(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高コントラストなフラットパネルディスプレイに用いることが可能なガラス基板およびその製造方法、ならびに液晶ディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、例えば、IPS(In-Place-Switching)方式、VA(Virtical Alignment)方式等の高コントラストの液晶ディスプレイでは、従来の液晶ディスプレイでは品質上問題とならなかったガラス基板主表面の凸部が、ディスプレイの品質に大きく影響することを見出した。このとき、内部欠陥が透光性を有さず、内部欠陥の長辺長さが50μmを超える場合であっても、短辺長さが5μm未満であり、さらに内部欠陥に起因する凸部が、ガラス基板の主表面において所定高さ以上形成されなければ、高画質ディスプレイ向けのガラス基板にも使用可能であることを見出した。より具体的には、ガラス基板上に凸部が存在する場合であっても、凸部の高さが0.15μm未満である場合は、前記凸部がデバイス形成側の面に使用されたとしても、品質上問題とならないことを見出した。
本発明者は、以上の知見に基づき、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の一態様に係るフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、
ガラス基板であって、
長辺長さが50μmを超え
、200μm以下であり、短辺長さが5μm未満である遮光性の内部欠陥と、
前記内部欠陥の位置に対応する前記ガラス基板の主表面上の位置に形成され、前記主表面からの高さが0.15μm未満である凸部と、を有
し、
厚さが0.1〜1.5mmであり、
SiO2 55〜75モル%、Al2O3 5〜20モル%、B2O3 0〜15モル%、RO 5〜20モル%(RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、前記ガラス基板に含まれる全元素を表す)、R’ 2O 0〜0.8モル%(R’はLi、K、及びNaのうち、前記ガラス基板に含まれる全元素を表す)を含有するガラス基板を、フラットパネルディスプレイガラス基板として用いることを特徴とする。
【0008】
遮光性の内部欠陥がガラス中に存在すると、表示画素の欠けなどによりディスプレイ品質上の問題を生じさせる。
また、内部欠陥がガラス基板の主表面近傍に存在すると、ガラス基板の主表面には凸部が形成されやすい。
特に、所定の大きさを超える遮光性の内部欠陥に起因して主表面に凸部が形成されたガラス基板は、高コントラストなディスプレイに用いられると品質面で問題が生じるとして、一律に不良品と判別されていた。しかし、長辺長さが50μmを超え、短辺長さが5μm未満である内部欠陥に起因して形成される凸部がガラス基板の主表面に存在する場合であっても、凸部のガラス基板の主表面からの高さが0.15μm未満である場合には、高コントラストなディスプレイに用いても問題が生じないことも分かった。
そこで、本発明では、従来、製品として品質上問題とならないにも関わらず、上記のような内部欠陥が存在するという理由だけで不良品として扱われていたガラス基板を製品として用いることができるようにし、ガラス基板製造の歩留まりを改善している。
【0009】
前記内部欠陥は、長辺長さが200μm以下であり、短辺長さが1μm以上であり、
前記凸部の前記主表面からの高さが0.10μm未満であり、
前記内部欠陥が、前記主表面から50μm未満の深さ領域に存在してもよい。
内部欠陥の長辺長さが200μm以下であり、また、短辺長さが1μm〜10μmの内部欠陥は長辺長さが50μmを超える大きさであっても、肉眼では存在していることが分かりにくい。そこで、ここでは、このようなサイズの内部欠陥を有するガラス基板を対象としている。
また、前記内部欠陥の長辺長さが50μmを超え80μm未満であり、短辺長さが1μm未満であってもよい。
【0010】
