【文献】
Hyun Ju Cho and Chang Kwon Hwangbo,Optical inhomogeneity and microstructure of ZrO2 thin films prepared by ion-assisted deposition,APPLIED OPTICS,1996年10月 1日,Vol. 35, No. 28,pp.5545-5552
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面によれば、各種薄膜の諸性能をより高めうる成膜方法及び成膜装置を提供する。本発明の他の側面によれば、光学特性がより高められた光学薄膜を効率よく成膜することができる成膜方法及び成膜装置を提供する。本発明のさらに他の側面によれば、耐摩耗性がより高められた、撥水、撥油、防汚などの諸特性を持つ機能性薄膜を効率よく成膜することができる成膜方法及び成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の観点によれば、
回転している基体保持手段の基体保持面に保持された複数の基体の
すべてに薄膜を堆積させる成膜方法において、
回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(例えばA3
に属する基体群)に対して、該
基体群以外の他の基体群に対するよりも多い量の、前記薄膜の成膜材料を
付着させる成膜手
段を用い、
複数
の基体を前記基体保持面に保持させた状態で前記基体保持手段を回転させながら前記成膜手段を継続して作動させることにより、移動しているすべての或いは一部の各基体に対する前記成膜材料の
付着量を時間とともに変化させながら、
移動しているすべての基体に成膜材料を付着させ、前記成膜材料からなる前記薄膜を堆積させることを特徴とした成膜方法が提供される。
【0006】
本発明では、基体保持手段の回転に伴って移動している複数
の基体の
すべてに薄膜を堆積させるにあたり、部分供給される成膜材料に対して、エネルギー粒子を照射することによるアシスト効果を与えてもよい。エネルギー粒子の照射は、回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体(例えばA1
に属する基体群)
への全面照射でもよい。しかしながら本発明では、回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(例えばA2
に属する基体群)のみ
に照射する部分照射が好ましい。
【0007】
すなわち本発明の第2の観点によれば、
回転している基体保持手段の基体保持面に保持された複数の基体の
すべてに薄膜を堆積させる成膜方法において、
回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(例えばA3
に属する基体群)に対して、該
基体群以外の他の基体群に対するよりも多い量の、前記薄膜の成膜材料を
付着させる成膜手段と、
回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(例えばA2
に属する基体群)のみ
にエネルギー粒子を照射
させる照射手段とを用い、
複数
の基体を前記基体保持面に保持させた状態で前記基体保持手段を回転させながら前記成膜手段と前記照射手段を継続して作動させることにより、移動しているすべての或いは一部の各基体に対する前記成膜材料の
付着量を時間とともに変化させながら、
移動しているすべての基体に成膜材料を付着させ、かつすべての或いは一部の各基体に対して、一時的に、前記エネルギー粒子が照射されない時間を確保しながら、
移動している基体に付着した成膜材料にエネルギー粒子を照射させ、前記成膜材料からなり、アシスト効果が与えられた前記薄膜を堆積させることを特徴とした成膜方法が提供される。
【0008】
本発明の照射手段は、下記(1)、(2)の少なくともいずれかなどとして用いられる。好ましくは、少なくとも下記(1)として用いる。
(1)薄膜堆積時にアシスト効果を与えるための、成膜手段の作動とともに作動させる成膜アシスト手段、
(2)成膜対象である各基体の表面をクリーニングするための、成膜手段の作動開始前に作動させるクリーニング手段。
【0009】
本発明の第2の観点による成膜方法において、
前記成膜手段により前記他の基体群に対するよりも多い量の成膜材料が
付着する前記
特定の基体群(A3
に属する基体群)は、
前記照射手段により薄膜堆積時にアシスト効果を与えるエネルギー粒子が照射される
前記特定の基体群(A2
に属する基体群)と同一配置でもよい。また別配置とすることもできる。さらに一方の
基体群(A2
に属する基体群又はA3
に属する基体群)が他方の
基体群(A3
に属する基体群又はA2
に属する基体群)の少なくとも一部と重複する配置とすることもできる。「少なくとも一部と重複」とは、一方の
基体群が他方の
基体群のすべてと重複する場合を含む趣旨である。
【0010】
本発明において、加速電圧が50〜1500Vのエネルギー粒子を用いることができ、及び/又は、照射電流が50〜1500mAのエネルギー粒子を用いることができる。本発明において、少なくとも酸素を含むエネルギー粒子を用いることができる。エネルギー粒子として、イオン源から照射されるイオンビームのほか、プラズマ源から照射されるプラズマなども用いることができる。
【0011】
本発明によれば、複数
の基体を保持するための基体保持面を持つ基体保持手段が真空容器内に、鉛直軸回りに回転可能に配設された成膜装置において、
回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(例えばA3
に属する基体群)に対して、該
基体群以外の他の基体群に対するよりも多い量の成膜材料を
付着させることが可能となる構成で前記真空容器内に設置された成膜手段と、
回転
している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(例えばA2
に属する基体群)のみ
にエネルギー粒子を照射
させることが可能となる構成、配置及び/又は向きで前記真空容器内に設置された照射手段とを有する成膜装置が提供される。
【0012】
本発明では、補正板などの遮蔽板の遮蔽効果に頼らず成膜源のみで成膜手段を構成することができる。この場合、放出される成膜材料が、
回転している基体保持手段の基体保持面
に保持されるすべての基体(例えばA1
に属する基体群)の半分以下(あるいは50%以上80%以下)に対して
、残りの基体群に対するよりも多い量の成膜材料が付着可能となるように、成膜源を真空容器内下方の略中央配置から端側へ寄せて配置すればよい。
【0013】
真空容器内下方の端側に寄せて成膜源を配置する場合、基体保持手段の回転中心である鉛直軸が延びる方向に沿った基準線に対して、成膜源の中心と基体保持手段の外縁の最遠点とを結ぶ線の成す角度が40度以上となる位置に、成膜源を配置することができる。
【0014】
本発明において、照射手段は、
回転している基体保持手段の基体保持面
に保持されるすべての基体(例えばA1
に属する基体群)の半分以下(あるいは50%以上80%以下)に対してエネルギー粒子が照射され
る配置で真空容器内に配設することができる。
【0015】
本発明において、照射手段は、加速電圧が50〜1500Vのエネルギー粒子、及び/又は、照射電流が50〜1500mAのエネルギー粒子を照射可能な照射源で構成することができる。照射源としては、イオンビームを照射するイオン源や、プラズマを照射するプラズマ源などが挙げられる。
【0016】
本発明の成膜装置において、
前記成膜手段により前記他の基体群に対するよりも多い量の成膜材料が
付着する前記
特定の基体群(A3
に属する基体群)は、
前記照射手段によりエネルギー粒子が照射される
前記特定の基体群(A2
に属する基体群)と同一配置でもよい。また別配置とすることもできる。さらに一方の
基体群(A2
に属する基体群又はA3
に属する基体群)が他方の
基体群(A3
に属する基体群又はA2
に属する基体群)の少なくとも一部と重複する配置とすることもできる。「少なくとも一部と重複」とは、一方の
基体群が他方の
基体群のすべてと重複する場合を含む趣旨である。
【0017】
本発明において、基体保持手段を回転させる回転手段をさらに有し、照射手段は、基体保持手段の回転する軸線に対して該照射手段からエネルギー粒子が照射される軸線が、6度以上70度以下の角度を有するように真空容器の内部に配設することができる。本発明において、照射手段は、真空容器の側面側に配設することができ、また照射手段は、成膜の際に基体保持面に保持される基体から照射手段までの距離が平均自由行程以下になるように配設することができる。本発明において、照射手段は、少なくとも取り付け角度が調整可能な支持手段を介して真空容器の側面に取り付けることもできる。
【0018】
本発明において、基体保持手段は、平板状又はドーム状、或いは角錐状をなしており、その一方の面から他方の面まで貫通する貫通孔が形成されている場合には、成膜の際に基体保持面に保持される基体は、貫通孔を塞ぐように基体保持手段に保持することができる。本発明において、基体及び基体保持手段を加熱するための加熱手段をさらに備えることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、
回転している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群に対して、該
