特許第5769760号(P5769760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5769760ソフトカプセル用シェル形成組成物及びソフトカプセル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769760
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ソフトカプセル用シェル形成組成物及びソフトカプセル
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20150806BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150806BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20150806BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20150806BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150806BHJP
   A23L 1/00 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K47/10
   A61K9/48
   A61K47/02
   A61K37/22
   A61P43/00
   !A23L1/00 C
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-132728(P2013-132728)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7008(P2015-7008A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2014年12月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501477831
【氏名又は名称】アール.ピー. シェーラー テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】藤井 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】岡山 利和
(72)【発明者】
【氏名】木俣 充弘
(72)【発明者】
【氏名】花山 善昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美也子
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−012003(JP,A)
【文献】 特開2011−153147(JP,A)
【文献】 特開2010−180159(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/018329(WO,A1)
【文献】 柴田 一郎,植物由来カプセル開発検討報告,PHARM TECH JAPAN,日本,2004年,Vol.20、No.10,2011−2014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00− 47/48
A61K 9/00− 9/72
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するコアを収容するためのソフトカプセル用シェル形成組成物であって、(A)デンプン及び/又はデキストリン、(B)ゲル化剤、(C)グリセリン及び(D)ソルビトールを含有し、(C)グリセリン:(D)ソルビトールの質量比が100:30〜100:120の範囲にあることを特徴とするソフトカプセル用シェル形成組成物。
【請求項2】
(A)成分が、コーンスターチ、ヒドロキシプロピル化デンプン、酸処理デンプン及びデキストリンからなる群から撰ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(A)成分が、ヒドロキシプロピル化デンプンである請求項2記載の組成物。
【請求項4】
(B)ゲル化剤が、カラギーナン、ローカストビーンガム、ネイティブジェランガム及び脱アシル化ジェランガムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
(C)グリセリン:(D)ソルビトールの質量比が100:45〜100:70の範囲にある請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
(E)緩衝剤をさらに含有する請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
(E)緩衝剤が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩である請求項6記載の組成物。
【請求項8】
緩衝剤を含有しない請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物で形成されてなるシェル、及び該シェル内にリン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するカプセルコアを含んでなるソフトカプセル。
【請求項10】
リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するコアを収容するソフトカプセルであって、(A)デンプン及び/又はデキストリン、並びに(B)ゲル化剤を含有するソフトカプセルのシェル用破壊強度低下抑制剤であって、(C)グリセリン:(D)ソルビトールを質量比で100:30〜100:120の範囲で含有してなる該破壊強度低下抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高リン脂質含有オイルを含有するカプセルコアを被覆するのに好適なソフトカプセル用シェル形成組成物、及び該組成物を用いて形成されるソフトカプセル及びソフトカプセル用破壊強度低下抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品などの分野においてソフトカプセルが幅広く使用されている。このようなソフトカプセルのシェルを構成する主成分としてゼラチンが広く使用されているが、ゼラチンは主に牛骨や豚皮から製造されている。しかしながら、菜食主義者や豚食を禁じているイスラム教徒人や牛を神聖視しているヒンズー教徒人は、このような牛や豚由来のゼラチンを含むソフトカプセルを服用したり、食べたりすることができないとの問題がある。
