノイズ強度を減少させるための音響バリアの能力は、バリアを形成する材料の性質に依存する。音響バリアの音響透過損失TLを制御する重要な物理的特性は、コンポーネント層の単位体積あたりの質量である。最高の遮音性能にとって、質量ばね系の厚層は、平滑で高密度の表面を有しノイズ波の反射を最大にし、無孔構造および所定の材料剛性を有し、振動を最小にすることが多い。この観点から、薄いおよび/または多孔質構造の多数の織布は、遮音には理想的ではないと知られている。
【0011】
JP2001−310672は、2層の吸音層と、これらの間の音響反射薄膜層と、からなる多層構造を開示している。薄膜層は、上部の吸音層を透過した音を反射し、その吸音層に戻すので、多層構造の吸音効果を向上させる。この系は、薄膜の厚さおよび密度を最適化することによって調整可能である。
【0012】
JP2001−347899は、質量層の上部に追加の吸音層を設けた旧知の質量ばね系を開示している。追加の吸音層によって保証される防音の増加のおかげで、質量層の厚さおよび/または密度を減少させることができる。
【0013】
EP1428656は、発泡層と、繊維層と、これらの層の間の薄膜と、からなる多層構造を開示している。圧縮フェルトからなる繊維層は、吸音層として機能し、空気流抵抗AFRは500から2500Nsm
‐3であり、面積質量は200から1600g/m
2である。開示された発泡層は、低圧縮力偏差を有し、剛性は100から100000Paであり、デカップラとして通常使用されるフェルト層の剛性と同程度である。使用される薄膜は、好ましくは、孔が開いているか非常に薄いため、両方の吸音層の吸音に影響を与えない。薄膜は音響的に透明であるといわれ、音波は薄膜を通過する。この目的のため、開示された薄膜の厚さは、0.01mm以下の範囲である。
【0014】
通常、車室内の音圧レベルを低減するために、車両において、音響トリム部品によって提供される遮音と吸音のバランスがよいことが必要である。種々の部品が種々の機能を有する(例えば、遮音はダッシュ内部で提供可能であり、吸音はカーペットで提供可能である)。しかしながら、現在の傾向は、1つの領域で、音響関数のより洗練された細分化を達成し、広範囲の音響性能を最適化することにある。一例として、ダッシュ内部を2つの部分に分割し、一方は高い吸音を提供し、他方は高い遮音を提供する。一般的に、ダッシュの低い部分は遮音により適している。なぜなら、この低い領域を通ってエンジンおよび前輪から来るノイズは、より関連しているためである。一方、ダッシュの高い部分は吸音により適している。なぜなら、遮音は車の他の要素、例えば、計器パネルによってすでに提供されているためである。さらに、計器パネルの後ろ側は、計器パネル自体の後ろに隠れた上部ダッシュの部品を通って来る音波を反射する。これらの反射音波は、吸音材料を用いて効果的に低減することができる。車の他の音響部品に対しても、同様のことが考えられる。例えば、床に関して、遮音はフットウェル領域およびトンネル領域で主に使用され、一方、吸音は、前の座席の下部および後ろの床板で主に使用される。
【0015】
上述した理由のため、自動車メーカーは一般的にパッチ、例えば、局所的に適用される追加の材料を利用する(US2004/0150128)。US5922265は、追加の厚層材料をトリム部品の特定の領域に適用する方法を開示している。一方、厚層材料がない領域は吸音材として機能する。これらのハイブリッド型の製品は、吸音および遮音の解決法の組み合わせを得るために、面積質量の増加という欠点がある。また、労働力およびコストがかかる。さらに、音響質量ばね系用のデカップラとして使用される材料は、一般的に、吸音材として最適ではない。さらに、複数のタイプの材料を使用すると、部品および廃棄された材料のリサイクルがより困難になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
それゆえ、本発明の目的は、従来技術の問題点を解消し、車両内の防音に重要な周波数範囲にわたって遮音するトリム部品を提供することにあり、特に、音響質量ばね系で今日使用されているEPDM、EVA、PU、PPのような高充填の高密度材料からなる旧知の質量層に対する解決策を提供することにある。
【0017】
この目的は、請求項1のトリム部品によって達成される。主に吸音特性を有する少なくとも1つの領域(吸音領域)と、音響質量ばね特性を有する少なくとも1つの他の領域(遮音領域)と、の領域に分割された遮音トリム部品によって、複数の局所的要求がカバーされる。ここで、吸音領域は、少なくとも1つの多孔質繊維層を備え、遮音領域は、少なくとも1つの質量層と、デカップリング層と、を備えている。しかしながら、遮音領域の質量層は、薄い不浸透性バリア層と、吸音領域の多孔質繊維層と同一であるが、少なくとも96×AW×t(AW:繊維層の面積質量(g/m
2)、t:質繊維層の厚さ(mm))の動的ヤング率(Pa)に調節された多孔質繊維層と、を備える。これにより、バリア層は、多孔質繊維層とデカップリング層との間に配置され、全層はともに積層され、部品は複雑ではなくなる。同一の多孔質繊維層が両方の領域に用いられることによって、吸音領域の多孔質繊維層の厚さは、遮音領域の多孔質繊維層の厚さより大きくなる。
【0018】
質量層が従来の厚層からなり不浸透性である質量ばね系では、高い透過損失が予想される。不浸透性とは、空気が不浸透性であることを意味する。予想外なことに、吸音に通常使用されるのと同一の繊維層を用いた、薄い不浸透性バリア層の上部の多孔質繊維材料によって、質量ばね系用の質量層を形成可能であることが発見された。主に遮音特性が有効である両方の領域において層を局所的に調節することによって、1つの多孔質繊維層を、遮音および吸音の両方に用いることができる。しかしながら、満足できる遮音を得るためには、多孔質繊維材料の動的ヤング率を少なくとも96×AW×t(Pa)とし、このような多孔質繊維材料の放射周波数を少なくとも4900Hzとする必要があり、その結果、音響透過損失(TL)スペクトラムにおいて妨害となる周波数の下落(dip)なく、対象とする全周波数範囲にわたる良好な遮音性能を獲得することができる。
【0019】
