(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769973
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】フロアマット
(51)【国際特許分類】
B60N 3/04 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
B60N3/04 A
B60N3/04 B
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-1998(P2011-1998)
(22)【出願日】2011年1月7日
(65)【公開番号】特開2012-144075(P2012-144075A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年12月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】臼田 啓治
(72)【発明者】
【氏名】中筋 栄
【審査官】
佐々木 一浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−283904(JP,A)
【文献】
特開2002−160573(JP,A)
【文献】
実開平04−092444(JP,U)
【文献】
実開平04−037033(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定材によって自動車フロアに固定して使用するフロアマットであり、前記固定材が挿入される開孔穴を補強するクリップを有するとともに、JIS L 1096:2010 8.22.3 C法(ループ圧縮法)に規定された方法で測定した踵移動領域におけるループ硬さがたて方向、よこ方向ともに4.2N以上10N以下、かつ前記開孔穴周辺領域を含む踵移動領域以外の領域のみに補強シートを有することを特徴とするフロアマット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフロアマットに関する。より具体的には、自動車フロアに固定して使用するフロアマットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車内においては、靴などに付着した土、砂、泥、或いは砂利などが自動車内のフロアに付着して、フロアが汚れるのを防止するために、フロアマットが敷かれている。このようなフロアマットとして、カーペットなどの表皮材と、この表皮材を支持し、フロアマットが滑らないように、多数の突起を有する裏材とを備えたものが一般的に使用されてきた(特許文献1)が、この裏材として、加硫ゴムや熱可塑性エラストマーなどの比較的硬い材料を使用していたため、フロアマット全体が硬くなり、その結果として、アクセルペダルやブレーキペダルなどの操作ペダルに引っ掛かりやすい、という危険性が指摘されていた。
【0003】
【特許文献1】特開平9−252919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願出願人は操作ペダルに引っ掛からないように、剛性が低く、また、開孔穴を設けるとともに、その開孔穴をクリップで補強したフロアマットを作製し、自動車のフロアに設けられた固定材を、この開孔穴に挿入することによって固定し、フロアマットの滑りを防止することを考えた。ところが、剛性が低いフロアマットを作製したが故に、使用時にクリップが外れやすくなるという予想外の問題が発生した。
【0005】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、操作ペダルに引っ掛かりにくく、しかも開孔穴を補強するクリップが外れにくいフロアマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「固定材によって自動車フロアに固定して使用するフロアマットであり、前記固定材が挿入される開孔穴を補強するクリップを有するとともに、JIS L 1096:2010 8.22.3 C法(ループ圧縮法)に規定された方法で測定した踵移動領域における
ループ硬さがたて方向、よこ方向ともに
4.2N以上10N以下、かつ前記開孔穴周辺領域を含む踵移動領域以外の領域のみに補強シートを有することを特徴とするフロアマット。」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、踵移動領域における
ループ硬さがたて方向、よこ方向ともに
