(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被牽引物を牽引するベルトが巻き掛けられるドラムと、当該ドラムを回転させるモータと、前記ドラムの回転を検出する回転センサとを有する電動ウィンチ、および前記電動ウィンチを制御するコントローラを備えた電動ウィンチの制御装置であって、
前記ドラムに設けられ、ロック状態で前記ドラムの一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態で前記ドラムの一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構と、
前記コントローラに設けられ、前記ラチェット機構をリリース制御するときに前記ドラムを一方向へ回転させるよう前記モータを駆動し、前記回転センサからの検出信号が入力されると前記モータの駆動を停止するリリース補助制御部とを備え、
前記リリース補助制御部には、前記リリース制御するときに前記モータへの駆動電流の大きさを決定するデューティマップが設けられ、当該デューティマップは、前記リリース制御の時間経過とともにデューティ比の増加率が上昇するよう設定され、
前記リリース補助制御部には、さらに、前記ベルトの引き込み動作時において前記モータを流れる駆動電流を検出する駆動電流検出部と、検出した前記駆動電流を前記デューティマップと照合して当該駆動電流に対応するデューティ比を求めて記憶するデューティ比記憶部とが設けられ、前記リリース補助制御部は、前記ラチェット機構をリリース制御するときに、前記デューティ比記憶部に記憶した前記デューティ比に基づいて前記モータの駆動を開始することを特徴とする電動ウィンチの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1(a),(b)は車両に搭載された電動ウィンチの基本動作を説明する説明図を、
図2は
図1の車両を上方から見た本発明のシステム構成を説明する説明図を、
図3(a)は車両に設置された操作パネルを示す平面図,(b)は介助者により車外から操作可能なリモコンを示す平面図を、
図4は電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図を、
図5は
図4の電動ウィンチの内部構造(一部)を示す斜視図を、
図6は
図4の電動ウィンチを構成する部材の接続関係を模式的に示す図をそれぞれ表している。
【0017】
図1および
図2に示すように、車両10は福祉車両であり、当該車両10の後方側(図中右側)には、被牽引物としての車椅子20を搭載可能な車椅子搭載スペース11が形成されている。車椅子搭載スペース11の車両前方側(図中左側)には、車両10の車幅方向(
図2における上下方向)に所定間隔を持って一対の電動ウィンチ30が設置されている。各電動ウィンチ30は、先端側にフック31が装着されたベルト32を備えており、ベルト32は車椅子20を牽引するようになっている。具体的には、各電動ウィンチ30から各ベルト32を引き出して、各フック31を車椅子20の左右側にある一対の前フレーム21にそれぞれ引っ掛け、その状態のもとで各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことにより、図中矢印m1に示す方向に車椅子20が移動する。
【0018】
車椅子搭載スペース11の車両後方側には、地面Gと車両10の床面Fとを緩やかな傾斜角度で接続するスロープ12が設置されている。スロープ12は、車両10の走行時においては、床面Fに形成された格納部(図示せず)に格納されている。一方、車両10を停車させてかつバックドア13を開いた状態とし、図示しないスロープ操作スイッチをオン操作することにより、スロープ12は格納部から車外に向けて延出されるようになっている。
【0019】
各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことで、
図1(b)に示すように車椅子20はスロープ12上を移動していき、やがて車椅子20は、図中破線に示すように床面F上に到達して車椅子搭載スペース11内に搭載される。また、各電動ウィンチ30により各ベルト32を送り出すことで、
図1(b)のように車椅子搭載スペース11内に搭載された車椅子20が床面Fから地面Gへ移動される。このようにスロープ12を設けることで、車椅子20の地面Gと床面Fとの間の移動を容易に誘導できるようにしている。ここで、各電動ウィンチ30は図示しない介助者(操作者)により操作され、各電動ウィンチ30の操作中においては、介助者は車椅子20の後方から当該車椅子20を支持するようにする。
【0020】
