(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2に記載されている技術では、識別媒体自体は破損しないので、発色したインク部分を除去したり、流出したインク部分を再生したりすることで、識別媒体の再利用が可能となる。このような背景において、本発明は、溶剤を用いて対象物から剥がそうとした際に、再利用ができなくなる識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、識別機能を示す光学機能層と、前記光学機能層の基材として機能するシクロオレフィンポリマーの層とを備えることを特徴とする識別媒体である。
【0007】
シクロオレフィンポリマーは、ガソリン、灯油、シンナー、ベンジン等の炭化水素系の溶剤に触れると非常に劣化しやすい化学的な性質を有し、また無理に引き剥がすような力を加えた際に引き裂かれ易い、あるいは皴が生じ易いという物理的な性質を有している。このため、溶剤を用いて識別媒体を対象物から剥がそうとした場合や、強制的に識別媒体を対象物から剥がそうとした場合に、基材であるシクロオレフィンポリマーの層が破損し、識別媒体自体が千切れる等の再利用不可能な破損状態となる。また、溶剤を用いずに無理に剥がそうとした場合でも、引き裂かれた跡や皺が生じた跡が残るので、剥がそうとした痕跡が極めて明確に残る。特に溶剤に接触させた状態で力が加わると、シクロオレフィンポリマーの層は非常に破損し易く、元の状態を維持することが全くできなくなる。これらの現象が生じることで、識別媒体の不正な再利用が困難となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、観察が行われる側の面から、前記シクロオレフィンポリマーの層と、前記光学機能層と、粘着層との順で積層された構造を有することを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、溶剤に触れた際に観察面のシクロオレフィンポリマーの層が破損し、光学機能層を保護する機能が失われる。このため、当該識別媒体の再利用が困難となる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、観察が行われる側の面から、前記光学機能層と、前記シクロオレフィンポリマーの層と、粘着層との順に積層された構造を有することを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、当該識別媒体の基材となるシクロオレフィンポリマーの層と、当該識媒体を対象物に貼り付けるための粘着層とが接触する。溶剤を用いた識別媒体の不正な剥がし行為が行われる場合、粘着層の粘着力を弱めるために溶剤が用いられる。この際、粘着層にシクロオレフィンポリマーの層が接しているので、シクロオレフィンポリマーの層に溶剤が接触し易い。このため、溶剤を用いた不正な剥がし行為によるシクロオレフィンポリマーの層の破損が生じやすく、当該識別媒体の不正な再利用を困難とする機能がより高くなる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記シクロオレフィンポリマーの層の前記粘着層の側に印刷パターンが形成されていることを特徴とする。請求項4に記載の発明によれば、シクロオレフィンポリマーの層が光学機能層の基材としてのみならず、印刷層の基材としても利用される。また、シクロオレフィンポリマーの層の粘着層側に印刷層があるので、溶剤の浸透による印刷層のインクの溶解も期待できる。このため、当該識別媒体の不正な再利用を困難とする機能がより高くなる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の発明において、前記粘着層の粘着面には、穴またはスリットが形成されていることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、穴またはスリットが浸透経路となり、粘着面に滴下された溶剤がシクロオレフィンポリマーの層に浸透し易い構造が得られる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記穴またはスリットの先端が前記シクロオレフィンポリマーの層に到達していることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、溶剤が粘着層に設けられた穴またはスリットを介してシクロオレフィンポリマーの層に浸透し易い構造が得られる。