基体群以外の他の基体群に対するよりも多い量の成膜材料を
付着させることが可能となる構成で真空容器内に設置された成膜手段を用いる。そして、複数
の基体を基体保持面に保持させた状態で基体保持手段を回転させながら成膜手段を継続して作動させる(成膜材料の部分供給)。これにより、移動しているすべての或いは一部の各基体に対する前記成膜材料の
付着量を時間とともに変化させながら、
複数の基体の
すべてに、前記成膜材料からなる薄膜を堆積させる。
本発明によれば、移動しているすべての或いは一部の各基体に対して成膜材料が時間的にパルス状に高密度で供給される。このパルス状に密度の高い成膜材料の供給により、各基体表面のエネルギー状態の活性化が促進される。この後、多粒子間の相互作用を通して各基体の表面は熱平衡状態へと到達する(thermalization)確率が高くなる。これにより、
回転している基体保持手段の基体保持面に保持され
るすべての基体に
多い量の成膜材料を
付着(成膜材料の全面供給)
させる従来手法と比較して、基体とその上に堆積する薄膜との間での結合力をより高めることができ、その結果、
複数の基体の
すべてに諸性能(機能性薄膜における耐摩耗性、光学薄膜における光学特性)に優れた薄膜を形成することができる。
【0020】
本発明の好ましい態様によると、特定の前記成膜手段に加え、さらに、
回転している基体保持手段の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群のみ
にエネルギー粒子を照射
させる照射手段を用いる。そして、複数
の基体を基体保持面に保持させた状態で基体保持手段を回転させながら成膜手段と照射手段の両手段を継続して作動させる(成膜材料の部分供給とエネルギー粒子の部分照射)。これにより、移動しているすべての或いは一部の各基体に対する成膜材料の
付着量を時間とともに変化させながら、かつすべての或いは一部の各基体に対して、一時的に、エネルギー粒子が照射されない時間を確保しながら、
複数の基体の
すべてに、前記成膜材料からなり、アシスト効果が与えられた前記薄膜を堆積させる。
この態様によれば、上記成膜材料の部分供給による効果に加え、移動しているすべての或いは一部の各基体に対してエネルギー粒子が時間的にパルス状に高密度で照射される。成膜材料の部分供給とともに、このパルス状に密度の高いエネルギー粒子を照射することにより、各基体表面のエネルギー状態の活性化促進に加え、各基体表面に堆積する成膜粒子のエネルギー状態の活性化も促進され、各基体の表面に堆積した成膜粒子が熱平衡状態へと到達する確率がより一層高くなる。その結果、
複数の基体の
すべてに、諸性能(前出)に優れた薄膜を形成することがより一層容易になることが期待できる。
【0021】
なお、本発明において、
単一の成膜バッチで処理する複数
の基体は基体保持手段の基体保持面の全体に亘って設置されることもあるし、あるいは基体保持面の一部分のみに設置されることもある。ここで「基体保持面の全体に亘り」とは、基体保持面の一部(例えば外縁付近など)のみに基体を保持する場合を排除する趣旨である。
また本発明において「パルス状」とは次の意味で用いる。すなわち、成膜手段が作動している間は常に基体保持手段に向けて成膜材料が供給されてはいるが、移動している複数の各基体の一部(例えば「基準基体X」とする)に着目した場合、継続して供給される成膜材料は、その
付着量が時間とともに変化し、ある時間は基準基体Xに対して多く
付着し、その後のある時間は基準基体Xに対して少ない量しか
付着されない。照射手段が作動している間は常に基体保持手段に向けてエネルギー粒子が照射されてはいるが、移動している複数の各基体の一部(基準基体Y。このYは上記Xと同一であるか否かは問わない)に着目した場合、継続して照射されるエネルギー粒子は、ある時間だけ基準基体Yに照射され、その後のある時間は基準基体Yに照射されない。つまり基準基体Yに対してエネルギー粒子が照射されない時間帯が存在する。
【0022】
成膜材料に関して言えば、移動しているすべての或いは一部の各基体に対し、継続して供給される成膜材料の時間あたりの
付着量が変化する状態を「パルス状」と定義する。エネルギー粒子に関して言えば、移動しているすべての或いは一部の各基体に対し、継続して照射されるエネルギー粒子が、ある時間だけ照射され、その後のある時間は照射されない状態を「パルス状」と定義する。
【0023】
「成膜材料の部分供給」は、移動しているすべての基体の少なくとも一部に対する成膜材料の時間あたりの
付着量の、最大値と最小値の比(最大値/最小値)が5超となるように行うことができる。このように、最大値と最小値の比(最大値/最小値)が5超となるような成膜材料の部分供給は、例えば、基体保持手段の回転中心である鉛直軸が延びる方向(鉛直方向)に沿った基準線に対して、成膜手段の中心と基体保持手段の外縁の最遠点とを結ぶ線の成す角度(θ1)が40度以上となるように成膜手段を配置することにより実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、上記発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<<第1実施形態>>
図1に示すように、本例の成膜装置1は、縦置き円筒状の真空容器10を含む。
【0027】
真空容器10は、公知の成膜装置で通常用いられるような概ね円筒の形状を有するステンレス製の容器であり、接地電位とされている。真空容器10には、排気口(不図示。本実施形態では
図1に向かって右側)が設けられており、この排気口を介して真空ポンプ(不図示)が接続されている。真空ポンプを作動させることで、真空容器10の内部が所定圧力(例えば10
−4〜3×10
−2Pa程度)に排気されるようになっている。真空容器10には、内部にガスを導入するためのガス導入管(不図示)が形成されている。真空容器10には、扉(不図示。本実施形態では
図1に向かって左側)を介して、ロードロック室(不図示)が接続されていてもよい。
【0028】
真空容器10の内部の上方には、基板ホルダ12が保持されている。基板ホルダ12(基体保持手段)は、垂直軸回りに回転可能に保持されるドーム状に形成されたステンレス製の部材であり、モータ(不図示。回転手段)の出力軸(不図示。回転手段)に連結されている。
【0029】
基板ホルダ12の下面(基体保持面)には、成膜の際に、複数の基板14が支持される。なお、本実施形態の基板ホルダ12の中心には、開口が設けられており、ここに水晶モニタ50が配設されている。水晶モニタ50は、その表面に蒸着物質(成膜材料の蒸発物)が付着することによる共振周波数の変化から、基板14表面に形成される物理膜厚を膜厚検出部51で検出する。膜厚の検出結果は、コントローラ52に送られる。
【0030】
真空容器10の内部の上方には、基板ホルダ12を上方から包み込むように電気ヒータ53(加熱手段)が配設されている。基板ホルダ12の温度は、熱電対などの温度センサ54で検出され、その結果はコントローラ52に送られる。
【0031】
コントローラ52は、膜厚検出部51からの出力に基づいて、後述する蒸着源34のシャッタ34a及びイオン源38のシャッタ38aの開閉状態を制御し、基板14へ形成される薄膜の膜厚を適切に制御する。また、コントローラ52は、温度センサ54からの出力に基づいて、電気ヒータ53を制御し、基板14の温度を適切に管理する。なお、コントローラ52は、後述のイオン源38及び蒸着源34の作動開始や作動停止についても管理する。
【0032】
真空容器10の内部の側面側には、エネルギー粒子を照射するための照射手段が配設されている。照射手段の一例としてのイオン源38は、主として、蒸着源34(後述。以下同じ)の作動開始による成膜材料の供給とともにイオンビーム(ion beam)を照射し、基板上に堆積する薄膜にイオンアシスト効果を与える目的で使用される成膜アシスト装置としてのエネルギー粒子照射装置である。なお、イオン源38は、蒸着源34の作動開始前にイオンビームを基板14に向けて照射し、基板14の表面をクリーニングする目的で使用することもできる。
【0033】
イオン源38は、反応ガス(例えばO
2)や希ガス(例えばAr)のプラズマから、正に帯電したイオン(O
2+,Ar
+)を引き出し、加速電圧により加速して基板14に向けて射出する。イオン源38の上方には、イオン源38から基板14に向かうイオンビームを遮断する位置に開閉操作可能に設けられたシャッタ38aが備えられている。シャッタ38aは、コントローラ52から指令により適宜開閉制御される。
【0034】
本例のイオン源38は、例えば
図2に示すように、モータからの出力を受けて垂直軸回りに回転する基板ホルダ12が作動を停止(回転停止)しているときの、該基板ホルダ12に向けて作動させた場合に、前記基体保持面の一部の領域である第2領域(
図2の太い実線で囲まれる領域A2)のみに向けてイオンビームを部分的に照射可能となるような構成(例えば電極の曲率)、配置及び/又は向きで配置されている。
【0035】
すなわち本例では、イオン源38によるイオンビームの照射領域(A2)が、回転停止しているときの基板ホルダ12の基体保持面である下面全域(
図2の二点波線で囲まれる領域A1)より小さくなるように、イオン源38が配置される(A2<A1)。特にA2≦((1/2)×A1)、つまり基板ホルダ12の下面全域の半分以下となるようにイオン源38を配置することが好ましい。なお、特に((1/2)×A1)≦A2≦((4/5)×A1)、つまり基板ホルダ12の下面全域の50%以上80%以下となるようにイオン源38を配置することが好ましい場合もある。