4.2N以上10N以下と非常に軟らかいため、操作ペダルに引っ掛かりにくく、しかも補強シートにより、少なくとも開孔穴周辺領域が補強され、剛性が高められた状態にあるため、クリップの外れにくいフロアマットである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】(a) 補強シートの配置領域を説明するフロアマットの模式的透視図 (b) 補強シートの別の配置領域を説明するフロアマットの模式的透視図 (c) 開孔穴周辺領域を説明するフロアマットの模式的透視図
【
図4】クリップ抜け強度試験に用いた試験片の上視図
【
図5】垂直方向におけるクリップ抜け強度試験方法の概念図
【
図6】平行方向におけるクリップ抜け強度試験方法の概念図
【
図8】実施例で作製したマットのたて方向における荷重と伸びとの関係を示すグラフ
【
図9】実施例で作製したマットのよこ方向における荷重と伸びとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のフロアマット(以下、単に「マット」ということがある)について、フロアマットの表皮層側からの模式的上視図である
図1、
図1におけるA−A線断面図である
図2、補強シートの配置領域を説明するフロアマットの模式的透視図である
図3(a)をもとに説明する。
【0010】
図1におけるマットMは敷設した場合に、目で見ることのできる表皮層Tsとしてカーペット又は不織布から構成されている。そのため、装飾性に優れている。なお、カーペットとしては、例えば、緞通、ウィルトンカーペット、アキスミンスターカーペット、ダブルフェースカーペット、フックドラグ、タフテッドカーペット、フロックカーペット、コードカーペット、ニットカーペットなどを挙げることができ、不織布としては、ニードルパンチ不織布、ステッチボンド不織布を挙げることができる。これらの中でも、タフテッドカーペットであるのが好ましい。なお、タフテッドカーペットの場合、パイルはカットパイルであっても良いし、ループパイルであっても良いし、これらが混在していても良い。また、本発明のカーペットを構成する素材は特に限定するものではないが、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートであるが好ましい。また、環境に配慮したポリ乳酸などのバイオマス利用の素材から構成されていても良い。
【0011】
好適であるタフテッドカーペットの場合、タフテッドカーペットのゲージはタフト機に依存するため、特に限定するものではないが、一般的に1/10G、1/8G、5/32Gなどを利用することができる。しかしながら、その他の規格を持つものであってもよい。また、ステッチは数が多いとカーペットの強度が低下するため、20(ST/inch)以下であるのが好ましく、数が少ないと基布が見えやすく外観を損なうので、5(ST/inch)以上が好ましい。更に、パイル素材は特に限定するものではないがナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、環境に配慮したポリ乳酸などのバイオマス利用のパイルを利用してもよい。
【0012】
本発明のマットにおいては、踵移動領域HAにおける
ループ硬さがたて方向、よこ方向ともに
4.2N以上10N以下と柔軟で、操作ペダルに引っ掛かりにくいようにしているが、剛性に影響を与える要因の1つとして、カーペットのバッキング剤を挙げることができるため、バッキング剤として、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)系、アクリル系、塩化ビニル系のものを利用するのが好ましく、特に、SBR系のガラス転移温度の低いものでバッキングするのが好ましい。
【0013】
図1におけるマットMは
図2からわかるように、前記表皮層Tsに加えて、滑り止め作用を奏する裏材層Usを備えているため、マットMを自動車のフロア(通常はカーペット)上に載置して使用した場合に、ずれにくい。そのため、自動車フロアの保護を維持することができる。
【0014】
このような裏材層Usとしては、例えば、(イ)不織布からなり、フロアとの当接面に樹脂突起を部分的に設けたもの、(ロ)不織布からなり、フロアとの当接面側に火炎を照射して、繊維を溶融固化させ、樹脂塊を形成したもの、(ハ)発泡体からなり、フロアとの当接面側に凹凸を形成したもの、(ニ)不織布からなり、フロアとの当接面に点状又は線状に粘着剤を塗布したもの、(ホ)JIS K 6253:2006に規定されているタイプAデュロメータにて測定した硬度が20〜50の加硫ゴムや熱可塑性エラストマーからなり、フロアとの当接面に突起を部分的に設けたもの、などを挙げることができる。
