(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機ケイ素化学の製造中間体の分野において、環状シラン化合物は重要な原料の1つである。
従来、例えばデカメチルシクロペンタシランは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いるジメチルジクロロシランの脱塩素化反応による鎖状ポリシラン又はシクロヘキサシラン類の製造時において副産物として取得されるため、収率も純度も低かった。
【0003】
また別の方法として、鎖状ポリシランを不活性ガス雰囲気下で熱分解させてデカメチルシクロペンタシランを合成するという方法も知られているが、この方法は収率も純度も低かった。
【0004】
これらの不利を解消する方法として、特許文献1には、ポリ(ジメチルシリレン)を、加熱された空筒中に、不活性ガス雰囲気下で連続的に移動、通過させ、熱分解させる、デカメチルシクロペンタシランの製造方法が記載されている。
しかし当該方法にも、反応時間が長くなると生成したデカメチルシクロペンタシランが熱分解するため、反応時間の厳密な制御が必要である等の問題があった。
【0005】
また、従来、有機ケイ素ポリマーの製造中間体、特に直鎖状ポリカルボシランの前駆体として重要な環状カルボシラン化合物は、主に、下記反応式で表されるように、ハロシラン化合物の末端クロロシリル基をアルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いた脱塩素化反応で閉環させることによって製造されていた(非特許文献1)。
【0006】
【化1】
【0007】
しかし、この方法ではケイ素原子数に比べて炭素原子数が多く、ケイ素含有量の低いものしか合成できないという問題があった。
【0008】
一方、低分子量の環状ジシランのケイ素−ケイ素結合を、パラジウム触媒を用いてメタセシスさせて環状カルボシランを製造することも知られている(特許文献2)が、当該方法は大環状のカルボシランの製造に限られていた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は製造方法に係る発明であって、鎖状ポリシランを原料として、環状シラン化合物および/または環状カルボシラン化合物を得るものである。ここで、鎖状ポリシランとは、−Si−Si−結合を骨格として有する鎖状のポリマーであり、例えば、一般式(1)
【0019】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立してC1〜C6アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、を表す。Xは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基、アリール基、トリアルキルシロキシ基を示す。mは2〜50,000のいずれかの整数を表す。R
1同士及びR
2同士は互いに同一でも異なっていてもよい。)で表されるシラン化合物等を例示することができる。
【0020】
R
1及びR
2のC1〜C6アルキル基、すなわち、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
アリール基は、単環又は多環のアリール基を意味し、多環アリール基の場合は、完全不飽和に加え、部分飽和の基も包含する。例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、C6〜C10アリール基である。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニル−n−プロピル基、1−フェニル−n−へキシル基、ナフタレン−1−イルメチル基、ナフタレン−2−イルエチル基、1−ナフタレン−2−イル−n−プロピル基、インデン−1−イルメチル基等が挙げられる。好ましくは、C6〜C10アリールC1〜C6アルキル基である。
【0021】
Xのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。XのC1〜C6アルキル基としては、R
1のC1〜C6アルキル基と同じものが挙げられる。C1〜C6アルコキシ基としては、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、4−メチルブトキシ基、1−エチルプロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、4−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、1−メチルペントキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基等が挙げられる。