このため、溶剤を用いた不正な剥がし行為に起因するシクロオレフィンポリマーの層の破損がより生じやすい構造となる。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明において、前記光学機能層としてホログラム加工が施されたコレステリック液晶が採用されていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発明において、観察が行われる側の面から、前記光学機能層と、前記シクロオレフィンポリマーの層と、溶剤で溶ける材質により構成される直線偏光層と、粘着層との順に積層された構造を有し、前記光学機能層がコレステリック液晶層であり、前記シクロオレフィンポリマーの層は、延伸されることで複屈折性が与えられたλ/4板であり、前記シクロオレフィンポリマーの層と前記直線偏光層とにより、前記粘着層の側から前記光学機能層の側に特定の旋回方向の円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタ層が構成され、前記円偏光フィルタ層が選択的に透過する円偏光の旋回方向と前記コレステリック液晶層が選択反射する円偏光の旋回方向とが逆であることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明によれば、コレステリック液晶層から選択反射される円偏光の旋回方向と、円偏光フィルタ層を観察面側に透過する円偏光の旋回方向とが逆であるので、ビューアである特定の円偏光フィルタを介して当該識別媒体を観察した際に、コレステリック液晶層からの反射光は見えるが、直線偏光層の背後からの反射光は見えない第1の観察状態、あるいはコレステリック液晶層からの反射光は見えないが、直線偏光層の背後からの反射光は見える第2の観察状態のいずれかが得られる。この2つの観察状態は、ビューアである円偏光フィルタの旋回方向を切り替えることで、反転する。この反転により見た目で顕著な違いが観察され、高い識別性が得られ、また高い偽造防止機能が得られる。
【0016】
そして、直線偏光層が溶剤で溶け、更にシクロオレフィンポリマーの層が溶剤で溶けるので、当該識別媒体が粘着層の機能により対象物に貼り付いている状態において、溶剤を用いて粘着層の粘着性を弱め、当該識別媒体を剥がした場合に、基材であるシクロオレフィンポリマーの層が物理的に破壊されるのと同時に、上記の光学特性も失われる。このため、不正に剥がしての再利用が困難となる。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記溶剤で溶ける材質により構成される直線偏光層は、塗布型偏光層により構成されていることを特徴とする。塗布型偏光層は、色素を含む材料を塗布することで形成される。塗布型偏光層の色素は、塗布する際に加わるせん断応力または下地の配向規制力により配向し、この色素の配向により、特定の方向の直線偏光を選択的に透過する直線偏光層として機能する。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、前記塗布型偏光層がリオトロピック液晶染料の層により構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶剤を用いて対象物から剥がそうとした際に、再利用ができなくなる識別媒体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)第1の実施形態
(構成)
図1には、識別媒体100が示されている。識別媒体100は、観察を行う側からCOP層101、ホログラム加工103が施されたコレステリック液晶層102、粘着層104、離型紙であるセパレータ105と積層された構造を有している。
【0023】