各電動ウィンチ30を制御する制御装置40は、
図2に示すように構成されている。つまり制御装置40は、各電動ウィンチ30,コントローラ50,操作パネル60およびリモコン70から構成されている。各電動ウィンチ30とコントローラ50との間、および操作パネル60とコントローラ50との間には、通信線および電源線よりなる配線14が電気的に接続して設けられている。なお、リモコン70はワイヤレス式で無線によりコントローラ50と通信自在であり、リモコン70を車外に持ち出すことで、各電動ウィンチ30を車外から操作できるようになっている。
【0021】
ここで、
図2に示すように、車両10の床面Fにはフック15を備えた一対の固定ベルト16が設置されており、各固定ベルト16の各フック15は、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20の左右側にある一対の車輪22にそれぞれ引っ掛けられるようになっている。これにより、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20は、各ベルト32の各フック31および各固定ベルト16の各フック15の合計4箇所で固定され、ひいては車両10内で車椅子20が移動したりがたついたりするのを抑制している。
【0022】
操作部材として機能する操作パネル60は、
図3(a)に示すようにパネル本体61を備えている。パネル本体61は車椅子搭載スペース11の中央から後方側に設けられ、操作パネル60は車両10の後方から操作可能となっている。パネル本体61には、主電源スイッチ62,ベルトフリースイッチ63,速度切替スイッチ64およびブザー(スピーカ)65が設けられている。
【0023】
主電源スイッチ62は、制御装置40のシステム電源をオン状態とするために操作するものである。主電源スイッチ62をオン操作することでシステム電源がオン状態となり、これにより主電源スイッチ62のインジケータ62aが点灯するようになっている。また、主電源スイッチ62は、制御装置40をシステムリセット(初期化)する際にも操作され、例えば、3秒以上の長押しをすることでシステムリセットされるよう設定されている。
【0024】
ベルトフリースイッチ63は、各電動ウィンチ30のロック状態を解除するために操作するもので、ベルトフリースイッチ63をオン操作することで、各ベルト32を引き出したり収納したりできるようになっている。つまり、ベルトフリースイッチ63をオン操作し、各ベルト32を引き出して車外にある車椅子20に引っ掛けたり、各電動ウィンチ30からそれぞれ引き出した各ベルト32の長さを揃えたりできるようにしている。ここで、ベルトフリースイッチ63をオン操作すると、ベルトフリースイッチ63のインジケータ63aが点灯するようになっている。
【0025】
速度切替スイッチ64は、車椅子20を車椅子搭載スペース11に搭載したり車椅子搭載スペース11から降ろしたりする際に、各ベルト32の移動速度、つまり引き込み速度や送り出し速度を、低速(LOW)または高速(HIGH)に切り替えるのに操作するものである。また、ブザー65は、各ベルト32の引き込み動作時や送り出し動作時,各電動ウィンチ30の動作不良時(故障発生時)等において、電子音等の警告音を発生するようになっている。ここで、警告音としては電子音に限らず、音声によるアナウンスであっても良い。
【0026】
操作部材として機能するリモコン70は、乾電池駆動のワイヤレスリモートコントロールユニットで、操作パネル60の主電源スイッチ62が操作され、制御装置40のシステム電源がオン状態のときに使用可能となる。リモコン70は、
図3(b)に示すようにリモコン本体71を備えており、リモコン本体71は、リモコン電源スイッチ72,入スイッチ73および出スイッチ74を備えている。リモコン70は、さらにインジケータ75を備え、当該インジケータ75は、リモコン70の操作時等に点灯するようになっている。また、インジケータ75の点灯が暗くなったら乾電池(図示せず)を交換するようにする。
【0027】
主電源スイッチ62がオン状態で、かつリモコン電源スイッチ72をオン操作することにより、リモコン70は使用可能となる。ここで、リモコン70の操作は介助者によって行うようにする。介助者によりリモコン電源スイッチ72をオン操作し、その後、入スイッチ73を押すと、各電動ウィンチ30が各ベルト32を巻き取る動作を開始する。そして、入スイッチ73を押している間は、各電動ウィンチ30によるベルト32の巻き取り動作が継続され、車椅子搭載スペース11への車椅子20の搭載が各電動ウィンチ30によってアシストされる。
【0028】