【0015】
本発明のマットにおいては、踵移動領域HAにおける
ループ硬さがたて方向、よこ方向ともに
4.2N以上10N以下と柔軟で、操作ペダルに引っ掛かりにくいように、裏材層は目付が400g/m
2以下であるのが好ましい。また、裏材層の強度に優れ、裏材層が不織布からなる場合には、透けが目立たないように、200g/m
2以上であるのが好ましい。
【0016】
本発明の
図1におけるマットMにおいては、踵移動領域HAは上述のような表皮層Tsと裏材層Usから構成されており、その
ループ硬さは操作ペダルに引っ掛かりにくいように、たて方向、よこ方向ともに10N以下である。このように、踵移動領域HAのループ硬さがたて方向、よこ方向ともに10N以下であると、操作ペダルに引っ掛かりにくいことを見出したものであり、好ましくは8N以下であり、より好ましくは7N以下であり、更に好ましくは6N以下である。ペダルに引っ掛かるという観点からは、
ループ硬さの下限
は、フロア形状にフィットさせて、マットがズレにくいように
、4.2N以上とする。この剛性はJIS L 1096:2010 8.22.3 C法(ループ圧縮法)に規定された方法で測定した
ループ硬さを、たて方向、よこ方向について、それぞれ5回測定を行い、その算術平均
値とする。なお、たて方向はマット敷設時における自動車の長さ方向Lを意味し、よこ方向はマット敷設時における自動車の幅方向Wを意味する。
【0017】
なお、本発明における「踵移動領域」は運転操作中に踵が移動する領域であり、例えば、オートマチック車の場合、
図1を参照すると、アクセルペダルのおよそ右端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Lr)、ブレーキペダルのおよそ左端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Ll)、アクセルペダルがオルガン式の場合にはその支点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)であり、アクセルペダルが吊り下げ式の場合には、アクセルペダルをべた踏みした時のアクセルペダル面の延長面とマットMとの交差点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)、及び前記直線Lfと平行かつ300mm離れた直線(Lb)によって囲まれた領域である。
【0018】
また、マニュアル車の場合、オートマチック車と同様に、アクセルペダルのおよそ右端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Lr)、クラッチペダルのおよそ左端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Ll)、アクセルペダルがオルガン式の場合にはその支点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)であり、アクセルペダルが吊り下げ式の場合には、アクセルペダルをべた踏みした時のアクセルペダル面の延長面とマットMとの交差点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)、及び前記直線Lfと平行かつ300mm離れた直線(Lb)によって囲まれた領域である。
【0019】
図1におけるマットMは
図2及び
図3(a)からわかるように、前記表皮層Tsと裏材層Usとの間に部分的に補強シートRsを備えている。そして、この補強シートRsを含む領域に表皮層Tsから裏材層Usへと貫通する開孔穴Oを有するとともに、開孔穴Oを補強するクリップCLを有している。そのため、表皮層Ts及び裏材層Usの変形が抑制される。つまり開孔穴Oの変形が抑制されるため、クリップCLが外れにくいマットMである。
【0020】
この補強シートRsは表皮層Ts及び裏材層Usの変形を抑制できるものであれば良く、特に限定するものではないが、ネット、寒冷紗、フィルム、織物、編物、不織布などを使用することができる。なお、表皮層Tsと裏材層Usとの一体化を、ホットメルト樹脂をスプレーして行う場合には、ホットメルト樹脂が透過しやすいネット、寒冷紗又は不織布がなるのが好ましい。このように、ホットメルト樹脂をスプレーして行う場合には、スプレーした際に、マットが反り返ったりしないように、補強シートRsの構成材料は100〜300℃の融点を有するのが好ましく、180〜300℃の融点を有するのがより好ましい。
【0021】