COP層101は、シクロオレフィンポリマーをフィルム状にしたもので構成されており、表面保護層およびコレステリック液晶層102を支える基材として機能する。COP層101を構成するシクロオレフィンポリマーのフィルムは、可視光を透過する性質を有し、また本実施形態の構造では観察光が透過するので、透過する可視光の偏光の状態を乱さない性質を有している。COP層101の厚さは、10μm〜200μmの範囲から選択することができる。COP層101としては、例えば日本ゼオン株式会社から販売されているゼオノアフィルムを用いることができる。
【0024】
シクロオレフィンポリマーは、原油を分解した時に得られるC5留分の中に存在するシクロペンタジェンを原料とする熱可塑性のプラスチックである。ここで、C5留分というのは、原油を蒸留して得られるナフサを分解して副生する炭素数が5つの炭化水素のことである。
【0025】
コレステリック液晶層102は、例えば赤の右円偏光を選択的に反射する光学特性に設定されたコレステリック液晶の層である。なお、コレステリック液晶層102が選択反射する反射光の色は、緑等の他の色であってもよい。また、反射する円偏光の旋回方向は右旋回に限定されず、左旋回であってもよい。
【0026】
ホログラム加工103は、コレステリック液晶層102にホログラム型を押し付けてエンボス構造を付与することで施されている。コレステリック液晶層102からの反射光を観察すると、ホログラム加工103に起因するホログラムの像が観察される。ホログラムの内容としては、図形、模様、文字、各種のデザイン、デジタル画像情報を含むコード表示等が可能である。
【0027】
粘着層104は、粘着剤の層であり、識別媒体100を対象物に貼り付け固定する機能を有する。粘着層104を構成する粘着剤に黒や濃い青等の暗色の顔料を含有させると、粘着層104が光吸収層として機能し、コレステリック液晶層102の反射光を用いた識別効果が高くなる。なお、粘着層104を暗色以外の色にしたり、透明にしたりすることも可能である。
【0028】
セパレータ105は、識別媒体100の未使用時において、粘着層104の露出面を覆う離型紙である。識別媒体100を対象物に貼り付ける際には、セパレータ105を剥がし、粘着層104を露出させ、粘着層104を対象物に接触させる。これにより、粘着層104の粘着力によって識別媒体100が対象物に貼り付き、対象物に固定される。
【0029】
(製造方法)
まず図示しない基板上でコレステリック液晶層102を成長させる。次いで、コレステリック液晶層102の露出面をCOP層101の片面に接着剤によって固定し、上記図示しない基板を剥がす。こうして、COP層101とコレステリック液晶層102の積層物を得る。次に、コレステリック液晶層102の露出面にホログラム型を押し付けることで、ホログラム加工103を施す。そして、コレステリック液晶層102のホログラム加工103が施された面に粘着層104を形成し、さらに粘着層104の露出面にセパレータ105を貼り付け、
図1に示す識別媒体100を得る。
【0030】
(光学機能)
例えば、コレステリック液晶層102が赤の右円偏光を選択反射し、粘着層104が暗色で光吸収性である場合を説明する。この場合、COP層101側から識別媒体100を直視すると、全体が赤く見え、ホログラム加工103に基づくホログラムが観察される。そして、この状態で識別媒体100を傾け、見る角度を変化させるとコレステリック液晶層102からの反射光がカラーシフトを示し、観察される色が赤から短波長側に変化する。
【0031】
次に、右円偏光フィルタを介してCOP層101側から識別媒体100を観察すると、コレステリック液晶層102からの赤の右円偏光が優先的に観察され、赤のホログラムがより鮮明に見える。そしてこの状態で識別媒体100を傾け、見る角度を斜めに変化させると、コレステリック液晶層102からの反射光がカラーシフトを示し、赤に見えていた反射光が短波長側にシフトし、赤→橙といった色調の変化が観察される。
【0032】
円偏光フィルタを左円偏光フィルタに代えると、コレステリック液晶層102から反射される赤の右円偏光が、左円偏光フィルタで遮断され、コレステリック液晶層102は透明な状態となり、下地の粘着層104の暗色が観察される。この際、ホログラムは見えない。
【0033】
(優位性)
