(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769748
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ネットワーク通信装置、ファクシミリ装置
(51)【国際特許分類】
H04N 1/32 20060101AFI20150806BHJP
H04N 1/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
H04N1/32 Z
H04N1/00 107Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-64739(P2013-64739)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-192604(P2014-192604A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和紀
【審査官】
西谷 憲人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−077563(JP,A)
【文献】
特開2005−039488(JP,A)
【文献】
特開2005−086397(JP,A)
【文献】
特開2005−094213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/32
H04N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UDPに基づく伝送制御方式にしたがってIPネットワークを介して送られてきたパケットデータを受信するネットワーク通信装置であって、
複数の前記パケットデータを連続して受信する連続受信手順において受信した前記パケットデータに付加された1つ又は複数の冗長パケットに前記連続受信手順において最終手順で受信されるべき最終制御信号が含まれているか否かを判定する最終制御信号判定手段と、
前記最終制御信号判定手段によって前記冗長パケットに前記最終制御信号が含まれていると判定された場合に、前記最終制御信号を当該ネットワーク通信装置における処理対象から除外する処理対象除外手段と、を具備するネットワーク通信装置。
【請求項2】
受信順位を示す順位情報が付された複数の冗長パケットが前記パケットデータに付加されている場合に、前記処理対象除外手段は、前記最終制御信号判定手段によって前記最終制御信号が含まれていると判定された前記冗長パケット及び該冗長パケットよりも前記受信順位が上位の前記冗長パケットを当該ネットワーク通信装置における処理対象から除外する請求項1に記載のネットワーク通信装置。
【請求項3】
前記最終制御信号判定手段は、前記最終制御信号を示す識別情報が前記冗長パケットに含まれている場合に、前記最終制御信号が前記冗長パケットに含まれていると判定する請求項1または2に記載のネットワーク通信装置。
【請求項4】
前記識別情報は、前記冗長パケットに定められたコントロールフィールドに記された前記最終制御信号を示すビット情報、又は前記最終制御信号を示すHDLC−FCS−OK−Sig−Endである請求項3に記載のネットワーク通信装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のネットワーク通信装置を備え、IPネットワークを介してリアルタイムに伝送された画像情報を受信するファクシミリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UDPに基づく伝送制御方式にしたがってIPネットワークを介して送られてきたパケットデータを受信するネットワーク通信装置及びこれを備えたファクシミリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリ装置によるデータ伝送手順(データ伝送プロトコル)の国際標準として、ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector:国際電気通信連合の電気通信標準化部門)で制定されたTシリーズ勧告(T.30、T.34、T.37、T.38など)が周知である。Tシリーズ勧告のうち、勧告T.38には、IPネットワークを介してリアルタイムに行われるファクシミリ通信に関する通信手順が定められている。以下、この通信手順をT38通信手順と称する。
【0003】
図5は、一般的なT38通信手順の一例を示している。
図5では、送信機側(発呼側)と受信機側(被呼側)との間で通信が確立された後に行われるT38通信手順が示されている。以下、
図5を参照してT38通信手順の概略について説明する。なお、
