【実施例1】
【0036】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子の実施例1(三現示情報切替形)について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、(a)が複数の故障検知機能付きATS−P地上子40,40a,40bを設置した地上設備の概要ブロック図、(b)が一台の地上子40のブロック図、(c)が電文フレーム構成図である。また、
図2は、照合回路45と出力回路46の詳細ブロック図であり、
図3は、電文生成手段41の詳細ブロック図であり、
図4は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
【0037】
故障検知機能付きATS−P地上子40は(
図1(a)参照)、使い易い従来例2の電文照査機能付きATS−P(N)地上子30をベースにして、安全性の高い従来例1の中継器故障検出機能付きATS−P地上装置と同等のレベルまで故障検知機能を向上させたもので、しかも地上子30と同じく三現示情報切替形のもので、地上子30と同様、信号機13までの距離や信号機13の現示といった情報を車上装置へ提供する情報提供対象の信号機13と同じ軌道11に単独で又は同一構成の他の地上子40a,40b等と適宜離れて設置され、信号機13の器具箱14から信号機現示GR,YRをリレー信号で入力して、その現示に対応した適宜な情報を含んだ電文を軌道11上へ1.7MHzの電波で送出するが、地上子30と異なり、器具箱14から直流電力DC135Vの給電を受けて常時動作する有電源地上子になっているので、列車12の車上装置から245kHzの電波を受けなくても良く、さらに正常か異常かの照合結果・故障検知結果をリレーNRM1(地上子40a,40bではNRM2,NRM3)の動作/落下状態として器具箱14へ常時出力するようになっている。
【0038】
内部構造を述べると(
図1(b)参照)、地上子40は、列車停止制御用の情報を含んだ送信用電文Maを軌道11上へ電波で送出する送信手段21,22としての変調回路21及び送信コイル22と、その電波を受信して受信電文Mbを生成する受信手段23,24としての受信コイル23及び復調回路24とを、既述した中継器故障検出機能付きATS−P地上装置から引き継いでいる。また、既述した電文照査機能付きATS−P(N)地上子30からは電文生成手段31や照合回路35等の基本構想を踏襲しているが、そのまま引き継ぐのでなく、故障検知機能の強化と構成の簡素化のために改造しており、地上子40は、以下に詳述する構成のものとなった電文生成手段41と照合回路45と出力回路46とを具えている。有電源化のため電源回路47も具えている。
【0039】
電文生成手段41は(
図1(b),
図2参照)、リレー回路からなり信号機現示GR,YRをリレーGPR,GYRで受けてその現示に対応した送信用電文Maを選出する選択回路42と、例えばEEPROMからなり送信用電文Maおよびそれと同一内容の非送信用電文Mcを異なる記憶領域に保持している電文記憶部43と、例えばカウンタ主体の回路からなりそのカウント値を送信用電文Maの変調タイミングに合わせてインクリメントする等のことで電文記憶部43の読出アドレスを生成する読出回路44とを具備していて、電文記憶部43から送信用電文Maを読み出して送信手段21,22の変調回路21へ送るとともに、その送信用電文Maの読出と並行して同一内容の非送信用電文Mcの読出も行うようになっている。なお、電文記憶部43からの両電文Ma,Mcの読出がビット単位であればラッチ等でタイミング調整を行うが、バイトやワード等の複数単位であればシフトレジスタ等でパラレル−シリアル変換を行うようにもなっている(
図3参照)。
【0040】
選択回路42は(
図4の左半分を参照)、リレーGPRの第1接点GPR1とリレーGPRの第2接点GPR2とリレーYPRの第1接点YPR1とリレーYPRの第2接点YPR2とがそれぞれ動作状態(↑)なのか落下状態(↓)なのかに応じて“1”か“0”かの一ビットを各接点に対応させることで、16進数で一桁分の部分アドレスを生成するようになっている。具体的には、信号機13がG現示のときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↑↑↓↓になるので、部分アドレス“C”を生成する。また、信号機13がY現示のときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↓↓↑↑になるので、部分アドレス“3”を生成する。さらに、信号機13がR現示のときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↓↓↓↓になるので、部分アドレス“0”を生成する。そして、それ以外の接点状態は、接点不良その他の故障時に発現する異常状態であり、部分アドレスとして他の値を生成するようになっている。