さらに、牛骨から製造されるゼラチンには、狂牛病に対する安全性に不安が常に残り、牛や豚以外から製造されるゼラチンではカプセルに必要な強度を得られない事に加え牛や豚から製造されるゼラチンに比べコストパフォーマンスが悪くコスト高になるとの問題がある。
このような状況下において、ゼラチンを用いずにソフトカプセルのシェルを形成してなる植物性カプセルが提案されている(例えば、特許文献1〜4)。このような植物性カプセルは植物由来の成分により作成されるため、牛や豚由来のゼラチンを用いることに起因する問題が生じないものである。
【0003】
【特許文献1】特表2003−504326号公報
【特許文献2】特開2005−176744号公報
【特許文献3】特表2008−519075号公報
【特許文献4】特開2010−180159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、リン脂質は人間の健康維持に効果を有することから、リン脂質を高濃度で含むオイルをカプセル化したサプリメントを製品化しようとしたところ、このようなリン脂質高濃度オイルを植物性ソフトカプセルに充填すると、カプセルの物理強度(破裂強度)が低下するとの問題が生じることに、本発明者らは気が付いた。
本発明は、ゼラチン以外の成分を主成分とするソフトカプセル用シェル形成組成物であって、リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルをカプセルのコアとした時に、カプセルの物理強度(破裂強度)の低下を抑制することができるソフトカプセル用シェル形成組成物を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記ソフトカプセル用シェル形成組成物で形成したシェルを有するソフトカプセルを提供することを目的とする。
本発明は、又、リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するコアを収容するソフトカプセル用破壊強度低下抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ゼラチン以外の成分を主成分とするソフトカプセル用シェル形成組成物において、グリセリン又はソルビトールを単独で使用したのでは、上記問題を解決できないが、(C)グリセリン:(D)ソルビトールを特定の質量比で含有させると、上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するコアを収容するためのソフトカプセル用シェル形成組成物であって、(A)デンプン及び/又はデキストリン、(B)ゲル化剤、(C)グリセリン及び(D)ソルビトールを含有し、(C)グリセリン:(D)ソルビトールの質量比が100:30〜100:120の範囲にあることを特徴とするソフトカプセル用シェル形成組成物を提供する。
本発明は、又、上記ソフトカプセル用シェル形成組成物で形成されてなるシェル、及び該シェル内にリン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するカプセルコアを含んでなるソフトカプセルを提供する。
本発明は、又、リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するコアを収容するソフトカプセル用破壊低下抑制剤であって、(C)グリセリン:(D)ソルビトールを質量比で100:30〜100:120の範囲で含有してなる該破壊強度低下抑制剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明のソフトカプセル用シェル形成組成物の(A)成分は、デンプン、デキストリン又はこれらの併用である。ここで、デンプンとしては、コーン、各種麦類、ジャガイモなどの各種いも類、豆類、これらの各種変性デンプンなどの1種又は2種以上の混合物があげられる。これらのうち、コーンスターチ、ヒドロキシプロピル化デンプン、酸処理デンプン及びデキストリンからなる群から撰ばれる1種又は2種以上の組み合わせが好ましく、より好ましくは、ヒドロキシプロピル化デンプンや酸分解ワキシコーンスターチである。(A)成分の量は、ソフトカプセル用シェル形成組成物中(乾燥重量又は水を除いた成分中)10〜60質量%であるのが好ましく、さらに25〜60質量%であるのが好ましい。
【0007】
本発明のソフトカプセル用シェル形成組成物の(B)成分であるゲル化剤としては、カラギーナン(イオタ-カラギーナン、カッパ-カラギーナン、ラムダ-カラギーナン)、寒天、アラビアガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、プルラン、ペクチン、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ゲランガム、セルロース、コンニャクガム、ファーセレラン、タラガム、アルギン酸及びタマリンドガムから選ばれる1種又は2種以上の混合物があげられる。これらのうちカラギーナン(イオタ-カラギーナン、カッパ-カラギーナン、ラムダ-カラギーナン)、ローカストビーンガム、プルラン、ネイティブジェランガム又は脱アシル化ジェランガムから選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。なかでも、イオタ-カラギーナン単独、カッパ-カラギーナン単独、ラムダ-カラギーナン単独、又はこれらの混合物が特に好ましい。
本発明のソフトカプセル用シェル形成組成物中(乾燥重量又は水を除いた成分中)の成分(B)のゲル化剤の量は、8〜30質量%であるのが好ましく、さらに10〜24質量%であるのが好ましい。
【0008】
本発明では、可塑剤として、(C)グリセリン:(D)ソルビトールを、質量比100:30〜100:120の範囲で用いることを特徴とする。特に好ましくは、質量比100:45〜100:70である。
本発明のソフトカプセル用フィルム形成組成物中(乾燥重量又は水を除いた成分中)の成分(C)と(D)の合計量は、5〜65質量%であるのが好ましく、さらに10〜60質量%、特に15〜50質量%であるのが好ましい。本発明では、プロピレングリコールやポリエチレングリコールなどの成分(C)と(D)以外の可塑剤を併用することができるが、併用しない方が好ましい。
【0009】