図5中のS11、S12、・・・は処理手順(ステップ)の番号を表している。
【0004】
送信機側と受信機側との間の通信が確立すると、まず、受信機側は、ITU−T勧告T.30に定められる手順(一般交換電話網における文書ファクシミリ伝送手順)にしたがって、送信機側からのCNG信号に対する応答信号(トーン信号)であるCED信号(被呼局識別信号)に対応したパケット(T30IND:CED)を送信機側へ送信する(S11)。その後、フラグ信号に対応したパケット(T30IND:Flag)を送信し(S12)、続いて、自端末の識別情報を通知するためのCSI信号に対応するパケット(V21HDLC:CSI/FCS)、及び、自端末の標準的な伝送機能を通知するためのDIS信号に対応するパケット(V21HDLC:DIS/FCS)を送信機側へ順次送信する(S13,S14)。ここで、フラグ信号は、CSI信号などが送信される前に送信されて、相手側がこの信号を受信できるようにするための同期信号である。また、ステップS13やステップS14などでは、相手側において伝送中のエラーをチェックするために使用されるFCS(Frame Check Sequence)と呼ばれるFCS信号も送信されるようになっている。
なお、上述のCNG信号、CED信号、フラグ信号、CSI信号、DIS信号、及び後述のTSI信号、DCS信号、CFR信号、トレーニング信号、EOP信号、MCF信号、DCN信号はいずれも、勧告T.30に定められるグループ3ファクシミリ(G3ファクシミリ)の伝送手順において用いられる信号(ファクシミリ制御信号)である。これらの信号は、送信機側及び送信機側それぞれに備えられたゲートウェイ装置によってT38通信手順に対応するパケットに変換されてから送受信される。ここで、例えば、上述の「T30IND:CED」は、前記CED信号がパケットに変換されたものを示しており、他の信号についても同様に表しており、以下において同様に表している。
【0005】
受信機側から送信された上述の4つのパケットが送信機側で受信されると、送信機側は、受信機側の識別情報及び伝送機能を認識し、受信機側が備える伝送機能に基づいて、そのときに自端末が使用する伝送機能及びモデム速度などを設定する。次に、送信機側は、フラグ信号に対応するパケット(T30IND:Flags)を受信機側へ送信し(S15)、これに続いて、自端末の識別情報(例えばFAX番号やIPアドレスなど)を通知するためのTSI信号に対応するパケット(V21HDLC:TSI/FCS)、及び自端末で使用する伝送機能を通知するためのDCS信号に対応するパケット(V21HDLC:DCS/FCS)を受信機側へ送信する(S16,S17)。これにより、受信機側は、相手端末である送信機側の識別情報、及び送信機側が使用する伝送機能を認識する。
【0006】
その後、受信機側は、フラグ信号に対応するパケット(T30IND:Flags)に続き、受信準備が完了したことを通知するためのCFR信号に対応するパケット(V21HDLC:CFR/FCS)を送信機側へ送信する(S18,S19)。
【0007】
このようにして画像情報の送受信準備が整うと、送信機側は、モデムのリトレーニングのためのトレーニング(Training)信号に対応したパケット(T30IND:Speed)を受信機側へ送信する(S20)。続いて、伝送対象である画像情報(画像データ)を複数に分割し、それぞれの分割された画像情報(以下「分割画像情報」という。)をパケット(
図5では、「V17HDLC:ImageData」と表示されている。)に変換し、当該パケットをUDPに基づく伝送手順に従って受信機側へ送信する(S21)。
【0008】
そして、分割された複数の分割画像情報のうち、最後の分割画像情報に対応するパケット(
図5では、「V17HDLC:ImageData:FCS−Sig−End」と表示されている。)が受信機側へ送信されると(S22)、その後、送信機側は、フラグ信号に対応したパケット(T30IND:Flags)を受信機側へ送信し(S23)、続いて、画像情報の送信完了を示すEOP信号に対応したパケット(V21HDLC:PPS−EOP/FCS)を受信機側へ送信する(S24)。
【0009】
一方、受信機側は、パケット(T30IND:Speed)を受信すると、画像情報の受信準備に移行する。そして、分割画像情報を含む複数のパケットを全て受信すると、それぞれのパケットに含まれている分割画像情報を順次取り出して、元の画像情報に戻した後に、その画像情報をメモリやハードディスクなどの記憶媒体に格納する。また、受信機側は、画像情報受信後に送信完了を示すパケット(V21HDLC:PPS−EOP/FCS)を受信するので、受信機側では、当該パケットの受信後に画像情報が伝送されてこないことを認識できる。
【0010】