【0036】
イオン源38をこのように配置し、継続して作動させることで、基板ホルダ12の回転に伴って移動する複数の基板14に対して、一時的に、イオン源38からのイオンビームが照射されない時間が確保される(イオンビームの部分照射)。なお本例のイオン部分照射を所定時間、継続することで、最終的には、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対してイオンビームを照射することが可能となる。
【0037】
基板ホルダ12のイオン照射面側の中心の位置を(x,y)=(0,0)としたとき、基板ホルダ12が回転することによって前記中心から前記イオン照射面側の半径方向に所定距離、離間した任意ポイントである測定点(
図3参照)が移動する軌跡と、x軸とが、x>0部分で交わる点を基準点(測定位置=0度)とする。このとき、基板ホルダ12が回転することによって前記任意ポイントが前記軌跡上を反時計回りに移動する位置と前記中心とを結ぶ直線が、x軸(ただしx>0に限る)に対してなす角度(x1。
図3ではθと表示)を0度〜360度のX軸とし、各x1でのイオン電流密度(y1)を0μA/cm
2〜70μA/cm
2のY軸に取ったXY平面に、x1とy1の値をプロットしたグラフを
図4に示す。この
図4のグラフは、
図2に示す領域A2での上記測定点におけるイオン照射の状態を示している。なお、
図4における測定では、イオンが照射されていない領域に於けるイオン電流密度の測定値として0μA/cm
2を得ているが、装置の内部構造や電位構造によっては、負電位に印加されたイオン電流の測定素子に、例えば、照射エネルギーを消失した正電荷のイオンが微量に流入することで、5μA/cm
2程度の「ノイズ電流」が観測されることがある。
【0038】
図4に示すように、測定位置によって測定点でのイオン電流密度が変動していることが理解できる。これは、基板ホルダ12が回転することによって軌跡上を移動する測定点について、測定位置によってイオンが照射されたり照射されなかったりしていることを意味している。この例の測定点は、イオンの照射が80°の位置から開始され、180°前後で最大密度を記録し、230°の位置で終了している。
図4の結果から、回転周期に沿ってパルス状にイオン照射が実現されていることが理解できる。
【0039】
なお、イオン源38がイオンビームを部分的に照射する第2領域は、
図2の態様のほかに、例えば
図5の太い実線で囲まれる領域A2’でもよい。ただし、
図5の態様では、基板ホルダ12の回転軸(図中、「×」を参照)近傍に保持される特定の基板14と、基板ホルダ12の外周近傍に保持される別の基板14との間で、イオンビームの相対的な照射時間が異なることがある。この場合、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14の特性が均一化されないこともある。従って本例では、
図2に示すように基板ホルダ12の回転軸である回転中心を含まない領域にイオンビームを照射することができるようイオン源38を配置することが望ましい。基板ホルダ12の回転中心を含まないような閉曲線で囲まれる領域(例えば楕円領域)とすることで、イオンビームのパルス照射が実現される。
【0040】
図1に戻り、本例では、シャッタ38aの上方には、イオン源38から引き出されるイオンの指向性を調整するための調整壁38b,38bを設けてもよい。これを設けることで、上述したイオン源38の配置如何を問わずに、イオンビームを基板ホルダ12の所定領域(例えば
図2の領域A2や、
図5の領域A2’など)に照射させることができる。
【0041】
本例のイオン源38は、真空容器10の側面に、支持装置としてのアタッチメント44を介して取り付けられている。
【0042】
イオン源38を真空容器10の側面側に取り付けることで、これが蒸着源34と同様に、真空容器10の内部下方に配置される場合と比較して、イオン源38から照射されるイオンビームが短い飛行距離で基板14に到達する。その結果、基板14に衝突する際のイオンの運動エネルギーの低下を抑えることができる。また、高い運動エネルギーを保った状態のイオンビームを斜め方向から基板14表面に衝突させることで、基板14表面に対するイオンアシスト効果やイオンクリーニング効果をより大きく発現させることができ、基板14表面の不純物原子が効果的に除去される結果、基板14表面の原子と、蒸着により飛来してきた成膜材料分子との結合が促進され、その上に成膜される薄膜の諸性能が向上すると考えられる。
【0043】
本例のイオン源38は、蒸着源34の配置位置よりも、イオン源38の本体長さ分以上、基板14に近い位置に配置されている。また、イオン源38の取り付けが容易となるように、真空容器10の側面の一部が傾斜して形成されているが、イオン源38を取り付ける位置は任意である。なお、イオン源38の取り付け位置は、真空容器10の内部側面に限定されず、蒸着源34と同様に、真空容器10の内部下方であってもよい。いずれにしても、基板ホルダ12に保持される基板14の一部にイオンビームを照射可能となるような位置に取り付けられる。
【0044】
アタッチメント44(支持手段)は、イオン源38の支持装置であって真空容器10の側面に取り付けられている。アタッチメント44は、真空容器10側に固定されるブラケット(不図示)と、イオン源38側をブラケットに対して傾斜可能に支持するピン(不図示)と、イオン源38の傾きを所定位置で固定するネジからなる制動部材(不図示)とを備える。そのため、イオン源38の取り付け角度を任意に調節することができる。また、真空容器10側にブラケットを配設し、これを位置調整可能なベースプレート(不図示)に固定することにより、取り付け角度のみならず、高さ方向、半径方向の位置を調整可能に構成されている。なお、高さ方向、半径方向の位置調整は、ベースプレートを上下方向及び半径方向に移動させることで行う。
【0045】
イオン源38の取り付け高さh及び半径方向の位置の変更により、イオン源38と基板14とを適切な距離に調整することができ、取り付け角度の変更により、基板14に衝突するイオンビームの入射角度や位置を調整することができる。イオン源38の高さ方向、半径方向の位置、及び取り付け角度の調整により、イオンビームのロスを最小限に抑え、イオン源38の照射領域(例えば
図2のA2、
図5のA2’)に対してイオン電流密度が均一な分布となるように調整する。
【0046】
イオン源38の取り付け角度θは、イオンビームを照射する軸線と、基板ホルダ12の回転軸線とのなす角度のことである。この角度が大きすぎても、小さすぎても、イオンビーム照射による、薄膜へのイオンアシスト効果や、基板14表面のクリーニング効果が減少するおそれがあり、薄膜の諸性能向上の効果が減少、或いは無くなるおそれがある。
【0047】
本例において、イオン源38の取り付け角度θが6〜70度の角度範囲であるときに、最終的に、基板14表面に成膜される薄膜の諸性能を、より一層向上させることができることが期待される。
【0048】
また、イオン源38からのイオンビームが基板14に到達可能な範囲であれば、基板14表面に斜め方向からイオンビームを入射させる方法は、基板14とイオン源38との距離に依存しない。
【0049】
なお、上記の取り付け角度θは、基板ホルダ12や真空容器10の大きさ若しくは成膜材料によって適宜変更可能なことはもちろんである。
【0050】
取り付け高さhは、イオン源38と基板14との距離が適切になるように設定される。取り付け高さhが高すぎると、取り付け角度θが大きくなりすぎ、一方、取り付け高さhが低すぎると基板14とイオン源38との距離が長くなるとともに取り付け角度θが小さくなりすぎる。よって、取り付け高さhは、適切な取り付け角度θを得ることができる位置である必要がある。
【0051】
イオン源38と基板14との距離は、平均自由行程1と同等若しくはそれ以下であることが望ましい。例えば、平均自由行程1=500mmであれば、イオン源38と基板14との距離も500mm以下にすることが望ましい。イオン源38と基板14との距離を平均自由行程1以下とすることで、イオン源38から放出されたイオンの半数以上を無衝突状態で基板14に衝突させることができる。高いエネルギーを有したままイオンビームを基板14に照射することができるため、その後に成膜される薄膜の諸性能向上の効果が大きい。
【0052】
ここで、“イオン源38と基板14の距離”とは、イオン源38の中心とイオン源38の中心から基板ホルダ12の成膜面側の中心までの距離をいう。同様に、“蒸着源34と基板14の距離”とは、蒸着源34の中心と蒸着源34の中心から基板ホルダ12の成膜面側の中心までの距離をいう。また、“イオン源38の本体長さ”とはイオン源38(イオン銃)の電極からイオンプラズマ放電室の底部までの距離である。
【0053】
イオン源38の取り付け位置は、真空容器10の側面側の位置には限定されず、アタッチメント44によって真空容器10の側面の壁面から離間した位置でもよい。アタッチメント44は半径方向にもイオン源38の位置を調整することができるため容易にこのような配置にすることができる。この場合、より近い位置から、基板14に対してイオンビームを照射することができるため、より低いエネルギー(消費電力)でもイオン部分照射の効果が得られる。
【0054】
なお、イオン源38を底部に設置してもよい。この場合、底部に台座を設置して台座の上にイオン源38を取り付ければよい。また、イオン源38を真空容器10の側面に取り付けることにより、蒸着源34と基板の間に配置される膜厚補正板(不図示)によって、イオンビームの照射が妨げられることがなくなるため、イオンのロスが減少するので好ましい。