前記内部欠陥は、線状白金であってもよい。ガラス基板の製造は、白金又は白金合金製の反応装置を用いて行われる場合があるが、例えば、無アルカリガラスやアルカリ微量含有ガラスを原料としてガラス基板を製造する場合、これら無アルカリガラス、アルカリ微量含有ガラスは、高温粘性が高いために、清澄槽では、特に熔融ガラスの温度を高く保つ必要がある。清澄槽は、耐熱性の点から白金あるいは白金合金からなるが、熔融ガラスを高温に加熱するために高温状態になる清澄槽において、清澄槽の気相空間と接する内壁面から白金は揮発しやすい。さらに、揮発した白金は、その一部が気相空間の内壁面に再凝固して内壁面に白金あるいは白金合金の結晶粒を形成し易い。このため、熔融ガラス中に清澄槽の内壁面から結晶粒の一部が離脱して線状白金となってガラス基板中に落下する場合がある。ここでは、特に線状白金を内部欠陥として有するガラス基板を対象として、内部欠陥の短辺長さが5μm未満であって、ガラス基板の主表面の凸部が0.15μm未満である場合に、製品として用いるようにしている。
【0011】
前記内部欠陥は、前記主表面から50μm未満の深さ領域に存在してもよい。
ガラス基板の主表面の凸部は、内部欠陥がガラス基板の主表面に近い部分にあるほど、主表面からの高さが大きくなり、その分、ディスプレイの品質に影響を与えやすくなる。しかし、本発明のガラス基板では、そのような場合でも、上記所定の条件を満たせば、製品として用いることができる。
また、前記内部欠陥の長辺長さが50μmを超え80μm未満であり、短辺長さが1μm未満であってもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る液晶ディスプレイは、
上述のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を用いた液晶ディスプレイであって、
前記ガラス基板の一方の主表面にカラーフィルタ又はTFTデバイスが形成され、前記主表面側に液晶層が形成されていることを特徴とする。
【0013】
前記液晶ディスプレイは、2000:1以上のコントラスト比を有する場合に好ましく用いられる。
【0014】
本発明の他の一態様に係るフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法は、
厚さが0.1〜1.5mmであり、SiO2 55〜75モル%、Al2O3 5〜20モル%、B2O3 0〜15モル%、RO 5〜20モル%(RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、前記ガラス基板に含まれる全元素を表す)、R’ 2O 0〜0.8モル%(R’はLi、K、及びNaのうち、前記ガラス基板に含まれる全元素を表す)を含有するガラス基板を製造するガラス基板製造工程と、前記ガラス基板製造工程で製造されたガラス基板を検査するガラス基板検査工程と、を備え、
前記ガラス基板検査工程では、透光性を有さず、長辺長さが50μmを超え
、200μm以下であり、短辺長さが5μm未満である内部欠陥を有し、前記内部欠陥の位置に対応する前記ガラス基板の主表面上の位置に形成され、前記主表面からの高さが0.15μm以上である凸部を有するガラス基板を不良と判別することを特徴とする。
この方法によれば、透光性を有しない所定サイズを超える大きさの内部欠陥を有していても、高コントラストなフラットパネルディスプレイに用いることが可能なガラス基板を選別できる。これにより、製品歩留まりが良くなる。
【0015】
前記内部欠陥は、50μmを超え80μm未満の長辺長さを有し、1μm未満の短辺長さを有してもよい。
前記内部欠陥は、線状白金であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透光性を有しない所定サイズを超える大きさの内部欠陥を有していても、高コントラストなフラットパネルディスプレイに用いることが可能なガラス基板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のガラス基板及びガラス基板の製造方法、ならびに液晶ディスプレイについて説明する。
【0019】
(ガラス基板)
図1に、本発明の一実施形態によるガラス基板1の厚み方向断面図を示す。
まず、ガラス基板1の概略を説明する。
ガラス基板1の厚さは、0.1〜1.5mmであり、好ましい厚さの上限値は、1.1mm、0.7mm、0.5mmであり、最も好ましい上限値は0.4mmである。一方、好ましい厚さの下限値は、0.2mmである。
ガラス基板1のサイズは、500〜2500mm×2500〜3500mm(短手方向長さ×長手方向長さ)である。
【0020】
ガラス基板1の種類は、ボロシリケイトガラス、アルミノシリケイトガラス、アルミノボロシリケイトガラス、ソーダライムガラス、アルカリシリケイトガラス、アルカリアルミノシリケイトガラス、アルカリアルミノゲルマネイトガラス等が挙げられる。なお、液晶ディスプレイ用ガラス板や有機EL(Electro-Luminescence)用ガラス板としては、アルカリを実質的に含有しない、あるいはアルカリを極微量しか含有しないガラス板を適用することが好ましい。