冒頭で説明した質量ばね系の共振周波数と、本発明において説明した繊維質の上層の放射周波数と、は、種々の独立した影響をIL曲線に与える。両方は、本発明による多層のIL曲線に現れ、遮音性能に悪影響を与え、IL曲線に下落を発生させる。しかし、2つの下落は、通常、IL曲線の2つの別個の領域にて観察される。検討されているタイプの多層では、質量ばねの共振周波数は、通常、200から500Hzの範囲で観察され、多孔質繊維層の放射周波数は、1000Hz超で観察される。明確にするために、2つの異なる用語を使用して、2つの異なる周波数を区別する。
【0020】
本発明のトリム部品は、車内の防音を微調整するために、遮音領域および吸音領域の両方が必要であるという考えに基づいている。遮音領域および吸音領域の両方に対して、トリム部品の全領域にわたって、同一の多孔質繊維層を用いることによって、トリム部品において、好ましくは別個の領域における両方の機能を統合することができる。当業者は経験からどちらの領域がどの種類の遮音を必要とするかを知っており、この知識を使って部品を供給し、同時に材料の種類を減らし、必要に応じて部品を設計することができる。本発明のトリム部品は、少なくとも1つの吸音領域と遮音領域を有するが、音響機能(遮音あるいは吸音)ごとの領域の実際の数および/または領域の大きさは、部品および部品が用いられる位置に応じて異なり、実際の要求に依存している。
【0021】
吸音領域は、主に吸音材として機能し、悪い遮音性能を示すトリム部品の領域として定義される。
【0022】
遮音領域は、少なくとも良好な遮音材として機能する、トリム部品の領域として定義される。
【0023】
多孔質繊維層
フェルトや不織布のような多孔質繊維材料を吸音部品の作製に使用することは知られている。繊維層が厚いほど、吸音性能は向上する。質量ばね系においてこの種の材料を使用して、質量層を作製することは従来知られている。
【0024】
動的ヤング率は、多孔質繊維層の放射周波数と、E=AW×4tν
2という関係を有することが発見された。ここで、Eは動的ヤング率(Pa)、νは放射周波数(Hz)、AWは面積質量(kg/m
2)、tは厚さ(m)である。この関係によると、動的ヤング率の適正値は、対象の周波数範囲外の放射周波数を有するトリム部品の設計を可能にし、それゆえ、対象の周波数範囲の挿入損失を安定にすることができる。特に、動的ヤング率が、E
min=AW×4×t×ν
02、ν
0=4900Hzで定義される最小値より大きい場合、多孔質繊維層の放射周波数は、トリム部品の適用の周波数範囲より上に現れる。それゆえ、動的ヤング率は、AW(g/m
2)およびt(mm)を用いて、少なくとも96×AW×t(Pa)である。このことは、材料がこれ以上容易には圧縮されない高い動的ヤング率を与える。動的ヤング率が少なくとも96×AW×t(Pa)である多孔質繊維層と、デカップリング層と、多孔質繊維層とデカップリング層との間の不浸透性バリア層、例えば、不浸透性薄膜層と、を含み、全層が積層され1つの部品を形成するトリム部品は、音響質量ばね系として、それゆえ、遮音領域として機能する。多孔質繊維層は薄い不浸透性バリア層とともに、質量層の代替となり、通常使用される厚層材料の代わりになりうる。旧知の充填厚層材料を使用した質量ばね系と比較して、材料は安価であり、全体の部品はリサイクルが容易である。
【0025】
通常、繊維材料はブランクで、すなわち、繊維がともに集められた半仕上げの製品で製造される。ブランクは、均質であると適切に近似される。ブランクは、初期厚さを有する材料シートから構成され、面積質量に特徴を有している。なぜなら、繊維は領域に均一に分布されるためである。ブランクが、例えば圧縮により形成されると、最終形状が想定される。最終的に、ある厚さを有する層が得られる。面積質量、すなわち、単位面積当たりの材料の質量は、形成工程後維持される。同一のブランクから、圧縮のレベルに応じて、複数の最終的な厚さが得られる。
【0026】
繊維材料のヤング率は、複数のパラメータに依存する。第一は、材料の特性自体、すなわち、材料組成、繊維の種類と量、結合材の種類と量等である。さらに、繊維材料のヤング率は、同一の繊維処方に対して、層の厚さに関連する材料の密度に依存する。それゆえ、フェルトのある組成に対して、種々の厚さでヤング率を測定し、その結果として種々の値が想定され、厚さが減少すると通常増加する(同一の初期ブランクに対して)。
【0027】
数式96×AW×tで与えられる、多孔質繊維層の動的ヤング率が、車両内の防音に重要な周波数範囲にて質量として機能させるのに最小限必要な値より高い場合、多孔質繊維層が本発明に従って提供される。この条件が満足されると、薄い不浸透性バリア層の上に設けられた層は、剛体質量として機能し、本発明に従って最適の遮音性能を提供する。
【0028】
それゆえ、本発明に従って剛体質量として機能する多孔質繊維層の設計は、以下のステップを含む。
1.フェルトの組成および面積質量を選択する。
2.次に、材料を所定の厚さに形成する。
3.形成した材料の面積質量(AW、g/m
2)および厚さ(t、mm)を測定する。
4.形成したサンプルの、厚さtの位置でのヤング率を、Elwis‐Sを用いて測定する(測定ヤング率:E
meas)。
5.数式96×AW×tを用いて、必要最小限のヤング率(E
min)を計算する。AWは面積質量(g/m
2)、tは厚さ(mm)であり、両方はちょうど測定されたものである。
6.条件E
meas>E
minが満足しているかを検証する必要がある。
【0029】
条件が満足している場合、材料の選択は本発明に満足できるものであり、遮音の剛体質量として機能する繊維材料を、所定の厚さで使用することができる。条件が満足していない場合、選択を変更し、ステップ1から4のうちの1つから再スタートして反復しなければならない。ここで、パラメータ(フェルト組成および/または面積質量および/または厚さ)を変更しなければならない。
【0030】
多孔質繊維層は、任意の種類のフェルトとすることができる。多孔質繊維層は、天然繊維および/または合成繊維を含む熱成形可能な繊維材料から形成することができる。フェルトは、再生コットンのようなリサイクルされた材料や、ポリエステルのような他の再生繊維から作製されることが好ましい。