【0055】
真空容器10の内部の側面側には、ニュートラライザ40が配設されている。本例のニュートラライザ40は、イオン源38を成膜アシスト装置として用いる場合に作動させる第2の成膜アシスト装置である。蒸着源34から基板14に向けて移動する成膜材料は、イオン源38から照射される正イオン(イオンビーム)の衝突エネルギーにより、基板14の表面に高い緻密性でかつ強固に付着する。このとき、基板14はイオンビームに含まれる正イオンにより正に帯電する。なお、イオン源38から射出された正のイオン(例えばO
2+)が基板14に蓄積することにより、基板14全体が正に帯電する現象(チャージアップ)が起こる。チャージアップが発生すると、正に帯電した基板14と他の部材との間で異常放電が起こり、放電による衝撃で基板14表面に形成された薄膜(絶縁膜)が破壊されることがある。また、基板14が正に帯電することで、イオン源38から射出される正のイオンによる衝突エネルギーが低下するため、薄膜の緻密性、付着強度などが減少することもある。このような不都合を解消し、基板14に蓄積した正の電荷を電気的に中和(ニュートラライズ)させるために、本例のごとくニュートラライザ40を配設することができる。
【0056】
本例のニュートラライザ40は、イオン源38によるイオンビームの照射中に、電子(e
−)を基板14に向けて放出する成膜アシスト装置であり、Arなどの希ガスのプラズマから電子を引き出し、加速電圧で加速して電子を射出する。ここから射出される電子は、基板14表面に付着したイオンによる帯電を中和する。
【0057】
本例において、ニュートラライザ40は、イオン源38から所定距離を離間させて配設してある。なお、ニュートラライザ40の上方には、ニュートラライザ40から放出される電子の指向性を調整するための調整壁(図示省略。例えば調整壁38bを参照)が設けてあってもよい。
【0058】
ニュートラライザ40の配置は、基板14に電子を照射して中和できる位置であればよく、イオン源38と同様に、電子を基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対して、その一部に照射することができる配置でもよいし、あるいは、蒸着源34と同様に、電子を基板14の全部に照射可能な配置であってもよい。
【0059】
ニュートラライザ40は、基板14に電子を照射して中和できる位置に配置してあればよい。本例では、ニュートラライザ40を基板ホルダ12に近い位置に配設している。このように配設することで、イオン源38から照射されたイオンが付着する基板ホルダ12の領域に向かって正確に電子を照射することができる。
【0060】
また、ニュートラライザ40はイオン源38と所定の距離離れた位置に配設されると、イオン源38から基板14に向かって移動中のイオンと直接反応することが少なく、効率よく基板ホルダ12の電荷を中和することができる。そのため、従来の蒸着装置よりもニュートラライザ40に印加される電流値を低い値にしても好適に基板ホルダ12を中和することができる。基板14表面に十分な電子を供給することができるため、例えば、高屈折率膜や低屈折率膜などの誘電体膜を完全に酸化させることができる。
【0061】
本例では、イオン源38及びニュートラライザ40がそれぞれ1つずつで構成されているが、これらが複数ずつ配置される構成とすることもできる。例えば、回転する基板ホルダ12の回転方向に沿ってイオン源38とニュートラライザ40が複数設けられる構成としてもよい。このような構成とすることで、大きなサイズの基板ホルダ12を備える大型の成膜装置にもより効果的に適用することができる。
【0062】
本例において、真空容器10の内部の下方には、成膜手段としての成膜源が配設されている。成膜源の一例としての蒸着源34は、本例では抵抗加熱方式(直接加熱方式や間接加熱方式など)の蒸着源である。蒸着源34は、成膜材料を載せるためのくぼみを上部に備えた坩堝(ボート)34bと、坩堝34bから基板14方向へ放出される成膜材料の蒸発物のすべてを遮断する位置に開閉可能に設けられたシャッタ34aとを備える。シャッタ34aは、コントローラ52からの指令により適宜開閉制御される。
【0063】
直接加熱方式は、金属製のボートに電極を取り付けて電流を流し、直接、金属製のボートを加熱してボート自体を抵抗加熱器とし、この中に入れた成膜材料を加熱する。間接加熱方式は、ボートが直接の熱源ではなく、ボートとは別に設けられた加熱装置、例えば遷移金属などのレアメタルなどからなる蒸着フィラメントに電流を流すことにより加熱する方式である。
【0064】
坩堝34bに成膜材料を載せた状態で、ボート自体あるいはボートとは別に設けられた加熱装置により、成膜材料を加熱し、この状態でシャッタ34aを開くと、坩堝34bから成膜材料の蒸発物が基板14方向へ真空容器10の内部を移動し、最終的にはすべての各基板14の表面に付着する。
【0065】
なお、蒸着源34は、抵抗加熱方式に限らず、電子ビーム加熱方式の蒸着源であってもよい。蒸着源34が電子ビーム加熱方式である場合、その蒸着源34は、上記同様、坩堝34b及びシャッタ34aのほか、成膜材料に電子ビーム(e
− )を照射し、これを蒸発させる電子銃及び電子銃電源(ともに不図示)をさらに備えるようにすればよい。
【0066】
本例の蒸着源34は、例えば
図6に示すように、モータからの出力を受けて垂直軸回りに回転する基板ホルダ12が作動を停止(回転停止)しているときの、該基板ホルダ12に向けて作動させた場合に、前記基体保持面の一部の領域である第1領域(
図6の太い実線で囲まれる領域A3)に対して、該第1領域以外の他の領域(残領域)よりも多い量の成膜材料の蒸発物を部分的に供給可能とするために、容器10内下方の略中央配置から端側へ寄せて配置されている。
【0067】
すなわち本例では、蒸着源34による成膜材料の供給領域(A3)が、回転停止しているときの基板ホルダ12の基体保持面である下面全域(
図6の二点波線で囲まれる領域A1)より小さくなるように、蒸着源34が配置される(A3<A1)。特にA3≦((1/2)×A1)、つまり基板ホルダ12の下面全域の半分以下となるように蒸着源34を配置することが好ましい。なお、特に((1/2)×A1)≦A3≦((4/5)×A1)、つまり基板ホルダ12の下面全域の50%以上80%以下となるように蒸着源34を配置することが好ましい場合もある。
【0068】
蒸着源34を容器10内の端側へ寄せて配置し、継続して作動させることで、基板ホルダ12の回転に伴って移動する複数の基板14に対して、蒸着源34からの成膜材料の供給量を時間とともに変化させる(成膜材料の部分供給)。なお本例の成膜材料の部分供給を所定時間、継続することで、最終的には、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対して成膜材料を供給することが可能となる。
【0069】
本例において、蒸着源34は、基板ホルダ12の回転中心である鉛直軸が延びる方向(鉛直方向)に沿った基準線に対して、蒸着源34の中心と基板ホルダ12の外縁の最遠点Pとを結ぶ線の成す角度(θ1)が、好ましくは40度以上、より好ましくは60度以上となる位置に配置されることが好ましい。基準線に対する角度θ1が上記角度以上となるように蒸着源34を配置することで、成膜材料の部分供給(好ましくは、移動しているすべての基板12の少なくとも一部に対する成膜材料の時間あたりの
付着量の、最大値と最小値の比(最大値/最小値)が5超(特に6以上)となるように行うこと)が可能となる。
【0070】
本例において、基板ホルダ12の成膜面側の直径を「ドーム径D1」、基板ホルダ12の成膜面側の中心から蒸着源34の中心までの距離を「高さD2」、前記基準線から蒸着源34の中心までの最短距離を「オフセットD3」としたとき、一例として、D1を例えば1000mm〜2000mm程度、D2を例えば500mm〜1500mm程度、D3を例えば100mm〜800mm程度に、それそれぞれ設計することができる。
【0071】
なお、基板ホルダ12の成膜面側の中心の位置を(x,y)=(0,0)としたとき、基板ホルダ12が回転することによって前記中心から前記成膜面側の半径方向に所定距離、離間した任意ポイントである測定点A〜C(
図7参照)が移動する各軌跡と、x軸とが、x>0部分で交わる点を基準点(測定位置=0度)とする。このとき、基板ホルダ12が回転することによって測定点A〜Cが各軌跡上を反時計回りに移動する位置と前記中心とを結ぶ直線が、x軸(ただしx>0に限る)に対してなす角度(x1。
図7ではθと表示)を0度〜360度のX軸とし、各x1での成膜レート(y2)を0.05nm/秒〜0.85nm/秒のY軸に取ったXY平面に、x1とy2の値をプロットしたグラフを
図8に示す。この
図8のグラフは、
図6に示す領域A1での各測定点A〜Cにおける成膜材料の蒸発物供給の各状態を示している。
【0072】
図8に示すように、測定位置によって各測定点での成膜レートが変動していることが理解できる。これは、基板ホルダ12が回転することによって各軌跡上を移動する各測定点について、測定位置によって蒸発物がパルス状に付着したり付着しなかったりしていることを意味している。なお、
図8に示す成膜材料の蒸発物供給の状態は、後述する実験例1の条件で成膜した場合の例である。図6の領域A3は、後述する実験例4の条件で成膜した場合に、多い量の蒸発物が付着するエリアの例である。
【0073】