【0021】
ガラス基板1は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用であり、高コントラストのフラットパネルディスプレイ用として好ましく用いられる。高コントラストのフラットパネルディスプレイとしては、例えば、IPS方式又はVA方式の液晶ディスプレイが挙げられる。なお、高コントラストとは、コントラスト比が2000:1〜3000:1程度以上のものをいう。
【0022】
ガラス基板1は、本実施形態では、液晶ディスプレイに用いられ、一方の主表面3は、半導体素子アレイ又はカラーフィルタなどの薄膜が形成される平滑な面であり、他方の主表面は、偏光フィルタが設けられる平滑な面である。
【0023】
図1では、液晶ディスプレイに用いられるガラス基板1は、透光性を有しない内部欠陥10を有している。
透光性を有しない内部欠陥10とは、ガラス基板1中に存在する遮光性の欠陥をいう。ガラス基板1の主表面3にその一部が現れているものは、内部欠陥10には含まれない。内部欠陥10は、本実施形態では、断面が円形又は三角形などの線状白金である。線状白金は、ガラス基板の製造時に、白金又は白金合金製の清澄槽等の装置から熔融ガラス中に落下して混入したと考えられている、細長く断面が多角形の白金異物である。ガラス基板中では、ガラス基板の製造工程中、熔融ガラスが一方向に流れることで複数の線状白金は一方向に向きを揃えている。具体的には、
図1に示す細長い線状白金の長辺の向きは、後述する
図4に示す成形装置200を流れるシートガラスの流れる方向(
図4中の矢印方向)に揃っている。
【0024】
内部欠陥10は、長辺長さL2が50μmを超え、短辺長さL1が5μm未満である。ここで、長辺長さL2は、内部欠陥10において長さが最大となる部分の長さであり、通常、ガラス基板1の延在する方向(
図1において紙面水平方向)の長さである。また、短辺長さL1は、長辺長さL2の方向と略直交する方向において、長さが最大となる部分の長さであり、通常、ガラス基板1の板厚方向(
図1において紙面上下方向)の長さである。
長辺長さL2が50μmを超える大きさの内部欠陥10に起因して、主表面3に凸部7(後述)が形成されたガラス基板1は、IPS方式、VA方式の高コントラストの液晶ディスプレイ等に用いられた場合に、ディスプレイの品質(視認可能な表示ムラ、画素欠けなど)に問題を生じさせる可能性がある。しかし、そのような内部欠陥10が存在する場合であっても、その短辺長さL1が5μm未満であり、凸部の形状
(高さ)が
0.15μm未満であれば、凸部が遮光性の内部欠陥に起因するものであっても、高コントラストのディスプレイに用いても品質上問題が生じない。
【0025】
本実施形態では、内部欠陥10は、例えば、長辺長さL2は200μm以下又は200〜52μmであり、短辺長さL1は1μm以上又は1〜4μmである。また、凸部7の長辺長さは、内部欠陥の長辺長さとほぼ同じ長さか、それ以下である。
別の好ましい態様として、内部欠陥10の形状に関して、内部欠陥10の長辺長さL2が50μmを超え80μm未満であり、短辺長さL1が1μm未満である。短辺長さL1は、例えば0.1μm以上である。この場合、凸部7の主表面からの突出高さが0.15μm未満である。このような内部欠陥10及び凸部7があっても、高コントラストのディスプレイに用いても品質上全く問題が生じない。
【0026】
ガラス基板1は、内部欠陥10の位置(以下、内部欠陥10の水平方向位置ともいう)に対応するガラス基板1の主表面3の位置に、主表面3からの高さhが0.15μm未満、例えば0.10μm未満である凸部7が形成されている。ここで、高さhは、凸部7において主表面3からの高さが最大となる部分の高さである。内部欠陥10の水平方向位置と対応するガラス基板1の主表面3の位置に形成された凸部7は、内部欠陥10に起因して形成されたと考えられる。このような凸部7を有するガラス基板1は、高コントラストの液晶ディスプレイに用いられると、液晶の駆動に影響を与える可能性があるが、高さhが0.15μm未満であれば、そのような問題は生じない。
【0027】
ここで、
図2を参照して、凸部7が与える液晶の駆動への影響について説明する。
図2に、ガラス基板1を用いて製造された本実施形態の液晶ディスプレイの板厚方向の断面を示す。この液晶ディスプレイは、IPS方式のディスプレイであり、