【0031】
繊維フェルト材料は、結合繊維、あるいは、樹脂材料、例えば、熱可塑性高分子の結合材料を含むことが好ましい。少なくとも30%のエポキシ樹脂、あるいは、少なくとも25%の複合結合繊維が好ましい。本発明の多孔質繊維層を達成する他の結合繊維あるいは結合材料も可能であり除外されない。
【0032】
面積質量が500から2000g/m
2であることが好ましく、800から1600g/m
2であることがさらに好ましい。
【0033】
さらなる制約は、通常、音響トリム部品が設置可能な車内の利用できる空間である。この制約は、通常、自動車メーカーによって与えられ、最大20から25mmの範囲である。トリム部品の全層は、この空間を共有する。それゆえ、好ましくは、遮音領域の多孔質繊維層の厚さは、1から10mmであり、デカップリング層に十分な空間を残す。吸音領域の多孔質繊維層の厚さは、基本的に、利用できる空間によって制限されるのみである。厚さは、領域にわたって、および、領域間で異なることができる。しかしながら、吸音領域の多孔質繊維層の厚さは、遮音領域より大きい。
【0034】
吸音領域の多孔質繊維層の空気流抵抗(AFR)は、300から3000Nsm
‐3であることが好ましく、400から1500Nsm
‐3であることがより好ましい。AFRが高いと吸音が良好である。しかしながら、AFRは厚さが増加すると減少するので、AFRは、8から12mmの厚さに対して400から1500Nsm
‐3であることが好ましい。吸音領域上に局所的に、あるいは、基本的にトリム部品の全体的に、追加の吸音層を追加すると、吸音性能をさらに向上することができる。これは、遮音領域では、吸音および遮音を組み合わせた領域を効果的に形成する。追加の層は、多孔質繊維層および/または追加のスクリム層に用いられているものと類似または同一のフェルト材料から形成することができる。
【0035】
吸音領域および遮音領域の隣に、中間領域もまた存在する。中間領域は、吸音領域と遮音領域との間の領域、あるいは、部品の縁の周辺の領域を形成する。これらの中間領域は、吸音領域あるいは遮音領域として特定することが簡単ではない。なぜなら、処理条件によって、厚さが変化する、すなわち、厚さが吸音領域の方向に増加し、それゆえ、良好な吸音材と悪くない遮音材との間の挙動を示すある種の中間領域を形成することになるためである。
【0036】
他の種類の中間領域は、車内の利用できる空間に適合しなければならない部品の三次元形状に従い、局所的に存在しうる。従来技術では、高圧縮領域が、ケーブルあるいは装着具用に必要な、トリム部品の穴の周囲に存在する。穴という音響的な弱点が、穴の付近における遮音特性を低下させるため、これらの高圧縮領域は、通常、遮音に使用されない。
【0037】
薄いバリア層
少なくとも1つまたは複数の遮音領域は、薄いバリア層を含む。この薄いバリア層は、多孔質繊維層とデカップリング層との間に設けられ、空気が不浸透性でなければならない。しかしながら、薄いバリア層は、旧知の質量ばね系において通常見られる厚層バリアのように、質量ばね系の質量要素の機能をそれ自体では有していない。このような機能は、多孔質繊維層と薄いバリア層との組み合わせによってのみ達成される。薄いバリア層が空気不浸透性の場合にのみ、薄いバリア層と組み合わせた多孔質繊維層は、旧知の質量ばね系用の質量層として、本発明にしたがって機能する。薄膜が実施形態で与えられるが、代替の空気が不浸透の薄い材料を用いることができる。
【0038】
薄膜が薄いバリア層として用いられる場合、薄膜の厚さは少なくとも40μmであることが好ましく、約60から80μmであることがより好ましい。より薄い薄膜も機能するが、実際には、機能を追加せず、部品の値段を上げるだけである。さらに、より薄い薄膜は、フェルトの作製と干渉するおそれがある。
【0039】
薄いバリア層、特に、薄膜は、熱可塑性材料、例えば、PVOH、PET、EVA、PE、PPや、二重層材料、例えば、PE/PAの積層箔から作製することができる。バリア材料の選択は、多孔質繊維層およびデカップリング層に依存し、全層をともに結合する積層体を形成することができなければならない。また、接着剤として用いられる材料は、薄膜あるいは粉末とすることができる。しかしながら、トリム部品の結合後および/または形成後、形成されたバリア層は、最終製品において空気に対して不浸透性でなければならない。
【0040】
薄いバリア層は、吸音領域および/または中間領域にも存在する必要はかならずしもないが、製造を容易にするために推奨される。
【0041】
デカップリング層
デカップリング層として、旧知の音響質量ばね系のばね層に使用された通常の材料を、本発明のトリム部品の少なくとも遮音領域では、同一の原理に従って用いることができる。デカップリング層は、クローズタイプおよびオープンタイプを含め、任意のタイプの熱可塑性および熱硬化性の発泡体、例えば、ポリウレタンフォームから形成することができる。デカップリング層は、繊維材料、例えば、天然繊維および/または合成繊維を含む熱成形可能な繊維材料から形成することもできる。デカップリング層は、100kPa未満の非常に低い圧縮剛性を有することが好ましい。デカップリング層は、多孔質あるいはオープンな有孔性であり、ばね効果を高めることが好ましい。最適な効果を得るために、原則として、デカップリング層は、薄膜層に、遮音領域における部品の全表面にわたって貼り付けられるべきであるが、製造技術により、非常に局所的にしか貼り付けられない場合があってもよい。部品の遮音領域は、音響質量ばね系全体として機能すべきであるので、デカップリング層が結合していない小さい局所的な領域は、全体的な防音効果を害することはない。
【0042】
デカップリング層の厚さを最適化することができるが、厚さは車内の空間的制約に大きく依存する。厚さは、部品の領域にわたって変化して、車内の利用可能な空間に合わせられることが好ましい。厚さは、通常、1から100mmであり、大部分の領域で5から20mmである。
【0043】
追加の層