なお、蒸着源34が成膜材料を部分的に供給する第1領域は、
図6の態様のほかに、例えば
図9の太い実線で囲まれる領域A3’がある。なお、
図6の態様では、基板ホルダ12の回転軸(図中、「×」を参照)近傍に保持される特定の基板14と、基板ホルダ12の外周近傍に保持される別の基板14との間で、成膜材料の相対的な供給時間が異なることがある。この場合、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14上に堆積する薄膜の特性が均一化されないこともある。従って本例では、
図9に示すように基板ホルダ12の回転軸である回転中心を含まない領域に成膜材料を供給することができるよう蒸発源34の配置を調整することが望ましい。基板ホルダ12の回転中心を含まないような閉曲線で囲まれる領域(例えば楕円領域)とすることで、成膜材料のパルス供給が実現される。
図2及び
図6に示すように、イオンビームの照射領域である第2領域(A2)と成膜材料の供給領域である第1領域(A3)とは別配置でもよいし、あるいは同一配置とすることもできる。また
図2及び
図6に示すように、第2領域(A2)と第1領域(A3)とは、一方が他方の一部又は全部と重複する配置とすることもできる。
なお、第2領域(A2)と第1領域(A3)の配置例を、
図10〜
図23に示す。この中で、より好ましい配置は
図11、
図14の場合である。
【0074】
<<第2実施形態>>
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の一例(光学薄膜の成膜方法)を説明する。
本例では、光学薄膜の一例として、光学フィルタ薄膜を成膜する場合を例示する。本例において成膜される光学フィルタ薄膜は、高屈折率物質と低屈折率物質とを交互に積層させて成摸しているが、一種類若しくは複数種類の蒸発物質(成膜材料)からなる光学フィルタの成膜に対しても本発明は適用でき、その場合、蒸着源34の数や配置を適宜変更可能である。
【0075】
なお、本例にて作製する光学フィルタの具体例として、短波長透過フィルタ(SWPF)と赤外線カットフィルタを挙げているが、これ以外にも、長波長透過フィルタ、バンドパスフィルタ・NDフィルタなどの薄膜デバイスについても適用可能である。
【0076】
本例では蒸着源34として、電子ビーム加熱方式の蒸着源を用いる(電子銃、電子銃電源は不図示。第1実施形態の蒸着源34の説明を参照)。本例において、蒸着源34のボートに充填する光学薄膜を形成するための成膜材料としては、高屈折率物質(例えばTa
2O
5やTiO
2)や低屈折率物質(例えばSiO
2)などが用いられる。
【0077】
(1)まず、基板ホルダ12の下面(基体保持面)に、複数の基板14をその成膜面が下向きになる状態でセットする。基板ホルダ12にセットする基板14(基体)は、形状が例えば板状やレンズ状などに加工されたガラスやプラスチックや金属で構成することができる。なお、基板14は、固定前あるいは固定後に、湿式洗浄しておくことが好ましい。
【0078】
(2)次に、基板ホルダ12を真空容器10の内部にセットした後、真空容器10内を例えば10
−4〜10
−2Pa程度にまで排気する。真空度が10
−4Paより低いと、真空排気に時間を要し過ぎて生産性を低下させるおそれがある。一方、真空度が10
−2Paより高いと、成膜が不十分となることがあり、膜の特性が劣化するおそれがある。
【0079】
(3)次に、電気ヒータ53に通電して発熱させ、基板ホルダ12を所定速度(後述)で回転させる。この回転により複数の基板14の温度と成膜条件を均一化させる。
【0080】
コントローラ52は、基板14の温度が、例えば常温〜120℃、好ましくは50〜90℃になったことを温度センサ54の出力により判定すると、成膜工程に入る。基板温度が常温未満では成膜される薄膜の密度が低く、十分な膜耐久性が得られない傾向がある。基板温度が120℃を超えると基板14としてプラスチック基板を用いている場合に、その基板14の劣化や変形が起きる可能性がある。なお、無加熱成膜が好適な材料を用いる場合には常温で成膜することもある。本例では、成膜工程に入る前に、イオン源38をアイドル運転状態としておく。また、蒸着源34も、シャッタ34aの開動作によって直ちに成膜材料を拡散(放出)できるように準備しておく。
【0081】
(4)次に、コントローラ52は、シャッタ34aを開き、回転途中の個々の基板14に対して、成膜材料を供給する(成膜材料の部分供給)。これとともに本例では、コントローラ52は、イオン源38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させ、シャッタ38aを開き、回転途中の個々の基板14に対してイオンビームを照射する(イオンビームの部分照射)。つまり成膜材料のイオンビームアシスト蒸着(IAD:Ion-beam Assisted Deposition method)を開始させる。このとき、ニュートラライザ40の作動も開始させる。
すなわち本例では、回転途中の各基板14の成膜面に対し、蒸着源34から成膜材料を飛散させる工程と、イオン源38から引き出される導入ガス(ここでは酸素)のイオンビームを照射する工程と、電子を照射する工程とが並行して行われる(成膜処理)。
【0082】
本例では、蒸着源34とイオン源38とニュートラライザ40とを同時に継続して作動させることで、基板ホルダ12の回転に伴って移動する複数の基板14に対して、蒸着源34からの成膜材料の供給量を時間とともに変化させながら、かつイオン源38からのイオンビームとニュートラライザ40からの電子とが照射されない時間を確保しながら(成膜材料の部分供給とイオンビームの部分照射)、アシスト効果が与えられた光学フィルター薄膜をすべての基板14の表面に堆積させる。
すなわち、基板ホルダ12の回転に伴って移動するすべての基板14に対し、蒸着源34から成膜材料の蒸発物を所定時間(T3。後述)の間、パルス状に放出して成膜処理を行う(成膜材料の部分供給)。さらに本例では、こうした成膜材料の部分供給は、斜めからの部分照射によるイオンビームの成膜アシストを伴う。以上が本例の特徴である。
【0083】
本発明の他の例では、イオン源38のシャッタ38aを開かず(閉状態)、成膜材料の部分供給のみによって、光学フィルター薄膜をすべての基板14の表面に堆積させることもできる。
【0084】
本例において、基板ホルダ12に向けた蒸着源34による成膜材料の蒸発物の全放出時間を「T3」とし、基板ホルダ12に保持される1枚あたりの基板14に対する前記蒸発物の付着時間を「T4」とし、かつ領域A3を領域A1の半分に設定した場合、T4はT3の半分となる。つまり、基板ホルダ12に向けた蒸発物の放出を、例えば2000秒(T3)、行ったとしても、1枚あたりの基板14に対して、1000秒(T4)しか、蒸発物の付着が行われないことになる。
【0085】
本例では、成膜材料の供給が部分供給可能となるように蒸着源34が配置されている(A3<A1)。特に、A3≦((1/2)×A1)となる構成で蒸着源34を配置することで、T4≦((1/2)×T3)となるように成膜材料を供給することが好ましい。また、((1/2)×A1)≦A3≦((4/5)×A1)、つまり成膜材料の部分供給が基板ホルダ12の下面全域の50%以上80%以下となるように蒸着源34を配置することで、((1/2)×T3)≦T4≦((4/5)×T3)となるように成膜材料を部分供給することが好ましい場合もある。
【0086】
なお、A3≦((1/2)×A1)となるように蒸着源34を配置するとともに、基板ホルダ12の回転速度を変動させることで、T4≦((1/2)×T3)となるように成膜材料を供給することもできる。また、((1/2)×A1)≦A3≦((4/5)×A1)となるように蒸着源34を配置するとともに、基板ホルダ12の回転速度を変動させることで、((1/2)×T3)≦T4≦((4/5)×T3)となるように成膜材料を供給することもできる。
【0087】
イオンビームの部分照射による成膜アシスト条件は、以下の通りである。
イオン源38へ導入するガス種としては、少なくとも酸素を含んでいればよい。場合によってはさらにアルゴンを含んだ、アルゴンと酸素との混合ガスとする。上記ガス種の導入量(混合ガスである場合には合計導入量)は、例えば1sccm以上、好ましくは5sccm以上、より好ましくは20sccm以上であり、かつ例えば100sccm以下、好ましくは70sccm以下、より好ましくは50sccm以下である。「sccm」とは、「standard cubic centimeter/minutes」の略で、0℃、101.3kPa(1気圧)における1分間あたりに流れるガスの体積を示す。
【0088】
イオンの加速電圧(V)は、例えば50V以上、好ましくは100V以上、より好ましくは200V以上であって、例えば1500V以下、好ましくは1200V以下、より好ましくは600V以下、さらに好ましくは400V以下である。
イオンの照射電流(I)は、例えば50mA以上、好ましくは100mA以上、より好ましくは200mA以上、さらに好ましくは300mA以上であって、例えば1000mA以下、好ましくは800mA以下、より好ましくは600mA以下である。
【0089】