図2において上方から、ガラス基板11、液晶層20、ガラス基板1、バックライト22が積層されている。ガラス基板11は、ガラス基板1と同様のガラス原料からなるガラス基板であるが、内部欠陥を有さず、主表面に凸部を有しない。ガラス基板11の液晶層20側の主表面には、図示しないTFT(Thin Film Transistor)および画素電極がマトリクス状に配されて形成される。液晶層20には、液晶が注入されている。ガラス基板1は、上述のように内部欠陥10を有し、主表面に凸部7が形成されている。ガラス基板1は、凸部7が形成された側の主表面を液晶層20に向けて配され、この主表面にはカラーフィルタが形成される。なお、ガラス基板11,1の、液晶層20と反対側の主表面にはそれぞれ、図示しない偏光フィルタが配されている。
【0028】
この液晶ディスプレイにおいて、ガラス基板の凸部の高さが例えば0.2μm程度である場合は、液晶層20に電圧がかかると、凸部7が形成されたガラス基板1の領域では、凸部7が形成されていない周囲の領域に比べて低電圧で液晶が反応し、ディスプレイにおいて周囲の領域よりも早く明るくなる。一方、液晶層20にかかっている電圧が下がると、凸部7が形成されたガラス基板1の領域では、上記周囲の領域に比べてディスプレイの周囲の領域よりも遅く暗くなる。このようにガラス基板の主表面に、0.15μm以上の高さの凸部が存在する場合は、低電圧で液晶が駆動し、液晶の駆動差が生じることにより、従来のコントラスト(コントラスト比が1000:1未満、例えば500:1〜800:1程度)の液晶ディスプレイでは問題とならなかった、他の領域(周囲の領域)との発色又は発光態様の僅かな違いが偏光フィルタによって強調され、表示ムラとして視認されてしまう。これに対し、凸部7の高さhが0.15μm未満である場合は、上記のような液晶の駆動差が偏光フィルタによって、表示ムラとなって視認されるほどに強調されることはない。IPS方式の液晶ディスプレイでは、液晶をガラス基板上に水平(光入射方向に対して垂直)に配列し、水平方向(面内方向)に駆動して(液晶分子をガラス基板と平行な面内で回転させて)光の透過量を制御する。このため、IPS方式の場合、ガラス基板の面内に突出する高さが0.15μm以上の凸部7が存在すると、液晶の配列・駆動角度がずれ、光の透過量が変化して、パネルの局所的な明るさ等の表示ムラを生じる。すなわち、IPS方式では、凸部7が液晶の配向に与える影響は大きい。
【0029】
特に、線状白金のような棒状の内部欠陥10に起因して形成された凸部7は、ガラス基板1の主表面3に対して急峻な立ち上がり角度を有する(局部的に盛り上がる)ため、液晶層20のギャップ(板厚方向の距離)が狭くなっている領域(凸部7が形成された領域)では、コントラスト差が目立ち易い。しかも、凸部7は、長辺長さが50μmを超える長辺長さL2を有する内部欠陥に起因して形成されることによって、長辺方向に延びた凸領域として視認され易い。本発明のガラス基板1は、凸部7の高さhが0.15μm未満であることによって、このような高コントラストのディスプレイにも使用可能である。
本願発明者は、ガラス基板の内部に遮光性の内部欠陥が存在することにより主表面に凸部が形成された場合には、内部欠陥近傍のガラスの状態が泡などの内部欠陥の場合と異なるため、ディスプレイ表示品質への影響がより顕著に現れると考えている。遮光性の内部欠陥がディスプレイ表示品質に影響する理由の一つとして、遮光性の内部欠陥が形成されガラス基板中に存在することが内部欠陥近傍のガラスの状態(例えば、密度)に微小な影響を与え、このことが上記した液晶の駆動や、凸の形状と合わさって、また、光の透過量の減少も合わさって、ディスプレイの表示品質に顕著に影響を与えること、が考えられている。
本発明は、このような品質に影響を与える内部欠陥が存在していたとしても、高コントラストの液晶ディスプレイに採用できるガラス基板を特定するものである。
【0030】
ガラス基板1は、内部欠陥10の長辺長さが50μmを超え200μm以下であり、短辺長さが1μm以上5μm未満であって、内部欠陥10がガラス基板1の主表面3から50μm未満の深さ領域D内に存在しても、凸部7の高さhが0.10μmであれば、内部欠陥10及び凸部7を有してもよい。主表面付近に現れた内部欠陥10は、ガラス基板1の主表面3を隆起させて凸部7を生じさせる可能性が高い。しかし、内部欠陥10がガラス基板1の主表面3から50μm未満の深さ領域D内に存在する場合であっても、凸部7の高さhが0.10μmより低い場合、高コントラストのディスプレイに用いても品質上問題がない。
【0031】
