【実施例】
【0023】
図1は、放射性物質を含む放射性物質汚染物から放射性物質を除去する放射性物質汚染物の除染装置の簡略図である。
図1に示すように、本実施例に係る放射性物質汚染物の除染装置10Aは、セルロースとヘミセルロースとリグニンとを含む放射性物質に汚染された放射性物質汚染物11を粉砕する粉砕機12と、該粉砕機12で粉砕された放射性物質汚染物11を供給し、加圧熱水14と対向接触させて、放射性物質をヘミセルロースとリグニンと共に熱水側に移行させて熱水排出液の熱水可溶分16として抜き出すと共に、放射性物質が除去されたセルロースを含む固形分を熱水排出液の排出側とは異なる側から熱水不溶分(固形分)15として抜き出す水熱分解装置13とを具備するものである。
【0024】
図1において、放射性物質に汚染された放射性物質汚染物11は、所定の大きさに粉砕する粉砕機12で粉砕された後、水熱分解装置13に供給される。
水熱分解装置13では、放射性物質汚染物11を加圧熱水14と対向接触させて、放射性物質を加圧熱水14側に移行させて熱水排出液の熱水可溶分16として抜き出すと共に、放射性物質が除去された固形分を熱水排出液の排出側とは異なる側から熱水不溶分(固形分)15として抜き出すものである。
【0025】
本実施例に係る放射性物質汚染物の除染装置10Aは、セルロースとヘミセルロースとリグニンとを含む放射性物質に汚染された放射性物質汚染物11を、水熱分解装置13で水熱分解処理し、熱水可溶分と熱水不溶分15とに分離し、熱水可溶分16側に放射性物質をリグニン等と共に移行させ、この熱水可溶分16を保管することにより、除染するものである。
【0026】
ここで、本明細書で「放射性物質汚染物」とは、放射性物質の汚染前に栽培されていたセルロースとヘミセルロースとリグニンとを含む農作物であって、収穫された際には汚染されていなかったものが、その後放射性物質に晒されて放射能に汚染された汚染農作物となったもの、汚染前の耕作地の土壌に農作物を作付けし、その後土壌が放射性物質に汚染され、この汚染されたた土壌で生育され、生育の過程において放射性物質に汚染された汚染農作物をいう。
また、農作物に限定されず農作物以外のセルロースとヘミセルロースとリグニンとを含む全ての生育物も含まれる。
【0027】
一例として、農作物としては、いわゆるバイオマス原料を挙げることができ、バイオマス原料としては、特に限定されるものではなく、地球生物圏の物質循環系に組み込まれた生物体又は生物体から派生する有機物の集積をいう(JIS K 3600 1258参照)。バイオマスは、セルロース系バイオマス原料や炭水化物系原料などを含み、バイオマスとしては、特に、木質系の例えば広葉樹、草本系等のリグノセルロース資源や農業系廃棄物、食品廃棄物等を挙げることができる。また、セルロース系バイオマス原料としては、例えば稲藁、麦稈、コーンストーバー(トウモロコシの茎)、コーンコブ(トウモロコシの芯)、EFB(アブラヤシの空果房)等を例示することができる。また、炭水化物系原料としては、例えばトウモロコシ、米、小麦、大麦、キャッサバなどの穀物類を挙げることができる。
【0028】
放射性物質汚染物11は、粉砕機12で、例えば5mm以下に粉砕され、粉砕物となる。粉砕された放射性物質汚染物11は、水熱分解装置13で水熱処理される。水熱分解装置13は、粉砕された放射性物質汚染物11を内部に投入される加圧熱水14と対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水14中に放射性物質、リグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、粉砕された放射性物質汚染物11の固体中から放射性物質、リグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなるものである。
こうして、粉砕された放射性物質汚染物11は、水熱分解装置13で水熱処理され、バイオマスの固形分である熱水不溶分(固形分)15と、加圧熱水14中に放射性物質、リグニン成分及びヘミセルロース成分を移行した水熱抽出画分である熱水可溶分16とになる。
【0029】
放射性物質汚染物11は、少なくとも熱水不溶の固形分のセルロースと、熱水可溶分のリグニン、ヘミセルロースを含むバイオマス原料である。
【0030】
熱水可溶分16は、放射性物質を含む液体分であるので、その後乾燥装置17で乾燥して減容化処理し、その乾燥物18は、例えばドラム缶等により厳重に保管される。
これに対し、熱水不溶分15は、除染された固形分となり、この固形分15にはセルロース成分が含まれているので、例えば公知の糖化処理手段及びアルコール発酵処理手段により処理を行い、例えばメタノール又はエタノール等の有価物に変換処理することができる。