本例において、アシスト効果を与える場合の、基板ホルダ12に向けたイオン源38によるイオンビームの全照射(全アシスト)時間を「T5」としたとき、本例では該T5を、蒸着源34による成膜材料の蒸発物の全放出時間(T3)と同一にすることもできるし、あるいは異ならせることもできる。T5とともに、1枚あたりの基板14に対するイオンビームの実照射(実アシスト)時間を「T6」とし、かつ領域A2を領域A1の半分に設定した場合、T6はT5の半分となる。つまり、基板ホルダ12に向けた蒸発物の放出とともにアシスト効果を与えるためのイオンビームの照射を、該蒸発物の放出時間(T3)と同様の、例えば600秒(T5)、行ったとしても、1枚あたりの基板14に対して、300秒(T6)しか、アシスト効果を与えるためのイオンビームの実照射が行われないことになる。
【0090】
本例では、イオンビームの照射が部分照射可能となるようにイオン源38が配置されている(A2<A1)。特に、A2≦((1/2)×A1)となるようにイオン源38を配置することで、T6≦((1/2)×T5)となるようにイオンビームを照射し、成膜アシストすることが好ましい。また、((1/2)×A1)≦A2≦((4/5)×A1)、つまりイオンビームの部分照射が基板ホルダ12の下面全域の50%以上80%以下となるようにイオン源38を配置することで、((1/2)×T5)≦T6≦((4/5)×T5)となるようにイオンビームを部分照射し、成膜アシストすることが好ましい場合もある。
【0091】
なお、A2≦((1/2)×A1)となるようにイオン源38を配置するとともに、基板ホルダ12の回転速度を変動させることで、T6≦((1/2)×T5)となるようにイオンビームを照射することもできる。また、((1/2)×A1)≦A2≦((4/5)×A1)となるようにイオン源38を配置するとともに、基板ホルダ12の回転速度を変動させることで、((1/2)×T5)≦T6≦((4/5)×T5)となるようにイオンビームを照射することもできる。
【0092】
本例では、基板ホルダ12の回転に伴って、該基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうちの任意の基板(基準基板)が、A3領域に入ってから出ていくまでの時間を「t3」とし、A3領域を出てから次にA3領域に入る直前までの時間を「t4」としたとき、t3<t4となるように、A3領域の大きさ、配置、及び/又は、基板ホルダ12の回転速度を決定することが好ましい。t3<t4、つまり基準基板に対し、成膜材料が供給されている時間が、成膜材料が供給されていない時間よりも短くなるように、A3領域の大きさ等を設定することで、より効率的で適切な成膜材料の供給が可能となる。
またこれに加え、基板ホルダ12の回転に伴って、前記基準基板が、A2領域に入ってから出ていくまでの時間を「t5」とし、A2領域を出てから次にA2領域に入る直前までの時間を「t6」としたとき、t5<t6となるように、A2領域の大きさ、配置、及び/又は、基板ホルダ12の回転速度を決定することが好ましい。t5<t6、つまり基準基板に対し、照射されている時間がイオン照射されていない時間よりも短くなるように、A2領域の大きさ等を設定することで、より効率的で適切なイオン照射による成膜アシストが可能となる。
ちなみに、t3とt4の合計(t3+t4)及びt5とt6の合計(t5+t6)は、基板ホルダ12が一回転する時間であり、本例では、好ましくは0.6秒〜20秒程度に設定される。つまり基板ホルダ12の回転速度は3〜100rpm程度に設定される。好ましくは5〜60rpm、より好ましくは10〜40rpmで基板ホルダ12を回転させることもできる。
【0093】
ニュートラライザ40の作動条件は、以下の通りである。
ニュートラライザ40へ導入するガス種としては、例えばアルゴンである。上記ガス種の導入量は、例えば10〜100sccm、好ましくは30〜50sccmである。電子の加速電圧は、例えば20〜80V、好ましくは30〜70Vである。電子電流は、イオン電流以上の電流が供給されるような電流であればよい。
【0094】
蒸着源34が成膜材料の蒸発物を放出する間、イオン源38のシャッタ38aを開動作して放出したイオンを基板14に衝突させることによって、基板14に付着した成膜材料の表面を平滑化すると共に緻密化する。この操作を所定回数繰り返すことにより多層膜を形成することができる。イオンビームの照射により基板14に電荷の偏りが生じるが、この電荷の偏りは、ニュートラライザ40から基板14に向けて電子を照射することで中和している。このようにして、基板14の成膜面に薄膜が所定厚みで形成される。
【0095】
(5)コントローラ52は、基板14の上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると成膜を停止する。これにより、複数の基板14の表面に光学フィルター薄膜が所定膜厚で成膜され、光学フィルターが得られる。なお、コントローラ52は、成膜を停止する際に、シャッタ34a及びシャッタ38aを閉じる。
【0096】
本例による成膜装置1を用いた成膜方法によると、
回転している基板ホルダ12の基体保持面に保持されるすべての基板14の一部にあたる複数の基板14からなる特定の基体群(領域A3
に属する基体群)に対して、該
基体群以外の他の
基体群に対するよりも多い量の成膜材料を
付着させることが可能となる構成で真空容器10内に設置された蒸着源34を用いる。またこれに加え、同じく
回転している基板ホルダ12の基体保持面に保持されるすべての基体の一部にあたる複数の基体からなる特定の基体群(領域A2
に属する基体群)のみ
にイオンビームを照射
させるイオン源38を用いる。
【0097】
そして、本例では、複数
の基板14を基体保持面の全体に亘り保持させた状態で基板ホルダ12を鉛直軸回りに回転させながら蒸着源34とイオン源38の双方を継続して作動させる(成膜材料の部分供給とイオンビームの部分照射)。
なお、
多い量の成膜材料が付着する成膜材料の
付着領域A3は、基板ホルダ12の下面全域A1よりも小さい(A3<A1)。イオンビームの照射領域A2は、基板ホルダ12の下面全域A1よりも小さい(A2<A1)。
【0098】
以上の継続作動により、移動しているすべての或いは一部の各基板14に対する成膜材料の
付着量を時間とともに変化させる。これとともにすべての或いは一部の各基板14に対して、一時的に、イオンビームが照射されない時間を確保しながら、各基板14の表面に、成膜材料からなり、アシスト効果が与えられた薄膜を堆積させる。
パルス状に密度の高い成膜材料の供給により、各基板14の表面のエネルギー状態の活性化が促進される。この後、多粒子間の相互作用を通して各基板14の表面は熱平衡状態へと到達する確率が高くなる。これにより、
回転している基体保持手段の基体保持面の全体に亘り保持され
るすべての基体に
多い量の成膜材料を
付着(成膜材料の全面供給)
させる従来手法と比較して、基板14とその上に堆積する薄膜との間での結合力をより高めることができ、その結果、
複数の基板14の
すべてに諸性能(本例では、光学薄膜における光学特性)に優れた薄膜を形成することができる。
これに加え、パルス状に密度の高いイオンビームの同時照射により、上述した各基板14の表面のエネルギー状態の活性化促進に加え、各基板14の表面に堆積する成膜粒子のエネルギー状態の活性化も促進される。これにより、各基板14の表面に堆積した成膜粒子が熱平衡状態へと到達する確率がより一層高くなる。その結果、
複数の基板14の
すべてに、諸性能(前出)により一層優れた薄膜を形成することができる。
【0099】
特に本例では、成膜材料の部分供給とともに、アシスト効果を与えるイオンビームを部分照射するので、成膜材料
が付着している間、各基板14に対してイオンビームが照射されていない時間が確保される。基板14表面に堆積された蒸着層を構成する分子(蒸着分子)は、アシスト効果を与えるイオンビームが照射されている間は、そのイオンビームによって化学反応(酸化)が促進されるが、その一方でイオンビームから受ける運動エネルギーによって表面がマイグレーション(物理励起)されるとの不都合を生じうる。本例では、基板14に対してイオンビームに照射されていない間に、イオンビームの照射によって表面がマイグレーションされた蒸着分子を基板14上の安定な位置(安定サイト)に静止させる(落ち着かせる)ことができる。
安定サイトに静止した蒸着分子に対してその後再びイオンが照射されても、静止した蒸着分子が安定サイトから動き出すことはなく、結果として緻密で良質な薄膜が得られることになるものと考えられる。すなわち、薄膜が緻密になり、且つ、組成的な均一性が向上すると共に、薄膜組織の歪みの低減を図ることができる。こうして、成膜された組織が良好な均一性を有することで、屈折率の変動が少なく、光の吸収係数が一定以下で安定する光学フィルタを得ることができる。
【0100】
なお、アシスト効果を与えるイオンビームを、基板ホルダ12の基板保持面全域に、つまりすべての基板14に対して連続して照射した場合(全面照射)、基板14表面に堆積された蒸着分子は、基板14上の安定サイトに静止する前に再度、励起されてしまう。連続してイオンビームが照射されているからである。その結果、前記蒸着分子を安定サイトに静止させることが困難となり、これによって薄膜の緻密が阻害されるのではないかと考えられる。
【0101】
すなわち本例による成膜装置1を用いた成膜方法によれば、
回転している基板ホルダ12の基体保持面に保持されるすべての基板14の一部にあたる複数の基板14からなる特定の基体群(領域A3に属する基体群)に対し
て、該
基体群以外の他の
基体群に対するよりも多い量の成膜材料を
付着させながら、
同じく回転している基板ホルダ12の基体保持面に保持されるすべての基板14の一部にあたる複数の基板14からなる特定の基体群(領域A2に属する基体群)のみにアシスト効果を与えるイオンビームを部分照射するので、アシスト効果を与えるイオンビームの照射を