そして、受信機側は、画像情報の受信結果が良好な場合には、フラグ信号に対応したパケット(T30IND:Flags)に続き、画像情報の受信が正常に完了したことを示すMCF信号に対応したパケット(V21HDLC:MCF/FCS)を送信機側へ送信する(S25,S26)。これにより、送信機側は、受信機側で画像情報が正常に受信されたことを認識する。その後、送信機側は、フラグ信号に対応したパケット(T30IND:Flags)に続き、送信機側と受信機側との通信回線の復旧を指令するためのDCN信号に対応したパケット(V21HDLC:DCN/FCS)を受信機側へ送信する(S27,S28)。
【0011】
送信機側と受信機側との間で行われる上述したT38通信手順によるパケットの伝送は、UDPを使用して行われる。UDPは、送達確認などを行わず、また、パケットが伝送中に損失(ロス)しても、損失したパケットを復元させる処理を行わない。そのため、UDPによる伝送速度は、同じトランスポート層に属するTCPに比べて速く、一般に、ファクシミリ通信などのようにリアルタイムで伝送対象を伝送するような通信に適している。
【0012】
ところで、上述したUDPに基づくT38通信手順によってパケットが伝送されている最中に、一部のパケットが損失する場合がある。この場合、損失したパケットと同じものを相手側に確実に届ける必要がある。この手法として、送信されるパケットにプライマリ部とセカンダリ部とを定義し、プライマリ部に本来送信すべきパケット(以下、便宜上「オリジナルパケット」という。)を割り当て、セカンダリ部には直前に既に送信されたパケット(以下「冗長パケット」という。)を割り当てて相手側に送信する手法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−197279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述のT38通信手順において、複数のパケットを連続して相手側に送信するような場合に、複数のパケットの全てが送信されたにもかかわらず、伝送中にパケットが損失するなどして、受信機側からその送信に対応する応答信号が返ってこないことがある。受信機側から前記応答信号が返ってこなかった場合は、送信機側でタイムアウトが判定された後に、再び同じようにして、複数のパケットが送信機側から再送信される。この場合、再送信されるパケットのセカンダリ部には、タイムアウトの判定前に送信されたパケットが冗長パケットとして付加されている。例えば、3つのパケット(第1パケット、第2パケット、第3パケット)を連続して相手側に送信する場合であって、1つのパケットのセカンダリ部に、直前に送信された2つのパケットが冗長パケットとして付加される場合を考える。この場合、受信機側から応答信号が返ってこずにタイムアウトして、その後に3つのパケットが送信機側から再送信されることになるが、最初に再送信される第1パケットのセカンダリ部には、タイムアウト前に送信された第3パケットと更にその前に送信された第2パケットとが冗長パケットとして付加されている。そのため、受信機側は、再送信された第1パケットを受信することで、実際には、オリジナルパケットである第2パケット及び第3パケットが再送信される前に、オリジナルの第1パケットに加えて、冗長パケットとして第2パケット及び第3パケットを取得したことになる。この時点で、受信機側が全てのパケット(第1パケット、第2パケット、第3パケット)を受信したことを示す応答信号を送信機側へ送信してしまうと、送信機側では引き続きオリジナルパケットとして第2パケット及び第3パケットの送信処理を行っており、受信機側でも応答信号の送信処理を行うという状態となる。このため、双方が送信処理を行うことよって通信が不安定になり、場合によっては、送信機側と受信機側との間で通信バグが生じるおそれがある。
【0015】
また、伝送中のパケットの損失は、送信機側と受信機側との間の通信状態が良好でない場合に生じることから、従来から、前記タイムアウト後にパケットが再送信される場合は、そのパケットが確実に伝送できるように、当初に設定していた通信速度よりも遅い通信速度に設定し直して再送信するようにしている。例えば、自端末で使用する伝送機能を通知するためのDCS信号が送信された後に前記タイムアウトが生じた場合は、通信速度を落とした状態でDCS信号が再送信される。この場合、再送信されるDCS信号は、後に伝送される画像情報の損失を回避するために、先に送信されたDCS信号に定義された通信速度よりも低い通信速度を示すものとなっている。