一方、出スイッチ74を押すと、今度は各電動ウィンチ30が逆方向に作動し、各ベルト32を送り出す動作を開始する。そして、出スイッチ74を押している間は、車椅子搭載スペース11からの車椅子20の降ろし動作が各電動ウィンチ30によってアシストされる。ここで、介助者は、リモコン70の操作中においては、車椅子20のグリップGR(
図1参照)を把持し、車椅子20を支持するとともに、その移動を誘導するようにする。このように、制御装置40は、各電動ウィンチ30を駆動制御することで、介助者による車椅子20の移動をアシストするようになっている。
【0029】
車両10の左右側に設けられる各電動ウィンチ30は、何れも同じ形状かつ同じ構造のものを採用している。
図4ないし
図6においては、何れか一方の電動ウィンチ30のみを示しており、以下、何れか一方の電動ウィンチ30を代表して、その詳細構造について説明する。
【0030】
電動ウィンチ30は、
図4および
図6に示すように、電動モータ部80とドラム部90とを備えている。これらの電動モータ部80およびドラム部90は、図示しない複数の締結ネジにより一体化(ユニット化)されている。
【0031】
電動モータ部80は、モータ部(モータ)81とギヤ部82とを備えている。モータ部81の内部には、回転軸(図示せず)が回転自在に設けられ、ギヤ部82の内部には、回転軸の回転を減速して高トルク化するためのウォームおよびウォームホイールよりなる減速機構(図示せず)が設けられている。ウォームホイールには出力軸83(
図6参照)が一体に設けられ、当該出力軸83はドラム部90に向けて突出し、ドラム部90を形成するドラム92(
図5参照)を回転させるようになっている。
【0032】
ギヤ部82(ウォームホイール)と出力軸83との間には、
図6に示すように電磁クラッチ84が設けられ、当該電磁クラッチ84は、コントローラ50により締結状態または開放状態に制御されるようになっている。電磁クラッチ84を締結状態とすることで、ギヤ部82と出力軸83とは動力伝達可能に接続され、電磁クラッチ84を開放状態とすることで、ギヤ部82と出力軸83とが切り離される。
【0033】
なお、電磁クラッチ84は、ウォームホイールと一体回転する第1プレート(図示せず),出力軸83と一体回転する第2プレート(図示せず)およびステータコイル(図示せず)を備えている。そして、ステータコイルに駆動電流を供給することでステータコイルは電磁力を発生し、当該電磁力により各プレートは吸引されて締結される。一方、ステータコイルへの駆動電流の供給を停止することで各プレートは切り離される。
【0034】
ドラム部90は、ケーシング91を備えている。ケーシング91は略箱形状に形成され、その内部には、
図5に示すドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ケーシング91の外部には、ドラム92に巻き掛けられるベルト32の弛みを取り除く弛み取りモータ95,ドラム92の回転を検出する回転センサ96,電動モータ部80や弛み取りモータ95等に駆動電流を供給するための外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部97等が設けられている。
【0035】
ケーシング91の側部には、開口部91aが形成されており、当該開口部91aからは、ベルト32が出入り自在となっている。ベルト32は、ケーシング91の開口部91aの近傍に設けられた案内部材98によって出入りが案内され、これによりベルト32の捻れを防止している。また、案内部材98はフック31の通過を許さず、これによりベルト32の全てがケーシング91内に引き込まれてしまうのを防止している。
【0036】
ここで、
図4の符号STは、電動ウィンチ30を車両10の床面F(
図2参照)に固定するための一対の取付ステーであり、これらの各取付ステーSTは、図示しない複数の締結ボルトによって床面Fに強固に固定されている。これにより電動ウィンチ30は、車両10に対してがたつくこと無く強固に固定されている。
【0037】
ケーシング91の内部には、
図5に示すように、ドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ただし、
図5に示す弛み取りモータ95,案内部材98およびフック31については、
図4に示すようにケーシング91の外部に設けられている。
【0038】
ドラム92にはベルト32が巻き掛けられ、当該ドラム92の回転中心には、ドラム軸92aが一体回転可能に取り付けられている。ドラム軸92aには、電動モータ部80の出力軸83(
図6参照)の回転が伝達されるようになっており、ドラム軸92aおよびドラム92は、電動モータ部80の正逆方向への回転駆動に伴って正逆方向に回転駆動される。これにより、ベルト32をケーシング91内に引き込んだり、ケーシング91外に送り出したりすることができる。