【0022】
トリアルキルシロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基及びt−ブチルジメチルシロキシ基等を挙げることができる。トリアルキルシロキシ基には1置換基中に3つのアルキル基を有し、これら3つのアルキル基は互いに同一でも異なっていてもよく、アルキル基としては好ましくはC1〜C6アルキル基である。具体的にはR
1のアルキル基と同様のものが挙げられる。
mは2〜50,000のいずれかの整数を表す。
【0023】
本発明の製造方法によって得られる環状シラン化合物として、式(2)で表される化合物等を例示することができる。
【0025】
(式中、R
1、R
2は式(1)と同じ意味を表し、nは1〜20のいずれかの整数を表す。R
1及びR
2は互いに同一でも異なっていてもよく、また、R
1同士、及びR
2同士は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
R
1及びR
2は式(1)で挙げたものと同様のものが例示でき、nは1〜20のいずれかの整数を表し、3〜8のいずれかの整数であることがより好ましい。すなわち、本発明の環状シラン化合物としては、シクロペンタシラン環、シクロヘキサシラン環、シクロヘプタシラン環、シクロオクタシラン環を有する化合物であることが好ましい。
環状シラン化合物として具体的には、パーアルキルシクロシラン、より具体的には例えば、デカメチルシクロペンタシラン、ドデカメチルシクロヘキサシラン等が挙げられる。
【0026】
本発明の第一の態様の製造方法は、環状シランの製造において、周期律表第8族または第11族の遷移金属の酸化物存在下で行うことを特徴とする。これらの金属酸化物の存在下に反応を行うことで、目的とする環状シランを選択性よく得ることができる。また、これらの金属酸化物の添加量によって、得られる環状シラン化合物と環状カルボシラン化合物との生成選択率を制御することができる。
ここで、環状カルボシラン化合物とは、ケイ素と炭素からなる骨格を有し、かつ部分的にケイ素−炭素−ケイ素の結合を有する環状の化合物である。
【0027】
周期律表第8族遷移金属としては、鉄、ルテニウム、オスミウムが挙げられ、第11族遷移金属としては、銅、銀、金が挙げられる。これらの遷移金属の酸化物としては、酸化鉄(II)、酸化鉄(II,III)、酸化鉄(III)、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、二酸化オスミウム、四酸化オスミウム、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化銀等が挙げられる。これらのうち、第8族遷移金属としては鉄、第11族遷移金属としては銅であることがより好ましく、なかでも、酸化鉄(III)、酸化銅(II)であることがより好ましい。
本発明の第一の態様の製造方法においては、これらの金属酸化物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明の第一の態様の製造方法において、金属酸化物の使用量は、用いる鎖状ポリシランに対して、好ましくは10wt.ppm以上であり、より好ましくは100wt.ppm以上、さらに好ましくは1000wt.ppm以上である。また、2000wt.ppm以下であることが好ましい。
なお、本発明の第一の態様の製造方法を阻害しない限り、前記の金属酸化物の他に任意成分を添加しうる。
【0029】
本発明の第一の態様の製造方法における環状シラン化合物の製造は、原料である鎖状ポリシラン、及び上記の金属酸化物を反応槽内に仕込み、加熱することで行われる。加熱によって鎖状ポリシランが熱分解し、環状シラン化合物となる。
【0030】
反応温度は、仕込量や装置によって適当に選択しうるが、おおむね350〜450℃であり、好ましくは約400℃である。反応時間は、仕込量や温度、装置によって適当に選択しうるが、おおむね10分〜90分である。
また反応は常圧、不活性ガス気流下で行われることが好ましく、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、及びこれらの混合ガス等が挙げられる。
【0031】
上記の方法で製造された環状シラン化合物は、ガスクロマトグラフィー(GC)、赤外分光(IR)分析等、公知の方法によって確認することができる。
【0032】
本発明の第二の態様の製造方法によって得られる環状カルボシラン化合物は、ケイ素と炭素からなる骨格を有し、かつ部分的にケイ素−炭素−ケイ素の結合を有する環状の化合物であり、特に、6〜8員の環状カルボシラン化合物が効率よく得られる。