つまり、先に送信されたDCS信号とは内容が異なっている。この場合、再送信されるDCS信号の前に受信機側で受信されたパケットに、タイムアウト前に送信された速度変更前のDCS信号が冗長パケットして付加されていることがある。この時点で、受信機側ではDCS信号を取得できたことになるが、通信速度が変更されているにもかかわらず、通信速度変更前のDCS信号に基づいて受信機側の通信速度が設定されてしまうと、送信機側の通信速度の設定値と受信機側の通信速度の設定値が異なるため、通信が不安定となり、場合によっては、後に送信される他のパケットの損失を招くことになる。
【0016】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、IPネットワークを介して送信されてきたパケットに冗長パケットが付加されていた場合でも、通信状態を安定にして、パケットなどの伝送対象の損失を軽減することが可能なネットワーク通信装置及びこれを備えたファクシミリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、UDPに基づく伝送制御方式にしたがってIPネットワークを介して送られてきたパケットデータを受信するネットワーク通信装置である。このネットワーク通信装置は、最終制御信号判定手段と、処理対象除外手段と、を備える。前記最終制御信号判定手段は、複数の前記パケットデータを連続して受信する連続受信手順において受信した前記パケットデータに付加された1つ又は複数の冗長パケットに前記連続受信手順において最終手順で受信されるべき最終制御信号が含まれているか否かを判定する。前記処理対象除外手段は、前記最終制御信号判定手段によって前記冗長パケットに前記最終制御信号が含まれていると判定された場合に、前記最終制御信号を当該ネットワーク通信装置における処理対象から除外する。
また、本発明は、上述のネットワーク通信装置を備え、IPネットワークを介してリアルタイムに伝送された画像情報を受信するファクシミリ装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、IPネットワークを介して送信されてきたパケットに冗長パケットが付加されていた場合でも、通信状態を安定にして、パケットなどの伝送対象の損失を軽減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る複合機の概略構成を示す模式図である。
【
図2】複合機の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】複合機とファクシミリ装置との間で行われるT38通信手順の一部を示すシーケンス図である。
【
図4】制御部のIPゲートウェイ部で実行される通信割込処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】送信機側と受信機側との間で行われるT38通信手順を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明を具体化した一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、各実施形態の変更が可能である。
【0021】
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態の一例である複合機10(本発明のファクシミリ装置の一例)の概略構成について説明する。
【0022】
図1に示されるように、複合機10は、いわゆる胴内排紙タイプのものであり、ファクシミリ機能、プリンター機能、及びコピー機能などの各機能を有するものである。複合機10は、上部に原稿の画像を読み取るスキャナー12が設けられ、下部に電子写真方式の画像形成部14が設けられている。そして、
図1において複合機10の左側に用紙排出部30が設けられている。用紙排出部30は、画像形成部14とスキャナー12との間に排紙スペース21を形成しつつ、画像形成部14とスキャナー12とを連結するように設けられている。
【0023】
画像形成部14は、スキャナー12で読み取られた画像データに基づいて印刷用紙にモノクロ画像を形成するものであり、主として、給紙トレイ16、複数の搬送手段17、転写装置15、定着装置19などを備えている。印刷指示が入力されると、画像形成部14は、入力された画像をトナーなどの印刷材料を用いて印刷用紙にモノクロ印刷又はカラー印刷する。画像形成部14で画像が形成された印刷用紙は、搬送路24を通って、用紙排出部30から排紙スペース21の排紙トレイ23に排出される。このような構成の画像形成部14や上述のスキャナー12は周知の機構であるため、ここでの詳細な説明は省略する。なお、複合機10は上述の複数の機能を備えたものに限られず、IPネットワーク65(
図2参照)や一般電話回線などの通信網からファクシミリ通信によって送られてきた画像データを受信して印刷用紙に出力したり、スキャナー12によって読み取られた原稿の画像データを前記通信網を介してファクシミリ通信によって送信したりファクシミリ装置として構成されたものであってもよい。