【0039】
ドラム92とドラム軸92aとの間には、
図6に示すようにワンウェイクラッチ92bが設けられている。ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aがベルト32の引き込み方向(
図5において反時計方向)に向かって回転する際、そのままこの回転をドラム92に伝達するよう構成されている。一方、ドラム軸92aよりも先にドラム92がベルト32の引き込み方向に向かって回転すると、ドラム92の回転がドラム軸92aに伝達されず、ドラム92が空回りするよう構成されている。
【0040】
ラチェット機構93は、ドラム92に一体回転可能に設けられたラッチギヤ93aと、ラッチギヤ93aのベルト32の引き込み方向(一方向)への回転を許容し、ベルト32の送り出し方向(他方向)への回転(
図5において時計方向)を阻止する揺動自在な歯止め93bと、歯止め93bを揺動駆動するソレノイド駆動部材93cとを備えている。
【0041】
ソレノイド駆動部材93cは駆動ピン93dを備えており、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給することで、駆動ピン93dは引っ込むようになっている。これにより、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解かれてリリース状態となり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向への双方向にドラム92が回転自在となる。このように、ドラム92の双方向への回転が許容され、ひいては車椅子20を車椅子搭載スペース11から降ろせるようになる。
【0042】
一方、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止することで、内蔵バネS(
図10参照)のバネ力により駆動ピン93dは突出するようになっている。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合してロック状態となり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20の後退が防止される。
【0043】
弛み取り機構94は、ドラム92に一体回転可能に設けられたスパーギヤ94aと、スパーギヤ94aと噛み合う小径ギヤ94bと、弛み取りモータ95により回転駆動される減速ギヤ機構94cとを備えている。弛み取りモータ95は、ドラム92がベルト32を巻き取る方向に回転する回転力を発生し、減速ギヤ機構94c,小径ギヤ94bおよびスパーギヤ94aを介して回転力をドラム92に伝達する。また、小径ギヤ94bと減速ギヤ機構94cとの間には、
図6に示すようにトルクリミッタ94dが設けられ、当該トルクリミッタ94dは一定以上のトルクの伝達をカットするようになっている。これにより弛み取りモータ95への過負荷を防止し、弛み取りモータ95を保護するようにしている。つまり、弛み取りモータ95としては、ベルト32の弛みを取ることができる程度のトルクを発生し得る小型モータを採用できるようになっている。
【0044】
図7はコントローラの内部構造を示すブロック図を、
図8(a),(b)は
図7のリリース補助制御部に格納されるマップの内容を示す図をそれぞれ表している。
【0045】
図7に示すように、コントローラ50は、駆動制御部51およびリリース補助制御部52を備えている。なお、リリース補助制御部52の電流検出部52bおよび記憶部52c(図中破線部分)は、第2実施の形態に係るコントローラ50の構成要素を示している。
【0046】
コントローラ50には、操作パネル60およびリモコン70から、それぞれ有線または無線で種々の操作情報(操作信号)が入力されるようになっている。また、コントローラ50には、電動ウィンチ30を構成するモータ部81,電磁クラッチ84,ソレノイド駆動部材93c,弛み取りモータ95および回転センサ96が電気的に接続されている。そして、コントローラ50の駆動制御部51は、操作パネル60およびリモコン70から出力された操作信号や、回転センサ96から出力された検出信号Dsに基づき、上述した電動ウィンチ30を構成する駆動系部品(81,84,93c,95)を、一対の各電動ウィンチ30で同期するよう駆動制御するようになっている。
【0047】