以上述べたように、識別媒体100は、ホログラム加工103が施されたコレステリック液晶層102をCOP(シクロオレフィンポリマー)層101に接して設けた構造とされている。この構造によれば、粘着層104によって対象物に貼り付けられた状態から識別媒体100を溶剤を用いて剥がそうとした際にCOP層101が溶剤によって溶けて破損する。COP層101は、識別媒体100の基材としても機能する層であり、上記の溶剤に触れることでの破損により、識別媒体100自体が破損し、その再利用が困難となる。
【0034】
すなわち、COP層101を構成するシクロオレフィンポリマーは、ガソリン、灯油、シンナー、ベンジン等の炭化水素系の溶剤に触れると非常に劣化しやすい化学的な性質を有し、また無理に引き剥がすような力を加えた際に引き裂かれ易くまた皴が生じ易いという物理的な性質を有している。このため、溶剤を用いて識別媒体100を対象物から剥がそうとした場合や、強制的に識別媒体100を対象物から剥がそうとした場合に、COP層101が破損し易い、あるいはその痕跡が残り易い。特に溶剤に浸った状態で、COP層101に力が加わると、上記の傾向が大となるので識別媒体としての再利用が不可能となる確率が更に高くなる。
【0035】
コレステリック液晶層102や粘着層104は、軟らかい材質であり、それ自体の剛性はほとんどない。このため、COP層101が破損し千切れた際に千切れたCOP層101と一緒にコレステリック液晶層102および粘着層104が千切れ、識別媒体100は破損した状態となる。そして、破損した識別媒体100は、再利用が困難となる。
【0036】
また、粘着層104と対象物との間に注意深く溶剤を流し込み、溶剤がCOP層101に接触しないようにしても、識別媒体100を剥がそうとする力がCOP層101に働くと、COP層101の物理的に脆い材質により、COP層101にクラックや筋が生じる現象が発生する。この現象が生じると、光学的にそれが視認可能となり、仮に再利用しても不正な剥がし行為の痕跡が残る。
【0037】
(2)第2の実施形態
(構成)
図2には、識別媒体200が示されている。識別媒体200は、
図1の識別媒体100において、コレステリック液晶層102の観察面側と反対側の面(図の下面)に印刷パターンを設けた例である。他の構成は、
図1の識別媒体100と同じである。この場合、コレステリック液晶層102にホログラム加工103を施した後に、インクジェット法やその他適当な印刷方法により印刷パターン106を形成する。印刷パターン106としては、図柄、模様、文字、バーコード等の各種コード表示が可能である。
【0038】
(光学機能)
仮に、粘着層104が暗色で、印刷パターンが緑であり、コレステリック液晶層102が赤の右円偏光を選択反射する設定であるとする。この場合、COP層101側から識別媒体100を直視すると、全体が赤く見え、ホログラム加工103に基づくホログラムが観察され、また印刷パターン106が薄く見える。そして、この状態で識別媒体100を傾け、見る角度を変化させるとコレステリック液晶層102からの反射光がカラーシフトを示し、赤から短波長側に色調が変化する。
【0039】
そして、右円偏光フィルタを介して識別媒体200を観察すると、コレステリック液晶層102からの反射光を優先的に見ることになるので、赤のホログラムが鮮明に見える。またこの状態においても識別媒体200を傾けると、コレステリック液晶層102からの反射光がカラーシフトを示し、それが観察される。
【0040】
そして、左円偏光フィルタを介して識別媒体200を観察すると、コレステリック液晶層102からの赤の右円偏光が左円偏光フィルタで遮断され、印刷パターン106の緑のパターンが鮮明に観察される。
【0041】
(優位性)
識別媒体200の場合も溶剤を用いた不正な剥がし行為や物理的な無理な剥がし行為が行われると、COP層101の破損が発生し、識別媒体200自体が破損し、再利用ができなくなる。
【0042】
(3)第3の実施形態
(構成)
図3には、識別媒体300が示されている。識別媒体300は、観察が行われる側から、保護層となるハードコート層107、ホログラム加工103が施されたコレステリック液晶層102、観察が行われる側と反対側の面(図の下面)に印刷パターン106が形成されたCOP層101、粘着層104、セパレータ105と積層された構造を有している。
【0043】
ハードコート層107は、アクリル樹脂やウレタン樹脂等によるコート層であり、コレステリック液晶層102の観察面側の表面を保護する樹脂の層である。ハードコート層107は可視光を透過し、且つ、透過する光の偏光の状態を乱さないものが選択される。