以上のガラス基板1は、透光性を有しない所定長さを超える長辺長さL2を有する内部欠陥10を有するが、その短辺長さL1は5μmより短く、また、主表面3に形成された凸部7の高さhは0.15μmより低いため、高コントラストのディスプレイに用いられても、ディスプレイの品質上問題とはならない。したがって、従来は不良品として扱われたガラス基板を製品として利用することができ、歩留まりが改善される。
【0032】
なお、ガラス基板1は、他の実施形態では、液晶ディスプレイにおいてTFT側に配されるガラス基板(上述のガラス基板11)として用いられてもよい。この場合、ガラス基板は、凸部が形成された側の主表面を液晶層に向けて配されても、ディスプレイ品質に影響を与えることがない。
また、内部欠陥10は、ガラス基板1中に、複数存在してもよい。凸部7は、ガラス基板の主表面に複数あってもよい。
【0033】
(ガラス基板の製造方法)
次に、ガラス基板の製造方法について説明する。
図3に、ガラス基板の製造方法のフローの一例を説明する図を示す。
本発明のガラス基板の製造方法は、ガラス基板製造工程と、検査工程(ステップS100)と、を備える。
【0034】
ガラス基板製造工程は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程等を有する。
熔解工程(ST1)は熔解炉で行われる。熔解炉では、ガラス原料を、熔解炉に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解炉の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。環境負荷低減の点から、清澄剤として酸化錫を用いることが好ましい。
【0035】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄管において行われる。清澄工程では、清澄管内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれるCO
2あるいはSO
2を、清澄剤の還元反応により生じたO
2の泡が吸収して成長し、熔融ガラスの液面に泡は浮上して泡に含まれるガスが清澄管内の気相空間内に放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄管は、熔融ガラスから気相空間に放出されたガスを大気に放出するために、大気に連通した通気管を備える。
【0036】
均質化工程(ST3)では、清澄管から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
【0037】
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0038】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0039】
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス基板の洗浄が行われる。
【0040】
ここで、
図4を参照して、熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス板製造装置について説明する。
図4は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス板製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解炉101と、清澄管(清澄槽本体)102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
【0041】
図4に示す熔解装置100では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われる。清澄管102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
【0042】
なお、
図4に示す熔解炉101から成形装置200にいたる熔融ガラスMGの流路、具体的には、ガラス供給管104、清澄管102、ガラス供給管105、攪拌槽103、およびガラス供給管106の熔融ガラスMGの流路を形成する流路形成部材は、白金あるいは白金合金で構成されている。
【0043】
このような白金あるいは白金合金で構成される流路形成部材は、ガラス基板の製造(操業)を開始するとき、事前加熱される。
【0044】