ここで、回転センサ96はホール素子よりなり、回転センサ96と対向するドラム92の部分には、当該ドラム92の回転に伴って回転するリングマグネット(図示せず)が設けられている。これにより、回転センサ96はドラム92とともにリングマグネットが回転するとリングマグネットの磁極の切り替わりに応じて「オン」または「オフ」を示す矩形波信号(パルス信号)を発生するようになっている。そして、駆動制御部51は、入力された各パルス信号の立ち上がり回数または立ち下がり回数を各回転センサ96ごとにそれぞれカウントし、これによりベルト32に掛かる負荷やベルト32の移動速度等を算出する。ここで算出した種々のデータは、電動ウィンチ30のきめ細かな駆動制御に反映させるようになっている。
【0048】
リリース補助制御部52は、ラチェット機構93をリリース状態とする際に動作し、
図1(b)の実線に示すように、車椅子20をスロープ12の途中で一旦停止させた場合(状態A)や、破線に示すように車椅子20を車椅子搭載スペース11に固定した場合(状態B)において、その後のラチェット機構93のリリース状態への動作を、モータ部81(ドラム92)を回転させて補助するようになっている。
【0049】
リリース補助制御部52には、リモコン70からのモータ駆動信号Drsが入力されるようになっており、このモータ駆動信号Drsは、リモコン70の出スイッチ74の操作により、リモコン70からコントローラ50に向けて出力されるようになっている。つまり、状態Aや状態Bにある車椅子20(停止状態にある車椅子20)を、車両10から降ろす際のリモコン70の操作により、当該リモコン70からモータ駆動信号Drsが出力されるようになっている。
【0050】
リリース補助制御部52にモータ駆動信号Drsが入力されると、リリース補助制御部52は駆動制御部51に対して、ラチェット駆動信号Rcs,モータ微小量駆動信号Mmsおよび電磁クラッチ駆動信号Clsを出力するようになっている。ラチェット駆動信号Rcsは、ラチェット機構93をリリース状態に制御するための駆動信号であり、駆動制御部51は、ラチェット駆動信号Rcsの入力に伴い、ソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給するようになっている。モータ微小量駆動信号Mmsは、モータ部81をベルト32の引き込み方向に微小量回転させるための駆動信号であり、駆動制御部51は、モータ微小量駆動信号Mmsの入力に伴い、モータ部81に駆動電流を供給するようになっている。また、電磁クラッチ駆動信号Clsは、電磁クラッチ84を締結状態に制御するための駆動信号であり、駆動制御部51は、電磁クラッチ駆動信号Clsの入力に伴い、電磁クラッチ84に駆動電流を供給するようになっている。
【0051】
このように、リリース補助制御部52は、ラチェット機構93をリリース状態とする際に、電磁クラッチ84を締結状態にするとともに、モータ部81を一旦ベルト32の引き込み方向に微小量回転させる制御を行う。これにより、ラチェット機構93のロック力、つまりラッチギヤ93aと歯止め93bとの噛合力(係合力)を弱めることができ、ラチェット機構93のスムーズなリリース動作を実現している。
【0052】
リリース補助制御部52には、さらに、回転センサ96から出力された検出信号Dsが入力されるようになっている。リリース補助制御部52は、回転センサ96からの検出信号Dsの入力に基づき、モータ微小量駆動信号Mmsの出力を停止、つまりラチェット機構93のリリース動作を補助するためのモータ部81のベルト32の引き込み方向への回転を停止する。つまり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を検出することで、ラチェット機構93がリリース状態となったことを検出でき、リリース補助制御部52による制御を完了する。
【0053】
その後は、駆動制御部51により、ラチェット機構93のリリース状態が保持され、リモコン70の出スイッチ74の操作に基づく通常の制御を実行する。これにより車椅子20が車両10から徐々に降ろされていく。
【0054】
リリース補助制御部52は、モータ微小量駆動信号Mmsを介してモータ部81への駆動電流の大きさを変えられるようにしている。リリース補助制御部52には、マップ(デューティマップ)52aが予め格納されており、当該マップ52aに基づいてモータ部81への駆動電流の大きさ、つまりモータ部81の回転トルクを決定するようにしている。マップ52aは、
図8(a)に示されるリリース補助制御部52によりモータ部81を回転駆動する際に用いられ、モータ部81に対する駆動電流のデューティ比を決定する第1のデューティマップと、
図8(b)に示される後述の第2のデューティマップとの2つを有している。
【0055】
マップ52aにおける第1のデューティマップは、