回転している基板ホルダ12の基体保持面に保持されるすべての基板14(領域A1に属する基体群)
に行う全面照射
の場合と比較して、薄膜の緻密化が一層促進され、結果として高いイオンアシストの効果を得ることができる。
【0102】
<<第3実施形態>>
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の他の例(機能性薄膜の成膜方法)を説明する。
本例では、機能性薄膜の一例として、有機物で構成される防汚膜を成膜する場合を例示する。なお、防汚膜は、撥水性、撥油性を有する膜であり、油汚れの付着を防止する機能を有する。ここで、「油汚れの付着を防止する」とは、単に油汚れが付着しないだけでなく、たとえ付着しても簡単に拭き取れることを意味する。すなわち、防汚膜は撥油性を維持する。
【0103】
本例において、蒸着源34のボートに充填する防汚膜を形成するための成膜材料の形態は、特に限定されず、例えば、(a)多孔質セラミックに疎水性反応性有機化合物を含浸させたものや、(b)金属繊維又は細線の塊に疎水性反応性有機化合物を含浸させたものを用いることができる。これらは、多量の疎水性反応性有機化合物を素早く吸収し、蒸発させることができる。多孔質セラミックは、ハンドリング性の観点からペレット状で用いることが好ましい。
【0104】
金属繊維又は細線としては、例えば鉄、白金、銀、銅などが挙げられる。金属繊維又は細線は、十分な量の疎水性反応性有機化合物を保持できるように絡みあった形状のもの、例えば織布状や不織布状のものを用いることが好ましい。金属繊維又は細線の塊の空孔率は、疎水性反応性有機化合物をどの程度保持するかに応じて決定することができる。
【0105】
成膜材料として、金属繊維又は細線の塊を用いる場合、これを一端が開放した容器内に保持することが好ましい。容器内に保持した金属繊維又は細線の塊もペレットと同視することができる。容器の形状は特に限定されないが、クヌーセン型、末広ノズル型、直筒型、末広筒型、ボート型、フィラメント型等が挙げられ、成膜装置1の仕様によって適宜選択することができる。容器の少なくとも一端は開放されており、開放端から疎水性反応性有機化合物が蒸発するようになっている。容器の材質としては、銅、タングステン、タンタル、モリブデン、ニッケル等の金属、アルミナ等のセラミック、カーボン等が使用可能であり、蒸着装置や疎水性反応性有機化合物によって適宜選択する。
【0106】
多孔質セラミックペレット、及び容器に保持した金属繊維又は細線の塊からなるペレットのいずれも、サイズは限定されない。
多孔質セラミック又は金属繊維又は細線の塊に疎水性反応性有機化合物を含浸させる場合、まず疎水性反応性有機化合物の有機溶媒溶液を作製し、浸漬法、滴下法、スプレー法等により溶液を多孔質セラミック又は金属繊維又は細線に含浸させた後、有機溶媒を揮発させる。疎水性反応性有機化合物は反応性基(加水分解性基)を有するので、不活性有機溶媒を使用するのが好ましい。
【0107】
不活性有機溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン等)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン等)、炭化水素系溶剤(トルエン、キシレン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独でも2種以上を混合しても良い。疎水性反応性有機化合物溶液の濃度は限定的ではなく、疎水性反応性有機化合物を含浸する担体の形態に応じて、適宜設定することができる。
【0108】
本例では、第2実施形態の(1)〜(3)の各作業を行う。ただし本例では(3)においてイオン源38とニュートラライザ40は作動させず、蒸着源34のみを、シャッタ34aの開動作によって直ちに成膜材料を拡散(放出)できるように準備する。
【0109】
(4)次に、コントローラ52は、シャッタ34aを開き、防汚膜を形成するための成膜材料の抵抗加熱方式による真空蒸着を行う(成膜処理)。なお本例において、成膜材料の加熱は、抵抗加熱方式に限定されず、ハロゲンランプ、シーズヒータ、電子ビーム、プラズマ電子ビーム、誘導加熱等を用いることもできる。
すなわち本例では、回転途中の各基板14の成膜面に対し、蒸着源34から成膜材料を例えば3〜20分(T3)の間、飛散させ、成膜処理を行う(成膜材料の部分供給)。その結果、個々の基板14表面には防汚膜が、所定厚み(例えば1〜50nm)で形成される。
【0110】
(5)第2実施形態と同様に、コントローラ52は、基板14上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると蒸着を停止する。これにより、複数の基板14の表面に防汚膜が所定膜厚で成膜され、防汚膜基材が得られる。なお、コントローラ52は、成膜を停止する際に、シャッタ38aを閉じる。シャッタ34aは終始閉じられたままである。
【0111】
本例による成膜装置1を用いた成膜方法によると、
回転している基板ホルダ12の基体保持面に保持されるすべての基板14の一部にあたる複数の基板14からなる特定の基体群(領域A3
に属する基体群)に対して、該
基体群以外の他の
基体群に対するよりも多い量の成膜材料を
付着させることが可能となる構成で真空容器10内に設置された蒸着源34を用いる。
【0112】
そして、複数
の基板14を基体保持面の全体に亘り保持させた状態で基板ホルダ12を鉛直軸回りに回転させながら蒸着源34を継続して作動させる
(成膜材料の部分供給)。
【0113】
これにより、移動しているすべての或いは一部の各基板14に対する蒸着源34からの成膜材料の
付着量を時間とともに変化させながら、
複数の基板14の
すべてに、成膜材料からなる薄膜を堆積させる。
パルス状に密度の高い成膜材料の供給により、各基板14の表面のエネルギー状態の活性化が促進される。この後、多粒子間の相互作用を通して各基板14の表面は熱平衡状態へと到達する確率が高くなる。これにより、
回転している基体保持手段の基体保持面の全体に亘り保持され
るすべての基体に
多い量の成膜材料を
付着(成膜材料の全面供給)
させる従来手法と比較して、基板14とその上に堆積する薄膜との間での結合力をより高めることができる。その結果、
複数の基板14の
すべてに諸性能(本例では、機能性薄膜としての防汚膜の耐摩耗性など)に優れた薄膜を形成することができる。
【0114】
本例で成膜される防汚膜は、1kg/cm
2の荷重によるスチールウール#0000を、1000回(好ましくは2000回)を超えて往復させても油性ペンによるインクを拭き取れるように、その耐摩耗性がより高められている。
【0115】
なお、防汚膜の成膜手順は上記手順に限定されない。例えば、真空容器10の内部下方に、蒸着源34以外の蒸着源(例えば電子ビーム加熱方式など)を配設し、この別途配設した蒸着源(図示省略)により基板ホルダ12に保持されたすべての基板14の表面にSiO
2やAl
2O
3などの無機膜を数nm程度で成膜(好ましくは部分供給)した後、蒸着源34を作動させて該無機膜上に防汚膜を成膜してもよい。この態様によっても、上述した従来手法と比較して、得られる防汚膜の耐摩耗性がより高められる。
【0116】
<<その他の実施形態>>
なお、上述した第2実施形態や第3実施形態では、成膜材料の部分供給に先立ち、コントローラ52を介して、イオン源38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させてシャッタ38aを開き、回転途中の個々の基板14に対してイオンビームを照射してもよい(成膜開始前の、イオンビームの部分照射による基板14表面のクリーニング)。このとき、ニュートラライザ40の作動も開始させる。
【0117】
成膜開始前に行うイオンビームの部分照射によるクリーニング条件は、第2実施形態の成膜アシスト条件(前出)と同じ条件で行ってもよいし、異なる条件で行うこともできる。
ただし、イオンの加速電圧(V)は、例えば50V以上、好ましくは500V以上、より好ましくは700V以上であって、例えば1500V以下、好ましくは1300V以下、より好ましくは1200V以下とする。イオンの照射電流(I)は、例えば50mA以上、好ましくは200mA以上、より好ましくは400mA以上であって、例えば1500mA以下、好ましくは1300mA以下、より好ましくは1200mA以下とする。
ニュートラライザ40の作動条件は、第2実施形態の成膜アシスト(前出)における場合と同じ条件で行ってもよいし、異なる条件で行うこともできる。
【実施例】
【0118】
次に、上記発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、発明をさらに詳細に説明する。
【0119】
各実験例において、T3,T4は成膜時における時間を意味し、特にT3は基板ホルダに向けた成膜材料の蒸発物の全放出時間、T4は1枚あたりの基板に対する前記蒸発物の付着時間である。T5,T6は上記成膜時のイオンアシストの時間を意味し、特にT5は基板ホルダに向けたイオンビームの全照射(全アシスト)時間、T6は1枚あたりの基板に対するイオンビームの実照射(実アシスト)時間である。T1,T2はクリーニング時における時間を意味し、特にT1は基板ホルダに向けたイオンビームの全照射時間、T2は1枚あたりの基板に対するイオンビームの照射時間である。
【0120】
《実験例1〜5》
各例では、