【0041】
電文記憶部43は(
図4の右半分を参照)、そのような選択回路42の部分アドレス生成に対応して、16進数のアドレス表示で記憶領域“0C0”〜“0CF”及び記憶領域“1C0”〜“1CF”のそれぞれにG現示の電文を保持し、記憶領域“030”〜“03F”及び記憶領域“130”〜“13F”のそれぞれにY現示の電文を保持し、記憶領域“000”〜“00F”及び記憶領域“100”〜“10F”のそれぞれにR現示の電文を保持し、他のアドレスの記憶領域については、アドレス“0**”の所には照合成立阻止用電文“1…1”を保持し、アドレス“1**”の所には照合成立阻止用電文“0…0”を保持している(なお、*は一桁の16進数で“0”〜“F”の何れかである)。
【0042】
また、電文生成手段41では、上記の電文記憶部43に対する16進数で三桁のアドレスのうち上位の一桁と下位の一桁を読出回路44が生成するとともに中間の一桁に選択回路42の生成した部分アドレスを嵌め込むことで、一方の記憶領域たとえば“000”〜“0FF”からは送信用電文Maが読み出され、他方の記憶領域たとえば“100”〜“1FF”からは非送信用電文Mcが読み出されるので、電文記憶部43は、送信用電文Maと非送信用電文Mcとの組を複数保持したものとなっている。しかも、その送信用電文Maと非送信用電文Mcとの複数組の電文は、組内同士では同一内容であるが、組間では信号機13の現示の種類すなわちG現示かY現示かR現示かに対応して情報が異なっており、選択回路42は、送信用電文Maと非送信用電文Mcとの複数組の電文のうちから信号機13の現在の現示に対応したものを電文生成手段41の読出対象にするものとなっている。なお、この地上子40では選択回路42が電文生成手段41に組み込まれた形になっているが、選択回路42を電文生成手段41の前段や後段に付加した形になっていても良い。
【0043】
さらに、電文記憶部43は、その記憶領域であって読出対象となりうる記憶領域のうち、送信用電文Maと非送信用電文Mcとの組を保持している記憶領域は別として、それ以外の記憶領域には、各ビット毎に反転した値を持つことで組内同士で内容の異なるものとなっている照合成立阻止用電文の組“1…1”,“0…0”を記憶保持している。また、選択回路42が信号機13の現示の種類に対応しないものを電文生成手段41の読出対象に選出したときには、電文記憶部43から送信用電文Maと非送信用電文Mcとの組に代えて上記の照合成立阻止用電文の組“1…1”,“0…0”が読み出される。そして、全ビット“1”の照合成立阻止用電文“1…1”は送信用電文Maと同じく変調回路21へ送出され、,全ビット“0”の照合成立阻止用電文“0…0”は非送信用電文Mcと同じく照合回路45へ送出されるようになっている。
【0044】
照合回路45は(
図2参照)、復調回路24から受信電文Mbを受けるとともに電文記憶部43から非送信用電文Mcを受けて、適宜な同期回路等で両電文Mb,Mcのタイミングをビットレベルまで同期させてから、両電文Mb,Mcを比較して、一致していれば照合結果を正常とし、不一致であれば照合結果を異常とするようになっている。しかも、照合回路45は、既述した公知で実績のある振り子回路を具備したフェールセーフな比較回路(FS比較回路)を主体に構成されていて、比較回路での比較結果が一致している状態が継続している間は、一定周期で交互に値の変化する交番信号を出力するが、比較結果に不一致が検出されると、値の変化しない一定信号を出力するものとなっている。
【0045】
出力回路46は(
図2参照)、やはり公知で実績のあるフェールセーフなリレードライバからなり、照合回路45の照合結果を交番信号から直流信号に変換してリレーNRM1を駆動するようになっている。
電源回路47は(
図1(b)参照)、器具箱14から直流電力DC135Vの給電を受けて各部21〜24,41〜46の動作電力を常時発生するようになっている。例えば、電文生成手段41や照合回路45にはDC5Vの直流電力を継続して供給し、出力回路46のトランジスタにはDC48Vの直流電力を継続して供給し、出力回路46の最終段がDC24Vの直流電力を継続して供給できるようにしている。
【0046】
なお(
図1(c)参照)、G現示かY現示かR現示の情報を含んだ送信用電文Maのフレーム構成は、基本的に既述の従来例と同じHDLCフォーマットであるが、受信電文Mbと非送信用電文Mcとの同期採りが容易かつ確実に行えるよう、例えば二進数で“11111111”のアボートコード(ABT)が付加されている。また、送信用電文Maの代わりに送信手段21,22を介して軌道11上へ送信される可能性のある照合成立阻止用電文“1…1”は、例え列車12の車上装置が受信したとしても不所望に受理されることがないよう、サイクリックリダンダンシーチェックコードCRCが不正値になっている。