なお、補強シートRsは表皮層Ts及び裏材層Usの変形を抑制しやすいように、補強シート自体は表皮層Tsと裏材層Usとの接着に関与しないように、融着していないのが好ましい。また、補強シートRsは表皮層Ts及び裏材層Usの変形を抑制しやすいように、表皮層Tsと裏材層Usとの間に存在しているのが好ましい。更に、補強シートRsはマットMの吸音性能を低下させないように、多孔性であるのが好ましい。また、表皮層Tsと裏材層Usとを接着剤により接着する場合、表皮層Tsと裏材層Usとが強固に接着するように、補強シートRsは多孔性であるのが好ましい。
【0022】
このような補強シートRsを有することによって、実施例において記載する垂直方向におけるクリップ抜け強度がたて方向(マット敷設時における自動車の長さ方向L)、よこ方向(マット敷設時における自動車の幅方向W)ともに80N以上であるのが好ましく、85N以上であるのがより好ましく、90N以上であるのが更に好ましい。また、実施例において記載する水平方向におけるクリップ抜け強度がたて方向(マット敷設時における自動車の長さ方向L)、よこ方向(マット敷設時における自動車の幅方向W)ともに550N以上であるのが好ましく、570N以上であるのがより好ましい。このようなクリップ抜け強度であれば、クリップCLが抜けにくく、実用上問題がないためである。
【0023】
このような補強シートRsは
図2及び
図3(a)から明らかなように、開孔穴周辺領域を含む踵移動領域HA以外の領域のみに存在している。そのため、補強シートRsによって、踵移動領域HAにおけるループ硬さを高めることがないため、操作ペダルに引っ掛かりにくいマットMである。
図3(a)においては、2つの開孔穴周辺領域よりも大きい1枚の長方形状の補強シートRsが存在しているが、
図3(b)に示すように、個々の開孔穴周辺領域に存在する2枚の補強シートが存在していても良い。なお、「開孔穴周辺領域」とは、開孔穴の中心から半径10cmまでの領域を意味し、
図3(c)に示すように、マット敷設時における自動車の長さ方向後方等に、開孔穴の中心から半径(R)10cmまでの領域を取ることができない場合には、マットの外縁までの領域を開孔穴周辺領域Aoとする。
【0024】
図1のマットMには固定材が挿入される開孔穴Oが形成されており、この開孔穴Oの周囲はクリップCLによって補強されているため、固定材によって確実に自動車フロアに固定できるマットMである。つまり、前述の通り、開孔穴Oの変形が抑制されるため、クリップCLが外れにくい。この開孔穴Oは自動車フロアに固定する固定材を挿入できるものであれば良く、特に限定するものではないが、開孔穴Oがより変形しにくいように、円形であるのが好ましい。また、その大きさも固定材によって異なるため特に限定するものではないが、円形の場合、一般的に10mm〜30mm程度の直径を有する。
【0025】
一方で、クリップCLは開孔穴Oの内壁を被覆して開孔穴Oを補強できるものであれば良く、特に限定するものではないが、好ましくは、開孔穴Oの内壁、表皮層Tsの開孔穴周縁及び裏材層Usの開孔穴周縁を被覆できるクリップCLであるのが好ましい。例えば、特開2002−104049号公報に開示されているフロアマット固定用補強具、特開2004−268731号公報に開示されている雌固定具、特開2010−195179号公報に開示されている第2固定具、特開2002−193016号公報に開示されているマット用固定具、特開平11−230134号公報に開示されているフック止め具、特開2000−227107号公報に開示されているマット用止め具、特開2008−163961号公報に開示されているグロメットと固定プレートとの組合せ、実用新案登録第3142840号公報、実用新案登録第3146768号公報に開示されている鳩目、などを本発明のクリップCLとして使用することができる。
【0026】
なお、本発明におけるマットを自動車フロアに固定する固定材はクリップCLの形態によって異なるため、特に限定するものではない。なお、固定材の挿入状態はマットを固定できれば良く、特に限定するものではないが、例えば、固定材が開孔穴Oを貫通して突出している状態、固定材が貫通穴(クリップ)と勘合している状態、などを挙げることができる。
【0027】
このような
図1のマットMは、例えば次のようにして製造することができる。まず、表皮層構成材料(好ましくはカーペット、不織布)、裏材層構成材料及び補強シートを用意する。次いで、表皮層構成材料及び/又は裏材層構成材料の開孔穴形成予定領域を含む踵移動領域以外の領域のみに補強シートを積層する。その後、表皮層構成材料及び/又は裏材層構成材料に接着剤を付与し、表皮層構成材料と裏材層構成材料とを積層一体化し、前駆マットを作製する。そして、この前駆マットの補強シートを有する領域に開孔穴を形成した後、別途用意したクリップで開孔穴を補強して、マットMを作製することができる。