【0044】
この例において、COP層101は、コレステリック液晶層102の観察が行われる面と反対側の面(図の下面)に接触し、コレステリック液晶層102を支える基材として機能している。COP層101の粘着層104の側の面には、印刷パターン106が形成されている。
【0045】
(光学機能)
識別媒体300の光学機能は、識別媒体200と同じである。
【0046】
(製造方法)
まず、その表面からの剥離が容易な図示しない易剥離性の基板を用意し、その上にハードコート層107を形成する。次にハードコート層107の露出面(
図3でいうとハードコート層107の下面側)にコレステリック液晶層102を形成する。これは、コレステリック液晶層102をハードコート層107上に直接形成してもよいし、別に形成し、それをハードコート層107に載せ代え、そこに固定する方法であってもよい。なお、前者の場合、ホログラム加工103は、ハードコート層107上にコレステリック液晶層102を形成した後に施し、後者の場合、ホログラム加工103は、別基板上でコレステリック液晶層102を形成した後に施す。
【0047】
次に、コレステリック液晶層102の露出面(
図3でいうと下面)をCOP層101に接着剤によって固定し、その後、図示しない易剥離性の基板をハードコート層107から剥がす。こうすることで、観察面側からハードコート層107、コレステリック液晶層102、COP層101と積層された積層物を得る。次に、COP層101の露出面に印刷パターン106を印刷により形成し、更に粘着層104を形成する。最後に、粘着層104の露出面にセパレータ105を貼り付け、
図3に示す識別媒体300を得る。
【0048】
(優位性)
識別媒体300が対象物に貼り付いている状態において、溶剤を用いて識別媒体300を対象物から剥がそうとした場合、COP層101が溶剤で溶けて破損する。特に、識別媒体300では、COP層101が粘着層104に接触しているため、粘着層104を溶かす目的で用いられる溶剤がCOP層101に接触し易い。このため、溶剤を用いた不正な剥がし行為に際して、COP層101の破損がより生じ易い。また、COP層101が溶剤で溶けると、印刷パターン106の表示内容が崩れ、その痕跡が明確に残る状態となる。この点でも、不正な剥がし行為の痕跡が明確に生じやすいという点で有利となる。
【0049】
また、溶剤を用いなくても、無理に識別媒体300を対象物から剥がそうとすると、COP層101に力が加わり、COP層101の破損、あるいは破損までいない場合であってもCOP層101でのクラックの発生や筋の発生が生じる。このため、溶剤を用いない不正な剥がし行為が行なわれた場合も識別媒体の再利用が困難になる。特に溶剤を用いた状態で剥がそうとすると、COP層101が脆くなっている状態で力が加わるので、COP層101が確実に破損する。このため、当該識別媒体の再利用が特に困難となる。
【0050】
(4)第4の実施形態
図4には、識別媒体400が示されている。識別媒体400は、
図3の識別媒体300において、粘着層104の粘着面に穴またはスリット108を設けた構成とされている。ここで、粘着層104の粘着面は、セパレータ105が貼り付けられている面であり、対象物に貼り付けた際に、対象物に接触する側の面(図の下面)である。
【0051】
穴またはスリット108は、粘着層104の粘着面側(セパレータ105に接する面側)から、形成されている。穴またはスリット108の先端は、印刷パターン106がある部分では、印刷パターン106に到達し、印刷パターン106がない部分では、COP層101に到達している。なお、穴またはスリット108の先端が、正確に印刷パターン106およびCOP層101に到達していない構造も可能であるが、できるだけその近くにまで到達している構造が好ましい。
【0052】
穴またはスリット108は、粘着層104を形成した後に、粘着層104の露出面(図の下面)側から針や刃を当てることで形成される。例えば、スリットであれば、粘着層104に切り込みを入れることで形成される。
【0053】