【0031】
また、熱水不溶分(固形分)15は、セルロール成分が主体であるので、糖化装置30で糖液を得た後、この糖液を用いてアルコール発酵装置31によりアルコール(例えばメタノールやエタノール等)32を製造し、有価物として回収するようにしている。
【0032】
また、熱水不溶分(固形分)15をバイオマスボイラ33に供給し、ボイラ燃料に利用され、熱や電気として熱回収される。
【0033】
図2は、放射性物質を含む放射性物質汚染物から放射性物質を除去する水熱分解装置を備えた他の放射性物質汚染物の除染装置の簡略図である。
図1に示す実施例では、熱水可溶分16を保管しているが、
図2の本実施例に係る放射性物質汚染物の除染装置10Bでは、熱水可溶分16をメタン発酵装置21に供給してメタン22を回収し、ボイラ燃料等に利用し、熱から電気へのエネルギーに変換している。
【0034】
また、発酵残渣23は、乾燥装置24で乾燥して減容化し、乾燥物25として保管される。
【0035】
図3は、放射性物質を含む放射性物質汚染物から放射性物質を除去する水熱分解装置を備えた他の放射性物質汚染物の除染装置の簡略図である。
図1に示す実施例では、熱水可溶分16を保管しているが、
図3の本実施例に係る放射性物質汚染物の除染装置10Cでは、熱水可溶分16中に含まれる放射性物質をイオン交換により除去するイオン交換樹脂(例えばゼオライト等)を有するイオン交換手段41を設け、イオン交換樹脂により熱水可溶分16を無害化処理している。
この無害化処理された熱水可溶分43は、ヘミセルロースを含むので、例えば糖化装置によりC5糖へ糖化し、これをアルコール発酵等してアルコールを得るようにしてもよい。
【0036】
また、イオン交換手段41で破過したイオン交換樹脂42は、放射性物質を含むので、ドラム缶等により厳重に保管される。
【0037】
(水熱分解装置)
次に、バイオマスの水熱分解装置13の構成の一例の概念図を
図4に示す。
図4に示すように、水熱分解装置13Aは、バイオマス供給装置51と、反応装置52と、固形分抜出装置53とを有するものである。バイオマス供給装置51は、放射性物質汚染物11を常圧下から加圧下に供給するものである。
【0038】
反応装置52は、装置本体54内に設けられるスクリュー手段55と、装置本体54の外周に設けられる温度ジャケット56とを有する。反応装置52内に供給された放射性物質汚染物11を、いずれか一方(本実施例では下方側)から装置本体54の内部にて、スクリュー手段55により他方(上方)へ搬送すると共に、放射性物質汚染物11の供給箇所とは異なる他方(上方)の側から加圧熱水14、加圧窒素(N
2)57を装置本体54の内部に供給し、放射性物質汚染物11と加圧熱水14とを対向接触させつつ水熱分解するものである。これにより、放射性物質、リグニン成分及びヘミセルロース成分は加圧熱水14中に移行し、放射性物質汚染物11中から分離され、熱水可溶分16として反応装置52の下端から熱水抜出部58により排出される。
【0039】
固形分抜出装置53は、反応装置52の他方から固形分である熱水不溶分(固形分)15を抜出すものである。固形分抜出装置53は、固形画分を冷却水(CW)で冷却して生じた脱水液59を反応装置52から排出される熱水可溶分16に混合する。
【0040】
本実施例では、放射性物質汚染物11を下端部側から供給しているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、これとは逆に上端部側から供給するようにしてもよく、この際には、加圧熱水14は下端部側から供給する。
【0041】
常圧下から加圧下に供給する供給装置51としては、例えばスクリューフィーダー、ピストンポンプ又はスラリーポンプ等の手段を挙げることができる。
【0042】
反応装置52は、本実施例では、縦型の装置としているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、傾斜型の装置や、水平型の装置としてもよい。ここで、縦型や傾斜型とするのは、水熱分解反応において発生したガスや原料中に持ち込まれたガス等が上方から速やかに抜けることができ、好ましいからである。また、加圧熱水14で分解生成物を抽出するので、抽出効率の点から上方から下方に向かって抽出物の濃度が高まることとなり、好ましいものとなる。
【0043】
本実施例では、放射性物質汚染物11を水熱分解装置13Aに供給する前に、前処理装置として、粉砕機12を用いて前処理するようにしているが、本実施例は、これに限定されるものではなく、放射性物質汚染物11の粒径が十分小さい場合には粉砕機12を設けなくてもよい。また、放射性物質汚染物11が例えば籾殻等の場合には、水熱分解装置13Aに供給する前に粉砕機12等で粉砕処理することなく、そのまま供給装置51に供給してもよい。
