(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769835
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】高温不可逆性温度管理材
(51)【国際特許分類】
G01K 11/06 20060101AFI20150806BHJP
G01K 11/16 20060101ALI20150806BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
G01K11/06 C
G01K11/16
C09K9/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-26517(P2014-26517)
(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公開番号】特開2015-152434(P2015-152434A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2014年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】古江 竜児
【審査官】
大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−091626(JP,A)
【文献】
特開2009−139101(JP,A)
【文献】
特開昭52−043476(JP,A)
【文献】
特開平07−027633(JP,A)
【文献】
特開2010−256297(JP,A)
【文献】
特開平10−267761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
C09K 3/00、9/00、9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の一面側の少なくとも一部に、重金属が非含有で且つ最低でも300℃の検知温度で不可逆的に変色する感温変色層が形成されている温度管理材であって、
前記感温変色層は、最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩がセルロース成分含有の粘着材で前記金属箔の一面側に接着されており、
前記有機酸の軽金属塩における軽金属の比重が最大でも4で、
前記セルロース成分が最低でも300℃の温度で分解又は消失することを特徴とする高温用不可逆性温度管理材。
【請求項2】
前記有機酸の軽金属塩が、芳香族カルボン酸又は芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の高温用不可逆性温度管理材。
【請求項3】
前記有機酸の軽金属塩が、芳香族カルボン酸又は芳香族スルホン酸のナトリウム塩又はカリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の高温用不可逆性温度管理材。
【請求項4】
前記感温変色層が、耐熱性樹脂フィルム、耐熱性樹脂層、又は防禦膜で被覆されていないことを特徴とする請求項1に記載の高温用不可逆性温度管理材。
【請求項5】
前記金属箔が、アルミニウム箔又はステンレス箔であることを特徴とする請求項1に記載の高温用不可逆性温度管理材。
【請求項6】
前記金属箔の一面側の表面に、前記感温変色層と異なる色彩の塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の高温用不可逆性温度管理材。
【請求項7】
前記金属箔の他面側に、シリコーン成分含有の接着層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高温用不可逆性温度管理材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は300℃以上の高温で不可逆的に変色する高温不可逆性温度管理材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定温度で変色する感温変色層を有する温度管理材を加熱処理する加工食品等の製品に貼着し、加熱処理後に感温変色層を点検し、製品が所定温度まで昇温されて製品が十分に殺菌されたか否か、或いは所定温度以上に製品が昇温されて製品が熱劣化されていないか否かチェックし、加熱処理後の製品の品質を保証することが行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。これらの温度管理材の感温変色層では、所定温度で溶融した熱溶融物質が紙製基材に吸収されることにより変色するが、紙製基材は加熱温度が300℃以上の高温に耐えることができない。このため、これらの温度管理材は300℃以上の高温加熱処理には使用できない。
【0003】
ところで、300℃以上の高温加熱処理で使用できる温度管理材として、特許文献3及び特許文献4に、コバルトやニッケル等の重金属を含有する感温発色体が形成された不可逆性の温度管理材が記載されている。更に、特許文献3には、この感温発色体の重金属が加熱処理中にガス状となって拡散することを防止すべく、ウェーハ等の素材に装着した温度管理材を耐熱性樹脂フィルム又は耐熱性樹脂層で被覆することが記載されている。また、引用文献4には、透明又は半透明の素材の一面側に貼着した温度管理材を、感温発色体中の重金属のガス化を防止する防禦膜で被覆し、感温発色体の変色を素材の他面側から知るようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−172661号公報
【特許文献2】特開2005−291825号公報
【特許文献3】特開2007−57337号公報
【特許文献4】特開2008−270586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3及び特許文献4のコバルトやニッケル等の重金属を含有する感温発色体が形成されている不可逆性温度管理材によれば、150℃を超える高温加熱処理を施した素材の加熱温度を知ることができる。しかし、特許文献3のように素材に装着した温度管理材を耐熱性樹脂フィルム又は耐熱性樹脂層で被覆するには、300℃以上の高温雰囲気下で透明性又は半透明性を保持できる耐熱性を有する樹脂を必要とするが、このような耐熱性を有する樹脂は制限される。また、特許文献4のように透明又は半透明の素材の一面側に貼着した温度管理材を、感温発色体中の重金属のガス化を防止する防禦膜で被覆することは、透明又は半透明の素材にしか適用できず被加熱材が制限される。更に、被加熱材に装着した温度管理材を耐熱性樹脂フィルム又は耐熱性樹脂層で被覆、或いは防禦膜で被覆することを要することは、多数個の被加熱材の各々に温度管理材を装着することは極めて煩雑な作業である。