【0024】
図2に示されるように、複合機10は、上述したファクシミリ機能などの各機能を実現するように複合機10の動作を制御する制御部50を備えている。制御部50は、CPU51、ROM52、RAM53、EEPROM54を主とするマイクロコンピュータとして構成されており、バス55を介してスキャナー12や画像形成部14、G3FAX通信部61、IPゲートウェイ部62(本発明のネットワーク通信装置の一例)、図示しないモータードライバーなどに接続されている。
【0025】
ROM52には、複合機10が備える各機能を実現するためのプログラムや、複合機10を構成する各構成要素の動作を制御するためのプログラムが格納されている。RAM53は、CPU51が前記プログラムを実行する際に用いる各種データを一時的に記録する記憶領域又はデータやプログラムの展開領域として使用される。また、EEPROM54には、ファクシミリ通信によって送受信される画像データや前記プログラムに従った処理に用いられる各種データが格納されている。
【0026】
CPU51は、制御部50を構成するG3FAX通信部61やIPゲートウェイ部62などの制御デバイス、或いはバス55に接続されたスキャナー12や画像形成部14、その他モーターなどの駆動系機器などを統括的に制御する演算処理装置である。このCPU51によって、ROM52に格納されたプログラムや、RAM53又はEEPROM54に格納されたデータが読み出され、前記プログラムに従った処理が行われる。
【0027】
G3FAX通信部61は、勧告T.30に定められた所謂G3ファクシミリ伝送手順(G3ファクシミリ伝送プロトコル)に従ってファクシミリ通信を行うアナログ回線用の通信モデムであり、当該ファクシミリ通信を制御するための演算素子やメモリなどの通信制御基板が搭載されている。G3FAX通信部61は、電話回線(一般交換電話網)を介してファクシミリ通信を行う場合に、網制御部である図示しないNCU(Network Control Unit)を通じて他のファクシミリ装置との間でファクシミリ通信を行う。一方、IPネットワーク65を介してファクシミリ通信を行う場合は、プロトコル変換を行う必要があるため、後述のIPゲートウェイ部62を通じてIPネットワーク65上の他のファクシミリ装置90との間でファクシミリ通信が行われる。ここに、IPネットワーク65とは、IP技術を利用して相互接続されたインターネットなどのコンピューターネットワークのことである。
【0028】
IPゲートウェイ部62は、G3ファクシミリ伝送手順のプロトコルとIPネットワーク65におけるファクシミリ通信手順のプロトコルとの間でプロトコル変換するための通信制御部である。IPゲートウェイ部62によって、複合機10のG3FAX通信部61と他のファクシミリ装置90との間でIPネットワーク65を介してリアルタイムにファクシミリ通信(以下「IPファクシミリ通信」という。)を行うことが可能となる。IPゲートウェイ部62は、ITU−T勧告T.38で定められた通信手順(T38通信手順)にしたがってIPネットワーク65に接続された他のファクシミリ装置90との間でIPファクシミリ通信を行うものである。このIPゲートウェイ部62には、前記IPファクシミリ通信を制御するための演算素子やメモリなどからなる通信制御基板が搭載されている。具体的には、IPゲートウェイ部62は、G3FAX通信部61から出力されたファクシミリ信号や画像情報を勧告T.38に適合するIFP(Internet Facsimile Protocol)パケット(本発明のパケットデータの一例)に変換してIPネットワーク65に送出する。なお、一般的なT38通信手順については、
図5のシーケンスを用いてすでに上段において説明した通りである。
【0029】
本実施形態では、上述したT38通信手順によるIFPパケットの伝送は、UDPを使用して行われる。一般に、UDPを使用してIFPパケットを伝送する場合は、伝送中に損失したIFPパケットを補うために、送信されるIFPパケットにプライマリ部とセカンダリ部とを定義し、プライマリ部に本来送信すべきオリジナルパケットを割り当て、セカンダリ部には過去に送信処理を行った1つまたは複数のIFPパケット(以下「冗長パケット」という。)を割り当てて相手側に送信している。しかしながら、前記冗長パケットが付加されたIFPパケットがIPネットワーク65を介して他のファクシミリ装置90から複合機10に対して伝送されたときに、付加された前記冗長パケットが複合機10とファクシミリ装置90との間の通信状態を不安定にする場合がある。
【0030】
ここで、