【0044】
反応装置52における、熱水不溶分を糖化する場合においては、反応温度は180℃以上240℃以下とするのが好ましい。さらに好ましくは200℃以上230℃以下とするのがよい。これは、180℃未満の低温では、水熱分解速度が小さく、長い分解時間が必要となり、装置の大型化につながり、好ましくないからである。一方240℃を超える温度では、分解速度が過大となり、セルロース成分が固体から液体側への移行を増大すると共に、ヘミセルロース系糖類の過分解が促進され、好ましくないからである。また、ヘミセルロース成分は約140℃付近から、セルロースは約230℃付近から、リグニン成分は140℃付近から各々溶解するが、セルロースを固形分側に残し、且つ放射性物質を加圧熱水14中に溶解すると共に、ヘミセルロース成分及びリグニン成分が十分な分解速度を持つ180℃以上240℃以下の範囲とするのがよい。
【0045】
一方、汚染物が単にバイオマスの表面に付着している場合は、上記の温度は60〜140℃程度でもよい。なお、この場合、ヘミセルロース、リグニンの分解が十分に進行しないため、処理されたものは、糖化には、適さないが、バイオマスボイラ等の燃料として使用することが可能である。
【0046】
反応圧力は装置本体54の内部が加圧熱水14の状態となる、各温度の水の飽和蒸気圧より更に0.1MPa以上0.5MPa以下の高い圧力とするのが好ましい。
【0047】
反応時間は、20分以下とするのが好ましく、3分以上10分以下とするのがより好ましい。これはあまり長く反応を行うと過分解物の割合が増大し、好ましくないからである。
【0048】
本実施例では、反応装置52の装置本体54内の加圧熱水14と放射性物質汚染物11との流動は、放射性物質汚染物11と加圧熱水14とを対向接触させる、いわゆるカウンターフローで接触・撹拌・流動するようにすることが好ましい。
【0049】
反応装置52では、放射性物質汚染物11の固形分は底部側から供給され、加圧熱水14は頂部側から供給され、相互が対向して移動することにより、加圧熱水(熱水、分解物が溶解した液)14は、固体である放射性物質汚染物11とカウンターフローに固体粒子間に滲みながら移動することとなる。
【0050】
本実施例においては、反応装置52の内部には気体部分が存在することとなるので、加圧窒素(N
2)57を内部に供給するようにしているが、本実施例は、これに限定されるものではなく、反応装置52の内部に加圧窒素(N
2)57を供給しなくてもよい。
【0051】
反応装置52内における放射性物質汚染物11の昇温は、反応装置52内で加圧熱水14と接触させ、直接熱交換することにより可能である。なお、必要に応じて、外部から水蒸気等を用いて加温するようにしてもよい。
【0052】
水熱分解装置13Aにおいて、放射性物質汚染物11と加圧熱水14とを対向接触させることにより、加圧熱水14に可溶化され易い成分から順次排出されると共に、放射性物質汚染物11の投入部から熱水投入部まで温度勾配が生じるため、ヘミセルロース成分の過分解が抑制され、結果的に5炭糖成分を効率よく回収することができる。さらに、対向接触させることで、熱回収ができ、システム効率の観点から好ましいものとなる。
【0053】
よって、水熱分解装置13Aに供給された放射性物質汚染物11は、水熱分解装置13Aから固形画分(主にセルロース)の熱水不溶分15および熱水可溶分16とが水熱処理物として排出される。
水熱分解装置13Aにおいて放射性物質汚染物11を加圧熱水14と向流(カウンターフロー)で対向接触させて水熱分解することにより、糖やアルコールの原料となるセルロースを含む固形画分の熱水不溶分15と、放射性物質を含有する熱水可溶分16とを一段処理で効率的に分離することができる。
【0054】
このように、本実施例にかかる水熱分解装置13は、
図4に示すような構成に限定されるものではない。
図5は、バイオマスの水熱分解装置の他の構成の一例を示す概念図である。
図5に示すように、水熱分解装置13Bは、バイオマス供給装置61と、反応装置62と、固形分抜出装置63と、液体分抜出部68とを有する。なお、V
11〜V
15は、差圧調整弁(ON−OFF弁)を示す。
【0055】
バイオマス供給装置61は、バイオマス原料(本実施例では、例えば放射性物質吸収植物のうちの麦わら等)の放射性物質汚染物11を常圧下から加圧下に供給する装置である。バイオマス供給装置61としては、例えば、ピストンポンプ又はスラリーポンプ等のポンプ手段を挙げることができる。
【0056】