【0047】
この実施例1の故障検知機能付きATS−P地上子40について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
地上子40は、情報提供対象の信号機13と同じ軌道11に沿って同一構成の他の地上子40a,40bと適宜離れて設置され(
図1(a)参照)、信号機13の器具箱14とケーブルで接続され、器具箱14からDC135Vの直流電力を受けて常時動作する。
【0048】
そして、随時、器具箱14から信号機現示GR,YRがリレー信号でケーブルを介して地上子40に送られ、地上子40に異常が無ければ信号機現示GR,YRに基づいて信号機13の現示に対応した適宜な情報を含んだ送信用電文Ma(
図1(c)参照)が地上子40によって生成され(
図1(b)参照)、更にその電文が軌道11上へ1.7MHzの電波で送出される(
図1(a)参照)。そのため、軌道11を走行する列車12が地上子40に接近して、列車12の車上装置が上記電波を受信すると、受信電文から信号機13までの距離や信号機13の現示といった情報が車上装置に取得されて、その信号機現示がG現示なのかY現示なのかR現示なのかに応じて適切な速度照査パターンPが生成され、それに基づいて列車12の列車停止制御が行われる。
【0049】
地上子40における送信用電文Maの生成や送信などについて詳述すると(
図1(b),
図3参照)、電文生成手段41に入力された信号機現示GR,YRのうちG現示GRの信号は選択回路42のリレーGPRの第1接点GPR1と第2接点GPR2にて二ビットの部分アドレスにされて電文記憶部43のアドレス指定に組み入れられ、信号機現示GR,YRのうちY現示YRの信号は選択回路42のリレーYPRの第1接点YPR1と第2接点YPR2にてやはり二ビットの部分アドレスにされて電文記憶部43のアドレス指定に組み入れられ、電文記憶部43のアドレス指定のうち残ビットの部分が読出回路44によって補われて、電文記憶部43の記憶領域のうちから読出対象が選出される。そして、異なる記憶領域の一方“000”〜“0FF”から送信用電文Maが読み出され他方“000”〜“1FF”から非送信用電文Mcが読み出される(
図4参照)。
【0050】
このとき、信号機13がG現示であって、その信号に選択回路42が正しく応じれば、電文記憶部43の異なる記憶領域から送信用電文Maと非送信用電文Mcが読み出され、両電文Ma,Mcの内容は同じになる。Y現示やR現示の場合も同様である。これに対し、リレーGPR,YPRに接点不良などの不具合がある場合には、送信用電文Maの代わりに照合成立阻止用電文“1…1”が読み出されとともに、その電文とはビット反転状態で異なっている照合成立阻止用電文“0…0”が非送信用電文Mcの代わりに読み出される。何れの場合も(
図1(a),(b)参照)、送信用電文Maは送信手段21,22によって軌道11上の列車12へ向けて送信され、それと同時に受信手段23,24によって受信電文Mbにされる。
【0051】
こうして送信用電文Maの生成に伴って非送信用電文Mcが生成されるとともに送信用電文Maの送信に応じて受信電文Mbが生成されると、両電文Mb,Mcは(
図2参照)、照合回路45によって、ビット単位で同期が採られ、対応ビット毎に比較されて、総てが一致していれば照合結果が正常とされ、そうでなく不一致があれば照合結果が異常とされる。また、その照合結果は、出力回路46によってリレー駆動信号に変換されてから、ケーブルを介して器具箱14へ送出される。地上子40はケーブル接続先の器具箱14から供給されるDC135Vの直流電力を電源回路47で受けて常時動作することから、送信用電文Maの送信も、受信電文Mbと非送信用電文Mcとの照合による故障検知も、その照合結果の出力も、随時行われるので、故障が発生した時点で故障検知と外部通知ができるため、安全のためのバックアップ措置や地上子の取り替えが迅速にできる。
【0052】
また、信号機13の現示に対応したリレーGPR,YPRの動作/落下で送信する電文を切り替える点は従来のP(N)地上子の機能を踏襲しているが、送信用電文Maの候補がG電文とY電文とR電文だけでなく照合成立阻止用電文“1…1”にも拡張され、非送信用電文Mcの候補が同一内容で正常時のG電文とY電文とR電文だけでなく反転内容で選択異常時の照合成立阻止用電文“0…0”にも拡張されている。そのため、選択回路42にリレー接点の不具合などが生じると、照合成立阻止用電文の組“1…1”,“0…0”が照合されて、異常の照合結果が出るので、故障が検出される。
【0053】