図3に示されるように、送信機側をファクシミリ装置90とし、受信機側を複合機10として、ファクシミリ装置90から複合機10に対してIPファクシミリ通信が行われるケースを考える。なお、以下においては、IFPパケットの送信時に、それよりも前に送信された2つのIFPパケットが前記冗長パケットとして付加されたIFPパケットが送信されるものと仮定する。例えば、
図3のステップS15〜S17に示されるように、3つのIFPパケットが連続して複合機10に送信される手順においては、ステップS15で一番目に送信された第1パケットP1(T30IND:Flags)には、直前に送信されたIFPパケットが存在しないため冗長パケットは付加されていない。次のステップS16で二番目に送信された第2パケットP2(V21HDLC:TSI/FCS[P1])には、直前に第1パケットP1が送信されているので、第1パケットが冗長パケット[P1]として付加されている。次のステップS16で三番目に送信された第3パケットP3(V21HDLC:DCS/FCS[P2][P1])には、直前に第2パケットP2が送信されており、更にその前に第1パケットP1が送信されているので、第2パケットP2が冗長パケット[P2]として付加されており、それに続いて第1パケットP1が冗長パケット[P1]として付加されている。
【0031】
このようにファクシミリ装置90から複合機10へ向けて、IPファクシミリ通信によって3つのIFPパケット(第1パケットP1、第2パケットP2、第3パケットP3)が連続して送信されたとしても、3つのIFPパケットが何らかの理由によって喪失(ロス)してしまい、複合機10のIPゲートウェイ部62に届かない場合がある。つまり、複合機10は、連続送信された3つのIFPパケットを連続して受信できない場合がある。この場合、複合機10から受信準備完了を示すCFR信号(V21HDLC:CFR/FCS)がファクシミリ装置90へ送信されないため、ファクシミリ装置90は、複合機10から受信準備完了を示すCFR信号(V21HDLC:CFR/FCS)を受信できない。そのため、ファクシミリ装置90は、タイムアウト後に再び3つのIFPパケットを連続して送信する(S151,S161,S171)。なお、ファクシミリ装置90は、再送信されるIFPパケットが確実に伝送されるように、当初に設定していた通信速度よりも遅い通信速度に設定し直して再送信する。
【0032】
この場合、ステップS151で送信される第1パケットP1には、以前に送信処理された第3パケットP3と第2パケットP2とが冗長パケット[P3][P2]として付加されている。また、ステップS161で送信される第2パケットP2には、以前に送信処理された第1パケットP1と第3パケットP3とが冗長パケット[P1][P3]として付加されている。また、ステップS171で送信される第3パケットP3には、以前に送信処理された第2パケットP2と第1パケットP1とが冗長パケット[P2][P1]として付加されている。このように3つのIFPパケットが再送信された場合に、複合機10のIPゲートウェイ部62は、受信予定の全てのIFPパケットをステップS151で受信することになる。そのため、IPゲートウェイ部62は、ステップS151のタイミングで受信準備完了を示すCFR信号のパケット(V21HDLC:CFR/FCS)をファクシミリ装置90へ送信してしまい、送受信側それぞれにおいて認識違いが生じて、通信が不安定になるおそれがある。
【0033】
本実施形態の複合機10では、このような認識違いによる通信の不安定を生じさせないようにするために、IPゲートウェイ部62において、
図4に示される手順に沿って通信割込処理が実行される。以下、
図3のシーケンス及び
図4のフローチャートを参照しながら、IPゲートウェイ部62で実行される通信割込処理について説明する。図中のS31、S32、…は処理手順(ステップ)の番号を表している。なお、以下では、
図3のステップS15〜S17又はステップS151〜S171において連続して送信される3つのIFPパケット(第1パケットP1、第2パケットP2、第3パケットP3)を複合機10側で連続して受信する連続受信ステップにおいて実行される通信割込処理について説明する。
【0034】
IPゲートウェイ部62は、ファクシミリ装置90から第1パケットP1(T30IND:Flags)を受信すると(S31のYes)、第1パケットP1に冗長パケットが付加されているか否かを確認する。そして、冗長パケットが付加されている場合は、その冗長パケットが制御信号であるか否かを判定する(S32)。ここで、制御信号とは、複合機10のG3FAX通信部61に対するファクシミリ制御信号のことである。具体的には、勧告T.30に定められるグループ3ファクシミリ(G3ファクシミリ)の伝送手順において用いられるファクシミリ制御信号であって、例えば、CNG信号、CED信号、フラグ信号、CSI信号、DIS信号、TSI信号、DCS信号、CFR信号、トレーニング信号、EOP信号、MCF信号、DCN信号などである。