6〜8員の環状カルボシラン化合物としては、例えば、原料としてポリ(ジメチルシリレン)を使用した場合には、下記式(3)〜(5)で表される化合物等を例示することができる。ただしこれ等の化学構造は、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)と赤外分光(IR)分析(Si−H伸縮振動ν
Si−Hによる吸収)の結果に基づく推測である。
【0034】
また、本発明においては、副産物として下記式で表される環状シランや鎖状ポリシランの分解物等も製造される。
【0036】
(式中、R
1、R
2は式(1)と同じ意味を表し、nは1〜20の整数を表す。R
1及びR
2は互いに同一でも異なっていてもよく、また、R
1同士、及びR
2同士は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
R
1及びR
2は式(1)で挙げたものと同様のものが例示でき、nは1〜20のいずれかの整数であり、具体的には、パーアルキルシクロシラン、より具体的には例えば、デカメチルシクロペンタシラン、ドデカメチルシクロヘキサシラン等が挙げられる。
【0037】
本発明の環状カルボシラン化合物の製造方法は、遷移金属元素及び周期律表第12〜15族元素からなる群から選ばれる金属の単体又はその化合物(以後、これらをまとめて記載するときは「金属添加物)という)の存在下で行われる。これらの金属添加物の存在下に反応を行うことで、環状カルボシラン化合物、特に、6〜8員環状カルボシラン化合物を効率よく得ることができる。
【0038】
遷移金属としては、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)又はパラジウム(Pd)等が挙げられる。
周期律表第12族元素としては、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)等、第13族元素としては、アルミニウム(Al)等、第14族元素としては、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等、第15族元素としてはアンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等が挙げられる。
金属単体としては、具体的には、Zn等が挙げられる。
また、金属化合物としては、TiCl
4,MnCl
2,FeCl
2,CoCl
2,PdCl
2,ZnCl
2,ZnO,CdCl
2,AlCl
3,SiCl
4,SnCl
2,SnCl
4,SnO,SnO
2,PbCl
2,SbCl
5,BiCl
3等が挙げられる。これらのうち、ZnCl
2,ZnO,AlCl
3,SnCl
2,SnCl
4,PbCl
2,SbCl
5,BiCl
3がとくに好ましい。なお、金属化合物は、第8族または第11族遷移金属の酸化物でないことが好ましい。
本発明の第二の態様の製造方法においては、これらの金属添加物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の第二の態様の製造方法において、金属添加物の使用量は、用いる鎖状ポリシランに対して、好ましくは1〜2000wt.ppmであり、より好ましくは1〜100wt.ppmである。
なお、本発明の第二の態様の製造方法を阻害しない限り、前記の金属添加物の他に任意成分を添加しうる。
【0040】
本発明の環状カルボシラン化合物の製造は、原料である鎖状ポリシラン、及び上記金属添加物を反応槽内に仕込み、加熱することで行われる。加熱によって鎖状のポリシランが熱分解し、環状カルボシラン化合物となる。
【0041】
反応温度は、仕込量や装置によって適当に選択しうるが、通常、350〜450℃、好ましくは約400℃である。反応時間は、仕込量や温度、装置によって適当に選択しうるが、通常、10分〜90分である。
また反応は常圧、不活性ガス気流下で行われることが好ましく、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらの混合ガス等が挙げられる。
【0042】
上記の方法で製造された環状カルボシラン化合物は、ガスクロマトグラフィー(GC)、赤外分光(IR)分析等、公知の方法によって確認することができる。
【実施例】
【0043】
以下、参考例によって本発明の第一の態様による製造方法を説明するが、本発明の第一の態様はこれらの参考例に拘束されるものではない。
【0044】
[参考例1]
ポリ(ジメチルシリレン)(商品名PDMS、日本曹達社製)20.40g、及び酸化鉄(III)(和光純薬工業社製)0.2mg(PDMSに対して10wt.ppm)を反応容器に投入し、窒素気流下で熱分解(室温から40分かけて約400℃に昇温した後、約400℃で50分間加熱)を行った。
【0045】
[参考例2〜8、比較例1]
用いる金属酸化物の種類及び投入量を変更した以外は参考例1と同様にして、表1のとおりポリ(ジメチルシリレン)の熱分解を行った。なお、表中(ppm)は、(wt.ppm)を表わす。
