【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0032】
製造例1:ウバユリ、タネツケバナの抽出物の調製
ウバユリの葉の乾燥物2グラムに80%エタノール20mlを加え、50℃で8時間時々振盪し、室温で一晩静置した。これを濾過し、濾液の一部7mlを50℃で窒素パージを用いて乾燥させ、次いで一晩凍結乾燥させて、ウバユリの抽出物82mgを得た。同様の手順で、80%エタノール20mlを用い、タネツケバナの全草の乾燥物2グラムから得られた濾液の一部10mlを乾固させ、抽出物231mgを得た。
【0033】
製造例2:Pandanus polycephalusの抽出物の調製
Pandanus polycephalusの葉の乾燥物100gにメタノール約1リットルを加え、室温で、時々振盪しながら4日間静置した。これを濾過し、濾液を40〜45℃にてロータリーエバポレートを用いて減圧濃縮した。得られた残渣を、真空ポンプを用いて一晩乾燥し、Pandanus polycephalusの抽出物9.83gを得た。
【0034】
試験例1:細胞形態に基づく細胞死誘導性の検討
PSF1遺伝子プロモーター制御下にEGFPを発現する肺がん細胞株 LLC (Cancer Res 70, 1215-1224, 2010)を、大阪大学から入手した。この細胞株を10%胎仔牛由来血清(FCS)、100 units/mlのペニシリン、100 μg/mlのストレプトマイシンを添加したDMEM中で、5% CO
2、37℃の条件下で培養した。このようにして培養したLLCを10
4細胞ずつ6well培養皿に播種し、2mlの上記培養液中で24時間培養した。上記製造例1及び2で得た各抽出物を、最終濃度が100μg/mlとなるようにdimethyl sulfoxide (DMSO; ナカライ テスク社製)に溶解し、2μlをLLCを培養したウェルに添加した。ネガティブコントロールには、DMSOのみを2μl添加した。ポジティブコントロールには、製造例1と同様の方法でRhus taitensisの葉から得た抽出物を終濃度が100μg/mlとなるように添加した。その後、前記培養条件で16時間培養し、細胞の形態を顕微鏡で観察した。結果を
図1に示す。ネガティブコントロールの細胞像と同様に、ウバユリ、タネツケバナ、及びP. polycephalusの抽出物を添加した細胞の形態は特に変化なく、細胞死が誘導されていないことが示された。一方、Rhus taitensisの抽出物を添加した細胞では、細胞死の誘導が確認された。
【0035】
試験例2:PSF1遺伝子発現抑制作用の検討
試験例1と同じ条件で培養したLLC細胞を5%FCSを含むリン酸緩衝液(PBS)で1回洗浄した後、500μlの5%FCSを含むPBSに分散させた。そこに、propidium iodide(PI:BD Bioscience社製)を2μl加えて穏やかに混和し、室温、暗所で15分間反応させた。その後、細胞をフローサイトメーター(FACS Calibur:Becton Dickinson社製)に供し、GFP蛍光強度及びPI蛍光強度についてフローサイトメトリー法を用いて解析した(
図2)。ネガティブコントロールの細胞ではほとんどがGFP陽性PI陰性である。これは、細胞が生存しており、PSF1の遺伝子が転写され続けていることを意味する。一方、ポジティブコントロールであるRhus taitensisの抽出物を添加した細胞では、PI強度が上昇し、細胞死が誘導されたことが確認された。これらと比較して、ウバユリ、タネツケバナ、Pandanus polycephalusの抽出物を添加した細胞では、PIの強度はさほど上昇せず、GFP強度は低下することが確認された。この結果から、ウバユリ、タネツケバナ、Pandanus polycephalusの抽出物によって、細胞死は誘導されないがPSF1遺伝子のプロモーター活性が抑制されることが判明した。
【0036】
試験例3:リアルタイムPCRを用いたPSF1発現抑制作用の検討