図8(a)の実線Maに示すように、時間経過(横軸)とともにデューティ比(縦軸)の増加率が上昇、つまりデューティ比の変化の割合(傾斜角度)が大きくなるよう設定されている。時間t0から時間t1の領域Aにおいては、デューティ比は緩やかに増加し、時間t1から時間t2の領域Bにおいては、単位時間当たりのデューティ比の増加は領域Aよりも大きな傾きに設定され、時間t2から時間t3の領域Cにおいては、デューティ比の増加は領域Bより大きな傾きに設定されている。これにより、
図8(a)の二点鎖線Mbで示す増加率が一定の場合に比して、モータ部81の回転トルクを速やかに大きくできるようにしている。
【0056】
ここで、デューティ比の増加率を、領域Cにおける実線Maのように、予め大きくしておくことも考えられるが、この場合には、モータ部81の回転トルクが急激に大きくなり、モータ部81の大きい回転トルクが車椅子20に伝達されることになる。すると、場合によっては車椅子20が急激に引っ張られてしまい、介助者や搭乗者に不安感を与えてしまう。そこで、本発明においては、
図8(a)の実線Maで示すマップ特性とすることで、回転トルクの急激な上昇を抑えて介助者等への不安感を低減しつつ、ラチェット機構93を速やかにリリース状態にできるようにしている。なお、
図8(a)の実線Maで示すように、領域A〜領域Cのそれぞれにおいて直線状に変化させずに、領域A〜領域Cのそれぞれにおいて曲線状に変化(図示せず)させても良い。
【0057】
次に、以上のように形成した制御装置40の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
【0058】
図9は第1実施の形態に係る引き込み動作の内容を示すフローチャートを、
図10はラチェット機構の動作を説明する動作説明図を、
図11は第1実施の形態に係る送り出し動作の内容を示すフローチャートをそれぞれ表している。
【0059】
[引き込み動作]
図9に示すように、介助者により操作パネル60の主電源スイッチ62がオン操作され、さらにリモコン70のリモコン電源スイッチ72および入スイッチ73がこの順で操作されると、電動ウィンチ30による引き込み動作、つまり、車椅子20の車椅子搭載スペース11への介助者による搭載を補助する動作がスタートする(ステップS1)。
【0060】
このとき、ラチェット機構93は、
図10(a)に示す状態、つまり、内蔵バネSのバネ力により駆動ピン93dが矢印M1方向に突出し、これにより歯止め93bが矢印R1方向に揺動し、ラッチギヤ93aと歯止め93bとが噛み合わされた状態(ロック状態)となっている。なお、この状態においては、ドラム92はベルト32を送り出すことはできず、その一方でベルト32を引き込めるようになっている。
【0061】
ステップS2では、ラチェット機構93をリリース状態とするために、駆動制御部51を介してソレノイド駆動部材93cに駆動電流が供給され、ソレノイド駆動部材93cがON操作される。続くステップS3では、駆動制御部51を介して電磁クラッチ84に駆動電流が供給されて電磁クラッチ84が締結状態になる(ON操作)。すなわち、モータ部81の回転力がドラム軸92aに伝達可能な状態となる。続くステップS4では、モータ部81に駆動電流が供給され、これによりモータ部81が正回転駆動されて、ドラム92がベルト32の引き込み方向に回転する。
【0062】
これらのステップS2ないしステップS4の一連の動作により、ラチェット機構93は、
図10(b)に示す状態、つまり、ソレノイド駆動部材93cのON操作で駆動ピン93dが矢印M2方向に引っ込み、これにより歯止め93bが矢印R2方向に揺動し、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解かれた状態(リリース状態)となる。なお、この状態においては、ベルト32を送り出したり引き込んだりできるようになっている。その後、ステップS5において、介助者による入スイッチ73の操作が解除され、これにより、電動ウィンチ30による引き込み動作、つまり車椅子20の車椅子搭載スペース11への介助者による搭載を補助する動作が終了する。
【0063】
[送り出し動作]
車椅子20を停止した状態、つまりスロープ12の途中で一旦停止させた状態(状態A)や、車椅子搭載スペース11に固定した状態(状態B)において、
図11に示すように、介助者によりリモコン70の出スイッチ74が操作されると、電動ウィンチ30による送り出し動作、つまり車両10からの介助者による車椅子20の降ろし動作を補助する動作がスタートする(ステップS10)。なお、このときのラチェット機構93は、
図10(a)に示す状態(ロック状態)となっている。
【0064】
