特許第5769911号(P5769911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769911
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】抗微生物性を持つ基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20150806BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20150806BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20150806BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20150806BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20150806BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20150806BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C23C14/06 L
   A01N25/34 A
   A01N59/16 A
   A01N59/16 Z
   A01N59/20 Z
   A01P3/00
   C03C17/245 A
   C23C14/34 N
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2007-546079(P2007-546079)
(86)(22)【出願日】2005年12月16日
(65)【公表番号】特表2008-524440(P2008-524440A)
(43)【公表日】2008年7月10日
(86)【国際出願番号】EP2005056884
(87)【国際公開番号】WO2006064060
(87)【国際公開日】20060622
【審査請求日】2008年11月6日
【審判番号】不服2014-8(P2014-8/J1)
【審判請求日】2014年1月6日
(31)【優先権主張番号】04106648.1
(32)【優先日】2004年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】05101882.8
(32)【優先日】2005年3月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ピローイ, ジョルジス
(72)【発明者】
【氏名】ヘキュー, アンドレー
(72)【発明者】
【氏名】ヘヴェシ, カドーサ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブス, ナディア
【合議体】
【審判長】 河原 英雄
【審判官】 大橋 賢一
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−71437(JP,A)
【文献】 特開平9−263508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/56
C03C 17/22-17/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗微生物特性を有するガラスタイプの基板の製造方法において、前記製造方法が、少なくとも一つの混合層を真空プロセス下でのスパッタリングによって付着する段階からなり、前記混合層が、基板のm当たり2〜250mgの少なくとも一種の銀、銅及び亜鉛から選ばれる金属性抗微生物剤、及び前記金属性抗微生物剤と混合された結合材料であるSnOを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
付着する段階の前に、基板、抗微生物剤の拡散を減速するまたは阻止する機能を持つアンダー層被覆する段階を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基板、ZrOに基づく第一層と、TiOに基づく第二層を含むアンダーで覆ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
アンダー層が熱分解及びスパッター層の中から選ばれることを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
基板が後の段階で焼戻しされ焼戻し処理の後でも抗微生物性を保つことを特徴とする請求項からのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
焼戻しが、被覆された基板の厚さに応じて5〜15分間600〜800℃の温度でおこなわれることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
基板が焼戻し後にアニールされることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
次の細菌:大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌の少なくとも一つに対して、(標準規格JIS Z 2801に従って測定すると)log1より高い殺細菌効果を持つ基板を製造することを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
二つの別個のターゲットが使用されることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、ガラスセラミックのいずれかのタイプの基板であって、その表面の少なくとも一つが抗微生物性、特に抗細菌性または抗真菌性を持つものに関する。本発明はまた、かかる基板の製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基板の分野において、EP 653161は、例えば抗細菌性を与えるために銀からなる上薬でセラミック基板を覆う可能性を記載する。
【0003】