さらに、選択回路42が正常でも、電文記憶部43に不具合が生じて電文データが損なわれたときには、その電文が送信用電文Maや非送信用電文Mcとして読み出されるが、両電文Ma,Mcの記憶領域が異なるため、両電文Ma,Mcが同時に同一態様で損傷する確率は片方損傷や不同損傷に比べて無視できるほど小さいことから、両電文Ma,Mcが一致しない故障状態を考慮すれば足りるので、そうすると、受信信号から送信用電文Maを復元した受信電文Mbも非送信用電文Mcと一致しなくなって、異常の照合結果が出るので、電文記憶部43の不具合についても、故障が検出される。
【0054】
また、電文生成手段41が総て正常であっても、送信手段21,22や受信手段23,24に不具合が生じれば、送信用電文Maから受信電文Mbを得る過程で電文内容が損なわれて、受信電文Mbが送信用電文Maと同じでなくなり、送信用電文Maと同一内容の非送信用電文Mcとも受信電文Mbが同じでなくなるため、照合回路45から異常の照合結果が出されるので、送信手段21,22や受信手段23,24の不具合についても、故障があればそのことが検出される。
【0055】
さらに、照合回路45には電文比較用にフェールセーフな比較回路が採用されているが、その電文比較回路は、俗に振り子回路と呼ばれ、電子連動装置のバス・データ比較回路などで実績もあり、自身の回路故障で誤って交番信号を出す確率はゼロ(0)と言える。
しかも、出力回路46にはフェールセーフはリレードライバが採用されているので、出力回路46が自身の回路故障で誤って所定電圧を出力する確率もゼロ(0)と言える。
そのため、この故障検知機能付きATS−P地上子40は地上子全体がフェールセーフなものと言える。
【実施例3】
【0058】
図6に地上設備をブロック図で示した本発明の故障検知機能付きATS−P地上子が上述した実施例1(又は2)の地上子40(又は50)と相違するのは、地上子40(又は50)それぞれに給電線開閉回路60(故障処理回路)が付加されている点である。
【0059】
給電線開閉回路60は、地上子40に内蔵させても良いが、ここでは、地上子40の近くの接続箱の中に設けられている。接続箱は器具箱14と地上子40,40aとを結ぶケーブルを地上子の近傍で中継しており、地上子40は器具箱14から電源回路47への給電線として接続箱からDC135Vの分岐線を引き込んでいる。給電線開閉回路60は、その分岐線を開閉して導通状態/遮断状態を切り替えることで、電源回路47への給電を継続させたり絶ったりするものとなっている。リレーを用いた具体的な構成例を述べると、給電線開閉回路60は、出力回路46からのリレー駆動信号で接点が駆動されるリレーNRM1を主体に構成され、そのリレー接点NRM1が上記分岐線に介挿接続され、そのリレー接点NRM1に手動操作式の常開スイッチSW1が並列接続され、リレーNRM1のコイル部にCR充放電回路が並列接続されている。
【0060】
そして、スイッチSW1が操作されて閉じると、地上子40に給電がなされて、地上子40が動作を開始し、地上子40が正常であればリレー駆動信号が正常値(オン状態)になって、リレー接点NRM1が閉じて給電線が導通することでリレーNRM1が自己保持状態になるため、スイッチSW1の操作が止んで開いても、地上子40への給電は継続する。それから、地上子40の何処かが故障してリレー駆動信号がゼロ(オフ状態)になると、リレー接点NRM1が開いて給電線が遮断され、それによってリレーNRM1の自己保持が解除されるため、地上子40は給電が絶たれて動作を停止する。そのため、故障検知時は、誤りを含んでいる可能性のある電文が地上子40から列車12へ向けて送信されるということが全く無いので、安全性が格段に高い。
【0061】
また、給電線開閉回路60のCR充放電回路は、照合回路45での短時間不一致(例えば信号機の現示が変化した時の過渡的な照合不一致)などに起因してリレー駆動信号が一時的にゼロ(0)になっただけの軽微な不具合にまでリレーNRM1が感応して過剰に地上子40を停止させるのを回避するため、リレーNRM1の感度を例えば数百ms程度まで緩和させるように充放電の時定数が設定されている。なお、一時的で軽微な不具合が送信用電文Maに及んだ場合には、送信用電文Maの一部が損なわれることになるが、その場合は、大抵、列車12の車上装置のサイクリックリダンダンシーチェック(CRC)によって不所望な電文が排除される。
【0062】
[その他]
なお、上記実施例では、電文記憶部43,53に保持されている同一組内の送信用電文Maと非送信用電文Mcとがビットレベルまで完全に同一であったが、同一組内の送信用電文Maと非送信用電文Mcは、ビットレベルまで完全に同一でなくても良く、具体的には、各ビットを反転させると完全同一になるものであっても良い。その場合、照合回路45に対して、復調回路24から受けた受信電文Mbについて各ビットを反転させるビット反転回路を前置するか、電文記憶部53から読み出された非送信用電文Mcについて各ビットを反転させるビット反転回路を前置するか、何れかの改造を施しておけば良い。