【0028】
なお、補強シートを積層した後に接着剤を付与して積層一体化するのではなく、表皮層構成材料及び/又は裏材層構成材料に接着剤を付与した後に補強シートを積層し、一体化しても良い。なお、接着剤としては、例えば、ホットメルト樹脂型接着剤、溶剤型接着剤、フィルム型接着剤、パウダー型接着剤、蜘蛛の巣状ウエブ型接着剤、エマルジョン型接着剤などを使用することができる。このように接着剤の種類によっては、加熱して表皮層構成材料と裏材層構成材料とを積層一体化する。補強シートが、これら接着剤が透過できる程度に多孔性であると、表皮層構成材料及び/又は裏材層構成材料に補強シートを積層した後に、接着剤を付与したとしても十分な剥離強度を得ることができる。
【0029】
また、前駆マットが所望マット形状を有していない場合には、周縁を所望形状に切断して所望形状を有するマットとすることができる。また、前駆マットを所望形状とした後に開孔穴を形成し、クリップで補強してマットを作製することができるし、開孔穴を形成し、所望形状とした後にクリップで補強してマットを作製することもできる。更に、前駆マット作製後、開孔穴形成後、又は開孔穴補強後に、前駆マット又はマットの周縁をオーバーロック加工、テープ加工又は融着加工することにより表皮層と裏材層とが剥離しないようにするのが好ましい。
【0030】
以上、
図1〜
図3(a)のマットMを基本に本発明のマットについて説明したが、踵移動領域HAにおける
ループ硬さが前述の範囲を超えない範囲内で、裏材層と表皮層の間に不織布層や発泡体層を設けることができる。このような不織布層や発泡体層が存在することによって各種機能を付与又は高めることができる。例えば、吸音性能を付与又は高めることができる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
(表皮層構成材料)
ポリエステル繊維製一次基布(目付:100g/m
2)に、ポリプロピレン製カットパイルをゲージ1/8、ステッチ11.3の密度でタフトした後、スチレン−ブタジエンゴム(ガラス転移温度:−10℃)でバッキングした、タフテッドカーペット(パイル目付:650g/m
2、バッキング量:240g/m
2)を用意した。
【0033】
タフテッドカーペットの外周縁を
図1に示すような凸形状に裁断して表皮層構成材料とした。なお、表皮層構成材料の外寸は
図1におけるa=約190mm、b=h=約120mm、c=g=約120mm、d=f=約640mm、e=約430mmとした。
【0034】
(裏材層構成材料)
繊度17dtexのポリエステル繊維、繊度6.6dtexのポリエステル繊維、繊度3.3dtexのポリエステル繊維、及び繊度4.4dtexの芯鞘型融着繊維(芯成分:ポリエチレンテレフタレート、鞘成分:低融点ポリエステル)からなる繊維ウエブを、ニードルを使用して絡合した後、針深度を上げたニードルを使用して繊維を突出させ、片表面に繊維が突出したニードルパンチ不織布を製造した。次に、温度150〜160℃で熱処理することにより芯鞘型融着繊維を融着させて融着不織布(目付:300g/m
2)を製造した。
【0035】
続いて、融着不織布の外周縁を
図1に示すような凸形状に裁断して裏材層構成材料とした。なお、裏材層構成材料の外寸は
図1におけるa=約190mm、b=h=約120mm、c=g=約120mm、d=f=約640mm、e=約430mmとした。
【0036】
(補強シート)
補強シートとして、ポリプロピレン製二軸延伸ネット(登録商標:コンウェッドネット、JX日鉱日石ANCI(株)製、目合(たて×よこ):3×4mm、目付:34g/m
2、融点:約165℃)を用意した。
【0037】
(クリップ)
図7に示すようなクリップを用意した。つまり、特開2002−104049号公報第1図に開示のクリップを用意した。具体的には、雄部材30は、マットMの開孔穴Oに挿入される胴部31(外径:25mm)と、この胴部31の一端に設けられ、マットMを押圧、保持する鍔部32(外径:37mm)と、胴部31の他端の外周に設けられ、雌部材40に挿入及び回転して嵌合される外向き突起33(突出長さ:2mm、幅:4mm)と、床パネルに固定するための固定材が挿入、固着される中空の筒部34(内径:14.5mm)とを備えていた。筒部34は、その先端に固定材を保持して抜け難くする突出部35(突出長さ:2mm)が筒部34の他端に形成されており、筒部34の一端側が鍔部32と一体に結合していた。また、筒部34は外周方向に弾性的に変形できるように、筒部34の深さ方向にスリット37が等間隔で4つ形成されていた。
【0038】