ガラスタイプの基板の分野では、抗微生物性表面を提供するためにゾルゲルタイプの方法が知られている。これらの方法は500〜600℃のオーダーの高温(焼結温度)を含むゾルゲル層の硬化段階を必要とする。基板が銀塩を含む組成物中に浸漬されることを要求する方法もまた、知られている。この場合、銀層は付着されないが、高温で溶液中でイオン交換が起こる。
【0004】
抗微生物性を持つガラス基板を製造する方法はまた、EP 1449816から知られている。この方法は20〜105℃の乾燥段階及び600〜650℃での熱処理の両方を必要とする。この熱処理は、特に費用及び製品の均一性に関して幾つかの不利を持つ。更に、それはこの方法を非常に再現性乏しくする。なぜならこれらの温度では銀の拡散が非常に迅速であり、熱処理の時間のわずかな変動が銀の拡散の深さの著しい変動をもたらし、従ってこれが基板の抗細菌性の変動を起こすことが見出されたからである。また、かかる熱処理がソーダ石灰ガラス基板の望ましくない黄変を起こすことも注目される。更に、この方法では、処理された後に製品は必要な焼戻し工程のために特別の寸法にもはや切断されることができない。
【0005】
従って、使用するのが容易でかつ製造が安価である、抗微生物性を持つガラスまたは金属のいずれかの基板を提供する要求がある。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、特に金属酸化物、オキシナイトライド、オキシカーバイド、カーバイド、DLC(ダイヤモンド状炭素)または窒化物から選ばれた少なくとも一つの鉱物層で被覆された基板に関し、前記層は少なくとも一つの抗微生物剤を含む。特に、鉱物層はケイ素、スズ、亜鉛、チタン、ニオブ、アルミニウム、ジルコニウムの酸化物またはそれらの混合物、例えばZnSnOxから選ばれることができる。特に好ましい窒化物はケイ素、チタン及びアルミニウム窒化物及びそれらの混合物である。
【0007】
抗微生物剤は抗微生物性のために知られている種々の無機剤、特に銀、銅及び亜鉛から選ばれることができる。有利には、抗微生物剤は金属の形である。
【0008】
基板は、例えば鋼またはステンレス鋼から作られた金属、またはセラミックタイプまたはプラスチックまたはサーモプラスチックタイプの基板、またはガラスタイプの基板、特に平坦なガラス、特にフロートガラスであることができるソーダ石灰ガラスのシートであることができる。それは透明ガラスまたは着色ガラスであることができる。それは、一般的に抗微生物表面とは反対の表面に反射層(鏡を形成するため)またはエナメルまたは塗料層(壁装材のため)を含むことができる。
【0009】
基板は2.5〜12mmの範囲内の厚さを持つことができる。
【0010】
基板は0.8m×0.8mより大きい表面積を持つことができ;それは続いての切断操作により完成寸法に切断されるように適応されることができる。
【0011】
本発明の幾つかの実施態様では、少なくとも一つの露出した表面に存在させた抗微生物剤を持つ基板はアニールされたガラスシートであることができる。用語アニールされたガラスシートはここでは焼戻しされたまたは硬化したガラスシートが切断時に破断するような方式で破断することなく所定寸法に切断されることができることを意味するように使用される。かかるアニールされたガラスシートは好ましくは5MPa未満の表面圧縮を持つ。
【0012】
被覆が最初にどのようなタイプの基板上に付着されたときでも、金属酸化物、オキシナイトライド、オキシカーバイドまたは窒化物の一つまたはそれより多い層から形成された鉱物被覆中に抗微生物剤を拡散させることができることが見出された。抗微生物剤の拡散はまた、抗微生物剤を含む層の上に付着されたトップコート内でも起こりうる。
【0013】
例えば、基板は、抗微生物剤の拡散を阻止するまたは減速する第一層、及び所望により抗微生物剤のための貯蔵層として作用する第二層で被覆されることができる。それらの機能はアンダーコートを持つ及び持たない同様な製品の抗微生物効果を比較することによって及び/または拡散プロファイルを分析することによって本発明により作られた製品について確認することができる。
【0014】
アンダーコートの各層は特に1〜1000nm、好ましくは1.5〜800nm、最も好ましくは2〜600nmの厚さを持つことができる。
【0015】
特に、阻止するアンダー層は熱分解及びスパッター層の中から、特にPd,Ni−Cr,TiOx,NiCrOx,Nb,Ta,Al,ZrまたはZnAl、またはそれらの混合物のような金属酸化物、金属または金属合金化合物を含む層の中から選ばれる。
【0016】
ガラス基板の場合、このようにして得られた抗微生物性ガラス基板は熱的な焼戻し、曲げまたは硬化のような熱処理段階を、その抗微生物性をなお保持しながら受けさせることが考えられる。
【0017】
金属基板の場合、特に好ましいアンダーコート及び/または混合層は酸化チタン、窒化チタンまたは酸化ジルコニウムの中から選ばれる。
【0018】
本発明による基板は好ましくは極めて多数の細菌、グラム陽性菌またはグラム陰性菌であろうとなかろうと、特に次の細菌:大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)の少なくとも一つに対して抗細菌効果を持つ。標準規格JIS Z 2801により測定された抗細菌効果は特に、少なくともこれらの細菌のいずれか一つについてlog1より高く、好ましくはlog2より高く、特に好ましくはlog2.5より高い。基板はもしそれがlog2より高い効果を持つなら標準規格JIS Z 2801による殺細菌性と考えられるであろう。しかし、本発明はまた、より小さい効果(例えば静細菌効果、これは細菌が必ずしも殺されないがもはや発育できないことを意味する)を持つ基板に関する。
【0019】
本発明による基板は有利には少なくとも一つの真菌、特にカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergilluo niger)に抗真菌(殺真菌または静真菌)効果を持つ。
【0020】