穴またはスリット108が設けられることで、粘着層104の粘着力を弱めるために溶剤が使用された場合に、溶剤が穴またはスリット108からCOP層101の側に浸透し、COP層101に到達し易い構造となる。これにより、溶剤を用いた剥がし行為が行われた際に、COP層101がより破損し易い構造が得られる。また、穴またはスリット108を介して溶剤が印刷パターン106に到達し易いので、印刷パターン106を構成するインクの溶剤による溶解も期待でき、この点でも溶剤を用いた不正な剥がし行為の痕跡が生じ易い構造となる。
【0054】
(5)第5の実施形態
図3または
図4に示す構成において、ハードコート層107の代わりにCOP層を用いることもできる。この構成では、当該識別媒体が溶剤に触れた場合に、コレステリック液晶層102と粘着層104との間に挟まれているCOP層101、および表面保護層として機能するハードコート層107の部分に用いられたCOP層が破損する。このため、どのように注意深く溶剤を用いたとしても再利用が不可能となる可能性が極めて高くなる。
【0055】
(6)第6の実施形態
図1に示す構造において、コレステリック液晶層102の代わりに、通常のホログラム層を採用してもよい。この場合、例えばコレステリック液晶層102の部分が、エンボス加工によるホログラム加工が施された透明な樹脂層、その上に形成されたアルミ蒸着層により構成されたホログラム層に置き換えられる。
【0056】
(7)第7の実施形態
(構成)
図3に示す構造において、COP層101の代わりに延伸COP層を用いた円偏光フィルタ層を採用してもよい。以下、この一例を説明する。
図5には、識別媒体500が示されている。識別媒体500は、
図3の識別媒体300において、COP層101の代わりに延伸COP層109とリオトロピック液晶染料の層110を積層した構造の円偏光フィルタ層111を用いている。なお、円偏光フィルタ層111以外の部分は、
図3の識別媒体300と同じである。
【0057】
延伸COP層109は、COPフィルムを一方向に延伸加工し、複屈折特性を示すように加工したフィルムである。この例では、λ/4板として機能する複屈折性を示すようにCOPフィルムを延伸加工し、延伸COP層109を得ている。また、延伸COP層109は、識別媒体500の基材としても機能する。
【0058】
リオトロピック液晶染料の層110は、特定の偏光方向の直線偏光を選択的に透過する直線偏光層(直線偏光フィルタ)として機能する。円偏光フィルタ層111は、印刷パターン106からの反射光(図の上方向への反射光)を右旋回または左旋回の円偏光に変換する。言い換えると、円偏光フィルタ層111は、印刷パターン106からの反射光として、特定の旋回方向の円偏光のみを図の上方向に選択的に透過する。
【0059】
円偏光フィルタ層111が選択的に透過する円偏光の旋回方向は、コレステリック液晶層102が選択反射する円偏光の旋回方向と逆方向に設定されている。例えば、コレステリック液晶層102が右円偏光を選択反射する設定の場合、円偏光フィルタ層111が左円偏光を図の上方向に選択的に透過する設定とし、コレステリック液晶層102が左円偏光を選択反射する設定の場合、円偏光フィルタ層111が右円偏光を図の上方向に選択的に透過する設定とする。
【0060】
リオトロピック液晶染料の層110を直線偏光層として用いる技術については、例えば、特開2010−250025号公報に記載されている。リオトロピック液晶染料の層110は、色素が一方向に配向した層が多層に積層された構造を有し、この構造により、特定の方向の直線偏光を選択的に透過する性質を示す。
【0061】
以下、リオトロピック液晶染料の層110について説明する。この例において、リオトロピック液晶染料は、延伸COP層109の露出面に、スリットダイコータ等を用いて色素を配向させた状態で塗布され、形成される。スリットダイコータは、溶液状態の偏光層材料を塗布面に供給しつつ、当該材料へ圧力を加えながら塗布方向に引き伸ばすことができる。この塗布方法により、色素が特定の方向に配向し、直線偏光を選択的に透過する性質を有する塗布型偏光層が形成される。
【0062】