熔解装置100、成形装置200で作製されるガラス基板としては、以下のガラス組成のガラスが用いられる。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は用いられる。
SiO
2 55〜75モル%、
Al
2O
3 5〜20モル%、
B
2O
3 0〜15モル%、
RO:5〜20モル%(RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)、
R’
2O:0〜0.8モル%(R’はLi、K、及びNaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)。
上記ガラスは、高温粘性が高いガラスの一例である。このようなガラスにおいて、清澄管102において適正な熔融ガラスの粘度で脱泡を行うために熔融ガラスを高温に加熱する。清澄剤として酸化錫を含み、粘度が10
2.5ポアズ(1ポアズ=0.1Pa・秒)であるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500〜1700℃であり、清澄管102の内部における溶融ガラス温度は1600℃以上となるよう加熱される。このため、清澄管102の内壁から揮発物は多量に揮発し、揮発物の凝集(析出)が生じるおそれがある。
なお、清澄管102の内部の気相空間に窒素などの不活性ガスを供給することで、清澄管102の内部の気相空間の酸素濃度(気相空間内の酸素分圧)を、少なくとも大気での酸素濃度未満に下げて揮発量を低減すること、また、清澄管102の内部壁面(気相空間にさらされた壁面)における温度差を低減すること(例えば、気相空間が連通した清澄管102内において、温度差を150℃以下にする)で、揮発した白金の析出を抑制することが行われているが、長期にわたる操業中には、操業条件が崩れてしまい、白金の揮発・凝集(析出)による内部異物を発生させてしまう場合がある。この場合、上述した内部欠陥10及び凸部7をガラス基板が有することは避けられない。
【0045】
ガラス基板の製造方法の説明に戻って、検査工程(ST8)では、気泡等の欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。また、検査工程(ST8)では、欠陥の有無のほか、透光性を有しない内部欠陥やガラス板の主表面に形成された凸部のサイズを検査し、ガラス板が不良品であるか否かの判別を行う。
不良品であるか否かの判別は、具体的には、透光性を有さず、長辺長さが50μmを超え、好ましくは50μmを超え80μm未満であり、短辺長さが5μm未満、好ましくは1μm未満である内部欠陥を有し、かつ、ガラス板が延在する方向における内部欠陥の位置と対応するガラス板の主表面の位置に主表面からの高さが0.15μm以上の凸部を有するガラス板を不良と判別することにより行われる。ガラス板に内部欠陥が存在することは、自動検査装置、又は検査員によって判断される。透光性を有しない内部欠陥が存在すると判断られたガラス板は、例えば、レーザ顕微鏡を用いて、内部欠陥の長辺長さおよび短辺長さ、凸部の高さおよび深さが測定される。
ガラス基板の製造方法は、以上の工程の他、梱包工程を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0046】
内部欠陥の長辺長さが50μmを超える場合は、上述のように、これに起因してガラス基板の主表面に凸部が形成され当該凸部がディスプレイ品質に影響を与える可能性が高いが、内部欠陥の短辺長さが5μm未満であり、ガラス基板主表面の凸部の高さが0.15μm未満である場合は、液晶の動作に影響を与えず問題を生じない。高コントラストのディスプレイに用いられた場合であってもディスプレイの品質に影響を与えない。したがって、以上のガラス基板の製造方法によれば、このようなガラス基板も製品として用いることができるよう、不良品であるか否かの判別を行うことによって、廃棄されるガラス基板を減らし、歩留まりを改善することができる。
【0047】
(実験例)
透光性を有しない内部欠陥として線状白金を有するガラス基板のサンプルを、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス基板から選別し、実施例1として、線状白金異物サイズが、長辺長さ52〜200μmであり、短辺長さ1〜4μm、かつ線状白金に起因する凸部高さが0.03〜0.14μmの主表面状態を有するガラス基板を複数枚取得した。そして、
図2に示す構造と同様のIPS方式の液晶ディスプレイを複数作製した。ガラス基板のサンプルは、カラーフィルタ側の基板として、凸部を液晶層20側に向けて配した。なお、TFT側には、別途作成した、内部欠陥および凸部を有しないガラス基板を配した(実施例1)。