基板が金属、例えば鋼から作られていようとガラスタイプの基板であろうと、基板全体の上に単一段階で鉱物層及び抗微生物剤を付着することができることが見出された。特に、磁気スパッタリングの古典的方法により、二つの金属ターゲットを同じ蒸着室内で用いて(コスパッタリング)または混合金属の単一ターゲットを用いて抗微生物剤、例えば銀をドープされた例えば金属酸化物の層を形成することができる。この方法により、抗微生物剤の追加のまたは続いての拡散が必要でなくなる。我々は抗微生物性基板を一段階でどのような熱処理もなしに得る(それは費用を節約する)。
【0021】
もし焼戻しされた抗微生物性ガラスが必要なら、同じ方法が使用されることができ、所望によりアンダー層が追加されることができることもまた発見された。抗微生物性(特に殺細菌性であるが静細菌性でもある)が焼戻し工程(恐らく5〜10分の高温処理を意味する)後でさえ維持されることができる。
【0022】
コスパッタリングにより単一段階で付着された、Agをドープされた金属酸化物の層(Agの濃度は0.1〜5%で変化しうる)が作られ、それはどのような熱処理も必要としない簡単な工程で抗微生物性を持つ。
【0023】
用いられた基板が透明ガラスであるとき、それは有利には抗微生物性を持つとともに反射光に無彩色を持つことができる。特に、反射aとb(光源C、10°観察者)の比色指数(CIELAB系)は−10〜6、好ましくは−5〜3、特に好ましくは−2〜0の範囲内にあることができ、純度は15%未満、好ましくは10%未満、特に好ましくは5%未満であることができる。
【0024】
もし基板が着色ガラスであるなら、抗微生物性は基板の初期の色をあまり大きく変えることなく得られることができる。着色の変化は一般的にDelta Eによる比色指数で表される:Delta E=[(l−l+(a−a+(b−b1/2。3未満、好ましくは2未満のDelta Eが本発明による抗微生物性基板に対し得られることができる。
【0025】
用いられたガラス基板が透明ガラスであるとき、それは有利には抗微生物性と1.5%未満、好ましくは1.4%未満、特に好ましくは1.3%未満の可視光吸収の両者を有することができる。それは80から91%、好ましくは84から90%の範囲内の可視光透過率を持つことができる。そして可視光反射率は15%未満、好ましくは12%未満、最も好ましくは10%未満であることができる。
【0026】
本発明による基板は好ましくは特に次の少なくとも一つの促進老化試験後に抗微生物効果を持つ:湿式噴霧試験(40℃で95%より高い湿度を持つ室内で20日にわたる試験)、500時間のUV照射後(4 340A ATLASランプ、60℃の室)、HSO溶液(0.1N)中に24時間浸漬後、NaOH溶液(0.1N)中に24時間浸漬後。
【0027】
ジルコニウムの酸化物を含むアンダーコートを使用することが有利であるかもしれない。これは混合層が抗細菌剤及びチタンの酸化物、特にそのアナターゼ結晶形の酸化チタンから本質的になるものを含むとき特にそうであるかもしれない。
【0028】
本発明の追加実施態様または代替実施態様は従属請求項中に記載されている。
【0029】
本発明は非限定態様で以下により詳細に記載されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
実施例1
透明ソーダ石灰ガラスの二つの試料をコスパッタリングによりSiO(Al):Agの層で被覆した。二つの金属ターゲットをアルゴンと酸素の混合雰囲気中で使用した:第一のターゲットは8%Alをドープされたケイ素から構成され、第二のターゲットは金属銀ターゲットであった。層への電力供給は第一試料に対しては層中に0.5原子%のAgを得るためにかつ第二試料に対しては層中に1原子%のAgを得るために調節された。層厚は第一試料に対しては80nmであり、第二試料に対しては150nmであった。
【0031】
試料の殺細菌および殺真菌性(特に大腸菌について)を標準規格JIS Z 2801により分析した。log1レベルはガラスの表面上に接種された細菌の90%が規格条件で24時間内に殺されたことを示し;log2は細菌の99%が殺されたことを示し;log3は付着された細菌の99.9%が殺されたことを示す等々である。
【0032】
実施例1の両試料に対しlog4.2の値が得られた。
【0033】
実施例2
透明ソーダ石灰ガラスの二つの試料を二つの金属ターゲット(SnとAg)を用いてコスパッタリングによりSnO−Agの層で被覆した。層の厚さはそれぞれ80と40nmであり、付着したAgの量はそれぞれ2と30mg/mである。抗細菌効果は前の実施例と同じ方法で測定された。log4.4と4.5の値が得られた。
【0034】
実施例3
透明ソーダ石灰ガラスの二つの試料を二つの金属ターゲット(ZrとAg)を用いてコスパッタリングによりZrO−Agの層で被覆した。層への電力供給は第一試料に対しては1.2原子%のAgを、第二試料に対しては3.4原子%のAgを得るために調節された。抗細菌効果は前の実施例と同じ方法で測定された。両試料に対しlog4の値が得られた。
【0035】
実施例4
SnO−Agのコスパッタリングを二つの異なる基板上に付着した。付着されたAgの量は表面のm当り46mgに達し、混合層の厚さは17nmである。
【0036】
第一基板は化学蒸着法により付着されたSiOx(70nm)とSnO:F(320nm)の二重アンダー層を持つ透明ソーダ石灰ガラスである。第二基板は真空スパッタリングにより付着された50nm厚のSiO層で被覆された透明ソーダ石灰ガラスである。両試料は共通の焼戻し工程(670℃10分間の後の急冷)を受けさせた。
【0037】
前の実施例のように測定された大腸菌についての抗細菌効果はlog1.76と1.38の値を与える。これは殺細菌効果が接種された細菌の90〜99%が殺されたことを意味した。
【0038】
実施例5
SnO−Agのコスパッタリングを二つの異なる金属基板の上に付着した。付着されたAgの量は表面のm当り46mgに達し、混合層の厚さは17nmである。
【0039】
第一基板は1.5mmの厚さを持つ市販タイプ“ST37”の亜鉛めっき鋼である。第二基板は冷間条件下にかつ油なしに積層された0.2mmの厚さの鋼の試料である。
【0040】
前の実施例のように測定された大腸菌についての抗細菌効果は両試料に対しlog3.53の値を与える。