定量リアルタイムPCR を用いて、LLC細胞,ヒトglioma細胞 (U87MG), breast cancer細胞 (MCF7), lung cancer細胞 (EBC1), gastric cancer細胞 (HGC-27), colon cancer細胞 (HT29), prostate cancer細胞 (PC3), cervical cancer細胞 (HELA),及びleukemia細胞 (MEG01)におけるPSF1遺伝子の発現に対する影響を検討した。試験例1と同様の条件で培養し、各抽出物で処理したがん細胞から、kit (Qiagen社製)を用いて、トータルRNAを得た。尚、HT29細胞については、各抽出物を最終濃度が10μg/ml となるように0.2μl添加した。次に、ExScript RT reagent Kit(タカラ社製)を用いて、回収した各全RNAからcDNAをそれぞれ合成し、得られたcDNAを用いて、PSF1の発現をリアルタイムPCR法によって解析した。比較対照として解糖系酵素であるGAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)のmRNAの発現量も測定した。リアルタイムPCRは、Stratagene Mx300P (Stratagene社製)を用いて実施した。マウスPSF1をPCRで合成する際のプライマーとして、以下の配列を用いた。
【0037】
5´- CCGGTTGCTTCGGATTAGAG -3´(配列番号1)
5´- CTCCCAGCGACCTCATGTAA -3´(配列番号2)
マウスGAPDHをPCRで合成するためのプライマーとして以下の配列を用いた。
5´- AACTTTGGCATTGTGGAAGG -3´(配列番号3)
5´- GGATGCAGGGATGATGTTCT -3´(配列番号4)
ヒトPSF1をPCRで合成する際のプライマーとして、以下の配列を用いた。
5´- ACCTGTATGACCGCTTGCTTC -3´(配列番号5)
5´- TTCATCTCCTCCCAGTGAC-3´(配列番号6)
ヒトGAPDHをPCRで合成する際のプライマーとして、以下の配列を用いた。
5´- ACCCAGAAGACTGTGGATGG -3´(配列番号7)
5´- CCCTGTTGCTGTAGCCAAAT -3´(配列番号8)
【0038】
測定結果を
図3(マウス)及び4(ヒト)に示す。
図3及び4に示される結果から、ウバユリ、タネツケバナ、Pandanus polycephalusの各抽出物は、マウス及びヒトのがん細胞におけるPSF1の発現を抑制することが確認された。特に、ヒトがん細胞を用いた解析結果から、これら抽出物は、脳腫瘍、乳がん、呼吸器がん、消化器がん、泌尿器系腫瘍、女性性器腫瘍、そして血液腫瘍などへの効果が確認され、あらゆる種類のがん種に対してPSF1発現抑制効果を有することが判明した。この結果は、ウバユリ、タネツケバナ、Pandanus polycephalusの各抽出物は、がん細胞/がん幹細胞においてPSF1の発現を抑制し、細胞周期を停止させることでがんの休眠化を誘導することを意味する。これまでの解析によれば、PSF1の遺伝子はがんの種類に関係なく発現が亢進しているため、これらのエキスはあらゆるがんの治療に有効であると考えられる。また、がんの悪性化及び重篤化の予防にも有効であることが期待される。
【0039】
試験例4:マウス肺がん発生モデルを用いたin vivo活性評価の検討
KLN205細胞(マウス扁平上皮肺癌細胞)は独立行政法人理化学研究所から入手した。この細胞を、10%FBS (Hyclon社)、Non-Essential Amino Acids (Lonza社)、ペニシリン(100units/ml ;Invitrogen社)、及びストレプトマイシン (100μg/ml; Invitrogen社)を含有するEagle MEM(日水製薬社)を用いて培養した。80%コンフレントまで培養後、Trypsin/EDTA (Invitrogen社)により回収し、PBSにて2.0x10
6細胞/mLに調製した。
【0040】