塗布型偏光層は、インダンスロン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸のジベンズイミダゾール誘導体やナフタレンテトラカルボン酸誘導体をスルホン酸化したクロモニック相を発現するリオトロピック液晶相として形成される。この塗布型偏光層を塩化バリウムによって脱スルホン化することで不溶化する。この作業を繰り返すことで、塗布型偏光層を多層化し、直線偏光層として機能するリオトロピック液晶染料の層110を形成する。なお、リオトロピック液晶染料の層110における色素の配向性を配向膜や他の配向処理方法により与えることもできる。
【0063】
リオトロピック液晶染料の層110は、シンナーやベンジン等の炭化水素系の溶剤に溶ける材料である。なお、同様な目的で利用できる材料としては、上記のリオトロピック液晶染料以外に、特開2001-330726号に記載されているように二色性色素を添加した液晶等が挙げられる。
【0064】
(光学機能)
例えば、コレステリック液晶層102が右円偏光を選択反射する設定とされ、円偏光フィルタ層111が左円偏光を選択的に透過する設定とされているとする。
【0065】
この場合、右円偏光フィルタのビューアを介して識別媒体500を観察すると、コレステリック液晶層102からの反射光は、ビューアを透過するので、ホログラム加工103に起因するホログラム像を視認できる。これに対して印刷パターン106からの反射光は、直線偏光層であるリオトロピック液晶染料の層110を透過した段階で、直線偏光となり、さらにλ/4板である延伸COP層109を透過した段階で左円偏光となり、右円偏光フィルタであるビューアで遮断され、視認できない。つまり、ホログラム加工103に起因するホログラム像は視認できるが、印刷パターン106からの反射光は視認できない。
【0066】
また、この識別媒体500を左円偏光フィルタのビューアを介して観察すると、コレステリック液晶層102からの右円偏光の反射光はビューアで遮断されるが、印刷パターンからの反射光は、円偏光フィルタ層111を左円偏光の状態で図の上方向に透過するので、左円偏光フィルタのビューアを透過し、視認が可能となる。つまり、ホログラム加工103に起因するホログラム像は視認できないが、印刷パターン106からの反射光は視認できる。
【0067】
こうして、左右の円偏光フィルタを切り替えて観察を行うことで、ホログラム加工103に起因するホログラム像が選択的に見える状態と、印刷パターン106が選択的に見える状態とが切り替わる。この見た目の切り替わりにより高い識別性を得ることができる。
【0068】
(優位性)
粘着層104の粘着力を炭化水素系の溶剤で低下させようとすると、塗布型偏光層により構成されたリオトロピック液晶染料の層110が溶剤により溶け、更に延伸COP層109が溶剤に触れ、延伸COP層109が溶剤により破壊される。これにより、延伸COP層109の基材としての機能が失われ識別媒体500が物理的に破壊される。また、円偏光フィルタ層111の光学機能が失われる。仮に、物理的な破壊が不完全な場合でも円偏光フィルタ層111の光学機能が低下することで、上述した見た目で顕著な違いが認識可能な光学機能が部分的であっても損なわれ、不正利用の痕跡が視覚的に明確に確認できる状態となる。このため、溶剤を用いて対象物から不正に剥がして再利用することの困難性が極めて高くなる。仮に、直線偏光層を塗布型偏光層でなく、一般的な直線偏光フィルムで構成した場合、直線偏光フィルムはヨウ素等の二色性色素を吸着させてPVAを延伸したものをTACフィルムで挟んだ構成となっており、これらの材料は炭化水素系の溶剤で溶けたり、劣化したりしないため、塗布型偏光層を利用した場合に比較して上記の優位性は低くなる。
【0069】
(8)第8の実施形態
図5の識別媒体500において、粘着層104を透明な材質としてもよい。この場合、印刷パターン106に加えて、識別媒体500が貼り付けられる対象物の表面の図柄を、印刷パターン106と同様な識別の対象として利用することができる。また、この構成において、印刷パターン106を設けない構造も可能である。この場合、識別媒体500が貼り付けられる対象物の表面の図柄が印刷パターン106と同様な識別対象の図柄となる。
【0070】
(その他)
第1〜第7の実施形態における構成は、その一部または複数を任意に組み合わせて用いることが可能である。たとえば、
図5の識別媒体500の粘着層104に、
図4の識別媒体400の粘着層104に設けられている孔またはスリット108を設ける構造等が可能である。