本発明のトリム部品は、遮音領域では少なくとも3層を有し、吸音領域では少なくとも1層の多孔質繊維層を有することによって、吸音領域のその少なくとも1層は共通の層となる。ばね質量系として最適に機能するために、遮音領域の少なくとも3層はともに積層される。しかしながら、多孔質繊維層上に、吸音品質を有する追加の層を、ある種の領域上に局所的に、あるいは、トリム部品上に全体的に、さらに追加することによって、部品を最適化することができる。追加の層の面積質量は、500から2000g/m
2であることが好ましい。
【0044】
吸音層は、任意のタイプの熱可塑性および熱硬化性の発泡体、例えば、ポリウレタンフォームから形成することができる。しかしながら、吸音目的のために、発泡体はオープンな有孔性および/または多孔質であり、従来知られている吸音の原則に従って音波の入力を可能にしなければならない。吸音層は、繊維材料、例えば、天然繊維および/または合成繊維を含む熱成形可能な繊維材料から形成することもできる。吸音層は、多孔質繊維質量層と同一の種類の材料から形成することができるが、より上位(loftier)である。吸音層の空気流抵抗AFRは、少なくとも500Nsm
‐3であることが好ましく、500から2500Nsm
‐3であることがより好ましい。好ましくは、AFRは、多孔質繊維層のAFRと異なる。
【0045】
また、追加のスクリムを、吸音材料または多孔質繊維層の上部に設け、吸音性能をさらに直接的に高め、例えば、水等に対して下部の層を保護することもできる。スクリムは、薄い不織布であり、厚さは0.1から約1mmであり、好ましくは0.25から0.5mmであり、空気流抵抗を増加させる。スクリムの空気流抵抗AFRは、500から3000Nsm
‐3であることが好ましく、1000から1500Nsm
‐3であることがさらに好ましい。それによって、スクリムと下部の吸音層とは、AFRが異なり、吸音性能を向上させることができる。
【0046】
スクリム層の面積質量は、50から250g/m
2であり、80から150g/m
2であることが好ましい。
【0047】
スクリムは、連続繊維、短繊維(ステープルファイバ)、繊維混合物から作製することができる。繊維は、メルトブロー法あるいはスパンボンド法によって作製可能である。それらは天然繊維と混合することもできる。スクリムは、例えば、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、繊維混合物、例えば、ポリエステルとセルロースの混合物、ポリアミドとポリエチレンの混合物、ポリプロピレンとポリエチレンの混合物から作製される。
【0048】
本発明の特徴は、添付図面を参照して、以下の好適実施形態を非制限的な令として用いて説明することにより、明らかになる。
【0049】
製造方法
本発明のトリム部品は、従来一般的に知られている冷間成形法および/または熱間成形法を用いて製造可能である。例えば、薄いバリア層の有り無しの多孔質繊維層を形成し、遮音領域における所望の動的ヤング率を得るとともに、同時に、必要な3D形状での部品を形成することができる。次のステップとして、デカップリング層を射出成形で成形可能であり、発泡層あるいは繊維層を、少なくとも遮音領域における薄いバリア層の後ろ側に追加することができる。
【0050】
機械的剛性および圧縮剛性の定義ならびに測定
機械的剛性は、材料(材料層)が外部応力の励起(excitation)に与える反応に関連している。圧縮剛性は、圧縮励起に関連し、曲げ剛性は、曲げ励起に関連している。曲げ剛性は、与えられた曲げモーメントを結果として生ずる偏位に関連付ける。一方、圧縮剛性および垂直剛性は、与えられた垂直抗力を結果として生ずる歪に関連付ける。等方性材料から作製された均質平板にとって、それは、材料の弾性率Eおよび平板の表面Aを有する製品である。
【0051】
等方性材料から作製された平板では、圧縮剛性および曲げ剛性の両方は、材料のヤング率に直接関連し、一方を他方から計算することができる。しかしながら、材料が非等方性の場合、大部分のフェルトはそうであるが、曲げ剛性は面内材料のヤング率に主に関連し、圧縮剛性は面外ヤング率に主に関連するため、説明した関係はもはや適用されない。それゆえ、一方を他方から計算することができない。さらに、圧縮剛性および曲げ剛性の両方は、静的状態あるいは動的状態において測定可能であり、原則として、静的状態および動的状態において異なる。
【0052】
材料層の放射は、その面に直交する方向に層が振動することに起因し、材料の動的圧縮剛性に主に関連している。多孔質材料の動的ヤング率は、リーターオートモーティブAG社が市販している装置「Elwis‐S」によって測定され、サンプルは圧縮応力によって励起される。Elwis‐Sを用いた測定は、例えば、BERTOLINI等による以下の文献に記載されている。
【0053】
「Transfer function based method to identify frequency dependent Young's modulus, Poisson's ratio and damping loss factor of poroelastic materials」Symposium on acoustics of poro-elastic materials (SAPEM), Bradford, Dec. 2008
【0054】
この種の測定は一般的に多孔質材料にはまだ使用されていないので、公式なNEN基準あるいはISO基準は存在しない。しかしながら、他の類似の測定システムが、詳細には、LANGLOIS等による以下の文献に記載された類似の物理的原理に基づいて知られており、使用されている。
【0055】
「Polynomial relations for quasi-static mechanical characterization of isotropic poroelastic materials」J. Acoustical Soc. Am. 2001, vol.10, no.6, p.3032‐3040
【0056】
静的方法で測定されたヤング率と、動的方法で測定されたヤング率と、の間の直接的な相関関係は、単純ではなく、大部分の場合無意味である。なぜなら、動的ヤング率は、所定の周波数範囲(例えば、300〜600Hz)にわたって測定され、静的ヤング率の値は、0Hzの制限された場合に対応し、動的測定から直接得られないためである。