ステップS11では、リモコン70から出力されたモータ駆動信号Drsがリリース補助制御部52に入力され、これをトリガとしてリリース補助制御部52からはラチェット駆動信号Rcsが駆動制御部51に出力される。これにより、ラチェット機構93をリリース状態(
図10(b)参照)とすべく駆動制御部51を介してソレノイド駆動部材93cに駆動電流が供給され、ソレノイド駆動部材93cがON操作される。
【0065】
続いて、ステップS12では、リリース補助制御部52から駆動制御部51に電磁クラッチ駆動信号Clsが出力される。これにより、駆動制御部51が電磁クラッチ84を締結状態に切り替える(ON操作)。
【0066】
また、ステップS13では、リリース補助制御部52にモータ駆動信号Drsが入力されたことをトリガとして、リリース補助制御部52から駆動制御部51に向けて、モータ微小量駆動信号Mmsが出力される。これにより、駆動制御部51はモータ部81に駆動電流を供給し、モータ部81をベルト32の引き込み方向に微小量回転(正回転駆動)させ、ラチェット機構93のリリース動作を補助する。なお、ステップS13においてモータ部81に供給する駆動電流のデューティ比は、
図8(a)に示す時間t0におけるデューティ比に設定され、当該デューティ比はモータ微小量駆動信号Mmsを介して駆動制御部51に出力される。
【0067】
ステップS14では、駆動制御部51によって、ラチェット機構93がリリースされたか否かを判定し、ラチェット機構93がリリースされたと判定(yes判定)した場合にはステップS15に進み、ラチェット機構93がリリースされていないと判定(no判定)した場合にはステップS16に進む。ここで、ラチェット機構93の状態判定は、回転センサ96からの検出信号Dsを監視することにより行われる。つまり、回転センサ96からの検出信号Dsが検出されたらドラム92が回転していることになり、すなわちラチェット機構93がリリース状態になったと判定される。
【0068】
ステップS15では、リリース補助制御部52は、回転センサ96からの検出信号Dsが入力されたこと、つまりラチェット機構93がリリース状態になったことを受けて、まず、モータ部81の正回転駆動によるラチェット機構93のリリース動作補助を停止する。そして、モータ部81を通常の制御とするよう駆動制御部51に通常制御開始信号(図示せず)を出力する。これにより、駆動制御部51はモータ部81を通常制御、つまりモータ部81を、ベルト32を送り出す方向に回転駆動(逆回転駆動)する。これにより車椅子20が車両10から徐々に降ろされていく。
【0069】
その後、ステップS17において、介助者による出スイッチ74の操作が解除され、これにより、電動ウィンチ30による送り出し動作、つまり車椅子20の車椅子搭載スペース11からの介助者による降ろし動作の補助動作が終了する。
【0070】
ステップS16では、モータ部81を正回転駆動しているにも関わらず、回転センサ96からの検出信号Dsが入力されないこと、つまりラチェット機構93がリリース状態になっていないことを受けて、リリース補助制御部52により、モータ部81の正回転駆動のデューティ比を上昇させる制御を実行する。つまり、リリース補助制御部52は、マップ52aの内容(
図8(a)の実線Ma)に従って、時間経過とともにデューティ比を上昇させる制御を実行する。ここで、デューティ比の変更は、リリース補助制御部52から出力されるモータ微小量駆動信号Mmsを介して駆動制御部51に伝達され、駆動制御部51は、当該モータ微小量駆動信号Mmsに基づいてモータ部81を正回転制御する。その後、ステップS14を再度実行し、ラチェット機構93がリリースされたか否かを判定する。
【0071】
このようにして、ラチェット機構93がリリースされるまで、ステップS14およびステップS16の処理が繰り返され、
図8(a)の実線Maに示すように、時間経過とともに徐々にデューティ比が上昇、つまりモータ部81の駆動トルクが徐々に上昇していく。
【0072】
ここで、車椅子20をスロープ12の途中で一旦停止させた状態(状態A)と、車椅子20を車椅子搭載スペース11に固定した状態(状態B)とでは、ラチェット機構93をリリース状態にするための解除力が異なるが、本発明においては、
図8(a)に示すようにいずれの状態Aおよび状態Bであっても、ラチェット機構93を確実かつ速やかにリリース状態にできる。つまり、状態Aにおいては、リリース補助制御部52による補助動作の比較的早い段階(時間tA)のデューティ比A%で、ラチェット機構93をリリース状態にできる。一方、状態Bにおいては、実線Maに示すように、時間経過とともにデューティ比の増加率を上昇させるので、二点鎖線Mb(増加率一定)に比して、かなり早い段階(時間tB)のデューティ比B%で、ラチェット機構93をリリース状態にできる。