【0035】
第1パケットP1に付加されていた冗長パケットが前記制御信号ではないと判定された場合は(S32のNo)、受信した第1パケットP1及びそれに冗長パケットが付加されている場合はその冗長パケットがIPゲートウェイ部62においてプロトコル変換されることにより、G3ファクシミリ伝送手順で使用される形式のファクシミリ制御信号やデータに変換さる。その後、G3FAX通信部61に転送される(S35)。なお、ステップS15において送信された第1パケットP1を受信した場合は、冗長パケットが付加されていないため、この場合は前記ステップS32の判定をするまでもなく、ステップS35に進む。
【0036】
一方、第1パケットP1に付加されていた冗長パケットが制御信号であると判定された場合は(S32のYes)、次のステップS33において、その冗長パケットが、最終制御信号であるか否かが判定される。ここで、最終制御信号とは、複合機10側における前記連続受信ステップにおいて最終のステップで受信されるべきIFPパケットとして送信されたファクシミリ制御信号のことである。具体的には、本実施形態において第3パケットP3として送信されるDCS信号(最終制御信号の一例)である。ここで、DCS信号は、ファクシミリ装置90が自端末で使用する伝送機能(通信速度など)を複合機10のIPゲートウェイ部62やG3FAX通信部61に通知するためのファクシミリ制御信号である。前記冗長パケットが最終制御信号であるか否かの判定は、前記最終制御信号であることを示す識別情報が前記冗長パケットに含まれているか否かによって行うことができる。具体的には、DCS信号などのファクシミリ制御信号には、最終パケットを示すビット情報を格納するためのコントロールフィールドという領域が設けられており、前記コントロールフィールドのビット情報に基づいて判定される。本実施形態では、前記コントロールフィールドは、ファクシミリ制御信号の前から3バイト目に設けられており、「03」を示すビット情報が書き込まれている場合は最終制御信号では無いと判定され、「13」を示すビット情報が書き込まれている場合は最終制御信号であると判定される。本実施形態では、DCS信号であると判定された冗長パケットのコントロールフィールドには、「13」を示すビット情報が書き込まれているものとする。なお、IPゲートウェイ部62がステップS33の判定処理を行うことによって、本発明の最終制御信号判定手段がIPゲートウェイ部62によって実現される。
【0037】
ステップS33において、前記冗長パケットが最終制御信号であるDCS信号と判定された場合は(S33のYes)、前記DCS信号をIPゲートウェイ部62やG3FAX通信部61における処理対象から除外する処理が行われる。具体的には、DCS信号と判定された冗長パケットが第1パケットP1から消去される(S34)。ステップS34において冗長パケットが消去された後は、ステップS35に進む。なお、IPゲートウェイ部62がステップS34の消去処理を行うことによって、本発明の処理対象除外手段がIPゲートウェイ部62によって実現される。
【0038】
一方、ステップS33において、最終制御信号でないと判定された場合は(S33のNo)、冗長パケットを消去することなく、ステップS35に進む。なお、複合機10側で受信した第1パケットP1に複数の冗長パケットが付加されている場合は、ステップS33において最終制御信号であると判定された後に、その冗長パケットだけでなく、その冗長パケットよりも前に送信されていた冗長パケットも削除される。
【0039】
そして、ステップS36では、通信割込処理を行う必要のある次のIFPパケットを受信しているか否かが判定される。次のIFPパケット(例えば第2パケットP2)があると判定された場合は、ステップS31以降の処理が繰り返される。一方、受信した3つのIFPパケットに対して通信割込処理が行われた場合は、一連の処理が終了する。
【0040】
なお、第1パケットP1に前記冗長パケット[P3](DCS信号のパケット)が付加されているケースは、ステップS151において第1パケットP1が再送信された場合だけである。この場合は、第1パケットP1には、冗長パケット[P3]だけでなく、それよりも前に送信された冗長パケット[P2]も付加されている。したがって、冗長パケット[P2]をIPゲートウェイ部62やG3FAX通信部61における処理対象から除外するべく、ステップS34では、冗長パケット[P3]だけでなく冗長パケット[P2]も削除される。
【0041】