【0057】
本発明では、圧縮剛性は重要であり、従来技術で通常使用される機械的剛性は重要ではない。
【0058】
その他の測定
空気流抵抗は、ISO9053に準拠して測定された。
【0059】
面積質量および厚さは、従来知られている標準的な方法で測定された。
【0060】
構造の透過損失TLは、遮音の基準である。透過損失は、デシベルで表現され、構造に入射する音響出力と、構造を透過して受信側に伝達される音響出力と、の比として定義される。音響部品を備えた自動車構造の場合、透過損失は、部品の存在だけではなく、部品が設けられる鋼構造にも依存する。自動車の音響部品の吸音特性を、部品が設けられる鋼構造とは無関係に評価することが重要であるので、挿入損失が導入される。構造上に設けられる音響部品の挿入損失IL
partは、音響部品を備えた構造の透過損失TL
part+steelと、構造だけの透過損失TL
steelと、の差として以下のように定義される。
【0061】
【数1】
【0062】
挿入損失および吸音係数はSISABを使用してシミュレーションした。SISABとは、伝達行列法に基づいた、音響部品の音響性能の計算用の数値シミュレーションソフトウェアである。伝達行列法は、層状媒体中の音響伝播をシミュレーションするための方法であり、例えば、BROUARD B.等による以下の文献に記載されている。
【0063】
「A general method for modelling sound propagation in layered media」Journal of Sound and Vibration. 1995, vol.193, no.1, p.129‐142
【実施例】
【0065】
図1は、比較例サンプルA、Bおよび発明例サンプルCの挿入損失曲線を示す。シミュレーションされた挿入損失は、多層および鋼平板によって構成された系の透過損失であり、鋼平板自体の透過損失がマイナスされている。
【0066】
従来の複数の防音多層構造の挿入損失および吸音特性を、測定された材料パラメータを用いてシミュレーションし、本発明の防音多層の挿入損失および吸音特性と比較した。全サンプルは同一の全体的な厚さ25mmを有している。
【0067】
比較例サンプルAは、1kg/m
2のEPDM厚層材料から形成された質量層と、デカップリング層としての注入された発泡体と、有する旧知の質量ばね系である。サンプルAの全面積質量は2370g/m
2であった。
【0068】
比較例サンプルBは、EP1428656の原理に従って作製される。EP1428656は、発泡体のデカップリング層と、上部の繊維層と、その両方の間の薄膜と、からなる多層構造を開示している。上部の繊維層は柔軟なエアレイド(air-laid)フェルト層であり、その面積質量は1000g/m
2、厚さは6mm、AFRは1000Nsm
‐3である。この多層の全面積質量は2150g/m
2である。繊維層の動的ヤング率は測定され、約70000Paであった。与えられた方程式によると、この繊維層は1700Hz周辺の放射周波数を有する。使用された薄膜は0.06mmであり、不浸透性である。デカップリング層は発泡体が注入され、面積質量は1100g/m
2である。
【0069】
発明例サンプルCは本発明に従って作製され、比較例サンプルBと同一のデカップリング層および薄膜層を含む。薄膜層の上部の多孔質繊維層は、圧縮された硬いフェルト層から作製され、面積質量は900g/m
2、厚さは3mm、動的ヤング率は550000Paである。与えられた方程式によると、この多孔質繊維層は7100Hz周辺の放射周波数を有する。
【0070】
サンプルAは旧知の質量ばね系であり、厚層の面積質量は1kg/m
2である。遮音性能は、広い周波数範囲にわたって高いため、サンプルAは車内の防音に用いるのに好ましい系である。しかしながら、この系は重過ぎる。さらに、厚層に通常使用される材料は、この場合EPDMでありリサイクルが困難である。全体的な防音の観点から、旧知の質量ばね系Aは依然として優れている。なぜなら、比較例サンプルBでは、上部のフェルト層が約1700Hzの放射周波数を有し、多層の遮音特性を低下させているためである。このことは、
図1のIL曲線から見て取れる。比較例サンプルBでは、1600Hzを中心とした1/3オクターブ周波数帯に下落が見られ、これは、サンプルBに使用された上部のフェルト層の放射周波数を含む周波数帯である。
【0071】
上部の多孔質繊維層を構成する材料の動的剛性を増加することによって、特に、この層の面外方向の圧縮剛性を増加することによって、この層の放射周波数をより高い周波数にシフトすることができる。
【0072】
ノイズが減衰されるべき周波数範囲の外側に、この層の放射周波数が存在するように、遮音領域の多孔質繊維層を構成する繊維材料の動的ヤング率を選択することによって、この層は、薄いバリア層の上部に設けられた際、所望の周波数範囲にわたって、質量ばね系の質量層としての挙動を示す。
【0073】
発明例サンプルCは、例えば、薄膜層の上部に、圧縮された硬いフェルト層から作製された多孔質繊維層を有し、その面積質量は900g/m
2、厚さは3mm、動的ヤング率は550000Paである。発明例サンプルCは、1kg/m
2の厚層を有する旧知の質量ばね系である比較例サンプルAに匹敵するかむしろより良い挿入損失を示す。また、放射周波数は、挿入損失曲線の6300Hzでの1/3オクターブバンドに下落が現れるだけである。これは、車両内防音に通常考慮される周波数範囲よりはるかに高い
少なくとも96×AW×tの動的ヤング率(Pa)を有する多孔質繊維層に結合された薄いバリア層が、旧知の音響質量ばね系の質量層を形成することができるという効果は、多孔質繊維層の圧縮に依存するだけではない。それは、このような多孔質繊維層に用いられる材料の種類にも依存し、材料コンポーネント間、例えば、繊維間あるいは樹脂と繊維との間の結合材の量にも依存する。それゆえ、方程式は、本発明に従ってどのようにトリム部品を設計するかに関する単なる指針である。しかしながら、多孔質繊維層の放射周波数が実際に発生する実際の周波数は、計算値から逸脱しうるが、少なくとも4900Hzより高い範囲に現れる限り、車両内で必要とされ最も希求される防音と干渉することはない。その他の用途では、必要な最小の動的ヤング率は異なるが、当業者は本発明の指針に従って方程式を調節することができるであろう。