【0073】
以上詳述したように、第1実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、コントローラ50に、ラチェット機構93をリリース制御するときにドラム92をベルト32の引き込み方向へ回転させるようモータ部81を駆動し、回転センサ96からの検出信号Dsが入力されるとモータ部81の駆動を停止するリリース補助制御部52を設け、当該リリース補助制御部52には、リリース制御するときにモータ部81への駆動電流の大きさを決定するマップ52a(第1のデューティマップ)を設け、当該マップ52aは、リリース制御の時間経過とともにデューティ比の増加率が上昇するよう設定している。
【0074】
したがって、ラチェット機構93のロック力、つまり解除力が異なるような場合であっても、ドラム92をベルト32の引き込み方向へ回転させるモータ部81の回転トルクがデューティ比の増加に応じて増加するので、ラチェット機構93を確実にリリースすることができる。また、リリース制御の時間経過とともにデューティ比の増加率が上昇するので、デューティ比を一定に増加させる場合に比して、ラチェット機構93を速やかにリリースすることができる。
【0075】
次に、本発明の第2実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した第1実施の形態と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0076】
図12は第2実施の形態に係る引き込み動作の内容を示すフローチャートを、
図13は第2実施の形態に係る送り出し動作の内容を示すフローチャートをそれぞれ表している。
【0077】
第2実施の形態においては、上述した第1実施の形態に比して、
図7のリリース補助制御部52の破線部分に示すように、電流検出部(駆動電流検出部)52bおよび記憶部(デューティ比記憶部)52cを追加した点が異なっている。これらの電流検出部52bおよび記憶部52cは、
図12および
図13に示すステップS20ないしステップS22を実行するようになっている。
【0078】
電流検出部52bは、電動ウィンチ30の引き込み動作時においてモータ部81を流れる駆動電流Diを検出するようになっている。また、記憶部52cは、電流検出部52bで検出した駆動電流Diをマップ52aの第2のデューティマップ(
図8(b)参照)と照合し、当該駆動電流Diに対応するデューティ比Drを求めて記憶するようになっている。
【0079】
そして、
図12に示すように、電動ウィンチ30の引き込み動作時において、ステップS4とステップS5との間に追加したステップS20で、電流検出部52bによりモータ部81を流れる駆動電流Diを検出するともに、マップ52aの第2のデューティマップとの照合で得た駆動電流Diに対応するデューティ比Drを記憶部52cに記憶するようになっている。
【0080】
一方、電動ウィンチ30の送り出し動作時では、
図13に示すように、第1実施の形態のステップS13(
図11参照)に替えて、ステップS21およびステップS22を実行するようにしている。ステップS21では、当該送り出し動作の前の引き込み動作時において、記憶部52cに記憶したデューティ比Drを読み込み、続くステップS22では、ステップS21で読み込んだデューティ比Drに基づく駆動電流で、モータ部81の正回転駆動を開始するようにしている。
【0081】
以上詳述したように、第2実施の形態においても上述した第1実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。これに加え、第2実施の形態においては、リリース補助制御部52に、ベルト32の引き込み動作時においてモータ部81を流れる駆動電流Diを検出する電流検出部52bと、検出した駆動電流Diをマップ52aの第2のデューティマップと照合して当該駆動電流Diに対応するデューティ比Drを求めて記憶する記憶部52cとを設け、リリース補助制御部52は、ラチェット機構93をリリース制御するときに、記憶部52cに記憶したデューティ比Drに基づいてモータ部81の駆動を開始する。
【0082】
したがって、リリース制御の開始時から、最適なデューティ比Dr、つまり車椅子20を牽引可能な大きな回転トルクが得られるデューティ比により、モータ部81を回転駆動することができる。よって、ラチェット機構93をより速やかにリリースすることが可能となる。
【0083】
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。