図1に示す成膜装置1(蒸着源34をオフセット。ドーム径D1、高さD2、オフセットD3、角度θ1の設計値は表1参照)を準備し、下記条件で成膜して防汚膜サンプルを得た。なお、基板としてBK7(屈折率n=1.52)を用い、基板ホルダの回転速度(RS)を30rpmとした。
【0121】
防汚膜の成膜については、成膜開始時の基板温度を100℃とし、成膜条件を以下とした。
・成膜材料:キャノンオプトロン社製の撥油剤(商品名:OF−SR、成分名:含フッ素有機珪素化合物)。
・T3:500秒(実験例1〜5)。
・T4:100秒(実験例1,実験例1−1)、80秒(実験例2)、290秒(実験例3)、230秒(実験例4)、360秒(実験例5)。
【0122】
なお、実験例4の成膜材料の供給領域(A3)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を
図6に示す。また実験例1において、
図6に示す、基板ホルダ12の下面全域に相当する領域A1での各測定点A〜Cにおける成膜材料の蒸発物供給の各状態を
図8のグラフに示す。
図8に示すように、測定位置によって各測定点での成膜レートが変動していることが理解できる。これは、基板ホルダ12が回転することによって各軌跡上を移動する各測定点について、測定位置によって蒸発物が付着したり付着しなかったりしていることを意味している。各測定点ごとにレート最大値を示す位置(例えば測定点Cでは90°の位置)に、
図6の領域A3に相当する蒸着物付着エリアの中心付近が存在する。
【0123】
実験例1−1における、基板クリーニングに関するイオン照射(イオンビームの部分照射)については、照射開始時の基板温度を100℃とし、イオン源の条件を以下とした。
・導入ガス種及び導入量:O
2を50sccm。
・イオン加速電圧:1000V。
・照射イオン電流:500mA。
・T1:300秒、T2:110秒。
・基板ホルダの中心から560mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対する、基板クリーニング時のイオン照射の割合:35%。
【0124】
実験例1−1における、ニュートラライザの条件は以下とした。
・導入ガス種及び導入量:Arを10sccm、
・電子電流:1A。
【0125】
なお、実験例1−1のイオンビームの照射領域(A2)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を
図24に示す。
【0126】
《実験例6》
本例では、
図25に示す成膜装置1a(蒸着源34による成膜材料の供給領域とイオン源(図示省略。ニュートラライザも同様に省略)によるイオンビームの照射領域が基板ホルダ12の基板セット面の全域である従来の成膜装置。D1〜D3及びθ1の各設計値は表1参照)を準備した。この成膜装置1aを用いて、実験例1〜5と同一条件で成膜して防汚膜サンプルを得た。なお、本例で用いた成膜装置1aにおいて、成膜材料の供給領域(A3)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を
図26に示す。
・T3:500秒、T4:500秒。
【0127】
《実験例7,実験例7−1》
各例では、実験例1と同一の成膜装置を準備し、下記条件で、光学フィルタ薄膜サンプルを作製した。光学フィルタ薄膜サンプルは、高屈折率膜と低屈折率膜との27層からなる短波長透過フィルタ(Short Wave Pass Filter : SWPF)の多層膜である。基板としてBK7(屈折率n=1.52)を用い、基板ホルダの回転速度(RS)を30rpmとした。
【0128】
光学フィルタ薄膜の成膜については、成膜開始時の基板温度を100℃とし、成膜条件を以下とした。
【0129】
・成膜材料:Ta
2O
5(高屈折率膜)と、SiO
2(低屈折率膜)。
・Ta
2O
5の成膜速度:0.5nm/秒。
・Ta
2O
5蒸発物の、T3:2260秒、T4:1620秒。
・SiO
2の成膜速度:1.0nm/秒。
・SiO
2蒸発物の、T3:1500秒、T4:1075秒。
【0130】
光学フィルタ薄膜の成膜に際し、アシスト効果を与えるイオン照射については、照射開始時の基板温度を100℃とし、出力条件を以下とした。
・導入ガス種及び導入量:O
2を50sccm。
・イオン加速電圧:300V。
・照射イオン電流:500mA。
・Ta
2O
5成膜時の、T5:2260秒、T6:750秒。
・SiO
2成膜時の、T5:1500秒、T6:500秒。
【0131】
ニュートラライザの条件は以下とした。
・導入ガス種及び導入量:Arを10sccm、
・電子電流:1A。
【0132】
実験例7−1における、基板クリーニングに関するイオン照射(イオンビームの部分照射)については、イオン源による出力を以下の条件とした。
・導入ガス種及び導入量:O
2を50sccm。
・イオン加速電圧:300V。
・照射イオン電流:500mA。
・T1:300秒、T2:100秒。
・基板ホルダの中心から560mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:35%。
【0133】
実験例7−1における、基板クリーニングに関するニュートラライザの条件は以下とした。
・導入ガス種及び導入量:Arを10sccm、
・電子電流:1A。
【0134】
《実験例8》
本例では、実験例6と同様、
図25に示す成膜装置1aを準備した。この成膜装置1aを用いて、実験例7と同一条件で成膜して光学フィルタ薄膜サンプルを得た。
・Ta
2O
5蒸発物の、T3:2260秒、T4:2260秒。
・Ta
2O
5成膜時の、T5:2260秒、T6:2260秒。
・SiO
2蒸発物の、T3:1500秒、T4:1500秒。
・SiO
2成膜時の、T5:1500秒、T6:1500秒。
【0135】
【表1】
【0136】
《最大擦傷往復回数の評価》
実験例1〜6で得られた防汚膜サンプルの最大擦傷往復回数を測定することによって該サンプルの耐摩耗性を評価した。具体的には、各例の防汚膜サンプルの表面に、1cm
2のスチールウール#0000を載せ、1kg/cm
2の荷重をかけた状態で、50mmの直線上を1往復1秒の速さで擦傷試験を行った。この擦傷試験の往復100回毎に、試験面(防汚膜面)に、油性マジックペン(有機溶媒型マーカー、商品名:マッキー極細、セブラ社製)で線を描き、この有機溶媒型インクによる線を乾燥布で拭き取れる最大擦傷往復回数を測定した。
【0137】
その結果、実験例1サンプルの最大擦傷往復回数は3000回であった。実験例2〜5についても同様に、最大擦傷往復回数は3000回であった。これに対し、成膜材料を全面供給して形成した実験例6サンプルの最大擦傷往復回数は1000回であり、実験例1及び実験例2〜5の各サンプルと比較して耐摩耗性の劣化が確認できた。ただし、「最大擦傷往復回数:1000回」であっても、十分に耐摩耗性があり、十分に実用に耐えうるものと判断される。
なお、成膜材料の部分供給に先立ち、イオンビームの部分照射によって基板表面をクリーニングして形成した実験例1−1サンプルの最大擦傷往復回数は3500回であり、実験例1及び実験例2〜5と比較してさらに耐摩耗性が優れていることが確認できた。
【0138】
《水接触角の評価》
実験例1〜6で得られた防汚膜サンプルの水接触角を測定することによって該サンプルの耐摩耗性を評価した。具体的には、各例の防汚膜サンプルの表面に、1cm
2のスチールウール#0000を載せ、1kg/cm
2の荷重をかけた状態で、50mmの直線上を1往復1秒の速さで2000回、擦傷を行った後、JIS−R3257のぬれ性試験に準拠した方法で、防汚膜上の水に対する接触角を測定した。より具体的には、試験台に防汚膜サンプルを載置し、擦傷後の防汚膜側に蒸留水を滴下し、静置した状態で水滴の接触角を市販の測定機(DM500、協和界面科学社製)を用いて測定した。
【0139】
その結果、実験例1サンプルの水接触角は101度であった。実験例2〜5の各サンプルの水接触角は101度(実験例2)、99度(実験例3)、100度(実験例4)、98度(実験例5)であった。これに対し、実験例6サンプルの水接触角は51度であり、実験例1及び実験例2〜5の各サンプルと比較して耐摩耗性の劣化が確認できた。
なお、実験例1−1サンプルの水接触角は103度であり、実験例1及び実験例2〜5と比較してさらに耐摩耗性が優れていることが確認できた。
【0140】
《分光特性の評価》
実験例7,7−1,8で得られた光学フィルタ薄膜サンプルの透過分光特性(透過率T)と反射分光特性(反射率R)を測定し、その和(R+T)をグラフ化し、特に波長域450〜550nmでの(R+T)値の平均値をプロット化することによって該サンプルの分光特性を評価した。結果を
図27に示す。
その結果、実験例7及び実験例7−1はいずれも、可視光領域の全般で吸収が確認されなかった。特に450nmから550nmの波長域での(R+T)値については、実験例7では99.5%以上であり、薄膜(多層膜)での吸収がほとんどなく、良好な光学特性を持つ薄膜であることが確認できた。実験例7−1では、実験例7の結果以上の99.8%の値が得られ、極めて良好な光学特性を持つ薄膜を形成できていることが確認できた。
これに対し、実験例8では、可視光領域の全般で一部、吸収が確認された。特に450nmから550nmの波長域での(R+T)値が99.1%であり、薄膜(多層膜)での吸収が少し見られ、実験例7及び実験例7−1と比較した場合に光学特性の劣化が確認できた。
【0141】
なお、各実験例での処理形式と評価結果を表2にまとめた。
【0142】
【表2】