【0074】
従来提供されている、トリム部品の防音の最適化は全て、少なくとも吸音層の空気流抵抗を規定すること対象としている。本発明のトリム部品では、一般的には放射、特には、上部の多孔質繊維層の放射周波数が空気流抵抗に大きく依存しないということが発見された。空気流抵抗は、測定された全周波数にわたって、透過損失の傾きに主に減衰の影響を有することが発見された。減衰効果は、増加した空気流抵抗を伴ってより大きくなる。
【0075】
図2は、遮音および吸音を最適に折衷するために、異なる音響機能を有する2つの別個の領域を備えた内部ダッシュ部品の一例を示す。エンジンおよび前輪から下部領域を通って来るノイズ経路はより関連しているため、一般的に、内部ダッシュの下部(I)は遮音により適している。他の要素、例えば、計器パネルによってすでにある程度遮音されているため、ダッシュの上部(II)は吸音により適している。これらの領域の間では、荷物空間が最小の領域、あるいは、大きく三次元形状の領域では、例えば、デカップリング層の損傷あるいは吸音層として機能すべき上位の(lofty)層の圧縮によって、通常実際の音響特性を特定することは不可能である。異なる防音特性(遮音あるいは吸音)を有する十分に定義された領域が必要な内部ダッシュは、ここで示されるように、通常、1つではなく2つの部品として形成される。他の選択肢は、追加の厚層パッド、一般的には発泡体を吸音材料の上部に設け、局所的な質量ばね系を得ることである。
【0076】
全体的に良好な防音を達成するために、内部ダッシュトリム部品全体は複数の特徴的な領域を有することができる。1つの遮音領域(I)は、薄い不浸透性バリア層と多孔質繊維層との組み合わせによって形成され、動的ヤング率は、本発明に従って、代替の質量層をともに形成するように調節される。もう1つの吸音領域(II)は、同一の多孔質繊維層であるが、遮音用に調節されていないため、硬くない多孔質繊維層によって形成される。それゆえ、内部ダッシュにおけるトリム部品の領域(I)は、本発明に従って、代替の質量ばね系を含む。領域(II)は、一般的な既知の吸音材として機能する硬くない多孔質繊維層を含む。
【0077】
図3は、本発明による多層の断面を概略的に示す。本発明による多層は、遮音特性を有し、以下では遮音領域と称する少なくとも1つの領域(I)と、吸音特性を有し、以下では吸音領域と称する領域(II)と、を含む。部品上の領域の位置は、部品が用いられる車両の領域や、その特定の領域における期待されるノイズレベルおよび周波数特性に依存する(一例として、上述した内部ダッシュを参照)。
【0078】
遮音領域(I)および吸音領域(II)は、少なくとも同一の多孔質繊維層1を有するので、遮音領域のこの層は圧縮されて硬い層1を形成し、この多孔質繊維層の動的ヤング率は、少なくとも96×AW×tである。ただし、AWは繊維層の面積質量(g/m
2)であり、tは繊維層の厚さである。
【0079】
本発明では、遮音特性は、薄いバリア層2と多孔質繊維層1とからなる質量層Aと、デカップリング層3からなるばね層Bと、によって与えられ、質量層Aとばね層Bとはともに音響質量ばね系を形成している。それゆえ、領域(I)は、遮音性能が主に期待される。
【0080】
領域(II)では、多孔質繊維層1は圧縮されず、上位に(lofty)保たれ、この領域の吸音特性を可能にする。追加のスクリム層4を、吸音層4の上部に設け、吸音効果をさらに高めることが好ましい。
【0081】
図4は、
図3と同一の原理に基づき、本発明に従う他の多層を示す。差異は、追加の薄いバリア層およびデカップリング層が下部で圧縮され、より平坦な部分を形成していることである。応用では、部品は
図3と
図4にわたって交差され、特に、自動車のトリム部品の形状は、通常三次元形状であり、これもまた層の最終的な設計に影響する。また、遮音領域と吸音領域との間に、明らかな境界線がなく、むしろ中間領域が存在する。
【0082】
図3および
図4に従う多層構造(スクリム層なし)に関して、挿入損失および吸音曲線がシミュレーションされ、異なる層の特徴が、
図5および
図6に示される。
【0083】
吸音領域(II)は、30%のエポキシ結合材を有するコットン系フェルトの形態の多孔質繊維層からなり、厚さは20mmであり、面積質量は1100g/m
2である。シミュレーションされた吸音と遮音は吸音領域を表すABSで示されている。
【0084】
遮音領域は、同一の多孔質繊維層と、薄膜層と、発泡体のデカップリング層と、を含み、多孔質繊維層は、2.7mmに圧縮され、本発明の動的ヤング率の要求に従う。遮音層の全体的な厚さは20mmである。シミュレーションされた吸音および遮音は、遮音領域を表すINSで示されている。
【0085】
挿入損失(
図5)から、共振の下落(dip)は,約6300Hzのみに現れ、それゆえ請求項の範囲内であるということが明らかである。全体的な挿入損失の増加もまた観察され、このような遮音領域を有する部品の遮音特性を向上させている。吸音領域に関しては、ばねとして機能する材料が存在せず、この場合、挿入損失曲線は、全周波数範囲にわたってゼロに近い値を示す。
【0086】
吸音曲線(
図6)から、遮音領域の吸音は低く、吸音領域の吸音は期待よりはるかに高いことが明らかである。吸音の観点から、ここで吸音領域に関してシミュレーションされたような純粋な吸音材が、最良に機能する。
【0087】
しかしながら、遮音領域および吸音領域の両方に共通するトリム部品を有することは、部品の全体的な防音性能を向上する。特に、なぜなら、同一のトリム部品上で、領域が所定の種類の防音(遮音あるいは吸音)に貢献することは、あらかじめ定義され、追加のパッチあるいは他の材料を必要とせずに、局所的に形成可能であるためである。このことは、複数の音響特性が複数の部品領域で要求される場合であっても、カーペットあるいは内部ダッシュ遮音材のような大きいトリム部品が、1つの部品で作製可能であるということもまた意味する。