一方、雌部材40は、雄部材30に挿入されて嵌合されるリング状の部材であり、前記外向き突起33が挿入されるように相補的に形成された切り欠き41と、この切り欠き41の外向き突起33が回転する方向に隣接して設けられた凸部42及びこの凸部42に隣接する凹部43を有する係合片44(凸部42と凹部43の段差:0.2mm)とを備えていた。
【0039】
(マット)
前記表皮層構成材料の
図1におけるe辺と一辺を一致させるとともに、前記e辺から200mmまでの領域を覆うように、前記補強シートRsを表皮層構成材料の一次基布側に積層した(
図3(a)参照)。
【0040】
次いで、この積層体に対して、ホットメルト塗布装置から溶融した変性オレフィン系ホットメルト樹脂を、補強シートRs及び表皮層構成材料の一次基布上に125g/m
2量塗布した後、ホットメルト樹脂上に前記裏材層構成材料を表皮層構成材料と形状が完全に一致するように積層し、直ちに加圧(線圧:784N/cm)して、前駆マットを作製した。この前駆マットにおいて補強シートRsは融着していなかった。また、補強シートRsをホットメルト樹脂が透過しており、補強シート存在領域においても強固に表皮層構成材料と裏材層構成材料とがホットメルト樹脂により接着していた。
【0041】
続いて、前駆マットの
図1におけるe辺から自動車の前方方向FD45mm、かつ
図1におけるd辺から自動車の幅方向W(自動車の前方方向FDに向って右側)120mmの位置を中心とする円形状開孔穴O(直径:26mm)を、穿孔機を用いて打ち抜いて形成した。また、前駆マットの
図1におけるe辺から自動車の前方方向FD45mm、かつ
図1におけるf辺から自動車の幅方向W(自動車の前方方向FDに向って左側)120mmの位置を中心とする円形状開孔穴O(直径:26mm)を、穿孔機を用いて打ち抜いて形成した。
【0042】
そして、前記円形状開孔穴Oに前記クリップの雄部材30を表皮層構成材料側から挿入するとともに、裏材層構成材料側に配置した雌部材40の切り欠きに外向き突起33を挿入し、次いで、雄部材30を回転させることによって雌部材40の係合片44によってクリップを固定し、本発明のマットMを製造した。
【0043】
なお、このマットMにおける踵移動領域HAは、
図1におけるg辺と平行、かつg辺から自動車の後方方向RDに30mmだけ離間した直線Lf、f辺と平行、かつf辺から自動車の前方方向FDに対して左側方向に105mmだけ離間した直線Lr、直線Lrと平行、かつ直線Lrから自動車の前方方向FDに対して自動車の左側方向に192mmだけ離間した直線Ll、及び直線Lfと平行、かつ直線Lfから自動車の後方方向RDに112mmだけ離間した直線Lbとによって囲まれた、自動車の長さ方向Lに112mm、自動車の幅方向Wに192mmの長方形状の領域であった。また、補強シートRsは、表皮層Tsと裏材層Usの間で、
図1におけるe辺と平行、かつe辺から自動車の前方方向FDに200mmだけ離間した直線とe辺とで囲まれた、約430mm×200mmの長方形状領域のみに存在しており、踵移動領域HAに補強シートRsは存在していなかった。
【0044】
(実施例2)
補強シートRsとして、ポリエステル製寒冷紗[目合(たて×よこ):1×1mm、目付:47g/m
2、融点:約260℃]を用意した。
【0045】
この補強シートRsを使用して前駆マットを作製した。この前駆マットにおいて補強シートRsは融着していなかった。また、補強シートRsをホットメルト樹脂が透過しており、補強シート存在領域においても強固に表皮層構成材料と裏材層構成材料とがホットメルト樹脂により接着していた。
【0046】
次いで、この前駆マットを用い、実施例1と同様にして、本発明のマットMを製造した。なお、このマットMの踵移動領域HAは実施例1と同様に、自動車の長さ方向Lに112mm、自動車の幅方向Wに192mmの長方形状の領域であり、補強シートRsは、約430mm×200mmの長方形状領域のみに存在しており、踵移動領域HAに補強シートRsは存在していなかった。
【0047】
(比較例1)
補強シートを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較用マットを製造した。なお、このマットの踵移動領域HAは実施例1と同様に、自動車の長さ方向Lに112mm、自動車の幅方向Wに192mmの長方形状の領域であった。
【0048】
(比較例2)
ポリエステル繊維製一次基布(目付:100g/m
2)に、ポリプロピレン製カットパイルをゲージ1/8、ステッチ11.3の密度でタフトした後、スチレン−ブタジエンゴム(ガラス転移温度:10℃)でバッキングした、タフテッドカーペット(=表皮層構成材料、パイル目付:710g/m