7週齢のDBA/2雌性マウス(日本SLC社製)を清水実験材料株式会社より購入し、3日間予備飼育を行い馴化させた。マウスは、温度22±3℃、湿度55±15%、常時オールフレッシュ方式換気、照明12hr/day(午前6時より午後6時)に設定した飼育室にて、プラスチック製飼育ケージに3匹ずつ収容し飼育した。また、飼料はラボMRストック(日本農産工業)、水は水道水を自動給水装置で自由摂取させた。
【0041】
ソムノペンチル(共立製薬株式会社)にて麻酔を施したマウスの尾静脈より、調製したKLN205細胞を100μL(2.0x10
5細胞)注射した。注射5日後からDMSOおよびPBSにて10mg/mLに調製したウバユリ、タネツケバナ、及びP. polycephalusの抽出物を腹腔内へマウス1匹あたり200μL投与した。なおDMSOの終濃度は5%であった。各抽出物は1日おきに7回投与し、最終投与から2日後にソムノペンチルにて麻酔を施した後、肺を摘出しパラホルムアルデヒド(和光純薬株式会社)にて組織の固定をおこなった。肺がん発症の評価は、固定した肺を実体顕微鏡下で観察し、1肺表面に確認できる腫瘍塊を合計することで行った。
【0042】
評価結果を
図5に示す。
図5に示される結果から明らかなように、コントロールと比べてすべての抽出物により肺に形成される腫瘍塊の数が減少することが判明した。この解析系では、一個のがん細胞が一つの腫瘍塊を形成することが予想される、がん幹細胞による腫瘍形成のモデルと考えられている(T. Kaneko et al., : KLN205 - a murine lung carcinoma cell line. In Vitro, 16 (1980), pp. 884-892)。つまり、PSF1の発現を抑制する抽出物は、がん幹細胞の旺盛な自己複製を抑制し、がんの発症を抑制すると考えられた。また、がんがすでに発症していたとしても、がん幹細胞の自己複製を抑制すればがん細胞の増殖を抑制できることから、がんの予防だけでなくがんの治療にも抽出物質を利用することができると考えられた。
【0043】
試験例4:抽出条件の検討(ウバユリ)
下記の表1に示す各種の抽出溶媒10mlを用い、上記製造例1と同様の手順で、ウバユリの葉1g(乾燥重量)から抽出物を調製した。但し、「還流」の記載があるものは、還流温度で1時間還流抽出を行った。各抽出物について、試験例1及び2と同様の試験を行い、細胞死誘導活性はなく、PSF1遺伝子発現抑制活性を有するものについて、活性ありと判断した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
試験例5:ウバユリ、オオウバユリの抽出部位の検討
下記表2に示す通り、ウバユリ又はオオウバユリの各部位の乾燥物1グラムに、80%エタノール10〜15mlを加え、70℃で6時間放置し、濾過後、製造例1の手順に従って、抽出物を得た。各抽出物について、試験例1及び2と同様の試験を行い、細胞死誘導活性はなく、PSF1遺伝子発現抑制活性を有するものについて、活性ありと判断した。その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
試験例6:抽出条件の検討(タネツケバナ)
下記の表3に示す各種の抽出溶媒10mlを用い、上記製造例1と同様の手順で、タネツケバナの葉1g(乾燥重量)から抽出物を調製した。但し、「還流」の記載があるものは、還流温度で1時間還流抽出を行った。各抽出物について、試験例1及び2と同様の試験を行い、細胞死誘導活性はなく、PSF1遺伝子発現抑制活性を有するものについて、活性ありと判断した。その結果を表に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
試験例7:オオバタネツケバナを用いた試験
上記製造例1と同様の方法により、80%エタノール20mlを用いて、オオバタネツケバナ(Cardamine regeliana)の全草の乾燥物2グラムから得られた濾液の一部10mlを乾固させ、抽出物267mgを得た。この抽出物を用いて、上記試験例1及び2と同様の試験を行ったところ、即時の細胞死誘導活性はなく、PSF1遺伝子の発現抑制活性が確認された。