【0088】
図7は、本発明に従う、薄膜およびデカップラが、吸音領域を含み、部品の全表面にわたって適用された他の層を示す。しかしながら、これは部品の挙動、特に
図8および
図9に見られるように、遮音特性を変更する。この例では、多層は、全厚みが25mmであり、多孔質繊維層は、結合材として、30%のエポキシ樹脂を有するコットンフェルトから作製され、面積質量は1100g/m
2である。このような多孔質繊維層の厚さは、遮音領域では2.7mmに調節され、吸音領域では17.3mmに調節され、多孔質繊維層の下部には不浸透性の薄膜と発泡体のデカップラが形成されている(吸収領域および遮音領域の両方)。ここで、両領域の全厚さが25mmになるように、発泡体の厚さは調節される。吸音領域は、質量ばね系として機能し始めるが、その挿入損失曲線は約1000Hzおよび約1600Hzに遮音下落が見られ、所望の周波数範囲における防音を妨げる。一方、遮音領域に対する下落は約6300Hzであり、以前のサンプル(
図5)に匹敵する。しかしながら、同一のサンプルに対して、吸音領域に対して見られる吸音曲線は、自身の放射周波数のために、わずかに低下している。この解決法は以前の設計と比較すると音響的に不利な点を有しているが、従来技術と比較すると、依然として有利である。発泡体層をトリム部品の全領域にわたって使用すると、特に発泡体を射出成形した場合、局所的にのみ適用した発泡体と比較してより平滑な部品を形成する。
【0089】
他の代替の解決法は、薄いバリア層を遮音領域にのみ設け、デカップラを全表面に設けることであり、これにより、薄いバリア層を有さない領域では、デカップラが多孔質繊維層とともに二重の吸音層として機能する。
【0090】
遮音領域および/または吸音領域の全体的な機能を向上するために、追加の吸収材料を、多孔質繊維層の上部に設けることができる。また、不織布4を使用すると、トリム部品の吸音特性を向上する。
【0091】
薄いバリア層は、少なくとも96×AW×tの動的ヤング率(Pa)を有する多孔質繊維層とともに、旧知の音響質量ばね系に匹敵する特性を有する質量層を形成することができるという効果は、フェルトの圧縮に依存するだけではない。それは、用いられる材料の種類にも依存し、材料コンポーネント間、例えば、繊維間あるいは樹脂と繊維との間の結合材の量にも依存する。それゆえ、方程式は、本発明に従ってどのようにトリム部品を設計するかに関する単なる指針である。しかしながら、放射周波数が実際に発生する実際の周波数は、計算値から逸脱しうるが、少なくとも4900Hzより高い範囲に現れる限り、車両内で必要とされ最も希求される防音と干渉することはない。その他の用途では、必要な最小の動的ヤング率は異なるが、当業者は本発明の指針に従って方程式を調節することができるであろう。
【0092】
従来提供されている、トリム部品の防音の最適化は全て、少なくとも上部の層、すなわち、吸音層の空気流抵抗を規定すること対象としている。本発明のトリム部品では、上部の多孔質繊維層の放射周波数が空気流抵抗に大きく依存しないということが発見された。空気流抵抗は、測定された全周波数にわたって、挿入損失の傾きに主に減衰の影響を有することが発見された。減衰効果は、増加した空気流抵抗を伴ってより大きくなる。
【0093】
以下では、本発明に従って、どのように当業者が方程式を利用し、トリム部品を設計するのかに関する一例が与えられる。
図10は、本発明の遮音質量層について、動的ヤング率対厚さのグラフを示す。この場合、フェノール樹脂を有する再生コットンから主に作製されたフェルト層が用いられた。この材料は、最近までデカップラあるいは吸音層として、主に多層構造において使用されていた。今日、フェノールの結合材は、車内の蒸気の規制により、車両の内部部品にはもはや適用することができない。しかしながら、この材料は、車外の部品、エンジン室領域、トラックには依然として使用することができる。ここでは、この材料は、制限されたサンプルではなく、本発明に従って材料を設計する方法を示す一例として選択される。
【0094】
図10において、線L1000gsmは、層の厚さの関数として、本発明に従って、面積質量が1000g/m
2である多孔質繊維層が有するべき最小の動的ヤング率を示す。これは、数式E=AW×4tν
2(ν=4900Hz)を用いて計算され、
図10に直線として示されている。同図中の線L1200gsm、L1400gsm、L1600gsmは、面積質量が1200、1400、1600g/m
2である場合の同様のデータを示す。所定の厚さおよびこれらの面積質量のうちの1つを有する多孔質繊維層の動的ヤング率は、その面積質量に対応する線上に存在するはずであり、層の放射周波数は少なくとも4900Hzに、すなわち、車両内の防音の対象となる周波数範囲外にシフトされる。
【0095】
図10において、線A1000gsmは、層の厚さの関数として、測定された主にコットンフェルト層の動的ヤング率を示す。ここで、コットンフェルト層は、30%フェノール樹脂を含み、面積質量は1000g/m
2である。同図中、線A1200gsmおよびA1600gsmは、それぞれ、面積質量が1200g/m
2と1600g/m
2に対して同様のデータを示す。所定の点にて、動的ヤング率が測定され、これらの測定から、上述した挙動は推定された。この材料は、動的ヤング率の急激な増加を示し、面積質量が1000g/m
2、厚さが約8mmにおいて、4900Hzより高い放射周波数をすでに示している。しかしながら、空間の制約により、この厚さは、車内の例えば、内部ダッシュでは好ましくない。論理的には、はるかに低い密度で適切な動的ヤング率を達成することが可能ではあるが、トリム部品の多孔質繊維層の質量は、部品が良好な遮音部品として機能するのを保証するのに十分ではない。
【0096】
図10において、線B1200gsmは、層の厚さの関数として、測定された主にコットンフェルト層材料の動的ヤング率を示す。ここで、コットンフェルト層材料は、30%のエポキシ樹脂を含み、面積質量は1200g/m
2である。線B1600gsmは、面積質量が1600g/m