【0046】
【表1】
【0047】
(生成物の分析)
参考例1〜8で得た反応物をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。
測定条件は以下の通りに行った。
GC装置:GC−14A(島津製作所製)
カラム:ガラスカラム 7G 3.2mmφ×2.1m(島津製作所製)
充填剤:Silicone OV−17 2% Chromosorb WAW DMCS 60/80mesh(ジーエルサイエンス製)
注入口温度:200℃
カラム温度:100℃(10分)→20℃/分→250℃(5分)
検出器:TCD 125mA、220℃
キャリアガス:ヘリウム 100mL/分
注入量:0.6μL
データ処理装置:クロマトパック C−R6A(島津製作所製)
【0048】
(生成物の評価)
参考例1〜8及び比較例1で得た熱分解生成物について、環状カルボシラン化合物を含有するGC上のピーク(A)(保持時間4.8分)の面積と、デカメチルシクロペンタシランのGC上のピーク(B)(保持時間4.0分)の面積比(A/B)及びBの面積値を表2に示す。これらの結果より、何も添加せずにポリ(ジメチルシリレン)の熱分解を行った比較例1に比べて、金属酸化物を添加した参考例においてA/B値が減少しており、該金属酸化物を添加することにより、環状シラン化合物の生成量を環状カルボシラン化合物に対して相対的に増加させることができることがわかった。また、比較例1に比べて、金属酸化物を添加した参考例において、デカメチルシクロペンタシランの生成量を表す面積値が増加しており(特に、銅又は鉄の酸化物を用いた場合)、該金属酸化物を添加することにより、その生成量を増加させることができることがわかった。
【0049】
【表2】
【0050】
次に、実施例によって本発明の第二の態様を説明するが、本発明の第二の態様はこれらの実施例に拘束されるものではない。
[実施例1]
ポリ(ジメチルシリレン)(商品名:PDMS、日本曹達社製)20.6g、及びAlCl
3(和光純薬工業社製)24mg(PDMSに対して1170wt.ppm)を反応容器に投入し、窒素気流下で熱分解(室温から45分かけて400℃に昇温した後、約400℃で30分間加熱)を行った。
【0051】
[実施例2〜16、比較例2]
用いる金属添加物の種類及び添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、表3のとおりポリ(ジメチルシリレン)の熱分解を行った。
【0052】
【表3】
【0053】
(生成物の分析)
実施例及び比較例で得た反応物をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。測定条件は以下の通りに行った。
GC装置:GC−14A(島津製作所製)
カラム:ガラスカラム7G 3.2mmφ×2.1m(島津製作所製)
充填剤:Silicone OV−17 2% Chromosorb WAW DMCS 60/80mesh(ジーエルサイエンス製)
注入口温度:200℃
カラム温度:100℃(10分)→20℃/分→250℃(5分)
検出器:TCD 125mA,220℃
キャリアガス:ヘリウム 100mL/分
注入量:0.6μL
データ処理装置:クロマトパック C−R6A(島津製作所製)
【0054】
(生成物の評価)
実施例1〜16及び比較例2の化合物について、本発明の環状カルボシラン化合物を含有するGC上のピーク(A)(保持時間4.8分)の面積と、デカメチルシクロペンタシランのGC上のピーク(B)(保持時間4.0分)の面積比(A/B値)及びAの面積値を表4に示す。これらの結果より、何も添加せずにポリ(ジメチルシリレン)の熱分解を行った比較例2に比べて、金属化合物を添加した実施例においてA/B値が増加しており、該金属化合物を添加することにより、環状カルボシラン化合物の生成量を環状シラン化合物に対して相対的に増加させることができることがわかった。また比較例2に比べて、実施例において、環状カルボシラン化合物の生成量を表す面積値が増加しており(一部例外有り)、該金属化合物を添加することにより、その生成量を増加させることができることがわかった。
【0055】
【表4】
【0056】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなくさまざまな変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本発明は、2009年4月13日出願の日本国特許出願2009−096720、及び2009年4月13日出願の日本国特許出願2009−096721に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。