さらに、実施例1と同様に、透光性を有しない内部欠陥として線状白金を有するガラス基板のサンプルを、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス基板から選別し、実施例2として、線状白金異物サイズが、長辺長さ52〜78μmであり、短辺長さ0.1μm〜0.98μm未満、かつ線状白金に起因する凸部高さが0.03〜0.14μmの主表面状態を有するガラス基板を複数枚取得した。さらに、実施例1と同様に、IPS方式の液晶ディスプレイを複数作製した。ガラス基板のサンプルは、カラーフィルタ側の基板として、凸部を液晶層20側に向けて配した。なお、TFT側には、別途作成した、内部欠陥および凸部を有しないガラス基板を配した(実施例2)。
また、実施例1,2のガラス基板のサンプルに代えて、凸部の高さが0.15μm、0.25μmであるガラス基板のサンプル、内部欠陥の短辺長さが5μm、10μmであるガラス基板のサンプルを用いて、それぞれ、液晶ディスプレイを作成した(比較例1〜4)。
さらに、凸部の高さが0.15μm〜0.2μmであり、内部欠陥の短辺長さが0.1〜1μmであり、長辺長さが52〜78μmであるガラス基板のサンプルを用いて、液晶ディスプレイを作製した(比較例5)。
なお、いずれのガラス基板においても、線状白金は主表面から50μm未満の深さに存在した。線状白金の位置がもう一方の表面側に存在する場合、パネル形成後のガラス基板のスリミング時に表面に現れる問題がある。このため、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス基板において、線状白金が存在する場合には、裏面側に存在しないことが好ましい。
なお、上記液晶ディスプレイは、正面コントラストが3000:1のコントラスト比となるよう設計をした。
【0048】
(内部欠陥、凸部の測定)
ガラス基板のサンプルの凸部は、自動検査機に蓄積された欠陥データに基づいて、サンプルの主表面における水平方向位置が特定される。また、内部欠陥の長辺長さL2および短辺長さL1、および凸部の高さhおよび深さDは、レーザ顕微鏡を用いて2400倍の倍率にて測定した。測定結果を、表1に示す。
【0049】
(正面コントラスト)
暗室内で、輝度計BM−5A(トプコン社製)を用いて、液晶ディスプレイの黒表示状態および白表示状態での正面輝度を測定し、正面コントラストを算出して確認を行った。
【0050】
(ディスプレイの表示ムラ)
作成した液晶ディスプレイに電圧をかけて液晶を駆動し、液晶ディスプレイの正面および斜め方向から、液晶ディスプレイから所定距離だけ離れた位置で目視により、白表示から黒表示、および黒表示から白表示にかけて表示ムラが全く確認されなかったものをA(使用可能)、表示ムラが確認されたものをB(不良品)、と評価した。表示ムラは、限度サンプルとの対比により判定を行う。結果を、表1に示す。
【0052】
表1によれば、凸部の高さが0.15μm未満であり、内部欠陥の短辺長さが1〜4μmであり、長辺長さが52〜200μmである場合(実施例1)は、表示ムラが確認されず、高コントラストの液晶ディスプレイに用いても品質上問題なかった。また、凸部の高さが0.15μm未満であり、内部欠陥の短辺長さが1μm未満(0.98μ以下)であり、長辺長さが52〜78μmである場合(実施例2)、表示ムラが確認されず、高コントラストの液晶ディスプレイに用いても品質上問題なかった。これに対し、凸部の高さが0.15μm以上である場合は(比較例1,2)、表示ムラが確認された。また、内部欠陥の短辺長さが5μm未満である場合は(実施例1)、表示ムラが確認されず、高コントラストの液晶ディスプレイに用いても品質上問題なかった。これに対し、内部欠陥の短辺長さが5μm以上である場合は(比較例3,4)、表示ムラが確認された。
【0053】
以上、本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板、ガラス基板の製造方法、及び液晶ディスプレイについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
高コントラストなフラットパネルディスプレイのガラス基板として、透光性を有さず、長辺長さが50μmを超え、短辺長さが5μm未満である内部欠陥と、前記内部欠陥の位置に対応する前記ガラス基板の主表面上の位置に、前記主表面からの高さが0.15μm未満である凸部と、を有するガラス基板を用いる。