2の場合に対して同様のデータを示す。所定の点にて、動的ヤング率が測定され、これらの測定から、上述した挙動は推定された。これらのデータを、上述したフェノール樹脂フェルトのデータと比較すると、結合材料が材料の圧縮剛性に影響を与え、それゆえ、所定の面積質量および厚さにおける動的ヤング率に影響を与えるということが明らかである。
【0097】
線C1400gsmは、層の厚さの関数として、測定された主にコットンフェルト層材料の動的ヤング率を示す。ここで、コットンフェルト層材料は、15%の複合結合繊維に結合され、面積質量は1400g/m
2である。所定の点にて、動的ヤング率が測定され、これらの測定から、上述した挙動は推定された。
【0098】
サンプルの第2セットにおいて、結合材料の影響、特に、結合材料の種類と量がより詳細に観察される。
【0099】
30%のエポキシ樹脂を含むコットンフェルトのサンプルEPOXY30%(面積質量:1090g/m
2、厚さ:2.7mm)は、動的ヤング率が5.55E5(Pa)であると測定され、それゆえ、本発明に従って計算された所望のヤング率より高い。
【0100】
20%のエポキシ樹脂を含むコットンフェルトのサンプルEPOXY20%(面積質量:1450g/m
2、厚さ:4mm)は、動的ヤング率が2.2E5(Pa)であると測定され、それゆえ、本発明に従って計算された所望のヤング率よりはるかに低い。
【0101】
25%の複合結合繊維を含むコットンフェルトのサンプルBICO25%(面積質量:1040g/m
2、厚さ:2.1mm)は、動的ヤング率が5.08E5(Pa)であると測定され、それゆえ、本発明に従って計算された所望のヤング率よりはるかに高い。
【0102】
15%の複合結合繊維を含むコットンフェルトのサンプルBICO15%(面積質量:1280g/m
2、厚さ:4mm)は、動的ヤング率が9.91E4(Pa)であると測定され、それゆえ、本発明に従って計算された所望のヤング率よりはるかに低い。
【0103】
これらのサンプルに対して、さらに、挿入損失をシミュレーションした。
図11は、サンプルのシミュレーションされた挿入損失を、25mmの厚さのサンプルと比較して示す。25mmの厚さのサンプルは、定義された上層と、70μmの薄膜と、を有し、残りの厚さをデカップラとしての発泡体がカバーしている。
【0104】
サンプルA、すなわち、上述した、厚層に対する面積質量が1kg/m
2である旧知の質量ばね系の遮音曲線もまた、ここで、参考のサンプルとして用いられる。
【0105】
サンプルの上部の多孔質繊維層に対する、測定および計算された放射周波数は、IL曲線において下落Dが見られる。サンプルEPOXY25%およびBICO15%に対して、放射周波数は、3150Hz(D2)および1600Hz(D1)に見られ、両方とも車内の防音の対象とする範囲に入っている。EPOXY30%およびBICO20%の放射周波数は、ともに、約6300Hz(D3およびD4)に見られ、自動車産業の対象となる範囲外である。
【0106】
驚くべきことに、遮音効果は、上層のAFRに大きく関連しないということが得られた。例えば、自動車用途の対象となる周波数範囲における下落なしに、一定の遮音効果を得るための要因は、上層のヤング率であることが本発明によって見出された。
【0107】
上層の厚さが変化すると、AFRおよびヤング率の両方が変化し、一般的に、上層の厚さが減少すると、AFRおよびヤング率の両方は増加する。これらのパラメータの各値は、材料の特性に関連している。AFRおよびヤング率は、多孔質材料の他の音響的および機械的パラメータと同様に、厚さだけの関数ではない。
【0108】
一例として、同一の厚さを有する2つの比較例のフェルト材料のAFRを比較する。自動車用途で通常使用される「エアレイド(air laid)」フェルト(面積質量:1000g/m
2)は、約2.5mmで3200Nsm
‐3のAFRを示す。厚さが6mmの同一材料は、1050Nsm
‐3のAFRを示す。比較として、自動車用途で通常使用される「ニードルド(needled)」フェルト(面積質量はほぼ同一の1000g/m
2)は、約6mmで220Nsm
‐3のAFRを示す。同一の厚さで、2つの材料は異なるAFRを有する。2つのフェルトは、材料層を形成するための繊維の処理方法が主に異なり、これがAFRに影響を与える。
【0109】
ヤング率に関する同一の考察を適用する。すべての材料に関して、厚さが減少すると、ヤング率は増加する。しかしながら、同一の厚さの2つの異なる材料は、必ずしも同一のヤング率を有するわけではなく、主に、組成および製造方法に依存して、大きく異なるヤング率によって特徴付けられることもある。
【0110】
さらに、AFRおよびヤング率は独立したパラメータであり、AFRは材料の音響特性に関連し、ヤング率は材料の機械特性に関連する。一例として、同一のAFR(例えば、材料中の繊維の類似の分布に関連する)を有する2つの材料は、異なるヤング率(例えば、材料中の結合材の異なる量に関連する)を有し、それゆえ異なる性能(例えば、
図10および
図11参照)を有することがありうる。
【0111】
例示された材料から分かるように、ある材料は本発明の質量層を形成するのに適していない。なぜなら、それらは、達成不可能な厚さに、あるいは、極端に高圧力で圧縮されなければならず、工程の費用効率を良くすることがもはやできないためである。しかしながら、結合材料対繊維材料の比、使用する結合材料、面積質量、厚さを調整することにより、材料を、本発明の多孔質繊維質量層として使用するのに適切に設計することができる。
【0112】
本発明の遮音トリム部品では、ある領域が吸音に貢献し、他の領域が遮音に貢献することによって、両方の領域が同一の多孔質繊維層を共有する。この遮音トリム部品は、上述したように、車内で、例えば、内部ダッシュとして用いられる。しかしながら、遮音トリム部品を、最終的に装飾層およびカーペット層を上部に備える床仕上げ材として用いることもできる。この場合、カーペット層は好ましくは多孔質系、例えば、房状のカーペットあるいは不織布カーペットである。遮音トリム部品を、外部あるいは内部のホイールライナーに用いることもできる。全用途は乗用車あるいはトラックのような車両内において可能である。