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、耐熱性樹脂や防禦膜等で被覆することを要せず最低でも300℃の高温で不可逆的に変色する感温変色層を具備する高温不可逆性温度管理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた高温用不可逆性温度管理材は、金属箔の一面側の少なくとも一部に、重金属が非含有で且つ最低でも300℃の検知温度で不可逆的に変色する感温変色層が形成されている温度管理材であって、前記感温変色層は、最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩が
セルロース成分含有の粘着材で前記金属箔の一面側に接着されて
おり、前記有機酸の軽金属塩における軽金属の比重が最大でも4で、前記セルロース成分が最低でも300℃の温度で分解又は消失することを特徴とするものである。
【0008】
前記有機酸の軽金属塩が、芳香族カルボン酸又は芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。
【0009】
前記有機酸の軽金属塩が、芳香族カルボン酸又は芳香族スルホン酸のナトリウム塩又はカリウム塩であることが好ましい。
【0010】
前記
感温変色層が、耐熱性樹脂フィルム、耐熱性樹脂層、又は防禦膜で被覆されていないことが好ましい。
【0011】
前記金属箔が、アルミニウム箔又はステンレス箔であることが好ましい。
【0012】
前記金属箔の一面側の表面に、前記感温変色層と異なる色彩の塗料が塗布されていることが好ましい。
【0013】
前記金属箔の他面側に、シリコーン成分含有の接着層が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る高温用不可逆性温度管理材によれば、重金属を含まずに150℃を超える300℃以上の高温で感温変色層が変色することから、装着した高温用不可逆性温度管理材を防禦膜等で被覆することなく熱処理体に300℃以上で熱処理を施すチャンバー内を重金属で汚染するおそれを解消できる。また、300℃以上の高温で加熱処理を施した熱処理体の加熱温度斑の有無等の測定や熱処理体の熱処理履歴を管理でき、熱処理体の品質管理に役立たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施をするための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る高温用不可逆性温度管理材は、金属箔の一面側の少なくとも一部に、重金属が非含有で且つ最低でも300℃の検知温度で不可逆的に変色する感温変色層が形成されており、この感温変色層は、最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩が粘着材で金属箔の一面側に接着されているものである。
【0017】
本発明でいう重金属は、比重が4を超える金属をいい、具体的にはアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属をいう。また、金属箔は、樹脂フィルムに比較して、300℃以上の高温の検知温度で溶融せず、且つ良好な伝熱性を有しており、一面側の感温変色層に他面側の熱を迅速に伝熱できる。この金属箔としては、300℃以上の検知温度で溶融しないものであればよいが、300℃以上の検知温度で加熱されても変色等することなく安定しているアルミニウム箔又はステンレス箔を好適に用いることができる。
【0018】
このような金属箔の一面側に形成された感温変色層は、最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩が粘着材で金属箔の一面側に固着されている。ここで、軽金属とは、比重が4以下のものであって、具体的にはアルカリ金属又はアルカリ土類金属に属する金属をいう。また、最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩には、融点が300℃未満であっても、昇華又は分解する温度が少なくとも300℃であるもの、或いは溶融せずに少なくとも300℃で昇華又は分解するものが含まれる。
【0019】
最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩としては、テレフタル酸ジナトリウム、安息香酸カリウム、サリチル酸ナトリウム、イソニコチン酸ナトリウム等の芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩;スルファニル酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム等の芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;ピルビン酸ナトリウム等のオキソプロパン酸のアルカリ金属塩を挙げることができる。このような有機酸の軽金属塩のうちで、テレフタル酸ジナトリウム、安息香酸カリウム、サリチル酸ナトリウム、イソニコチン酸ナトリウム等の芳香族カルボン酸のナトリウム塩又はカリウム塩、或いはスルファニル酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム等の芳香族スルホン酸のナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。
【0020】
このような最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩は金属箔の一面側に粘着材に接着されて感温変色層を形成する。感温変色層は金属箔の一面側の全面に形成してもよく、金属箔の一面側の一部に形成してもよい。金属箔の一面側の一部に感温変色層を形成する場合は、金属箔の一面側の表面に、感温変色層と異なる色彩の塗料が塗布されていることが、感温変色層が変色したか否かを確実に視認でき好ましい。この塗料としては、シリコーン樹脂を配合した耐熱性塗料が好ましい。