2、バッキング量:240g/m
2)を用意した。
【0049】
この表皮層構成材料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較用マットを製造した。なお、このマットの踵移動領域HAは実施例1と同様に、自動車の長さ方向Lに112mm、自動車の幅方向Wに192mmの長方形状の領域であり、補強シートRsは約430mm×200mmの長方形状領域のみに存在しており、踵移動領域HAに補強シートRsは存在していなかった。
【0050】
(比較例3)
(表皮層構成材料)
ポリプロピレン糸からなるパイルがポリエステル繊維製スパンボンド不織布基布にタフトされており、しかも前記基布の裏面にスチレン・ブタジエンゴムラテックスが塗布されたカーペット(目付:990g/m
2)を用意し、表皮層構成材料とした。
【0051】
(裏材層構成材料)
繊度17dtexのポリエステル繊維、繊度6.6dtexのポリエステル繊維、繊度3.3dtexのポリエステル繊維、及び繊度4.4dtexの芯鞘型融着繊維(芯成分:ポリエチレンテレフタレート、鞘成分:低融点ポリエステル)からなる繊維ウエブを、ニードルを使用して絡合した後、針深度を上げたニードルを使用して繊維を突出させ、片表面に繊維が突出したニードルパンチ不織布を製造した。次に、温度150〜160℃で熱処理することにより芯鞘型融着繊維の鞘成分で融着させ、融着不織布(目付:400g/m
2)を製造し、裏材層構成材料とした。
【0052】
(マットの製造)
1,2−ポリブタジエン(JSR(株)製、1,2−ビニル結合含有量=93%、重量平均分子量=18万、MI=3.0)60部、スチレン−ブタジエンブロックポリマー(JSR(株)販売、結合スチレン=32%、オイル45PHR、ラジアルブロックタイプ)40部、重炭酸ナトリウム(永和化成工業(株)製、セルボンSC−855)4部からなるエラストマー組成物を調製し、これを用いて、池貝製作所(株)製90mm押出機を用いて、シリンダ温度170℃ダイス温度130℃で発泡押し出成形して多孔シート(目付:300g/m
2)を形成し、この溶融状態の多孔シートを前記表皮層構成材料と裏材層構成材料との間に供給して挟み、線圧98N/cmに設定した一対のロール間を通し、表皮層構成材料と裏材層構成材料とを多孔シートの融着により一体化し、前駆マットを作製した。なお、多孔シートは表皮層構成材料のスチレン・ブタジエンゴムラテックス塗布面、及び裏材層構成材料の繊維が突出していない面と当接するように挟み込んだ。
【0053】
続いて、実施例1のマットと同一形状に裁断、実施例1のマットと同様に円形状開孔穴Oの形成、及び実施例1のマットと同様にクリップを固定して、比較用のマットを製造した。
【0054】
(比較例4)
(表皮層構成材料)
ポリプロピレン糸からなるパイルがポリエステル繊維製スパンボンド不織布基布にタフトされており、しかも前記基布の裏面にスチレン・ブタジエンゴムラテックスが塗布されたカーペット(=表皮層構成材料、目付:995g/m
2)を用意した。
【0055】
(マットの製造)
スチレン・ブタジエン・スチレン成分からなる熱可塑性エラストマーをTダイから押し出し、前記表皮層構成材料と積層した直後に、スムースロールとエンボスロールとの間を、表皮層構成材料をスムースロールと当接させ、熱可塑性エラストマーをエンボスロールと当接させながら通過させて、熱可塑性エラストマー(裏材層)と表皮層構成材料とを一体化するとともに、熱可塑性エラストマーに高さ3mmのニブを格子状(ピッチ:11mm×11mm)に形成し、前駆マットを製造した。
【0056】
続いて、実施例1のマットと同一形状に裁断、実施例1のマットと同様に円形状開孔穴Oの形成、及び実施例1のマットと同様にクリップを固定して、比較用のマットを製造した。
【0057】
(踵移動領域における剛性の評価)
JIS L 1096:2010 8.22.3 C法(ループ圧縮法)に規定された方法
で測定し、踵移動領域における
ループ硬さとした。なお、
ループ硬さの測定を5回行い、その算術平均値
を求めた。また、試験片はたて方向をマット敷設時における自動車の長さ方向Lとし、よこ方向をマット敷設時における自動車の幅方向Wとして採取した。
【0058】
この結果は表1に示す通りであった。例えば、アクセルペダルを踏み込むためには、通常、12〜15N程度の力が必要であるため、安全をみて、10N以下であれば、アクセルペダルに引っ掛かりにくいマットであると判断できる。
【0059】
(垂直方向におけるクリップ抜け強度の評価)
まず、