また、第2パケットP2に前記冗長パケット[P3](DCS信号のパケット)が付加されているケースは、ステップS161において第2パケットP2が再送信された場合だけである。この場合は、第2パケットP2に付加された冗長パケット[P3]だけがステップS34において削除される。なお、第2パケットP2には、冗長パケット[P1]も付加されているが、本実施形態では、付加された複数の冗長パケットのうち、最終制御信号であるDCS信号に対応する冗長パケット[P3]及びそれよりも受信順位が上位の冗長パケットが削除される。ここで、受信順位が上位の冗長パケットとは、IFPパケットP3よりも先に送信または受信されるべきIFPパケットのことを指す。受信順位が上位であるか否かは、例えば、送信されるIFPパケットに複合機10側の受信順番を示す順位情報が付加されており、受信時にその順位情報に基づいて判定する。
【0042】
このように通信割込処理が行われるため、G3FAX通信部61は、全てのIFPパケットの受信処理が終了するまでIPゲートウェイ部62に対して受信準備完了を示すCFR信号を送信しない。つまり、全てのIFPパケットの受信処理が終了する前にIPゲートウェイ部62からファクシミリ装置90へ向けてCFR信号に対応するパケット(V21HDLC:CFR/FCS)は送信されない。これにより、送信側のファクシミリ装置90及び受信側の複合機10それぞれにおいてファクシミリ制御信号の送受信に関する認識違いが生じなくなり、ファクシミリ装置90及び複合機10間の通信が安定する。特に、前記最終制御信号がDCS信号である場合は、再送信されたDCS信号に定義された通信速度は、それよりも前に送信処理されたDCS信号に定義された通信速度よりも低く設定されている。そのため、前記ステップS151で冗長パケットとしてDCS信号を受け取ってしまうと、ファクシミリ装置90側と複合機10側との間で通信速度の設定が異なるため、通信が不安定となり、場合によっては、後に送信される他のIFPパケットや画像情報の損失を招くことになるが、本実施形態の通信割込処理が行われることにより、このような通信不安定が解消される。
【0043】
なお、上述の実施形態では、最終制御信号と判定された冗長パケットをIPゲートウェイ部62やG3FAX通信部61における処理対象から除外する処理として、冗長パケットを消去する例につて説明したが、例えば、消去処理に代えて、IFPパケットから当該冗長パケットを取り外す処理、或いは、当該冗長パケットに処理の禁止または無効を示す情報を付加する処理などが行われてもよい。
【0044】
また、上述のステップS33の判定処理は、コントロールフィールドのビット情報に基づいて判定する方法以外に、判定対象である冗長パケットと前記最終制御信号とを比較して判定する方法が適用可能である。或いは、判定対象である冗長パケットに、前記最終制御信号を示す「HDLC−FCS−OK−Sig−End」が含まれているか否かによって判定してもよい。ここで、「HDLC−FCS−OK−Sig−End」信号は、HDLCデータの終端を示す。
【0045】
また、上述の実施形態では、
図3のステップS15〜S17又はステップS151〜S171において連続して送信される3つのIFPパケット(第1パケットP1、第2パケットP2、第3パケットP3)を複合機10側で連続して受信する例について説明したが、例えば、
図5のステップS20〜S24において送信される5つのIFPパケットを複合機10側で連続して受信する場合にも適用可能である。この場合の前記最終制御信号の一例は、G3ファクシミリ手順信号であり画情報送信の完了を示すEOP信号である。なお、前記最終制御信号として、他のファクシミリ制御信号、例えば、DIS信号、DTC信号、CTC信号、CFR信号、FTT信号、CTR信号、EOM信号、MPS信号、PPR信号、RNR信号、RR信号、RTP信号、RTN信号、ERR信号、DCN信号、PPS−EOM信号、PPS−MPS信号、PPS−EOP信号も採用可能である。
【0046】
また、上述の実施形態では、1つのファクシミリ制御信号が1つのパケットに変換されて送受信される例について説明したが、例えば、1つのファクシミリ制御信号が複数のパケットに変換されて送受信される例にも本発明は適用可能である。この場合、1つのファクシミリ制御信号に対応する最終のパケットに付加された冗長パケットのコントロールフィールドに前記最終制御信号を示す「HDLC−FCS−OK−Sig−End」が含まれている。このため、「HDLC−FCS−OK−Sig−End」が含まれているか否かを判定することにより、そのパケットが最終制御信号を含む物であるか否かを判定できる。
【0047】
なお、本発明は、上述の実施形態で説明した複合機10として実施可能であり、また、ファクシミリ装置間の通信を中継する上述のIPゲートウェイ部62の機能を備えたネットワーク通信装置としても実施可能である。
【符号の説明】
【0048】
10:複合機
12:スキャナー
14:画像形成部
50:制御部
61:G3FAX通信部
62:IPゲートウェイ部
65:IPネットワーク