【0021】
感温変色層に用いる粘着材としては、オルガノシロポリシロキサンのようなシリコーン成分を主成分とする耐熱性粘着材を用いてもよいが、シリコーン成分含有の粘着材に比較して耐熱性に劣るセルロース成分含有の粘着材を好適に用いることができる。300℃以上の高温下で有機酸の軽金属塩が分解等して感温変色層が変色したとき、シリコーン成分含有の粘着材に比較して、その変色を明確に視認できる。セルロース成分含有の粘着材は、300℃以上の高温下で分解して消失しているからと考えられる。セルロース成分含有の粘着材としては、エチルセルロース、メチルセルロースを挙げることができる。
【0022】
金属箔の一面側に感温変色層が形成された高温用不可逆性温度管理材は、300℃以上の高温熱処理を施す熱処理体に載置されて、熱処理体と一緒に所定の熱処理が施される。その熱処理の際に、熱処理体の所定位置に高温用不可逆性温度管理材が確実に位置するように、金属箔の他面側にシリコーン成分含有の耐熱性接着層が形成されていることが好ましい。
【0023】
熱処理体の所定位置に載置されて熱処理された高温用不可逆性温度管理材は、その加熱温度が300℃以上の検知温度に到達したとき、感温変色層の有機酸の軽金属塩は溶融、昇華又は分解して変色し、感温変色層が変色する。変色した感温変色層は、高温用不可逆性温度管理材を室温に冷却しても、元に戻ることはない。このような高温用不可逆性温度管理材によれば、熱処理が終了して冷却された熱処理体に載置されている高温用不可逆性温度管理材の感温変色層の変色の有無を視認することにより、熱処理体が300℃以上の熱処理温度に昇温されたか否か、或いは300℃以上の熱処理温度を超えて昇温されたか否かを判断できる。この感温変色層は、有機酸の軽金属塩が昇華して変色する場合は無色に変色し金属箔の色調を目視可能にし、有機酸の軽金属塩が分解して変色する場合は分解に応じ茶色乃至黒色に変色する。更に、高温用不可逆性温度管理材の感温変色層には、重金属が配合されておらず、熱処理体を加熱するチャンバー内を重金属で汚染するおそれも解消できる。
【0024】
このような高温用不可逆性温度管理材は、最低でも300℃の温度で溶融、昇華又は分解する有機酸の軽金属塩と粘着材と溶剤とをボールミル等の混練機で混練して得た高温用示温インキを、印刷基材としての金属箔の一面側の少なくとも一部に、スクリーン印刷等により塗布して感温変色層を形成した後、形成した感温変色層を乾燥して得ることができる。この金属箔の一面側の表面には、形成する感温変色層と異なる色彩の耐熱性塗料を塗布しておくことにより、感温変色層の変色を簡単に視認できる。また、金属箔の他面側にも、シリコーン成分含有の耐熱性接着剤を塗布して接着層を形成し、熱処理体の所定位置に接着可能となるようにしてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない
【0026】
(実施例1)
(1)高温用示温インキの調製
有機酸の軽金属塩であるテレフタル酸ジナトリム50gと、粘着材であるエチルセルロース2gと、溶媒であるヘキサノール48gとをボールミルで三昼夜混練して高温用示温インキを得た。
(2)印刷基材の調製
印刷基材として、YSテック株式会社製HP−350Nを準備した。この印刷基材は、ステンレス箔の一面側全面に黒色の耐熱性塗料が塗布され、他面側にシリコーン成分含有の耐熱性接着剤が塗布されて接着層が形成されている。
(3)高温用不可逆性温度管理材の作製
印刷基材の黒色の耐熱性塗料が塗布されている一面側に、(1)で得た高温用示温インキをスクリーン印刷で塗布して形成した感温変色層に乾燥を施した後、5mm×5mmの正方形に裁断して高温用不可逆性温度管理材とした。得られた高温用不可逆性温度管理材の感温変色層は白色であった。
(4)感温変色層の変色温度
得られた高温用不可逆性温度管理材を、ステンレス箔の他面側に形成した接着層でステンレス板に貼付した後、ステンレス板ごとマッフル炉に挿入した。次いで、マッフル炉の炉内温度を2.5℃/分の昇温速度で昇温し、感温変色層が黒色に変色する変色温度を測定した。この変色温度を10回繰り返して測定し、平均温度を求めたところ600℃であった。
(5)復色試験
感温変色層が黒色に変色した高温用不可逆性温度管理材が貼付されたステンレス板をマッフル炉から取り出して室温まで冷却し、黒色に変色した感温変色層が白色に復色するか否かを確認した。冷却した高温用不可逆性温度管理材の感温変色層は、依然として黒色であって、復色は見られなかった。テレフタル酸ジナトリムは、溶融することなく600℃で分解して感温変色層を黒色に変色したものと推察される。
【0027】
(実施例2)
実施例1において、有機酸の軽金属塩であるテレフタル酸ジナトリムを、下記表1のものに代えた他は、実施例1と同様にして高温用不可逆性温度管理材を作製した。得られた高温用不可逆性温度管理材について、実施例1と同様にして感温変色層の変色温度を測定し、復色試験を行った。測定した変色温度、変色後の感温変色層の色相及び復色試験の結果を下記表1に併記した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1記載の有機酸の軽金属塩であるサリチル酸ナトリウムを配合した感温変色層の変色温度は540℃である。サリチル酸ナトリウムの融点は200℃であるが、変色温度の540℃で分解して感温変色層を黒色に変色させたものと推察される。また、ベンゼンスルホン酸ナトリウムの融点は450℃であるが、感温変色層の変色温度は400℃である。融点よりも低温でベンゼンスルホン酸ナトリウムが分解して感温変色層を黒色に変色しているものと考えられる。スルファニル酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、イソニコチン酸ナトリウム、安息香酸カリウムの融点はいずれも300℃以上であり、いずれの有機酸の軽金属塩も融点以上の温度で感温変色層が変色していることから、分解して感温変色層を変色させたものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る高温用不可逆性温度管理材は、300℃以上の高温で加熱処理を施した熱処理体の加熱温度斑の有無等の測定や熱処理体の熱処理履歴を管理でき、熱処理体の品質管理に用いることができる。