図4に示すように、円形状開孔穴Oの中心が図面上右端から30mm、下端から30mmとなり、マット敷設時における自動車の長さ方向Lに150mm、マット敷設時における自動車の幅方向Wに60mmの長方形に裁断し、たて方向試験片Sを採取した同様に、円形状開孔穴Oの中心が図面上右端から30mm、下端から30mmとなり、マット敷設時における自動車の長さ方向Lに60mm、マット敷設時における自動車の幅方向Wに150mmの長方形に裁断し、よこ方向試験片Sを採取した。
【0060】
次いで、
図5に概念図を示すように、試験片SのクリップCL側とは反対側を、引張強度試験機Tの上方チャック(Ch
1)間に固定した。他方、下方チャック(Ch
2)に固定されたL字型支持プレートPLに、試験片SのクリップCL側端部を固定した。なお、L字型支持プレートPLへの試験片Sの固定は、試験片SのクリップCLの開孔穴を通過し、L字型支持プレートPLが有する開口をも通過するようにボルトBを挿入するとともに、ボルトBをナットNで締め付けることによって行った。また、L字型支持プレートPLの上面と上方チャックCh
1との距離を50mmとした。
【0061】
この固定状態で、試験片Sに対して直角方向Tdに、200mm/min.の速度で、クリップCLが抜けるまで上方チャック(Ch
1)を引張り、その時の最大点荷重を測定した。この最大点荷重の測定を試験片Sのそれぞれに対して5回ずつ行い、その算術平均値を算出し、垂直方向におけるクリップ抜け強度とした。現在使用されているマットで、クリップ抜けが問題となっていない比較例2〜4のマットよりも剛性が低く、クリップ抜けが懸念されている比較例1のマットのクリップ抜け強度よりも優れるクリップ抜け強度である80N以上であれば、クリップが抜けにくいと判断した。この結果は表1に示す通りであった。
【0062】
(水平方向におけるクリップ抜け強度の評価)
図6に概念図を示すように、(垂直方向におけるクリップ抜け強度の評価)と同様に調製した試験片SのクリップCL側とは反対側を、引張強度試験機Tの上方チャック(Ch
1)間に固定(固定幅:38mm)した。他方、試験片Sの開孔穴Oに、引張強度試験機Tの下方チャック(Ch
2)に取り付けたフックFを挿入し、試験片Sと平行方向Pdに、200mm/min.の速度で、クリップCLが抜けるまで引張り、その時の最大点荷重を測定した。この最大点荷重の測定を試験片Sのそれぞれに対して5回ずつ行い、その算術平均値を算出し、水平方向におけるクリップ抜け強度とした。現在使用されているマットで、クリップ抜けが問題となっていない比較例2〜4のマットよりも剛性が低く、クリップ抜けが懸念されている比較例1のマットのクリップ抜け強度よりも優れるクリップ抜け強度である550N以上であれば、クリップが抜けにくいと判断した。この結果は表1に示す通りであった。
【0063】
(水平方向伸長時における伸びの測定)
(水平方向におけるクリップ抜け強度の評価)と同様にして、実施例1、2及び比較例1のマットから試験片を採取し、試験片を引張り、100N荷重時、200N荷重時、300N荷重時、及び400N荷重時の試験片の伸びを測定した。これは、アクセルペダル又はブレーキペダルを踏み込む時の力が100〜300N程度であるため、マットにかかる力も同程度であると仮定して測定した。この結果は
図8(たて方向における伸び)及び
図9(よこ方向における伸び)に示す通りであった。この伸びが小さければ小さい程、クリップが抜けにくいマットであるといえる。
【0064】
【表1】
【0065】
比較例1と実施例1、2との比較から、踵移動領域以外の領域のみに補強シートを有することによって、踵移動領域における
ループ硬さが低いため、操作ペダルに引っ掛かりにくく、しかも垂直方向クリップ抜け強度および水平方向クリップ抜け強度が向上し、また伸びにくくなるため、クリップが抜けにくくなり、確実にマットのずれを防止できることがわかった。
【符号の説明】
【0066】
M マット
Ts 表皮層
Us 裏材層
Rs 補強シート
HA 踵移動領域
L 自動車の長さ方向
W 自動車の幅方向
FD 自動車の前方方向
RD 自動車の後方方向
Lf、Ll、Lb、Lr 踵移動領域を示す直線
a〜h マットの周縁の長さ
O 開孔穴
Ao 開孔穴周辺領域
R 開孔穴の中心からの半径
CL クリップ
S 試験片
T 引張強度試験機
Td 試験片に対する直角方向
Pd 試験片に対する平行方向
B ボルト
N ナット
PL L字型支持プレート
F フック
Ch
1 上方チャック
Ch
2 下方チャック
30 雄部材
31 胴部
32 鍔部
33 外向き突起
34 筒部
35 突出部
37 スリット
40 雌部材
41 切り欠き
42 凸部
43 凹部
44 係合片