反応装置62は、装置本体64内に設けられる固定撹拌手段65と、装置本体64の外周に設けられる温度ジャケット66とを有する。装置本体64内に供給された放射性物質汚染物11を、上下のいずれかの端部側(本実施例では下端側)から垂直型装置本体(以下「装置本体」という)の内部を圧密状態で徐々に移動させると共に、放射性物質汚染物11の供給とは異なる端部側(本実施例では上端側)から加圧熱水14を装置本体64内部に供給し、放射性物質汚染物11と加圧熱水14とを対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水14中に放射性物質、リグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、放射性物質汚染物11中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる反応装置である。
【0057】
バイオマス抜出装置63は、上述の通り、装置本体64の加圧熱水14の供給部側からバイオマス固形分である熱水不溶分(固形分)15を抜出すものである。
【0058】
装置本体64の内部には、放射性物質汚染物11をいわゆるプラグフローの圧密状態で撹拌するための固定撹拌手段65が設けられている。固定撹拌手段65の周囲を放射性物質汚染物11が回転することにより、内部に送り込まれる放射性物質汚染物11を軸方向に移動する際に、その撹拌作用により放射性物質汚染物11は撹拌される。固定撹拌手段65を装置本体64の内部に設けることにより、装置本体64内で固体表面、固体中の加圧熱水14の混合が進み、反応が促進される。
【0059】
水熱分解装置13Bの反応装置62の装置本体64内の加圧熱水14と放射性物質汚染物11との流動は、放射性物質汚染物11と加圧熱水14との混合を効率よく行い、反応を促進する観点から、放射性物質汚染物11と加圧熱水14とを対向接触させる、いわゆるカウンターフローで撹拌・流動するようにすることが好ましい。
【0060】
水熱分解装置13Bは、プラグフロー型による水熱分解であるので、構造が簡易であり、固体である放射性物質汚染物11は、管中心軸と垂直に攪拌されながら、管中心軸と平行に移動することとなる。一方、加圧熱水14(熱水、分解物が溶解した液)は、固体に対しカウンターフローにて固体粒子間に滲みながら移動する。
【0061】
また、プラグフローでは、加圧熱水14の均一な流れを実現することができる。固体の放射性物質汚染物11が加圧熱水14により分解すると、分解物が熱水側に溶解する。分解部近傍は高粘度となり、未分解部近傍へ優先的に熱水が移動し、未分解部が続いて分解する。これにより、均一な熱水の流れが形成され、均一な分解が実現される。
【0062】
水熱分解装置13Bは、装置本体64内に固定撹拌手段65を有しているため、水熱分解装置13Bにおける装置本体64内面の管壁の抵抗により、装置本体64内において、放射性物質汚染物11の入口側に比べ、放射性物質汚染物11の出口側の固体密度が減少すると共に、放射性物質汚染物11の分解により固形分である熱水不溶分(固形分)15が減少する。このため、加圧熱水14の占める割合が増加し、液滞留時間が増加することにより、液中の分解成分が過分解する。このため、水熱分解装置13Bは、装置本体64内に少なくとも固定撹拌手段65を設けることで、加圧熱水14の占める割合を抑制し、液滞留時間を減少することにより、液中の分解成分が過分解することを抑制することができる。
【0063】
よって、水熱分解装置13Bに供給された放射性物質汚染物11は、水熱分解装置13Bから固形画分の熱水不溶分15および水熱抽出画分の熱水可溶分16が水熱処理物として排出される。
【0064】
<放射性物質保管又は処理>
熱水可溶分16として抜き出した後、熱水可溶分16をそのまま保管するか、イオン交換処理等により放射性物質を処理する。
【0065】
このように、本実施例に係る放射性物質汚染物の除染装置によれば、放射性物質物11を加圧熱水14と向流(カウンターフロー)で対向接触させて水熱分解装置13で水熱分解することにより、放射性物質汚染物11に含まれていた放射性物質を一段処理で効率的に水熱抽出画分の熱水可溶分16へ移行させることができる。これにより、糖やアルコールの原料となる固形画分の熱水不溶分15と、放射性物質を含有する水熱抽出画分の熱水可溶分16とを一段処理で効率的に分離することができる。
【0066】
したがって、本実施例に係る放射性物質汚染物の除染装置によれば、当初は放射能に汚染されていなかった作物等が、その後放射能に汚染されて放射性物質汚染物になった場合においても、放射性物質を水熱分解により熱水側へ移行させて、除染処理することができる。