本発明のソフトカプセル用フィルム形成組成物には、さらに(E)緩衝剤を含有させることができる。緩衝剤としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などをあげることができるが、リン酸ナトリウムであるのが好ましい。緩衝剤としてはpH緩衝剤として働くものが好ましい。
本発明のソフトカプセル用フィルム形成組成物中(乾燥重量又は水を除いた成分中)の成分(E)の緩衝剤の量は、0.2〜5質量%であるのが好ましく、さらに1〜4質量%であるのが好ましい。
しかしながら、本発明では、成分(B)のゲル化剤として、特にカラギーナンを用いると、カラギーナンのゲル化に一般的に必要とされるナトリウム塩やカリウム塩、カルシウム塩などの緩衝剤を使用する必要性を排除できるので好ましい。この場合、(A)成分:(B)ゲル化剤を、1:1〜4:1(質量比)の割合で用いるのが好ましい。
本発明のソフトカプセル用フィルム形成組成物には、さらに、着色剤色素や顔料などの着色剤、香味剤、防腐剤などを含有させることができるが、ゼラチンを全く含有させないのが好ましい。
【0010】
本発明のソフトカプセル用フィルム形成組成物を用いて、ソフトカプセル用のシェルを成形する場合には、本発明のソフトカプセル用シェル形成組成物100質量部当たり、40〜130質量部の水を加えて混合し、常法により、皮膜の厚みが0.1〜1.0mmとなるように成形するのがよい。本発明のソフトカプセル用シェル形成組成物を用いて、シームレスカプセルを成形することもできる。
本発明のソフトカプセル用シェル形成組成物は、特に、リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルを含有するコアを収容するのに好適である。このような、リン脂質濃度が20質量%以上の高リン脂質含有オイルとしては、レシチンやレシチン高含有イオル、クリルオイルなどがあげられる。これらは、さらに希釈オイルで希釈して用いることができる。このような希釈オイルとしては、大豆油、菜種油、パームオイル、サフラワー油、シソ油,アマニ油、オリ−ブオイル、米油、ゴマ油などの各種食用油やDHA含有魚油やEPA含有魚油、スクワレン等の機能性油脂があげられる。これらのうち、室温で液状のものが好ましい。
本発明では、リン脂質濃度が30質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは30〜60質量%,特に好ましくは30〜50質量%である。
本発明のコアを収容するソフトカプセル用破壊低下抑制剤については、上記した(C)グリセリン:(D)ソルビトールの好ましい範囲や高リン脂質含有オイルにおける好ましいリン脂質含有量など全ての記載が適用される。
次に本発明を実施例により説明する。
【実施例】
【0011】
実施例1
表1に示した比率で各原料を混合、加熱溶解した原料溶解物を適当な容器を用い均一な厚さに引き伸し、可塑剤がグリセリン単独、ソルビトール単独、グリセリン:ソルビトール混合(100:50)の3種類のソフトカプセル用フィルム(厚さ500μ、縦5mm、横10mm)を作成した。個々のフィルムをリン脂質濃度が40質量%であるクリルオイル(オキアミ油:アーカーバイオマリン社)へ浸漬させて1週間後のフィルム片の硬度変化を、フィルム片を指で折り曲げて調べた。結果をまとめて表1に示す。表中、S:G混合が本発明品である。
表1
*表中の配合量は質量部である。
*1:ソルビトールは三菱商事フードテック株式会社のソルビットL-70を使用した。ソルビットL-70のソルビトール含有率は70質量%であるため,処方はソルビットL-70の量ではなくて、ソルビトール量として表記した。
*2:ヒドロキシプロピル化デンプン
【0012】
フィルムを折り曲げ硬さを調べ、ソフトカプセルの皮膜に適しているかを調べた。1週間後のフィルム片の硬度変化をまとめて表2に示す。
表2
以上の結果から、ソルビトール(S)とグリセリン(G)を質量比50:100で用いたソフトカプセル用フィルムは、リン脂質濃度40質量%のクリルオイルに1週間浸漬させても硬くならず、柔らかくソフトカプセルに適するものであることがわかる。
【0013】
実施例2
表1に記載の配合例に準じて、ソルビトール:グリセリン質量比を21:100〜210:100まで変化させて、ソフトカプセル用フィルム(厚さ500μ)を調製し、縦5mm、横10mmのフィルム片を作成し、これをリン脂質濃度が40質量%であるクリルオイルへ浸漬させて1週間後のフィルム片の硬度変化を、フィルム片を指で折り曲げて調べ、下記の基準で評価した。結果をまとめて表3に示す。表中、ソルビトール:グリセリン質量比が100:35〜100:84が本発明品である。
指の感触を以下の基準で評価した。
×:硬くもろい感じ
○:柔軟性はあるが若干硬い(35,42)又は柔らかい(77,84)
◎:硬さと柔軟性がソフトカプセル皮膜に最適である
結果をまとめて表3に示す。
【0014】
表3
表中の21*1は正確には21:100であるが、グリセリンの100の値を省略してある。
フィルム片をクリルオイルへ浸漬させておくと、ソルビトール:グリセリン質量比が100:21や100:28では、フィルム片が硬くなり、ソルビトール量がグリセリン100部に対し70より多くなると皮膜が柔らかくなり、140より多くなると顕著に軟化することがわかった。
【0015】
実施例3〜6
表4に示す成分を混合し加熱溶解してカプセル化可能な皮膜溶解物を作成した。次いで、リン脂質濃度が40質量%であるクリルオイルを充填剤として充填し、ロールダイ式カプセル化マシンにより、長径 約14.3mm、短径 約9.2mmのソフトカプセルを調製した。尚、ソフトカプセルの破壊強度は、木屋式硬度計(1600−E型:株式会社 藤原製作所製)を用いカプセルが破裂した時点での荷重を測定した。
【0016】
表4
*表中の配合量は質量部である。
*1:ソルビトールは三菱商事フードテック株式会社のソルビットL-70を使用した。ソルビットL-70のソルビトール含有率は70質量%であるため,処方はソルビットL-70の量ではなくて、ソルビトール量として表記した。
*2:ヒドロキシプロピル化デンプン
*3:試験10回の平均値
本発明によれば、リン脂質濃度が40質量%であるクリルオイルを充填したソフトカプセルの破壊強度の低下が抑制されていることがわかる。
【0017】
実施例4のソフトカプセルの経時変化を調べた結果を表5に示す。
表5(破壊強度の経時変化)
この結果から、本発明品(実施例2)によれば、6ヶ月保存しておいてもソフトカプセルは優れた破壊強度を維持していることがわかる。